連載小説
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絶望期
 数日後。
 今日も今日とて彼女は学校へ登校する。あれほどいじめられているのに学校にはいつも通り行くというのも変な話なのだが、一応学生という身分なのだ学業には専念せねばならない。
 といっても成績は中の上といった辺りであり、やはり彼女は凡庸なのだが。
 最近彼女は一人で学校に行くことが多くなった。いや、むしろ一人で行かざるを得なくなったと表現した方が良い。
 髄ヶ崎にいじめられている状況を知られてはならない。
 共に登校してしまうと、今まで守り通してきたこの沈黙を台無しにしてしまう可能性があるからだ。
 下駄箱には毎日のように何らかの悪戯がセットされている。それもご丁寧に惨たらしいほど悪質なものばかりである。
 それをもし髄ヶ崎に見られたらとしたら、彼女と何て思うだろう。画鋲や教科書を撒き散らした酷い有様の下駄箱を目撃してしまったら。
 その先は最早今まで幾度となく考えてきたことだ、今更思い返す必要もないだろう。
 幸いなことに奴らのいじめは髄ヶ崎のいない場所でのみ行なわれており、一度たりとも髄ヶ崎に感づかれた気配はない。
 恐らく奴らも意図的に髄ヶ崎の存在を避けているのだろう。よりリョウコを痛めつけるために、確実にリョウコの心と体を傷つけるためにあえて避けているのだ。
 まことに卑劣ないじめである。

「……今日は、なんだろ」

 校門前に到着した彼女はそう思う。
 画鋲、教科書の紙切れ、灰、虫、死骸、グロテスクな画像……
 今まで様々な細工を仕掛けられた下駄箱。こうも毎日周到にセッティングされていると、よくここまで執拗にいじめることができると逆に感心してしまうものである。
 恐らくリョウコが学校に来る前に何物かが朝早く来て人目につかぬよう細工を施すのであろう。それも精密に確実に、ご丁寧とも言えるほどに。
 リョウコは奴らが仕掛けているところを逆に見てやろうとも思ったことはあった。
 しかし、逆に見たところで何も変わらないし、いじめをしている犯人も知っている今となってはリョウコが早く来ることの意味などないのもまた事実である。

「おはよう伊脳さん。今日も綺麗な靴だねぇ」
「お、おはよ……」

 語りかけてきたのは同じクラスメイトの腥司。
 既に靴も履き替えており、意味もなくリョウコの周囲にいるということはこいつが今日の仕掛け人ということで間違いないだろう。
 遠巻きにジロジロと見つめてくる視線のその下賎さ、まるで体中をくまなく観察されているようだ。虫唾が走る。
 クラスメイトは髄ヶ崎を除いて全員が敵だとわかりきっているリョウコにとって、腥司が何をやっていようとも格別驚くことはない。いつも通り沈黙して無視を貫き通すだけである。
 しかし、今日はなんだかいつもと違うような感じがした。
 何が違う、と聞かれても具体的に答えることはできないほど僅かなものだが、それでも確実に何かが違う。それは断言できる自身があった。
 ドロリとした言いようのない不快な雰囲気が自身を覆いつくしてしまっているような。
 全身を撫で回されるような唾棄すべきぬめぬめした感覚を覚える。
 とにかく、気持ち悪いことこの上なかった。
 急ぎ彼女は下駄箱を開き靴を履き替えようとする――が、そこにあったのはいつもとは違う見慣れないものが。

「……手紙……?」

 今日の彼女の下駄箱には悪戯らしき仕掛けは施されていなかった。
 内心ホッとしたいところであるが、その代わりといっては不思議なことに一切れの手紙らしきものが靴の中に置かれている。
 ピンク色でいかにもどこにでもありそうな手紙のテンプレートともいえるものだ。特に変わったものは見当たらず、ピンクの紙切れだけが下駄箱の中で鎮座している。
 ふと、腥司の方を見ると彼はその細い目で湿った視線をリョウコへと送り続けている。気味が悪い所の話ではなかった。
 見られている、というよりも観察されている。そんな気がすら思える。
 視線の不気味さに耐えつつもリョウコは手紙を手に取る。あて先には『伊脳リョウコさんへ』と綴られているところから確かにリョウコ宛で間違いないようだ。
 可愛げのあるハートのシールを剥がし、恐る恐る封を開けてみる。
 
【〜伊脳リョウコさんへ〜

 放課後クラスの皆から大事なお話しがあるので、学校裏の体育館庫に一人で来てね☆
 先生と髄ヶ崎さんにはナイショにしてないとダメだよ?
 誰かに言ったりしたら大事な大事な髄ヶ崎さんがどうなるかわかってるよね?
 絶対に来てよ!

