読切小説
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愛しの旦那様!
 あるー日、森の外、きみたちに、出会った♪
「ふーん、随分と余裕があるんだな?」
「いやいや、こんな状況だよ?歌でも歌ってないとやってられないよ」
 オレの軽口に周りにいた男たちが「そりゃそうだな」と、笑いながら言い合う。
 森を抜けて、漸く一息つけると思っていたら待っていましたと木々の間からわらわらと男たちが出てきた。人数は八人、その内三人が弓でこちらを狙っている。そうして髭面の盗賊のリーダーです、といった男が笑いながら、
「じゃあ、分かっていると思うが、一応言っておくぜ。この森はオレたちのナワバリなんだぜ。通行料として身ぐるみ全部置いていきな」
と、お決まりの言葉を言ってくる。
(うーん、周りの奴らはともかく、あっちの弓がなー。如何したものか。)
 考え込むオレに対して盗賊たちは、早くした方がいいぞとばかりに刀をチラつかせる。
(これ渡すとなー、後が怖いし。かといってなー)
「ほらほら、早くした方が身のためだぞ」
 考え込んでいる間も盗賊たちは、少しずつ間合いを詰めてくる。合図があれば何時でも飛び掛かれる状況だ。
 そんな中オレは軽く息を着くと、
「分かった分かった。言うとおりにするよ」
 オレの言葉に盗賊たちは、「早々素直が一番だぜ」と笑いながら頷き合う。その間も刀を構えているあたりなかなか場馴れしているようだ。
(さーて、ここからだな。上手くいってくれよ)
 そんなことを思いつつ、ズボンのポケットに手を入れるとあるものを取り出す。指につまんで翳したそれは、キラキラと輝いていて盗賊たちの目を奪うのには十分なものだ。案の定盗賊たちは目をくぎ付けにする。そうしてオレは
「渡すから、ちゃんと受け取れよ」
 そう言うと中に放り上げる。魔力を封じた水晶はキラキラと輝きながら盗賊たちの頭上へ向かってゆく。盗賊たちの目がその水晶に集中した瞬間、目を瞑り一言呟く。
「爆!」
 次の瞬間、水晶が閃光とともに弾ける。すぐさま走り出し、森の中に駆け込む。近くの樹の陰に隠れて振り向くと、盗賊たちは全員目を押さえて呻きこんでいる。それを見たオレは、グローブの仕掛けを作動させる。カチンという音とともに腕に当たる部分、小型の盾の裏側で弾が装てんされる。右手を水平に掲げると、一人に狙いを定めて撃ち出す。撃ち出された弾、金づちでようやく割れる木の実が、弓を構えていた一人に当たる。くぐもった声を上げて倒れ込むのを見る前に移動して次々と弾を撃ち出す。そのたびに声が上がり倒れ込む音が聞こえる。そして八人目の声を確認すると森の中から姿を現す。街道には盗賊たちが呻き声を上げて、倒れ込んでいる。オレはゆっくりと近づくと笑顔で訊ねる。
「一応聞くけどさ、助けてほしい?」
 その言葉に盗賊たちは呻きながら懇願する。
「た、たのむ。助けてくれ」
「も、もう、悪さはしません」
「お、お願いだから見逃してください」
 それに対してオレは笑顔でこう言った。
「じゃあ、オシオキで勘弁してやるよ」



 それから暫くして。
 街道に面した樹の枝に身ぐるみを剥がされて、吊るされた盗賊たちが蓑虫の様にぶら下がっていた。手足を縛られ、顔には<盗賊稼業失敗、オシオキ中>と書かれた紙が貼られている。道を往く旅人たちが通るたびに笑い合っているのが聞こえ、さらに惨めさが増してくる。そうして子分たちが皆項垂れているなか髭面だけが、どうやって復讐しようかと考えていた。そうやって耐えていると、暫くして可笑しな話し声が聞こえてくる。
「ねえ、どうする?」
「そうね。本当はもっといい男の方が良いんだけど」
「この際さ、こいつ等で我慢しましょうか」
「仕方ないよね。それにさ、こいつ等のせいでも在るんだし」
「だ、誰だ其処にいるのは?」
 髭面の言葉に辺りが一瞬静まり返る。が、
「助けて欲しい?」
 聞こえてきた声に髭面は、臆面もなく答える。
「た、助けてくれるのか?」
「いいわよ、助けてあげる」
 髭面はその言葉にしめた!と思う。だから気付いてなかった。聞こえてくる声がすぐそばだということに。ブーンという羽音がしていることに。
「そのかわり」
 顔を覆っている紙が剥がれる。髭面の目の前に女性がいた。
「あんた達はこれから、私たちが飼ってあげる」
 舌なめずりをしながら、ホーネットが宣言した。


