読切小説
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好きですよ?
自分には一学年下の恋人がいる…とクラスメイトは思っている。
『あんな子と付き合えて羨ましいよ』とからかわれるのはしょっちゅうだし、
モテない奴が敵意のこもった視線を向けてくることさえある。
だが自分は本当に彼女と付き合ってなんかいないのだ。

「はい、今日も料理一つできない無能な先輩のために、
 捨てる予定の余った材料でお弁当を作って来てあげましたよ。
 慈悲深い私に感謝して、良く味わって食べてくださいね?」
昼食時の中庭。
テーブルを挟んで向かい合う後輩は美しい顔に笑顔を浮かべながらボロクソに言ってくれる。
もう慣れたとはいえ、チクチク刺されるのは良い気分ではない。
努めて心を平静に保ち、彼女が用意した弁当のフタを開ける。
ハシを手にし、おかずを取ろうとしたところで、目的の物を挟んだ彼女の箸が差し出された。

「最初の一口は私が食べさせてあげますよ先輩。
 こんな女の子が『あーん』してくれるんだから幸福に思ってくださいよ?
 あ、でもこれだと二口目からはセルフサービスで逆に寂しいですかね」
ホント何が楽しいのか、彼女はクスクスと笑いながらこちらの口におかずを放り込む。

左右でまとめられているサラサラとした長髪。
まるで悪魔が計算した様に美しく配置された目鼻顔立ち。
透けるように白い肌と均整が取れてスレンダーな体つき。
この後輩はルックスだけでいうなら完璧だ。
十数年の人生でこれ以上に美しい女性を目にした事はないと言い切れる。
しかし外見以上に性格に問題があり過ぎだ。少なくとも自分的には。

「もう、そんな顔しないでください。
 分かりました、かわいそーな先輩のためにもっと食べさせてあげますよ。
 私の貴重な昼休みを削って、哀れな働きアリのようにせっせと食べ物を運びましょう」
後輩は悲劇のヒロインのように目元を拭うと、今度は米をはさみあげる。
拒否したところでまた貶されるだけだろうから、大人しく自分はそれをいただく。
どんなブランドの米なのか、冷えていても美味しい。

「どうです? 美味しいですか?」
咀嚼中で口が開けないので頷いてそれを肯定する。
すると彼女は白々しい笑みを浮かべて明るい声を出した。

「ですよねー。女に働かせて食べるご飯ほど美味しい物はないですよねー」
言葉としては間違ってないが、自分がダメ男であるかのように聞こえるセリフ。
『じゃあ自分で食べるよ』とハシで弁当をつっつこうとしたら、彼女はサッと弁当箱を横へずらしてしまった。

「なに勝手に取ろうとしてるんですか? これは私が作った物で私の財産なんです。
 先輩に“食べさせてあげてる”だけなんですから、無許可で取ったら窃盗ですよ」
白々しい笑顔から一転、お硬い弁護士のような無表情になる後輩。
『もうついていけねー』と自分はため息を吐く。
そうしたら後輩は再び笑顔に戻って、弁当を元に戻した。



とまあ、こんな感じで自分と後輩は交際しているのではなく、
こっちが一方的に付きまとわれて虐められているようなものなのだ。
そんなにウザイなら力づくで追い払えばいいと思うかもしれない。
実際、こっちが悪者になる覚悟で手を上げたことも一度はあった。
だがその時は――――。

いい加減近寄るなよ! そんなに嫌がらせして楽しいのか!?
ある日の事。自分は実力行使も視野に入れ、
人気のない屋上階段に後輩を連れて行って詰め寄った。
しかし大の男に怒鳴られても彼女は余裕顔。
何かあっても助ける人はいないのに楽しげに言った。

「ええそうです。先輩が困ったり嫌がったりするととっても楽しいんです私。
 あ、でも喜んだり楽しんだりするのが嫌なわけじゃないですよ。
 ただ喜ばせるよりも虐めるほうが私の趣味に合ってるってだけです」
異常な人格を当たり前のように告白する後輩。
背筋に寒気が走り『これはヤバい』との直感が駆け巡った。
脅すためでなく恐怖から右手が持ち上がり、彼女の頬めがけて平手が奔る。
だが頬を打つ軽い音が階段に響く事はなかった。
何故なら後輩がこちらの腕を掴んで止めたから。

「女に手を上げるなんて、ずいぶん思い切りましたねえ。
 誰かが見てたら完璧に先輩が悪者になってましたよ?」
後輩はフンと鼻で笑い、不敵な笑みを浮かべる。
自分は彼女の手を振り解こうとするが、ガッシリと掴まれ微動だにしない。
女の細腕から出るはずのない力に恐怖と困惑が深まっていく。

おまえ、人間なのか……?
「さぁて、どうでしょう?」
人外であることを否定しない返答。まさか本当に―――。
そう思った次の瞬間、パシッと足払いされうつ伏せに床に押し付けられた。
後輩はさらに腕を背にひねって、身動きできない様にしてくる。
脳の冷静な部分が『犯人確保ー!』なんてイメージを送ってきた。

ちょっ、おい、何すんだよ!
「何って、身の危険を感じたから押え込んだだけですよ。
 それにしても、なっさけないですねえ先輩。
 自分から手を上げておいて、簡単に返り討ちに合うんですからっ!」
ケタケタと隠しもせずに笑い声を上げる後輩。
そこに含まれた自信と優越感に抵抗の意思を失いがっくりとうなだれた。
どんな手段を使っても、こいつに勝つことはできないだろうと悟って。



そんな事があって以来、自分は後輩を追い返すことを諦めた。
この状況は受け入れるしかないのだと思うことにした。
すると彼女はますます調子に乗ってベタつくようになった。
自分の恋人であるかのような振る舞いをし、
クラス内で肩身の狭い思いをさせてくれるようになったのだ。
そしてまたある日の事。

「せんぱーい? なにスカスカの脳みそに無駄な知識を吸わせようとしてるんです?」
梅雨時には珍しく雨の上がった空。
雲の割れ間から覗く太陽が書架を深紅に染める夕方。
毎度どうやって居所を察知しているのか、図書室で勉強している自分の下へ後輩はやってきた。
最初の一言が罵倒なのはなるべく気にしない。

スカスカで悪かったな。テストが近いから勉強してるんだよ。
「ああ、そういえば後一週間ぐらいでしたっけ。
 そんな短期間の詰め込みなんてすぐ忘れるっていうのに、無駄な努力ご苦労様です」
労うようにペコリと頭を下げる後輩。慇懃無礼の見本のようだ。

……悪いけどお前の相手をしている暇はないんだ。
赤点取って夏休みに補習なんて絶対嫌だからな。
そっちこそテストは大丈夫なのか?

