連載小説
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14.姉妹の絆<上>

一人の男が街中を、ぶら、ぶらと歩いていた
後ろ手に手を組んでゆっくりと歩いていた
だが、街中は喧騒の只中だった
あわただしく荷を積み込み、駆けていく荷車
桶に水を汲み、看板を大切そうに拭く商人
手代風の男が店先に飾る松を切り揃えている
そんなお店の前を通り過ぎると、今度は長屋が見えてきた
“掃除の邪魔だからみんな出て行っとくれ!”という声と共に子供や男が家の中から飛び出してきた
障子を張り替えようと水に濡らして剥がそうとしている者あれば、その家の中には叩きを持って家の中に積り積もった埃を叩き落とそうと振るっている者がいた

誰も彼もが一年の汚れをきれいにし、新しくやってくる年を迎えようとしているとき、この男はぶらぶらとしているのだった
男の特徴といえば…
腰に大小。黒の着流し。元は黒であったろうが、少しかすれた紋つきの羽織…
腰の刀の陰に隠れて、朱の紐のついた黒いもの…。それは十手であった
男は、役人であったのだ
男は名を、狭山 左近といった

師走のこの時期…どこかしこと忙しくなる
そんなとき、なにかといざこざが多くなる。だからこそ、こうして見回っているのだった



何気なく市中を歩いていると、とある長屋で大声が聞こえてきた

『こちとら慈善でやっているんじゃないんだよ!そんなに返すのが嫌ならはなっから金なんて借りるんじゃないよ!』
『頼む!あと少しあと少しなんだ!だから、待ってくれ!!』
『じゃぁ、利子分だけでも払ってもらう!そのくらいはあるんだろう?』
『……』
『黙ってちゃわかんないよ!あるんだろう?あんたとこのじーさん。体が弱ったから薬代に金借りたらしいけど…この前、アタイが家の前を歩いてたら、じーさん煙草呑んでたよねぇ?煙草やれる金があるんだったら利子分くらいすぐに返せるはずさ!だから、ほら!…どうしても返したくないんだったら…それでもいいけどねぇ』
『わかった!わかったから…』
『返す気になったかい?』
男が家の中へと消えて行き…戻ってきた
『これでいいだろう?』
『そうそう。借りたら返す。当たり前のことを当たり前にする。これこそ人の世ということさね』

長屋の入り口にある柵の影から覗いてみると、子供のような者が大声を張り上げていた
大の大人の腰ぐらいの背丈しかなく、どうやら女の様であった

『さてと…じゃぁ、隣んち!五平!!…五平さんよ!あんたが一膳飯屋で溜めたツケ!いますぐアタイに返しとくれ!』
『待ってくれ!俺がツケにしたのは飯屋だ!アンタにツケといた覚えはねぇぜ?』
『うるさいねぇ!そのアンタがツケといた飯屋がアタイに金を借りに来たのさ。アンタみたいなビンボー人が来るとすぐに金ができたときでいいよとか言ってどんどんツケにしちまうだろう?だから、金がなくなってあの飯屋はアタイに金を借りるまでになっちまったってことよ!だから、あそこのおやじの肩代わりよ!!アタイはあそこのお人よしのいい人顔したおやじとはワケが違うからね!ほら!とっととツケを返しな!さもなきゃ利子が増えてくよ!!』
『鬼だぁ〜!』
『あんた…あやかし相手に何言ってんだい?』

そう、どうやらその者はあやかしのようであった
頭には牛か鬼のようにちいさな角を生やしている
だぼついた大きな羽織を着て、首には帳簿を紐で吊り下げていた
背には一抱えもある大きなそろばんを背負っていた

『ひー、ふー、みー、よー…』
かわいらしい声が聞こえる。その声はその内止み、ちいさな手のひらに広げた銭を指差しながら数えている
『……』
『………アンタ、5文足んない!ほらっ!』
『そんなことは!』
『ちゃんと数えておき!いいかい?…ひー、ふー、みー、よー、いつ…』
『…へっへっへっ…すみやせん。ここにあった…』
数え終えるより先に、軽薄に笑いながら残りを差し出す男…
『アホたれ!!わかっているんならさっさと出さんかい!』
『……』

手のひらからもぎ取られるのを、渋い顔して名残惜しそうに見ている男…
そんな時、ちらりと辺りを見回した女と目が合ったような気がした

『んじゃ、毎度…』
『……』
『なんかあったらまた借りに来。たんと貸し付けてやっから。そん代わり利子は…』
『鬼ー!』
『は、は、は、は。んじゃ次ー!次、徳兵衛ー…』

帳簿を開きながら長屋の中を歩いていく小鬼の女
その背中を見ながら特に問題はなさそうだと踵を返したときだった

『ふざけんなー!オレはそんなに借りてはねぇや!借りたって言うなら証拠を見せろ証拠を!!』
『うるさいねっ!頭の上からそんなピーチクパーチク喚くんじゃないよ!!酒臭い!』
『知るか!この業つくチビ女!』
『なんだとう?!この短足達磨のろくでなしが!証拠だぁ?これが証拠の証文だ。だから四の五の言ってないで返しやがれ!!』
『くそうっ!こうなりゃ自棄だ!』
男は、懐からノミを抜き放った
『そんなもんでどうしよって言うんだい?!』
『うるせぇ!その証文寄こしやがれ!!』
『はっアタイに刃物突きつけるたぁいい度胸じゃないかい!』

「双方そこまで…」

切りのいいところで、狭山左近は十手を取り出して間に入った

「なんだい?なんだい??これはアタイが貸した金の取立てだよ!文句があるのかい!」
「刃物を持った男に取立てか?」
「へっこんな刃物なんざ屁でもないさね。それにしてもお役人!あんな柵の陰に隠れてアタイを見張って何か起こったら手柄の一つや二つでも立てようってか? 料簡が小さいねぇ。こんな小物なんざ捕まえている暇があったらもっと大物でも捕まえたらどうなんだい?」
「そういうな。師走のこの時期、誰もが忙しいだろう?気も立っていらぁな。それを見回るのもお役目の一つよ…しかも、お主のような金貸しは一年分のツケを払ってもらわなくてはならぬとき…騒動が起こると思っても仕方はなかろう?」
「へっいいご身分だ!こちとら足裏すり減らして取り立ててるっていうのにアタイはアンタの囮かよ!」
「そういうな。さて…徳兵衛。証文もきちんとあるのだ。大人しく払ったらどうなんだ?そんなノミなんぞ天下の往来で振り回すものではないぞ?振るうのは大工の技が必要なところでやってくれ。だが、もしこれ以上ここで振り回すというならば…」
「しょっぴくっていうんかい!へっやってみな!!」
威勢よく噛み付く男。相当酔っ払っているのだろう、たちまちあたりが酒臭くなった
「しょっ引くのは後にしてくんな!こいつに貸した金返してもらわないとなんねぇんだよ!お役人!!」
「…仕方ないねぇ…。んじゃ待っててやるから手早くな?」
「というわけだ!早いとこ金返し!!さもなきゃ、来年どこからも借りれないようにそこらの金貸しにふれて回るよ!」
「冗談じゃねぇやい!そんなことされちゃ、こちとらスカンピンよ!」
「だったら今返すんだね!」
男は二人を見回した
小鬼は証文を突きつけている
役人は気だるそうに暇だとばかりにあさっての方向を向いて十手で肩を叩いている。だが、時折ちらと見るその視線は…鋭かった
そんな剣呑な様子に観念したのか、しぶしぶと金を差し出した
「やっぱり持っているんじゃないかね!あるんだったらとっとと出しな!そうすりゃわざわざこんなまどろっこしいことはしなくて済むんだよ!…ったく!」
そういって小鬼は悪態をついた
「はい…証文。確かに返したよ?…んじゃ、お役人こいつは任せた」
「ふむ…どうしたものか…。うむ、では…一件落着!」
「へ?」
「は?」
「む?どうした?ことは片付いたのであろ?俺とて暇ではないのだ。ここの他にも見回らなくてはならぬところなどいくらでもある。酔っ払ってノミを振り回しただけの男などしょっ引いている暇は…ない、な」
「じゃぁ、アタイは次に行ってもいいのかい?」
「うむ。まぁせいぜい励むことだ」
「わかってらぁな!…向かいの…おかねさん!いるかい?ほら!飴玉だ。嬢ちゃんは元気かい?…土産だよ…」

