読切小説
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トレジャーホール
 冒険者は、性欲と戦う職業である。
 不安定な収入はすぐに装備品や生活必需品に使われてしまうため、女を買うことができない。野宿が多く、いつ敵に襲われるか分からないため、一人ですることもできない。特定の人間と長く付き合うことができないため、出会いもない。自然と性欲は溜まる一方となってしまう。
 どんな強力な敵よりも、この性欲の方が何倍も恐ろしい。
 俺は今、そのあまりにも凶悪な敵との、終わりの見えない戦いを繰り広げている真っ最中であった。
 性欲が溜まりすぎると、人間はそれを発散することしか考えられなくなってしまう。それは長い冒険者生活で嫌というほど体験していた。集中力が保てず、すぐに卑猥な妄想に思考が逃げてしまう。そのため、ここ一週間ほどの間、ろくに依頼を受けられないでいた。それによって収入が減り、さらに性欲を発散させられなくなるという悪循環。
「ああ、ひもじい……」
 口から思わずそんな言葉が漏れてしまった。あとは、壁や石畳を反響する自分の足音と、手に持っている松明が爆ぜる音が聞こえるのみ。
――畜生、やっぱりこんな枯れ果てたダンジョンじゃあ、もうめぼしい物は残っていないか。
 もう二時間以上はこのダンジョンを歩き続けているというのに、出会うのはすでに開けられ、中身が持ち去られていた宝箱だけであった。普段ならば、この程度の時間ならば全く疲れを感じないのだが、生憎昨日今日と何も口にしていないのだ。ちょっとした運動ですぐに全身がストライキを起こす。
 収入の安定が全く見込めないにも関わらず、冒険者はそこそこの人気職である。その理由の一つが、自然発生するダンジョンの存在だ。それらには二つの種類がある。一つは世界のどこに現れるのか分からない、完全なランダムのもの。もう一つが、入り口が決まっていて、宝箱が全て開けられると構造や財宝が変化するもの。
 俺が今力なく歩いているのは、後者の固定ダンジョンだった。だから、いくら枯れ果てていようと、最低でも一つは未開封の宝箱があるはずである。
――やっぱり、一番奥まで行かないとダメか……。
 疲れたと悲鳴を上げる両脚を叩き、何とか動けるようにする。全身はすでに疲労困憊で、足取りは引きずるようであった。

 それからさらに二時間ほど歩き、ようやく一番奥であろう部屋にたどり着いた。そこは他の部屋と違い、入り口が頑丈な扉によってふさがれている。さらに、その両側には魔法灯が立っていて、青紫の炎を力強く燃やしていた。
 中にボスがいるかもしれないので、腰の左側に繋がれている剣を手に取り、黒光りする扉を押す。想像とは違い、それは何の抵抗もなく開いていった。
 隙間から、木の軋む音が聞こえる。
――ギッシ、ギッシ、ギッシ……。
 警戒しつつ扉の間に体を滑り込ませ、部屋へと入った。扉が閉まるとき、金属同士がぶつかる大きな音がした。次の瞬間、軋みがぴたりと止む。
「ふう」
 ため息と同時に、緊張していた体から力が抜ける。この部屋は危険ではないと分かったからだ。
 自然発生するダンジョンは、長年有識者の研究の対象にされ続けていた。その結果、このどこから現れるとも知れないダンジョンの、おおよその仕組みが解明されていた。
 どうやら、ダンジョンの通路や部屋を大量に溜め込んだ異次元空間がどこかにあるらしく、この世界に発生するダンジョンは、その中から組み合わせて作られているらしい。組み合わせ方にはある一定の法則があるらしく、一番有名なものとしては、魔力灯に入り口を照らされる部屋は一つしかないというものがある。
――ギシッ、ギシッ……ギッシギッシギッシ。
 音が再開した。その音は、部屋の入り口から見て右手の壁、わずかに長方形の切れ目が見える場所の奥から聞こえてくる。
 この部屋は、冒険者の間では最低難度の当たり部屋『エキドナさんのお部屋』と呼ばれている。かつてダンジョン奥深くで冒険者を待ち構えていた高レベルの魔物、エキドナ。しかし今は愛する夫を見つけ、四六時中隠し部屋でいちゃついているだけである。
 安心した俺は、すぐに興味の対象が隠し扉から部屋の奥へと移った。そこには、華美な装飾を施された、普通も物よりも一回り大きい宝箱が置かれていたからだ。
「……」
 それはガタガタと動き、とてつもなくいい匂いを放っていた。
「ふっ、うっ……ふぅぅ、くぅぅ……!」
 おまけに、可愛らしい声まで漏れている。
「うわー……」
 何とも言えない気持ちが、そのまま声として漏れた。最後の宝箱は、どう見ても財宝ではなく、もっと厄介な代物だと分かったからだ。
――ミミック。
 確かに、魔物娘ならば、そこらのアイテムよりも高く売ることができる。近くの街にある奴隷商ならば、一週間は豪遊できる値段で買ってくれるだろう。「マイドオーキニ」というよく分からない言葉が口癖の、狸の格好をした女だ。
 だが、魔物娘は高く売れる分、とてつもなく面倒くさい。
――だってよぉ、冒険者相手に「手をつけるな」はダメだろうよ……。
 奴隷商が扱う『商品』には、たった一つだけ、厳格に定められたルールがあった。傷物は取り扱わない。それは肉体的なものはもちろん、精神的にも性的にも、傷が無い綺麗なものでなければ、商品として扱われないである。