実をいうと赤点取るほど自分の成績は悪くない。
こう言っておけば彼女も勉強に打ち込んで、少しは離れてくれるんじゃないかと思っただけだ。

「嫌ですねえ、先輩なんかと一緒にしないでくださいよ。
 私は余裕です。何なら分からない所を教えてあげましょうか?」
後輩は机に腰掛けると、こちらのノートを覗き込む。
『学年が下なのに分かるかよ…』と内心思ったが、彼女はノートを指差して言った。

「ここの計算間違ってます。これだと部分点になりますよ。
 それとこの式は省略できます。こんなに書いてたら時間がかかりますから」
『うさんくさいな…』と思いながら問題を見直してみると彼女の言った通り。
信じられない物を見るように後輩を見ると、彼女はニヤニヤ笑いを浮かべていた。

……そんな頭持ってるのに、なんでこんな学校来てるんだよ。
彼女の学力ならずっと上の進学校に入れただろうに。
「単に近かったからですよ。私は学歴になんて興味ありませんから」
選ばれし者しか口にできないセリフ。
これほどの頭なら自分がバカに思えるのも仕方ないかもしれない。
だからといって、罵倒を許容するわけではないけど。

「さて、私の聡明さが分かったところでもう一度質問です。
 入学三ヶ月の私に勉強を教えてもらう気はありますか? 一学年上の先輩さん?」
どうせ断ったところでそれをネタにいびるだけだろう。
それに何だかんだけなしつつも、しっかり教えてはくれるはずだ。
こいつがその辺で嘘をついて陥れるとは思えない。
もう頻繁に吐くようになったため息をついて自分は頷いた。

聡明を自称するだけあって彼女の教え方は上手かった。
言葉にいちいち挟まる侮蔑が耳ざわりだったが、
理解があやふやだった所もしっかりと整理できた。
次のテストはかなりの点が見込めるだろうと自信を得た所で、
貸出の図書委員が『そろそろ閉じますよ』と声かけ。
周りを見回してみると、他にもいたはずの勉強中の生徒は誰もいなかった。

図書室を出て下駄箱へ向かう道すがら自分は後輩へ感謝を告げる。
むこうが嬲りたいだけだったとしても、成績向上の役に立ったのは事実だから。
『ありがとうな』と何でもない一言。
それを向けられた後輩は少し目を大きくし、めったに見せない驚きの顔を浮かべた。

「どうしたんです? 先輩が素直に感謝するなんて珍しいじゃないですか」
別にいいだろ、普通に感謝したって。学力が上がったのは確かなんだから。
「……普通に感謝されてもあまり面白くないです。だったら謝礼をくださいよ」
おいおい、恩には着るけど金払うほどの事じゃないだろうが。
「貧乏人の先輩から金を貰おうなんて思いませんよ。それよりもっと別のものがいいです」
後輩は突然立ち止まり、真横にある教室の扉を開いた。
こんな時間の一般教室に生徒が残っているわけもなく中は無人。
その中に立ち入った彼女は教室半ばまで進むと手招きをした。

「謝礼払う気があるならこっち来てください。
 恩知らずでいいっていうなら、来なくても構いませんけどね」
そう言ってこちらを試すように笑う後輩。
もう毒食わば皿の精神で自分も教室へ入る。そして彼女まで数歩の距離に近づいた時。

カラカラカラ、ドンッ。

背後で開いていた扉が勝手に閉まった。

―――! えっ!? なんだ!?
一部を除きこの学校の扉は自動で閉まったりはしない。
扉を閉じるなら誰かが手を使う必要がある。なのに独りでに扉は閉じた。
廊下に人の気配はなかった。これは完全な怪奇現象だ。
自分は焦って扉へ向かおうとするが、後輩の冷静な声がそれを止めた。

「なにビビってるんです? 扉が閉じただけじゃないですか」
閉じただけって、誰もいなかっただろ! こんなの―――。
『普通じゃない』と言おうとして気づいた。
後輩の目が楽しそうに細められている事に。

全くもって理屈は分からない。
だが腕を掴まれた時のことを思い出せば彼女にできてもおかしくないと思える。
あの時以来の恐ろしさが胸によみがえり、冷たい汗が背に滲む。

……おまえ、人間か?
「さあ、どうでしょう? それって今大事なことですか?」
後輩は意味ありげに笑い、プツップツッとYシャツのボタンを外していく。
ただ服を脱ぐだけの動作。
それが擬態を解いて正体を現そうとする怪物のようで、自分は息を飲む。

全てのボタンを解いた後輩はバサッとYシャツを放り投げた。
次いで腰に手を伸ばし、スカートの留め具を外す。
そしてまた腕を上げると、背に回してブラジャーのフックを解除して床に捨てた。
スレンダーなように見えて実はそこそこあった乳房。
それが目に映ったら、こんな状況なのに股間に血が集まってきた。
彼女は最後に残ったショーツに指をかけると両足を抜き、ついに全裸になる。
恥ずかしげもなく肌をさらすその態度。それが彼女をより非人間的に見せる。
そして後輩はフフッと楽しげに笑い言った。
「じゃあ先輩も脱いでください。セックスしましょう」