 クラス一同より】

 振り返ると腥司の姿はもうなかった。
 彼女は恐れるよりも前に憤怒していた。その彼女の表情ときたら修羅羅刹が怒り狂っているとしてもまだそちらの方が生易しいものと思えるほど歪み怒っている。
 己の激情を抑えるがために手紙を握り締め高鳴る鼓動を落ち着かせるリョウコ。
 彼女は自分がどんないじめにあおうともそれはそれで別に受け入れることができた。どんなに惨めな目にあおうとも諦めぬ精神は持ち得ていると自負している。
 ではなぜ彼女のがこのように怒りに溢れているかというとそれには理由がある。
 その憤怒の矛先はいじめに対することではなく、親友の髄ヶ崎の名前が手紙に書かれているということであったからだ。
 何の罪もない髄ヶ崎が危機にさらされようとしている。かけがえのない親友が私のような目に合ってしまう。
 その大切に想う慈愛の気持ちを踏み躙られ、陵辱されたと感じたからだ。

「私に関わらなければ髄ヶ崎さんは……なにもっ……」

 罪なき親友が罪ある者と行動を共にするがゆえに、相応の罰を受けなければならない。
 リョウコにとってそれが如何に理不尽で耐え難いものかは想像に難くない。
 だけどそれは彼女にしかわからないのだ。友情を越え愛を知り得た者にしかわかることができない。
 そして、それを知る彼女はだからこそ、いじめを受け入れることができるのだから。





―――――





 悪夢のような授業は終わり、そして放課後という地獄の時間がやってくる。日はまだ高く、当分沈みそうもない快晴な天気だ。彼女の陰鬱な気分とは正反対であり、それは色濃く映し出される影が強調している。
 髄ヶ先さんだけを守らなきゃ。
 リョウコの頭の中にはそれしかなかった。私が何をされようがどうだっていい、絶対に髄ヶ崎さんのことは守ってやるという思いだけがひっきりなしに彼女の歪んだ頭の中を右往左往している。
 
「ごっめ〜んリョウコ、今日は放送委員の会議あるから一緒に帰れないわ〜ゴメンっ!」

 運よく髄ヶ崎は委員の会議だということで彼女に知られることなく体育館庫に行くことができる。
 どうやって髄ヶ崎を撒くかが一番の問題であったが、それはあっさりと解決してしまったので思わず安堵するリョウコ。安堵していい状況ではないのだが、髄ヶ崎に知られることを何よりも恐れるリョウコにとって、髄ヶ崎の委員会活動は心から安心できる理由となった。
 パタパタと走り去る髄ヶ崎を尻目にリョウコは単身、学校裏へと向かう。

 地形の都合上、比較的山の高い場所に建てられているこの高校はグランド、テニスコートこそあれどそれでもほとんどは山の林に囲まれている。
 したがって学校裏というのも勿論木々に囲まれており、背後には鬱蒼とした森林が一面に広がっている。人の手が一度たりとも加えられていないであろうそこは、軽い気持ちで入ったら冗談抜きで遭難しそうなほど暗く広く広がっていた。
 当然そのような場所は普段人が通る場所ではなく、有事の際にたまたま通りかかりさえしない限りまず人の気配というものはないだろう。
 もしも人の気配があるとすれば、不良のカツアゲであったり、陰険ないじめであったり、はたまた愛の告白の場所であったりと秘密裏に行なわれる目的の多い場所である。一目がつかない場所というだけでなかなかどうして重宝されるものだ。
 そしてリョウコもまた、これから起こるであろう秘密裏な出来事の体験者となる。
 重く暗く沈んだ足取りのまま彼女は森と学校の境にある小さな小屋へと足を運んでいる。
 体育館庫とはいうものの、既に現在の授業では使われなくなった古い器具や、最早永遠に使うことのないであろう壊れたものなどが無造作に置かれている言わばゴミ箱のような所である。実際に体育の授業で必要なものを出す場合には学校の内部に設置されている倉庫を利用している。
 つまり、この学校裏にある体育館庫は普段決して開けられることのない完全な秘密の場所であるのだ。先生すらも訪れることのない完全に孤立した小屋。
 意図的な目的があったとしても開けることができないし、むしろ開ける目的がないことがほとんどである。
 そのような薄気味悪い場所に呼ばれているということに若干の不安を感じざるを得ないが、やはり彼女はかけがえのない親友のためにその細い足を向かわせる。

「あっ、ホントに来たんだぁ伊脳さん」
「キャハハ!面白いことになりそうだね〜」

 重い足取りで歩くリョウコの後ろからやけに甲高い声が二つ聞こえる。他人をあざ笑うかのような胸糞悪くなる笑い声だ。
 後ろにいたのは同じクラスメイトの肝原と肺ノ宮であった。
 ゆるいパーマに先生にばれないようにと申し訳ないほどの茶髪。いかにもな出で立ちのクラスメイトである女子高生二人がリョウコの両側を位置どって離れようともせず一緒に歩いてくる。

「……あ、あなたたち、も……?」
「そ、決まってんじゃん。言わせないでよねーアンタ主役なんだからさ」
「危うく遅刻しちゃうことだったよ」
「主役って……」

 主役。
 その言葉に言いようのない不安を感じるリョウコであったが、最早ここまで来てしまったからには後には引くことができない。いや、引き返せない。
 ここで引き返そうものなら、いじめの矛先は髄ヶ崎へと向かってしまうのだからリョウコには戻るという選択肢は初めからないのだ。
 何よりも孤高で不屈なその精神は、凡庸な女子高生が会得するには非凡といえる。

「ゲッ、うちらで最後らしいじゃん」
「やっぱこれって遅刻〜?」

 携帯電話で会話をしている相手は恐らく、リョウコを陥れようとしている奴らに違いない。今すぐにでも電話をむしり取って一言言わせて見たい気もあるが、そこは我慢する。
 なぜならその相手はもうすぐ目の前にいるのであろうから。