 魔物娘の本能として、一度生の精を受け入れたら、彼女たちは二度と他の男の物にはなれないのだ。だから、出会ってから売却するまで、絶対に彼女たちに触れてはならない。触れたら撫でたくなるし、撫でたら接吻をしたくなる。接吻をしたら舌を絡めたくなるし、そうしたら必ず性交をしてしまうからだ。
――ギッシ、ギッシ、ギシギシ。
「はぅぅ、あぁぅっ……」
 頭に霧がかかったような気分だ。それも桃色の、濃密で、自分の手の先すら見えない。
――ああ、畜生、馬鹿野郎、ダメだろそれは。
 分かってはいるが、無意識の内に足が動いてしまう。宝箱の方へ動いてしまう。自分がこれから何をしようとしているのか、それがどんなことに繋がるのか。それは理解している。俺は今、ミミックと性的なことをしようとしている。股間が痛いほど主張し、早くあの魔物とやりたいと言ってくる。俺は今、あの魔物を売ろうとしている。矛盾している。性的なことをしたら売れなくなる。売るならば、この霧を振り払い、街まで宝箱を運ばなければならない。
「おい」
 宝箱の目の前まで歩くと、その場にしゃがみこんだ。そして握りこぶしほどもある大きな鍵穴を覗き込む。花を凝縮したような、芳しい匂いが漂う。それは光の屈折率を変えてしまうほど濃いからか、煙のように芳香の流れが見て取れるほどだった。
「俺は今から、お前を売りに行く」
 宣言する。彼女たちにとって、奴隷商は怖い存在ではない。魔物が娘化する以前の時代からの名残で『奴隷』と呼んでいるが、実際は娼館と結婚相談所が混ざったようなもので、商人に預けられた娘たちは、用意された部屋でのんびりすごしたり、気に入った男が来たらアピールしたり、その場で新婚初夜を迎えたりするのだ。
「はぁ、はぁ……ふっ、くぅぅ」
 返事の代わりに、あえぎ声が返ってきた。どうやら俺の言葉は彼女の耳には届いていないらしい。その後何度か声をかけたが、いずれも同じような反応であった。
「おい、何か答えてくれよ」
 痺れを切らした俺は、覗いていた鍵穴に、戯れに人差し指を差し入れた。
「じゅるっ」
 指先が、温かい感触に包まれた。柔らかいものがみっちりと覆いかぶさってきたかと思うと、次の瞬間には離れ、熱い空気に満たされる。『舐められている』という事実に思考が追いつく前に、背筋の寒気が走った。快楽が滝を登る鯉のように、一気に脳の奥へと駆け上る。
「はぁむぅ、うじゅるるるぅ……はぁぁ、精の味ぃ……」
 指の根元に、生ぬるい風が当たる。中のミミックの鼻息だろう。指に一生懸命しゃぶりつきながら、その隙間から言葉を吐く様子が想像できる。
 舌の動きは、さすが魔物といったところか、動きが多彩で、そのどれもがどんな人間よりも上手であった。
「んふ、んっ、じゅれるっ」
 舌の腹をひたと押し付け、指先を包みながら、大きな音を立て息を吸い込む。
「れる、れるれる」
 唇で先端を弱く挟み、爪と肉の間を舌先でくすぐる。
「ちゅっ、ちゅっ」
 一度口から離し、爪の根元や指の側面にキスを浴びせる。
「ずぞ、ずぞぞぞぞ……」
 根元までしっかり口内に入れ、下品な音を立て強烈な吸引。
 指に対してだけの刺激にもかかわらず、俺の全身はすでに何度も精液を吐き出してしまったかのように力が抜けてしまっていた。下半身が自分のものではないかのような現実感のなさを覚え、へなへなと尻を床に落としてしまう。
「んぽあぁ……」
 それと時を同じくして、ようやく指が鍵穴から解放された。白く泡立ち、粘り気のある唾液が、穴の奥から糸を引いて伸びる。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ……!」
 しばらくしゃがんでいただけなのに、まるで山道を全力疾走した後のような、途方もない疲労感に襲われ、俺の胸は悲鳴を上げていた。荒く激しい深呼吸を止めることができない。
――指だけで、こんなことになっていたら……もし、あの穴に性器を入れたら。
 あまりにも甘美で抗えない考えが脳裏にちらつき、口内に溜まった唾液をごくりと飲み込んだ。
――……いや!だめだだめだ!こいつは奴隷商に売らないといけないんだから!そうしないと、もう金が……。
 首を左右に振り、何とか頭の中の性欲の化身を振り払おうとする。そのとき、視界に宝箱の鍵穴が映った。真っ暗で、一度吸い込まれたら二度と出てこれないだろうという、本能に訴える恐怖を持つ存在。そこから糸が伸びて、眼球を固定しているかのように、そこから視線をそらすことができない。不意に、その穴が色付いた。中のミミックが離れ、部屋の明かりがそこへ差し込んだのだろう。
 それは口だった。唾液で艶めき、桃色に火照った唇。こぼれるように舌が口外へ出ており、その先からは粘度の高い唾液が滴り落ちていた。
「はぁ、はぁー……」
 熱い吐息をしつつ、物欲しげに舌を動かしている。舌先を上下に反復させ、時折口内に戻す。
――あ、もう駄目だ。
 それを見たとき、頭の中でぶちりと何かが切れるのを感じた。
「おうおう、そんなにこいつが欲しいのか?」
 どこにそんな力が残っていたのか、力強く立ち上がると、宝箱の蓋に両手をつき、穴に下着からこぼした男性器をさらした。
