読切小説
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リッちゃん可愛いよリッちゃん
古今東西、王には様々な人物がいる。
善政で国民に讃えられるほどの名君から、悪い意味で歴史に名を刻む暴君まで色々と。
そのような視点で自分の国の王を分類するなら……暗君だろう。

この国は今内乱の真っただ中。
その原因は王が一部の貴族を押さえることができず、暴走を許してしまったため。
王が全て悪いとまでは言わないが、従えるべき者を従えられず、
有名無実に扱われている現状では、そう評価せざるを得ない。

互いに敵対者を『国に害をもたらす不忠者』と謗り、相争う貴族たち。
彼らは私欲による争いを行うため、領民に臨時の税を課した。
農民は普段納める分だけでもカツカツ。
戦時の臨時徴収などされては、もう生活が立ち行かない。
しかし、だからといって反抗するわけにはいかない。
そんな事をすれば、村全体に見せしめを兼ねた厳罰が下されるだろう。
村一つの収益が失われるのは少し痛みを伴う。
だがそれで他の村が大人しく税を納め、争いに勝利できたなら、
お釣りがくるほどの穴埋めが可能なのだ。

自分の住んでいる村は争いの中心である地域からは離れていた。
なので戦いに巻き込まれるなどして村そのものが滅びる危険性は低い。
『とても苦しい生活だが、我々は兵士のように明日をも知れぬ命ではない。
 平穏が戻るまでなんとしても生き延びようではないか』
平穏が戻るまで生きていられるかも怪しい年老いた村長。
彼は“希望を捨ててはいけない”と繰り返し村人に説き、
生きる気力を失いかけていた村を何とか保たせていた。
だが、そんな村長の努力も無駄に終わってしまったのだ。

どこからやってきたのかも分からない伝染病。
それがこの国を襲い、次々に人は倒れていった。
戦いの駒である兵士や搾取すべき領民たちが見る見るうちに減っていく中、
ついに貴族たちも『争っている場合ではない』と判断。
休戦協定を結び、自陣営の体力回復に乗り出した。
しかしその時には何もかも遅過ぎたのだ。
争いが収まったからといって流行り病が消えるわけではない。
人から人へ移っていく病は国中を包みこみ、老若男女を問わず命を奪っていく。

『ついに王様も病に罹ったらしい』と中央の噂を教えてくれた行商人。
貴重な情報源だった彼も『危ないからこの国に立ち寄るのはしばらく避ける』と言って姿を見せなくなった。
その後ほどなくして、国の辺境にあるこの村にも流行り病に冒される者が現れた。

まず最初は年老いた村長。
彼が最初に熱を出した時はただの風邪だろうと誰もが思っていた。
流行り病ではないかという不安は抱えていたものの、
老人が体調を崩すのはよくある事と思い、皆平静を保っていたのだ。
だが、発症から数日で急速に悪化した容体にそう思い込んで誤魔化すことはできなくなった。

ついにこの村にも襲来した恐るべき伝染病。
それはすぐ傍で看病をしていた村長の妻に移り、初期まで同居していた息子に移り、
家を出た息子が居候している先に移り、その居候先の住人と親しい村人に移り…と、
人伝いであっという間に村中を覆ってしまったのだ。

この病は発症から僅か一週間で命を落としてしまうほどの凶悪性を誇る。
最初の感染者である村長が亡くなったのを口切りとして、
この村は連日のように死者が出るようになった。
一昨日はあそこの家、昨日はむこうの家、今日はそこの家という具合に。
(自分を含む)生存している村人は揃って敬虔な主神信者になり、祈りを捧げるようになった。

“これからは教えを固く守って生活します。ですからどうか病気から護ってください”と。

しかし、そんなにわかな祈りでは天に通じなかったのか、
それとも初めから助けるつもりがないのか、状況が好転することはなかった。
伝説のように天使が降臨して病を追い払うなんて奇跡、夢のまた夢。
一人、また一人と熱を出し、床に伏せ、衰弱して死んでいった。
そして、ついに自分の首にも死神の鎌がかかる時が来た。

体質の問題か、それとも成長期で体力があったからか、
自分が病を発症したのは村の中で一番最後だった。
朝目が覚めた時に感じた微熱と震え。
初めてそれを自覚したときは“ついに自分にも来たか”と達観していた。
仲の良かった人から嫌いだった奴まで、誰も彼も死に絶えてしまったこの村。
“自分だけ生きているのはおかしい”とさえ考えていた自分にとっては、
死の病に冒されたこともさして衝撃にはならなかったのだ。
その日は平静な心持ちで、普通の風邪にかかった時のように過ごせた。

次の日に目が覚めた時には体調が明らかに悪化していた。
真っ直ぐ立っていられない。
トイレに行くのさえ壁に寄りかかりながらヨロヨロ。
体の節々は痛み、呼吸をすることさえ苦しい。
食事を取るどころか少しばかり水を飲むのが精一杯で、それさえ吐き気で戻してしまう。
昨日の達観はどこへ行ったのか、近づいてくる死に対して寒気とは別の震えを自分は覚えた。

三日目にはもうベッドから起き上がれなかった。
腕を持ち上げるどころか、瞼を開くのさえ大事。
とにかく意識があると苦しい、何とかして眠りたいと思うのだが、
次に眠ってしまったらもう意識を取り戻さない可能性が高い。
自分の知る限り、四日目にもなって昏睡状態に陥らなかったのは一人だけだ。
ただ生きているだけで苦しい。しかしこの苦しみを感じなくなったらもう死んでしまう。
『生きるは苦しみ、死ぬは恐れ。この世はまさに地獄である』と遺した偉人は誰だったか。
混濁する意識の中でそんな事を思った時、聞き憶えのない声が耳に入ってきた。

「あら、驚いた。まだ生きてる人間がいたの」
口調は女、声の感じからするとまだ若いだろう。
死体だらけの村を見ても落ち着いている所からすると一般人とは思えない。
こんな滅びかけの村にやってくるとは、空き巣や死体漁りのならず者だろうか。
平時なら嫌悪の対象となる相手だが、今は生きている人間の声を聞けただけでも嬉しかった。
もし可能なら首を向けて“傍に近寄るな、早く村を出ろ”と言ってやりたい。
だが既にそんな力はなく、不法侵入者の前に衰弱した姿をさらすだけ。
女性はそんな自分に一つの問いを投げかけてきた。

