連載小説
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始まりの話〜カイ、逃走〜
 散々テンションを上げておいて何だが、決行にはまだ早い。財産の殆どは確保できた。魔法道具などに変換させたり、武器防具を新調してある程度減らしたとはいえ、まだまだたくさんある。
 今は夕方〜夜のシフト。警備が最も厳重な時間帯だ。今から大荷物抱えて脱走となれば、嫌でも人にばれてしまう。ならばいつ狙うのか。
 それは夕方〜夜から夜〜深夜のシフトに変更される時間帯。交代のために兵士たちの気が緩むその一瞬、数分の時間を狙う。
 だが、バレてしまえば処分は免れないだろう。…いざとなれば俺の最終手段を使うことになるかもしれないが、そんなことになら無いことを願おう。

「いたぞぉ!! いたぞぉおおおおおおおおお!!」
「くっ、反応が早すぎるッ!?」

 本拠地から何とか無事に脱出することに成功するものの、まるでその時を待っていたと言わんばかりに、市街地に入った瞬間に教団の兵士たちに脱走がバレてしまった。
 隠していたつもりだったのだが、どこからか情報が漏れてしまったのだろうか。いや、そんなことを考えても仕方がないことだ。俺は入り組んだ路地裏を一心不乱に駆け抜ける。風の魔法が付与されたグリーヴはいててよかった。下手をすれば門を抜けることすらできずに終わっていたかもしれないからだ。
 幸い、この町の路地裏は入り組んでいるし、何よりこの町で生まれ育った俺からすれば路地裏なんて庭も同然。門を使わない町の脱出方法も知っているし、これは誰にもバレていないはずだ。
 だが、表通りをあらかた捜索し終えれば兵士たちは路地裏になだれ込んでくるはずだ。いくら入り組んでいると言っても広さに限界があるし、何より入り組んでいるせいで鉢合わせになってしまう可能性も考えられる。
 足を速めた俺の前に、大きな城壁が見えてくる。同時に、城壁の無機質な岩の質感とは全く違う、木のぬくもりが見える。
 よし、ここまでくればゴールも目前。このまま突っ切ってやろう。そう考えるが目の前に広がった光景に思わず足を止める。

「お前ら…」

 大地を、大平原を愛し果てなき理想郷を目指し今日も街と言う希望と絶望のつまった戦場へと向かう者、アルス。
 魔物が好きで結構Sっ気が強いんだけど、それを一切見せないムッツリスケベ、ウィル。
 自分を遥かに上回る、おっぱいへの情熱を持ち、どんなことがあっても女性のおっぱいを望み続けるソルジャー、しかも自称処女厨と言う特殊能力すら持っている。彼の格言である「胸におっぱいを抱け」は未だ俺の中で生き続けている、名をゲイツ。
 年下の少女が好きで、いつも子供たちをじっと見つめ続けるナイスガイ、こいつお巡りさんです、アイク。
 最近、あざとい行商人の少女にパシらされたり、ラッキースケベかましたりしてる裏切り者。そろそろ身を固めてくれませんかねと言うか行商人ちゃん耳と尻尾出てるから早めに引き取ってやってくれ誤魔化しきれないんだよ、マルス。
 最近入ってきた教団の新人兵士。ウィルにべったりでよく恋愛相談されてんだけど、ウィルそろそろ気づいてやれよ時々ハイライト消えてて怖いんだよこの男の娘、ネル。
 なるほど、確かに古なじみであり、同時に世界紳士協定のメンバーたるこいつらならば俺の思考回路、そしてどういうルートでこの町を脱出するかなんて筒抜けと言うわけか。

「隊長、戻ってくるつもりは無いか? 今なら降格処分程度で済ませてもらえるはずだ」

 皆を代表してか、ウィルが一歩踏み出して問いかけてくる。ちらりと他のメンバーの様子を伺うが、皆警戒こそすれど武器に手を置いていないし、何より皆の目からは帰ってきてほしいと言う声が聞こえてくる。
 だが、いや、だからこそ俺は行かねばならんのだ。だからウィルの言葉に首を振って答える。

「お前たちと共に町を守るのは楽しかった。だが、俺にはやらなければならないことがあるんだ!!」
「…教団を抜けてまでしなければならないことってなんだよ?」
「……それは――」

 これを言ってしまえば彼らと敵対してしまうだろう。だが、それでも彼らにはいっておかなければなら無い。
 俺が教団を離れてまでしようとしていることを。賛同は得られないかもしれない。もしかしたら言った瞬間に戦闘になるかもしれない。でもここで何も言わずに去るのは男らしくないじゃないか!