 彼女は答える代わりに、箱をガタガタと揺らした。喜んでいるようだ。
「そうかそうか、可愛いやつめ。ほら、お前の欲しかったものだよ」
 穴にペニスを挿入すると、つんつんと先端をつつく柔らかな感触がした。
「すぅぅ、はぁぁ……」
 それが彼女の鼻であると、中から聞こえる深呼吸の音で分かった。彼女は、俺の汗にまみれた性器の匂いをかいでいる。その事実だけで、ペニスが一回り大きくなってしまいそうだった。
「はあぁー……男の人の、いい匂いぃ」
 うっとりと、中の彼女は声を吐く。
「じゅるっ、いただきまぁす」
 指のように、容赦なく吸引され、我慢する暇もなく精液を吸い出させるのかと思っていた。
「くぁ、はぁぁ……」
 だが予想に反し、彼女の口淫は、思わずため息が出るほど優しくて暖かいものだった。
 唇で先端の余った皮を挟まれ、舌が穴の中に入る。
「んじゅっ、れるれろ」
 舌先が皮と亀頭粘膜の間に入り、こじ開けられるように皮が伸びる。ぞくぞくと、寒気にも似た快楽が襲い掛かってくる。
「ん、はぁ、おいひい……」
 心の底から登ってくるような、熱っぽい声を上げながら、彼女は皮に包まれた部分を舐める。
――すごいな、魔物というのは。
 頭の片隅で、不思議とそんな冷静な思考が現れた。まだ出会ったばかりで、顔すら合わせていない男の、汗と汚れをまとった男性器を口に含んでいるというのに、本心で美味しいと言える魔物娘。
――こりゃあ、人間では絶対に勝てないな。
 魔物と結婚して酒場に来なくなった元冒険者仲間たちを思い出しながら、なぜ仕事熱心だった彼らがすっぱりと足を洗ったのかを悟った。
「はぁむ、じゅっ、じゅっ、んーんっ」
 唇の力が強くなった。熱が先から徐々に根元に近付いてくる。
「んっ……むけたぁ……」
 一応体を洗うときはきちんと皮の中まで清潔にするので、すんなりと口だけで包皮をむくことができたようだ。他の皮膚よりも弱い亀頭が、より敏感に熱を感じ取る。
「んふぅ……お兄さん、結構汚れ、溜まってるんですねぇ……」
 根元から裏筋まで、つつっとかすかに指でなぞられる。ぞくぞくと背筋が震えた。
「う、その……すみません」
 男は股間を握られると弱くなるというのは本当のようだ。すっかり彼女よりも立場が下になってしまい、丁寧な受け答えになってしまう。
「謝る必要ないですよ。むしろ嬉しいです。こんなに美味しそうなおちんちんを出してくれて……」
 息を吸う音。また匂いを嗅がれている。今度は急に恥ずかしくなってしまい、顔が興奮とは違う感情で熱くなった。
「はぁ……もう我慢できないので、本格的にいただきますね」
 そう言うと、彼女はこちらの返事を聞かずに、亀頭を口に含んだ。
「ゆーっくり、ていねいに、磨きますからね」
 むき下ろされた皮を唇で押さえ、露出した亀頭を舌で舐め回される。舌の力は強く、表面を一度通過するたびに、粘膜の感覚が鋭くなっていくのを自覚した。
「べろーっ、んべるべろぉ……」
 楽しそうに鼻から声を吐き出しつつ、彼女は掃除を行っている。俺は快感を覚えて時折腰を跳ねさせる。
「きゃん」
 すると、嬉しそうに可愛らしい声を上げる。
「もう、だめですよぉ、腰を動かしちゃ……。お掃除、できないじゃないですかぁ」
 そう言ってくる彼女の声に、非難の色は全く伺えない。
「気持ちいいなら仕方ないですけど。できれば、もうちょっと我慢してくださいねぇ。そろそろお掃除終わりますから」
 それだけを言うと、彼女はまたフェラチオに戻った。
「うっ」
 先ほどまでとは違う、強い快感。彼女の舌が、亀頭と竿の境目……カリの溝をなぞったからだ。しかし、腰が跳ねてしまうのをぐっと我慢する。
「んふっ、ここぉ、気持ちいいんですね。汚れが溜まってますから、いーっぱい、舌でぞりぞりしていきますよ」
 彼女が宣言する。その通りに、先ほどよりも強い力で、溝を舌先でほじくりかえしてきた。
「うっぐっ、ぐぅ……!」
 歯を食いしばり、息を殺す。そうしないと、この刺激に耐えられず、情けない声を上げてしまっていただろう。
「れるっ、じょるっ……んっ、ごくっ。んんー、じゅるぅ」
 上面から吸い付くように唇を合わせ、舌がこすってくる。時折、喉を鳴らす音が聞こえる。俺の垢が、目の前の女に飲み下されている。ひどく興奮する。
「あはっ、お掃除なのに、興奮してるんですか?またおちんちん、大きくなってきましたよ」
 唇を離し、彼女が問うてくる。熱が離れ、ペニスが寒くてさびしい。
「もう、ちょっと離れただけなのに……物欲しそうにぴくぴくさせてぇ……」
 カリを指が一周する。全身に思わず力が入ってしまう。
「もうちょっとで終わりますから、我慢してくださいね」
 ぱくりと、亀頭が口内に含まれる。待ち望んでいた暖かな熱で、心が幸福で満たされる。
「んれろぉ、ぬるぬる」
 亀頭側面を舌が這い回る。尖らせた先が、まだ触れていないカリの左右部をくすぐる。
「うっ、ううっ……」
 小さく、大きく、細かく、時に大胆に駆け上がる快楽に、俺の抵抗力は着実に削られていたのだろう。突然、猛烈な射精欲が湧き上がった。ここで、性欲で正常な判断力を失っていた脳が、急に理性を取り戻す。
――ちょっと待て、このまま吐き出したら、こいつ、『傷物』になるだろ……!