ガァン! とハンマーで頭をぶっ叩かれたような衝撃。
『なんでそうなるの?』って感じ。
こっちは女の皮を剥いで『キシャァァ!』と怪物が出るのを想像してたってのに。

……ゴメン、意味が分からない。何でそんなことするの?
自分としては純粋な疑問。しかし後輩は『はぁ?』と言いたげに呆れた顔。

「何言ってるんです、謝礼ですよ謝礼。
 恩知らずって呼ばれたくない見栄っ張りな先輩は払ってくれるんでしょう?」
いや、確かに謝礼は払うつもりだったけど、どうして“ソレ”なのよ。
「いい加減先輩も慣れてきたようで、言葉でイジるのも物足りなくなってきたんですよ。
 なのでそろそろ性的に嬲ってあげようかと思いまして」
ご飯は飽きたからパンを食べたい。
そんな軽さで後輩は言うと、不思議そうに唇に指を当てた。

「っていうか私みたいな女の子が裸で誘ってるのに何で飛び付かないんですか?
 同じクラスの男子ならとっくに押し倒してますよ?
 脳ちゃんと機能してます? 本能ぶっ壊れてません?」
心配しているようでいて、放たれるのは罵倒。
怪奇現象抜きにしても、そんなんじゃ飛び付かないっての。
だが意固地に拒否し続けたらどんな目にあうか分からない。
ここは彼女の要求を飲むしかないだろう。

はいはい、分かりました。じゃあ……相手するよ。
自分がそう答えて服を脱ぎ始めると、後輩は本気で嬉しそうに口元をほころばせた。

自分はクッションも何もない床で仰向けに横たわる。
背中が冷たくて硬いがそう不快でもない。
後輩はこちらの腰の上をまたぐと、くぱぁっ…と女性器を開いて見せた。
開いた女性器から糸を引いてつたう粘液。
彼女の体温と同じ温かさを持ったそれが男性器の先端を濡らしていく。

「はーい、これが女の子のまんこですよ。
 先輩のちんぽはこれからここに入っちゃうんですからねー。
 じゃ、あまり話してもアレなんで早速入れますね」
言うなり彼女は腰を下げて、男性器を咥えこんだ。
熱い粘液にまみれた膣内。ぬめる肉がぬぷぬぷとこちらのモノを飲み込んでいく。

「ほーら、先輩のちんぽがどんどん私の中に入ってきますよ。
 気持ちいいですか? 気持ちいいですよねえ?
 こんな綺麗な女の子とセックスしてるんですから」
後輩の穴は絶妙な強さで男性器を締めつけてくる。
今までしてきた自慰は何だったのかと思えるほど次元の違う快感。
快感に体を震わせる自分を見下し、ニタリと後輩は笑う。

「んー、プルプル震えちゃって可愛いですねえ先輩。
 私とするセックスはそんなに気持ち良いですか?
 でも入れただけでその有様じゃ、先が思いやられますよ?」
ふふっと軽く笑い声を漏らすと、後輩はこちらの胸に手を当てて腰を動かし始めた。
無人の教室に響くジュプジュプという水音とパシパシという肉を打つ音。
彼女が上下するたびにまとめられた髪が跳ね、形の良い乳房が揺れる。
見ているだけでも射精してしまいそうな眺めだが、
膣肉はヒダヒダで男性器全体をブラッシングし、より責め立ててくる。
その快感に縋るものが欲しくなり、いつしか自分は彼女の尻をつかんでいた。

「ちょっと、私のお尻触らないでくださいよ。
 手が邪魔で射精前にちんぽが抜けないじゃないですか。
 それとも何ですか? 私を孕ませたいんですか?」 
冷静に考えれば学生の身で子供なんて作っていいわけがない。
だが今の自分はそんなことはどうでもよかった。
このまま射精し、快感の頂点を極めたいとの思いしかなかったのだ。

「うっわ、浅ましい願いですねえ! 先輩程度が私に種付けしたいだなんて!
 ……でもまあいいですよ。かわいそーな先輩のために妊娠してあげても」
強い罵りから一転、急に言葉が柔らかくなる。
その雰囲気の変化は溺れるような快感の中でも感じ取れた。
彼女は人差し指でこちらの頬をつぅっ…と撫でる。

「先輩のことです、この機会を逃せば一生子供なんて持てないでしょうからね。
 感謝してくださいよ? 私みたいな女の子が先輩の遺伝子受け入れてあげるんですから」
後輩は肩を揺らしてクスクス笑うと腰の動きをさらに加速した。
男性器の中を精液がジワジワと上り、限界がすぐそこまで来る。

「あ、イきます? 劣等遺伝子詰まった精液出しちゃいます?
 いいですよー、イってくだい! ほら、ほら、ほらっ!」
声に合わせて叩きつけられた腰。
その衝撃で最後の堰が破れ、男性器から精液がほとばしる。

「んっ…! 出てますねっ! あっ、これ、多いっ…!」
ビクビクと男性器は脈動し、放たれる白濁液は後輩の体内を汚していく。
彼女も強い快感を感じているのか、声が少しかすれ気味だ。

「あはっ、子宮の中までドロドロじゃないですかこれっ!
 私に種付けできるのがそんなに嬉しいんですか?
 ええ、そうですよねえ! もう私の卵子に群がっちゃってるんですから!」
軽い狂気さえ感じる笑顔で楽しそうに声をあげる後輩。
しかしそれに対して恐怖は感じない。ただ美しいとしか思えなかった。

「あ、精子が頭突っ込んでます! そろそろ受精しますよっ!
 私たちの遺伝子が混ざっちゃいます! あ、あ、来るっ!
 先輩の子供デキちゃいますっ! 受精するぅぅっっ!」
色狂いかと思えるほどの淫猥さに満ちたよがり声。
自分はそれを耳にしながら射精後の虚脱に身を預けた。

事が終わって身繕いした後。
後輩は腹に手を当てながらニタニタ笑いを向けてきた。
どうせまた罵るんだろうと思うとため息が出る。

「どうでした先輩? 初セックスの感想は。私を妊娠させられてご満悦ですか?
 言っておきますけど、先輩を哀れんで孕んであげただけですから、
 変な勘違いとかしないでくださいね?」
安心しろ、今更そんな勘違いはしないから。それより…本当に子供できたのか?
「ええ、間違いないですよ。受精の快感は半端じゃないですから」
その時の快感を思い出したのか後輩が軽く震える。
普通の人間は受精を感知することなんてできないと思うが、
人外疑惑が強いこいつなら感じ取っても不思議ではないだろう。
まあ、それはいいとして。

