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第二十一話「変貌」



まず仕掛けてきたのはキバ、剣を大上段に振りかぶり、九重に躍りかかる。

九重はそれをギリギリで見切ると、斜めに踏み込みながら下段からキバの籠手を狙う。


「ほう、やるではないかっ」

だがキバはそれを剣の柄で弾くと、九重に当て身を喰らわせた。

「はあっ」

負けじと九重は左手から仙気を放ち、キバを弾き飛ばす。

「うぬっ」

再び二人は間合いをとると、互いに剣を構え直す。

九重は八相に、キバは上段に構える。


「それほどの力がありながら、何故魔物に与する」

全身から禍々しい混沌の力を放ち、九重を攻撃するキバ。

「貴様ならば魔物を滅ぼし、人間だけの世界を作ることすら可能だったはずだっ」


「この世界は人間だけのものじゃないっ」

九重も全身から仙気を放ってキバの力と拮抗する。

「生きとし生ける、みんなのもののはずっ」

ここまで導いてくれたリリムのリエン、共に戦ってきた七大英雄、龍光をくれたグロウィ、祭礼の渓谷の魔物、共存できるはず、一つの世界で、仲良く生きていけるはずだ。


「甘い、甘いわっ」

斬り込むキバの剣を九重はなんとか受け止める。

「くっ!」

「その甘言のせいで我の時代ではいくつもの国が滅び、膨大なる死なずともいい命が消えていった、不要な存在のせいで、人間は滅亡寸前だっ」

激しく斬り合う二人、互いが互いの正義を否定し合うだけの悲しき闘争、片方が勝てばもう片方は悪となる、故に負けられないのだ。


「魔物は不要なんかじゃないっ、魔物とともに、生きる道を探るんだっ」



「ほざけ小僧っ、ならば魔物のために死んだ者の怨嗟の声を如何にして鎮めるっ、貴様が一人で背負えるつもりかっ」



「そうならない未来だってあるはずだっ、今君がやることはそんな犠牲者をこれ以上出さない策を考えることじゃ・・・」

そこで九重はキバの一撃一撃に凄まじい悲しみが秘められついることに気がついた。

「まさか君は、ずっと自分を責めて・・・」

「っ!」

国が滅び、民を路頭に迷わせてしまった、それを後悔し、その怒りを魔物に向けた。

その怒りが見当違いであることを知りながら、ずっと悲しみの刃を向け続けていたのではないか。


「勝手に我の内面に踏み込むなっ」

怒りを増し、キバは混沌の波動を九重に放った。

「うぐっ」

「潮時だっ、消え去るがいいっ」

全身を苛む苦痛、九重にはそれが、キバ本人がこれまで感じていたことのように思えた。

「キバっ」

身体を捻りながら九重は刀を構える。

「まだ動けるかっ、ならば・・・」

混沌の波動が強化され、九重は全身が引きちぎれるかのような痛みを感じた。

「ぐ、あああああああ・・・」

だがそれでも九重は刀を構えると、気合いとともに龍光を投じた。

「っ!」

狙いは過たず、キバの右手を切り裂いた。

「はあっ」

混沌の波動が止まったその瞬間、九重は素早く近づくと、龍光を回収、そのままキバに切り込んだ。

「剣術奥義、対魔神刀っ」

必殺の一撃を受けて跳ね飛ばされる最終皇帝、だが途中で刃を返したため、キバは致命傷を受けなかった


「く、九重っ」

膝をつき、咳き込むキバ。

「もう終わりだ、本当はわかっているんでしょう?、魔物は不要なんかじゃないって」

「・・・」

ゆっくりキバに近づくと、九重は手を差し伸べた。

「まだ間に合うはず、一緒に共存出来る未来を考えていこう?」

「情けをかけているつもりか?、この我に・・・」

ふるふると九重は頭を振った。

「違う、君はずっと民を思っていた、ただやり方がまずかっただけでずっと、そんな君を斬ることなんて、僕には出来ない」

「貴様・・・」

しばらくキバは黙り込んでいたが、やがて顔を上げた。

「ふっ、雨月九重、か、最初から我が勝てるような相手ではなかった、か、この勝負、我の完全な負けのようだ」

九重の差し出した手を握ろうとして、キバは目を見開いた。

「・・・あっ」

「えっ?」

直後、キバは凄まじい痙攣を起こしながら混沌の波動を暴発させた。

「なっ、き、キバっ」

「ぐ、うがあああああああああああああああっ」


