連載小説
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脱走する宇宙恐竜 目覚めた男と産まれいでし影
 ーーアイギアルム北東の森ーー

 デルエラ率いるフリドニア攻略軍が竜王バーバラ及び魔王夫婦の加勢を得て、迎え撃ったエンペラ一世とエンペラ帝国軍にどうにか勝利してより二日が経った。

「………」
「ふんふん♪」

 戦いにひとまず決着がつき、クレアも軍務から解放され、愛しいゼットンの元へと帰る事が出来た。

「いや、嬉しいのは分かるんだけどさ。ずっとそうされると重いんだよね」
「またまた〜。ゼットンだってウレシイくせにさ〜」

 帰宅して以降、クレアは嬉しさのあまり、夫から離れようとしなかった。ゼットン青年の温もりと匂いを堪能すべく常に彼の上半身に抱きついていたのだ。
 彼も初めはまんざらでもなかったのだが、半日も経つと段々面倒臭くなり始めた。いくら美少女といえども常にくっつかれているので、何をしようにも邪魔なのである。森の中を歩く今でさえ上半身にしがみついている有様だ。

「んっ…んぷ、むっ」

 そんな夫の心情を知ってか知らずか、このベルゼブブは前面に回り込むと舌を絡ませる濃厚なキスをしてきた。

「ダーメ。今はおあずけ」
「え〜」

 夫に断られた事で不満そうに頬を膨らませ、頭の触覚を不規則に動かすクレア。ゼットン青年も普段なら素直に応じるが、今は目的地に辿り着く方を優先させたかった。

「今やったら日が暮れちまうよ」
「も〜、しょうがないなぁ」

 むくれたクレアを宥めつつ、二人は森の奥に向かっていった。





「あ〜、結構やられてるな……ちくしょう、今はキャベツの値段が高いんだぞ……」

 やがて森の奥に辿り着いた二人だが、そこにあった畑が荒らされているのを見て青年は悲しそうにうなだれる。
 もっとも、別にここはこの夫婦の私有地ではない。元は農民であるゼットン青年にはいまいちそこら辺の倫理観が薄く、人目がないのを良い事に、勝手に耕して畑にしてしまっているのである。
 初めは自分達で食べる分だけだったが、最近は商品価値の高い野菜を複数栽培し売り捌く事でそこそこ儲けていた。

「この喰い方は獣じゃないね」

 畑の中に入ったクレアは魔界キャベツの残骸を見た途端、すぐに気づいた。

「作物だけ綺麗にもいでる。きちんと“手”の使える奴の犯行だよ」
「あ〜、てことは魔物娘か…」

 魔界キャベツはいきなりかじられたのではなく、外から何枚か外葉を剥き、中のキャベツをそのまま持ち去っている。

「ちっ、剥き出しにしてりゃ盗られるのは当たり前か。囲いを作っとくべきだったな」
「木製じゃ魔物娘にはすぐ破壊されるから、最低でも金網ぐらいがいいね」

 もちろん、自分の土地でもないのに勝手に畑を作って耕し、さらには囲いまで作る事は本来まずい事だ。しかし、そこで作った野菜を他人にそのまま盗難されるのもそれはそれで腹立たしい。

「だが、その前に残った根っこを引っこ抜くのが先か」

 ここまで見事に収穫されてしまうと、いくら魔界産の作物でももう実らないと考えたゼットン青年。残った根を抜き、新しく種を蒔くべきか。

「んーん、“肥料”をやればまた生えるよぅ♥」

 しかし、頭を振るクレアはその必要は無いと主張すると再び夫に抱きつき、そのままズボンのチャックを下ろし、愛しい分身を露出させる。

「はむっ」

 露わになった逸物を扱き、うっとりとした表情で一瞬見つめたかと思うと、クレアは美味しそうに頬張り、しゃぶり始める。

「んっ……んぷっ、んっ…♥」

 少女には不釣り合いなほどに大きくグロテスクな肉竿を、涎が漏れ出すほどに口を限界まで開いてしゃぶっておきながら、その顔は実に幸せそうであった。

「しょうがねーな……」

 しかし、夫の方もクレアの久しぶりの御奉仕にまんざらでもない様子。その証拠に、彼の肉竿はすぐに充血し、さらに大きく硬くなっていく。
 やがて限界まで膨張しきり、インキュバスらしい立派な物へとなるが、興奮した少女の口の動きは止まらない。淫らな水音を立てながら、少女は口淫を続ける。