 オレは、名前をデルクという。冒険者をしており仲間内では、「亀蛙」と呼ばれている。理由はオレの戦闘スタイルのせいだ。サークレットを頭に、ブレストプレートを着け、グローブとグリープという出で立ち。右手の盾で防ぎ、左手でカウンターを打ち込む姿は亀に似ている。そのくせ器用に動き回る姿はピョンピョン飛び跳ねる蛙だそうだ。ま、蛙と呼ばれる理由の一番の原因はこの盾に付けた弓のせいだ。腕に当たる部分に少し大きめの円形の盾を付けその裏に小さいが強力な弓を付けている。こいつで遠くの敵を撃つのが餌をとる蛙に似ているためだ。拾った木の枝と合わせると魔術師と勘違いをしてくれるから便利なもんだ。


 街道を歩くこと半日。目的の街に辿り着く。入り口でお決まりの検査を受けて街中に入ると、ギルドへ向かう。中に入るとすぐ左手ににカウンターがあり一人の男性が新聞を広げていた。そのまま男性マスターの前に立つと声を掛ける。
「ちょっといいかい?シャンズから届け物を持ってきたんだが」
 その言葉にマスターは「ああ、聞いてるよ」と新聞を畳みながら答える。その言葉に頷くと、懐から封筒を取り出しカウンターの上に置く。宛て名を一瞥し、封蝋が剥がれてないか確認すると、「ほい、確かに」と答えながら報酬の入った袋を渡す。それからオレの後ろ、背中に背負われている武具に目をやり、
「臨時収入が入ったんなら、一杯どうだ?」
と、訊ねてくる。
 オレは苦笑いしながら答える。
「昼間っから酔う積もりはないよ。それに酒は飲めないんだよ。知っているだろ」
「そうだったな、「下戸の蛙」さんよ」
「言ってろ」
 そう言いつつギルドを出る。そう、オレにはもう一つあだ名がある。酒が飲めない。一口でも飲もうものなら、顔を赤くして倒れ込んでしまう。鳴き声に因んで付けられたものだ。ま、別にいいけどな。
 雑貨屋に盗賊たちから奪った武具を二束三文(手入れがされてないため)で売り払い、今日の昼食を探そうとして辺りを見渡す。
「あそこなんかいいかな?」
 良さそうな屋台を見つけ歩き出そうとして
「見つけたぞ!!」
 瞬間、オレはその場を飛び退く。
 ドーンと地響きを立てて、何かがオレが今まで立っていた場所に降り立つ。それは天から雷が落ちて来た様に辺りに響き渡る。そして巻き起こる土煙が風に吹かれて消えてゆき現れたのは、
「よ、ひさしぶりルルナ。元気してたか?」
「ええ、元気にしていた・・・って、ちがーーう!!」
 オレの挨拶に元気に返事をして怒り出すのは一人のメドゥーサ。名前をルルナという。顔を赤くして、腕をブンブン振り回し、尻尾で地面をビシビシ、ついでに髪の毛の蛇もシャーッと威嚇してくる。本人としてはかなり恐ろしい登場の仕方をしたと思っているんだろうが、
「ほら、今回の仕事先で買ってきたアメ玉を暮れてやるから機嫌直せ」
「え、ほ、本当?」
 オレの言葉にコロッと態度を変える。
「ああ、何味がいいんだ?イチゴにミカン、ブドウにレモンもあるぞ」
「ね、ねえ。全部じゃ、だ、だめ?」
 上目使いに恐る恐る訊ねてくる。蛇たちも大人しくジーッと見つめてくる。その姿は正しく震える子犬そのもの。だからオレが「おう、いいぞ」と言いながら渡すとルルナは、その場で小躍りし始める。その様子に周りの人々も笑顔を向ける。
「あら、ルルナちゃん。良かったわね」
「えへへ、いいでしょー」
「あー、ルルナお姉ちゃんいいなー?」
「あげないよー」
 そうやって喜んでいる姿は何処にでもいる女の子そのものだ。
 そうしてアメ玉をコロコロと舐めて喜んでいるルルナにオレは
「それじゃ、オレ、メシ食いに行くから」
 と言うと、ルルナは
「うん、いってらっしゃい」
 と上機嫌で手まで振って見送ってくれる。
 目当ての屋台に入り注文して暫くすると
「あーー?!デルクの奴、また逃げたな!隠れたって無駄なんだからね!」
 叫び声とともにシューッとルルナが走り出す音がする。その音はオレの居る屋台の傍を通り抜けて行き、そのまま遠くへと消えていった。
「ほい、おまち。・・・それにしてもルルナちゃん、本当に魔物なのかい?」
「ま、疑問に思うのも当然だけど本当だよ」
 出されたラーメンを受け取りながらオレは答える。
(オレ、別に隠れてなんかいないんだけどな)
 そうして無防備に曝した背中を見せながらオレはラーメンを食べ始めた。


