読切小説
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勤勉ミノタウロスさんの筋肉トレーニング
『ふんっ! ふんっ!』

「いーち、にーい」

『ふんっ! ふんっ!』

「いーち、にーい」

『ふんっ! ふんっ!』

「……いーち、にーい」

『おい貴様』

「んー、どうしたの? 腕立てのノルマは三十回じゃなかったっけ」

『どうしたじゃないだろう貴様、今何回だ』

「二回」

『その二回を私は何度繰り返したのかと聞いているんだが』

「……に、二回」

『貴様ァ! 数くらいマトモに数えられんのか貴様ァ!』

「数えられますぅ! 床にぺったんずりずりしてるおっぱいの数ならいくらでも数えられますぅ!」

『いくら数えても二つにしかならんだろうが!』

「元が牛ならワンチャン複乳という線も」

『あるか! 何度貴様に弄られても増えるかこれ以上!』

「増やす?」

『えっ』

「増やそっか?」

『……何をするつもりだ貴様、怖いぞ。主に目が』

「いやまあ出来ないから安心して」

『…………そう。そうか』

「(ちょっと残念そうに見えるけど性癖のとこツッコむとこじれるから黙っておこう)」

『まあいい。また改めて三十回こなせば済む話だ──ふんっ! ふんっ!』

「おっぱいがいっこ、おっぱいがにこ──」

『シャラップ』

「はい」





§





『さて次は腹筋な訳だが』

「足掴んで動かないようにするんだっけ」

『ああ。私の胸の数は数えなくていいからな』

「胸は二つしかないのに何故数える必要が?」

『貴様は数分前の行動をよく思い返すべきだと思う』

「そこに胸があれば意識が向く、まして唯一無二の嫁の胸ならばなおのこと」

『き、貴様というやつは……本当にしかたのないやつだな……』

「唯一無二なのに二つぶら下がってるんですけどね! なんちって」

『リバウンドするのは体重だけでなく知性もなのだな、哀れなものだ』

「ナチュラルに憐憫の眼差しを向けられると凹むんで勘弁してください」

『だったら無駄口を叩かずしっかりと足を持っていろ、いくぞ』

「おうとも」

『ふんっ! ふんっ!』

「(しかしこうして見ると)」

『ふんっ! ふんっ!』

「(たくましい肉体にいい意味で似合わない人懐っこい童顔が)」

『ふんっ! ふんっ!』

「(引き締まった凛々しい顔になって俺の方を向きつつ迫ってきて)」

『ふんっ! ふんっ!』

「めっちゃ勃起する!」

『いきなり何だ貴様ァ!』

「スンマセン我慢できずに叫んじゃいました」

『だからといって至近距離に近づいたタイミングで言うのは明らかに作為的だろうが! 筋トレ中だから私の集中を乱すようなことはするな!』

「了解っす、俺も落ち着くんで一度深呼吸していいっすか」

『分かった』

「すぅーーーー、はぁーーーー」

『…………』

「すひゅぅーーーー、ふひぃーーーー」

『おい貴様』

「どしたの?」

『何してる?』

「深呼吸」

『私が言いたいのはどこで深呼吸しているんだってことだ!』

「ふとももの間。蒸れててちょっと獣臭いけどそこがまたスルメというかスメルというか」

『あ、当たり前だろうが! 筋トレでちょっと汗かいちゃったから……じゃなくてだな! 何故そこで深呼吸をする!?』

「いつも寝るときに嗅いでる匂いだし落ち着くから」

『なぁっ!? な、何を言い出すんだ貴様は!??』

「でもどうせならもっとかぐわしいところの空気を吸いたいな、どれもうちょっと近づいて──」

『ミノタウロス奥義──ホーンバックドロップ!!』

「ごぎゃうぅっっ!!」





§





「トンデモプロレス技と壁に空いた穴。漫画みたいな光景を二つも見られていい経験になったよ」

『そのポジティブ思考は私も見習うべきかもしれないな』

「んで次はスクワットだっけ」

『いや、トレーニングはあらかた終わった。貴様が気絶してる間にな』

「そんな! どうして起こしてくれなかったんだ!?」

『そこまで必死にならなくてもいいだろう』

「トレーニングしてる姿をもっと見ていたかったのに!」

『茶化したかったの間違いじゃないのか』

「それもあるけど」

『思っていてもそこは否定しろ、せめて口先だけでも』

「握力の訓練用にたっぷり買ったリンゴがあるのに!」

『その腕力で貴様のペニスを握ることになるんだぞ?』

「ブランク中におっぱい揉んで悶えてる顔を見たかったのに!」

『どんなプレイだ』

「スクワットと称して騎乗位セックスしてみたかったのに!」

『貴様ァ!!』

「どうしてそこで怒るの!?」

『怒るに決まっているだろうが!』

「まさかのマジギレ!? これが積もり積もった怒りってやつか……悪いのは俺だし甘んじて罰は受け──」

『今晩の楽しみにじっくり寝かせておいたんだぞ! それを筋トレなんかで無駄撃ちさせてたまるか貴様ァ!!』

「こういうとこはお互い様だと思う(アッハイスンマセン)」

『まあいい……ともあれやるべきことはやった』

「そんなすぐ効果が出る訳じゃないのは黙っておこう(そっすね)」

『メシ食ってお風呂入ってきれいにして──実践だ!』

「おうっ!」





§





『腰抜けて立てない……』

「予想されていただろう即オチである」

『貴様が動かないから私が動いてヤったんだぞ貴様ァ……』

「今までがせいぜい一、二時間だったのが朝まで保っただけ褒められてもいいはずだよね……? 勃たせるのも大変なんだぞくそぅ……」

『くっ……まだ鍛え方が足りないのか……?』

「天然入ってる分君の方がおつむの問題は深刻だと思う」

『仕方ないな、明日から新たなトレーニングを咥えよう』

「イントネーションがおかしかった気がするけど気のせいだよね? そうだよね?」

『そう──膣内トレーニングだ!』

「関係ないけど徹夜した後の朝って頭バカになるよね、だからもう寝よう? いやさっきまでさんざ寝てたけどさ、寝よ?」

『だがその前に腹ごしらえをしておきたい』

「けど冷蔵庫は大したもの入ってなかったような」

『ならば──』





§





ザワザワガヤガヤ

『くっ……ふっ……♡ これはっ、なかなか……♡ 筋肉が滾るようだ……血がっ、全身が沸騰するように熱い……♡』

「俺の羞恥心もな」
22/11/20 18:05更新 / ナナシ

■作者メッセージ
似た者夫婦っすね、お似合いっす
                  ──駆けつけた警官コボルドちゃん

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