「んっ、んんっ、んぶぅっ」

 可愛らしい少女の外見であるが、クレアは魔物娘。娼婦顔負けの技術で夫の逸物を刺激し、喉奥まで平然と呑み込む。

「うっ…!」
「んぐっ!? んぶぐぅうぅぅぅぅ!!」

 久々のクレアの御奉仕にいつも以上の快感を感じたのかゼットン青年は早く達してしまい、幼妻の口から喉まで大量の精液をぶち撒ける。

「んっんっんんっ」

 しかし、大量かつ粘つく代物であっても、それは一番の大好物。妻の方も久方ぶりの夫の精液に涙を流し、甘美な飲み物の如く美味しそうに嚥下する。

「んぱぁ♥」

 そして、クレアは飲み切ったところで夫に見せつけるかのように可憐な口を開く。相当射精したはずだが、匂いこそすれ口内には全く精液は残っていなかった。

「ね〜、もっとちょうだぁい♥」

 久しぶりの濃厚な夫の精液を飲み、本能に火が点いてしまったクレア。彼女は羽でふわりと飛び上がると、天に向いたままの夫の逸物に跨り、

「んううううぅっ♥」

 今度は下の口の方で呑み込んだ。

「あー、まぁ確かになぁ…」

 妻の蕩けた顔を見て、また周りのキャベツの残骸に少しばかり潤いを取り戻したのを見て、全てを理解したゼットン青年。

「俺達のラブパワーで、またキャベツは生えるって寸法か」

 夫の独り言など気にせず、クレアは立ったままの夫の首に両手をかけてぶら下がり、薄めのヒップを激しく上下させている。結合部からは派手に水音を響かせ愛液を撒き散らす様は非常に淫靡であり、荒い呼吸と絶え間なく嬌声を漏らす様から彼女が感じているのがよく分かるだろう。

「んひっ♥ はっ♥ はひっ♥」

 彼女を知る者には失笑もののだらしない表情で感じ入るクレア。言うまでもないかもしれないが、このベルゼブブは魔界の格闘大会優勝者“ディーヴァ”の中でもさらにずば抜けた実力者である。その実力は他のディーヴァに選ばれた魔物娘達からも一目置かれ、魔王夫婦でさえ彼女の名と実力を知るほどである。
 にもかかわらず、彼女は夫の逸物の前には無力であり、この青年に易々と組み敷かれ、快楽を与えられてしまう。命じられておらずとも進んで口淫奉仕し、下劣な口調で卑猥な言葉を呟き、その小さく幼い穴を極太の肉棒で掻き回され蹂躙されて尚喜ぶという変態ぶりである。
 だが、その姿はむしろディーヴァの“鑑”とすべきだろう。ディーヴァとは単なる格闘チャンピオンでなく、性交においても魔物娘の模範となるべき者なのだ。
 彼女等は誰も寄せつけぬ孤高の求道者などではない。それどころか、愛する男の前ではむしろ己の女の部分を曝け出し、己より弱いはずの夫に組み伏せられて無理矢理犯されたいと思うような者ばかりである。

「んぎぃぃぃぃ♥」

 目を裏返しながら歯を食いしばり、はしたない嬌声を上げるクレア。このベルゼブブもその例に漏れず、己より遥かに実力が下のはずの男の前でその鍛え上げた腰と灰色の尻尾をみっともなく振るう。
 細かい肉襞をカリ首で擦られる度、脳に電撃が流れるかの如く鋭い快感が全身を走り、涎と鼻水と涙と愛液が止めどなく溢れ出る。