小鬼の金貸しか…元気のいいことだ
あの分ならば大丈夫だろう…
そう思い、狭山は踵を返した


ぶら、ぶら…
と、歩いていると茶屋の店先で子供達に囲まれなにかをしている男が見えてきた
日に焼けた浅黒い肌をしていて、髪には白いものがぽつぽつと見受けられた。目は針のように細い
しかしその顔は、にこにこと優しげに笑い子供達の相手をしていた
近寄ってみると、何かを作っているようだった
節だった無骨な手が小刀を握っている
竹を細く切ったものを凧糸で縛っているようだった

「宇佐次!精が出るな!」
子供たちを驚かさないようにその男を呼ぶ
「おっ!旦那ぁ!!」
「なにを作っておるのだ?」
「へぃ!凧をつくってやろうかと」
「そうか。主!茶を…」
店の主に茶を頼んで、宇佐次という男が作る凧を見守る
子供たちは楽しそうに、その様子を覗き込んでいた
宇佐次は骨組みがしっかりとできているかを確認した後に子供達にそれを手渡した
「よし!できた。一旦うちに帰って紙を貼ってきな?今ならどこかの家で障子の張替えをしているだろう?で、張ってきたらまたおいちゃんのところに持ってきな?うまく飛ばせるようにしてやっから!」
「「うん!」」
元気な声で返事をすると、子供たちは喜んでどこかへと帰っていった

「元気のいいものだ」
「へぇ!あれを見てますと、心がほぉっとして来まさぁ…」
「そうだな。何もなく穏やかな日が続くように俺らも頑張らなくてはな」
「へぃ!」

宇佐次は、左近の岡引だった
普段は屋台の蕎麦屋を夕方あたりから夜にかけて出していた
蕎麦屋の傍らこうして御用聞きをしていた
そんな宇佐次が、左近の所へその話を持ってきたのはちょうど日が暮れようとしている時間だった

「旦那!知ってやすかい?」
「何をだ?」
「へぇ…田仲屋のことですや」
「ほう…金貸しの?」
「へぃ」

田仲屋とは、この国きっての強欲商人として悪名高かった
強引に金を貸し、返せないと嫌がらせをする
ヤクザ者、時に浪人を雇い刃物沙汰の脅しをしたりで、時々奉行所でもその荒っぽいやり方が取りざたされていた
あまりに荒っぽいので奉行所にも時々何とかならないかと駆け込むものもあったが、どうしようもなく手を拱いていた
悪どく、その手口は強引極まりなく泣きついてくる者も多いが、なかなかしっぽを掴ませぬ
そんな田仲屋に何度も煮え湯を飲ませられていた

「で?どうしたというのだ?」
「こいつがとんでもない“すけべぇ”なのはご存知ですかい?」
「ああ。もうすぐ還暦を迎えようというのに性欲大盛で離れの寮に何人もの妾を囲っているらしいな。しかも、全員乳が豊かであるとも聞くぞ?」
「へぇ。それなんですが…」
「どうしした?」
「へぇ…これがまた酷い話で…。金を借り期日まで返せなかった者が、泣く泣く娘を捕られちまったんですが、なんとか工面して翌日金を持って取り返そうと行ったら返すには返したらしいいんですが…」
「どうした?」
「弄ばれて胸に刺青を入れられていたっていうじゃぁないですかい!あっしはそれを聞いていたたまれなくなっちまって…まだ、嫁入り前の娘さんだっていうじゃぁないですかい!!」
「…そうさな」
「旦那!なんとかならないんですかい?このままじゃどんどん被害者が出ますぜ?」
「わかっている…」

宇佐次でなくとも、街の日常を守る奉行所に詰める役人も御用聞きを買って出てくれている者達もなんとかしようと日々目を光らせていた
だが、いまは打つ手がなかった…

沈黙してしまった二人
気分を変えるように宇佐次が言った

「そういえば、昨日は与力の旦那方が大活躍だったそうじゃないですかい!」
「そうらしいな」
「あれで賭場とその元締めを一つ潰すことができたそうじゃないですかい」

賭博法度
その昔、賭場での賭け事をやった者がおけらにされ、あまつさえそれを取り返そうとした結果、恨みを持ち刃物の殺傷沙汰を引き起こす事件があった
それ以来、賭博に関する一切が禁止された
町人達がたしなむ掛け将棋などから、侍屋敷の寮で行われていた賭場までが対象となっていたが、役人達の目を欺きながら賭場を出すものが多くいた
昨夜もまた、とある侍屋敷にて賭場が開かれていたが…偶然聞きつけた御用聞きがこれを通報。四半時も立たぬほど迅速に、奉行所内にいた与力、同心などによりこれらの捕り物がうまくいったのであった

「雇われ中間がな?場所を立ち変えながら賭場を開いていたのよ。おかげで、もうかなりの月日を徒労とさせられていたのだ」
「網の目を潜り抜けようとするものはまったくもって、はしっこい…」
「まっこと…」

法の目を掻い潜ろうとするものは後を絶たない
そんな者どもに目を光らせ、これを処罰するのも役人の仕事…
とはいえ、まったくもって多忙といえた



夕時、いつかの小鬼の金貸し屋はその日取り立てようと思っていた金額を達成して、上機嫌で歩いていた
「いや〜!今日もお疲れさん!よう働いた後はすがすがしいなぁ…早く帰って飯を作ってやらないと!」
家で待つ者のために、家路を急いでいた

ある大きな寺の脇の小路道に差し掛かると、彼女の行く手を塞ぐように二人の男が立ち止まった

「ん?なんだい?あんたらは?」
二人とも覆面をつけていた
「金貸しのお富だな?」
「違うわ!」
「金貸しをやっているお富であろうが!!」
「違うって言うてるだろ!」
「ええい!貴様の強引なやり方で大勢の者が泣いておる!これは“天誅”だ!」
「人違いだ!」
「問答無用!!」

