屍肉のぬくもり
自分のことを不幸だと思ったことは一度も無かった。自分に降りかかる程度の不幸など、周囲を見渡してみればすぐに見つかる。道に落ちている、ちょっと綺麗な小石程度の珍しさだ。
霧の大陸の中でも特に貧しい土地の農民の子供に生まれれば、子を養うものが無い親が口減らしに何をするかなんて、誰だって思いつく。もしも俺が同じ立場ならば俺だって同じことをするだろう。
俺のような賊に身を落とす奴の大半は似たような境遇だ。どいつもこいつも、ガキの頃からかっぱらいをやって、捕まらず、くたばりもせずに何とか生きてこれた。その点だけは幸運なんだろうな。
だが、そんな俺たちの中でも優劣というものは存在する。そいつは、稼ぎが多いか少ないかだ。
美味いものを食える奴は力をつけられる。力の強い奴は気に入らねえ奴を黙らせられる。そして、そういうやつは好き放題できて更に稼げる。
所詮は同じクソなのに、その中でもクソ同士で食い合っていかなくちゃいけない。そして、クソ溜まりの底に落ちればもう二度と這い上がることはできない。
「こんな荒業でもしなきゃな」
ぬかるんだ地面を踏みしめて、ただひたすらに目的地に向けて歩く。ねちゃり、とした感触が足からは伝わってきて、それが自分の立場を知らせているようで腹が立って泥を蹴り上げた。
俺も、食い詰めたクソの一人だった。ありふれたように捨てられ、かっぱらいから戦場の落穂拾いまで何でもやった。
それでもガキ一人で生きるのには限界があった。山賊同士でつるめば、親玉に上納金を迫られ、自由に出来る金は無い。
一人で生きていきたい。それも、自由に。
切実な願いだった。文字通り泥をすすって稼いだ、俺の金だ。俺だけのものが欲しかった。
転機が訪れたのはつい先日。今の組に所属した時の言葉を思い出したのだ。
「こっから西の廃村にある墓場には絶対に行くんじゃねえ」
俺の世話を焼いてくれた先輩からの忠言だった。当時の俺は素直に頷いていたが、今考えてみると胡散臭い話だ。
そもそも廃村になんてわざわざ行きたがる奴がいるとは思えない。そんな奴は自殺志願者か、馬鹿なのかのどちらかだろう。
それでもあえて言ったということは、何かある。
盗賊としての勘のようなものだった。しかし、こうして何もない荒地をただ歩いていると、追い込まれた故の早とちりだったのではないか、という気もしてくる。
それから半刻ほど歩いて、ようやく目的地の廃村にたどり着いた。
中は荒れきっていて、ボロボロになった家屋の残骸があちこちに散らばっている。風が吹いて、家の扉がきぃきぃ、と虚しく音を立てた。
畑では麦でも作っていたのだろうか。鍬が放り出されていて、それが僅かに人の生活の残滓を風景に残している。そんな光景を見ながら、俺は覚えてもいない自分の故郷を見ているような気がして気分が悪くなった。
（行くなって言ったのはこういうことなのかもな）
あそこの連中はみんな同じく農家から捨てられた奴らだ。そんな過去を思い出してしまうからこその忠告だったのかもしれない。
（無駄足だったか）
そう考えて、踵を返そうとしたときだった。
視界の端に人影を捉えたような気がした。墓場の方向に女がいたような。すぐに振り向いてみたがそこには誰もおらず、朽ちた家屋が佇んでいて、枯木の枝が垂れて風に揺れているだけだった。
見間違えだろうか、そんなことを考えながらも足を進める。せっかく来たのだ、とことんまで見て回ってやろうじゃないか。
そんなことを考えて墓場に足を踏み入れたその時だった。背後でがたん、と音がした。
それと同時に、何か重いものが自分の体に伸し掛かってくる。
「のわっ！？」
「あ〜……」
思わず地面に突っ伏してしまう。耳元でのしかかってきた奴が唸り声を上げた。
