連載小説
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砂漠の少女
 夕日がカーテンを透かして、部屋を茜色に彩っている。

 何日も開けられていない部屋の中は空気が澱み、立ち上る魔力と汗、精液と愛液がまじりあい、ムワッとした匂いと熱気で満たされていた。



 部屋の主であるオリオ・ノスカランは目の前で、妻トトリがその裸体をベットに横たえている。オリオは妻にかぶさるように体を重ねると、その汗ばんだ柔肌を撫でて、揉んで、その肢体を隅々まで堪能していく。

 また、腰をゆっくりと動かしペニスでヴァギナの壁を擦り、揉み、時に叩き、優しくマッサージするような刺激を与えていく。



 この部屋に籠ってからすでに3日目だ。

 妻は口もアナルもヴァギナも、肢体の隅々までも精を注がれ、刷り込まれている。肌と髪は磨かれたように瑞々しく輝き、張りのある肌に興奮で赤みが差す様はまるで乙女のようだ。

 それと同時に、オリオの手が埋まるのではと思うほどの柔らかな体と、ペニスが動くたびに生きてるかの如く絡みつき扱いてくるヴァギナはまさに熟れた熟女の様でもある。

 張りと柔らかさ、恥じらいと艶やかさ、二重の色気を思う存分に味わえる魔物娘の体に、オリオは無心でむしゃぶりつく。



 そんな中・・・・・・。

 リンリン・・・・・・。

 

 鈴の音が部屋の空気を震わせた。



「はい、どなたかな?」

 オリオは上体を起こして素早く司令官モードに入ると、壁越しに訪問者へ声をかける。

「お、お楽しみの所失礼します!偵察部隊所属のリリーナ・ペッタ上等兵です!」



 偵察部隊は銃士隊旗下のレンジャー隊が傘下に収める部隊である。

 主に機動力が高いものの、経験が少なかったり、戦闘行動に向かない者達で構成される部隊だ。

 リリーナ・ペッタ上等兵も年若いブラックハーピーで、ブラックハーピーとしては真面目そうな顔をしていたことを思い出す。



 「ああ、ペッタ上等兵か。報告だね。今は少し・・・中には入れないのでそのまま報告してくれ。」

「は、はい! 分かりました! 一刻ほど前、ミトリンワ様の一行が北の村に到着されました。明日の早朝出発され、お昼前にはこちらに到着する見込みです。」

「ああ、そろそろだと思ってた。報告ありがとう。下に手すきの職員はいなかったかな?いたら来るように伝えてくれ」


 予想通りの報告に軽くうなずくと、庁舎の職員を呼ぶよう伝える。


「はい!分かりました!・・・・・・あ、あの・・・司令官?」
「ん?なんだい?」
「えっと・・・、さっき見た感じ、下には誰もいなかったようなのですが・・・・・・」

 オリオはおっ?と目を見開く。言われてみれば一回の偵察兵であるリリーナ上等兵が直接、しかも一人で司令官に報告に来るのが異常なのだ。普通は部隊の隊長が庁舎の担当部署に報告を上げて、その職員が司令室まで知らせに来るものだ。

 ただ、魔物夫婦の場合よほど火急の用でもない限り夫婦の営みを優先してしまう。

(それこそ、オリオも報告を聞きながらペニスで妻のヴァギナをかき回している。)

 そして今回の報告は以前から予想されていたものであり、準備は着々と進められてきた。
 今更急いで動くことはない。
 ・・・・・・急いで動くことはないが、やるべきことがないわけではない。

 下の職員たちもそれが分かっているから、早々に仕事を切り上げ、夫や妻とのお楽しみを優先したのだろう・・・・・・。

(いや、未婚の職員も何人かいるから純粋にさぼってる線も濃いな・・・・・・)

 何人かの職員の顔を思い浮かべながらオリオは口をへの字に曲げた。
 軍属とはいえ基本は魔物娘たちとその夫だ、規律を求めるのが難しい時もある。

「ああ、分かった。きっとサボってるんだろう。まあいい。リリーナ上等兵、ちょっとお使いを頼みたい。ピラミッド、それに町の酒場や宿屋に行って今の話を伝えてきてくれないかな? 飲食代は下が持つから。伝え終わったら君も楽しんでくるといい」