子供どうするんだ? 
学校に妊娠がバレたら退学だし、育てるにしたって二人じゃ……。
『まず無理だろう』と発言しようとした自分に深刻度ゼロの軽さで後輩は返す。

「その辺は先輩が気にする必要ないですよ。学生生活は結構楽しいですし、
 退学になるのは私も面白くないからどうにかします。
 良かったですねー先輩。高校中退の負け組にならなくて」
いったいどうやって退学を免れるようにするのか。
その方法は想像もつかないが、自信を持って彼女が言うなら問題ないだろう。
そうなると残る問題は……。

「今日はこれでお終いですけど、来週からはまんこでも先輩を虐めてあげますからねー。
 オナニーとかして精液の無駄撃ちしたらダメですよ?
 ああでも、セックスの味憶えちゃったら、一人じゃもう満足できないですかね。
 すみませんねえ先輩。二度とエロ本で欲情できない体にしちゃって」
こちらを性的に完全支配したと考えたのか、後輩はにこやかな笑顔で言いたい放題。
それを否定したくも、あの快感を思い出せばぐうの音も出ない。
クモの糸で雁字搦めにされた蛾の姿が脳裏に浮かんだ。



後輩の言ったことは完全にその通りだった。
性的な物事を思い浮かべると常に彼女の姿が浮かんでしまい、
モデルの印刷された紙っぺらなどゴミクズ同然に感じられてしまうのだ。
自分はもう性欲を満たすためには彼女に頼むしかない。

坊さんのように悟りを開いて性欲を捨て去れば…とも思ったが、
土日の二日間断つだけで麻薬中毒のように彼女の体が欲しくなってしまった。
明らかに異常だとの自覚はあるが、これを解消する方法なんて分からない。
結局この苦しみから逃れるには彼女とセックスするしかないと結論付けざるを得なかった。

夏休みが近づき、本格的に暑くなってきた屋上階段。
いそいそと昼食を食べた自分は後輩に頼み込む。
断られたら土下座でもするつもりだったが、彼女はあっさり頷いた。

「はいはい、してあげますよ。
 私が断ったせいで他の子がレイプされたら心が痛みますからねえ」
うっすらと笑い、こちらを犯罪者予備軍扱いする後輩。
彼女はスカートの留め具を外すと下着ごと脱ぎ下ろした。
下半身だけ裸の姿で背を向け、壁に手をついて尻を突き出す。

「ほら、さっさと入れてくださいよ。昼休みは短いんですから」
首を振り向かせた後輩は『このノロマ』とでも言いたげな視線を向けてくる。
自分もカチャカチャとベルトを外し、急いでズボンを抜いだ。
そしてすっかり湿っている彼女の女性器にすぐ挿入。
つぷっ…という微かな音の後に熱い肉が男性器を締めつけてくる。
待ち望んでいた快感が脳にまで到達し、自分は吐息を漏らす。
だが後輩は風情もなく言葉を放ってきた。

「なに浸ってるんですか先輩。腰動かしてくださいよ腰。
 さかりのついた野良犬みたいに、卑しくちんぽしごいてくださいよ。
 私の時間を奪ってるってこと忘れてるんですか?」
昼休みに用事なんて無いくせに後輩は急かしてくる。
言われたからというわけではないが、それに応えて自分は腰を動かし始めた。

柔らかい肉のヒダで覆われた後輩の膣内。
そこは一突きごとに快感を生み出す快楽発生装置だ。
『もっとくれ、もっとくれ』と廃人のように腰を振ってしまう。
そんな無様な姿を目にして後輩は嗤うのだ。

「あははっ! いい姿ですねえ! まるでお猿さんですよ!
 知ってます? 猿ってオナニー憶えると死ぬまでやるんですよ?
 セックス憶えちゃった先輩はもう死ぬまでヤり続けるんですかねえ?」
人を猿呼ばわりして哄笑をあげる後輩。
屋上階段に響き渡る声が聞かれないかと気になったが、その心配もすぐに消えた。
誰かが目撃してもこいつが口封じするだろう。
それよりもこの快感に集中し長く深く味わっていたい。
もし本当に死ぬのだとしても。

「うわっ、死んでもセックスしたいとか見上げた根性ですねえ!
 でも残念! 死なせてなんかあげませーん!
 先輩をイジるのは私のライフワークですからねえ!
 私が死ぬ時まで嬲って虐めて楽しませてもらいますよっ!」
卒業すれば離れ離れになるはずなのに、後輩は死ぬまで纏わりつくという。
彼女が死ぬまで続く心労と快楽。それを想像したら苦笑いが浮かんだ。
しかし後輩はそれが気に入らなかったのか、つまらなそうに顔を歪める。

「あん? 何ですその悟ったような顔。とっても気に食わないですね。
 今の先輩が浮かべていいのは――――こういう顔なんですよっ!」
言い切った直後、後輩の腹に力がこもる。
そして膣壁が意思を持ったようにうねり始めた。
小さな無数の触手で男性器をマッサージされるような感覚。
突然強まった快感に息が詰まり膝から力が抜けそうになる。
だが自分は歯を食いしばってそれを堪え、ガクガク震える足で踏み止まる。

「それですよそれ! 私が見たいのは先輩のそういった顔なんです!
 ちょっと本気を出しただけでそれだなんて、ホント虐めがいがありますよ!
 じゃあもう射精するまでコレでいっちゃいましょうか!」 
自分の情けない顔を見て溜飲が下がったのか、後輩は楽しげな顔に戻った。
しかし膣内のうねりは変わらず、ぬめるヒダヒダが精液を搾り出すように蠢く。
高熱の湯に差した水銀温度計のように、ググゥーッと精液が登ってくる。

「あ、もう出しますか? やっぱり私のまんこにぶちまけますよね?
 とっくに妊娠してるからって、遠慮せずに私の胎の中を汚すんですよねえ?
 どーぞ、無意味な種付けを楽しんでくださいなっ!」
後輩も達したのか、股間から体液が飛び散りフローリングの床をさらに濡らす。
それと同時に膣肉が一気に締まり、自分は彼女の胎内へ白濁液を放出した。