「到着到着〜ん」
「さ、主役の伊脳さん、戸を開けてね☆」

 さも自分達が招待してきたと言わん顔で戸の両脇に佇む二人。
 これから何が行なわれるか既に知っている肝原と肺ノ宮は吹き出さんとするする口を懸命に抑えているようだ。
 くくっ……ふふ、とかすかな笑い声が口から漏れているがそんなことは気にしてはいけない。今更そんなことに気を向けたところで何かが変わることはないのだから。
 ザリザリザリ……と砂ついた戸を開ける。

「お、来た来た伊脳さん。健気だねー」
「おい肝原、肺ノ宮。遅いぞ」
「ごみ〜ん、掃除でさ」

 リョウコの後ろから二人も一緒に入ってくる。
 一番最後だったようで彼女らは言いたい放題言われているが、あの軽い様子だと全く懲りていないように見える。
 体育館庫には髄ヶ崎を除くクラスメイト全員がいた。それぞれが雑談をしつつリョウコのことを待っていたようで、数塊かのグループが形成されておりスナック菓子やペットボトルジュースなんてものも持ち込まされている。
 パッと見た感じの様子ではこれからいじめが始まる現場とは到底思えなかった。それこそ、クラス一丸となって大事な秘密会議が始まるようななんとも和気藹々とした雰囲気である。
 クラス40人中39人が今この狭苦しい体育館庫に集合しており、密室空間でもあるので若干暑苦しさを感じさせる。
 
「鍵オッケー♪」
「防音対策も万全だぞ」

 背後では知らぬ間に鍵がかけられ、防音設備まで設置されている。
 これでこの場にいる39人は完全に外部との接触を閉ざすことに成功したのだ。これが何を意味するかは、いずれわかることとなる。
 意味深に広げられた器械運動用のマット。
 ガムテープ、ティッシュ。
 そして男子生徒の血走った眼。
 い ず れ わ か る こ と と な る。

「さて伊脳さん。なんで自分がここに呼ばれたかわかる?」
「……わ、わたしを……いじめたいから」
「う〜ん、当たらず外れずなんだよねぇ」
「ねーねー回りくどいことやめてさー早くしちゃおうぜ」
「待て待て、俺たちが知らなきゃいけないことがまだ残されてるだろうが」
「チッ、早くしてくれよ」
「あ、あの……」

 恐ろしく統率の取れていない自由な空間を前にリョウコはただひたすら動揺することしかできなかった。
 だがそんな彼ら、彼女らでもたった一つある目的というものがあるらしい。
 リョウコは再び耳を傾ける。

「ああもうオマエらうっさい!!俺が聞くから静かにしてろや」
「へいへい」
「なぁ伊脳さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「……」
「伊脳さん俺らにいじめられて何とも思わないの?辛いーだとか苦しいーだとかさぁ」
「思った、けど……それだけ」
「はぁ〜アンタそれだけって、マジで言ってんの」

 体育館庫中にざわめきが生じる。
 奴らとてリョウコに酷いことをしてきたという自覚はあるようだ。その証拠にはっきりと辛い苦しいという言葉が奴ら口から語られている。
 あれほど執拗ないじめをされてきて何も思わないはずがない。そう思っていた奴らの思惑とリョウコの思想は全く嚙み合っていなかった。
 
「その辛い感情を誰かに伝えようとはしなかったの?親とか先生とか……親友だったりさぁ」
「……それは、できない」
「どうしてよ」
「……私が誰かに言うと、いじめのことはいずれ髄ヶ崎、さんの耳にも入る……彼女は私の親友だから……私がいじめられてると知ったら、絶対にいじめに反抗する……そしたらきっと、次は髄ヶ崎さんがいじめられちゃう……」
「……それで?」
「それだけ……」
「それ、だけって……それ、ちょっと……」

 数秒の沈黙。
 その瞬間だけはバラバラに語り合っていた各自が一斉にリョウコの方を向き、唖然とした顔で彼女を見つめていた。はとが豆鉄砲を食ったようとはまさしくこの瞬間にこそ遣われるに相応しい言葉である。
 やがて時間があくと、ひとり、またひとりと笑いを堪えるのに必死になり、口から力ない息が漏れているようであった。

「ふっ……くっくくく……ひぃ腹痛ぇ!」
「ぎゃはははは!!!んだよコレ、面白いにも程があるって……くひっ……」
「お、おまっ、そんなことのためだけ、にっ、ずっと言わなかったってのかっ?」
「……髄ヶ崎さんは私の親友……親友をいじめから守るために……」
「親友を守るためならっ、自分はどうなってもいい、と?……ぶふぅ!!」

 コクコクと頷くリョウコ。
 その姿を見た奴らはついに笑いに決壊した。
 38人全員が大爆笑の渦に巻き込まれる中、たった一人この気味の悪い空間で佇んでいるリョウコ。その姿ははたから見れば逆に彼女の姿こそが異端に思えてしまうものだ。
 
「はぁ〜これは傑作だよ。ねぇ皆」
「まったくだよ、超ウケルw」
「これだけ友達思いだと逆にきもちわりぃな」

 いじめを堂々としている奴らが言えたことではないが、確かにリョウコのその凄まじい友達思いは一般の者から見てみると異常とも思えるものである。
 自己犠牲の究極系ともいえるそれはともすれば自らを破壊しかねないというのにもかかわらず、平気で彼女はやってのけているのだ。異常とまではいかなくとも普通でないのは明らかである。
 奴らも奴らで、理由なきいじめというものは全く方向性を見出せないので、それもまた普通ではないと言えるのだが。
 そして、聞きたいことを聞き終えたのか、突如として室内の雰囲気がガラリと変わる。
 女子はクスクスと笑い、男子は笑う者もいれば血眼で息を荒げているものもいる。
 その印象は確実に危険な雰囲気を醸し出していた。