泥まみれになりながら仰向けになると、仄暗い瞳をした女と目が合う。長い髪を振り乱して、俺を見るその女には何か意味が分からない文字が書いた紙が貼られていた。
「なんっ――」
文句を言うよりも先に、女が俺の口を塞ぎにかかった。ぬるりとした感触が口から伝わる。口づけをされている、そう理解するのに随分と時間がかかった。
舌を嬲られ、体験したことが無い快楽に頭が蕩けそうになった。女を抱いたことは無い。そんなことだって、全部親玉が取り上げてしまうからだ。
だから硬くなった逸物を引っ張り出されてひんやりとした指先でなぞられた時に、小さく声を上げてしまった。
女の舌がようやく俺から離れて、唾液が薄く糸を引く。悲鳴を上げてしまった俺を見て、彼女は薄く笑った。
「おにーさん……あったかい」
その時になってようやく俺はキョンシーという魔物の存在に思い至った。男を抱いて体の柔らかさを取り戻す魔物。
俺の口を吸って、幾分か饒舌になったらしいキョンシーはえへへ、と淫らな笑みを浮かべながら俺の怒張に秘貝をあてがった。
「もっと……あったかくなお？」
「やめっ――」
魔物と交わるだなんて冗談じゃない、そう思って暴れるがのしかかってくるキョンシーの力は思ったよりも強く、振りほどけない。手首を抑えて馬乗りになった女は嗜虐的な笑みを浮かべながら、挿入する様をまざまざと見せつけてきた。
「んっ……はぁあっ……気持ちいー♥」
恍惚とした表情で、腰を下ろしたキョンシーは俺に抱き着いた。それを振りほどくことが俺は出来ないでいた。
「くあっ……！」
脳髄まで響くかのような快感に思わず歯を食いしばる。まるで熟れた果実に逸物を包まれたようだ、と俺は奇妙な感想を抱いていた。キョンシーの女陰はぐちゅぐちゅに熟した柿のようで、だらだらと愛液で俺のものを濡らしながら優しく包み込んでいる。
「動い、ちゃお♥」
「ばかっ、動くなっ！」
未知の快感を受け止めきれない俺とは裏腹に、キョンシーは待ちきれないとばかりに腰を振りだす。くっちゃくっちゃ、と湿った音を響かせながら彼女はカエルのように体を跳ねさせた。
「えへ、おにーさん、イッちゃえ♥」
一定のリズムで、しかし休みなくキョンシーは刺激を与え続ける。彼女が腰を引くたびにざらざらとした膣壁が亀頭を擦りあげて、そのたびに俺は妙な声が出るのを必死で我慢した。
我慢しているのを見てか、キョンシーはにっこりと笑い再び俺と唇を合わせる。唾液を混ぜ合わせ、舌を吸い合い、満足したのか彼女は今度は俺の耳元に口を近づけた。
「我慢しなくて、いーよ？ いっぱいザーメン出しちゃお？」
まるで子供をあやすような声にぞくり、と背筋が震える。膣内で俺のチンポが震えたのに気が付いたのだろう。キョンシーは笑みを深くした。
「そっか、こういうエッチなこと言われるの好きなんだ、おにーさん♥」
違う、という否定の言葉は出てこなかった。こうして耳元で囁かれている今でも肌は粟立ち、射精への欲求はこみ上げるばかりだった。
「好きにしていーんだよー、キョンシーのおまんこにいっぱいおちんぽミルクだしていーんだよー♥ わたしのからだ、何をしてもいーよ♥」
味を占めたのか、快楽と羞恥を煽る囁きを続けながら僅かに腰の動きを緩める。まるでむずがる赤子をあやすような優しさで、包み込むように彼女は動き始めた。
「ほしーなー、おにーさんのえっちなお汁♥ あったかくてぬるぬるしてて、わたしのおまんこに出したらきっと気持ちいーよ？」
彼女の言葉に答えられずにいると、腰の動きが早まる。単調な動きの変化だったが女性経験のない俺は直ぐに余裕をなくしていった。