「………………」

 そんな強いはずの妻の姿を夫はみっともなく思いはせず、むしろ愛おしいとさえ思う。そんな彼女がもっと快楽を感じられるように夫は妻を抱き締め密着し、彼女の尻を掴み、ひくつく肛門を優しくさする。

「んびぃっ♥」

 また別の刺激が来た事でベルゼブブの脳は混乱し、そして違う部分からの快楽を齎す。

(あー、そろそろイキそうなのね)

 彼女と一緒に暮らすようになってから気づいた事は二つ。
 まずベルゼブブの頭に生える触角は本体の感情と連動して動く事。今現在、彼女の触角の動きは左右で違い、また滅茶苦茶な動きをしている。これは本人の頭が混乱しているサインで、主に性交時の絶頂前によく見られる動きである。
 もう一つは尻尾ー昆虫的には腹部と呼ぶべきものであるがーである。そもそも一体何のためについているのか分からない器官であるが、これもベルゼブブの感情に連動して様々な動きをする。興奮したり混乱したりすると脈動が激しくなるのだが、今まさにその激しさを見せている。
 
「ほりゃっ!」

 頃合いと見たゼットン青年は、あくまで優しくさするに終始していた左中指を肛門に突き挿れる。

「あっえっ!? いっぎぃぃぃぃぃぃいいッッッッ!!!!????」

 途端、苦悶の叫びにも似た声を上げ、クレアは腰の動きを止めた代わりに膣内を力の限り締めつける。

「おっ!? うっぉおッおおおお!!??」

 青年の方も限界が近かったところで名器におもいきり締めつけられ、二度目の絶頂を迎え、大量の白濁液を妻の子宮に注ぎ込んでしまう。

「あっ、ひぇぇぇぇ……♥」

 子種と精をおもいきり注ぎ込まれ、さらなる絶頂を迎えるクレア。目を裏返して舌をだらしなく垂らし、全身からあらゆる体液を漏らす様はとても淫靡で、かつあまりにもみっともないものであった。

「ふぅ……」

 妻を抱きかかえながらの立ちプレイが済み、一息つくゼットン青年。一旦膣から肉竿を抜こうとするもーー

「!」

 クレアが腰に両脚を絡めたため、抜けなくなる。

「ダメだよぉ♥ 久しぶりなんだからもっとエッチしようよぉ♥」

 目にハートマークの浮かんだクレアは、夫へさらに性交をねだった。エンペラ帝国軍とのさらなる戦いに備え、英気を養うべく我が家に帰ったのだから、その英気の素を出来る限り摂取せねばならぬという名分である。
 …もっとも、実際は単に夫との性交をしたいだけなのだが、素直でないクレアはどうもそこを取り繕いたがる。

「…ま、俺も野菜が育たないのは困るしな」

 そして、ため息をつく夫の方もどうも素直になりきれないところがある。そこは似た者夫婦というところだろうか。

「あァん♥」

 優しく抱き締められ、再びクレアが甘い声を上げる。快楽だけでなく愛する夫の温もりもまた本人には心地良かったのだ。

「嬉しい〜♥ もっともーっといっぱいキモチよくなろ♥」

 興奮と喜びに連動し、ベルゼブブの狭い肉穴は夫との交わりをさらに愉しむべく複雑な動きを見せる。対する夫もそれに負けぬよう気を強く持ちつつ、グリグリと妻の子宮口を小突いた。
 そしてそんな二人から放たれる魔力に当てられたのか、萎れていたはずの畑のキャベツ達は徐々に瑞々しさを取り戻し、やがて再び実を結球していく。

「やったぁ♥ もっとい〜〜っぱい育てないとね♥」

 キャベツに祝福されているとでも思ったのか、ぶら下がるクレアの腰の動きが再び激しくなり、呼吸と快感もまた荒くなる。青年の方も久々の幼妻の背徳的な肉穴の狭さを愉しみながら、畑でなく彼女の肉穴を耕していく。

