連載小説
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外出
ユーリアが来てから三日ほど経過した。
日中は俺のやっているゲームにユーリアが混ざって協力や対戦プレイを行ったり、アニメや映画を一緒に見たりしていた。
隣に座り肌を密着させるので、やり辛いったらなかったら不思議と悪い気はしなかった。
アイツが人間離れした美貌を持っているってのもあるんだが、何というか……今までの女に感じてきた嫌悪感とかそういうのを感じなかったのだ。
魔物娘は人を惹きつけるフェロモンを出すとか、そういった体質でも持ってるんだろうか。
そんなこんなで数日を過ごした俺はあることが気になり、一つ質問をぶつけてみた。

「お前は、どうやって俺を見つけ出したんだ?」

「サキュバス……というより、魔物娘特有の能力ね。
 貴方みたいな童貞の精、分かりやすく言うならオーラ的な物は私たち魔物娘には酷く目立つの。
 二十数年物の童貞の精なんて、私みたいなサキュバスだと家の壁越しだろうとすぐに分かるのよ」

じゅるり、と唇を舐めまわしながらユーリアは言った。

「貴方を見つけたのは、この道を通りかかったときかしら。
 二十数年物の童貞の精なんて、サキュバスとしては放っておけるわけがないからこうして来たってわけ。
 私のためにずっと取っておいてくれた童貞、とっても美味しかったわよ♪」

「……」

「でも、私は貴方の童貞を味わったけど……貴方は私の処女を味わってないわよね。
 私の身体が気持ちよすぎて気絶したのは嬉しいことだけど、魔物娘の処女は大切なモノだから複雑な気分だわ」

「小っ恥ずかしくなるようなことをいうなよ……」

知らぬ間にユーリアが俺に処女を捧げたという事実を知り、自分の顔が熱くなるのを感じた。
この際だからハッキリ言うが、ユーリアの外見はとても俺好みだ。
絹のようにサラリとした光沢をもったプラチナブロンドの髪、ルビーのように紅く燃えるような透き通った猫目、瑞々しく肉感的な桃色の唇、皺やシミなんてあるはずもない。
頭部だけでもこれだけ挙げるほど綺麗だ、身体も前に言ったように俺としては文句のつけようがない……所謂『具合』に関しては未経験だった以上比べようがないので、実際どうなのかはわからないが。
まぁ、トンデモなく気持ちよかった事だけは言っておこう。

「ねぇ、いきなりだけど外に遊びに行ってみない?」

「う……外、か……」

思いついたかのようなユーリアの言葉を聞いて、思わず頬がひきつった。
……引きこもり生活と言っても、完全に閉じこもっていたわけではない。
お菓子や飲み物目当てで近所のコンビニやスーパーに行ったり、ゲームソフトやアニメの円盤目当てでゲーム系ショップに通ったりとそこそこ外出はしていたのだ。
だが、ユーリアがいうのはそういう事ではないだろう。恐らく、買い物……つまり、デートと言うヤツに行きたいんだろう。
デートなんて、俺には縁のない話だったから何をしていいのか分からないし、何を着ていけばいいのかも分からない。

「お前に見合った服なんて持ってねえよ……」

「気にしないでいいわ、いつもの貴方の服装でいいのよ」

ユーリアはこういっているが、それでも気は引ける。
コンビニ等に行っている以上、人前でも着れる服はそれなりに持っている。
だが、デートに来ていくようなおしゃれな服装になると一着も持っちゃいない、そもそもデートなんてする機会が一度もなかったんだ、持ってなくてもおかしくないだろう。
友人と遊びに行く時の服装ならあるが、それでいいのかと言われるといいわけないし……

「大丈夫よ、私がついてるから」

「……そこまでいうなら」

母親が子供に、姉が弟に言い聞かせるように優しい声で言うユーリア。
不思議と、その声に不安や緊張感が和らいでいくのを感じ、コンビニではなくちゃんとした外出をしてみようという気になった。
タンスを開け、シンプルな無地のYシャツとハーフパンツを取り出して着替える……この服に身を包むのは大分久しぶりだ。
最後にショルダーバックの中にハンカチ、ティッシュ、財布、モバイルバッテリーを放り込んで家を出た。
母親には何も言わなくていいだろう、そんな年でもないし。

「とりあえず、最寄り駅まで行きましょ?」

角や翼や尻尾といった魔物娘的特徴を隠し、黒いサマードレスに身を包んだユーリアがそう言った。
ここから最寄り駅までは歩いて10分程度だ、散歩をするにはちょうどいいぐらいだろう。
……トップモデルもかくや、という美貌を持ったユーリアが先導する形で歩くが、まるで月とスッポンだ。