覆面はすばやく刀を抜き放つとお富に切りかかってきた
咄嗟にいつも背負っている鉄製の算盤でこれを防いだ

キィィィィィィィンンン

甲高い音が辺りに響き渡った…



同刻…
とある仏閣では、正月の飾り物を売る市を開いていた
注連縄飾り
門松
飾り熊手…
他にも、地方からやってきた酒やや果物やなどがやって屋台を出して賑わっていた
札や破魔矢などを納めにくる者も大勢いて、なかなかの賑わいを見せている
人だけでなく、あやかし者も普通にその中にて新しい年への備えをしようと大勢来ているようであった

ちょうど、馬種の女が男を背に乗せて乗馬したまま中に入ろうとして止められている
蜘蛛の女の不興でも買ってしまったのか、糸でぐるぐる巻きの簀巻きにされてずるずると引き摺られながらその場を離れていく男がいる
片や一見子供。されど、愛しそうにそれを妻と呼び、そして夫と呼びあう者がいる
そんな人々も見受けられた

町並みと仏閣とがよく見える大通りの片隅に、宇佐次は蕎麦の屋台を出していた
すだれを立てかけたその中には、左近が不審な者はおらぬかと目を光らせていた

寒さに震えながら、燗をちびちびと飲んでいるときだった

キイイイイイインンン!!

どこか遠くから甲高い音が聞こえてきた

「宇佐次!どっちだった?」
「へぃ!そっちの寺の方角です!」
「行ってくる!!」
「あっしもすぐに参りやす!!」

耳を澄ませていなければ今の音は聞こえぬ
鉄…しかも刀であろう
それがぶつかり合う甲高い音が響いてきた

往来の者達は気づくことなく談笑をしながら歩いていく
そんな者達を掻き分けながら、左近は音のした方目指して駆けて行く



「人違いだって言っているだろう?」
「貴様っ!貴様が金貸しで人々から不興を買っているのは明白であろうが!」
「この街にゃ、もっと悪どくやってる奴がいるだろう?どうして、そいつをやりに行かないんだい?!」
「ええい!そうかもしれんが、まずは貴様からだ!!」

普通の侍ならば刀を振り回せるほどの者など、どんな剣豪でもなければ難しい
真剣を使った斬り合いなど滅多にしないからだ。よほどのことがなければ真剣を抜き放ち相手を斬ろうなどという者はいない
だが、この者らは慣れているようだった
どこを斬ればいいか、どう動けばいいのかわかっているような動きだった
お富と呼ばれた金貸しは、鉄の算盤を盾にしながら必死にこれを防いでいた

待て待て待てぇ!!貴様ら辻か物盗りか?!奉行所同心!狭山 左近である!!神妙にせよ!

二人掛りの辻斬りのようだった
いつか見た小鬼の金貸しが見えた
役人の姿を確認すると、その二人は逃げ始めた
その動きは素早い…
その者達が去るのを見ると崩れ落ちるようにその場へ座り込む小鬼

「大丈夫か?」
「…だんなぁ…」
呼びかけると小鬼は疲れた顔をして、算盤の影から顔を覗かした
「今のは何者だ?心当たりは?」
「……」
「…立てるか?」
「ん」
手を差し出してやると、それに掴まり立ち上がった
「大丈夫なのか?」
「…だんな。借りを作っちまったね」
「なに、気にするな。これが俺のお勤めだ」
「いや。それでもだ。だんな?まだ言ってなかったね?アタイは富だ」
「お富…か。俺は、狭山 左近。ここら一帯を見回る奉行所同心だ」
「…同心。狭山様と呼んだほうがいいかね?」
「いや、好きに呼んでくれ。それよりもお富よ、あの辻たちに心当たりは?」
お富は目を伏せて言った
「ないよ。それに、金貸しは恨まれるものだよ?それを気にしてたら、この商い勤まらないよ」
「そうかもな。だが、なにか思い出したらすぐに教えてくれ!刀を振り回し、暴力を持って相手を滅しようなど、武士の風上にも置けぬ奴!刀はそのようなものに使う物ではない!」
「ご立派なことで…」
「とにかく、何かあったらすぐに知らせるのだぞ?」
「わかったさ、だんな」
「こんな路地裏で待ち伏せとは…。送っていこう」
「大丈夫だよ。だんな」
「いや、ああいう手合いは性質が悪い。別れた途端にどこかで待ち伏せなどあってはこちらが気に病む。だから、送っていく」
「わかったよ。んじゃぁ、よろしく頼むよ」
「わかった」

裏路地を抜け、大通りに入り人の波を抜け街へ。
どちらかといえば、貧乏人が集まっている貧乏長屋。
ここに、お富の家があった。
通りから、二三件入った奥に何の変哲もない家がある。
その軒下には“お金貸します”の、看板が風にゆられてふらふらと揺れている
どうやら、ここがお富の家らしい。

「だんな。わざわざ済まなかったねぇ」
「いや、よいさ。それよりー」

「おかえりなさい!ねぇちゃん!!」

家の前で話していると中から女子が出てきた

「お福!今帰ったよ」
「ねぇちゃん、おきゃくさん?」
「ううん。違うの帰りにちょぃとお世話になったのさ」
中から出てきたのは一見、お富によく似ていた
だが、まったく違うところがあるのに気が付いた
それは胸
お富のそれは、本当にあるのかと思いたくなるほどまったく…無い
だが、お福…と呼ばれたその女子のは、はちきれんがばかりに…窮屈そうに着物の中に納まっていた
「だんな?ちょっといいかい?」
「ぬ?」
お福から少し離れると、お富は言った
「だんな?あんた今、どこ見てた?お福の胸とアタイの胸見てたねぇ」
「そうか?なぁあれは、妹か?」
「…妹だよ。…もし、お福に手ぇ出したら…」
「出したら?」
「だんなのイチモツ使いもんにならなくしたるわ!!」
「…そんなことするわけなかろ?」
「…どうだか」

「ねぇ〜なんでコソコソおはなししてるの〜?」

「なんでもないよお福。さぁだんなのお帰りだ!」
「ねぇちゃん…おせわになったのでしょう?いいの?」
「いいんだよ〜!ほら!だんなも!!」
「ああ、いいんだよ。んじゃな、お富。妹に心配かけるなよ?」
「わかってらぁな!!」

左近が、長屋を離れて宇佐次の屋台に戻ると待ってましたとばかりに手招きした

「どうであった?」
「へぇ。辻たちが走っていく方向に目星をたてて行ってみると、ちょうど奴らに追いつけたんですが…」
「見失ったと?」
「へぇ」
「どこまで、追えた?案内してくれ」
「合点!」

