読切小説
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遠い魔界の兄妹
 メリオ・ローゼスの意識が覚醒したのは、彼の体を包む温度が動いたからだった。体を包む感触が動き、外の空気が、彼に覆いかぶさる布団の隙間に入り込む。
「うーん、フィリーナ?」
 彼が声を上げると、体をなでていた動きがぴたりと止まった。すると、布団の上部が開き、彼の顔を見上げるように女性の顔が現れる。目は眠たげに細められていたが、完全に覚醒すれば、ぱっちりとした二重の瞳が見られるだろう。そこは真紅と黒の縞の虹彩で縁取られており、漆黒の瞳孔と相まって、ルビーと黒曜石を思わせる。髪も黒で、背中の中央に届く程度の長さ。起きたばかりだというのに艶めいていて、頭頂部が寝癖で小さく跳ねている。肌は対して白く、静脈が透けて見えるほど薄く、繊細なガラス細工のようである。
 メリオの妹、フィリーナ・ローゼスは、彼に一瞬瞳を見せると、すぐにまぶたを下ろした。顎を軽く突き出し、静かに待つ。しかし、それに反して彼女の鼓動が騒いでいるのを、彼はしっかりと自分の胸で感じていた。
「んっ」
 顔を下ろし、彼は口付けをする。二組の唇がそっと触れ合い、圧力を受けて形を変える。起きたばかりで、受ける感覚は乾いていた。
「ちろっ」
 フィリーナが舌を出す。朝一番の習慣である口付けを待ち切れず、それは唾液をまとい粘っていた。彼の唇を舐め、表面が湿る。そこに触れた彼女の唇もまた、自分の唾液に濡れた。
「ひたぁ、にいさんも、ひた、ひた……」
 彼女が言っているのが舌だということを理解した彼は、そっと自分の舌を外に突き出す。
「んふふ、れるるぅ」
 鼻から息を吐き、妹が嬉しそうに笑う。そしてすぐに、唇で彼の舌を挟んだ。
「うっ」
 兄がうめく。彼女の口内に吸い込まれるように迷い込んだ舌先が、彼女の温かな舌と濃い唾液によって、熱烈に歓迎されたからだ。
「ずずず、ずぞぞっ」
 口から息を吸い、彼女は彼の舌をもっとせがむように吸引する。
「んれるっ、じゅるっ、じゅぽっ」
 徐々に進み出てくるそれを、彼女は嬉しそうに舌で愛撫した。自分の唾液を舌にまぶし、彼のものに巻きつくように絡ませる。
「あぁむ、あむぅ、れるれる」
 ぬめり、口内から出て行ってしまいそうな舌を、唇でもう一度挟む。その後、彼の舌の裏側に、自分の舌先を当てて前後させた。
「ちろちろ、れろれろ」
 細かく動かし、舌をくすぐる。唾液腺から出たばかりの彼の唾液を、掬い取るように絡める。
「んっ、ふっ」
 彼は鼻から息を出し、彼女の体の抱きしめを強めた。布団の中、自分を求めてすがり付いてくる兄を感じ、嬉しそうに妹は口角を上げる。
 彼女は、彼の口や体以外の、新しい熱を覚えた。自分の下腹部を熱くする、他とは比べ物にならないほど温度の高い熱。兄妹、二つの腹に挟まれて、それは熱と同時に脈動を伝えていた。
「んんっ!」
 彼が一際大きくうめき、驚きのあまり唇を離してしまった。彼女の腹が、明らかな意思を持って動いたからだ。小さな少女特有の、わずかに膨らんだ柔らかな腹部。それが、彼の勃起して赤黒い粘膜を晒した亀頭を、寝間着越しながらも、強く擦り上げたのだ。もしこれで、間に布や邪魔なものが一切ない……素肌同士だったら、彼は彼女の肌の心地よさを感じる間もなく射精してしまっていただろう。
 フィリーナが、まぶたを上げる。ルビーの瞳が兄を見つめ、花が開いたかのように、少女の甘い香りが匂い立つ。
 瞳が潤んでいる。それはキスを一方的に終わらせられた悲しみなのか。キスで欲情してしまった結果なのか。
 めりめりと、生木が裂けるような音がする。それに伴って、彼女の両側頭部から、螺旋を描き角が生える。前に伸び、上へ回り、後ろへ向き、下から掬い上げるようにして、最後は完全に一周して先端が止まった。