「……っ」

それを思った途端、自分が恥ずかしいやら情けないやらの自己嫌悪がムクムクと湧き上がってきて、顔を伏せずにはいられなかった……もう、自覚するべきなんだろう。
俺はユーリアが好きだ、反抗していたが本当は一目ぼれだった、単純な俺はユーリアに押し倒されて犯され、身も心も奪われてしまった。
……ユーリアは綺麗な女だ、引きこもりニートだった俺にはもったいなさすぎる女だ。
俺なんかには、到底似つかわしくない本当にイイ女だ……だから、ユーリアの幸せを願うなら、このデートの最中でキッパリと言った方がいいんだろう。
俺なんか見捨てて、もっといい男を見つけて幸せになってくれと、そう告げたほうがいいんだろう。
幸いな事にこの美貌なら男に困ることはないだろう、俺よりいい相手なんていくらでも見つかるはずだ。
両親はユーリアの事を気に入っているようだから、悪いとは思うがこの際諦めてもらうしかない。

「駅まで行ったら、まずどこに行きたい?」

「……どこでもいいよ」」

「それじゃあ、漫画喫茶にでも行きましょうか。
 実は私、そこの会員なのよ♪」

「……」

明るく楽しそうに笑うユーリアの顔を見ると、心が沈んでいく。
こんなイイ女に別れ話を切り出さないといけない事と、そんなことをしなくちゃならない情けない俺に腹が立つ。
……うじうじと悩んでいる間に駅前の漫画喫茶に到着した。
この漫画喫茶はカラオケボックスのように個室が用意してある漫画喫茶で、カップルがよく個室を利用しているようだ。
当然、傍から見ればカップルに見え……なくもない俺たちもその個室を借りる。

「飲み物取ってくるから、先に入ってて待っててね」

コップをもったユーリアはドリンクバーコーナーへと向かう、別に廊下で待ってる必要もなかったので俺は大人しく部屋に入った。
部屋は座敷タイプで、靴を脱いでから入室するようだ。壁際には小さな靴箱が備え付けられていた。
床は白く着色された畳が敷かれており、床や天井は可愛らしい印象の薄いピンクで彩られている。
丸いテーブルとテレビモニター、大型のソファが置いてあり、ソファに座ってみると大分ふかふかでとても座り心地がいい。

「お待たせ、コーラとオレンジジュースどっちがいい?」

俺は無言でコーラを手に取り、踏ん切りをつけるために思い切り胃の中に流し込んだ。

「げふっ……ユーリア、話があるから聞いてくれないか」

「あら、何の話かしら」

「俺と別れてくれ」

「……え?」

「別れてくれ、と言ったんだ」

始めは俺が何を言っているのか分かっていなかったようだが、もう一度言った途端にユーリアの目から光が消えた。

「私の事が嫌いになったの……?」

「違うよ、むしろユーリアの事は大好きだ」

「だったらなんで……!」

「好きだからだよ! オマエ程の良い女、俺が釣り合う訳がない!
 だから、俺みたいな屑とは別れてもっと他のいい男と……んむっ!?」

泣き出しそうになる激情を抑え、心中をぶつけていると突然抱きしめられキスをされ、口を塞がれた。
欲望をぶつけあうような今までの抱きしめ方とは違い、母親が子供を安心させるような優しい抱きしめ方だった。
キスも舌と舌を絡めるようなディープキスではなく、ソフトキスだ。
……キスをしていた時間は実際には1分も経過していなかったのだろう、だけどその時間は何分にも何十分にも感じられた。
そんな長い時間が過ぎ去った後、ユーリアはそっと唇を放してから、俺の目を見つめ始めた。

「ヒカルはとても優しい人なのね。
 わざわざ自分の想いを押し殺して、大好きな人に幸せになってくれなんて……普通はとても言えないわ」

「……」

「でも、それじゃあ私の思いはどうなるの?
 私もヒカルが好き……大好きなの、もうヒカル抜きの一生なんて考えられないの。
 私はヒカルが大好き、ヒカルは私が大好き……それ以外に何か必要なの?
 それに、私のような魔物娘は処女を捧げた相手以外の精は受け付けないのよ、つまりね……」

一呼吸おいてから、ユーリアはこう言った。

「今更、ヒカル以外の男とセックスするなんてありえないわ」

……まさか、魔物娘にそんな能力があったなんて、知らなかった。
ネットで見てた情報にはそんな事は書いてなかったし……

「だから、ヒカルは釣り合うとか釣り合ってないとか気にしなくていいの。
 私にとってはヒカルこそが最高の男性なんだから」

ユーリアはその胸に俺を抱きよせながら、優しく頭を撫で始めた。
18/12/10 21:49更新 /
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