連載小説
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『アカボシヤドリギ』
密林地帯には、薬学者をときめかせる植物が数多く存在する。
その多種多様な植物の中でも、『アカボシヤドリギ』ほど珍妙な植物は見たことがない。
このアカボシヤドリギは別名「寝台樹」、ベッドツリーと呼ばれる。
何故このような名がついたかといえば、この植物の幹に球状の大きな空洞ができるためである。
空洞の中は、柔らかく肌触りの良い赤い綿毛で覆われており、古くは名前の通り、寝台としても利用されていた。
アカボシヤドリギにとって、この空洞こそが繁殖の手段なのである。
では、今回はレポートを交えて、アカボシヤドリギの説明を行おう。

アカボシヤドリギの調査のために、密林へとやってきた私はまず宿り木となりそうな太い樹を探した。
名前の通り、アカボシヤドリギは他の植物を宿主として成長する植物であり、相当なサイズの樹でなくては宿主にならない。
よって、密林でアカボシヤドリギを探す時は、大樹を目印にして探すとよく見つかるのだ。

この知識があった私は、別段苦労もなく見つける事ができた。
しかし、発見したアカボシヤドリギの中から悩ましい声が響いている。
どうやら先客がいたようだ、私は背の高い植物の裏に隠れる。
アカボシヤドリギの空洞で交わっていたのは、クー・シーだった。
クー・シーの相手は…、身なりからするに行商人であろう。
近くに荷物などがないことから察するに、隊商として複数人で荷物を運んでいた。
しかし、運悪くこの男だけがクー・シーに捕まってしまった。
大体このような状況だろう。
出歯亀が目的ではないものの、これもまた調査だと思い、激しい交わりが終わるのを待った。

しばらくして、クー・シーは満足したのか、アカボシヤドリギの空洞から出てきた。
肩には今回の戦利品とでも言わんばかりに、すっぽんぽんのまま気を失った男を抱えている。
どうやらとても気に入った様子だ、二人の未来に幸多からん事を。
こうして、アカボシヤドリギには男の服だけが残された。
私は急いで、アカボシヤドリギの空洞内から男の服をとった。
男の服には黄色い粉と、一見するとダニのような虫にも見える種子がついている。
これこそが生殖の手段なのだ。

黄色い粉はアカボシヤドリギの花粉で、この植物の幹で交わった人間や魔物に付着する。
この花粉には軽い催淫作用があり、魔物にも人間にも効果がある。
端的に言えば、別のアカボシヤドリギで第2回戦を行わせるよう仕向け、受粉するのだ。

そして、このダニのような種子こそ、アカボシヤドリギの種子である。
細かい鉤状の棘が生えており、皮膚や髪に付着しやすい形状をとっている。
つまり花粉も種子も、人間や魔物を別の場所へと運んでもらうのだ。
言わば、魔物や人間がいなければ生きていけない

アカボシヤドリギのこのような生殖方法は、魔物と人間の関わりを考えると、とても理にかなっている。
しかし、この生殖方法には大きな欠点がある。
その欠点とは、この方法での生殖が困難な魔物…、ミューカストードやスライムなどの魔物がいることだ。
何故、その魔物達には、アカボシヤドリギの生殖方法が困難なのか。
アカボシヤドリギにやってきたミューカストードの事例を見てみよう。

ミューカストードが獲物となった男を連れて、アカボシヤドリギにやってきた。
男は、既にミューカストードの粘液にまみれている。
粘液の光沢のせいで、遠くからでも一瞥でわかるほどだ。
ミューカストードによって、アカボシヤドリギへ押し倒された男性がどうなったか、想像に難くない。
これ以上の行為内容の説明は本筋を離れるため、割愛しよう。
…もっとも、ミューカストードによって全身を舐め尽くされ、嬌声を上げる男性の話など聞きたい人間はいないだろう。

問題はミューカストードの唾液、汗、愛液などの粘液である。
男性はもちろんのこと、アカボシヤドリギの中も粘液でひどい有様である。
粘液に塗れるとどうなるか、それは単純な話である。
花粉も種子も、ミューカストードや獲物の男性に付着しないのである。
それだけではない、粘液が乾燥しなければ、次の獲物にも種子が付着しない。
つまり、この植物の生殖に大きな影響を及ぼすのである。

このようにアカボシヤドリギは、多様性溢れる密林地帯の中でも、一際異彩を放つ植物だ。
ちなみに、このアカボシヤドリギを切り取って、持ち帰ろうとしても無駄である。
このアカボシヤドリギは、宿り木となっている大樹から切り離されると、驚くほどすぐに腐ってしまう。
腐ったアカボシヤドリギの臭いは、炎天下の日陰に生ゴミを放置したような不快な臭いである。
馬車を2台チャーターして、苦労の中で運んだとしても、返ってくるのがこの臭いではとても割に合わない。
今後、アカボシヤドリギについて研究する学者がいるのなら、現地でのフィールドワークを強く勧める。
18/08/29 01:21更新 / アカフネ
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