宇佐次の案内で追えた場所まで行ってみた
市中を流れる川を渡り、荷役が多くいる大通り
川岸には多くの舟が泊っていた
人通りも多く賑わっている

「どのあたりだ?」
「へぇ。ちょうどこの辺りで…」
「奴らの様子を聞かせてくれ。奴らはあの時覆面をしていた。この辺りに来たとき覆面はしていたか?」
「通りに出た頃にはとってやした」
「人相風体は?」
「どこにでもいる浪人姿でした」

辺りを見回してもおかしなところは無い
しばらく、歩いてみてあっと思った
その店は大層立派な造りだった
太く黒々とした柱を使い、所々に金箔をあしらっていた
屋根には魔だけでなく誰もが震え上がってしまいそうな鬼瓦が往来を睨みつけている

「ふぅん…田仲屋か…」
「話には聞いてやしたが…すごいもんですな」
「まったくだ…吐き気がするほど悪趣味だ」
「旦那、この田仲屋の裏口は確か、さっきの通りから入ったところにあったはずですぜ?」
「臭うな…」
「宇佐次。すまねぇが、貧乏長屋に“お富”っていう金貸しがいる。ちょいと調べてみてくれねぇか?この田仲屋との関係もな」
「わかりやした!なぁに、まだ日も暮れてねぇうちから辻斬りを働くような奴を囲っているとなりゃぁ、まともな御用聞きにゃぁその血が滾ってくる思いですぜ。二三日待っておくんなせぃ!きっと奴らがなにをしているか調べ上げてみせやしょう!!」
「頼んだ」

左近も宇佐次を待つまでもなく探りを入れてみたが、田仲屋に対する人々の口は重かった
宇佐次は、お富の客におかしなものが出てきたという話しを持ってきた
いままで、普通に借りたら返していた者たちが、ここに来て唐突に渋り始め岡っ引きの出番になるまでの騒ぎを引き起こすものが出てきたというのだ
その者たちの暮らしぶりに変化は…無かった。だが、調べてみるとどこか羽振りが良いのだそうだ
高価なものを買ったりしたらしく羽振りも余裕そうなのに、お富に返すときは一様に金が無いと返済を渋るのだという

お富自体のことも大体掴んできた
なんでも飯屋をしていたらしいのだが、あるとき田仲屋から金を借りたらしい
だが、返す当てのなかったお富は、それから何故か金貸しになったらしい
金貸しになるもとでなど持っていなかったのに、金を貸し始め今に至っているらしい
何故、金貸しになったのか?もとではどこから来たのか?
謎は尽きなかった



師走も半ばを過ぎた頃
左近は、その日非番だった
その夜、晩酌を楽しんだ後床に就こうとしたときであった

カーンカンカンカーン!!

突然、火の見櫓の警鐘が鳴り始めた

「火事か?!」

左近は急いで大小と十手を引っ掴むと外へと飛び出した
だが…それはすぐに消えた
警鐘の鳴った櫓のほうに走ると、火消しの纏を持った男達が見えてきた

「おい!火事はどうした?」
「あっ!お役人!!すぐに消し止めれたんで大事にはなっていやせん!」
「そうかぁ…。それはご苦労」
「はい。…それから、今番屋のほうにも知らせを向かわせたんですが…」
「何かあったのか?」
「どうやら、火付けだったようで…」
「何っ!?火付け?」
「どうやら油を放って火をつけようとした奴がいたようで…」
「それは、どこだ?」
「へい、この先の…」

場所を聞くや否や左近は走りだした

そこはまだ焦げ臭かった
辺りの者たちが集まって何事かひそひそと言葉を交し合っている
左近はそのひとびとを掻き分けると、家の中にいた者に声を掛けた

「お富っ!」
声を掛けると、きっ!と睨みつけるようにこちらを振り返った
「だんな…」
誰か分かると途端に疲れたような声を出した
「誰にやられた!」
「わからない…」
「無事か?」
「うん…」
「妹は?」
「大丈夫…」
見ればお富の足元にすがりつくようにうずくまっている者がいた
「被害は?」
「ううん。特にない。けど…家が…」
長屋の一画にあるお富の家の前は、焦げで黒く染まり、あたりは消火の水でびしょびしょだった
辺りは、油の魚くさい臭いがまだ残っていた

中は比較的に大丈夫だったが…、はた迷惑そうに顔をしかめてひそひそと言葉を交し合っている者たちの様を見ると、どうやらしばらくの間ここにはいられないようだった

そうこうするうちに、番屋から他の同心と岡っ引きが駆けつけてきた
ことの事情を話し後を引き継いでもらった
「この後、どうする?行く宛てはあるのか?」
「わからない。行くあては…ない。どこか、寺にでも行ってしのがせてもらう…」
「野宿するつもりか?こんな師走の雪が降りそうな夜を?」
「あやかしは人と違う!こんな一夜二夜なんて屁でもない!」
「おまえは大丈夫でも、その妹はどうなのだ?あやかしとはいえおまえと一緒で大丈夫というわけには行かぬだろう?」
「アタイら姉妹の絆を甘く見るんじゃないよ!」
予想以上にきつくあたるように言い放ったお富に、少しばかりたじろいだ
「…すまん。別に甘く見ているわけではないのだが…」
「…ごめん、だんな。アタイもすこし気が立っているみたいだ…」
そんな時、小さな声が聞こえた
ねぇちゃん…
「ん?なんだい?」
「寒いよう…」
「大丈夫!大丈夫…すぐになんとかするからね…」
その声に妹を抱きしめるお富。だが、お富も次第に元気がなくなってきている
時は、すでに夜半に差し掛かりつつある
空は曇り、このままでは白いものがちらほらと降ってきそうなそんな気配を漂わせていた
ひそひそと言葉を交し合っていた者たちも帰っていき、今ここにはお富とその妹。そして、左近しかいなくなっていた

左近は、姉妹の声を聞きながらこのお富の身の回りに起きている一連の出来事について考えていた
天誅を装いお富を狙った辻斬り…。この火付け。宇佐次の話にあった客の話…
一連の出来事がなにかきな臭い。左近は、少しずつ興味を覚えてきたのを自覚した

「お富。大事なものを持ってついて来い」
「え?」
「行くあてがないのであろ?少しばかり宛を思いついた」
「本当かい?」
「ああ。なに、寒さをしのげるほどであるならば宛などいくらでもある」
「…すまないね。だんな」
「さて、もう夜半だ。眠りに着くものもいるであろ。いつまでもここでしゃべっているわけには行かぬよ」

お富は、風呂敷を開いて代えの着物を包むと奥の間の畳と床を剥がして床下から何かを引き上げた
ガシャン!