「ねえ、あなた死にたくない? まだ生きていたい?」
“そんなの訊かなくたって分かるだろ”と答えたくなる問い。
自分は心の中で肯定するが、体が重くて動かない。
女性には問いを無視したように見えただろう。

「喋れないの? じゃあ、あなたの体を少しだけ動かせるようにしてあげる。
 だから、ちゃんと私の方を見て答えてくれる?」
その声と共に額にひんやりとした物が当たる。
それは女性の人差し指だったのだが、高熱を発している自分にはやけに冷たく感じられた。
そして指の“ひんやり”が全身を包むように広がると、
少しだけ体が楽になり、ノロノロとだが女性の方へ首を向けることができた。

「どう? ちゃんと私が見える?」
いつの間に夜になっていたのか、満月に近い月が昇る空。
換気用に開いてあった窓から差し込む光に照らされるのは、
夜闇に溶け込んでしまいそうな色の魔術師然としたローブ。
被られたフードの下にあるのは、どこか物憂げな雰囲気を帯びた少女の顔。
自分はその美しさに一瞬目を奪われたが、胸から下に視線を移した途端、驚愕してしまった。

ローブを身にまとう少女。
闇色の布にかろうじて覆われている胸の先端から下は完全な裸だった。
細くくびれた腰や美しく凹んでいるヘソ、
男とは全く違う股間から足の爪先まで全てが丸見え。
予想もしなかった侵入者の姿に、質問の答えとは違う言葉が自分の口から出る。

……その格好、どうしたんだ?
少女の姿はどう見ても物取りの服装ではない。
どちらかというと物取り(というか強盗)の被害にあった方だ。
もしかして強盗に襲われた女性が近くの村に助けを求めてきたのか? とも思ったが、
それにしては態度があまりに落ち着きすぎている。ショックを受けている感じがしない。
目の前の少女は何者なのか? そう考えると、彼女はローブの胸元を摘まんで答えを返した。

「この服装? これはリッチの伝統的な装束よ?」
『何かおかしい?』と言わんばかりの態度。
その恥じらいの無さ、リッチという聞き慣れない名詞、
そして月光の下でも分かる蒼白の肌で少女が何者か自分は理解できた。

……おまえ、魔物か。
「ええ、そうよ。私はリッチという魔物。これでもかなり格が高いアンデッドなのよ」
少女はそう言い、クスリと笑う。
その微笑みは美しさと可愛さが絶妙に入り混じっていて、
死ぬ前にこれを見れたならそう悪くないな…と思ってしまうほど。
魔物に見惚れるだなんて教団の神父が知れば憤慨ものだろうが、
村人を一人も助けてくれなかった主神の教えなんて、尊重する気はもう無い。

……あのさ、見て分かるだろうけど、自分は病気で死にそうなんだ。
「そうみたいね。顔は真っ赤で、ずいぶん熱が出てる。それで?」
死んだ後は体を好きにしていいし、財産も……大して無いけど全部持って行っていい。
だから、頼みを聞いてくれないか?
健康な時だったら恐怖に怯え、とても会話なんてできなかっただろう。
だが、死が迫っている自分には魔物への恐れなどもう湧かなかった。

「頼みごと? いいわよ、私にできることなら聞いてあげる。
 どんな頼みでも怒らないから、言ってごらんなさい」
癇癪持ちでいつも不機嫌だった母は一度も出したことがない優しい声色。
柔らかい月光を浴びて微笑みを浮かべる少女の姿は、
恐ろしい魔物どころか、慈悲をもって死を看取りに来た天使にさえ思える。
自分はそんな彼女に“浅ましい頼みだな…”と自嘲しながら望みを告げた。

その…自分は女の子と仲良くしたことがあまり無いんだ。
だから死ぬ前に……キスして欲しい。
この場に第三者がいたら“最期の望みがそれかよ”と思ったかもしれない。
しかしこの厳しいご時世、少しでも取り柄がある女子は皆奉公に行ってしまう。
労働力として村に残る男子と僅かでも稼ぐため町中へ出る女子。
この村の若年層の男女比は酷く歪で、親しい女の子など作りようがなかった。
異性に興味を持つ年齢になっても、相手がいなかったのだ。

「そっか、死ぬ前に女の子と触れ合いたいのね。分かった、キスしてあげる」
もしかしても笑われるかも…と思ったが、魔物はバカにしなかった。
それどころか同情する様な目になって、そっと髪を撫でてくれた。
その手つきがとても優しくて、じんわりと目が潤む。
少し歪んだ視界の中、魔物はフードを降ろし床に膝を突いてゆっくり顔を近づけてくる。
目を閉じるべきか迷ったが、美しい顔を見ていたかったので開いたままにした。
彼女の方も瞳を開いたまま唇を寄せてきて、やがて口元に柔らかい感触が生まれる。

「ん…………」
額に当てられた指より温かく感じる魔物の唇。死体なのに普通の体温があっただなんて。
そんな風に思ったが、接近した彼女から微かに漂う香りはそんな思考をどこかへやってしまった。

自分はしばし呼吸を止めて魔物と触れ合う。
鼻息などしていたら、雰囲気が壊れるような気がするから。
それでも息苦しくなって顔を離してもらおうとしたとき、
彼女の唇が少し開き、こちらの歯の間を割って舌が侵入してきた。

「ん……むっ。う…ぇ……ろ」
唾液を伴って入ってきた魔物の舌。
それは口腔の肉をぞろっと舐め、ナメクジの交尾のようにこちらの舌に絡まってくる。

「ん…ん…っ、るれ……ろ…」
自分が想定していたのは、恋人が日常的に交わすようなキス。
唾液を混ぜ合わせ、口内を貪る情熱的なキスには意表を突かれた。
しかし彼女への嫌悪感なんて全く湧いてこない。
微かに甘い唾液をもっと味合わせて欲しいとさえ思う。