俺の絶頂が近いと見るや、キョンシーの腰の動きはさらに早まっていった。もう抵抗することなど考えられなかった。彼女の言う通り、中で果てたい。それだけが思考を支配していって、いつしか俺は彼女の腕を掴んで自分から腰を振ってさえいた。
「あはっ♥ おにーさんのおチンポ、ばっきばきなんだあ♥」
「くぅ、出るぞ！」
宣言して、俺は思い切り腰を突き上げて彼女の最奥に精を放った。それをキョンシーは嬌声を上げながら受け入れている。まるで自分の魂ごと引き抜かれているような虚脱感がしてくるが、それさえも今の自分には快感でしかなかった。
どくどく、と脈打つ逸物を引き抜くとねっとりと糸を引いた。それでも固さを失わないそれを見てキョンシーが舌なめずりをする。
「今度はこーしよっ♥」
「おっ、おい！」
彼女は強引に俺を引き起こすと、股を広げて俺の膝の上に腰かけた。そのまま足で俺の腰を挟んで再び膣口に怒張を宛がう。自分が放った精と愛液が合わさってねちゃりと淫らな音を立てて彼女の蜜壺は苦も無く俺のものを呑みこんだ。
「それでー、こう！」
「わぷっ！」
快感に浸るのもつかの間、今度は勢いよくキョンシーが抱き着いてくる。豊満な乳房が俺の顔に押し付けられて俄に呼吸が苦しくなった。
「おっぱいいっぱい吸っていいんだよ♥ 貴方だけのえっちなおっぱいだよ♥」
甘えるように鼻を鳴らしながらキョンシーが啼く。その声に俺は情欲を煽られて手を這わせ、舌を絡めた。
俺だけのもの、そんな単純な言葉が俺の支配欲を突き動かしていく。指を沈め、固くしこった乳首をなめ回し、それに対して敏感に声を上げる彼女を本当に自分のものにしたくて、俺はキョンシーの体を責めたてていった。
「やぁっ♥ じゃあおにーさんの舌、すごくえっちだ♥」
キョンシーはさらに淫らに腰を跳ねさせ、不意に腰を引いた。そのまま膣口で俺のモノの先端を加えて僅かに前後させる。きゅうきゅう、ときつく締めあげる入口が、最も敏感な部分だけを的確に攻め立てた。
「えへへ、どーかな♥ オチンポもう限界かな♥」
「うる……さい！」
「ひゅい！？」
すぐにでもイきそうだったので、今度はこちらから深くまで腰を突きいれた。予想してなかった動きなのだろう。彼女は可愛らしい悲鳴を上げて小刻みに震える。その隙に自分から倒れこんで、今度は自分から馬乗りになった。
この女を俺のモノにしたい。その一心で体が動き続けていた。腰を持ちあげて、さらに深くまで怒張を突きいれる。こりこりとした行き止まりに突き当たって、そこに自分の先走り汁を練りこむように腰を擦りつけた。
「やぁっ♥ 奥、だめぇっ♥」
「何がダメなんだこのやろっ！」
自分がされたように唇を合わせ、舌を吸う。その間にも後先考えずにがんがんと腰を叩きつけていた。誰もいない荒野にぱちゅぱちゅ、と粘ついた音だけが響き、それがさらに俺の興奮を高めていく。
「にゃぁ♥ きすしながら、ずんずんしちゃやぁ♥」
「んっ、出すぞ！ 一番奥でっ！」
「来てぇ♥ おちんぽミルク、もっとほしぃの♥」
身勝手な宣言にも彼女は腰を躍らせながらついてくる。舌っ足らずに甘える声に自分の支配欲求が満たされていくのを感じて、さらに腰の動きを速めた。
彼女の肌には汗が浮かびはじめ、俺のそれと混じりあっていく。精液も愛液も俺たちの足元で小さな水たまりになっていって、まるで二人が融けあっていくような錯覚を覚えていた。
絶頂が近いことを感じ取ってストロークの間隔が徐々に短くなっていく。それに応じてキョンシーの喘ぎ声が短く、切なくなっていった。
そして限界は直ぐに訪れた。
「おちんぽ、気持ちよしゅぎぅ♥ イく、イくぅっ〜〜♥」
「くあっ！！」
目の前が真っ白になるほどの絶頂をコントロールしきることが出来ず、俺はめちゃめちゃに精を解き放った。彼女の中に出しながらも、思わず腰を引き抜いてしまい、さらにキョンシーの体を白濁で染めていく。