絶叫するキバに呆然とする九重。

「始まりましたね」

出入り口にニヤニヤしながらカオスが立っていた。

「貴様カオスっ」

猛る一同だが、カオスはじっと九重を見ている。

「まさかキバを倒すとは思いませんでしたよ?、おかげさまで違う手を使わざるを得なくなりました」

ぱちりとカオスが指を鳴らすと、キバの力が強まった。

「何をしたっ」

九重の叫びにカオスはしれっと答える。

「彼女に与えた力は元々混沌に連なる力、それを暴走させてあなた方を消しとばして差し上げます」


「カオス、貴様・・・」

その間にもキバから溢れる混沌の波動は強まり、辺りに暴発し、神殿を破壊していく。

「どうすれば・・・」

呟いた瞬間、九重の背中にあったバルザイブレードが微かに震えた。

「バルザイブレードが・・・」

ゆっくりと引き抜くと、九重はバルザイブレードをキバに向けた。

「九重・・・」

心配そうなリエン、それに対して九重もまた剣呑な表情だ。

「信じて、放つ・・・」


下段からバルザイブレードを切り上げる九重、その一撃は衝撃波となってキバに到達した。

「いあ、ヨグ=ソトースっ!!」

瞬間、キバから溢れていた混沌の波動が収まり、消えていく。

「な、に?」

目を見開くカオス、その前でキバの力は弱まり、床に倒れ伏した。

「キバっ」

ゆっくりとリエンは抱き起こすと、脈を見た。

「大丈夫、気絶しているだけね」

九重はホッと一息つくと、カオスを睨みつけた。

「ほう、時間を逆戻ししましたか」

「もう許さない、君のような存在を、許すわけにはいかないっ」

「ふっ、ふふっ、くはははははははははははははは、許さない?、許さないというならばどうするつもりですか?」

嘲るカオスに、九重は大きく飛び上がると、バルザイブレードで斬りつけた。

「遅いですね、そんなものでは・・・」

「はあっ」

カオスが悠々と九重の一撃をかわした次の瞬間、空間が切り裂かれ、かわしたはずの斬撃が彼女を斬り裂いた。


「な、に?、馬鹿な、空間を、制御したというのですか・・・」

鮮血を流しながらよろよろと後退するカオスに、九重は仙気を放つ。

「月遁仙術、引力逆転っ」

強力な磁場に拘束され動きを止められたカオス目掛けて、渾身の一撃をかける。

「日遁奥義、捲土重来っ」

磁場のなかで小規模な超新星爆発が起きる。

「これが、あなたのちから、ですか・・・」

すさまじい熱で融解する中、カオスは高笑いをしていた。

「ふ、ふははははははは、面白いっ、実に面白いですよっ、あなたはっ、くははははははははは・・・」

一瞬光が走り、カオスは磁場とともに完全に消滅した。


「・・・やった、か」

九重はふう、と息を吐いた。

「ああ、混沌よりの使者、カオスの最後だね」

ラグナスはそう呟いた。

「ともあれ、これでアメイジア大陸の戦いは・・・っ!」

いきなり大地が揺れ動き、神殿が崩れ始めた。

「何が・・・」

「九重っ、とにかく逃げるぞっ」

神殿が崩れるなか、九重らはキバを背負い、その場を後にした。



神殿の外まで逃れると、すさまじい音を立てながら巨大な生物が現れた。

「あれは・・・」

外見は巨大なジャイアントアント、しかしその腕は無数のジャイアントアントが集まって構成され、その足も、身体も、全てがそうだった。

一個の生物というよりは、おびただしい数のジャイアントアントの群体といったほうがしっくりくる。


「ーーーーーーーーーー!!!」

雄叫びをあげるそれは、全身から衝撃波を放った。

「・・・あれは実験生物アントクイーン」

意識を取り戻したキバはそう呟いた。

「強力な仙気を持つアベルをつなぎに、千体のジャイアントアントが合成されている」

とたんに九重はとんでもないことに気がついた。

「・・・まさかメルコールの正体は、魔王と化した安部さん?」

間違いない、アントクイーンが過去へ渡りメルコール幼体となり、カインの骸から復活して大魔王メルコールになるのだ。

だからこそ幼体メルコールは自分のことを知っていたのだ、否理性を失っていた中思い出したというべきか。


「あれを止めるには核部を引き離すしかない、だが魔物千体分の力を持つ以上、近づくのすら難しい」