 一度誰かの精液を受け止めた魔物は、その男専用になってしまう。売り物にならなくなってしまう。それは困る。
「ぐっ、ぐぐっ」
 歯の食いしばる力をさらに強め、何とか本能を抑えようとする。
 思い返せば、さっさと穴から性器を抜けば、これ以上耐える必要はなかったのだが、そのときはそんなことを考える余裕がなかった。このときすでに、俺の心は彼女と一緒にいたいと、彼女専用の男になりたいと考えていたのかもしれない。
「よし」
 宝箱の中から声が発せられると、舌の動きがぴたりと止まった。
「おそうじ、おわりまひたよぉー」
 それじゃあ、と言葉が続く。
「せーえきぬきぬき、ひまふよぉー」
「うあぁっ!」
 喉の奥から、悲鳴が漏れた。ペニスを襲う感覚が急激に強くなったからだ。ついさっきまでの、いたわるようなものとは違う、精液を吐き出させるためだけの動き。
「ぐぽっ、じゅくっ、んぽっ、じゅるぅ」
 卑猥な水音とともに、宝箱の前面に、何かが当たる音がする。熱が前後に動く感触。深く浅く、大きく顔を前後させ、そのたびに彼女の顔が宝箱の内側に当たっているのだろう。
「ちょっと、ま……て……!そんなに強くしたら、でる、でるって……!」
 今、ここで出すわけにはいかない。何とか声を出し、彼女に静止を求める。
「いいでふよぉ、口の中にだひても……いふでも、しゃせーどーぞぉ」
 じゅぽじゅぽと舌を絡ませながら、彼女は言った。
「ちがうっ、そうじゃなくてっ、今出したら、お前を、商品にぃ……」
 もう限界だと思った瞬間、宝箱の蓋が、俺の腕を押しのけて跳ね上がった。鍵穴を除いて密閉されていた内部が、露になる。
 まず目に入ったのは、キラキラと輝く黄金の髪。劣悪なダンジョンの環境に住んでいるとは思えないほど、それは艶めいていて、一本一本が絹の糸のように煌いていた。
 体は幅の広い真っ赤なリボンで巻かれており、薄いながらも適度に肉の乗った乳房が、リボンの生地を引っ張って精一杯の主張をしていた。
 下半身は裸のように思える。影に隠れてよくは見えないが、尻をぺたりと地面に下ろし、両脚がその左右に八の字に広がっている。
 一番心を惹きつけたのは、彼女の瞳だった。今まで見たどんな宝石よりも綺麗で、鮮やかなスカイブルー。生まれ育った町の、快晴の青空を思い出させる、ノスタルジックな色合い。それが、今は欲情とわずかに吸い込んだ俺の精の影響で、どこか濁って見えた。
 俺の貧相な語彙では何と形容していいのか分からないが、彼女は、今まで俺が見たどんな女よりも……かつて偶然通りかかった町で見たミス何とかよりも、美しい女に思えた。そんな彼女が、俺の洗っていない性器を美味しそうに頬張っている。改めてその事実に気付く。
「うぁ……あっ、あぁぁ……」
 頬を赤く染め、とろりと表情を蕩けさせながらフェラチオをする彼女を見て、理性はあまりにも簡単に崩れ去ってしまった。
 腰が力なく、かくかくと前後する。腰が前に行くたびに、今発している声と同じくらい弱弱しく、精液が放出される。しかし、一往復で発せられる量は少ないかもしれないが、時間がとてつもなく長かった。何往復しても、精液の量が一向に減らない。
「んっ、んっ……」
 根元に唇を吸いつけながら、彼女は上目遣いでこちらを見た。射精が始まった瞬間、大きく見開いていたそれは、俺が見つめていることに気付くと、にんまりと笑みを作った。
 腰が前に行くと、亀頭の先端が柔らかい感触に触れる。すぐにそれが彼女の喉奥だということを理解した。
「んふっ」
 喉奥を突くたびに、彼女は嬉しそうに声を漏らす。
「じゅっ、じゅぅぅ……」
 射精が始まって一分経った頃か、彼女が少しずつ、口からペニスを引きずり出していった。
 とぷとぷと漏れる精液が、舌の上に縦の線を描く。大きく口を開き、俺にその線がよく見えるようにしてくれた。
「あはぁ、はぁぁ……」
 舌先まで精液が乗ると、ぴたりと射精が止まった。
「れるっ」
 尿道に残り、力なく先端から垂れた白濁を、舌先で掬い取る。
「いっふぁぁい、れまひたねぇ……」
 あーんと喉から声を漏らしつつ、彼女は口内をよく俺に見せてきた。線のように放たれた精液は、量があまりにも多かったせいで、どろりと左右に広がり、今や舌全体に漂っていた。
「んっ」
 俺がしっかりそれを見たことを確認すると、口を閉じ、喉を鳴らす。
「くちゃ、ぐちゅっ……ごくっごくっ」
 精液を舌で転がし、咀嚼し、飲み干す音が響く。
「ふぁぁ……」
 全て飲み終えると、感極まった声を彼女は漏らした。
「はぁぁ、美味しかったぁ……」
 ごちそうさまでした、という彼女の声を聞いたとき、とうとう俺の体力が完全に底を突いたのだろう、ぐらりと視界が暗転し、体から力が抜け、前のめりに倒れてしまう感覚を覚えた。
 何も見えない、聞こえない中、俺の体は柔らかく受け止められ、下へ、下へとゆっくりと落ちていく。
 落ちていくことに、不安は一切なかった。むしろ、これでもう安心だという、確信めいた予感が胸をよぎり、俺の思考は一旦、完全に停止した。

 ◆ ◆ ◆

 意識が戻ったとき、最初に感じたのは、鼻腔と腹をくすぐるいい香りだった。