「こんだけ面白いことが聞ければ十分だろ」
「そうだねぇ。それじゃ早速……?」
「ああ。皆、各自"好きなように"していいぞ」

 一人がそう言うと、血眼の男子の一部はその暑苦しい体でで一斉にリョウコへと襲いかかった。
 突如として目の前に現れた男子の群れにリョウコはひたすらたじろぐ他ない。

「フォオオー!待ってたぜ!!」
「あんまり待たせるんじゃねぇよ!」

 鬼気迫る表情でリョウコへとにじり寄る男たち。
 リョウコはその男たちの薄汚い素肌を垣間見ると、一瞬にして自分がこれからおかされる出来事を理解し。
 そして今までにないくらい最上級に青ざめた。

 ―いくらいじめといえども流石にそれはない―

 そう考えきっていたリョウコの予想を真正面から打ち砕いたのだ。
 画鋲や弁当箱の出来事により麻痺していた彼女の感情のうち、彼女は久しぶりに恐れを思い出していた。
 急ぎ脱出しようとするが、戸の前には既に屈強な男が二人待ち構えており、ただの帰宅部であるリョウコがどうにかして突破できるものではい。
 助けを呼ぼうとしても先ほど奴らが言っていたように防音設備が整っているのだろうから無意味だ。
 それに叫んだところでここは人通りがまずないから叫び声が人の耳に届くこともない。
 ここは完全なる孤立であった。

「いやっ、やめっ……放してぇ!!!放せぇっ!!」
「放してって言われて放す奴がいるかよ」
「あれ、伊脳さんって意外とカワイクね?」
「おめー眼科行っとけ」

 1対1でも勝てるかどうかわからない相手だというのに、38対1となれば物理的にリョウコが勝つのは不可能であるのは誰がどう見てもわかることである。
 細い彼女の腕を下賎な男たちの手でしっかりと押さえつけられている。いくらもがこうとも決して拘束は外れることがなく、リョウコはマットの上に仰向けで寝かされる形となり懸命に暴れ回っている。
 その様は半狂乱でもあり、汚い男共から逃れる一心でひたすら手を振り解こうとしているがそれは叶うことはない。彼女の小さい体に男が覆いかぶさる。

「キャアっ!!や、やめてよ!!放せー!!」
「いいねぇ、抵抗されればされるほどヤり甲斐があるってもんだ」
「なぁーホントにヤっちゃっていいのか?」
「いいんじゃなぁ〜い?だってウチらあんまりそいつに興味ないしぃ」
「だってよ伊脳。もう俺ら我慢できそうにねぇや!」
「よ、よくない!ほんとに、やめて!!いやっ!放してよ!!」

 彼女の四肢を押さえてなお余る男子たちはリョウコを囲みながらおもむろにベルトを外し始めた。
 カチャカチャという金属音が鳴り響く室内は蒸し暑さをより増強させる。
 やがて男たちはズボンを脱ぎ捨てパンツとワイシャツだけという奇妙な服装になると、リョウコへ更に一歩近づきテントの張った下着をありありと見せ付けてくるのである。
 その艶かしさ、むさ苦しさといったらなかった。
 男たちの中にはすでにハァハァと息を荒げ発情しきっている者すらいるようで、より一層リョウコの恐怖心は強まってくる。
 女たちはというとこれから姦されるリョウコを目の当たりにできることが面白いらしく注目している者と、特に興味がなく会話を続けている者と二者に分かれているようだ。
 リョウコは両腕を上に挙げられた体勢で手首を縛られ更にその上から押さえつけられている。
 両足はM字開脚、まんぐり返しの体勢にさせられており、スカートの中は恥かしげもなく丸見えとなってしまっている。
 男の劣情を誘うにはこの上ないポージングである。

「よし、脱がせ。おっと、服は破くなよ、破いたら帰るときに怪しまれるからよ。できるだけ自然に脱がせ」
「マジかよ、破けた制服とかマジそそるんだけど。ダメ?」
「オマエ馬鹿だなーヤれるだけでも十分プラスだっての」
「あ、そか。ンじゃ遠慮なく脱ぎ脱ぎしましょうね〜」
「やめっ……いいかげんに、して!!誰か!!誰かいませんかっ助けて下さい!誰かッ!!」

 再び必死にもがくが、両手両足拘束されてしまった今、最早もがくこともできずにただひたすらのた打ち回るフリをすることしかできなかった。
 気が付けば男たちはパンツすらも脱ぎ捨てており、リョウコの周囲眼前にはそそり立つ肉棒が数十本聳え立っている。むわっと生臭い臭いが部屋中に立ちこめ思わず鼻を摘んでしまいそうなほどだ。
 充満する雄の臭いは始めて鼻にするには刺激的過ぎた。
 リョウコの視線は宙を右往左往するのみであり、決して陰茎に視線を留まらせることはない。
 今の今までネットや雑誌でしか見たことのない男性に陰茎を目の当たりにして動揺しないわけがなく、初めて目の当たりにするその圧倒的色欲の象徴に圧巻されるしかできなかったのだ。
 想像よりも遥かに大きく、そして遥かに恐ろしい雄のシンボル。