「え! いいんですか! やった〜! すぐに行ってきま〜す!」



 オリオの労いに緊張が解けたのか、ハーピー属らしい明るさで返事をすると、リリーナ上等兵は廊下の窓からバサバサと飛び立って行った。

 とりあえず、住民への周知だけはこれでできるだろうと思いつつ、オリオはいまだ夢見心地の妻に目を向ける。

 頬は染まり目をトロンとさせ、オリオの刺激が少ないせいか自分の人差し指を横から咥えている。おそらくリリーナ上等兵が来たことにも気づいていないのだろう。

 妊娠してからというもの普段以上に精に貪欲になっている。胎児に栄養と魔力を取られているからなのか、純粋により強い子供を産もうとする本能なのか。
 オリオには分からない。
 ただ、濡れて艶のある瞳がこちらを見つめ、呼吸に合わせて上下する巨乳は汗を流し、グッと勃起した乳首が夫に吸ってもらうのを今か今かと待っている。

(まだ一晩ある)

 オリオは出迎えの準備を棚上げすると、待ちわびる妻の下へ体を沈めるのだった。











 レスカティエ第37駐屯地は春の匂いに包まれていた。

 北からの冷たい風は南からの暖かな風に替わり、山や野原を白く染めた雪も徐々に溶けて黒い地面があちらこちらで顔を覗かせている。

 雪雲と共にやってきたグラキエスやホワイトホーン、イエティなど冬の魔物娘たちは、雪雲と共に北へと帰っていった。

 駐屯地の周囲では冬の魔物娘達と入れ替わるように、他の魔物娘や野生動物が動き周り、時々こちらと目が会う。

 特に今年は先週から滞在するニトランタの魔力の影響からか、例年と比べて全ての生き物たちの動きが活発だ。

 山裾の森に隠された駐屯地から、北に伸びる道を進みつつ、オリオはざわめく森の気配を感じていた。隣には妻のトトリが歩き、エルフらしい整った美貌(明け方までは溶けていた)をキリリと引き締めている。

 ただ、表情とは裏腹に、こちらの腕に抱き着いて豊かな胸を押し付け、アソコを触れさせてくる。 
 本人曰く、陽気に浮かれた若い魔物娘が夫である私にちょっかいをかけないよう、神経をとがらせているのだ、そうだ。

 ただの杞憂だと思うのだが、妻のトトリには昔から心配性で寂しがり屋なところがあった。寂しがり屋が一生懸命大事なものを守ろうとしていると思うと、いじらしく、可愛らしく見えてくる。


 駐屯地から数百m歩くと北の平野に出る。道はそのまま北へ向かい200mほど先には目新しい建物がいくつも並んでいる。ここ数年で出来た若い町だ。
 町は道に沿って北へと伸びている。町を通り過ぎてこの道をさらに進むと、昨日の報告にあった北の村がある。


 ただ、今は北ではなく左手、西の方へ眼を向ける。
 広がるのは100m四方ほどの砂漠を模した砂地だ。ミニ砂漠と言ってもいい。
 道のすぐ横から始まる砂地には何棟かの建物が立ち、中心には小ぶりなピラミッドがおかれている。 

 2人はまずそちらへ向かう。


 しばらくして・・・。
 オリオとトトリの2人は砂地の入り口まで戻ってきていた。

 ピラミッドの中で泊っているはずのダワンやニトランタ、アプアの姿はなく。すでに町まで迎えに行ってしまったようだ。
 オリオが入り口に立って町の方を見ていると、トトリが声をかける。


「今回も、ここで到着するのを待つんですか?」
「ああ、家族で一緒にいられる時間は貴重だからな、私がいると周りも気軽にはしゃげないだろう?」
「フフフ・・・。そこまで遠慮しなくても、ミトちゃんは気にしませんよ」
「ま、ミト君はそうかもな」