 布団の、彼女の背中側に位置する端が盛り上がる。黒く鈍く光る、一対の翼と尻尾。布団の外に顔を出したそれらは、彼女の意思に従い、ゆらゆらと揺れていた。
 彼女は淫魔、サキュバス。朝日を受け、ぬくもりを覚え、兄との接吻で意識を起こし、本来の姿を現したのだ。
 魔物である部分を露にすると、同時に性欲も押さえつけられなくなる。口をもごもごと動かし、口内に溜まった自分と兄の唾液を混ぜる。フィリーナは幸せそうに微笑み、鼻から熱い吐息をつきながらそれを味わった。
「ん、ごくっ、ごくっ」
 目を軽く閉じ、喉を彼の視線に晒す。白い喉が上下し、それに伴って喉が大きく鳴る。
「ごくり……はぁ」
 最後の一滴まで飲み干すと、満足気に息を吐いた。口を開くと、ぷるりと弾力のある、少し厚い唇が淡く色付く。
 妹は、さらに唇を開いた。彼女は口内を兄に見せ付けるように晒し、先ほどのキスと同じ舌使いを行った。まっすぐ彼の瞳を見つめ、舌先をちろちろと前後に動かす。にちにち、かぽかぽと、口内の粘膜同士が触れ、口腔内で反響する。ごくりと、メリオは喉を鳴らした。彼女が何をしたいのか、理解してしまったからだ。
 辛抱がたまらなくなった彼は、寝起きと興奮のせいで震える手で、寝間着のズボンを脱ぎ去った。同時に下着も下ろし、布団の中で下半身を裸にする。夜の間に溜め込まれた二人の熱気が、湿気を伴って彼の肌を刺激する。すでに硬く反り返り、尿道口から粘液を漏らしている男性器から、むっとした匂いが漂う。
「すぅぅ……」
 まぶたを下ろし、胸いっぱいに、フィリーナは空気を吸い込んだ。世界一好きな、兄の匂い。それも、自分に興奮して思わず漏れてしまった粘り液の香り。彼女の心に、ぽかぽかとした、暖かい気持ちが溢れ出る。
「はぁぁ……」
 しかし、いつまでも吸い続けることはできない。名残惜しさを覚えつつ、彼女は肺に溜まった空気を吐き出した。むっと、布団の中と二人の間に、満開の花のような香りが満ちる。
 同じことを三度、彼女は繰り返した。頬が朱に染まり、瞳のとろみが強くなる。
「すぅっ」
 妹は、小さく速く、息を吸った。するとすぐに、布団の中に潜り込む。さながら、そこが海や川になったように、兄は錯覚する。
「うっ」
 だがすぐに、そんなことを考える余裕が、彼にはなくなった。布団の中で外気に晒された男性器に、温かく、粘りのある感触が触れたからだ。
「じゅるるっ、じゅぅ」
 音を立て、フィリーナが亀頭を吸う。すでに口内には粘度の高い唾液が満ちており、亀頭がさながら温泉に漬かっているスライムに包まれているように思える。
「にじゅ、にちゅ」
 唇をカリに合わせ、舌全体を使って、亀頭を優しくなでる。
「はぁぁ……」
 淫魔特有の、搾り取るような刺激ではない。愛する兄をもう一度眠りの底へ誘うような、ゆったりとした責めだった。
 メリオは体の右側を敷布団に預けていたが、それを動かす。妹の口が抜けないように、ゆっくりと回す。兄の意図を理解した妹は、彼の動きに合わせて自分の体を動かした。
 地面に背中を触れさせ、全身の力を抜く。四肢を投げ出し、彼の体は大の字を描く。
 彼女の両腕が、彼の腰に回る。尻のすぐ上で、彼女は指を絡ませ、腕が外れないようにしっかりと固定した。
「れるれる、れるる」
 キスでしたのと同じ舌使いをする。彼の舌裏を刺激して唾液を沸き立たせたように、裏筋をくすぐるようになで、我慢汁をせがんだ。
「んふっ、んふふ」
 何百と繰り返してきた行為のため、体が彼女の行動と自分のすべきことを覚えていたのであろう。くすぐりに合わせ、我慢汁がとぷとぷと、粘度も量も増して溢れてきた。それが彼女の口内をさらにねばねばにする。自分の舌で、恋人が快感を得ている。その事実を身を持って体感し、彼女から自然に笑みがこぼれる。
「はっ、はっ」
 吸引も力強い擦りつけもなく、ただただ柔らかな感覚を受けるのみであったが、それでも彼は時折、四肢に電流が流れたような力みを起こした。
