ポケットをたたくと

♪ポケットのなかには♪
♪ビスケットがひとつ♪
♪ポケットをたたくと♪
♪ビスケットがふたつ♪
♪もひとつたたくと♪
♪ビスケットがみっつ♪
♪たたいてみるたび♪
♪ビスケットはふえる♪
♪そんなふしぎな♪
♪ポケットがほしい♪
♪そんなふしぎな♪
♪ポケットがほしい♪



 お菓子みたいに可愛らしい家に少女のこれまた可愛らしい歌声。家の中でくつろぐ男の子はその声を聞きながらそれにつられて体を揺らしています。

「できたーーーーーーーー!!!!!!」

 しかし、突然歌は途切れて叫び声に。男の子はびっくりしながらその声の主の元へと駆け出します。
「どうしたの!? ルル!?」
 たどり着いたのは薬や工具がいっぱい置かれた少し物騒なお部屋。中には女の子が一人。
「できたー! できたできたの! できた!」
 ルルと呼ばれた魔女の女の子は大はしゃぎで男の子に抱きつきます。
「だ、だから──なにができたの?」
 そう男の子は聞きますが、しかし。
「うふふ──♪ポケットの中にはビスケットがひとつ♪」
 ルルはまたまた歌い出してしまいます。
「?」
 それは男の子にとってはまるで意味がわからない歌──異国の国の歌。
 しかしそれはなんだか陽気で、意味はわからなくても元気になってしまうような歌。
「♪ポケットを叩くとビスケットがふたつ♪」
「ねぇねぇ、さっきからそれ歌ってるけども、それなんて歌ってるの?」
「うふふ、うふふ。あのねあのね、これはねジパングのね、『ポケットにビスケットを入れて叩くとビスケットが増える』って歌なのよ!」
「? 増えるの?」
「そう! 増えるの! とても楽しい歌よね!」
「確かに楽しいけど……それって割れてるだけじゃないの?」
「もう! ロマンがないわね。そろそろハロウィンなのよ? もうちょっとこう、ワクワクしてもいいんじゃないの?」
「うーん」
「まぁ、いいわ。でも、そうよね。その通りよ──ポケットの中のビスケットは二つに割れちゃっただけ──普通ならそう考えるわよね。でもでもね! 魔法のてんさいである私はそうは考えないわ。この世の不思議を叶えるのが魔法なのよ? だから──」
 ルルは自慢げに何かを取り出します。しかし、それは何の変哲もない小さなポケット。とても小さくてビスケットが一つだけしか入らなそうです。
「……? なにそれ?」
「もぅ、にぶいわね。コレが! その魔法のポケットなの! 叩くとビスケットが増える! まさしく魔法のポケットなの!」
「それが? そんな小さなポケットが?」
「疑ってるようね。じゃあ見てなさい。ほら、今はこの通りなにもはいっていないわよね? それじゃあいくわよ」
 ルルはそこらへんにあったビスケットを魔法のポケットにつっこみます。そしてパシンと拳で一叩き。
「うっふっふー……これが、魔法のポケットよ」
 ポケットを逆さにすると……
「え? えええ!?」
 なんということでしょうか! ビスケットが二つ落ちてきました!
「ふ、増えた! 本当に増えた! 嘘でしょ!?」
「ところがどっこい! 嘘じゃないんだな」
「ねぇねぇ! 僕にもやらせて!」
「じゃあ一つあげるから増やしてみて。私はこっち食べるから」
 さくさくと片方のビスケットを食べるルル。
 男の子は夢中になってポケットを叩きまくります。
「よーし……うおおおおおおお!!!」
 ドドドド……と滝のようにビスケットが流れ出てきます。
 これには男の子大喜び。まるで夢のようです。
 男の子は目をきらきらさせてビスケットにむしゃぶりつきます。
「おいしい! すっごいおいしい!」
「あー……でもこんなに出して食べられるの?」
「あ……」
 さすがにやりすぎでした。これでは二人で一週間かけても食べ切れません。
「……そうだ! もう少しでハロウィンだし、みんなに配っちゃいましょうよ!」
「いいね! こんなにすごいポケットを独り占めするなんてもったいないもんね!」
「よし! そうとなればこれだけじゃ足りないわ! もっともーっと叩いてじゃんじゃん作りましょう! 町中の人に配れるくらいに!」