 待ち人の小さなドヤ顔を思い出すとついつい笑ってしまう。
 2人が立ち止まっていると、知らせを聞いたのだろう駐屯地の兵士や職員が、町に向かって通り過ぎていく。それぞれ家族や友人と連れだっており、さながらお祭りに行くかのようだ。

 実際、町の中では出店なども出されているはずだし、お囃子も聞こえてくる。まさに小さなお祭り状態だ。

 挨拶しながら横を通り過ぎていく人と魔物娘たちをぼんやり眺めていると、トトリがこちらを向いて話しかけてきた。

「みんな楽しそうですね。一冬あってないだけなのに、待ち遠しいって感じがこちらにも伝わってきます」
「ああ、ミト君は居るだけで賑やかになるからね。そう言うキミも待ち遠しいって顔してるよ?」
「あらら、そうですか? ウフフ」

 ごまかすように、でも楽しそうに、トトリは笑う。

「ダワンとアプアさんは基本、家から出なかったからね。賑やかな子がいないとこんなにも静かだったのかと思ったものだ」

「フフフ・・・そうですね。何時もポアラちゃんを引っ張ってあっちこっちと探検してましたものね」

 トトリはここ数年で駐屯地の風物詩となった光景を思い出して笑みを浮かべる。

「まあ、今年はプーリ君も手が空いてきたからね、恐らく・・・お! 来たみたいだな。」


 話をしていると、町の北側から歓声が聞こえてきた。
 ミトリンワ達一行が到着したのだろう。お囃子も大きくなり、ラッパや太鼓の音が景気よく響き渡る。

 歓声や笑い声がしばらく続くと、ガヤガヤとした賑やかな音が徐々にこちらへ近づいてきた。
 2人でもう少し待っていると、家の影から馬車と住民達の行列が姿を表わした。

 行列の先頭には十〜十二歳程の少女が元気よく手を振って歩いてくる。

 肌は褐色、黒真珠のような艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、母親と同じ包帯と布を組み合わせた涼し気な姿だ。

 少女の左右には一歩遅れてダワンとニトランタが続く。

 去年までは娘と手を繋いで楽しそうに歩いて来た父親は、今は少し寂しそうな表情をしている。おそらく、大人ぶりたい我が子に振られでもしたのだろう。

 そんな様子を見ながら、トトリと二人で待っていると、一向がオリオの正面までやってきた。

 少女が笑顔でビシッと敬礼する。

「お久しぶりです! レスカティエ第37駐屯地司令官。オリオ・ノスカラン閣下! ミトリンワ・シエクリス特尉。ただいま帰還しました!」

 少女の言葉にオリオも敬礼を返す。

「ああ、久しぶりだな。よく戻ったミトリンワ・シエクリス特尉。長旅ご苦労だった。レスカティエ第37駐屯地司令官。オリオ・ノスカランが当駐屯地への帰還を確認した。」

 かつてミトリンワが駐屯地しかないこの地に住むことが決まった際、ミトリンワをどう扱うか問題になった。一般人、しかもよその国の王族を軍事施設で預かることに反対意見もあったのだ。

 ニトランタやレスカティエ本国と何度か協議した結果、駐屯地に滞在する期間だけは準士官(軍属)として扱う決まりとなり。特尉の称号を与えられた。そのため、オリオとミトリンワは上司と部下という関係である。

 ただ、それも形だけのものだ。2人のそれらしき姿を見られるのは年に二度、駐屯地を離れる時と帰ってきた時の挨拶だけである。


 オリオが敬礼を解くと、ミトリンワも敬礼を解く。
 ミトリンワは目を弓なりに曲げてにっこり笑うと、オリオも堅苦しい表情を緩めて可愛い孫を見るように笑顔で答えた。

 ミトリンワがワァーっとはしゃぎながらオリオに抱き着く。

「ただいま〜! おじ様〜!」

「ああ、ミト君お帰り! 元気にしてたかい? 妹ちゃんとはどうだったかな? 沢山遊べたかい?」

 オリオはミトリンワを両脇を持って高い高いをすると矢継ぎ早に声をかける。さながら子供を甘やかすおじいちゃんの表情だ。

「うん! ヨトちゃんともいーぱい遊んだよ! あとシブンお姉ちゃんも色々なところに連れてってくれたんだよ!お母さんの生まれた砂漠にも行ったし、竜の王国にも行ったんだよ!」