「……痛っ…!」

 不意に頭に激痛が走るが関係ない。そんな事はこの快楽の前には小さなものだ。
 だが、どうもこの痛みには覚えがある。魔王城でガラテアの前で倒れた時のあの痛みと似ている。
 しかし、前と違って一瞬だ。このベルゼブブを犯すためには気にしていられない些細な事だーーそのはずだった。










 ーー王魔界・魔王城 地下牢獄最下層ーー

『………………』

 魔界最強の猛者ども相手の連戦に次ぐ連戦の末、エンペラ帝国皇帝エンペラ一世は敗れ、配下である七戮将と共に王魔界地下牢獄に幽閉されていた。

「ヒマね……」

 その際気を失った皇帝だが、それでも魔王とデルエラの二人がかりでも彼から暗黒の鎧を引っ剥がすのは簡単な事ではなかった。鎧の方も主人以外を拒んでおり、剥がされまいと必死で抵抗し、母娘を困らせた。結局成し遂げはしたが、たかがそれだけの事に結局数時間もかかってしまったのだ。
 皇帝は暗黒の鎧及び配下の五人と接触が図れぬよう最下層の地下牢獄に幽閉された。さらに脱獄防止のためと、体力魔力共に消耗が激しかった事から、魔王の催眠魔法により強制的に眠らされている。
 そして万が一の事態に備え、牢獄には魔王が直々に十二層の防護結界を張り、鉄壁の防御態勢を敷いている。加えて、牢番のデーモンがそれを監視しており、何か異常があればすぐに魔王夫婦に報されるようにしてある。

「……っていうか、ここまでやる必要があるのかしら?」

 しかし、牢番を任されたこのデーモンはかなり退屈そうで、また過剰とも言えるほどの監視体制に疑問を持っていた。運び込まれた男はいくら人類最強と名高くとも、現在魔王直々の催眠魔法と防護結界で封じられ、何も出来やしないであろう。
 牢獄の前で椅子に座って男の様子を常に眺めているが、二日経っても身動き一つせぬ彼の監視などはっきり言って面白くもなんともない。

「顔も見えやしない」

 下着一丁にされた皇帝は牢獄の奥のベッドに鎖で縛り付けられて寝かされているため、デーモンの方からは顔が見えない。魔術で覗こうにも防護結界で防がれるため、彼の精の欠片すら感じられないのだ。
 暇なあまり目の前の男に襲われる妄想をしようにも、足の裏ぐらいしか見えぬ今の有様ではいまいち材料が少ない。また魔王直々の防護結界という事実が襲われるという状況を文字通り不可能としているため、やりづらかった。

「おっと、定時連絡をしとかないと」

 しかし、一時間ごとの定時連絡が義務付けられているため、居眠りも出来ぬ有様である。このように、ただ時間が過ぎていくようなこの監視任務は享楽的な魔物娘には非常に苦痛であった。





「それで、何か分かった?」
「えぇ、お母様。全てではないけれど」

 同刻、玉座の間では魔王とギリギリ復活が間に合ったエドワードが四十七番目の娘であるミラの報告を受けていた。彼女はリリムの中でも医療の知識に詳しく、人体にも精通しているため、エンペラの幽閉と並行した救世主の肉体の調査を任されていたのだ。

「まず、彼は“人間であって人間じゃない”というべきね。肉体的には人間と同じだけど、彼の肉体にしかない特性も多々あったわ」
「と、いうと?」
「まず肉体の“出来”が常人とは全く違うわ。天性の筋肉量と骨密度があるから、凄まじい膂力を発揮できる」
「だからか…」

 エドワードは一昨日の死闘を思い出し、顔を曇らせる。鍔迫り合いになった際は何度も押し切られそうになり、その都度死を覚悟したものだ。

「その代わり、“燃費”がかなり悪いのだけれどね」

 しかしミラの調査で明らかになったのは、その圧倒的な肉体を支える代謝を賄うため、常に常人の数十倍という食事量を要求される事であった。
 即ち、彼は最強の肉体と戦闘能力の持ち主ではあるが、それと引き換えに常に餓死の危険と隣り合わせなのだ。戦は短期間で終わる方が珍しいものなので、その都度大食漢の彼には堪えたであろう。