 すっぽりと首から下を、彼は布団の中に沈めている。妹は、兄の股間に顔をうずめているため、腰から下が外に出てしまっている。布団と外のちょうど境目には、寝間着を巻くり上げ、飛び出している翼と尻尾。その下は桃色の生地に、白い花柄の寝間着。足首から下は素肌を晒しており、両足が嬉しそうに交互にぱたぱたと上下するたび、翼と尻尾もぱたぱたと揺れる。
「はぁぁ……むっ」
 フィリーナが、大きく口を開いた。ひたりと密着していた粘膜同士が離れ、唾液と我慢汁が糸を引いて弱く繋がっている。そしてすぐに、唇をペニスの根元まで下ろし、口全体で幹を包み込んだ。
「ぐぅっ」
 先端でほかほかとしていた熱が、竿全体を襲う。無意識の内に、メリオは喉を鳴らし声を上げていた。
「くぽっ、くぽっ、かぽっ」
 左頬に亀頭を擦り付け、舌を這わせつつ顔を上下させる。ペニスが口内に深く入り、彼女の頬の内側の肉と歯茎が離れるたび、入り込んだ空気が独特の音を響かせる。
「ちゅるん、ちゅっ、ちゅっ」
 しばらく頬肉で圧迫すると、口の中からペニスを出し、カリの側面に吸い付くようにキスをする。二三度吸い付くと、舌を伸ばして溝の奥をくすぐる。敏感な部分であるため、くすぐったさを伴った快感が、彼の体を走る。
「フィリーナぁ……もう……」
 メリオが喉を絞り声を出す。彼女には、兄が他の人には恥ずかしくて、とても見せられたものではないほど顔をとろけさせ、自分に懇願しているのが、見なくても分かった。
「わらっはぁ」
 分かったと口にしながら、大きく口を開け、喉奥までペニスの先端を導いた。喉の奥の奥、食道の入り口まで、彼のペニスは届いた。サキュバスである妹との、禁断の関係、それを何度も繰り返す内、次第に彼のペニスは太く、大きく成長していた。
「んぐんぐ」
 みっちりと口内全てが兄のものに満たされ、満足そうに彼女は喉をうごめかせる。彼女にとっては、ただの遊びもしくは愛情表現の一つであったが、それを受ける方としてはたまったものではなかった。
「はぁっ、ぐっ、うぅぅ!」
 世界一大好きな妹であり恋人であり妻が、献身的にフェラチオをしてくれているという精神的な満足感。そして、技量は同年代の人間の少女ではなし得ないほど高く、生まれたときから一緒であるが故の、的確な弱点への責め。それらが彼の全身に、猛烈な快感と射精欲を生み出させていた。
「あぐっ、ぐぅぅ、出るっ」
 ぎゅっと、彼の両手が敷布団を握る。同時に、睾丸がひくひくと動き、睡眠中に溜まっていた精液を放出する。
「ごくっ、んふぅぅ、ごくっ、ごくぅ……」
 喉と鼻を鳴らし、弾力を持った濃厚な精液を、一滴もこぼすことなく飲み干していく。飲むことによって、喉の筋肉が自然と亀頭を揉み解すことになり、それがさらなる精液の放出につながる。
「はぁぁ、あっあぁぁ……」
 兄は射精が始まる瞬間は力んだが、すぐに全身を脱力させ、放出による快楽に身を任せていた。
「んっ、んっ……ずぞぞ……」
 精液の漏れが止まった後、妹は亀頭を喉奥から外す。喉を絞りつつ、解放した亀頭を舌の真ん中に乗せ、吸引をする。
「ぐぅ、ふぅぅ」
 射精したばかりの刺激に弱い状態で、その動きは辛いものがある。しかし、尿道にしぶとく残っていたわずかな精液を吸い出されると、射精中とはまた違う、安らかな気持ちよさが彼の心を包む。
「んんー、んっ、ちゅぽっ」
 わずかに柔らかさを取り戻した陰茎が伸びるほど、くわえこんだまま吸引し、彼女は唇を離した。こってりとした唾液が糸を引くが、その中に精液は一滴も含まれていなかった。
「はぁぁ、ふぅぅ」
 満足そうに息を吐きながら、彼女はもぞもぞと布団の中を這い上がる。敷布団を手で押さえつつ、にじり寄るように彼の上を四足で歩く。
「ぷはぁ」
 掛け布団の上部の端から、彼女が顔を出す。久方ぶりの対面。
「兄さん、おはよう」
 布団の熱気と欲情で顔を染めながら、フィリーナは微笑む。
「あ、あぁ……おは、よう……」