「んじゃそろそろ始めちゃいますか。誰からヤる?」
「そうだなぁ、妊娠させても構わないやつからどうだ」
「んじゃ俺パス」
「俺も俺も」
「キャッハ♪♪男は大変だねぇ」
「女は黙ってろよ!」
「やめて……よ……ねぇみんな、やめてよ!!」
「やめねーよ。みんなオマエでヤりてぇんだってさ」
「……うそだ……うそだ、うそ……嘘って言ってよ!!ねぇ!おねが……」

 初めの方こそ必死に抵抗していたリョウコであったが、次第に身動きが取れなくなるにつれその抵抗は徐々に力ないものへとなっていく。
 諦めたわけではないが、どこか深層心理の奥深くで心が折れてしまいそうになっているのもまた事実であった。瞳の光が徐々に輝きを失いかけているのがそれを物語っている。
 この絶望的状況下で未だに希望を忘れていない彼女も、心のどこかではもう既に諦めてしまっていると自覚しつつあったのだ。
 私が犯されて髄ヶ崎さんが無事ならそれでいいと。
 自らが慰み者になるというのも関わらず常に考えているのは親友のためになること。
 ここからもわかるとおり、やはり彼女の友達思いというのはごく一般的の常識からは大きく外れてしまっているかのようにも思える。

「じゃ、最初俺が頂いちゃうよ?」
「お、腺崎おまえがいくか」
「おう、みんなの精液でズブズブになったとこに入れたくねぇからよ」
「はっは、そりゃ確かに正論だ」
「え……ちょ……ゴ、ゴム……えっ?え!?」
「んなもんあるわけねーだろ。なんでオマエ犯すのにゴム買う金使わなきゃならねーんだよって」
「い、いやだっ……」
「あ?」
「……やだやだ!!やだ!お願いナマだけは……それだけはやめて!……おねがい……」
「…………そんなに言うなら……しょうがねぇなぁ」

 既に腺崎の陰茎はむき出しになっており、彼はリョウコの開脚された両足の真ん中に座っている。いつでも挿入することができる姿勢だ。
 グイ、と両膝を持たれ大きく開脚されそうになるのを防ぐためにリョウコは思いっきり足を閉じようとするが、その他の男たちにより強靭に押さえつけられているためそれは叶わない。
 今自分の股間はたった布一枚だけの隔ての先に存在している。誰にも見せたことがない自分自身のもっとも大切な場所を今この瞬間、クラスメイト全員に目撃されそうというこの状況はこの上ない羞恥と絶望に染められている。
 周りの男どもは自らの陰茎を淫靡にそそり立たせ、円陣を組むようにリョウコを取り囲みその卑猥な笑みを差し向ける。
 女子はというとデジカメや携帯電話のカメラ機能で羞恥にさらされているリョウコを写しているようであった。

「……もう、やめ……て……おねがいっ、だから……」
「ブラとパンツも全部脱がそうぜ」
「俺的には下着姿の方が燃えるんだけどなー」
「映像に写す面では裸のほうが効率的だ」

 最早もがく力もなくなりつつあるリョウコに男どもはその汚らしい手を差し伸べる。
 背後に手を回されブラジャーのホックが外れる。
 腰に手を回されパンツを脱がされる。抵抗など無意味であった。
 自分の衣服が脱がされると同時に最後まで堪えていた抵抗心も一緒に脱がされていくような、もうどうしようもならないような、そんな気がした。
 やがて全てが脱がされると、リョウコは生まれたての姿となりマットに組み伏せられる。

「ナマだけは嫌って言ったよな」
「うん……うんっ、おねがい!せめて、それだけはっ……」
「よし!わかった!それじゃ……」
「それじゃあ……」
「ナマの気持ち良さを教えてやるよ」
「えっ…………ちょ、やめっ…………やぁっ!」

 ズンッ!!
 と、腺崎は己のそそり立つ肉棒を無慈悲にもリョウコの肉壷に差し込んだ。
 愛撫もせず恋人らしい仕草など何もせず、ただ己のやりたいがままに少女の無垢な穴へと何の戸惑いもなく貫通せしめた。
 濡れてもいない、何も準備されていない小さな孔へ冒涜的な象徴を無理やりねじ込むその姿はもはや陵辱そのものである。
 
「いっ…………いあ゛あ゛あぁぁ!!!痛い!痛いぃぃ!!や゛め、ああああぁぁ!!」
「!?なんだこりゃ!コイツ処女じゃーか!」
「は、ははは!!血が出てらぁ!」
「痛いぃ!!抜いて、ぬぅ、うぐぅ!!ん゛あぁぁ……!」

 ぶちぶち、という音が一瞬鳴ったか鳴ってないかすると、リョウコの膣から鮮血が流れてくる。
 本来破瓜の痛みは始めて彼氏を受け入れた証拠として、痛いながらも大切なものとして記憶されるべき痛みというのが世間一般的の常識である。
 しかし今回のこれはそんなものではない。
 ひたすら無理やり強姦され互いの意見などまかり通らない一方的な挿入。それが痛いの一言で済まされるものではないのは上々承知の上であった。
 破瓜の痛みというのは個人差こそあれど大抵はひどく痛むことが多い。それを何の労りもなく、己の欲望を満たすがままにぶち壊される喪失感、虚無感。
 それらたくさんの感情が相まって、より一層の激痛となるのだ。その痛みは己のことしか考えていない男どもにわかるはずもない。
 自らの初めてをこのようなどうしようもない連中に奪われたという事実が、重く重くリョウコにのしかかるのであった。
 その重みは同時にのしかかっている腺崎の重さよりもより重く感じた。