勢いよく飛び出したそれを、彼女は恍惚とした表情で受け止めていた。
「あはぁ……♥ いのち、いっぱいぃ……♥」
顔に、腹にかかったそれを彼女は指で掬っては、しばらく味わうように舐め続けていた。
＊
絶頂冷めやらぬ二人は、泥だらけになりながらも仰向けになって情事の余韻に浸っていた。正確には身動きが出来ぬほど疲弊していた、という方が正しい。
先に動き出したのはキョンシーのほうだった。ころり、と転がって俺の腕に自分のそれを絡ませる。
「おにーさん、あったかい」
「まあ、生きてるからな」
「じゃあ、わたしは？」
そういわれて、静かに目を瞑る。俺は彼女の腕から伝わるほのかな温かさを確かに感じていた。
「死んでても、魔物でもちゃんとあったかいんだな」
「おにーさんのおかげ」
えへへ、と笑ってキョンシーは子犬が甘えるようにすりすりと肩に頬ずりする。その拍子に彼女の額から離れようとしなかった奇妙な紙が落ちた。
上半身を起こして、風に飛ばされそうになるそれを摘み上げる。裏返して、そこに何が書いてあるのか俺は改めて読んだ。
『孤独』と。
「おい、これつけておかなくていいのか」
「もういらない。おにーさんのおかげ」
俺の手から紙を取り上げてぽいっと彼女は捨ててしまった。解き放たれた呪いの言葉は風に吹かれてどこかへ行ってしまう。それを見送ったキョンシーは何かを考えて、懐から新たに小さな紙を取り出した。
「何やってんだ？」
「あたらしーの」
どこから取り出したのか、筆でさらさらと紙に何ごとかを書きつけていく。ちょっと躊躇ってから、横目で俺を見て、彼女は照れたようにぱしっと勢いよくその紙を自分の額に張り付けた。
「おにーさんも、これで寒くない。あったかい」
「はあ？」
訳も分からずに聞き返すと、ぎゅっと抱きつかれた。満面の笑みを浮かべる彼女の額には、可愛らしい柔らかな字で大きく書かれていた。
『あなたのもの』
霧の大陸の中でも特に貧しい土地の農民の子供に生まれれば、子を養うものが無い親が口減らしに何をするかなんて、誰だって思いつく。もしも俺が同じ立場ならば俺だって同じことをするだろう。
俺のような賊に身を落とす奴の大半は似たような境遇だ。どいつもこいつも、ガキの頃からかっぱらいをやって、捕まらず、くたばりもせずに何とか生きてこれた。その点だけは幸運なんだろうな。
だが、そんな俺たちの中でも優劣というものは存在する。そいつは、稼ぎが多いか少ないかだ。
美味いものを食える奴は力をつけられる。力の強い奴は気に入らねえ奴を黙らせられる。そして、そういうやつは好き放題できて更に稼げる。
所詮は同じクソなのに、その中でもクソ同士で食い合っていかなくちゃいけない。そして、クソ溜まりの底に落ちればもう二度と這い上がることはできない。
「こんな荒業でもしなきゃな」
ぬかるんだ地面を踏みしめて、ただひたすらに目的地に向けて歩く。ねちゃり、とした感触が足からは伝わってきて、それが自分の立場を知らせているようで腹が立って泥を蹴り上げた。
俺も、食い詰めたクソの一人だった。ありふれたように捨てられ、かっぱらいから戦場の落穂拾いまで何でもやった。
それでもガキ一人で生きるのには限界があった。山賊同士でつるめば、親玉に上納金を迫られ、自由に出来る金は無い。
一人で生きていきたい。それも、自由に。
切実な願いだった。文字通り泥をすすって稼いだ、俺の金だ。俺だけのものが欲しかった。
転機が訪れたのはつい先日。今の組に所属した時の言葉を思い出したのだ。
「こっから西の廃村にある墓場には絶対に行くんじゃねえ」
俺の世話を焼いてくれた先輩からの忠言だった。当時の俺は素直に頷いていたが、今考えてみると胡散臭い話だ。