 こうして二人はハロウィンに向けての準備を始めることになりました。

 二人は夢中になってポケットを叩き続けました。
 出てきたビスケットは全部大鍋の中に入れて取っておきました。町の人に配るにはもっともっと必要です。
 二人は金床を持ってきて交互にカナヅチでポケットを打ちます。
「「♪ポケットの中にはビスケットがひとつ♪」」
 カン
 カン
「「♪ポケットを叩くとビスケットがふたつ♪」」
 二人は大声で歌いながらリズムに合わせてカナヅチを打ちます。汗だくになりながらも一生懸命に。
 町の人のためとなると二人とも疲れを忘れてしまうのでした。

「「♪そんなふしぎなポケットがほしい♪」」

「「♪そんなふしぎなポケットがほしい♪」」

 何回、何十回──いいえ、何万回目でしょうか。ついにハロウィンの夕方が来た頃。
 二人がポケットを叩いた時、ポケットに異変が生じます。
「「え?」」
 ボゴボゴボゴボゴ
 ポケットが音を立てて膨らみ、暴れ始めたのです。
「ルル! これどうなってるの!?」
「わ、わかんないけども──てんさい的直感が囁いてるわ──作りすぎだって」
 ボゴボゴボゴボゴ……
 そしてついにポケットは──

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!

 ためにためたビスケットを吐き出してしまうのでした。
「ギャーーーーーー!!!」
「きゃーーーーーー!!!」
 まるで大波のようなビスケットが二人を、部屋を飲み込んでしまいます。
 それでもビスケットは止まりません。部屋のドアを壊し、家の中へと流れ出します。しかし、家中を満たしてもビスケットはまだ止まりません。
 ついに行き場をなくしたポケットは窓から飛び出してしまいます──まるでロケットのように。
「もごもご……ふはぁ!」
「ぷはぁ!」
 二人はなんとかビスケットの中を泳ぎ、窓から顔を出します。
「うわぁ……」
「わぁお……」 
 ポケットは町の上空を駆けめぐっていました。ビスケットを町中に撒き散らしながら。

「なんだなんだ! 空からビスケットが!」「雪……え? これビスケット!?」「うわぁ! この世の終わりだぁ!」「どういうことなの!?」「見て見て! ビスケットが降ってるよ!」「ビスケットの雨だ!」「さくさくしてる!」「ビスケットの奇跡だ!」「やったー! ビスケットだビスケット!」「ビスケットの神が舞い降りた!」「おいしい! このビスケットおいしいよ!」「すごいすごーい! まるで魔法みたい!」「ありがとう! ビスケットの神様!」

 みんな。
 子供も大人も。
 女の子も男の子も。
 人間も魔物娘も。
 みんなみんな。
 大はしゃぎ。
 ビスケットを手にとって。
 夢中でかぶりつきます。

「あー……やっちゃったね」
「やっちゃったね、ルル」
「……」
「……」
「うふふ」
「ふふふ」
「あはは!」
「あはは!」
「あっはっはっはっ!」
「あっはっはっはっ!」

「「まぁ、いっか!」」



 その年のハロウィンはずっと未来にまで語られる伝説の夜になりました。
 それほどまでに。
 まるで夢のような。
 まるで魔法のような。
 おかしなおかしな夜だったのです。

17/10/20 21:34 鯖の味噌煮


まだ少し早いですが今年もHAPPY HALLOWEEN!!
この二人のお話は今貯めてる連載終わったら書きたいと思います
[エロ魔物娘図鑑・SS投稿所]
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33