「ふうぅ、ふっ、処女マンコきつくていいっ、はぁっ」
「アッハハハ〜あんたチンコ血まみれじゃない☆ウケルー」
「ああっ、気持ちよくてっよ。忘れてたわっ……ふぅっ」
「ん゛ん゛んぐううぅ!!いだい……痛いよぉ……やめてよ……」

 ずちゅ
 ぐちゅ
 悲哀な水音とカメラのシャッター音、そしてリョウコの悲痛な声だけが鳴り響く。
 今まさに自分の膣に腺崎のペニスが挿入されているという事実を受け入れたくないリョウコは目を背けるが、肉と肉が擦り合わさる激痛がそれを許してはくれない。
 セックスが気持ちのいいものだなんて大嘘だ。彼女はネットで見たありきたりな情報を頭の中で恨む。
 それとは真逆に、ピストン運動を繰り返す腺崎の方はその肉と肉の摩擦により生じる快感を自らの愚息をもってして十分に感じ取っていた。
 鮮血により赤く光る肉棒を無垢な肉壷へと一心不乱に突き進み開拓する。
 その開拓を周りの者はカメラという端末で懸命に記録し、観察している。
 リョウコが主役という意味が全てはここにあった。

「いやーマジで気持ちいいわ。実はコイツ名器か?」
「マジかよ。おい、後がつかえてんだ、早くすれよ」
「はっ、……言われなくてもっ……もうすぐで出すからよっ!」

 その言葉とともに更にリョウコを突く速度は加速を始める。
 もはやリョウコを襲うのは信じられないほどの激痛でしかなく、油断すれば気を失いそうになる。彼女は目をひん剥き、口を開けひたすら叫び続けるしかなかった。
 できることなら今すぐにでもこいつらのチンコを噛み千切ってやりたい。心から憎悪の念で睨みをきかせるが、男子数名に押さえつけられているリョウコにそれを達成する術はないのだ。

「痛い……痛い痛いいたいぃ!!や゛めっ!!んあぁ゛……」
「うっ……きつっ……!で、出るっ!!」
「……や、やだ、やだやだ!外で!ナカはダメ!」

 ラストスパートをかける腺崎にリョウコは最悪の事態を予測し必死に抵抗する。
 抵抗するといっても泣け叫ぶか腰をくねらせることしかできないのリョウコ。
 その腰のくねらせが丁度良いように腺崎の亀頭を擦り刺激していることに彼女は気がついていなかった。抵抗すればするほどより相手にとって気持ちのいい性交となるという墓穴を掘っていたのだ。
 もし出されたらどうしよう。
 妊娠したらどうしよう。
 下ろすか産むかどうしよう。
 学校どうしよう。
 子育てどうしよう。
 お金どうしよう。
 激痛の中でその葛藤だけがぐるぐると堂々巡りしている。
 保健体育の授業でもよく性交する際はコンドームをつけなさいということを先生は逐一言っていた。
 そんなことを頭の中で思い出し、今自分は何をやっているのかを認め絶望する。

「はぁ……イクぞっ……出っ、はぁぁ!!」

 ドクン
 ドクン……
 腺崎の体が一度大きく跳ねたかと思うと、急激にピストンを止め恍惚の表情へと変わっていく。
 そしてリョウコは自分の胎に何か別の熱いものを感じると、それが何か瞬時に理解し顔を引きつらせる。
 快感に酔いしれる腺崎とは相違して、リョウコはとても冷ややかな視線で見定め、自分の中に注がれる熱いものを否応なしに受け入れる事しか出来なかった。

「……うそ、だ……ほんとに……」
「はぁーっ……うくっ、伊脳、お前マジサイコーだよ」
「い、いやぁ……いやぁ、いやぁ!!!出て、出てけ!出てけよぉ!!」

 腺崎がペニスを引き抜くと血の赤に塗れた肉棒が粘着性の粘液を垂らしながら脈打っているのが見えた。
 思わず絶句したリョウコはすかさず胎にあるある熱いものをかき出そうと、指を突っ込み奥まで引っかくがそれらしい物体の反応はない。

「あ、多分無駄だよ。相当奥に出したから」
「お前鬼だな」
「だって超気持ち良かったんだもん。腑次原もヤればわかるぜ?」
「もう……やだ……やめてよぉ……」
「残念ながら伊脳さん、そりゃ無理だ。クラスの男子全員分は満足させないとなぁ」

 すると次はすかさず腑次原がリョウコの股の眼前へと迫り、その逞しい陰茎をリョウコへとあてがう。腺崎のモノよりふた周りも大きいであろう腑次原のモノは先ほどまで処女であったリョウコにとってとても受け入れ難いものがある。
 黒光りする亀頭は今まで幾度となく女性を歓喜の渦へと巻き込んできたのだろう。
 しかし、今回にいたっては女性を快感させる歓喜ではなく、痛みと絶望を味あわせる悲哀でしかなかった。