 ルルナがオレと出会ったのは、大体半年ほど前だ。ある洞窟に住みついていたメドゥーサ退治の依頼を受けて向かったところ、そこに居たのがルルナだった。出会ってすぐにオレは、先手必勝とばかりに木の棒を持った右手を構え、装てんしていた拾った小石を撃ち出す。対してルルナはオレを魔術師と警戒して対応が遅れた。その結果、撃ち出された小石は見事にルルナの額に命中した。かーん、と気持ちいい音が響き渡る。そうして待つこと暫し。近づいてみると、額に赤い丸印を点け、見事にルルナは気を失っていた。その後、目を覚まさしたルルナにオレは自己紹介をし、洞窟からの退去を話すと、
「いいわよ。貴方は私を倒したんだし」
「話が早くて助かる」
その言葉にオレは安心する。
すると、ルルナは顔を赤くしながら呟く。
「そのかわり・・・」
「ん、なんだ?(やな予感がするが)」
「今から貴方は私の夫よ!」
「ことわる」
 間髪入れず叫んだオレにルルナが詰め寄る。
「どうしてよ?一体、私のどこが不満なの?」
「おもに胸だな。スイカとは言わない、せめてメロンはないとな」
「な、なんですって?!ちゃんとあるわよ!!」
 両手を上げて胸を振ってみせる。だが、悲しいかなその胸は、
「・・・揺れない、まったく揺れない」
 オレのため息混じりの言葉に、ルルナは文字通りの怒髪天で詰め寄ってきた。(実際蛇たちも立ち上がって威嚇してきた)
「何よ!ちゃんとあるでしょ!」
 そう言いながら精一杯自己主張してみせるがその胸は
(・・・フルフルすらしないんだもんな)
 バフォメットやアリス、フェアリーと同盟を組めるぐらいだ。
(仕方ないな)
 オレは突然右手を上げて大声を上げる。
「あ、あれは何だ?」
「え、何々?」
 釣られてルルナが見上げる。
(マジかよ?!)
 成功したことに驚きつつ同時に背を向けて走り出す。オレが洞窟から抜け出して暫くのちルルナが「ねえ、何があるの?」と振り返り・・・
「逃げだわねーー!!」
 洞窟中に叫び声がこだました。


(ま、楽しいからいいか)
 後ろでルルナが必死で探しているのを聞きながらオレは、ラーメンを食べるのだった。
 




 
 

 
 
11/10/21 11:44更新 / 名無しの旅人

■作者メッセージ
ドジッ娘ルルナ頑張ります。
ルルナ「だまれー!」

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