 射精後の虚脱状態から抜けられていないメリオは、あいまいな状態で、何とか返事をする。
「そして、朝ごはん、ごちそうさま」
 そう言って、彼女は彼の胸を肌蹴させ、唇を寄せる。
「んっ、ちゅっ、ちゅっ……はぁぁ、兄さんの匂い」
 興奮によって彼の全身から湧き出た汗が、蒸発して空気を暖める。温度と共に、彼女の鼻腔に兄の匂いが濃く強く響く。
「れるる、れる」
 粒となって垂れていた汗を、舌で丹念に舐め取る。塩辛く、しかし精が染み込んでいるため、サキュバスである妹には、後を引く甘さを感じ取ることができる。
「うぅっ」
 びくりと、彼の体が震えた。彼女の舌が、乳輪をくすぐったからだ。
「んふっ」
 彼女が微笑み、彼の右乳首を優しく舐める。
「うぅっ、くっ、ふぅぅ」
 くすぐったさと、気持ちよさ。彼の陰茎が、再び力を取り戻す。
「んっ、兄さんの、また……」
 股間に当たる熱が強くなるのを覚え、彼女の瞳がとろける。
 彼女の腰が前後に動き、寝間着がフェラで濡らした唾液と我慢汁で濡れる。
「はぁ、はぁ……」
 舐めも腰の動きも止めず、彼女は上目遣いで兄の顔を覗く。興奮で目は潤み、頬はさらに赤くなっている。
 メリオは、妹のしたいことを察していた。そして自分も、同じことをされたいと考えていた。だから、静かにうなずく。
 すると、彼女は腰を持ち上げた。頬を彼の胸につけた状態で、腰だけを上げる。両親指で、寝間着のズボンをパンツと一緒にずり降ろした。彼には布団が間に入っていて見えないが、ぷるりと白く綺麗な尻が現れる。もぞもぞと両膝を動かして、完全に下半身の衣服を脱ぎ去る。そして、つま先で脱ぎ捨てたそれを後ろへ追いやった。
「んっ、んんん……」
 腰を下げると、にちりと粘ついた音が鳴る。二人の性器、その粘膜が触れ合った音だ。
「うん、そのまま」
 切羽詰ったように息を吐き、メリオが言う。インキュバスであるため、妻と認めた相手と性器を触れ合わせた時点で、条件反射的に性欲が膨れ上がるのだ。それはサキュバスであるフィリーナも同じである。ゆっくりと、しかし止まることなく彼女は腰を下ろす。
「ふぅぅ……んんーっ!」
 下ろしている間は、二人に流れるのは安心感である。自分にないものが、相手によって満たされていく安心感。しかし、腰がぴったりとくっつくと、それがすっかり様変わりしてしまう。ビリビリと電流のような快楽が流れ、風景が全て視覚から消え去ってしまう。
「フィリーナぁ……!」
「うっ、くぅんっ、にいさぁん!」
 互いの目に映るのは、愛する相手の姿だけである。
 妹は兄の体に強くしがみつき、それでなお腰は激しく上下に動く。腰を上げるたびに、兄を逃がすまいと膣が締まり、粘りつく吸引の音がする。腰を下ろすたびに、彼女の尻肉が彼の臀部に当たり弾ける音がする。
「はぁぁ、あぁぁ!にいさん、にいさん、にいさん!」
 感極まった彼女は、メリオの目をまっすぐ射抜き、何度も兄を呼ぶ。そして顔を上げ、自分よりも長身である彼の唇に何とか吸い付いた。
「んっ、ちゅっ、れるっ、フィリーナっ!」
 彼は逆に顔を下げ、キスがしやすいようにする。最初から舌を絡ませ、合間に妹の名を呼ぶ。
「ふぅんっ、うぅぅん」
 下半身を襲う暴力的な快楽と、口内から沸き立つ優しい気持ちよさと、その二つに挟まれ、彼女の思考は霞がかかったようにぼやけていた。鮮明なのは、兄を想う気持ちと、精液をもらいたいという欲求。それが、彼女の膣肉を動かす力となっていた。
 奥にくわえ込んだときは、亀頭を絞るように子宮口付近が窄まる。腰を上げるときは、膣口を締め、幹を下から上へと順番に刺激する。ひだが一枚ずつ自在に動き、粘膜をくすぐり、弱点をなでる。
「ちゅっ、うぅっ、フィリーナ、だす、ぞ」
 喉を絞るように、メリオが声を出す。彼はいつも、長くもたない。彼女との性交は、いつも彼の方から弱音を上げる。
「ちゅぼっ、れるっ、うん、いいよぉ、にいさぁん、せーえき、いーっぱい、だしてねぇ」
