連載小説
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もう本当、何なんだよ一体…
「え…パパって…あっし?」
「♪」

あっしの言葉を無視して嬉しそうにふよふよとゆっくり飛んでくる綿毛娘。空いている手で進行を阻止すると、これまた嬉しそうに指にじゃれついてきた。

「あ〜♪」
「……………。」

勘違いされる前に言っておく、あっしは28だけど嫁も居なけりゃ子供も居ない。多分…て言うか確実にこの子はケサランパサランだ。綿を吸い込まされちゃ敵わないので二歩程下がった。

「…………?」

…付いてきた。だから綿危ないって。
もう少し下がるか。

「……………。」

また付いてきた。しかも少し不安げな顔をしながら。やべぇ、ちょっと楽しくなってきた。
今度は五歩下がってみた。

「…………ふぇ。」

あ、ヤバい泣く。

「ごめんごめん、悪かった。」
「……すん。」

慌てて人差し指で綿毛娘の頭を撫でてやると、徐々に先程迄の笑顔に戻ってきた。そろそろ良いかと指を離そうとすると、小さい、本当に小さい両手で人差し指を引き留めてくる。

「やぁ〜!」

懐かれたってレベルじゃねぇぞ、これ…。

「パパ♪」
「誰がパパか。」

にしても小さい。ケサランパサランは種族として総じて小さいんだろうけど多分この子はその中でも特に小さいのでは無いだろうか。その身長、目測で8糎。

「嬢ちゃん、何であっしがパパなんだい?」
「パパ!」

はい、元気よく返事してくれました。…でも会話んなってねぇ…。まさかとは思うが、もしかするともしかするかもしれない。つまりアレだ、さっき綿毛から顔出したのが(表現的にちょっとおかしいが)孵化だった。んで、そこで一番最初に見たあっしの事を親だと思ってる…。
鳥か何かか!?お前らは!
でも、そうだとしたらパパしか喋らないのは生まれたばかりだから。やたら甘えてくるのはあっしが親だと誤認してるから。と、この綿毛娘の行動にも頷ける。確かケサランパサランは植物みたいに種子を飛ばして増えるんだったな。この図書館へどうやって入ったのかは気になるけd

「パパ〜♪」
「む…むぐっ…!?(あっ、コラッ!?)」

しまった、油断した。彼是考えている内に綿毛娘があっしの顔にへばり着いていた。しかし運良く綿毛の部分は鼻と口の丁度真ん中辺りにあり、息を吸いでもしない限り体内に入る事は無いだろう。あっしが息をしないで居られる限界はもって二分、それまでに決着(引き剥がし)がつかなければあっしの人生が決着する。そう、
1、剥がす→泣く→ソピア起きる→(多分)ソピア泣く→アボーン
2、剥がさない→綿毛吸う→バーストモード(性的な意味で)→アボーン
選択肢としてはこんな感じ…なんて冷静に言ってる場合じゃねえぇええぇえええぇ!アッ、コレヤーヴァイ!あっし終わったああぁああぁぁ!剥がしても剥がさなくてもアウトとかドウイウコトナノって息苦しくなってきたもう無理かあばあばばばばばウゥソダドンドコドーン!!あぁ…死ぬ前にあの桜をもう一度見たかったなぁ…。

半ば人生を諦めかけたその時、顔に掛かっていた圧力が急に軽くなる。あっしが動かないのを不審に思って綿毛娘がへばり着く力を弱めたのだろうか。何にしてもこれは好機!モータルなデスティニーからリリースだぜヒャッハー!!そうと決まれば善(?)は急げ、右手で綿毛娘のぷにっぷにの胴体を背中から掴む。大事な事なのでもう一度言う、ぷにっぷにである。さながらちょっと温めた大福。でら気持ちいい。綿毛娘が警戒して強くしがみ着く前に少しだけ力を入れて引っ張ると、意外にもあっさりと取れた。しかし万一の為に鼻からではなく口から呼吸をしておく。

「ぷはぁ!すー…はー…。」
「……………。」

いつの間にか綿毛娘が静かになっていた。……まさか自分の綿毛で発情とか無いよな…?恐る恐る見てみると、綿毛娘は今にも眠りそうな表情で船を漕いでいた。首をカクンと落としてはその衝撃で一瞬目を覚まし、また首を落とすの繰り返し。

「…ハァ。もう本当、何なんだよ一体…。」

恐らく後三分もしない内にこの綿毛娘は夢の世界へトリップしてしまうだろう。…いかん、頭がクラクラしてきた。あまりに奇天烈な事が起き過ぎた所為だろうか。さっきまで座っていた椅子に戻ってまた腰掛ける。すると一瞬の心地良いとも取れる言い様のない微睡みの後、不意に視界が暗転した。













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「ソーピーアーちゃーん♪」

音が消えて暫く経つ図書館のドアが少し開き、魔王が顔を出した。愛し子を目で捜すが、気配はない。

「…?おかしいわね、魔力の反応は確かに此処に在るのに…。」

怪訝な顔をしつつも、魔王は図書館の中に入って娘を捜し始めた。先程謁見の間で暴れたあの異世界の青年と一緒にいたと部下から聞いた情報が魔王の胸を過る。

「………………。」

心配から、自然と娘を捜す足が速まる。ひたすら静かな図書館にカツカツと響く、魔王の足音。しかしそれは程無くしてに止む事になった。

「あらあら…うふふ♪」

優しそうに笑う魔王の視線、その先には…。

「すー…すー…。」
「んゅ…。くー…。」
「………ぐー…。」

まるで甘えるように青年の胸に頭を擦り付ける愛娘、少し刺々しい印象がある青年の長いとも短いとも言える黒髪に乗って眠りながらも確りとそれを掴む一際小さなケサランパサラン。そして、二人がそんな状態にあるのを知ってか知らずか首を下に向け、手を守るようにして愛娘を支える青年の寝姿があった。
18/05/04 03:09更新 / 一文字@目指せ月3
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