 腹部を除く皮膚は、周りの空気を直接感じ取っていた。ひんやりとしたダンジョンとは違う、暖かくて安心できる温度。腹の上に乗っているのは毛布だろうか。
 トントンという、包丁の音。そして鍋が煮える音。いい匂いの正体は、鍋から発せられる料理の香りだろう。
 まぶたを開く。初めはただの橙色ののっぺりとした映像だったが、焦点が定まると、それが弧を描いて覆いかぶさる天井であることが分かった。
 ゆっくりと、上半身を起こす。そして周囲を見渡した。
 そこは暖色に包まれた部屋だった。壁は天井と同じく橙。床には一面に赤茶色の絨毯が敷かれている。俺の上にかかっていた毛布は桃色。俺は部屋の隅にいて、中央には四人掛けのこげ茶色の木製テーブルが置かれていた。
 テーブルの向こうには、石でできた竈があり、その前に女性がこちらに背を向けて立っていた。背丈はそれほど高くなく、何故か背中やお尻が丸見えである。
「ここは……?」
 つぶやくと、女性がこちらへ振り向いた。ふわりと浮かぶ黄金の髪。輝くスカイブルーの瞳。ミミックだ。
「おはようございます。ここは、私の家ですよ」
 彼女はそう言って、柔らかく微笑んだ。
「家……?」
「そうです。さっきまであなたがおちんちんを出し入れしていた、宝箱の中ですよ」
 そう言われて、我を忘れた行動を思い出した。顔が熱くなるのを感じる。
「あの後、あなた気絶してしまいましたから、ここまで運んだんです。そのとき、お腹がずっとぐーぐーって鳴っていましたから」
 彼女はこちらに向いているにも関わらず、背面の台所からは包丁の音が続いていた。そちらに目を向けると、宙に浮いた包丁が野菜を刻んでいた。
「ここは私の部屋である以前に、私の体の中ですから、この中にあるものは全部、私の思いのままなんですよ」
 ふふっと彼女が笑った。
「もうすぐで料理ができますから、こちらに掛けて待っていてくださいね」
 そう言うと、彼女は部屋の中央のテーブル、そこに配置された椅子の一つを引き、招いた。
 断る理由がないので、彼女に言われた通りにすることにした。料理の匂いで胃が刺激されたせいか、気絶する前よりも重い体を何とか立ち上がらせる。
「あ」
 はらりと体にかかっていた毛布が落ちる。その下でこもっていた熱が解放されると、全身が涼しいことに気付いた。そして、自分が全裸であることにも気付いた。
「きゃっ」
 甲高い声を上げ、彼女が手で顔を覆い隠す。しかし、指の間からしっかりとこちらを覗き込んでいる。
「……まあ、裸にしたのは私なんですけどね。さすがに鎧ごと運ぶのは面倒でしたし」
 それに、と言葉を続ける。
「私はあなたの顔よりも先に、おちんちんを見たわけですから、今更どうということはありませんよね」
 俺の顔の熱が、さらに熱くなった。
 鍋と包丁の音が止み、部屋の中が静かになった。
「さあ、できましたよ。いっぱい召し上がれ」
 台所からふわりと、器とフォークとナイフが飛び、机の上に整然と並べられた。ボウルいっぱいのサラダと、ほかほかのパン、それにベーコンとジャガイモのスープ。
 大きく腹が鳴る。急いで毛布を腰に巻き、食卓についた。

「ごちそうさまでした」
 ふぅと長くため息をつき、感謝の意を述べる。
 空腹は最高の調味料なんて言葉があるが、彼女の料理はそれを抜きにしても美味しいものだった。野菜は新鮮で、パンは中までふっくら。もったいないと思いつつも、口に運ぶ手を止められず、何度も喉を詰まらせてしまった。そのたびに、彼女の差し出す美味しい飲み物の入ったカップを傾けた。薄く桃に色づいた、ほのかに甘くてすっきりとした味。それが濃厚な料理の味を洗い流し、さらに食べたいという欲求につながった。
「いい食べっぷりでしたね」
 嬉しそうに、ミミックが微笑む。
――そういえば、こんなにお世話になっているのに、名前すら語らないのは無礼だな。
 冒険者は基本的に粗雑で、礼儀というものを知らない職業だ。明日は命がないかもしれない同士で、あえてきちんと自己紹介をするということはほとんどない。だが、彼女は命の恩人だ。いつまでも『お前』と『あなた』という関係は人間として駄目に思えたのだ。
「あのさ」
 向かいの椅子に座り、こちらをじっと眺めるミミック。彼女に目線を向け話しかける。
「はい、何です?」
 微笑を崩さないまま、彼女が答える。
「自己紹介……まだだったよな。せっかくの命の恩人なんだし、それに……」
 長い付き合いになるし、と付け加える。おぼろげながら思い出す。気絶する直前、俺は彼女の口内に精液を放ってしまった。彼女は、俺の精液を飲んでしまったのだ。まだ性交はしていないから、絶対にというわけではないが、ほぼ間違いなく、俺は彼女と長い間一緒になるだろう。
「ロッコ」
 名を告げる。あまり好きな響きではないが、短くて言いやすい。
「ロッコ、ロッコ……」
 彼女が、何度も口ずさむ。桃色に染まった、彼女の唇に視線が動く。ぷるぷるで、しっとりとしていて……。
――さっき、俺はあの唇でペニスを……。
 気絶前の快感を思い出し、ぞくりと背筋が震えた。
「ロッコ……ああ、じゃあ次は私の番ですね」
 机の上に手をつき、こちらに身を乗り出す。