「んんっ! 先輩のちんぽは無駄に元気ですねえ!
 ビクビク暴れてそこら中に精液まき散らしてますよ!
 あっ、受精卵にもかかってます! 孕まないのに精子が寄ってきてますよっ!
 ああん、私の赤ちゃんが汚されてるっ! 産まれる前からお父さんに汚されてるぅっ!」
わざわざ子供をネタにして嫌味を言う後輩。
だが内心は可哀想だなんて全く思っていないだろう。
絶頂の快感にのけ反らされた背筋。悦びの色しか見えない嬌声。
突き出された舌からよだれを垂らす彼女を見て自分はそう思った。

「―――で、スッキリしましたか先輩?
 私はシャツもブラもベットリで気持ち悪いんですけど」
Yシャツの胸元を摘まんでパタパタする後輩。
脱がなかったのは彼女自身の選択なのに、こちらが全て悪いかのような言い草。
理不尽な気が強くするが、頼み込んだのは自分なので言い返せない。
彼女は細い手首にはめた腕時計に目をやり愚痴る。

「あーもう、残り時間ほとんど無いじゃないですか。
 早く片付けますよ? その痴漢みたいに露出してる下半身と床を拭いてください」
後輩はカバンから厚いタオルを二枚取り出し、一方を投げてくる。
ずいぶん用意周到だな…と思ったら、カバンの中にはさらに数枚のタオルが詰まっているのが確認できた。

「先輩の思考なんてカブトムシ並みに単純なんだから読めて当たり前です。
 どうせこうなるんだろうなー、って思ってたから持ってきたんですよ。
 次からは自分で用意してくださいね? さもないと舐めて綺麗にさせますよ?」
後輩はそう言うと女性器から零れ落ちる精液を指で拭い、舌でぬらりと舐め取った。



後輩のおかげもあって難無く赤点ラインを突破し、待望の夏休みに突入。
だがそれでも彼女の嫌がらせとつきまといは止みはしなかった。
いや『実家に帰省する』とか言われて一週間とか会えなかったらこっちの精神もヤバイので良かったといえばそうなのだが。
そして七月も終わる頃のこと。

「せんぱーい、これ何だか分かります?」
長期休暇で人気のない図書室。
後輩は人差し指と中指の間にはさんだ紙切れをヒラヒラさせる。
色鮮やかな長方形のそれは有名なテーマパークのチケット。
それが何だっていうのか。

「これペアチケットなんですよ。別に一人でも入れるんですけど、
 厚顔無恥な先輩と違って、私は一人で遊園地なんて恥ずかしくて行けません。
 だから先輩も一緒に来てください。明日あたり」
明日とかいきなりすぎるだろおい。それと自分だって一人では行かん。
「どうせ毎日ヒマで予定なんて無いんでしょう? ならいいじゃないですか」
確かに暇だけどさあ……。自分じゃなくても友達誘って行けばいいだろ?
「そうできたらいいんですけど、私って友達いないんですよねー。
 距離が近いと比較されるからって、女子は皆一線引いた付き合いなんです。
 男子の方は声かければ容易く釣れるでしょうけど、
 脈アリだなんて勘違いさせるのも可哀想ですし。そんな理由で先輩なんですよ」
さらっと己の容姿を自慢する後輩。
まあハリウッド男優と並んで歩きたいかと訊かれれば自分だって答えはNOだ。
親しい友達がいないのも仕方ないのかも。
それに彼女のことだから、どう足掻いても同行せざるを得ないように話を持っていくだろう。
『行く行かない』の無駄な問答を回避するために自分は了承した。

夏休みだけあって行楽地は大混雑。
長期休暇は学生だけだが、それに合わせて家族サービスで来てるお父さんも多いようだ。
後輩はそんな混み合っている道を施設案内を片手に進んでいく。

「うーん、次はどこに行きましょうか。
 人気が高いアトラクションって、待ち時間がやたら長いですからねえ……」
一番行きたかった場所は朝一で行ったのであまり待たなかったが、
昼も近づいたこの時間になるとどの施設も相当な行列だ。

「かなり早いですけどお昼食べちゃいます?
 そうすれば午後は「おっ! お前も来てたのか!」
後輩の言葉を遮ってかけられた聞き覚えのある声。
その方へ目を向けたら、席が近くてそこそこ親しいクラスメイトがいた。

久しぶり。そっちも来てたんだ。
「おう、テレビに出した懸賞が当たってな。せっかくの休みだから友達と来たんだ。
 お前の方はなんだぁ? 女の子と仲良くデートかあ? この畜生めがっ!」
からかい混じりでオーバーに嫉妬を表現するクラスメイト。
苦笑いを浮かべて『デートじゃないって』と返そうとしたら、
後輩がトトッと近づいて左腕に抱きついてきた。

「ええ、私たちデート中なんですよ。あなたは先輩のお友達ですか?
 こんな所で会うなんて奇遇ですね」
恋する乙女のように柔らかい笑顔を浮かべる後輩。
それに見惚れたのかクラスメイトは一瞬呆け、その後舌打ちをした。

「ちっ、見せつけてくれやがって。いいよなー彼女持ちはー。
 野郎二人で遊園地とか、楽しさ半減ってレベルじゃねーぞ!」
だったら一人で来ればよかっただろ。
「いや一人で遊園地とか人生の意味考えちゃうレベルだから……」
消え入るように呟くクラスメイト。
あまりにも気の毒なこと言ってしまった自分は話題を変えることにした。

そういえば二人で来たそうだけど、もう一人はどこ行ったんだ?
「もう一人は今トイレに……って来たな」
一緒に来ていたのはやはり同級生の男子。
向こうもこちらに気付いたのか、手を振って近づいてきた。

「おまたせー。っておまえも来てたんだ」
ああ、コレに誘われてな。
自分は抱きつかれてる左手の親指で“コレ”を指し示す。
その扱いが気に障ったのか後輩はこっそり爪を立ててきた。痛い。