という音を立てて床に置かれたそれは、鉄の金箱のようであった
証文を綴じたであろう帳簿をその中に入れると鍵を閉め大事そうに手で抱えた

「それがおまえの命の次に大切なものか…」
「違うさね!一番大事なのは妹!そして、それと同じくらいこの金!その次ぐらいに自分の命が大事なのさ!」
「妹とその金が同じなのか?」
「いいだろう?そんなことは!それより、手ぇつけたら承知しないよ!この中にいくら入っているかは先刻承知なんだからね!!」
「ふっ…。そんなことをするものか。金貸しの貯め金、くすねるほど落ちぶれてはおらぬわ!それに俺は金というものはとんと興味のないものらしくてなぁ。必死に執着しているお前ら金貸しに日々首を傾げるほどだ」
「だんなは、お役人でいい暮らししてっからそんなことを言えるんだい!街のものは違うよ?必死に働いて入ってきた分でやりくりしながらなんとか生きてんだ!金を借りるのは、にっちもさっちも行かなくなって…。アタイだって、こんな…」
左近は、今のお富のどこか必死な言葉になにか真実味を見たような気がした
やはり、この一連の出来事には裏がある。そして、お富もまた何かを隠し必死で金貸しをしているのだ。そう、思った
「とにかく、行くぞ。妹は?」
「寝てる」
「じゃぁ、俺の背に乗せろ。お前は、その必死に貯めた金を決して落とさず持っていろ!」
「妹もアタイが背負う!だんなはこれを!」
「いつも背負っている算盤は俺は持てぬぞ?あやかしと違って人は脆弱なものだからな」
「だんなだったら、持てるだろう?」
「無理だ」
にべもなく断った左近にお富は舌打ちした
「ちっ!仕方ないねぇ…。妹、落とすんじゃないよ!落としたら、鋼の算盤の角でどついてやる!」
「そんなことをされては俺は死ぬ!なに、決して落とさぬよ」

そうして、二人は歩き始めた

しんしんと底冷えをするような寒さの中、二人は黙って歩く
見上げる夜空は雲が立ち込めいますぐにでも降ってきそうなほどだった
しん、とした街中、物音は聞こえなかった。二人の草履と雪駄の音がかすかに聞こえるだけであった
なにもしゃべらぬまま左近は黙々と歩く
その横をお富もついていく
次第に、お富はきょろきょろと辺りを見回し始めた

通りは店や家々が並ぶ町並みを通り過ぎ、黒く塗られた木の塀が長く続く町並みへ
塀の向こうに見えるのは、立派な樹木を伸ばした松の木や葉を落とした欅が見える
「だんな!ここっ!!」
驚くお富。しかし、左近は気にせず黙って歩く
「だんな!まさか!!」
「ほれ、黙って歩かぬか。大事な妹が起きてしまうではないか」
「ぁ…」

二人が足を止めたのはそこから、一町も歩かぬところだった
申し訳程度だったが、きちんとした門構えのある家だった
火事騒ぎで開け放たれていた門から中へと入るが…
「どうした?お富」
「…ここは、まさか?」
なかなか中へと入ろうとしないお富に、左近は言った
「俺の、家だ」
「人に恨まれてる金貸しなんて泊めていいのかい?それに、家の者がなんていうか…」
「なに、俺は気楽な一人住まいよ。遠慮はいらん。空き部屋が多いからな、お前らの一人や二人入っても、どう…ということはない」
「でも…」
まだ、躊躇しているらしい。そんな、お富に一言
「そら、やはり降ってきてしまったぞ?他に移るのもいいが…この雪は積もりそうだぞ?」
芝居の壇上で見る紙吹雪のように、白いものが少しずつ…はらはらと落ちてきた
まるで…季節はずれの夜桜のようだ
「…わかったよ。邪魔、するよ」
ゆっくりと足を踏み出したお富
左近は、音を立てぬように、門を閉め閂をした

玄関から中へ
「遠慮はいらん。まぁ疲れたであろ?ゆっくりとすることだ」
そういいながら奥へと歩く
黙ってついてくるのを確認しながら土間のある部屋へと導いた
なかに入るとまだ暖かかった

座布団を取り出しその上へと背負っていた妹を降ろしてやると、お富はとても大きく息を吐いて妹を抱きしめた
「ぁぁぁ…。お福?…うん。よく寝てる…」
安心したであろうその笑顔。とても、朗らかでやさしい笑顔だった
抱きしめるその様子は妹を思いやる姉の顔だった

左近は火箸を掴むと、囲炉裏の灰に埋めておいた火のついた炭を掘り起こした
空気に触れ赤々と燃えだした炭の色が見える
隣の部屋へと行くと、火鉢にかけてあった鉄瓶がまだ薄く湯気を上げていた…
それをとって茶を淹れてやると、甦るようにほっと一息。そして顔に赤みが戻った様子だった
それを横目に、空いた部屋の支度をして戻ると、お富が妹になにか語りかけているのが聞こえた

『ぉふく…ねぇちゃん、必ずこの賭けに勝って見せるからね!心配するんじゃないよ…』
賭け?
『あんな業突く張りなんかにお福を渡してなるもんか!』
負けたら妹を寄こせとでも言っているのだろうか?
『お福。…かわいいお福…アタイがきっといい方に事を進めてみせるからね?』
そんな声が…聞こえた
左近は音を立てぬように廊下に出、わざと足を踏み鳴らしながら土間へと戻った

「どうだ?妹の様子は?」
「よく眠っているよ」
「そうか…」
「それよりも旦那…」
何かを言おうとしたお富に、待ったを掛けるように口を開いた
「お富」
「?」
「お前の身の回りで何が起こっているのだ?」
「だんなには関係な…」
「無くはない。お前の周りで不審なことが続いていると聞いた」
「……」
「辻斬りに、火付け…。他にも何かあったと聞いた。一体何が起こっているのだ?」
「……」
「辻斬りなどならば、いい。人に迷惑を掛けることは、無い。だが、火付けは違う。お前たち姉妹のみならず、あの長屋…それ以外の多くの者達を巻き込む惨事となっていたかもしれないのだ。その重い口を開くのは今は無理かも知れぬ。動揺しているであろう今はおそらく無理だろう。だが、明日にでも事の次第を話してもらう!もし、これが無理と申すならば…」
「…ならば?」
「新しき借家が見つかっても、この家にいてもらう!」
有無を言わせぬその言葉…
「何を考えているんだい?アタイは金貸しで、あんたはお役人!そこまでしてもらう道理はないし、これ以上アタイに関わるんじゃないよ!」
噛み付くように言い放ったお富
そんな大声に起きたのか、妹が不思議そうな顔をして姉の顔を見上げている
「ねぇちゃん?」
「あっ!」
「なんかあったのぉ?」
「なんでもない。なんでもないよ…」
眠そうにのんびりと姉に語りかける妹。それに、左近は話しかけてみることにした…
「お福ちゃんだったっけ?」
「うん!あのときのにぃちゃんだぁ!」
「仲、いいんだな」
「うん!なかよしぃ!」
「そうか…。明日から、ここに住むといい」
「本当?」
「お福!だめ!!」
「本当だとも。だから今日はもう寝な?」
「うん!」
「お富も今日は遅いからもう寝ろ!殺気立ったお前なぞ、話を進めようとしても話しにならん!」
「だんな!アタイは!!」
「部屋は隣を使え!…まったく!」
左近は話は終わりだというように、炭をまた灰に埋め立ち上がった
行灯の火を手元提灯に移し
「厠は外だ!」
と、言って歩いていった。隣の隣の空き部屋へ入り姉妹の様子を窺う