「む…ぅ……っ、ぷはぁ……っ」
こちらの口内を散々に舐め犯した魔物は口を離すと一息吐いて頭を戻す。
そのあご下は混ざり合った唾液でベトベトだが、彼女は拭おうとはしない。
味を惜しむように唇をペロリと舐め、そして言葉を放つ。

「はい、キスしてあげたわよ。それで、頼みはこれで終わりでいいのかしら?」
『他にはない?』と訊いてくる魔物。
サービス精神が旺盛なのか、彼女はまだ望みがあるなら聞いてくれるらしい。
そして何故か分からないが、今の情熱的な口づけで自分にも少しばかり活力が戻ってきた。
この状態なら……もっと色々できるかもしれない。

じゃあ、お言葉に甘えてもっと頼んでいい?
「ええ、私にできる範囲なら」
それじゃあ……胸、触っていい?
同年代の女子としてはかなり膨らんでいる二つの乳房。
先端だけローブに覆い隠され全容が見えないそれを直視し、この手で触れたい。
自分がそう望みを伝えると、魔物は少し渋る様子を見せた。

「ん…それも構わないんだけど、本当に頼みはそれでいいの?
 もしかして本命は別にあったりしない?」
魔物はそう言うと、左手を伸ばして毛布の上からこちらの股間に触れた。
自分は“ちょっと!”と声をあげたが、彼女は無視して話を続ける。

「あなたのおちんちん、こんなに硬くなってるけど、おっぱい触ったら次は何を頼む気? 
 小出しにするくらいなら、スパッと本命を言ってもらえないかしら。
 ねえ、あなたは本当は私に何をしてもらいたいの?」
『全部お見通しなのよ?』と言いたげに微笑み、目を細める魔物。
その眼差しは恥ずかしがって言い出せない幼児を促す母親のよう。
自分は小さい子供に戻ったような心持ちで、本当の望みを口にする。

おまえ…じゃなくて、君と、その……セックスしたい。
病気とは別の要因で体が熱くなり、顔を背けてしまう自分。
しかし魔物は両手でこちらの頬を掴み、クイッと振り向かせた。
そして額にチュッと軽くキスをし、にんまりと笑う。

「はい、良くできました。ちゃんと言えたご褒美にその頼みを聞いてあげる。
 私の体でたっぷり気持ち良くしてあげるわね」
魔物はそう言うと立ち上がり、黒い霧を晴らすようにローブを消し去った。
完全な裸になった彼女は毛布をバサッと剥ぎ取り、床の上へ落とす。
そしてボロいベッドに乗り、膝歩きでズリズリと近づいて寝巻のズボンに手を―――と、待った。

「ん? どうかしたの? コレを脱がないとセックスできないわよ?」
いや、自分の服ぐらい自分で脱ぐよ。そのくらいは動けるし。

自分は弱っている身だが、服まで脱がせてもらおうとは思わない。
寝転んだままゴソゴソと手足を動かし、邪魔な布を取り去る。
女性の目の前で裸になるなんて初めての経験だが、あまり恥ずかしさは感じなかった。
それどころか硬くそそり立った男性器を強調するように左手で握り、
どれほど彼女に欲情しているかを見せつけてしまう。
そんな自分の行いを彼女は好ましそうに見てクスッと笑い声を漏らした。

「んふっ、立派なおちんちんね。死にかけだなんてとても思えない。
 それじゃあ、私のおまんこも見せてあげる」
魔物はそう言うと膝立ちのまま背筋を伸ばした。
そして右手を股間に寄せると、中央三本の指を曲げて穴へと差し込む。
クチュリッ…という水の音がして指が彼女の体内に潜り込むと、
月の光を反射してきらめく透明な糸が、つぅっ…と垂れてシーツに染みを作った。

「これが女のおまんこよ。指が入ってるの分かるわよね?
 あなたのおちんちん、ここに入れてあげるから」
指を抜きこちらの腰をまたぐ魔物。
彼女は粘液にまみれた指先で男性器の先端を撫でて湿らせると、腰を下げて入口に当てた。
死体だというのに熱を持った肉が柔らかい感触を返し、
体温と同程度の熱さを持った液体が男性器を伝って根元まで濡らす。

「じゃあ、入れるわね。私と一つになりましょう?」
魔物はそう言うと入口で止めていた腰を降ろし男性器を飲み込む。
ヌルッ…という液体の滑りと共に男性器が熱い肉に包みこまれた。
腰が下がった彼女はこちらの胸に両手を当て、顔を寄せてくる。

「んっ…ほら、入ってるわよ。私のおまんこがおちんちん食べちゃってる。
 あなたも押し込んでいいのよ? もっと深く繋がりましょう?」
魔物は近づけた口で『男性器を押し込んで』と囁くがとてもできそうにない。
初めて侵入した女性の体内。そこは高熱と液体と快楽に満たされた空間だった。
ねっとりとした膣液にまみれた熱い肉のヒダ。
それが男性器を先端から擦り、目が眩むような快感を発生させる。
今まで感じたことのない快感に自分は身を震わせることしかできない。
そんな自分とは対照的に、余裕を保った声で彼女は話しかける。

「ブルブルしちゃって可愛いわね。そんなに私のおまんこが気持ちいい?」
口を開けば快感の喘ぎしか出そうにない自分はコクッと首を縦に振って肯定する。
そして彼女はその答えにクスクス笑いで返した。

「ああもう、本当に可愛いわあなた。入れてあげただけでそんなだなんて。
 でもセックスはこれで終わりじゃないのよ? 今度は抜いてあげる」
彼女はそう言うとゆっくり腰を上げ、膣に飲んだ男性器を引き抜いていく。
行きとは反対に傘の裏側が刺激され、自分はついに“うぅっ…”と呻き声を漏らしてしまった。

「ん……良い声ね。恥ずかしがらずにもっと鳴いていいのよ?
 バカにしたりしないから、もっと喘いで気持ち良くなりなさい。ね?」
血が繋がっていながら、あまり親愛の情を抱けなかった母。
もし母の精神が捻じ曲がっていなかったら、こんな風に優しくしてくれただろうか。
快感とはまた違う熱い物が胸に込み上げ、自分は両手を伸ばして彼女の乳房に触れる。
すべすべしていて、ふにゃふにゃ柔らかくて、しっとりと汗ばんでいる二つの膨らみ。
それをギュッと握ると、魔物はピクンと反応した。