キバの言葉に九重は目を閉じた。

「九重きゅん、僕らが囮になるからその隙に奴を・・・」

ラグナスは覚悟を定め、そう告げた。

「だ、駄目だ危険すぎるっ、お姉ちゃんたちに万一があったら・・・」

否、万一ではない、誘導作戦をとれば七大英雄は必ず戦死する、未来を知る九重の予知はそう告げていた。

「今さらじゃな九重、我らはとうに死んでおるはずの者、死んだ者が今一度死ぬだけじゃ」

クオンの寂しげな一言、九重は悔しさのあまり歯噛みした。





「一つだけ、手があるわ」

リエンの言葉に一同は振り向いた。

「アントクイーンと同じように九重をつなぎに融合する、そうすれば勝率は上がるはずよ?」

「簡単に言うが、そんなこと簡単なことでは・・・」

「否、可能・・・」

キバの言葉をクインシーは打ち消した。

「ああ、俺たちが魔物と一体化した同化秘儀、これを限界にまで高める神仙覚醒を使えば一時的に融合できるはずだ」

「けで参加できるのは核部の九重を除けば同化秘儀を扱えるわたくしたちのみ、アントクイーンに対して十分とは言えませんわよ?」

ダン、ヴィウスの言葉に、九重は頷いた。

「それでもいい、少しでも勝ち目があるならば」

「決意は固いみたいだね、わかった」

ラグナスが目配せすると、九重を囲むように、七大英雄は集まった。

「世界のために」

ラグナスがまず九重の肩を掴む、続いてその上からエルナが手を伸ばす。

「友情のために」

エルナの隣にいたツクブも手を置く。

「自分のために」

ヴィウスも頷くと反対の肩に手を置く。

「正義のために」

クオンもまたヴィウスの手の上に手を置く。

「生命のために」

続いてはダン、こちらは両手で肩を掴む。

「力のために」

最後はクインシー、籠手を外して九重の右手にに取り付けると手を伸ばした。

「時間と、君自身のために」

「九重・・・」

バルザイブレードを抜くと、リエンはそれを九重に渡した。

「この先になにがあっても、気にすることはないわ、ただこれだけは・・・」

微かに微笑むと、リエンは頷いた。

「勝利をっ」

七大英雄たちの力が、九重を中心に集まり、渦を巻く。



「「「「「「「神仙覚醒っ」」」」」」」


まるですさまじい早さの車輪のように八人は回転し、ついに一つとなった。


ベースは大人の九重だが、背中からはセイレーンの翼が生え、腰からはデビルの羽が伸びている。

右手にはクインシーの籠手があり、左手は龍の腕だが、その上から龍の顎のような籠手が現れている。

下半身は馬のようながっしりした脚が一対、右肩からは複数の蔓と触手が伸びている。

特徴的なのはその身体から発する色、あたかも赤紫の炎を纏っているかのように、全身から闘気を放っており、そんな彼を守るように黒色の鬼火が漂っている。


まさに究極の姿、切り札ともいうべき姿だ。

一万年前は違いの力が違いを打ち消しあってしまったが、九重をベースにすることで、ついに成功したのだ。


『安部さんを返してもらうぞっ』

決意の一言、二本のバルザイブレードを手に、九重は上空に舞い上がった。

『はあああああ』

九重、ラグナス、エルナ、ツクブ、ヴィウス、クオン、ダン、そしてリエン。

九つの心が重なり、力を束ねた今、九重にもはや死角は存在しない。

最後の戦いが、幕を上げた。
15/09/14 21:01更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
はい、みなさまこんばんは、水無月花鏡であります。

いよいよキバ、カオスと決着をつけ、メルコールのアーキタイプとのラストバトルが始まるお話しでした。

さて、いよいよ次のお話しで最終回を迎える予定ですが、もしここに来て何かわからないということがございましたら感想欄に書いていただけますと、最終話後にお答えさせていただきます。

みなさまどうか今後とも拙い作者ですが、よろしくお願いいたします。

ではでは今回はこの辺りで、次は全てに決着をつける最終話にてお会いしましょう。

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