読切小説
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愛のかたち/素直になれず
「すみません!遅れました!」

富良櫛 怜桐(ふらぐし りょうどう)は改札から恋人が見えたので走っていた。

「遅いわよ!何分待たせてんの!」

プンプンと怒り自分がどれくらい遅れたかを懺悔させる意地の悪い攻め方をする。

「な、何分待ちましたか?」

時計を見る女は埜未 汐嘉(のいま しほよみ)。一日中動き続けている針達は午前9:45を示していた。

「今日何時集合だっけ?」

「10時ですね…」

はぁはぁと息を切らしながらも申し訳なさそうにする怜桐を見て、なぜかいらついてしまう。

(私が楽しみで早く来ちゃったみたいじゃない!そもそも怜桐は遅れてないから悪くないし!)

「そ、そう、9時だと勘違いして9時半には来てたわ。」

「それだと汐さんが遅刻してるじゃないですか。」

ちなみに怜桐は汐さんと呼ぶ。

アハハと笑ってくれているため嘘はばれてはないだろう。でもなんだか悔しい気持ちがこみあげる。

「うるさいわね!待ったのに変わりはないんだから!」

汐嘉が怒ると、髪の毛の先端に生えていると言っていいのだろうか、蛇が俯きなんだか後ろめたそうにしていた。

「そ、そうですよね。すみません。」

反省の色が見えすぎて汐嘉も内心ジクリとするが今回はフンとそっぽを向いて歩き出す。
下半身は蛇なので上半身が人間より動きながらの歩行だ。

そう、汐嘉はメドゥーサという魔物娘である。上半身は人間をベースに髪の一部が先端に掛けて蛇、そして下半身も完全に蛇だ。
特殊な能力をで相手を石にすることが可能であり非常に嫉妬深いのが特徴の種族。

「待って下さいよぉ。」

怜桐が歩き始めると少しスピードを緩め追いつけるようにする。

「やっぱり汐さんは優しいですね。」

「はぁ!?なにがよ!あんたのこと待ってたから少し立疲れたんたけど!何が優しいよ!」

これも恥ずかしさをかき消すために声をあらげる。
しかし、単純に申し訳ないと思う怜桐は純粋に提案する。

「じゃ、どこかでお茶していきますか?」

なお、全く意味のなさないこと。

「早く服見に行くのよ!今日買えないともう着る物はないんだから!」

「ないんですか。」

「そ、そうよ!」

ジト目の怜桐を後にして立ち疲れたと言う前の倍のスピードで先へと急ぐ汐嘉であった。


ーーーーー☆ーーーーー

駅前の大きなモールで流行からヴィンテージまで扱う服屋が何軒も並んでいた。

「メドゥーサさんの服選びって難しいですか?」

「パンツが無いのは良いことなのか悪いことなのか分からないけど。まぁ、面倒ではないわ。」

下半身用のパレオのような物はあるがそんなに流行ってはおらずラミア・マーメイド系統の魔物娘もあまりつけているのは見られない。

「そうなんですか。上半身だけで良いんですからその分いっぱい買えますよね!僕としては汐嘉んの色んな姿を見られるので良いです。」

「別に色違いで良いわよ…種類合っても選ぶの大変なんだから!」

汐嘉はプリプリ怒っているが頭の蛇は様々な服見渡している。
先程から怒られてばかりで怜桐も少し落ち込み気味になってきた。そこに汐嘉は気づいてしまう。

(な、なんでこんなに悲しそうなのよ…。あたしが悪いって言うの?もうっ!)

「ほ、ほらあたしに似合いそうなの探しなさいよ。着て上げるから。」

「わかりました!」

急に明るくなりキョロキョロし始める男を見て汐嘉もホッとする。

(ホッとしてるんじゃなくて呆れてるのよ!!)

「これなんてどうですかね。」

早くも一着目がきたが、ピンクのワンピースだった。

「私にピンクが似合わない事くらい分かってるわよね?」

ゴゴゴ…と怒りの音が聞こえてきそうな雰囲気だが怜桐は恐がりはしない。

ガッカリするだけだ。

ここまで来てお分かりだろうが基本的にツンツンしているのもデレデレしているのも鈍感な故に分からない、それが怜桐という男であった。

「し、仕方ないわね、着てて上げるから別の持ってきなさいよ。」

そしてまた怜桐が嬉しそうに服を選び出すのは真に受けて落ち込んだり、ガッカリする怜桐を見るとすぐ折れる汐嘉のせいもあるだろうか。

(私は暇になるのを防ぐために着るんだから!)