「あーあ、本当に羨ましいよそんな恋人がいて。
 俺も少しは女っ気が欲し……そうだ! せっかくだから四人でまわらね?」
いいこと思い付いた! と提案するクラスメイト。
『いいアイディアだ』と連れの同級生もそれに乗る。
わざとらしい相槌に二人ともデートの邪魔をしてやりたいだけだと分かる。
本当の恋人と来ていたなら全力で拒否していただろう。

だが彼の案は自分にとっても都合が良かった。
後輩が罵倒してくるのは自分と二人きりの時だけ。
他人の目がある所では理想的な下級生のフリをするのだコイツは。

うーん、自分はいいけど……そっちはどう?
自分はすぐ左の後輩に訊ねる。
被っている猫からして『嫌です!』なんて強く言ったりはできないだろう。
残念そうな顔で渋々と頷くのが関の山。
……と予想したのだが、後輩はあっさりと頷いてしまった。

「先輩がいいなら私も構いませんよ。
 デートなんて今日じゃなくてもできるんですから」
嫌がるそぶりどころか、不満の一片さえ表さない後輩。
『物分かりが良い献身的な恋人』を演じる彼女に二人とも神々しいものを見るような目を向ける。

「うぉぉ…本当にOKしてくれたよ……。なにこの子? 神様?」
「こんな子と付き合ってるなんて、もう人生勝ち組じゃねえか…」
肩を寄せ合ってボソボソと呟き合う二人。
後輩はそこに声をかける。

「それで四人でまわるのは良いんですけど、先にお昼にしません?
 一度食べちゃえば、あとは帰るまでずっと遊んでいられますし」
そういえばこいつ等が来る前はそんな話をしていたな。
自分としても早く食べるのは賛成だし、そうしよう。

「はーい、先輩。口あけてください口」
密着するように体を寄せて座っている後輩。
彼女はにこやかな顔で料理をすくい、スプーンをこちらの口に運ぶ。
このレストランには自分たち以外にも恋人らしきカップルはいるが、
ハートマークを周囲にまき散らすほどイチャついてる人はいない。
バカップル丸出しな彼女の態度に対面して座っている二人は胸やけ顔だ。
それと凝視こそしていないが、周囲の客たちもこちらに関心を向けている。
何故クラスメイトの提案を簡単に受け入れたのか不思議に思ったが、
まさかこんな羞恥プレイを仕掛けてくるとは……。

「ここの料理ってなかなか美味しいですよねー。
 でももっと美味しくなるように私が食べてさせてあげますよ。はい、あーん」
密着するように身を寄せて、ベタベタしながら後輩は食べさせてくる。
店員さんもチラチラ見ている中で『不味いからもういらない』なんて言えるわけない。
自分はおままごとの人形のように何から何まで世話をされるが、
どんどん集まってくる好奇の視線に耐えきれなくなった。

あー、そっちも大変だろうからもういいよ。残りは自分で食べるから……。
ガリガリ削られた気力に放つ声も弱々しい。
それに対して後輩は元気いっぱいに返してくれた。

「ちっとも大変なんかじゃないですよ。私は先輩を愛してるんですからね!
 大好きで愛しい人の世話ができるのって、とっても幸せな事じゃないですか!」 
初めての『愛してる』の言葉をまさかこんな状況で聞くことになるとは。
そう考えながら向かいの二人を見ると、彼らは個別の伝票を手に取り席を立った。
何のつもりかと思ったら、二人は悟ったような微笑で話す。

「デザート頼むつもりだったけど、お前ら見てたらそれだけでいっぱいだわ」
「つーか、これで甘いもん食ったら糖尿病で死ぬっての」
「デートの邪魔してホント悪かった。俺らは俺らで別行動すっから」
「大事にしろよその子。こんなに愛してくれる女の子なんてもう二度と出会えないぞ」
安っぽいちょっかいなど出して良い次元ではないと思い知ったのか、
彼らはもはや羨望も嫉妬も見せずにレジを済ませる。
そしてカランカランとベルを鳴らし出ていくと、後輩はにこやかな顔はそのままに小さな声で囁いた。

「オトモダチと出会えて助かったと思いました?
 二人がいれば私が大人しくしてると思いました?
 残念でしたねえ、先輩を嬲る方法なんていくらでもあるんですよ。
 まあ、邪魔は邪魔なんでご退場願いましたけど」
好奇の視線によるこちらへの精神攻撃。
邪魔なクラスメイト達を排除するための工作。
人目を気にせずにイチャつくという形で彼女は二つを同時に成し遂げた。
この頭の回転と情熱を別の事に向けてくれたらなあ…と本気で思う。

「私だってそう思いますよ。先輩がいるせいで余計な事に思考を割いてしまうんです。
 そう考えると先輩は生きてること自体が罪ですね。私の脳内を専有してるんですから」
ついに『生きてるのが罪』とか言い始めた後輩。そんな罪、どうやって償えってんだか。
とりあえず今の自分にできたのは、処置なしの彼女が運ぶ料理を最後まで食べることだけだった。

午後も連れ回されてチクチク言われたが、アトラクション自体は楽しめた。
流石の彼女も他の客が黙って演劇見てる中で罵るほど非常識ではない。
本編より長い待ち時間を幾度も味わい、地元の駅に帰った頃には陽が沈みかけていた。
あとは別れ道まで連れ添ってさよならだ。

「じゃあ先輩、ここでお別れです。明日はまた図書室に来てくださいね。
 さもないと直接家に行って家族の皆さんに『ご挨拶』しちゃいますから」
その光景を想像したのか、後輩は獲物をいたぶって楽しむ肉食獣のように笑う。
ウチの家族は自分が後輩に付き纏われていることは知らない。
今日のことも男友達と遊びに出かけたと認識しているだろう。
そんな所で恋人面して彼女が押しかけてきたらどんな騒ぎになることか。

分かってるよ。ちゃんと明日も行くって。
……だから絶対に家まで来ないでくれよ。
「ええ、ちゃんと来てくれるなら良いんです。
 私も先輩の家族に迷惑かけたいわけじゃないですからね」
確かに迷惑かけたいわけではないだろうが、かけてもコイツは気にしないだろう。
むしろ事態の収拾に右往左往する自分を見て存分に楽しむはずだ。
一体どうやったらこんな性格破綻者に育つんだ?
いや、人外っぽいし、ひょっとして最初からこの姿でこの性格なのか?