「なら、ますます彼をインキュバスにしなければならないわ」

 魔王が真剣な顔で語る通り、魔物娘とその夫は食事をせずとも性交によりエネルギーを賄う事が可能だ。彼も魔物娘と番になれば、大量の食料が無くとも伴侶と交わるだけで生きていけるようになる。

「しかしインキュバスにしようにも、問題は誰を娶せるかだが…」
「うーん…」

 それは魔王も今すぐには決められない。適当に魔物娘をあてがったところで、皇帝に殺されるのがオチだからだ。

「それなんだけど……」

 人選に悩む両親に対し、ミラは何か言いたそうであった。

「何かしら?」
「…彼は性交は出来るんだけど……」
「? どういうことだい?」
「エンペラ一世は男性不妊なの。それも無精子症とかそういうレベルじゃなくて、元から生殖能力を与えられていないというか…」
「! やっぱり…」

 魔王は驚くも合点がいった様子。一応、皇帝と初めて会った時から違和感を感じていたようであった。

「生前の時点でその気はあったと思う。跡継ぎの不在は帝国にとっても死活問題にもかかわらず、皇帝はその解決に積極的でなかったもの」

 生前、皇帝と皇后ソフィアの間に子は無かった。しかし、皇后の肉体の方に問題があるならば側室を持てばそれで済む話である。いくら彼女を愛していたとはいっても、後継者がいなければ帝国は結局彼の代で絶えてしまうからだ。
 だが結局、彼は生涯側室を持つ事は無かった。単に皇后への愛を貫いたとも取れるが、それでも世継ぎを作れる可能性を断ってまで優先されるものではない。

「……最強の力を持つが故の代償か?」
「えぇ、お父様。その可能性も考えられるわ」

 恐らく、彼が側室を持たなかったのは己の肉体の欠陥を理解していたからだろう。また、彼は良くも悪くも己に課せられた救世主の責務に忠実な男だ。
 その持って生まれた圧倒的な力で生涯戦い続けた、究極の“仕事中毒(ワーカホリック)”故、閨房に籠って女達と奔放な性を愉しむ暇などそもそも無かったのかもしれない。

「それなら、やはり彼はインキュバスになるべきよ」

 最早呪いといっても過言でない重度の男性不妊だが、淫魔の棟梁である魔王ならばその解決が可能だ。
 当代最高の魔術師であるメフィラスでさえ解決出来なかったのであろうが、その分野に関しては魔王は彼よりも上であろう。だからこそ、皇帝にはその解決への希望を持って欲しかった。

「申し上げます!」
「何かしら?」

 そのように三人が話し合う中、慌てた様子で玉座の間に入ってきたサキュバス。

「また城門前に大勢の魔物娘が殺到しております! 現在兵士達が説得しておりますが、それでもエンペラ一世を引き渡せと要求するばかりで全く聞く耳を持ちません!」
「またか…」

 エドワードは困った顔でため息をつく。現在魔王達を悩ませているのは皇帝の処遇だけではない。

「身内を殺された“遺族達”の気持ちが分からないわけではないけれど、それでも残虐な処刑を許すわけにはいかないわ。それは私の信念に反するからね。
 貴方は兵士達に説得を続けるよう伝えて頂戴。それでも駄目なら後で私が出向いて宥めるわ」
「はっ!」