「おやおや、そんなに旅行してたら国元の友達や部下達が寂しがっただろう?」

「フフ♪ 大丈夫! フサ君やシーエちゃん達も一緒に行ったから!」

 なるほど、小さい子達をひとまとめにして旅行に行ったらしい。

 どうやら祖父のシブンも、随分とこの子たちを可愛がってるようだ。


「おじ様! シエクリス島のお土産です! それにこっちはドラゴニアのお土産のドラゴンオーブだよ! 珍しいでしょ! それからそれから・・・。」

 お付きが持ってきた箱から、いろいろなお土産を取り出して見せるミトリンワ。
 楽しそうに話す少女に、オリオは目線を合わせて頷いたり笑ったりしながら聞いている。

 そうしていると、突然ミトリンワの話がふつと止まった。
 表情を見るに、話題がつきた訳では無さそうだ。その証拠に、話を止めても少女はオリオの前を離れない。

 少し俯き、体をモジモジさせている(日に照らされた健康的な肢体は瑞々しく、幼いながらも魔物娘の魅力に溢れている。将来はお母さんに似た美人さんになるだろう)。

「どうしたんだい?」

オリオは優しく、話しを促す。

「はい・・・。えっと・・・。」

 ミトリンワはそれでも迷うような素振りを見せたが、意を決したように話しだした。

「ペットを飼いたいんですが、いいでしょうか!?」

「ん? ペットかい?」

 ミトリンワの思いも寄らないお願いに少し困惑したが、母親のニトランタをチラリと見ると一つ頷く(ニトランタの緊張した表情が少し気になったが今は目の前の小さなファラオに集中する)。


「言われてみれば、君は自分の蛇を連れていないね。私に確認するまでもなく大丈夫だよ」

 オリオは気軽に了承するが。ミトリンワは少し慌てた様子で、手を胸の前で振る。

「あ! 違うの違うの! 蛇じゃないの!」


 蛇ではないという。ではなんだろうと、オリオが首を傾げると。
 ミトリンワは此方に背を向けると、テッテッと先頭の馬車まで駆けていく。そして、お付きのアヌビス達に手伝って貰いながら大きな木箱を抱えて戻ってきた。

 木箱が目の前に置かれる。大きさは1m程の正方形。蓋がないので中を覗くと、半分ほどまで砂漠の砂が入っていた。
 それだけだ。
 
「・・・逃げた?」
「違いますよ。寝てるんですよ〜」

 オリオの疑問に答えると、起きて起きてと言いながら砂の表面をなで始める。
 少し待つと、ハイどうぞ、覗くよう促された。

 (砂地で潜る・・・やっぱり蛇な気がするけど?・・・トカゲかな?)

 ぼんやり予想を立てつつ箱を覗き込むと・・・。



ボス!

 

 何かが勢いよく飛び出してきた!

 砲弾型に閉じた牙、岩肌のような蛇腹の甲殻。
 太さは10cmほど、砂に潜ってる部分もあり体長は分からない。牙の左右には赤い眼球が3つずつ並びこちらを見ている。
 これは、所謂ミミズ系の蟲・・・。