懸命に自分への言い訳をしている汐嘉も少し滑稽であろう。 
試着室に入りワンピースへと着替えるが姿見を見ると似合ってないのが一目瞭然だ。
少なくとも汐嘉にはそう見えている。

(でも、怜桐の選んでくれたものだし…。)

真剣に8秒考え、買うと決めてしまった。
ガラガラと試着室のカーテンを開ければ怜桐が大量の服を持っていた。

「これはどうです!」

花柄のタンクトップだ。見るからに胸が強調されるもので控えめにいって控えめな汐嘉には控えたいものだった。

「あんた…わざとやってるの?」

「な、なにがですか?」

流石に怒っていることに焦りを感じ機嫌を伺ってきた。

「こんなんじゃ…」

“胸が小さいことが目立つでしょ!”

言えない。一番腹の立つことは毎回交わりの時に怜桐は形が良いだのさわり心地が良いなどと誉めてくれる分、汐嘉自身がマイナスポイントだということを忘れてしまうからだ。

沸々と起こるその感情は自分への怒りなのか怜桐への怒りなのか。

「汐さん、落ち着いて下さい。」

そっと手を握りまっすぐ目を見て話してくる。
そこで気づいた。悪いのは自分だ。
もちろん怜桐は気づいていないが。

「うるさいわよ。」

「ご、ごめんなさい…」

苦し紛れに怒れば怜桐はシュンとしてしまう。
なんでこんな事に。

「怜桐」

「…はい?」

俯きがちな汐嘉は罰が悪そうに言葉を紡ぐ。

「ちょっと待ってなさい…」

勢いよくてカーテンを閉め数十秒。怜桐が呆気にとられていると今度は汐嘉は姿を現した。

「ど、どうよ。」

花柄のタンクトップ。
スレンダー美人なので似合ってはいるが例の点は控えめであることに変わりない。

「さ、最高ですよ…」

そんな事は些細、それどころがプラスになっている怜桐。
誉めるだけのマシーンになっていた。

「ちょっと、もう…頂きます。」

「えっ!?」

怜桐は汐嘉を試着室へと押し込もうとする。

「りょ、怜桐…」

実はこの男、惚けたような感じはあるが欲望には忠実なのだ。
それも汐嘉が対象の時だけであるが。

「可愛いです…、汐さん。」

「ちょ…変なところ、んっ…まちなさ…」

対する汐嘉も押しには弱い。魔物娘たるもの求められれば、愛する者に求められれば受け入れてしまうのがオチであろう。

「汐さん…汐さん…」

譫言のように名前を呟き試着室に入れば胸をもみ始めた。

「可愛い汐さんの可愛い胸…最高です。」

怜桐の言葉がボッーとしてきた頭の中で木霊する。
可愛い汐さん、可愛い汐さん。

(怜桐ったら…もう、恥ずかしいじゃない!)
 
可愛い汐さんの可愛い胸、可愛い胸。

(誉め過ぎよ…)

ん?可愛い胸…?

「…りょぉ〜どぉ〜!!」

途端にガチッと体が動かなくなる。誰の体がといえばもちろん怜桐だ。

「し、汐さん?」

石化。

メドゥーサの能力で相手を石のように動かなくすることができ、主に気に入った男性を捕獲するために使用される。

「私、散々嫌って言ったわよね?」

「…ごめんなさい。」

素直な気持ちを言葉にした結果…怒られた。


ーーーーー☆ーーーーー


「汐さん…まだ怒ってますか?」

「ふん!」

そっぽを向いているメドゥーサ。
非常に申しわけなさそうにしている後ろの男は先程と比べ非常に小さくなったように見える。
その位、反省していた。

(私は悪くないわ。悪くないけど…)

怜桐も悪いのかと言われるとそれはまた困る。
自分の、汐嘉に興奮した結果の行動だと分かっているため中々割り切れない。

(嬉しいわよ?でも、場所が場所だし。第一!何よ、可愛い胸って!!!)

補足をすれば別に小さいわけではないのだ。
80のCはあるため十分に感じるだろうが、とにかく汐嘉は上を目指していた。

(Dは欲しいのよ…でも怜桐がこのままで良いって言ってくれてるのよね。)

単純に子供の頃からこのくらいにはなるだろうと思っていた大きさにいたらなかった為に気にしている。
逆に言えばそれでしかないのだ。

「…汐さん?」

(そんなの私だって高望みしているなら別よ。何もIやJまで欲しいわけじゃくて単にもう少しだけ大きければ…)

「…汐さん?大丈夫ですか?」

「な、なによ!」

いきなりしかけられた訳ではないが聞いていなかったので少し怒り気味に返事をする。

「いえ、僕その…すみませんでした…」

言い分けを使用としていたのか、はたまた話題が思い浮かばなかったのか。
おかしな間で謝ってきた。

もう、怒りなど皆無に等しい汐嘉だがずっと申しわけなさそうな目の前の男にまた腹が立ってきた。

「も、もう怜桐なんて知らないわよ。」

ふんと言って前を向けば後ろから反論はない。

(言い訳しなさいよ!私が一方的に怒って解決しないじゃない!何か言ってくれれば「そっか」の一言で許して上げるのに!)