「お福…一緒に寝ようか…」
「うん。ねぇちゃん…」
布団にはいる音…
「ねぇちゃん…あったかいねぇ…」
「うん…。ゆたんぽかぁ……だんな…すまないねぇ…」
その声と共にもの音は消えた
左近は、ほっと一息つくと足を忍ばせて寝床へと入っていった


翌朝、昨日の様子では出て行ってしまうかと思い、日も明けないうちから起きた
土間から、部屋の様子を窺うと静かに眠る二人の寝息が聞こえた
夜のうちは、よほど気が張っていたのだろう。こうして寝言を時々言う様は聞いていて微笑ましかった

久しぶりに飯でも炊いてみるかと勝手へと向かった

ザッザッザッザッ

米を研ぐ。久しぶりだ
とぎ汁を流そうとしたとき、後ろで音が聞こえた
「おはようさん」
「おう…おはよう」
「なにしてんの?」
「飯を炊こうとな」
こちらに歩いてくると手元を覗きこむお富
「だんな…ダメだ!見てらんないよ!ぜんぜんなってない!とぎ汁は捨てちゃなんないんだ!そこ代わりなぁ!」
「む?…任せた」
てきぱきと支度を始めるお富
「いつもどうして生きてんだ?あんたは!」
「一膳屋に行くか、岡っ引きの宇佐次のとこに行って食ってた」
「そんなもったいないことしてたのかい?自炊すればもっと金も貯まるじゃないか!」
「阿呆。自炊なんてしていられるほど役人に暇があるか!」
「ああそうか、だんなは金に無頓着だったんだっけね!そうかぁ…そうだったねぇ」
口を動かしながらも、その動きは止まらない
竈の火を見ながらもなにかを探して動き回る
「だんな!なにかおかずになるものはないのかい?」
「…ないな」
「無い?!」
「…そろそろ、この界隈に回ってくる魚やが来る頃だが…」
「じゃ、その魚やで干物を買ってきな!まったくこれじゃ満足に朝飯も摂れないよ」
「お…おう」

外に出ると銀世界だった
寒さに身を縮めながら門の閂を開けると、ちょうど魚やの元気な声が聞こえてきた
魚やから鯵の干物を買い求めて戻ってみると、庭先に七輪が出されすでに炭が入れられていた
「だんな?干物はそこで焼いて!」
言われるまま焼く
ぶるぶる震えながら焼きあがったものを持って中に戻ると、えらく懐かしいものが広げられていた
「まったく、使えるものばかりじゃないか!こんないいものだらけで!勿体無い!!」
子供の頃見た、膳や漆物などが並べられている
最近、狭山家では見ることのなくなったきちんとした食事が並んでいた
「…一汁一菜?!どうやって作ったんだ?」
「だんな。魚が冷めちまう。こっちにおいで!」
囲炉裏の前に座ると、お富はお福を呼びに行った
すぐに目を擦りながらのんびりとお福はやってきた
「…おはよぅ。おにぃちゃぁ…」
「おはよう。お福ちゃん」
「それじゃ、いただきます」
「「いただきます」」

「……うむ。うまい」
「……」
「ねぇちゃん。おいしいねぇ〜♪」

お富はしばらく黙々と食べていたが、そのうちに口を開いた
「だんな?だんなには感謝してる。辻斬りに襲われて助けてくれたり、こうやっていろいろと手助けしてくれる」
「……」
「けど、なにが起きているのかは言えないし、言っちゃぁなんないんだ!これは、アタイがなんとかしなくちゃなんないんだ!だから、ここに居ろと言うならここにいさせてもらうよ!その代わりと言っちゃぁなんだけど、この家の家事はアタイが面倒みるよ!」
その瞳には決意の目が。
「…そうか。そこまで思っているのか。ならば何も聞かぬ。だが、お前は言っていたな。貧乏人は入ってきた金をやりくりして生きている。自分だってこんな…と。その後、こんな金貸しなんてやりたくないと言ったのではないのか?なぁ、聞かせてはくれぬか?金貸しをやる前いったい何をしていたのかをな」
「それは…」
「ねぇちゃんは、おかみさんだったんだよ〜」
「お福!」
「おかみ?」
「おりょうりやの〜。とーってもおいしーんだからー♪ 」
「そうか。だから、こんなに手早く作って、しかもうまいのか…」
「…うまいかい?これ」
「うむ。こんなうまい朝飯を食べたのはいつ以来か…とんと思い出さぬな」
「…そうかい」
その顔はどこかうれしそうだ
「ねぇちゃんと、またいつかおりょうりややるの〜」
「そうか。ならばそのときは厄介になるとしようか」
「だんな?役人の溜まり場にしないでよね」
「安心しろ。こんなうまいものだったら、普通に人が集まるわ!」

飯を食べて、先のことに思いを馳せたからであろうか?
お富とお福の顔は笑いで満ちている

それから、お富は狭山家の朝晩の飯の支度をするようになった
見ていると、お富はすばやく動き回って家事をする。お福はすばやく動き回るのは苦手のようだが力仕事はお手の物で水汲みや薪割などを買って出ていた
そんな姉妹の様子を微笑ましく見ていた左近だったが、気になることもあった
宇佐次が、不審な男達のことを突き止めてきた。それらは一様に、姉妹の行方を聞き訊ねる
左近も、役宅周辺を見つめる不審な者たちがいることに気が付いた
お富が、家を出て行くとそ奴らが動き始める
それは、まったく不気味であった


冬至のその日…

お富の様子からその日何かあると踏んでいた
左近は、宇佐次に田仲屋の様子を探らせていた
田仲屋には、店の他に離れ寮がある
武家屋敷の多くある地区にそれはあった
その日の朝方、二人の浪人が店から出て行き一人が寮へと入るのを見た宇佐次はこれを左近に知らせた
田仲屋になにか動きがあるとわかった左近は、宇佐次と共に近くの家に協力を求め寮の様子を見張っていた

見張り始めて四半時…
寮の前に一つの駕篭がやってきた
駕篭の両脇には町人風の男と浪人がいた
奴らは駕篭のなかから何かを担ぎ出した
それを見たとき、左近の血が騒いだ
それはちいさな人。朝、家を出てくるときに一緒に朝飯を食べた者だったのだ
絶対に外に出るな!誰か来ても絶対に出るなと言っておいたのに何故ここに?