「あはっ…! おっぱい触るくらい元気になったの? ええ、良いわよ。
 好きなだけ弄ってちょうだい。おまんこだけがセックスじゃないからね」
いきなり胸を触れられても、彼女は文句一つ言わなかった。
それどころかこちらの手に細い手を重ね、自ら乳房を揉みしだく。

「ほら、柔らかいでしょう? この中は脂肪がたっぷり詰まってるのよ。
 赤ちゃんと愛する人を優しく抱いてあげるためにね」
死体のくせに“赤ちゃん”と魔物は口にする。
アンデッドの彼女がどうやって子供を得るというのだろう。
乳飲み子の死体でもゾンビにするのだろうか?
そう疑問を口にすると彼女は『違うわよ』と言い、意識的に膣の締め付けを強くしてきた。

「あなたは知らないのかもしれないけど、アンデッドでも子供は産めるわよ。
 私だってちゃんと母さんの胎で育ったんだから」
魔物というものは本当に自分の想像を超えた存在だったようだ。
まさか死んでいてさえ子供が作れるとは。

「魔物は石像でも子供を作れるんだもの、生死なんて障害にもならないわ。
 だから――――私があなたの子を産むことだってできるのよ?」
そう言って魔物はイタズラっぽく笑う。
その目は『やってみる?』と言っているようだ。
自分はどうせ死ぬならと、新しく生まれた願いを彼女に伝える。

まっ、また頼んで……いい?
話している間も動き続ける魔物の腰。
その快感に震える声で自分は彼女に頼みごとをする。
「いいわよ、今度はなぁに?」
彼女の声もずいぶん熱っぽくなっているが、自分よりはしっかりしている。
そんな彼女に、恐らく最後になるであろう頼み事をした。

子供を…産んで欲しい。
無責任だけど…このまま、死にたくないんだ…!
彼女とキスをしてから、急に力が戻り始めた体。
根拠はないけど、これは命の最後の輝きなんじゃないかと自分は思う。
自分が死ぬのは仕方ないけど、せめてその前に血を残そう。
たぶん本能とかがそう判断して体を動かしてるんじゃないだろうか。

「ええ、いいわよ。あなたの子供を産んであげても。
 でもそれなら、ちゃんと私を孕ませてちょうだいね。
 死んだ後で『子供ができてないぞ』なんて文句つけられても困るから」
一瞬の躊躇いも見せずに『妊娠してもいい』と言う魔物。
彼女が産むのは人間ではなく、アンデッドになるだろうが、
それでも子供を作れるというのは嬉しい。
自分は重ねられていた彼女の手を解き、尻を掴む。
そして最後の燃料を燃やすように、下から彼女の膣を突き上げた。

「あっ…! 急に、激しく…っ!」
動く側から動かれる側に変わった魔物は少し声を詰まらせた。
しかしすぐに調子を取り戻し、彼女も腰を動かすようになる。
抜けかけては再び潜り込むという動きを繰り返す男性器。
互いの股間がぶつかり合うたびに快感が弾け、病を思い出したように息が荒くなっていく。

「んっ…! あなたの…腰、とても良いっ…! 
 孕ませたい想いが、伝わってくるわ…!」
自分の上に乗っている魔物。彼女も呼吸を荒げ、体全体を上下させる。
その右手はこちらの胸に当てて体を支え、左手は見せつけるように乳房を握りしめる。
左指の隙間から顔を出している乳首。
硬くなっているそこからいずれ母乳が出るのかと思うと、興奮がさらに増した。
その高まった興奮に呼応するように、精液がジワリと体の中を進んでいく。

「あ…もう…出るのね? おちんちんから、精液っ…!
 いいわ、種付けしてっ…! あなたの子供で、お腹っ…パンパンに膨らませてぇっ…!」
絶頂に達し、ビクン! と弓なりに背をのけ反らせる魔物。
ほぼ同時に自分も達し、彼女の肌より白い子種が男性器の先端から放出される。
「あ、あっ…! おちんちん…が、ビクビク、してるっ…!
 精液……熱いっ…! 孕むの…気持ちいいっ…!」
戦場にならないくらい田舎なこの村には、町のように性欲を発散させる施設なんてない。
溜まりに溜まった濃く粘つく精液は、底がないように迸り彼女の胎内を汚していく。
「んんっ…! 子宮の…中まで、ドロドロしてる…っ!
 素敵よ、あなたっ…! 必ず…妊娠するからっ…!」
心の底から嬉しがって精液を受け止める魔物。
死ぬ前にこんな美しい少女と子を作れただなんて、自分はなんて幸福なんだろうと思った。
そして射精の勢いが失せると、ズシッ…とした重さが体にかかり、
視界がチカチカと暗くなっていく。
きっと精液と共に命の最後の一滴まで搾り出してしまったのだろう。
彼女の尻に当てていた手がパタッとベッドに落ち、全身の筋肉から緊張が抜ける。
『腹上死は男の夢』と言うけど、それなら自分はギリギリでそれを果たせた。
死への恐怖など微塵も失せた心境で自分の意識は閉ざされた。



他の人はどうだか知らないが、自分は眠りから覚める時はまず音から知覚する。
暗闇の中で誰かの話し声や足音を感じ、そこから意識が鮮明になっていくのだ。
カチャ、カチャ、と食器に何かが当たる音。
自分はその音で意識を取り戻し、目を開いた。

開けた瞼の先に広がっている光景はいつもと変わらない自分の部屋。
開きっ放しの窓から見える外の光はまだ午前だろう。
今日は安息日だっけ…? と寝ぼけ頭で考えたとき、昨夜の出来事が一瞬で脳裏を走る。

そうだ、自分は昨日……。
全てを思い出し、毛布の下にある自分の体に目を向ける。
そこは最後の記憶通り裸のまま。
魔物は毛布はかけても、服までは着させてくれなかったようだ。
まあ、それは別にいい。服の有無など重要なことではない。
重要なのは、死んだと思っていた自分が生きていることだ。