「私の名前はラリマールです。身長は151センチ、バストはちっぱいよりはちょっとおっぱい、おまんこはつるつる、好きなものはキラキラしたものです!」
 実に魔物らしい、性的におおらかな自己紹介だった。しかし、俺はあまり内容が頭に入ってこなかった。彼女の言う『ちっぱいよりはちょっとおっぱい』が、目の前にさらされていたからだ。エプロンが重力でたわみ、その中が視界に入り込んでくる。背中を見たときに予想できたことだが、彼女は裸エプロンだった。
 ごくりと、唾液を飲み込む。その音が思ったよりも大きく響いてしまった。
 彼女が一瞬、視線を下に向ける。俺が喉を鳴らした理由はすぐに察することができたらしく、こちらに視線を戻し、目を細めた。
 瞳は潤み、スカイブルーが曇る。ぺろりと舌を出し、唇を舐めた。その微笑は、先ほどまでの無邪気なものではなく、彼女が魔の者であることを思い出させる、妖艶なものだった。
 自分が捕食者であるという、本能的な恐怖を覚える。思わず、椅子を引いて後ずさってしまった。
「元気、取り戻したみたいですね。そんなに大きくして……」
 彼女の視線が、俺の股間を刺す。出してまだそれほど時間は経っていないというのに、ペニスはすっかり体力を取り戻し、毛布を押し上げていた。
「続き、やる気まんまんですね」
 発情したせいか、彼女の体から、初めて彼女の箱に出会ったときと同じ匂いが発せられていた。しかし、今度は直に浴びることになったため、そのときとは桁違いに濃厚で、嗅いでいるだけで全身が震えるような気持ちよさに包まれてしまう。
「私も、もう……我慢、無理ですよ」
 ラリマールは、そう言いながら机の下にもぐりこんだ。すぐ後、すねに暖かく、柔らかい感触が二度、三度と起こる。それは徐々に上ってきて、膝に触れられたとき、その間から彼女の赤く染まった顔が覗きこんできた。
 膝に手をつき、それを支えにして、一気に彼女の体が持ち上がる。影からぬるりと這い出すように体が登り、毛布の上……ペニスが隆起している部分の真上に、彼女の尻が乗った。
「はっ、あっ、ロッコの……熱い……」
 顔を蕩けさせながら、彼女は腰を前後させる。エプロンの裾に隠れてその部分はよく見えないが、ペニスの裏側を、彼女の無毛まんこが毛布越しにこすってきているのは、感触で分かった。
――くちゅっ、ぬちゃっ……。
 それに、音もする。粘り気のある、聞いているだけで性欲を刺激される音。
――あ、これ、もう駄目だ。
 一度ならず二度までも。俺はとことん本能や欲に弱い人間のようだ。まあ、だからこそ、真面目に働かず、冒険者に成り果ててしまったわけだが。ぶちりと、頭の中で理性のタガが千切れ飛ぶのを感じた。
「んっ!」
 力強く彼女を抱き寄せ、強引に唇を奪う。そして、隙間から舌をねじ込む。
「じゅぅ、れるぅ」
 彼女も待ち望んでいたらしく、すぐに舌同士が触れ合った。互いの唾液が混ざり、蛇が喧嘩しているように、激しく混ざり合う。
 視界が、彼女の顔に覆われる。あまりにも近いため、目の焦点が合わずにぼやけているが、彼女の表情は、淫蕩であった。
 夢中で接吻をする間に、片手で毛布をむしり取る。もう片方の腕は、より強く彼女を抱く。
 ぶるんと音を立てそうなほど、ペニスは天を衝いた。
「んはぁ」
 ちょうど、彼女が鼻から大きく息を吸う瞬間と同時だったため、毛布の中に留まっていた俺の匂いが、大量に彼女の鼻腔を刺激した。うっとりと目を細める。
 舌が、離れた。
「あぁ……ロッコの、硬い。もう、入れますね」
 腰を一度浮かし、ラリマールは狙いを定める。隠れていて俺たちの股間は見えないが、俺は彼女の膣口が、熱と滴り落ちる粘液で分かった。おそらく、彼女も俺のペニスの位置を熱で判断できるのだろう。
「うっ」
 腰がゆっくりと降りてきて、亀頭にねっとりとした感触を覚える。そこは熱く、粘り気があり、すんなりと俺を受け入れる。時折きゅっと締まり、俺を歓迎しているようだった。
「入り……ますよっ」
 足を浮かせ、重力に身を任して彼女は腰を沈める。体に似合って小さい穴なのに、すでに溢れ出すほどの量の愛液のおかげで、驚くほど抵抗なく入っていく。
「ぐっ、うぅっ」
 彼女の奥へ入るたびに、つぶつぶした内部が、ペニス全体をくすぐる。
 程なくして、彼女の尻がぺたんと音を立て、俺の太ももにくっついた。同時に、亀頭の先端が、柔らかな抵抗を感じる。
――ぴったり、膣の奥に……。
 そう思った瞬間、睾丸がひくひくと何度も収縮し、ばちばちと頭の中で快感が弾けた。
「うっ、くぅっ!」
 どくんどくんと、幹が脈動し、開放感に満たされる。
――え、嘘だろ……?入れただけで、射精……。
 股間の震えが、まるで波紋が伝わるように全身へと広がる。
「うぁ、あぁぁ……」
 彼女の腰を強く持ち、何とかこの襲い掛かってくる気持ちよさに抗おうとする。
「あー……あ゛ぁぁー……」
 獣のうなり声のような音が、ぼんやりとした思考の中で感じ取れた。音のする方向、上を向く。
「あぁぁ、せーえきぃ……せーえききたぁー……」