一定の感覚を以て二人は歩く。一向に縮まらないその距離。

「…今日はもう別れますか?」

「えっ?」

突然の言葉。

「僕、今日も汐さんのこと怒らせてばっかりで申し訳なくなって…。汐さんもこんな奴と居たら疲れるでしょうし、また次挽回しますので。」

一生懸命に話しているが汐嘉の耳には一切届いていなかった。

(別れる…?)

ちゃんと意味を考えず、話を聞かず。ただその単語だけが自分の中で渦巻いていた。

「だから、送ります。今日は…」

「嫌よ!!!!!!」

ガバッと怜桐に抱きつく。唐突すぎて怜桐も混乱し収拾はさらにつかなくなる。

「私が悪かったわよ!だから別れるなんて言わないでよ!!!」

「いや、汐さ」

「絶対嫌よ!」

聞く耳を持たない、実は気の小さいメドゥーサは一度こうなると中々大事になることを怜桐は知っている。

そっと抱きしめ返した。
この時ばかりは髪の蛇も懸命に怜桐へと這い寄ろうとしていた。

「す、すみません。」  

「捨てないでぇ…」

胸に顔を埋めだだ漏れの本音をぶちまけていく。


“ 待ち合わせで私が早く来ただけなのに謝らせてごめんなさい”

“服を選んでくれたのに文句言ってごめんなさい”

“能力使って、いじけてごめんなさい”

シクシクと聞こえてくるのは泣き声。
何が悪いのだろうか、少なくとも彼女は自分自身が悪いと考えているようだ。


それでは、怜桐は何を思うか。


「汐嘉さん…可愛いです。」


はっ?


自分の収まっている胸の主を見れば、これ以上ない穏やかな顔でこちらをのぞいていた。

「少し聞いても良いですか?」

「な、なによ。」

「何でそんなに謝るんですか?」

「そんなの…私が悪いからよ!」

怒り気味に返すが、それは羞恥の感情も入ってることを怜桐は分かっている。

「良いんです。僕はあんまり細かいことに気づけませんし、汐さんくらい素直で居てくれればありがたいですよ。」


またも汐嘉の頭にはハテナマークが浮かぶ。

素直?
今の今まで素直になれなくて嫌になっていたのに?

「どうしました?」

もしかして…。


汐嘉は気づく。
確かに怜桐はこちらが素直になれないことを分かっていない。
だから私の態度をそのまま受け入れている、つまり素直じゃない私の態度を怜桐は素直な態度だと感じ、それを受け入れてくれている。

「何も…ないわよ…」

語気は弱い。
結局自分は全部包まれている。

「よく分かりませんが…」

“汐嘉さんが大好きです!”

「…ふん!」

怜桐から、その胸の中から離れずんずんと進んでいく。

「汐さん!待って下さい!」

慌てて後へ続く怜桐は結局、汐嘉の本位を理解していない。
しかし、それは問題ではないのだ。


なぜなら。


「ほら、お腹減っちゃったわよ!」

ちなみに、汐嘉はパーッと寿司でも食べたい気分てあった。

「じゃあ、お寿司でも食べに行きましょう!」

そう、そういうこと。
怜桐は汐嘉のことを分かっていない。

「お寿司なんて嫌よ!」

「そうですか?」

「…でも、あんたが食べたいならしょうがないわ。」

「よーし、じゃ行きましょ!」


分からないなりの愛もあるのだ。
18/07/12 00:26更新 / J DER

■作者メッセージ
題名が思い浮かばないですね。
昔の使い回しですが自分の持ってるテーマの一つですので。

あと、自分の中ではかき分けというか区別があるんですが男性キャラは読者の方には同じように見えてしまってますかね。
努力するべきか迷ってる点ですが…。
そんなところですかね、次は多く頂けた約束シリーズのリクエストを順々に上げさせていただきます!
それでは。

宜しければ、以前の物もお読み頂けると幸いです。

では最後に今回ばかりは皆様の余暇のお供にならないことを願いましてー。

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