そもそも廃村になんてわざわざ行きたがる奴がいるとは思えない。そんな奴は自殺志願者か、馬鹿なのかのどちらかだろう。
それでもあえて言ったということは、何かある。
盗賊としての勘のようなものだった。しかし、こうして何もない荒地をただ歩いていると、追い込まれた故の早とちりだったのではないか、という気もしてくる。
それから半刻ほど歩いて、ようやく目的地の廃村にたどり着いた。
中は荒れきっていて、ボロボロになった家屋の残骸があちこちに散らばっている。風が吹いて、家の扉がきぃきぃ、と虚しく音を立てた。
畑では麦でも作っていたのだろうか。鍬が放り出されていて、それが僅かに人の生活の残滓を風景に残している。そんな光景を見ながら、俺は覚えてもいない自分の故郷を見ているような気がして気分が悪くなった。
（行くなって言ったのはこういうことなのかもな）
あそこの連中はみんな同じく農家から捨てられた奴らだ。そんな過去を思い出してしまうからこその忠告だったのかもしれない。
（無駄足だったか）
そう考えて、踵を返そうとしたときだった。
視界の端に人影を捉えたような気がした。墓場の方向に女がいたような。すぐに振り向いてみたがそこには誰もおらず、朽ちた家屋が佇んでいて、枯木の枝が垂れて風に揺れているだけだった。
見間違えだろうか、そんなことを考えながらも足を進める。せっかく来たのだ、とことんまで見て回ってやろうじゃないか。
そんなことを考えて墓場に足を踏み入れたその時だった。背後でがたん、と音がした。
それと同時に、何か重いものが自分の体に伸し掛かってくる。
「のわっ！？」
「あ〜……」
思わず地面に突っ伏してしまう。耳元でのしかかってきた奴が唸り声を上げた。
泥まみれになりながら仰向けになると、仄暗い瞳をした女と目が合う。長い髪を振り乱して、俺を見るその女には何か意味が分からない文字が書いた紙が貼られていた。
「なんっ――」
文句を言うよりも先に、女が俺の口を塞ぎにかかった。ぬるりとした感触が口から伝わる。口づけをされている、そう理解するのに随分と時間がかかった。
舌を嬲られ、体験したことが無い快楽に頭が蕩けそうになった。女を抱いたことは無い。そんなことだって、全部親玉が取り上げてしまうからだ。
だから硬くなった逸物を引っ張り出されてひんやりとした指先でなぞられた時に、小さく声を上げてしまった。
女の舌がようやく俺から離れて、唾液が薄く糸を引く。悲鳴を上げてしまった俺を見て、彼女は薄く笑った。
「おにーさん……あったかい」
その時になってようやく俺はキョンシーという魔物の存在に思い至った。男を抱いて体の柔らかさを取り戻す魔物。
俺の口を吸って、幾分か饒舌になったらしいキョンシーはえへへ、と淫らな笑みを浮かべながら俺の怒張に秘貝をあてがった。
「もっと……あったかくなお？」
「やめっ――」
魔物と交わるだなんて冗談じゃない、そう思って暴れるがのしかかってくるキョンシーの力は思ったよりも強く、振りほどけない。手首を抑えて馬乗りになった女は嗜虐的な笑みを浮かべながら、挿入する様をまざまざと見せつけてきた。
「んっ……はぁあっ……気持ちいー♥」
恍惚とした表情で、腰を下ろしたキョンシーは俺に抱き着いた。それを振りほどくことが俺は出来ないでいた。
「くあっ……！」
脳髄まで響くかのような快感に思わず歯を食いしばる。まるで熟れた果実に逸物を包まれたようだ、と俺は奇妙な感想を抱いていた。キョンシーの女陰はぐちゅぐちゅに熟した柿のようで、だらだらと愛液で俺のものを濡らしながら優しく包み込んでいる。
「動い、ちゃお♥」
「ばかっ、動くなっ！」