 サキュバスは魔王に一礼し、足早に玉座の間より出ていった。 

「彼等の暴れぶりにも困ったものね……」

 魔王城にエンペラ一世が囚われた事を知った一部の魔物娘達はすぐさま殺到、彼を引き渡すよう求めていた。しかし、それは彼を夫としたいという魔物娘の本能に沿った行動ではない。
 彼女等の今回の行動は魔物娘としては極めて異質な、怒りや恨みによるものだった。彼女等が皇帝に求めるのは夫になる事でなく、“死による償い”だったのだ。
 それだけ復活したエンペラ帝国軍の暴虐は凄まじく、そして被害が大きかった。今まで向かう所敵なしであった魔王軍が逆に蹴散らされ、攻め滅ぼされた都市や街も数え切れぬほどであったのだ。当然、それに伴い多くの犠牲者が出ており、夫や両親姉妹、親類や友人を殺された者も多かった。今この城に殺到しているのもそんな“遺族”達だ。
 以前より教団軍との戦いで死傷者が出る事は珍しくなかったが、それでも全体から見ればかなり軽微なもの、尊い犠牲とまだ割り切れるものであった。しかし、エンペラ帝国軍は教団軍とは違い、それこそ『手段』を選ばず、あまりにも卑劣で非人道的な兵器や戦法を用いるのも珍しくなかった。

「とはいえ、彼等がやりすぎたのは事実だ。如何に魔物が不倶戴天の敵であるとはいえ、あそこまで人間は非情になり、非道を行えるものだろうか…」

 哀しげに呟くエドワード。エンペラ一世と刃を交えた際、彼が抱く魔物への凄まじい憎しみとそれに由来する容赦の無さも感じ取っていた。そして、それらがそのままエンペラ帝国軍の傾向、戦い方にも反映されているように思えたのだ。

「残念だけれど、あそこまで派手に暴れられては彼も部下達も無罪放免とするわけにはいかないわ。とにかく私達も、彼女等も、そして彼等も納得出来る落とし所を見つけましょう」

 さすがに相当数の魔物娘の恨みを買っているため、エンペラ一世達を何のお咎めも無く放免は出来ない。とはいえ魔王には彼とエンペラ帝国軍、さらには恐らく保持しているであろう帝国領を含め、苛烈な罰を与える気は無かった。

「とにかく、皇帝は捕らえたんだ。まずエンペラ帝国本土との交渉をしなければ。
 ミラ、皇帝や七戮将達から位置は聞き出せたかい?」

 父に尋ねられるも、娘は無言で頭を振る。

「残念だけどダメだったわ。皇帝だろうと雑兵だろうと全員そう。
 恐らくメフィラスの術なんでしょうけど、全員強力な閉心術がかかってる。脳内の電気信号の方も調べたんだけど、結局同じだったわ」

 クレアが捕らえたサドラを始め、皇帝と七戮将以外にも隊長や兵士を捕らえていた魔王軍。早速魔物娘達がエロ拷問で聞き出そうとしたが、やはり彼等は根性が座っており、全く屈しない。ならばと心の中を覗き込むと既に魔術で妨害されて全く見えない有様だった。幾人かのリリム達が挑戦したものの、未だ成功者はいない。

「四百年以上かけて周到に準備し、復讐の機会を待ち続けてきた連中よ。そんな事態ぐらいとっくに想定して対策済みなんでしょう。
 いいわ、そんな覚悟も吹き飛ぶぐらいの快楽を与えてあげましょう」