 俺は今まで、ここまで背徳感を覚える表情を見たことがなかった。まだ成人していないだろう見た目の少女が、俺の精液を体内に浴びて、表情を蕩けさせている。頬といわず、顔全体が興奮で赤く染まり、唾液で鈍く光る唇の間からは、舌がこぼれている。舌先から唾液が糸を引いて滴り落ち、俺の腹を濡らす。瞳は焦点が合っておらずうつろで、濁り、目の端からは涙が幾筋か線を描き、顔を流れ落ちている。
「おいひぃ、ざーめんおいひぃー……」
 舌が上手く回らず、かろうじて内容を聞き取れる声を、彼女は発していた。
「もっと、もっとぉ」
 ぎゅっとこちらにしがみつき、彼女が腰を上下させ始めた。
「おい、ちょっと、待ったっ!出したばかりは、駄目だって!」
 慌てて彼女の動きを止めようとする。射精したばかりは、強い刺激を与えると快感よりも痛みのほうが強くなってしまう。だが、それは『普段ならば』と頭につけるべき現象だったのだ。
「あれ……?あうっ、あれ?ぐぅっ、なん、で……」
 痛みが全くなく、その上快感が倍増している。戸惑いの声を上げるが、その途中途中で、思考が途切れそうなほどの強烈な震えがやってくる。
「もっとぉ、もっとだよぉ」
 とろっとろに蕩けきった顔を見せ、彼女が言う。何度もついばむように、俺の唇に自分のものを吸い付かせる。
 二往復、三往復……十往復辺りまでは数えられたか。
「うっ」
 それから何度かの往復で、俺は二度目の膣内射精を果たしていた。
「あぁぁ……何だこれぇ……」
 背筋を駆け上がる快楽を感じ、全身を痙攣させながらつぶやく。射精の量が、時間が、一回目よりも格段に多くなっていたからだ。彼女の口内に放ったのと、同じくらいの時間、精を放ち続ける。
「ろっこのざーめんきたぁ……」
 口を大きく開け、喉から搾り出すように声を出すラリマール。精を受けている間も、かくんかくんと、ぜんまいが狂った仕掛けのように、弱弱しく腰を前後させる。
――おかしいだろ。何で、三回目なのに、こんなにたくさん……?
 フェラチオで精液を抜かれたときは、ずっと射精をしていなくて、中にたくさん溜まっていたからだと思っていた。しかし、今はもう何度も精液を放ってしまった上でのことだ。何故こんなにも、大量の、精液が……?
――あっ。
 思い当たることが一つあった。食事のときに、彼女がしきりに飲ませてきた液体。桃色で、甘くて、さっぱりしていて……、その上後を引くミルクの旨みがあった、あの液体。
「ロッコ、ロッコぉ……好きっ、好きっ、だいすきぃ……!」
 彼女の腰が、またも大きく動く。抜かずに三発目をもらおうということか。痛みはない。二回戦よりも、さらに気持ちよさが増している。虜の果実とホルスタウロスミルク。謎の種が分かったせいで、俺の心にはもう躊躇う気持ちは微塵もなかった。ただ、体力が尽き果てるまで、目の前のエロくて可愛い魔物を犯すだけ。
「ああ、ラリマール、俺もお前のことが好きだぞ、大好きだ!」
 力いっぱい叫び、唇を貪る。テーブルの上に彼女を押し倒し、全力で腰を動かした。

「そらぁ、三発目ぇ!」
 テーブルの上に寝た彼女の腰をしっかりと握り、最奥で果てる。
「はぁぁ、濃いよぉ……とろとろだよぉ」

「ぐっ、うぅっ、四、発目ぇ!」
 今度はテーブルの上に腹這いにさせ、立ちバックで犯す。
「おぉぉ、おまんこの壁、びりびりするぅ……!」
 俺の腹の下で何度も痙攣する彼女の体は、じんわりと俺の体を温めてくれた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……五発目……」
 次は俺が床に寝て、彼女に腰を動かしてもらった。指をしっかりと絡ませ、彼女の体を支える。
「まだまだ、いっぱぁいっ」
 精液を漏らすたびに膣肉が締まり、喜んでくれている。

「これで、六発目、だな……」
 二人で腰を下ろし、対面した状態で中出し。一回戦二回戦と似た体勢に戻っていた。
「んっ、んんっ」
 互いに体を抱き合い、ほとんど腰を動かさずに絶頂を迎えた。
「もう、出ない?」
 耳元でラリマールが囁く。彼女も、俺の射精量が少なくなっているのを感じていたようだ。完全にとは言わないが、おそらく今日はほぼ打ち止めということでいいだろう。
「ちょっと、今日はきつい、かな」
 正直に言う。互いに相手の耳元に口を寄せているおかげで、囁くようにかすかな声になっている。どちらかがしゃべるたびに、相手がくすぐったさで体を震わせた。
「あのさ……その、ごめんな」
 言葉を続ける。
「奴隷にする、なんて言ってしまってさ……」
 俺は彼女に初めて会ったとき、彼女を奴隷商に売ると宣言した。あのときは、彼女を金に換え、生活資金にすることしか考えていなかった。
「もう、俺は、ラリマールなしじゃあ生きられない」
 俺は、彼女なしでは生きられない体になってしまった。彼女の熱がないと、不安でいっぱいになってしまう、そんな弱い体になってしまった。
「うん、私も、もうロッコなしじゃあ、生きられない」
 さわさわと、彼女の両手が俺の背中をなでる。
「好き。好き。ロッコの精液も、おちんちんも、ぬくもりも、声も、味も、匂いも、姿も……全部全部愛してる」
 ぞくり、と背中が震えた。ひくひくと力なく、睾丸が震える。
「んふっ、七発目、だね」