未知の快感を受け止めきれない俺とは裏腹に、キョンシーは待ちきれないとばかりに腰を振りだす。くっちゃくっちゃ、と湿った音を響かせながら彼女はカエルのように体を跳ねさせた。
「えへ、おにーさん、イッちゃえ♥」
一定のリズムで、しかし休みなくキョンシーは刺激を与え続ける。彼女が腰を引くたびにざらざらとした膣壁が亀頭を擦りあげて、そのたびに俺は妙な声が出るのを必死で我慢した。
我慢しているのを見てか、キョンシーはにっこりと笑い再び俺と唇を合わせる。唾液を混ぜ合わせ、舌を吸い合い、満足したのか彼女は今度は俺の耳元に口を近づけた。
「我慢しなくて、いーよ？ いっぱいザーメン出しちゃお？」
まるで子供をあやすような声にぞくり、と背筋が震える。膣内で俺のチンポが震えたのに気が付いたのだろう。キョンシーは笑みを深くした。
「そっか、こういうエッチなこと言われるの好きなんだ、おにーさん♥」
違う、という否定の言葉は出てこなかった。こうして耳元で囁かれている今でも肌は粟立ち、射精への欲求はこみ上げるばかりだった。
「好きにしていーんだよー、キョンシーのおまんこにいっぱいおちんぽミルクだしていーんだよー♥ わたしのからだ、何をしてもいーよ♥」
味を占めたのか、快楽と羞恥を煽る囁きを続けながら僅かに腰の動きを緩める。まるでむずがる赤子をあやすような優しさで、包み込むように彼女は動き始めた。
「ほしーなー、おにーさんのえっちなお汁♥ あったかくてぬるぬるしてて、わたしのおまんこに出したらきっと気持ちいーよ？」
彼女の言葉に答えられずにいると、腰の動きが早まる。単調な動きの変化だったが女性経験のない俺は直ぐに余裕をなくしていった。
俺の絶頂が近いと見るや、キョンシーの腰の動きはさらに早まっていった。もう抵抗することなど考えられなかった。彼女の言う通り、中で果てたい。それだけが思考を支配していって、いつしか俺は彼女の腕を掴んで自分から腰を振ってさえいた。
「あはっ♥ おにーさんのおチンポ、ばっきばきなんだあ♥」
「くぅ、出るぞ！」
宣言して、俺は思い切り腰を突き上げて彼女の最奥に精を放った。それをキョンシーは嬌声を上げながら受け入れている。まるで自分の魂ごと引き抜かれているような虚脱感がしてくるが、それさえも今の自分には快感でしかなかった。
どくどく、と脈打つ逸物を引き抜くとねっとりと糸を引いた。それでも固さを失わないそれを見てキョンシーが舌なめずりをする。
「今度はこーしよっ♥」
「おっ、おい！」
彼女は強引に俺を引き起こすと、股を広げて俺の膝の上に腰かけた。そのまま足で俺の腰を挟んで再び膣口に怒張を宛がう。自分が放った精と愛液が合わさってねちゃりと淫らな音を立てて彼女の蜜壺は苦も無く俺のものを呑みこんだ。
「それでー、こう！」
「わぷっ！」
快感に浸るのもつかの間、今度は勢いよくキョンシーが抱き着いてくる。豊満な乳房が俺の顔に押し付けられて俄に呼吸が苦しくなった。
「おっぱいいっぱい吸っていいんだよ♥ 貴方だけのえっちなおっぱいだよ♥」
甘えるように鼻を鳴らしながらキョンシーが啼く。その声に俺は情欲を煽られて手を這わせ、舌を絡めた。
俺だけのもの、そんな単純な言葉が俺の支配欲を突き動かしていく。指を沈め、固くしこった乳首をなめ回し、それに対して敏感に声を上げる彼女を本当に自分のものにしたくて、俺はキョンシーの体を責めたてていった。
「やぁっ♥ じゃあおにーさんの舌、すごくえっちだ♥」
キョンシーはさらに淫らに腰を跳ねさせ、不意に腰を引いた。そのまま膣口で俺のモノの先端を加えて僅かに前後させる。きゅうきゅう、ときつく締めあげる入口が、最も敏感な部分だけを的確に攻め立てた。
「えへへ、どーかな♥ オチンポもう限界かな♥」
「うる……さい！」
「ひゅい！？」