「いやぁ……もうやだぁ!放して!!」
「チッ……うるせーんだよ!!」

 言うか言わないかするその直後、腑次原の拳はリョウコの右ほほ目掛けて力強く殴りつけた。手加減もなにもなく、女子に振るっていい力ではない。ただの暴行であるそれは室内を一瞬響き渡り、そして静寂に包まれた。
 突如として顔面を強打された衝撃により、リョウコ自身も一瞬何がされたかわからなかったが、顔を殴られたという事実が分ると途端に色濃い恐怖が襲ってくる。
 自分は事が済むまで逃げられないのだと。開放されないのだと。
 慰み者になることでしか髄ヶ崎を救えないのだと。

「うるさすぎてしゃーねぇ。おい脛森、礼のものをよこせ」
「いいの?アレ使うともう伊脳さんダメになっちゃうよ」
「こんなやつダメになったところで誰も気にしちゃいねーだろ」
「はは、正論だね。はいこれ、くれぐれも絶対吸わないでよ?腑次原もダメになっちゃうからさ」

 脛森が腑次原にあるものを渡している。
 それはなにやら怪しげなビニール製の袋であり、中から出てきたのは青い蝶の羽根のようなものであった。その羽からはサラサラとした青色の粉に包まれており、まるで鱗粉のようでもある。

「これをどうすればいい」
「簡単さ。その羽根をひとつ飲ませるだけでいい。効果は使ってみたらわかるよ」
「わかったよ」

 腑次原はそう言ってブルーバタフライと呼ばれるドラッグのしみ込んだ蝶の羽根をひとつ指でつまみ、放心とするリョウコの口の中に突っ込んだ。
 んぐぅと喉が鳴り、抵抗の甲斐虚しくリョウコは蝶の羽根を飲み込む。
 そうして腑次原も先ほどの腺崎と同様に無慈悲に無理やり、リョウコの内へと一気に挿入する。
 やはり濡れていなく、入れるのには少々苦戦したが腺崎よりも大きいサイズの腑次原もどうにかして挿れることができた。
 が、しかしリョウコの表情は已然のまま苦しそうに叫んでいるままである。
 破瓜の鮮血は既に凝固してしまっていた。

「おい腺崎、マジだな、キツくていい感じにシマってきやがる」
「だろ?やっぱ伊脳、名器なんだわ」
「おおきっ……いだい゛!!痛いぃ!裂けっ……あ゛あ゛ぁっ」
「うるさい黙れよ!脛森ぃ!全く効かねぇぞ」
「もうすこしだよ。もうすこししたら凄い事になる」

 脛森の言葉を信じもう少しだけうるささに我慢をしつつ腰を振り続ける腑次原。
 しばらく待ってから脛森がいい頃合いだと言うので、リョウコの片方の乳房をわしづかみにしてみる。
 ピンと上を向いた乳首に向かって、手のひらでさすり上げていく。
 「あっ、うん」とリョウコが呻いた。
 しかも、押さえつけられていながらも、反り返った背中がこちらの上体を浮かせたほどの反応であった。よがりながら、リョウコは、自らの変化に戸惑い頬を上気しているようだ。

「痛い!いたっ、いたっ…………あれ、変だな……なんで……」
「お……?」

 変化を感じた腑次原は一度大きく奥まで突いてみてみる。
 するとリョウコはくうっ、と叫んで全身が短く痙攣した。見開いた両の瞳を白黒させている。
 彼女の中で何かが切り替わったようだ。
 再度大きく挿入してみると、今度は内部の反応までもが今までと異なっており、経験豊富な熟女さながらに、肉の壁が波打っていたのだ。

「伊脳、お前、やらしいんだろ?もっと足広げろよ」
「あ、あれ……なんで痛くないの、かな……っていうか、むしろ……」

 先ほどまでは泣き叫ぶほどの激痛だったのにもかかわらず、今ではその痛みはほとんど消えてしまっている。代わりにやって来たのは、彼女が本来感じるべきである快感そのものであった。
 いや、その快感はより増強されて突如としてリョウコに飛来する。
 気がつけば膣は愛液により全体が湿り気を帯びており、がっちりと押さえつける男たちを振り解こうとはしていなくなっていた。
 全力でもがき嘆いていた彼女は一変し、理性のタガが外れかかる淫乱な少女へと早変わりしてしまうとは、思いもよらない。

「伊能、お前、やらしいんだろ?」
「……うぅ……」
「もっと足広げろよ」
「……」
「伊脳」
「…………うん、私はとってもやらしい。だって私、処女喪失したばっかなのにこんなに気持ちよくなってるんだもん。私ね、いやらしい、すごくすごく」

 リョウコは口先まで饒舌に変化していた。
 処女であった彼女が破瓜の痛みと処女膜を失った悲壮感で悲しみ嘆いていたものとは一変し、レロレロと舌を宙に突き出している彼女の変わりよう。
 ブルーバタフライにどのような効果があるかは知らないが、それにしても、彼女の豹変は常軌を逸していた。
 今や全くの別人であった。
 あの痛みに苦しんでいたリョウコが、「はっ、はっ」と荒い息を立て何度となく絶頂に達し、ついには緩くなった拘束から逃げようともせず腑次原の上に覆いかぶさって、淫乱なからくりを施された少女人形のごとく、いつまでもいつまでも腰を振り続けるのであった。
 そこにはリョウコの忘我の表情があった。両の瞳はどこを見ているわけでもなく虚空を見つめ、何処か違う世界を夢見ている。