自分は昨日の夜、魔物が現れるまで本当に死にかけていた。
彼女と交わり始めると体が動くようになったが、
それは死を目前にして残りの生命力を振り絞ったからのはずだ。
実際、彼女に精を放った後は凄まじい脱力感に襲われ意識を失った。
まだ余力があって生きていたのだとしても、体調が回復するのはおかしい。
普通に考えれば容体が悪化して、昏睡状態に陥っているはずだ。
だというのに今の自分の症状は体のダルさと微熱だけ。
軽い風邪に罹ったのとさほど変わらない。
もしかしてあの魔物が何かしたのだろうか?
そう思うと、ちょうど魔物が扉を開いて部屋に入ってきた。

「はーい、そろそろ起き……あ、もう起きてたの」
昨夜と変わらず裸ローブという露出狂的な装いの魔物。
彼女は盆を左手にベッドの傍へ寄ってくる。
一度は交わった相手だが、女性の裸をジロジロ見るのはあまり宜しくないだろう。
そう考えて足元の方へ視線を落とすと、床から僅かに浮いている足が目に入った。
ペタペタ足音がしないと思ったら、そういうことだったのか。

「少し遅いけど朝食にスープ作ったわよ。さ、食べなさい」
枕元まで近づいた魔物は床に膝を突き盆を置いた。
湯気を立てている器を手に取ると、木のスプーンで中身をすくってフーフー。
『はいどうぞ』とこちらに突き出す。

スプーンから漂う美味しそうな香り。
ここ二日間食事を摂れていなかった自分はそれにパクッと食いついてしまう。
舌の上で感じる温かさと味は、生きていて良かったと本当に思わせる。
自分はたった一すくいのスープを飴玉のように味わってから飲み込んだ。
それを確認した魔物はまたスプーンですくい、口で吹いて冷まさせる。
そして二杯目をこちらに……寄こそうとした所で自分は言葉を発した。

あの…何してるの?
「何って、スープを作ったからあなたに食べさせてるんじゃない。ほら、口を開けて」
いや、それは分かるんだけど、何でそんな事を……。
「病人を台所に立たせるわけにはいかないでしょ? だから私が作ったの」
そうじゃなくて、何が目的――――ああもう!

彼女に訊きたい事はいくらでもあるのだ。
しかし彼女はとぼけた様に返して、食事を摂らせようとする。
話がかみ合わなくてヤキモキする自分。それを眺める彼女は『ふふっ』と笑う。

「心配しなくてもあなたの疑問には答えてあげる。だから今はこれを食べなさい。
 ちゃんと食事を摂らないと病気は治らないわよ?」
質問は後回しにして、とにかく食えと言う魔物。
とりあえず答える意思はあるようだ。ならば従ってもいいかもしれない。

……分かった、話は後にするよ。だからスプーン貸して。
「要らないわよ、私が食べさせてあげるから。あーん、って口を開けなさい」
寝たきりじゃないんだから、そのくらい自分で食べるって。
「ダメよ。目眩でもして器を落としたらベッドが使えなくなるもの。
 あなたは大人しく私の看病を受けなさい」
子供に言い含めるような口調の魔物。
普通、いい歳してそういう風に言われれば良い気がしないが、
彼女の言葉にはこちらを軽んじるような物がなく、反発心があまり起きない。
結局、具の一かけら、スープ一滴に至るまで彼女に世話されて食した。

食事が終わって一息ついた後は、質疑応答の時間。
自分の頭の中に充満している疑問を彼女にぶつける。

それじゃあ最初の質問だけど、何で自分は生きてるの?
「それは私の魔力を注いであげたから。
 魔法とは縁がなさそうだけど、魔力の事は知っているわよね?」
まあ……少しぐらいは。

魔力というのは魔法を使うための燃料のような物だ。
体を動かすと体力を消耗するように、魔法を使うと魔力は消耗される。
そして体力と魔力は大雑把にまとめて、生命力と言い換えることができる。
体力のない者が激しい運動で倒れるように、
魔力がない者が強力な魔法を使おうとすると倒れてしまうのだ。

「昨日のあなたは油が切れる寸前のランプだった。
 だから私の魔力を継ぎ足して、灯が消えないようにしたの。
 今のあなたの命は、私の魔力が維持しているのよ」
そうなのか。君の魔力で……って、それ大丈夫なの!?
彼女はリッチというアンデッド。
その魔力で命を繋いでいる自分は人間のままなのか?

「私から見ればあなたは人間のままね。
 でも、魔力に聡い主神信者が見たら攻撃してくるかもしれない」
主神信者に攻撃される? それはもしやインキュバスというものでは……。
「インキュバスではないわよ。魔力で命を補強しているだけだから。
 もちろんそれが馴染めば、完全に変質してインキュバスになるけど」
料理のコツを口にするような軽さで魔物は重大発言をかます。
自分はその言葉の意味を理解した瞬間、ゾワッと鳥肌が立った。

じょ、冗談じゃ…! インキュバスだなんて「嫌なの?」
『どうかした?』という顔で言葉を遮る魔物。
彼女は事の重大さを理解しているのか?