「お福!?」
左近は、頭に血が上るのを感じた。無理やり忍び込んで拉致したのだ!と、思った
「だんな!どうしやすかい?」
「…宇佐次。俺は、中に忍び込む。ついでに田仲屋の妾に奴らのことを聞いてみようと思うが…」
「…いつも冷静なだんなとは思えない言葉ですが…。身近にいるものがああされるのを見ちゃ仕方ありますまい。ようござんすお手伝いしやしょう!」
「…すまん」
寮の脇には小路がある
そこには、防火水の樽があった
宇佐次はそこに器用に登ると、誰も人が見ていないのを確認して中へと忍び込んでいった
しばらくして、寮の外門が中から開いた

「宇佐次?どうだ奴らはいるか?」
「中に入っても大丈夫でやす。ここからでは見当たりやせん」

そそくさと中へと入る
建物の周りを慎重に回る
と、とある部屋の障子が開いた
妾だろうか?派手な長襦袢を着た女が、物憂げにうつむいていた

「宇佐次!あれは妾か?」
「わかりやせんが…おそらく」
「よし!話を聞いてみよう!」

十手を取り出すと、音を立てないように近づく
女は、左近を見て声を上げそうになったが、十手を見てなんとか留まったようだった

「聞かせてくれ!田仲屋のことを…決して悪いようにはせん!」
「……」
「知り合いが…妹のような奴がここに拉致されたのだ!頼む!浪人者のことを教えてくれ!」
必死に頼み込む左近
そんな彼に、女は少しずつ話をしてくれるようになっていった…



左近は、女にここには蔵があると教えてもらっていた
拉致された者がいるならば、そこであろうと…
蔵へと急ぎ、そっと窺うと…

「ガキのくせにでかい乳持ってやがる!」
「おまえはそんな乳臭いガキが好みなのか?」
「女はな、なったつったって尻よ、尻!」

そんな声が聞こえた後…『やん…やぁ…』
と、聞き覚えのある声が聞こえてきた

「あの野郎!」
左近の頭に血が昇る
「だんな。今は抑えてくだせい…」

その後も、甘くどこが懇願するような声が聞こえてきた

「宇佐次!もう我慢なんねぇ!…中には3人ぐらいだろう?叩きのめす!」
「気持ちはわかりやすが…」
「役人の役宅に押し込んで拉致るなんざ気にくわねぇ!俺が奴らの気を引く!だから、宇佐次は…そうだな手先が器用だったな?…この石垣の石、頭にでもぶん投げてやれ!」
「いいんですかい?」
「構わん!たぶんあいつらは、辻の奴らだろう!そんなことを平気でやるような奴と斬り合いなんてゴメンだ!」
「わかりやした。任せておくんなさい」

左近は、宇佐次が手に石を持つのを見ると、一言

「やっ!役人だぁ〜!!」

蔵の中からは、一様に「なんだとう!!」という声が聞こえてきて、蔵から飛び出してきた

ガツッ!!

「ぐあっ!」

浪人の一人が倒れた

「おいどうした?」

倒れたものに近寄ろうとした浪人にも石が飛んできた

ゴツッ!!

「ぎゃっ!!」

もう一人、手代風の男が倒れた男に足を引っ掛けて倒れた
その男の頭を十手で打ちつけて、庭にあった石灯籠に3人とも縛り付けた

「貴様らは辻斬りのみならず、火付けもやったのか?ならば…獄門台行きよな。冬の枯れ切ったこの街で火をあげることがどうなることなのか…知らぬわけではあるまい?」
「……」
「さぁ、話してもらおう。貴様らが雇い主に何をしろといわれたのか。話如何によっては減刑もありうるであろうな」

それを聞いて、3人は少しずつ話し始めた



「お福っ!大丈夫か?!」
急いで蔵へと入る
お福は、目隠しをされて柱に縛り付けられていた
綱を切ってやる

「…にぃちゃぁん。…はぁ…はぁ…はぁ」
「お福?大丈夫か?」
「…おむねが…おむねが…へんなのぉ…」
「胸?」
「おむね…さすってぇ…」
お福はあきらかにいつもと違っていた
顔が赤い
瞳も潤んでいて、あきらかに上気している
奴らに触られるうちに、気持ちが高ぶってしまったのだろう
お福は、左近の手をとると自分の胸へと導く
「…やわらかい」
「ひゃん!」
ぐにっと掴んでやるとくすぐったそうに声を上げた
「すまん」
おもわず手を離した
「やぁぁぁ!…やめちゃ、やぁぁ!」
抱きついてきたお福
これは、もうお福が発情してるとふんだ左近

「宇佐次!悪い!野暮用だ!!先に奉行所へと行って与力の方々に今までのことを伝えてくれ!」
「へい!行ったらどうするんで?」
「奉行所に伝えたらここに戻って知らせてくれ!」
「わかりやした!では、後で!」

宇佐次の足音は遠ざかっていった
後に残されたのは、左近とお福…邪魔されたくなかった。いそいで蔵の扉を閉める
二人だけの蔵の中。薄暗い光が、お福の肌をばんやりと白く見せて、目の前ではないどこか遠くの儚いもののように見えた

お福は、左近の手を掴むと自分の胸へと導こうと引っ張る
その力は、購えないほど強い

「おむねさわって…ね?おにぃちゃん」
「…お福。いいのか?」
「おにぃちゃんだったらいいのぉ!」
「…わかった」

正面から掬い上げるように手に持ち揉んでやる

「あっ…あん…おにぃちゃ……ぁん……」

お福の胸はつきたて餅のようにやわらかく、いつまでも揉んでいたいと思ってしまう
体の大きさに似合わない大きな胸
手に吸い付いてくるようだ
指の間からもはみ出てくる乳
その顔はだんだんと気持ちよさげに緩んでいく

「お福。おまえの乳はいいな」
「おにぃちゃんの…おにぃちゃんのおててが…あん……いいのぉ…いいよぉ…!」

赤い顔をして瞳を潤ませるお福に、むらむらとしてきた

「お福」
「おにぃちゃん?」
「なんだか、おまえにむらむらしてきちまった。どうしたらいいと思う?」
「…いいよ?」
「いいのか?」
「おにぃちゃんだったら…いいのぉ…」
「ほ、ほんとうか?」
「うん、でもぉ。おむね、さわってなきゃだめなのぉ〜」
「そ、そうか…」

あくまで胸をさわってないといけないらしい

「…じゃぁ、お福。四つんばいになって」

小さな体が尻を突き出して四つんばいになった
着物を脱がしてやる
幼い体つきなのに、肉が各所についていてとてもやわらかそうだった

「いくぞ?」
「うん」

後ろからそっとやさしく抱きしめてやる。そして、ちいさく尖った耳を舐める

「あっ」

そうしながら、乳房を握ってやる

「あっ、んっ、おにぃちゃぁぁぁん」

小さな背にぴったりとくっつくと、胸をしぼるように揉んでやる
胸のつけねから乳首までを満遍なく揉みあげる

「ひゃぁぁぁ!おにぃちゃん!おにぃちゃぁぁぁん」
「だっ大丈夫か?」

弓のように背をしならせる小さな身体

「だぁ…だぁいじょぅ…」

そうはいうものの、崩れおちるようにお尻をつきだすような格好で倒れてしまった
しかたなく、四つんばいをやめさせて仰向きに寝かせてやる

「おにぃちゃぁ…ん。おまたが…おまたがね?…なんか…なんかへん…なのぉ…」

お福の股は、とろりと蜜がもう滴っていた
ビチャビチャともいえるほど潤っていた

腕を突き出して胸を揉みながら、顔を秘裂に近づけると女の甘い匂いが鼻についた
ひくひくとふるえる秘裂。舌でなぞり上げてみる

「ひゃっ!」

すると、つっ…と溢れるように滴る蜜
お福の初めてに、はぁはぁと興奮してしまう
まだ生えていないのかはわからないが、つるりとしたそこ
胸にも劣らないやわらかな恥丘…
秘裂に分け入ろうとするように舌を使ってなめまわす