 ごちそうさま、と蕩けた声で彼女が言い、耳たぶに小さくキスをした。

 ◆ ◆ ◆

 レイニーは小さくため息をついた。誰も開けていない最後の宝箱が、『エキドナさんとミミックさんのお部屋』の中のものだと分かったからだ。
――ギシッ、ギシッ……。
――ガタン、ゴトン……。
 木のきしむ音と、箱が揺れる音。
――ああ、畜生、貧乏くじを引かされた。
 冒険者にはいくつかの暗黙の了解がある。例えば、複数の冒険者が同時に同じ宝箱を発見した場合は、先にダンジョンに入った方が宝を手に入れられるというものだ。最近、そこに一つのルールが追加された。
「ミミックさんを見つけたら開けろ……か」
 通常のミミックならば、それがミミックであると分かったら、それを箱ごと持ち出して売ることができる。しかし、この部屋のミミックは例外だった。すでに夫がおり、売ることができないのだ。しかし、ダンジョン内の宝は全て開けないと、ダンジョンがリセットされず、いつまで経っても新しい宝を手に入れることができない。なので、この部屋を見つけた者は、ミミックの宝箱を開け、中を覗かないといけないのだ。
「はぁ」
 ため息をつき、部屋の中央にある宝箱の蓋をつかむ。揺れが激しくなったため、きちんと手で蓋を固定するのに時間がかかった。
「あ゛ぁぁぁー!」
 濁った声が箱の中から響いた。
「おらおらぁ!お前のイき顔、見せてやれ!」
 どこにそんなスペースがあったのか、蓋を押し上げた瞬間、勢いよくそれが跳ね上がり、中から全裸の男女が出てきた。女は箱の前面の縁に手を乗せ、尻を後ろに突き出している。男は、女の腰を両側からつかみ、力強く腰を前後させていた。
「はいぃっ、イきます、イきましゅぅっ!」
 瞳を濁らせ、涙をぼろぼろと流し、それでいて口元は笑みを作っていた。
「んっくぅぅぅぅっ!」
 首を反らし、全身をがくがくと痙攣させ、女は果てた。同時に、男も腰を突き出し、精液を放つ。
「おっ、おぉぉっ……」
 汗だくの女が、歓喜の声を上げる。二度、三度、大きく震えると、がっくりと首を垂らした。
 しばらくの間、沈黙が流れる。
「あの、帰っていいですか」
 レイニーがつぶやく。
「あっ、はい、お騒がせして申し訳ありませんでした」
 意外にも礼儀正しく、男がお辞儀をする。しかし全裸である。
 ロッコとラリマールは、結局どこへ行くこともなく、エキドナさんの部屋で生活することになった。魔物の流通サービスは異次元にまで網を張っていたため、ミミックの箱の中にいながらにして、生活必需品を手に入れられたからだ。引っ越す必要のない二人は、時間のない空間の中で、延々と交わりを続けた。
 いつしか冒険者の間で『エキドナさんのお部屋』は『エキドナさんとミミックさんのお部屋』となり、時折箱を開けてくる冒険者の前での公開セックスが、二人の唯一の特別なイベントとなっていた。
「まいどー」
 突如、レイニーの背後で女の声がした。
 彼が振り向くと、そこには狸の耳、尻尾を持ち、四肢が茶色の毛で覆われた女が立っていた。彼女の背後には、ふすまが開いており、その中は彼には見覚えのある奴隷商店の内部が見えていた。
「え、あれ?あやめさん?」
 レイニーが彼女の名を呼ぶ。彼女は常に麓の街にいて、こんなところにいるはずがなかった。
「せや、みんなのアイドル、あやめさんやで」
 にへらと、楽しそうに彼女が微笑む。
「レイニーはん、どうやった?」
「何が……?」
 彼女の言葉の意図を読めず、彼は首をかしげる。
「さっきの熱いお二人さんの公開セックス。興奮したやろ?」
 そこでようやく、彼は自分の体の反応に気付いた。いつの間にか、痛いほどペニスが勃起していて、衣服を持ち上げていたという反応に。
「最近な、この部屋に来た冒険者がこぞって奴隷を買っていくさかいに、支店を出すことにしたんや」
 まあ、店とこの部屋を扉でつなぐだけなんやけどな、と続けた。
「なあ、レイニーはん、可愛い奴隷と、スケベしようや……」
 にたり、と意地の悪い笑みを浮かべる。
 彼女の背後、ふすまの奥に、一人の女が座っていた。まだ年は十にも満たないであろう、幼い少女。肌は青く、全裸で、平坦でありながら美しい曲線を描いている乳房の中に、一対の小さなつぼみ。頭の上には燃え盛るようにゆらめく二つのとがった耳。背後には、柔らかそうな尻尾が揺れている。
 彼女が、レイニーを見た瞬間、頬を赤く染めた。そして、恥じらいの表情を浮かべつつ微笑んだ。
 ごくりと、彼の喉が鳴る。
「んふっ、決まったみたいやね。それじゃあ、さっそくこちらで商談を……」
 そっと彼の背後に回った彼女は、彼の肩に手を回す。そのまま、ふすまの方へと足を進めていった。
「それじゃあ、ロッコはん、ラリマールはん、まいどおおきに」
 ふすまがひとりでに閉まり、霧のように消える。後に残るのは、ダンジョンの薄汚れた壁のみであった。
12/12/26 16:07更新 / 川村人志

■作者メッセージ
毎日皮の中まで洗っていますが、仮性包茎です。
一度も風俗に行ったことありません、真性童貞です。

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