「まさか、そんなわけないじゃないですか。
 私はちゃーんと両親から産まれましたよ」
なるほど一応父母はいるのか。
だとすると、どんな教育施したんだコイツの親は。
「ごく普通の教育ですよ。洗脳教育なんてされた憶えはありません」
普通!? いま普通って言ったのか!?
おまえの周りでは他人をボロクソに貶めるのが普通なのか!?
「そうですよ。私の母さんやその知り合いは皆そうしてます。
 男の人を『奴隷』とか『ペット』とか『餌』なんて呼んで楽しい毎日送ってますよ」
当たり前のように歪んだ価値観を披露する後輩。
『奴隷』『ペット』も大概だが『餌』ってなんだ『餌』って。
訊きたいような訊きたくないような疑問が浮かぶが、
『先輩も餌になりますか?』なんて言われたら怖いので結局飲み込んだ。

じゃ…じゃあ帰るわ。そっちも気をつけてな。
自分は心に浮かんだ薄ら寒い考えから逃れるようにこの場を離れようとする。
しかし後輩はその前にスッと近寄って首筋をベロリと舐めてきた。
濡れた舌が触れる感触にビクッと肩が跳ね、むずがゆい快感に鳥肌が立つ。
『何のマネだよ』と目の前の顔を見ると、彼女は蔑みの感情が含まれた声を発した。

「先輩の汗は不味いです。これじゃ肉なんて食べられたものじゃないでしょうね。
 良かったですねえ先輩、ドブネズミ並みに質の悪い肉で」
ドブネズミ並みと言われて浮かべた顔が気に入ったのか、ククッと後輩は笑う。
せっかく飲み込んだ疑問なのにこちらの内心はお見通しか。
完全に手の上で転がされてるな…と改めて実感すると、強い無力感が胸に湧き上がった。



夏休みが終わり、秋が訪れ、年が明けてと、
時間が経つにつれ後輩の腹は大きくなっていった。
腹が膨らんでもその美しさは全く陰りがなく、彼女に絡め取られた性欲はそのままだ。
子宮が抱えるほどの大きさになり、乳首から母乳が滲むようになっても、
自分は彼女の体を求めずにはいられなかった。
毎日罵られても快楽を欲するあまり『まさか自分はマゾなんじゃないか?』と不安になったが、
どれだけ付き合おうとバカにされて腹が立つことに変わりはないのでそうでないだろう。
そして学年が一つ上がり、五月の連休に入った頃、後輩はついに禁を破ってやってきた。

パチンと指を弾く音。それを聞いたような気がして自分はハッと目を覚ます。
枕元の時計を見てみると時間はまだ五時。
変な夢でも見て覚めたのか…と再び眠ろうとすると、聞こえるはずのない声が聞こえた。

「なに私を無視して寝ようとしてるんですか先輩。
 もう暗くもないんだから起きてくださいよ」
幻聴のはずがない鮮明な声。
眠気など一瞬で消し飛び、がばっと布団から起きあがる。
そして学習机の方を見ると後輩がイスに腰掛けていた。

おまえ、来るなって……!
大きい声を出しそうになったがここは自宅。
家族が目を覚ましてやってきたら困るので小さい声に切り替える。

家には来ないって約束だろ!? 何で破るんだよ!
それもこんな朝早く襲来するとは。
こういった約束はきちんと守る奴だと思ったのに。

「それについては本当に申し訳なく思います。でも予想より早く来てしまったので」
裏切られたような気がして憤慨する自分に、彼女はペコリと頭を下げた。
素直な謝罪は本心からのようで、意外な姿に溜まった怒りが抜けてしまう。
責めるのはとりあえず目的を訊いてからでもいいだろう。

……それで? 何の用があって来たんだよ。
「ええ、先輩に見てもらいたいものがありまして。
 急ぎなんでこんな時間にお邪魔する必要があったんですよ」
見せたいもの? いったい何よ?

そう問いかけると後輩はいつものようにニタリと笑った。
『そのセリフを待ってました』と言わんばかりに。
そしてゆらっ…とイスから立って服を脱ぎ始める。

ブラを外すと一回り膨らんだ乳房がふるりと揺れ、
ショーツを下ろすと、使い込まれているのに綺麗な女性器との間に糸が引いた。
裸になって妊婦の体を見せつける彼女は黙っている自分に言う。

「もう産まれそうなんです。出産ですよ」
えっ? と思った途端、ビチャッと後輩の股間から液体が漏れ落ちた。
粘度が低く量も多いそれは膣液などではないだろう。

「あら、ちょうど破水したみたいですね」
冷静に告げる後輩。しかし自分は落ち着いてなどいられない。

病院行かなくていいのかよ!? つーか、騒いだら家族が…!
パンダじゃあるまいし、ポンと簡単に産めるわけがない。
物音を聞きつけた家族がやってきて部屋に入ったらどうなることか。
慌てる自分をよそに、後輩は畳の上へ尻を落とし、膝を立て、産む体勢を整えていく。
そしてダラダラと床に羊水の染みを広げながら、呆れたように言った。

「そんなこと先輩に言われなくても分かってますって。
 この部屋の音は外に漏れない様にしてますから、どれだけ騒いでもバレばれませんよ。
 それよりも私の子供を見てショックで気絶とかしないでくださいね?」
後輩は軽く笑うと力み始める。

「んっ…今、子宮がギュッってしてますよ。胎から赤ちゃん出そうとしてます。
 あ…っ、子宮口が、開いちゃう……っ!」
彼女の上体を支えている両手。その指が畳に食い込みザリッと音を立てる。
そんなに痛いのか…と思いきや、彼女の吐く息には多量の艶が含まれていた。

「ぐぅっ! 赤ちゃんの頭っ…子宮口を、通ってますっ…!
 ああっ……良いっ! 先輩のちんぽより太くて気持ち良いですっ!」
命にも関わる出産だというのに、彼女が感じているのは快楽だけ。
そうだ、コイツは人外の存在なんだ。僅かにも心配したのが損だった。