「あ〜〜初めて見るんだが。この子は・・・もしかして?」

 オリオは何とか頭を再起動して、昔読んだ魔物娘図鑑を思い出そうとする。
 すると。

「ばぁー!」
  
 砲弾型の牙が開かれ、中から小さな女の子が姿を表した。 

 舌のように赤味の強い体、長い赤髪。衣服を着ていない肢体は唾液のような粘液でテラテラと濡れ、髪の先からも雫が零れて糸を引く。

 幼く無垢な笑顔で、抱っこしてとネダルように両手を伸ばしてくる姿は小さいながらも魔物娘の魅力に溢れている。妖精好きの気持ちが分かるというものだ。

「サンドウォーム・・・」

 それは砂漠に住むという、超大型の魔物娘。
 凶暴ではないが一度獲物を見定めると、その巨体であらゆる障害を粉砕しながら突き進むという猪突猛進系の魔物娘・・・だったはずだ。

 驚き固まっていると、ミトリンワがサンドウォームを抱き上げた。

「はい!サンドウォームのミミちゃんです。」
「ばぁー」

 サンドウォームを小さな腕で抱きしめ、ビックリ成功というようにご満悦である。

「ふむ、ミミちゃんか・・・。初めまして」

 驚きから立ち直ったオリオは律儀にミミと握手をする(ミミの手が小さいので指先での握手になる)。

「それで、ペットにしたいというのはこの子のことかな?」
「はい!ここで飼いたいです!」
「うーむ・・・・・・」

 まず、魔物娘を動物のように飼育するのはどうなんだろうと考える。
 結構・・・・・・、前例がある気がする。意識してなかっただけで以外と普通かもしれない。
 ではそこはいいだろう。
 問題は・・・。

「その子は子供だろう?成長したらどれくらいの大きさになるんだい?」

 大型と書いてあったが、見たことがないので具体的なサイズ感が分からない。
 あと、知性は高くないとも書いてあったはずだ、建物とか壊さないだろうか?

「えーと・・・。この子を預けてくれたお母さんサンドウォームは直径2m弱で体長は20mくらいありました」

 「20・・・それはまた・・・」

 かなり大きい。ワームよりも大きいし、前魔王時代のドラゴンと比べても遜色ないレベルだ。
 そこまで大きいと・・・。

「ここの砂地だけで足りるのか?」

 すぐ横に広がる100m四方ほどのミニ砂漠に目を向ける。

「あ、あの・・・閣下。そこまで大きくなるには20年以上かかるかと思います。暫くは大丈夫・・・かと。」

 お付きのアヌビスが主を援護する。流石はピラミッドの管理者として名を馳せるアヌビスだと感心するが・・・。最後に目を逸らせてしまうのいただけない。
 まだ何か不安な事があると言うことか。

「なる程、なる程。ちなみにミト君は二十歳までは確実に此処にいる事になっているんだが・・・。8年間でどれだけ大きくなると思う?」

 アヌビスに問う。

「あ・・・えーと・・・」

 アヌビスはまた目をそらした。

「・・・・・・」
「・・・おおよその話ですが」

 じっと見つめていると、しぶしぶ答えてくれた。

「乳離れするまでのサンドウォームは母親の体内で過ごすので生長はゆっくり・・・。丁度今のミミちゃん位までにしかなりません。ただ、乳離れして母体から外に出ると、グングン成長していきます。1年に1m程は成長すると考えてください。個体差がありますが6〜10mを超えると生長はゆっくりとなりますが、止まることは有りません。生涯大きくなります。」

「・・・・・・なる程。8年の間に6〜8m位にはなると考えていいんだね?」
「はい。それぐらいは大きくなるかと」

 ミトリンワは痛いところを突かれたというように顎を引いている。
 元気が目立つ子だが聡い子でもある。問題点を洗っていけば難しい事くらい分かっていただろう。
 さてどうしたものか、今ある砂地は100m四方と言っても、大きな建物も幾つか建っているし、確か砂の深さも1mほどしかないはずだ。

 6m以上の巨体では、思いっきり潜れないだろうし、建物に衝突する事故も起きるだろう。ミミ君が暮らすにはもっと広い砂地が必要だ。
 では、砂地を広げられるかと言いうと・・・今のミニ砂漠を作るだけでも多額な費用をかけている。