「あっああっ!おにぃちゃぁぁぁん…なっなんかへん…へんだよぅ!!」
「それは、いいのか?ダメなのか?」
「…いっ。いいのぉ!」
「そういう時は、気持ちいいって言うんだ」
「…きもち…いい!いいのぉ!!」

ぴちゃぴちゃと音を立てながら啜るように舐めまわしてやる
気持ちいいと、喜ぶお福にこっちのイチモツももう限界に来ていた

「お福?もっと気持ちよくならないか?」
「もっとぉ?」
「そうだ。ふたりでいっしょに気持ちよくなるんだ」
「いっしょぉ♪うん!いっしょぉ♪」

目を輝かせるお福
じゃ、いくぞ?と、いいながらイチモツをお福に見せる

「これでな?俺とお福はつながるんだ」
「おちんちん!おにぃちゃんのおちんちん…おっきぃ♪」
「ああ。いいか?これからは一緒だぞ?」
「うん♪」

初めてでは痛かろうと、いれる前に秘裂に当てて滴る蜜を丁寧にイチモツに塗りつける
ぬちゅぬちゅと絡みつくように纏わりつく

「ふあぁぁ!きもちいいのぉ♪」

まだ入れてもいないのに吸い付いてくるようだ
焦らされる。すぐにでも乱暴に犯してしまいたくなるようないやらしい笑み
だが、お福は守るべきものだ。妹のように愛しい

「おにぃちゃぁぁん。いっしょ…いっしょぉぉぉ!」

はやくはやくというかのようにいっしょと言うお福

「いま行く」
「うん♪」

そのちいさな秘裂に手であてがってそろりそろりと入れていく
…思った以上に中は狭い
十分に濡らしたつもりでも、めりめりと引き裂くように入れていく

「あっ!いたっ…いたぁ!!」
「お福!がんばれ!あともうすこしだっ!力を抜け!」

力が抜けるように、思い切りぐにぐにと乳を揉む

「口…舌を出せ」
「あっぁぁぁぁ!…うん!おにぃちゃん」

痛みに耐えながら賢明に舌を出そうとするお福
なんとかしてやりたくて、舌をからませて口を吸う
そうこうしているうちに、イチモツはその侵入を止めた

「はぁっ!はぁっ!!お福!はいったぞ?一緒!一つになれたんだ!」
「ふぅっふっぅ……はぁぁぁぁぁ…おにぃちゃんと…いっしょ…いっしょぉ♪♪」

涙顔のお福。だが、とても幸せそうだ
肩を抱いて抱きしめる
小さな肩
胸に当たる大きな乳…頬にあたるお福のほっぺ
すべてが愛しかった

「おにぃちゃん♪いっしょ♪いっしょ♪」
「ああ!いっしょだ」

かたく抱きしめあう
やわらかなお福がこうして無事でよかった

「ふぁ?」
「ん?」
「…おにぃちゃん…いたくない…いたくないよ?」
「え?」

痛みに慣れたと言うのだろうか?
それを証明するかのように、お福の中がうねうねとイチモツにからみついてきた
ちいさく狭い中。それなのに不規則に絡み付いてくる
もっと奥へと誘おうとするように…

「お福?動いていいか?なんか、気持ちよすぎて我慢できねぇ」
「いいよ♪ おにぃちゃんといっしょならどうしてもいい」
「お福!」

ああ。お福と一緒ならなんだって気持ちいいだろう
すこしずつ、腰をふるう

「ふあぁ♪うごいてる!おちんちん!」

きゅうきゅうと締め付ける膣にすこしだけだというのにすぐにでもイってしまいそうだった
こんなのは初めてだった

「あっああんっ!やんっ!!」

ぐにぐにと胸を揉むごとに吸い付くような締め付けがくる
おもわず、うわずった喘ぎ声をあげてしまう

「おにぃちゃんも、気持ちいいのぉ?」
「ああ、気持ちいい。お福と繋がってるとなぁ?とても気持ちよくて、おまえのことをもっと大事にしてやりたいんだ」
「うん♪ きもちいい♪ いっしょ…いっしょぉ♪」

抱きしめるその手は、ぎゅうぎゅうと痛いほどだ
でも、もっともっとこの気持ちを感じていたい
緩急つけながら腰を使ってやると喜ぶように声を上げながら、受け容れてくれるのだった

「お福ぅ!お福ぅぅ!俺、もうおまえの中にこの想いすべてを入れたい!」
「おにぃちゃんのぉ?」
「そうだ。好きな…大事なおまえに俺の思いをあげたいんだ」
「…うん♪ いいよぉ!おにぃちゃんの…おにぃちゃんを!ちょうだい♪ みんなみんないっしょぉ!なのぉ!」
「ああ!」

腰をひくと、抜いてしまうのを許さないとばかりに絡み付いて締め付ける
いれるともっともっと奥へ、奥へと引きずりこむように膣も襞も絡み付いて導いてくる
お福の赤い顔。だらしなくぽっかりと開いた口
可愛くて仕方がない。すべて自分のものにしてしまいたかった
抱きかかえて今度は、自分が下になる
下から突きあげるように腰を振るってやる
胸を触るのをやめて抱きかかえ、口づけをした
幸せそうな微笑をうかべてその目はじっと見つめてくる
微笑み返して、お福の舌を見つけてちいさな舌に舌先を乗せてやるとすぐにねだるように絡み付いてきた

「んっちゅっ…おにちゃん…ん…んっ…ちゅっちゅる…ちゅるる♪」

いつまでも続いてほしい
しかし、イチモツは限界だった
口の中をくちゅくちゅと音をたてて舐めまわすお福に限界を伝えた

「うん!うん♪ おにちゃん♪ いっしょに…いっしょになろう♪」


激しく乱れてイッたというのにまた押し倒し、動こうとすると許さないとばかりに胸の上でその乳をすりつけようとするお福

「…いつまでも、いっしょぉなのぉ〜。おにぃちゃぁぁん…」

我慢の糸が切れたのはなんだったか…
一瞬、口づけを離して口の周りにとびちった互いの唾をなめまわしたその仕草がとても可愛らしかったからなのか…
イってしまっていた

「ひゃぁぁぁ!いっいいいいいぃぃぃーーー!!」

溶かされるような熱い塊がイチモツを包み込んで、すぐにまたイってしまう
溜まりに溜まったものがお福の中へと入っていく
見ていると、ぽこっとお腹が膨らんだようなきがした

「おにぃちゃぁぁぁぁんん…おなかがあつい…あついのぉぉぉ…」

小さな身体を抱きしめ繋がりながら、いつまでもその気持ちよさに浸っていくふたりだった…

12/01/01 12:15更新 / 茶の頃
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