「ひぅっ…! 今度はっ、まんこの中、進んでますっ…!
 お、ごっ…! まんこが…ひっ、広がってぇっ…!」
腹の膨らみはやや下へ下がり、膣口はその口を広げている。
よく見れば奥ばったところに、胎児の頭頂部らしきものがあった。

「せっ…先輩っ! もうすぐ…頭、出ますからねっ!
 しっかり……見てくださいよっ!」
彼女はやや震えた声でそう言うと、息を詰めてグッと力んだ。
産道を通っている胎児が一気にせり出し、プチュッと水の弾ける音と共に顔を出す。
自分の血を半分引いている子供。それを見た途端、息を飲んて目を見開いた。
快楽の渦中であろう後輩はその反応に楽しそうに顔を歪めて哄笑する。

「あっははは! そんな驚かないでくださいよ!
 先輩だって感付いてたでしょう? 私が人間じゃないってことぐらい!」
見ている方が痛いほどに広がった後輩の穴。
そこから頭を覗かせている赤子にはすでに髪が生えそろっていた。
だがそれだけならここまで驚きはしなかっただろう。
自分の意識を揺らがるほどに驚愕させたのは、後頭部から伸びる二本の角。
おとぎ話に出てくる悪魔のような黒くねじれた角だった。

「はーい、そうです! 私の正体は悪魔でしたー!
 そしてこの子も悪魔でーす! なんと混血でさえないんですよっ!」
人外の彼女との間にできるのが普通の人間なわけがない。
だがそれでも最低限半分は人間の血を引くと思っていた。
しかし悪魔の子は悪魔で、人間成分は全く無いと後輩は言う。
いくら人外でもデタラメすぎだろ…と思ってしまった。

「大丈夫、安心してくださいよっ!
 人間じゃなくても先輩の遺伝子はちゃーんと受け継いでますからっ!
 先輩の血はきちんと後世に残して―――あひゃっ!」
膣内に半ば留まっていた頭部が完全に抜け、後輩は奇声をあげる。
引っかかっていた部分が出たせいか、胎児の通過速度が急に早くなった。
ムリムリッ…とでも表現できそうな早さで肩が姿を見せる。
速度に比例して快感も強まったのか、彼女は言葉を途切れ途切れにさせる。

「あっ、あっ、あっ、早いっ…! 赤ちゃん進むの早いっ!
 せっ、先輩っ! もう出ちゃいますよぉっ!」
よほど気持ち良いのか、後輩の目尻から涙がこぼれる。
上体を起こしていた腕がカクンと曲がり、畳に肘をついた。
開いた股の角度がさらに広がり、見せつけるように腰が上がる。

「んぎぃっ! 出るぅっ! まんこ抜けちゃうっ! 
 先輩の赤ちゃん、ひり出しちゃいますぅっ!」
その瞬間、後輩はグッとえびぞり、頭より上に腰がきた。
胎児は膣肉の一部をベロッとめくり出しながら吐き出される。
角以外にも翼や尾があった子供はボテッと畳に落ち、ケホッとむせた。
自分は喧しい産声をあげるだろうと構えたが、予想に反して静かなまま。
きちんと生きてるのか心配になって両手に抱きあげたら、すやすや寝息を立てていた。
どうや赤子といえども悪魔に人間の常識は通じないらしい……。

「ん……あ…産まれました…ね」
すっかり疲れ切ったのか後輩はベタッと畳の上に寝転んでいる。
彼女のこんなだらしない姿を見るのは初めてだ。
とはいえ今は責める気もないが。

ええっと…お疲れさん? ところでこの子供どうすりゃいいんだ?
産まれた直後の赤子をどうするかなんて自分は知らない。
知ってるのは産声をあげない子は尻を叩いてでも泣かせるということぐらいだ。
いや、この子はちゃんと呼吸してるから叩かないけど。

「赤ちゃんは…何もしなくていいですよ……。
 それより、へその緒引っ張ってください……」
快感の余韻に浸っている声でボソボソと後輩は話す。
言われた通りに肉の管を握ってみると熱くて濡れていた。
正直ちょっと気持ち悪いが、頼まれたので引っ張ってみる。
するとまだ広がっている女性器の中からへその緒が引き出される。

ズルズル、ズルズル、ピンッ。

ある程度引き出すと、へその緒はそれ以上伸びなくなった。
彼女はそれでも引っ張れと言い、
そうしたら何かを剥ぐ感触が手に伝わって、肉の袋が出てきた。
どす黒い色合いのこれはきっと胎盤だろう。
これでもう終わり……かな?

胎の中を出し終わった後輩は『よっ』と勢いよく上体を起こし、こちらに両腕を差し出した。
何を意味しているのかが分からないほどバカではないので、赤子を優しく渡してやる。
彼女は赤子を胸に抱いて頭をそっと撫でると、母親としての慈愛あふれる笑みを浮かべる。

「んー、可愛いですねえ。流石は私の娘です。
 先輩の血を引いてるとは信じられないくらいの可愛さですよ」
すっかりいつもの調子で自分を貶し始める後輩。
これなら産後の心配はいらないなと自分は胸の内で安堵の息を吐く。

「じゃあ先輩、そろそろ家族の皆さんが起きてくるかもしれないので、
 私は帰りますね。十時ぐらいになったら私の家に来てください。誕生のお祝いしますから」
後輩はそう言って抱えた子供を揺らすと、フッと目の前から消失した。
自分の前で彼女がこんな魔法じみたものを見せた事は一度もないが、正体を明かした今は隠す必要なしと考えたのだろう。

一人になった部屋で『ついに子供が産まれちまったかー』と自分は独りごちる。
父親の責任とかそんなものが脳裏に浮かび重く感じるが、
彼女ならこちらが重さで潰れる前になんとかするだろう。
嘲るような笑顔を浮かべ、精神がささくれ立つような罵倒を発しながら。

一年以上付き合ってきた今でも、罵られるのは気分が悪い。
それでも彼女と離れることなんて考えられない。
本当に悪魔だな…なんて考えながら、自分は羊水で濡れた畳を拭きにかかった。
14/06/18 16:42更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
久しぶりに書いたらすっかり書き方を忘れてました。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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