連載小説
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魔法戦〜触れてしまった指先〜
 流れる白雲が太陽にかかり村の畑の作物が強めに吹く風に揺られる、その風に乗って一人のカラステングが白い袋を背負い悠々と飛ぶ。
 羽と同じ色の黒い髪をなびかせて、切れ目がちな目が村の外れにある古い小屋を捉えると、ゆったりと進路を変えて高度を落としていく。
 ふわりと小屋の前に降り立つと、入り口には青年、コウがいた。

「あれ、ツミカさん居ないな……」

 コウは後ろにいるカラステングに気付かずに頭をかいて立っている、そんなコウの肩にカラステングの翼が触れる。

「青年、お前がコウか?」

「うおっ、え、あ、そうです」

「ツミカより物と手紙を預かっている、手紙は受け取ったら、その場で読めと言っていた」

 コウはカラステングから白い袋を受けとると中身を見て少し驚いた、入っていたのは折り畳まれた紙、これは手紙だろう、問題は黒くて平べったい四角形の何か、こんな物見たこと無い。
 とりあえず、カラステングの言う通りに手紙を読むことにした。

 コウちゃんへ

 ちょっと急な用事が出来たからしばらく村を離れるよ、変わりに勝負は一緒に入ってる黒い板を使って行うから安心して欲しい、使い方はこの荷物を持たせたカラステングのケイに教えたから、勝負したい時は彼女に言えば大丈夫、何時でもって訳にはいかないけど昼辺りは出来るだけ空けるようにするよ。
 負けた時の支払いはケイにお願いしてるから、それでは。

 ツミカより

 
 コウは手紙を袋に入れてもう一度黒い板を見て呟く。

「これで……将棋を?」

「読み終わったか?」
 
 コウは視線を黒い板から翼を胸の前で組んだケイに移し頷く。

「では勝負とやらはどうする、ちょうど昼だが?」

「やります」

「あい分かったでは、小屋に上がって待っててくれ、あぁもし駄目だった時はこの小屋にまた来い、奴が帰るまで私がここに住むから」





 

 ケイは小屋に上がると、コウから黒い板を受け取り床に置く、そして翼の先を板の中心につけて魔力を板に込めた。

「…………ふぅっ……」

 すると板の表面が微かに光った、徐々に浮かび上がる対局開始時の盤面、しかしその盤面は画面の中にあって触れる事は出来ない。

「絵みたいだ、みたいってか絵だな……どうやって差すんだ?」

「それはな、まずは動かしたい駒に触れる、そしたら動かしたい駒に色が付く、そして動かしたい地点に触れる、これだけだ、手駒を打つ時も同じだ」

「色が付く? え……とよしよし色が付いた、動かしたい所に……」

 画面をにらめっこしながら首を傾げるコウの横から翼を伸ばしてケイは説明を始める。
 コウは説明を受けながらやる内にやり方覚えて慣れていく。
 


 そして悲劇は起きた。



 コウの手番、コウの飛車先は無防備な銀を捉えている、この銀を取りながら龍に成ればやや勝機が見える、そんな盤面。
 微かにとはいえ始めて見えた勝機に震える指先が飛車に触れる、色が変わった飛車、コウは更に震える指先で移動先の地点に指先を置いた。
 飛車は指先の命令通りに動き。

 命令通りに、銀の頭で、止まった。
 
「あっ」

「ふふふ」

 震える指先、それがこの悲劇の原因。
 指先が震えていても、本物の駒ならば確実に置きたい所に置ける、しかしこの魔法仕掛けの盤面では少しの操作の間違いが命取りになる。

 手が進んで行き、飛車を取らせてしまった動揺で今度は角を取らせてしまった、動揺が動揺を呼び自滅する自陣。
 そして頭に飛車を打たれて詰み、コウはその場に寝転んで放心する、だがケイはそんな暇を与えない。

「残念だったな、あれが無かったら良い所まで行けたと思うぞ、まぁ次がある、頑張れ」

「え……あ、ありがとうございます……」

「さてと、では支払いの方だが」

「あ、ちょっと、待って下さい」

 ケイは目を細めて舌なめずりをして、翼を人の手へと変化させた。

「くふふ……いいや待たない、なぁ前立腺を知っているか? 私はずっとそこをいじるのが夢だったんだ」

「変な所いじらないで下さい!」

「大丈夫だ優しくする、さぁ! 払って貰おうか!」

「うわっ、そんな所に指をっ!」

「うん、話で聞いた通りの香車だ、成った時を思うとぞくぞくするな!」

「話って、あっやめっ、親指はっ親指はっ無理だから!」

 情事の声が強めに吹く風に乗って隣の山に住むカラステングに聞こえたとか聞こえなかったとか。
15/03/22 01:09更新 / ミノスキー
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