 瞳や表情に負けないほど、彼女は甘く蕩けた声を出す。上半身は緩慢な印象を与えるのに、下半身は精密機械のように、兄のペニスを屈服させようと動きを止めないでいた。
「うぐっ、フィリーナ、フィリーナぁ……!」
 彼の腰が跳ねた。一瞬、彼女は自分の体が浮かぶ感覚を覚える。同時に、子宮口を無理矢理開くかのように、粘り気の強い精液が大量に駆け上がっていくのを感じた。
「あっ、あっ、あぁぁ……」
 一瞬、彼女は大きく目を見開いた。そしてすぐに、まぶたが半分ほど下りる。しかし視線は彼の瞳を見つめたまま。瞳孔が開き、嬉しさと欲情で浮かんだ涙がこぼれる。口はだらしなく開き、舌が小さくこぼれる。端からは唾液が一筋流れ、彼女の全身は弱弱しく震えていた。
「うっ、うっ、くぅぅ……」
 対する彼は、力強く握り締めてくる膣肉の感触に悶えていた。ぎゅっとそこが締まるたびに、びくりと震え、精液が小さく飛び出す。十秒経ち、二十秒経ち、三十秒経ち……断続的な射精は、永久に止まらないのではないかという錯覚さえ覚えていた。だが、たとえインキュバスであっても、永久に射精し続けるということは不可能だ。一分経ち、二分経ち、それは徐々に小さく弱くなっていく。
 完全に止まったとき、二人は同時に大きく息をついた。
「にいさぁん、おかわり、ごちそうさまぁ……」
 淫らな微笑をして、フィリーナは言う。ひどく緩慢で、夢と現をいまださまよっているようである。
 だが、起きてからすでに時間が経っており、そうも言っていられない時刻となっていた。メリオは妹を気遣いつつ、彼女を優しく抱きながら身を起こす。彼女はそんな彼に不満そうな顔を浮かべながら、抱きつく力を強める。
「ほら、離れて。もう仕事をしないといけない時間じゃないか」
 ぶーぶーと文句を言う彼女の脇の下に手を入れ、彼は彼女の体を持ち上げる。
「くっ、うっ」
 いまだ粘り気を失わない膣肉がペニスを擦り上げ、彼は快楽のうめきを漏らした。一瞬、もう一度セックスできるのではと、彼女の顔が期待に染まる。しかし、彼の仕事に行かないといけないという使命感は、性欲を上回ったようだ。無事に彼女を引き抜くことに成功した。
「むーっ」
 頬を膨らませるが、そんな彼女に、兄は視線を向けない。
「ごめんな。仕事に行かないと……そういうのは、また夜になってから」
 そう言いながら彼は寝間着を脱ぎ、作業着に着替える。白いシャツ、土に汚れたズボン、頭にはつばの広い帽子。彼は自宅裏の畑で農業を営んでいる。魔界産の植物は手入れが少なくて済むとは言っても、高い品質を保つためには、それなりの世話をしないといけない。
「じゃあ、行ってくるから。フィリーナはちゃんとお留守番してろよ」
「はーい……」
 彼女は下半身裸のまま、敷布団にぺたりと座り込んでいた。その状態のまま、畑仕事にでかける彼の背中を見送る。
「はぁ……」
 兄の姿が完全に見えなくなった後、彼女は小さくため息をついた。
「あーあ、パパとママのところに行きたいなぁ……」
 彼女は、両親が気持ちよさそうにあえいでいる姿を想像した。彼らは遠いところに行っている。時が流れず、老いも飢えもしない理想郷。いつか自分たちも、仕事に縛られず、パンデモニウムで永久に仲良く暮らす未来。
 メリオが最近、仕事に行くのを躊躇し始めている。フィリーナは、幸せな未来がそう遠くないことを予感し、一人ほくそ笑んだ。
12/09/10 03:24更新 / 川村人志

■作者メッセージ
 サキュバスがパンデモニウムに行くことはできるのかしら。

 劇的な展開やら、伏線やら、手に汗握るバトルやら、壮大な謎やら。そういうのって別にいらないんじゃない?と最近思うようになりました。
 ただただ男と魔物娘が愛し合っていればいいんじゃないの。そういう想いをこの話にこめました(後付け)。

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