嫌に決まってるだろ! インキュバスだぞインキュバス!
もしばれたら処刑ものだ! もう、なんてことしてくれるんだよ…!
自分は痛む喉から彼女を非難する言葉を紡いだ。
立場が逆だったら確実に腹を立てているだろう恩知らずな発言。
それを叩きつけられても彼女は馬耳東風といった顔で受け流し、冷静に喋る。

「はいはい、あなたは病気なんだからあまり大声出したらダメよ。
 それに教団のことなんて心配する必要はないわ。流行り病でほぼ壊滅しているから」
癇癪を起こした子供をなだめるようにゆっくり話す魔物。
その対応で自分が母のように酷い態度を取ったのだのと自覚した。

ごめん、悪かった。命を助けてもらっておいて今のはないよな……。
インキュバス云々以前に、彼女との交わりを望んだのは自分の方だ。
もう後がない状態だったとはいえ、あんな頼みをした時点で主神信者失格。
自分は既に魔物側の人間なのだ。

「別に気にしてないから、あなたも気にしなくていいわよ。
 ともかく、この国の教団は伝染病でもう機能していない。
 健康な人は逃げ出したし、そうでない人は死ぬか寝込んでいる。
 あなたを責めるような人は誰もいないから、安心しなさい」
魔物はそう言ってポンポンと軽く頭を叩いた。
それでこの話題を一区切りにし、自分は別の質問に移る。

じゃあ次の質問。すごい基本的なことなんだけど……リッチって何なの?
「リッチは魔物でアンデッドの一種よ。
 特徴は種全体として強い魔力を持っていることかしら。
 ほら、見ての通り魔術師っぽいでしょう?」
魔物は下ろしてあったフードを被り直す。
するとフードの両端から、鎖にぶら下がった頭蓋骨のアクセサリーが伸びた。
首元には肋骨に似た形のブローチが現れ、手首にも同じ意匠のブレスレットがはまる。
極め付けは、紫色の目玉にも見える宝玉が埋め込まれた十字架。それが彼女の背後に現れた。
“死の魔術師”という印象を濃くした彼女は口元に笑みを浮かべて話す。

「これがリッチの正装よ。
 ゴテゴテしているから普段はここまで出さないんだけどね」
『せっかくだから見ておきなさい』と、リッチの正装とやらを見せつける魔物。
十字架の宝玉が発するオーラは彼女をただ者でないと感じさせてくれる。

……確かにそれっぽく見えるけど、装飾が多すぎないか?
ぶら下がった頭蓋骨は動くたびにユラユラして鬱陶しそうだし、
頭より高い十字架なんて下手に動けば周囲の物を引っかけそうだ。

「だから、特別な時ぐらいしかこの姿にならないのよ。
 公の場で表彰される時とか、結婚式をあげる時とかね」
彼女は肩をすくめると、十字架を消し去って普通のローブ姿に戻った。
自分としてもこの方が圧迫感がなくて話し易い。

そういや、君は何のためにここへ来たんだ? 旅行とは思えないけど……。
この国は反魔物国家。アンデッドの彼女が見つかれば騒ぎになる。
危険を冒す以上、何か理由があってやってきたはずだ。

「もちろん観光じゃないわよ。私はとある研究をしていてね。
 その実験に大量の死体が必要だったから、この国へやってきたの」
大量の死体って……どんな実験に使うのさ。
「それは魔王をモデルとした魔力強化の研究に…って言っても分からないわよね」
そうだね、全然分からない。
一農民にすぎない自分は『魔王をモデルとした〜』の辺りで理解することを放棄した。
しかし研究者の癖なのか、彼女は内容を語りたいらしい。
「そうねえ……乱暴かつ大雑把に言うと、魔力の税金みたいなものよ」
彼女はそう言って無知な自分にも分かるよう説明する。

なんでも魔物の頂点に位置する魔王は、全ての魔物から少しずつ魔力を捧げられているらしい。
もちろん地力だけでも十分強いのだが、その仕組みによりさらなる力を得ているのだとか。
彼女はその仕組みに目をつけ、同じ方法で魔力強化ができないかと考えたのだそうだ。

リッチの彼女は(失礼な言い方だが)ゾンビなど低級アンデッドを作ることにも長けている。
まずアンデッドを作る際に特殊な魔法をかけて魔力の繋がりを作る。
その魔法をかけられたアンデッドは『子』とでも呼ぶべき存在になり、
『親』である制作者に少しずつ魔力を捧げることになるのだ。
この術は数人をアンデッド化させたぐらいでは効果は出ない。
また、大量のアンデッドを作るのに時間がかかるため速効性もない。
しかし『子』が増えるほど、『子』の魔力が強くなるほど、捧げられる魔力も増大する。
時間が経って『大勢の子供たち』が強力になれば『親』は桁外れに莫大な魔力を得られるのである。

「でも死体を何十体、何百体も用意するなんて、そうそうできることじゃない。
 反魔物の墓地を利用するとしても、大量に生まれるゾンビを隠すのは難しいわ。
 だからこの研究は理論の段階で足踏みしていたのだけど……」
一度言葉を切り『気を悪くしないでね?』と断って彼女は話を続ける。
「そんな時にこの国で死病が大流行しているという情報を得たの。
 私はそれをこの上ない好機と考えてやって来た。
 そして手近な所から始めようと適当な村を選んだら、まだ生きているあなたを発見したの」
この村へ来たのはただの偶然だと彼女は言う。
だとしたらそれで命を繋いだ自分はどれほど幸運だったのか。
思わず主神に感謝しそうになったが、背教者となった身でそれは許されないだろう。
自分は熱心な信者ではなかったが、祈りや感謝の対象を失うことには不安を感じた。

その後も魔物と会話を続け、小一時間も経ったころだろうか。
彼女は話が途切れたところで、床に置いてあった器を取り立ち上がった。

「病人とあまり長話するわけにもいかないわね。
 そろそろ私は行くわ。夕食になるまでしっかり寝てなさい」
実験の準備でもするのか、彼女は背を向けて部屋を出ていこうとする。
自分はその後ろ姿に強い寂しさをかき立てられ『待ってくれ』と声をかけてしまった。
呼び止められた彼女は肩越しにこちらを振り向く。

「ん? まだ何かあるの?」
あ、いや、大事なことじゃないけど、また一つ頼みたいことが……。
頼んでばかりで彼女に何も返していない自分。
快復したら恩返ししないとな…と思いながら、それを口にする。

実験で忙しいのかもしれないけど、もうちょっとここにいて欲しい…な。
病気で寝込むと人恋しくなるというが、今の自分はまさにそれだ。
部屋を出ていこうとする彼女を見たら、すぅっと胸が寂しくなってしまった。
もし生きている母にこんな事を頼んだら、馬鹿にして不機嫌になっただろう。
しかしこの魔物はそうしない。そう思えるだけの確信があった。
彼女はその確信通り戻ってくると『やれやれ』と微笑する。

