連載小説
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No.00 プロローグ
 2000年を過ぎた時代。

 人々は技術を発展させ、豊かな暮らしをするようになった。

 古きものは忘れ去られ、新しきものが受け入れられる時代。

 人々が忘れかけたそれは、人知れず静かに息づいていた。










 日本と呼ばれる場所。

 ある町から少し離れた場所にある森林地帯。その木々の間を凄まじい速さで駆け巡る2つの影。それはまるで獣の如く移動しながらぶつかり合っている。

ヒュッ

 突然、1つの影が木々より高く飛び上がり、満月を背にした人のような形の影となった。それは両腕を横に広げ、さらに両手をパッと広げる。すると、その影の周りに無数の青い光が出現し、影以外の小さな何かが浮かび上がった。

ブンッ!

 影が交互に腕を前に振ると、地面に向かって何かが降り注がれる。その地面にはもう1つの影が高速で走っていた。

ザシュ! ザザシュ! ザシュザシュ! ザシュザシュザシュザシュ・・・

 地面に突き刺さるそれは、包丁、果物ナイフ、ハサミ、カッター、彫刻刀、剃刀といった日常で見かける刃物ばかりである。無数にあるそれらは地面へと突き刺さっていく。投擲される刃物の雨をもう1つの影は素早く走り避けていった。その内、その影は木々の奥へと入っていき、飛び上がっていた影はそれを見失う。

「?」

 地上へと着地した影は、見失った相手を必死に探す。その時、それは何かの気配に気付いて、咄嗟に左へ飛び上がった。

ブゥン!!
「!」

 木々の間の闇から、紫色の長く伸縮するものが現れる。簡単に表現すると、それは触手だった。先が卑猥な男性のモノの形をした紫色の触手。それは飛び避けようとした影の右の脇腹目掛けて、鞭のように弾き飛ばした。

バシィィィ!!
「ぐぅ!?」

 激痛に耐える男の叫び声が響き、影は地面へと転がっていく。それでも体勢をすぐに直して、片膝をついた状態で触手の出てきた闇を見つめた。そのままの体勢で影は右手を挙げて、何かを持っている仕草をする。

キィィィィィィン

 影の右手より少し上で青い光がまたも出現し、今度は影よりも長いものが現れた。真正面から見れば、『工』の形をし、横から見れば赤茶色の長い鉄で出来たもの。それは建物を建てる際に使われる鋼鉄で出来た棒“鉄骨”である。

ブン!

 影は右手で槍を投げるかのように、触手の出てきた闇へ鉄骨を投げつけた。

ズドォォォォォォン!!

 凄まじい轟音が鳴り響き、触手の付け根に命中したのか、影を弾いた触手がパタリと倒れて動かなくなる。

「・・・」

 手応えの無さを感じ取った影は再び、触手の出てきた方向へ走り出した。





 森林地帯にポツンとある建築途中で捨てられたような廃墟。鉄骨だらけで晒し状態の最上階に走って来た影。満月の光でその姿が照らし出される。


 黒色の学ラン姿。上着の前を留める金色に光るボタン。黒髪のショートヘア。どこからどう見ても15歳から17歳程度の男子学生。少し鋭い表情で辺りを見回した。


「何処を探している?」
「・・・」

 不意に声を掛けられた彼は、聞こえてきた方向へゆっくりと顔を向ける。その声の主は、彼よりさらに高い位置の鉄骨の上に直立で立っていた。


 白の長袖のセーターに赤のロングスカート。腰より長い黒髪が風で横へとなびいている。その目は少しだけ赤みを帯び、不敵に笑う。誰もが見ても絶世の美女だと確信するほどの美しさをもった女性だ。しかし、不気味過ぎる雰囲気を漂わせている。


「ふふふ・・・またもお前と出会うとはな・・・しつこいものだ」
「貴様が俺と出会った時点で、運が尽きたも同然だ」
「ふむ・・・口調も変わったようだな。持ち主の知識からか? 憐れよのぅ・・・」
「行く先々で人を喰らう貴様と一緒にするな」
「よかろう・・・久々に戯れるとするか」

 女性が右手で顔を隠すと、不気味な笑みとともに背後から多数の触手が出現した。それは先程彼を弾いた紫の触手と同じものだった。それを見た男子学生はその場から後方の外へと飛び逃げる。

「っ!」

 彼が建物の外へ出た直後、建物から無数の触手が飛び出した。それらは全て彼に向かっていく。地上へいち早く着地した彼は右手の人差し指と中指を立てて、顔の前で縦に構えた。触手がもうすぐで近づく瞬間、彼は構える手を右側へ振る。

「浄化結界!」
キィィィィィィン! バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 彼の足元に円とともに五芒星が青い光で描かれ、彼を取り囲むように光の円柱が出来上がった。それに当たった触手は跡形もなく溶け消えてしまう。残った触手は根元である女性へと戻っていく。

「ちっ!」

 彼は何かに悪態をついて、左腕と建物の上にある鉄骨へ青い光の線を繋いだ。それは光を失うとワイヤーに変化し、彼はワイヤーでひっぱり上げられるかのように上へ昇る。再び戻ったそこには、女性が先程の笑みを変えずコンクリートの床で立ち尽くしていた。彼女の足元にも、彼と同じような赤い五芒星の魔法陣が出来上がっている。

「所詮は同じ芸当しかできぬか・・・」
「貴様も気付いているはずだ。我らのような人ならざるものが、世間から忘れ去られていることを」
「確かに・・・知られなければ、我やお前の存在理由はない。だが・・・」
「?」

 女性が両手を拡げると、辺り一帯に赤い光が満ち始める。それは建物を取り囲むように円陣が出来上がった。突然の出来事に彼は戸惑い、右手に青い光を集中させた。出来上がったのは一枚の札で、彼は青い光を帯びたそれを女性に投げ付ける。

ビシィィィィィィィィィン!!
「!?」

 彼女に当たる寸前で、投げつけた札は彼女を取り囲む赤い光の壁に当った。それは互いにぶつかり合った後、一瞬ピンク色の光を放って消滅する。

「貴様! 何を!?」
「案ずるな。お前も連れて行くつもりよ・・・もっとも辿り着く場所は違うがな」
「なんだと!?」
「忘れ去られるなら、存在しやすい場所へ行くだけ」
「!・・・まさか・・・」

 驚愕する彼に、女性はニヤリと口元を歪ませた。

「もとよりこの世には魅力が徐々に失われておる。もっと魅力ある世でお前を嬲り殺してやろう」
「させ・・・」
「もう遅いわ」

 赤い光が輝きを増し、その中心にいた二人の姿が輝きに飲まれていく。光が徐々に治まっていくと、その場に二人の姿はなかった。





五芒星の魔法陣の跡を残して・・・。
12/04/21 07:30更新 / 『エックス』
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