「トトリ、この砂漠を作った時の返済ってまだ残ってたよな?」
「・・・はい。まだ7割ほど残っているかと」

 隣に立つ妻に確認すると、ミトリンワから目を逸らしながら答えてくれた。トトリとしては二つ返事でOKと言いたいのだろうが、さすがに難しさを分かっているのだろう。

 それにしても、7割か・・・。
 思わず天を仰ぐ。
 砂漠の砂を手に入れるのが難しいのだ。

 レスカティエがもともと砂漠気候ではないため、実際に砂砂漠の砂を採取して移送してきている。ピラミッドなど建物を建てる何倍もの費用が掛かったはずだ。
 明緑魔界になって収入源もでき、今後も経済的に成長する目処が付いたので、ミトリンワが気持ちよく住めるようにと作ったが・・・ぱっと返せる額ではない。
 そこに、加えてさらに大工事をするとなると・・・。

「難しい・・・か」

 私の呟きにトトリやニトランタたち、周りが息を飲むの気配が広がった。
 ここにいるほとんどの者達がミトリンワ側なのだろう。私もそうしたいところだが、駐屯地の司令官としては現実的な選択をしなければならない。
 心を鬼にしてミトリンワに目を向けると。


「ダメ・・・ですか?(上目遣い)」


 ・・・余りの可愛さに、心の鬼が顔を逸らした。 
 

「ああ・・・。いや! ナント言うか・・・。ミミちゃんが伸び伸びと暮らすにはここは狭いというか・・・。住みにくいというか」

「どうしても・・・ダメ、ですか?」
 ミトリンワの目がウルウルと涙で濡れる。

「あーうー・・・」

 ミトリンワの不安を感じたのだろう、ミミも上を向いてミトリンワの顔を伺うと。

「ばぁー、ばぁー」
 ミミは体を伸ばし、ミトリンワの頬を優しくなで始めた。 

 その健気な様に、周りもほだされたようだ。
 口こそ挟んで来ないが、ミトリンワへ労わるような視線が集まると同時に、私には刺すような視線が飛んでくる。そんな目で見ないでも、私の心はすでにグラグラに揺れているのだが・・・・・・。

 頬をなでるミミと見つめあうミトリンワ。少女の涙が溢れようとする直前、私は音を上げた。

「だー・・・。完敗だ。そんな目を見たらダメとは言えないなぁ」

 頭をガシガシ掻きながら天を仰ぐ。
 ミトリンワが驚いてパッと顔を上げて私を見つめる。その視線に私がしっかりとうなずくと、不安の表情などどこかに吹き飛び、満面の笑顔が花開いた。

「ホントですか!ヤッター!」
「「「おお!おめでとー!」」」

 ミトリンワがミミを掲げて歓声をあげ、周りの者達も近づいてきてミトリンワと新たな住人に祝福を述べていく。


 小さな子のオネダリに敗れるとは、私もチョロクなったものだと苦笑いを浮かべる。
 ただ、小さなファラオと彼女を思いやる小さなサンドウォームの可愛いらしい姿を思い出すと仕方ないかと肩の力が抜ける。


 いつのまにか、隣にいたはずの妻もミトリンワを祝福する輪の中にいる。
 私もゆっくりと輪に近づくと、こちらに気づいたミトリンワが向き直る。

「おじ様!不肖ミトリンワ!ミミちゃんと一緒に一生懸命頑張ります!今年もよろしくお願いします!」

「ばぁー!ばぁー!」

 ミトリンワが頭を下げ、ミミもマネをして可愛らしくお辞儀をする。

「ああ!よろしく2人とも。そしてようこそレスカティエ第37駐屯地へ!」

 元気いっぱいで可愛らしいが、がまだまだ幼く危なっかしい二人組み。そんな2人に向けて私は両手を広げると、改めてこの駐屯地に迎えいれるのだった。



おわり
18/10/08 11:29更新 / 焚火
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■作者メッセージ
おまけです。
いつか、この2人の少女メインで連載できたらいいなと思ってます。
(その前に、リクエストを書かないとな)
追記:サンドウォームに関するオリジナル設定がありましたが。大目に見ていただけると幸いです。

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