 魔王はニヤリと笑うと、両手の指から触手を伸ばし、うねらせた。

「おお〜、君自ら行くか?」
「あんまり貴方以外の男の前立腺は弄りたくないんだけどねぇ」
「………」
「へぇ〜?」

 赤面するエドワードと、最近の両親の“流行り”を知り、ニヤニヤ笑うミラ。

「この人突っ込まれてほじられると凄い声あげるのよ?」
「ちょっ!?」
「へへぇ〜?」

 母の告白で父の行為中の様子を知り、ますます嫌な笑みを浮かべるミラ。

「もっと詳しいお話が聞きたいわ」
「後でね」

 魔王もまたおかしそうに笑みを浮かべるが、その顔はミラとそっくりであった。そこはさすがに母娘と言うべきか。
 だが、その和やかな空気も長くは続かなかった。

「こ、こちら地下牢獄看守、チェチーリア! き、緊急事態発生!」
「! どうしたの!?」

 玉座の肘置きに取り付けられたモバイルクリスタルがけたたましい着信音を鳴らし、看守のデーモンより緊急報告が入る。

「エ、エンペラ一世が…ガッッ」

 慌てた様子でデーモンは眠っていたはずのエンペラ一世について何かを伝えようとしたが、何かを叩きつけたような音と共に通信が切断されてしまったのだった。

「まさか!?」
「もう目覚めたというの!? いえ、あの催眠魔法は私自身か娘達ほどの術者でなければ解けないはず…!」
「…きっと自力で解いたのだわ」

 青ざめる魔王とエドワード。一方、皇帝の肉体の調査をして彼の性質を把握していたが故か、ミラは動じなかった。

「行ってくる」

 今後起きるであろう最悪の事態を防ぐため、ミラはすぐさま部屋を飛び出していった。

「あの子だけでは心配だ。僕も行ってくる!」
「気をつけて!」

 続いて完全武装したエドワードもまた部屋を飛び出し、魔王だけが玉座の間に残ったのである。





『黙っていろ』

 掴んだ頭をおもいきり石壁に叩きつけられ、デーモンは倒れていた。

(さて、長居は無用だが……さりとて見捨てるのも忍びない)

 あっさり牢を破るも、男はすぐには逃げる気はなかった。己一人であれば“御礼をしてから”さっさと帰るのだが、困った事に囚われたのは己一人ではないからだ。

(世話の焼ける奴等よ)

 自分以外にも捕らえられた帝国軍の者は大勢いるようだった。だからこそ、彼等を見捨てて己だけ逃げるわけにはいかないと彼は考えていたのだ。

『仕方あるまい。助けに行くとしよう』

 溜息をつくと、男は覚悟を決めた。部下達が丸ごと囚われの身となり、それを皇帝の位にある者が単身助けに行くなど前代未聞であろう。しかし悲しいことに、今それをやらねばならないのである。

『…堂々とな』

 だが、不敵な笑みを浮かべる彼はエンペラ帝国皇帝。逃亡中の身であっても、鼠や盗人の如くこそこそ逃げる気は無い。
 例え敵地であろうと、彼は普段と変わらない。我が家の如く堂々と闊歩し、立ちはだかる者は全て薙ぎ倒し踏み潰すだけだ。





(………………)

 だが、彼は気づいていなかった。魔物への殺意に燃えるその魂と肉体の陰で、彼が心に抱えるは前魔王によって愛する片割れを奪われた深い悲しみーーそれが王魔界の濃密な魔力と結びつき、今まさに新たな一つの生命が産まれいでし事に。

(………………)

 もう亡くなった愛しき者と瓜二つのその“影”は文字通りエンペラの影に潜み、彼に悲しげな眼差しを向けていた。
18/05/05 16:37更新 / フルメタル・ミサイル
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■作者メッセージ
備考:救世主の遺産(セイヴァーズ・レガシー)

 かつて救世主達が愛用した武具の事。一番有名なのは【暗黒凶鎧装アーマードダークネス】であるが、他の物も現存しているかは不明。
 元はどれも普通の武具であったが、救世主達が愛用している内に彼等の魔力を浴び続ける事で、強力かつ不可思議な力を得るに至った。いずれも持ち主達と同種の力を持ち、仮に全てを揃えられるのならば神々を討ち滅ぼせると謳われるほどである。
 ただし完全に使いこなせるのは救世主のみで、それ以外の人間では全力は引き出せず、せいぜい半分の力が関の山というところ。ゼットン青年を例に取ると、暴走を防ぐために本人の意思と鎧の意思とを両方共封じたせいもあり、本来の力の50分の1も出せていない有様であった。
 ちなみに歴代魔王や神々もその存在を知ってはいたが、救世主の死後に隠されたのか破棄されたのか、ついに見つからなかった。しかし、その名は伝説として語り継がれ、今も世界の片隅で人々の記憶に残り続けている。

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