「魔物が好きだからだ!! 今まで戦ってきた魔物は皆美しい、美女と美少女の集団だったんだよ、分かるか!?」
「いや、それはそうだけど。見た目だけ美女だとして、食われたら元も子も無いだろ」
「馬鹿!! 美女に食われる(意味深)とかご褒美以外のいかほどでもねえじゃねえか!? それにな、俺は魔物の中でも温厚なホルスタウロスとワーシープに会いに行こうとしてんだよ。分かるか? この意味が」
「い、いや、分からねえけど…」
「それだからお前はムッツリ童貞なんだよ!! ホルスタウロスはその母乳を出荷することで生計をたてている、温厚な魔物と聞く。しかも彼女たちは総じて巨乳や爆乳なのだ。分かるか? バインバインのブルンバストなんだぞ? 触れることなどかなわないかもしれない、が、もしかしたら乳絞りができるかもしれない。そう考えると素晴らしいだろう? それにワーシープも、毛皮を使った寝具などを作り生計をたてているらしい。これも温厚な魔物だ。この種も巨乳が多いらしいし、なによりだ。この二つの種族は基本ムチムチらしい。良い肉感の身体をしていると言うんだ。これを聞いて会いに行かない男がいると思うか? いや、居ない。居るんだとしたらそれは男色家かアルプになりかけてる奴くらいだ。おーけー? つまるところ、美女、美少女揃いの魔物に会いに行くということは正義だということだ。教団に所属する以上禁欲基本だと? 知ってんだぞ上の連中が娼婦かってたり娼館に行ってんの。マジでふざけんなよ何だよ人に言っといて自分たちだけ欲求発散ですか馬鹿なんですか死ぬんですか糞野郎どもがッ!! 俺だって美女とイチャイチャしたんだよ!!」
「破綻した理論振りかざしてるとこ悪いが、最後がすべてだよなぁ!?」
「当り前だろう! 変人揃いの部隊の部隊長なんだぞ俺は」
「自慢げに言うことか!?」

 堂々と欲望をさらけ出すカイに、頭が痛いと言わんばかりに額に手を当てて首を振るウィル。カイが欲望をさらけ出すのはよくあることだが、ここまで平常運転で居られるとなんだかこちらが間違っているような気すらしてくる。だが、ここで彼を見逃すのはお互いに不利益になりかねない。意地でもこいつを止める必要が――いや、せめて交戦したと言う事実だけは欲しい。仮にこいつを逃したとしても、交戦の事実さえあれば多少なりと温情は与えられるはずだ。

「なあウィル?」
「なんだよたいちょ――ぉぐっ!?」

 ウィルの身体が打ち上げられる。いったい何が起こったのか理解できない他の隊員をしり目に、拳を突き上げた姿勢のカイ――瞬時にウィルの懐に潜り込んで滝を登る竜の如くウィルを打ち上げたようだ――が即座に構えをつくりいつものように隊員たちに命令を下す。

「ネル、急いで信号弾を作って打ち上げろ! マルスは魔法使えるようにしとけ! んで、アイク、ゲイツ、マルクかかってこい! いつも通りの実戦形式の訓練と行こうじゃないか!!」

 そう言うのが早いか、カイは全力で隊員たちに向かっていく。
 自分の我が儘で部隊を離れるのは申し訳ない。だが、しっかりと交戦したことさえ証明できれば多少なりと罰は軽くなるだろう。その分自分にかかる罪は重くなるだろうが、まあ構うものか。元々根なし草だったのだから、今更罪の一つや二つ増えたところでどうということはない。なぜなら、俺はそれ以上の幸福をつかみ取るからだ!!

 数分後、現場に駆け付けた教団の兵士が見たのは、地面に倒れ伏せる隊員たちの姿。しかし、外見こそ傷だらけだったが酷い傷は全く存在せず、そのほとんどが擦り傷であったり少しの切り傷ばかり。恐ろしく正確に無力化されていた。
 素行こそ問題があったものの、この町随一の戦闘能力を誇る部隊が壊滅したことを受け、教団は急遽この部隊の部隊長である、カイ・インスティンクトを指名手配。現在も行方を追っているが、町を去った彼のその後を知る人物はおらず、唯一行方を知っているであろう部隊員たちも、彼らは事情聴取のたびに「故郷の幼馴染との婚約の約束を守りに行った」だの「こんな連中と一緒にいられるか! 俺は美女のいる娼館に戻る!」などといっていたと要領を得ない証言しかしないため、彼が今どこに居て何をしているかは全く分からないのであった。


「ホルスタウロスぅ、わーしーぷー。いったいどこに居るんだぁ!」

 教団が必死に探している頃、彼もまた、自分の求める魔物を探して各地を必死に渡り歩いているのであった。
16/04/29 14:50更新 / ソルティ
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■作者メッセージ
話が長くなりそうなら、連載すればいいじゃないと言う謎の理屈で見切り発車してしまった。
これも全部、魔物娘ってジャンルが悪いんや…。だが、書いた以上は頑張って完結させるぞ!!

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