「あぐっ……やばいっ……出すぞ!!」
「んっ……頂戴、もっといっぱい私にちょうだい」

 絞りつくすように腰をくねらせると、膣の肉襞は劇的に急所を攻め立てる。
 そんな魔性の膣に耐えられるわけがなく、腑次原は彼女の胎で白濁としたものを吐き出した。
 ぶるぶると震えるリョウコ。
 その姿をカメラで捉える残りの者達も、リョウコの変貌に若干の恐れを抱きながらも手を休める事はなく撮り続ける。
 ごぼりと接合部から精液が溢れると、リョウコはそれを指で拭い取り口に頬張る。飴玉をコロコロと嘗め回すように舌を右往左往させると、ごくんと音を立てて飲み込んだ。
 その彼女の姿はもはやどのような娼婦も霞んで見えるほど、淫靡で小悪で艶めかしい。

「す、すげぇ……脛森、アレ一体なんだったんだよ」
「最近ニュースでやってるだろ?都市部に生えた青い花。あれが原材料だよ」
「そういえばそんなものもあったっけ……」
「強い催淫効果がウリなんだけどねぇ……依存性が大麻とか覚せい剤とかとは比べ物になんなくて。一回つかったらもうアウトだよ」
「スゲェな……」
「効果時間はおよそ2時間。それが切れると猛烈な禁断症状さ。ま、僕らには関係ないしょ?」

 突き刺さったペニスを抜くと、更に精液が溢れ出てきてリョウコはさも嬉しそうに嬌声を上げる。
 そして休む暇もなく、新たな男がリョウコの元へとにじり寄り逞しいペニスを見せびらかすと、リョウコは自分自身で股を開き男どもを誘惑するのだ。

「まだ、大丈夫、私まだずっとするの」





―――――





 ヴー、ヴー
 ヴー、ヴー
 ヴー、ヴー、ヴー
 
「ん……んああぁ……」

 重苦しいバイブ音でリョウコは目を覚ます。
 気がつけば彼女は自室のベッドで寝ており、服装も制服のままである。
 外は既に暗闇に包まれており、完全な夜であった。

 ―あれは夢だったのではないだろうか―

 そう思う彼女であるが、今まで感じたこともない腰の痛みと股間の疼き。
 そして何よりパンツにこびり付く乾燥した精液が夢ではない事実だと訴えていた。パリパリに乾いており、非常に違和感を感じさせる。
 それになんだか異常に喉が渇く。
 何かが足りない。もっと欲しいけど、何が欲しいか分らない。
 その思いが徐々に強まってきた。

「と、とりあえずメール……と」

 先ほどからひっきりなしに鳴るバイブを遮り、彼女は携帯電話を開く。
 しかし、そこに書かれてあったのは彼女が最も恐れていた事であった。



【送主:脾山
 件名:クラス会議について
 添付ファイル:画像22件 動画5件
 本文:今日のクラス会議お疲れ様。クラス代表として一斉送信で連絡を回します。
 今日のクラス会議は髄ヶ崎さんのみ委員会活動により出席できなかったため、会議の内容を参考資料として髄ヶ崎さんに送っておきます。どれも貴重なものなので皆さん絶対に消さずに保存しておいてくださいね。資料は添付ファイルを確認してください。





































































 伊脳、明日も便器役よろしく】



























 リョウコは恐る恐る添付ファイルを開こうとする。その手はひどく震えており、決定ボタンを押すのさえ手間取ってしまうくらい震えていた。
 そしてその震えの原因はブルーバタフライの禁断症状だということは彼女は知らない。むしろ彼女はそのようなドラッグを服用した事を覚えていなかった。

 いよいよもってボタンを押すと、画像と動画の読み込みが始まる。
 なんてことはないただの読み込み時間だが、今の彼女にとって永遠とも思えるほどに長い待ち時間であった。

 ついに読み込みが終わり、画像一覧が表示される。
 そして彼女は――――

 表示された画像。
 それは、リョウコ自らが陵辱されている画像そのものであった。
 痛みに嫌がり泣き叫んでいる画像があり、ドラッグを服用されて快感に酔いしれているものもある。
 苦痛に顔を歪ませ大口を開けている画像。
 破瓜した瞬間の画像。69している画像。
 射精される瞬間の画像。手マンされている画像。
 顔面に嬉しそうに精液を浴びる画像。立ちバックされている画像。
 数本のペニスにむしゃぶりつく画像。手コキしている画像。
 口内射精されている画像。それを飲み込んでいる画像。
 肛門に挿入している画像。足コキしている画像
 バイブを挿入している画像。アナルビーズを入れている画像。
 顔面を殴られる瞬間の画像。スパンキングされている画像。
 乳首を吸われている画像。パイズリしている画像。
 足でホールドしている画像。騎乗位している画像。
 精液塗れになりながらピースしている画像。
 動画も動画でそれらに類似した動画が全てであった。


「あは、ははっ」

 生気の宿らぬ乾いた笑いをすると、リョウコは携帯電話を手からすり落とす。
 そしてフラフラと引き出しを漁り始めた。

 暗闇に光る彼女の瞳は血のように赤く、夜のように黒く染まり始めていた。
13/03/08 23:37更新 / ゆず胡椒
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■作者メッセージ
ひたすらに暗いです。やはり人を選びますでしょう。
一切魔物娘が登場しておりませんが、ヴァンパイア様は次回までお待ちくださいませ。


相違相愛ラブラブエッチ期と約束したな。あれは嘘だ。

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