すぐにでもイきそうだったので、今度はこちらから深くまで腰を突きいれた。予想してなかった動きなのだろう。彼女は可愛らしい悲鳴を上げて小刻みに震える。その隙に自分から倒れこんで、今度は自分から馬乗りになった。
この女を俺のモノにしたい。その一心で体が動き続けていた。腰を持ちあげて、さらに深くまで怒張を突きいれる。こりこりとした行き止まりに突き当たって、そこに自分の先走り汁を練りこむように腰を擦りつけた。
「やぁっ♥ 奥、だめぇっ♥」
「何がダメなんだこのやろっ！」
自分がされたように唇を合わせ、舌を吸う。その間にも後先考えずにがんがんと腰を叩きつけていた。誰もいない荒野にぱちゅぱちゅ、と粘ついた音だけが響き、それがさらに俺の興奮を高めていく。
「にゃぁ♥ きすしながら、ずんずんしちゃやぁ♥」
「んっ、出すぞ！ 一番奥でっ！」
「来てぇ♥ おちんぽミルク、もっとほしぃの♥」
身勝手な宣言にも彼女は腰を躍らせながらついてくる。舌っ足らずに甘える声に自分の支配欲求が満たされていくのを感じて、さらに腰の動きを速めた。
彼女の肌には汗が浮かびはじめ、俺のそれと混じりあっていく。精液も愛液も俺たちの足元で小さな水たまりになっていって、まるで二人が融けあっていくような錯覚を覚えていた。
絶頂が近いことを感じ取ってストロークの間隔が徐々に短くなっていく。それに応じてキョンシーの喘ぎ声が短く、切なくなっていった。
そして限界は直ぐに訪れた。
「おちんぽ、気持ちよしゅぎぅ♥ イく、イくぅっ〜〜♥」
「くあっ！！」
目の前が真っ白になるほどの絶頂をコントロールしきることが出来ず、俺はめちゃめちゃに精を解き放った。彼女の中に出しながらも、思わず腰を引き抜いてしまい、さらにキョンシーの体を白濁で染めていく。
勢いよく飛び出したそれを、彼女は恍惚とした表情で受け止めていた。
「あはぁ……♥ いのち、いっぱいぃ……♥」
顔に、腹にかかったそれを彼女は指で掬っては、しばらく味わうように舐め続けていた。
＊
絶頂冷めやらぬ二人は、泥だらけになりながらも仰向けになって情事の余韻に浸っていた。正確には身動きが出来ぬほど疲弊していた、という方が正しい。
先に動き出したのはキョンシーのほうだった。ころり、と転がって俺の腕に自分のそれを絡ませる。
「おにーさん、あったかい」
「まあ、生きてるからな」
「じゃあ、わたしは？」
そういわれて、静かに目を瞑る。俺は彼女の腕から伝わるほのかな温かさを確かに感じていた。
「死んでても、魔物でもちゃんとあったかいんだな」
「おにーさんのおかげ」
えへへ、と笑ってキョンシーは子犬が甘えるようにすりすりと肩に頬ずりする。その拍子に彼女の額から離れようとしなかった奇妙な紙が落ちた。
上半身を起こして、風に飛ばされそうになるそれを摘み上げる。裏返して、そこに何が書いてあるのか俺は改めて読んだ。
『孤独』と。
「おい、これつけておかなくていいのか」
「もういらない。おにーさんのおかげ」
俺の手から紙を取り上げてぽいっと彼女は捨ててしまった。解き放たれた呪いの言葉は風に吹かれてどこかへ行ってしまう。それを見送ったキョンシーは何かを考えて、懐から新たに小さな紙を取り出した。
「何やってんだ？」
「あたらしーの」
どこから取り出したのか、筆でさらさらと紙に何ごとかを書きつけていく。ちょっと躊躇ってから、横目で俺を見て、彼女は照れたようにぱしっと勢いよくその紙を自分の額に張り付けた。
「おにーさんも、これで寒くない。あったかい」
「はあ？」
訳も分からずに聞き返すと、ぎゅっと抱きつかれた。満面の笑みを浮かべる彼女の額には、可愛らしい柔らかな字で大きく書かれていた。
『あなたのもの』
15/12/11 01:08更新 / ご隠居