「あなたは寂しがりで甘えん坊なのね。そんな頼み、断れるわけないじゃない。
 分かったわ、あなたが眠るまでここにいてあげる。だから、早く病気を治しましょう?」
魔物は床に跪くと、毛布に手を入れてこちらの手を優しく握った。
野良仕事の自分とは正反対の柔らかくてスベスベした手。
鼓動を感じないけど温かい掌は、触れ合っているだけで心が安らぐ。
目を閉じて彼女を感じているうちにいつしか眠りに落ちていった。



リッチは元から魔力が強いためか、彼女の魔力に支えられた自分の体は速やかに回復していった。
次の朝にはすっかり良くなり、午後には普通にベッドから起きられるほど。
数日間寝たきりだったおかげで立った時にふらついたが、
すぐに元の調子を取り戻して真っ直ぐ歩けた。

魔物は『快気祝いだから』と言って少し豪勢な夕食を作る。
こんな田舎村に置いてある材料では豪勢といってもたかが知れているが、
彼女のその心遣いが何よりも嬉しかった。

魔物が腕によりをかけて作ってくれた晩餐。
皿に切り分けられた肉を口に運んでいると彼女が訊ねてきた。
「あ、そうそう。明日からこの村の死体で実験したいのだけど、構わないかしら?」
無断ですることもできるだろうに、わざわざ自分の許しを得ようとする魔物。
だが、そんなこと訊かれても村人の死体をどうこうする権利なんて自分にはないのだが……。

「この村で生き残っているのはあなただけでしょう?
 死者の遺族もいないから個別に許可を取ることはできない。
 だから村人代表として訊いているの。彼らの死体を実験に使って良いかしら?」
初めての彼女からの頼み。世話になりっぱなしの自分がそれを断れるわけない。
それにもし断ったとしても自分を肯かせようと説得してくるはずだ。
自分は条件付きで許可を出すことにする。

喜んで…とは言えないけど構わないよ。
ただ、一つだけ条件をつけさせて欲しい。
「条件?」
うん。自分の母親だけは、アンデッドにしないで欲しいんだ。
母だけは除外。これは母が特に大事というわけではなく、むしろ逆。

母はその……すごく気難しい人間でさ。
正直言うと、もう顔を会わせたくないんだ。
自分の母は手を振り上げはしなかったが、言葉の暴力はしょっちゅうだった。
父がかなり早く亡くなったのも、母の存在が心労になったからだと思っている。
死んだならそのまま静かに眠らせておいて欲しいのだ。

「……どんな人か知らないけど、そうまで言うなら酷い人だったんでしょうね。
 いいわ、あなたの母親は土に埋めることにする。それくらいなら良いでしょう?」
一応、墓穴には入れてくれるらしい。
自分としても野獣のエサにするほど嫌ってはいないので、それには肯く。

「それともう一つ。この家に住まわせてもらって良いかしら?」
この家に? それは構わないけど、どうして?
この村の家屋はどこもかしこも無人。
勝手にベッドを使おうが、物置代わりにしようが、誰も文句は言わないはずなのに。
そう言うと、彼女は苦笑いを浮かべた。

「もう……鈍い人ね。私はあなたと子作りまでしたのよ?
 傍で過ごして、もっと愛し合いたいと思うのは当然でしょう?」
子作り。その言葉に一昨日の交わりを一瞬で思い出す。

確かに子作りはしたけど……愛してる、の?
この魔物は聖女のように優しい人格だ。
今まで出会った人間の誰よりも、自分をいたわってくれた。
だが、それは同情心や慈愛の類で、男女の愛だとは思っていなかった。

「愛しているに決まってるでしょう? 同情だけで身籠れるわけないじゃない。
 正直に言うとね、私はあなたと出会ったことを運命だと思ってる。
 だってそうでしょう? たまたま選んだ村に、一人だけ生きている人間がいて
 しかもそれが若い男だっていうんだから。
 『死ぬ前に女の子と触れ合いたい』と頼まれた時に、私は決意したわ。
 絶対に生き延びさせて、余すことなく“女”を教えてあげよう、って」
自分が思っていたのとは全く異なっていた彼女の内心。
明かされた愛の重さに自分はたじろぐ。
彼女はその様を見るとそっと左手を伸ばし、こちらの右手に触れさせた。

「そう重く考える必要はないわ。あなたは私が好き? 嫌い?」
極論とも言える二択の問い。
好きか嫌いかと訊かれれば、もちろん好きに決まっている。

「なら良いじゃない。私と同居すればいつでも愛してあげる。
 あなたが望む時にキスして、抱きしめて、セックスしてあげるわ。
 どう? 悪くない生活だと思わない?」
確かに悪くないと思うけど……君は本当に良いの?
自分もこの魔物に強い好感を持っているが、彼女ほど深い愛はないのだ。

「ええ、もちろんよ。あなたは今すぐ愛してくれなくても構わない。
 そのうち虜にして、私を愛さずにはいられなくしてあげるから」
彼女はそう言って魔女のようにクスリと笑う。
その笑みは自信に満ちていて、自分の心をもう半ば虜にしてしまった。



村から出なかった自分には知る故も無かったが、実はこの国はほぼ壊滅状態らしい。
その主な原因はやはり流行り病。
一般人から王族まで無差別に感染する病は次々に人間の命を奪っていった。
地位が高い者は高価な魔法治療や薬品で快復することもできたが、
貧しい庶民にそんな方法がとれるはずもなく、下層階級の人口は激減。
搾取対象が絶えた貴族たちは、持てる限りの財産を持って国外へ逃げ出したのだとか。
従う者がいなくなった王も縁戚を頼って余所へ亡命したらしい。

彼女が言った通り、この国にはもう魔物やインキュバスを攻撃する者はいない。
今この国で二足歩行をしているのは、アンデッドかその夫だけ。
白昼堂々と姿をさらしても、誰も気にしないのだ。

自分の村のみならず、近くの町村までゾンビの集落にしてしまった魔物。
魔力強化術は一応機能しているようで、日々着々と魔力は上がっているらしい。
ただし、胎児がだけど。

「完全に予想外だったわ。まさか妊娠していると胎児の方に流れるなんて……」
ベッドに腰掛けた彼女は残念そうに零し、膨れた腹に右手を当てる。

彼女が語る所によると、魔物の胎児は母親の魔力を糧に育つらしい。
それは母親から胎児へ魔力が流れる経路があるということ。
彼女が開発した術には本人も知らなかった欠陥があり、
魔力を捧げられても、母親から流出する経路に乗って胎児まで流れてしまうのだそうだ。

まあ、気を落とさないでよ。子供が強くなるのは良い事なんだろう?
「そうだけど、この国ほど好都合な実験場なんてそう見つからないのよ。
 次の機会が巡ってくるのはいつになることか……」
珍しく愚痴を漏らして溜息を吐く魔物。
自分は落ちこんでいる彼女を慰めるため、言葉をかける。

あー…でもほら、魔物は交わるだけでも魔力が強化されるんだろ?
だったら自分は頑張るからさ、そっちの方で強化しようよ。
「……そうね。過ぎたことを後悔しても仕方ないものね。
 じゃあ、お願いするわ。私の魔力強化に付き合ってもらえる?」
彼女はそう言うとローブを消し去り、ベッドに横たわる。
その顔は快楽への期待に緩んでいて、さっきまでの消沈は消えていた。
自分も服を脱いでベッドへ上がると、仰向けに寝て膝を立てた彼女の股を割る。

出会った時と同じように月光に照らされている彼女の裸体。
それは子を宿し腹を膨らませていても魅力的だ。
毎日毎日交わり、ずいぶんと成長した男性器。
すっかり馴染みとなった彼女の穴にそれを当てて押し込む。

「んっ……! やっぱり…良いわ、あなたのおちんちん……!」
もう回数など憶えていないほど自分たちは交わった。
それでも彼女は『飽きた』『つまらない』などと言ったことは一度も無い。
日常的な交わりも彼女にとっては初夜と同じ喜びに満ちているのかもしれない。
そして彼女ほどではないが、自分の方も彼女の体に飽きを感じたことはない。

「私の中、ぎゅうぎゅうよっ…! もっと入れてちょうだい…!
 おまんこの奥でしゃぶらせてっ…!」
自分のためにあつらえられたような彼女の膣。
交わり過ぎて緩むような事はなく、肥大した男性器に合わずきつくなり過ぎる事もない。
腹が膨らんでからは少し締まりが強くなったが、それもより快感を強めるだけだった。
快楽しか生み出さない肉の穴。自分は腰を動かしてひたすらにそこを突く。

「あ、あ、深いっ…! もっと…お願い……!
 私のおまんこ、めくれるくらい引っかき回してっ…!」
一突きごとに揺れる腹と胸。
自分は少し上体を傾けると、左手を伸ばして彼女の右乳房を握る。
妊娠して大きくなった胸の先端からはとろっ…と白い母乳が滲み出た。

「あっ、飲むの……? いいわよ、私のおっぱいたっぷり吸って…!」
本来子供に与える母乳だが、彼女は自分がそれを飲むことにも喜びを見せる。
自分は彼女の膨らんだ腹を歪ませて覆い被さり乳房を口に含んだ。
ペチャペチャと音を立てて乳首をしゃぶると、
牛の乳よりも甘い味が口中に広がり性欲がさらに燃え上がる。

「あはっ…! あなたってば赤ちゃんみたいね! なんて可愛い人なのかしら…!」
彼女はこちらの後頭部に左手を添えて、より飲ませようと顔を胸に押し付ける。
吸っても吸っても枯れない彼女の母乳。
それは自分の中で吸収され、やがて肉や精液に変換される。
授乳という形で彼女を食べているのだと思うと、どこか背徳的な感じがした。

「どう? 美味しい? あなたの種付けで出るようになったおっぱいは美味しいかしら?」
少し弾んだ呼吸で喋る彼女。
自分は言葉では答えず、はむっと乳房を口に含むことで返した。

「ああ、良かった……! そんなに熱心に飲んでくれるなんて…!
 じゃあ、そろそろ…私にも飲ませてもらえる?」
彼女はそう言うと膣に力を込めた。
男性器にかかる肉の抵抗が増し、快感もそれに比例するよう増大。
精液の出口へ向かう速度がぐんと上がり、射精の時が急速に近づく。

「さあ、出してっ…! あなたの精液で…私を、強くしてちょうだい…!」
足をこちらの腰に絡ませ、ギュッとしがみ付く魔物。
敏感な男性器の先端が子宮口に押し付けられ、その衝撃で精液が放たれた。

「んぁっ! 出てるっ…! 美味しいわ……あなたの精液…っ!」
深く飲みこまれた男性器はビクビクと脈動し、彼女の内を白濁液で満たす。
それは膣のみならず子宮の中まで流れ込み、胎児の眠る海を濁らせた。



「ん………今日は結構出たわね。変質は順調に進んでるみたい」
クタッと疲れて、腹に体重をかけてしまう自分。
インキュバス化は進んでいると彼女は言うが、体力面での実感はほとんどない。
一年近く経っても、彼女と交わり射精した後は疲労感がのしかかる。
完全なインキュバスになれば平気で連戦できるそうだが、どれだけのバケモノなんだ。
弱まる快感の中でそんなことを考えていると、彼女は歓迎し難い言葉を発した。

「はい、それじゃああなた、二回戦に行きましょう?」
当たり前のように『再戦しよう』という魔物。
少し待ってくれと自分は答えるが……。

「そんなのダメよ。こうしている間にも子供の魔力は強まっているんだから。
 交わりで追いつくなら、寝食なんて取っている暇ないわよ?
 『頑張る』って言ったんだから、責任は持ってちょうだいね?」 
彼女はそう言って、クスリと忍び笑いをする。

数百体のアンデッドに支えられる胎児の魔力。
それに匹敵するとなると、どれほど交わらねばならないのか。
道程の長さに眩暈を覚えかける。
そしてその眩んだ頭の中で自分は思った。

早くインキュバスにならないと、命がヤバイかも……と。
13/10/07 16:50更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
リッちゃん可愛いよリッちゃん。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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