連載小説
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CASE2 追憶の勇者達
デルエラがフランツィスカの報告書を読み終えてから二日後……

「それにしても遅いですね。」
「確かに……もしかして愛しの彼に愛して貰っているのかしら?」
「………。」
「フランツィスカ。……冗談よ。怒らないでちょうだい。」
「……はい。」

いまだ戻らないウィルマリナ達を待って退屈していた彼女はフランツィスカや周りの侍女と他愛もない話をして時間を潰していた。

「まぁ。そろそろ来るんじゃない?」
「……それもそうですよね。」
「さてと……まずは今宵が置いて行った東方のお茶でも飲みましょう。」
「はい。……確か緑茶でしたよね?」
「ええそうよ。紅茶と違って何もいれないで飲むらしいわ。」
「そうなのですか。……取り敢えず頂きましょう。」

二人が緑茶を入れたティーカップを口に含んだ途端。

バンッ

「申し訳ありません。遅くなりました。」
「「……!?ケホッケホッ。」」
「ウィ……ウィルマリナ!?」
「危ない。危ない。吹き出すと思いましたわ。」

ウィルマリナが勢いよく扉を開けてデルエラの部屋に入ってきた。お茶を含んでいた二人は驚いて咽てしまった。

「あっ!も…申し訳ありません。ノックを忘れてました。」
「危うくお茶が体にかかりそうだったのよ?次からは注意してちょうだい。」
「はいっ。フランツィスカ様。」
「……それで一体どうしたの?そんなに慌てて来て?」
「そうでした。我ら元勇者が調べ上げた報告書をお持ちしました。」

そう言ってウィルマリナは持っていた鞄から書類を取り出してデルエラに渡した。

「ありがとう。」
「もったいないお言葉です。」
「そういえば他の人は?」
「サーシャさん以外は買い物に行きました。今日は手料理を振るう日でしたから。」
「……あっ!!忘れてましたわ。」
「安心してください。明々後日は彼を独占していいとみんなの意見ですから。」
「ならいいですわ。」

フランツィスカがホッと胸を下すと、

トントンットントンッと誰かが扉を叩く音がした。

「誰かしら?」
「デルエラ様。サーシャです。報告書をお持ちしました。」
「入って頂戴。」

デルエラが入室の許可を出すとサーシャが書類を抱えて入ってきた。

「よく来たわね。」
「はいっ。こちらが教会の脈を使って調べた報告書です。」
「ありがとう。助かったわ。」
「有り難きお言葉です。」

そう言ってサーシャは扉に向かった。扉につくと急に振り返ってウィルマリナに目を向けて話し出した。

「そうそう。ウィルマリナ。」
「はい?」
「さっきデルエラ様の部屋に入るときノックしてなかったよね?」
「……えぇーと。そ……それは。」
「私はあなたが扉を思いっきり開けた音が聞こえたのだけど……ノックしなさいって習わなかったのかしら?」
「あっ……あうあう。」
「取り敢えずそのことに関してみっちりお説教ですよ。」
「さ…さーしゃさん。その笑ってない目はやめて。」
「言い訳は聞きません。さぁ行きますわよ。」
「いやぁぁぁ。お説教三時間は勘弁してぇぇぇぇぇ。」

サーシャは目が笑ってない笑顔を向けたままウィルマリナを引きずってデルエラの部屋を出て行った。

「……。あの人はマナーに厳しいのですよ。デルエラ様。」
「……まぁいいわ。取り敢えず報告書を読みましょう。」
「はいっ!!」

≪消された勇者に関する報告書 その二≫

「あらっ?インジフやセルジュとか二日前の報告書にあった勇者がいます。どうやらこちらにはより詳しい情報があるみたいですわね。」
「それじゃあ街や教会の情報を見てみましょう。」

(前回の報告書に登場した者達)
@セルジュ・エドゥアール・クールベ 

セクハラ勇者として活動当時知られていたが、彼は実は弓術の達人としての面もある。3km先まで見えるぐらい視力がとてもよく。一度に十本の矢を放って巻き藁に充てることができる腕前だったらしい。因みに嫁のフェアリー達の動きは完全に目で追えるらしい。

Aアリーナ・アダーモヴナ・ボロダエヴァ

サディストとして知られていて、勇者としては常人より早く走ることができる俊足の持ち主だった。しかし、人を甚振る悪癖があった。

Bライリ・リーッタ・アホシルタ

ヤンデレが酷かったため教会に消されたが、実は彼女が怪我させた女性に裏切られたことで、これまで出てくることのなかったヤンデレとしての顔が出てきた。

Cインジフ・ムラチェク

こいつに関しては厳密的に言うと主神に勇者としての力を貰っていない。この男の父親が大臣に賄賂を使って許可をもらい、ムラチェク家の秘宝のドーピング薬で勇者のようにごまかしていた。つまり勇者ではなくただの無能だったのである。

Dカミラ・アレクサンドラ・フェーダール

おバカであったが、彼女は気象を勘で完璧にまで分かる能力を持っていた。彼女自身もバカであることを自覚しており、彼女なりに努力していたのだがインジフに憎まれて勇者をクビになった。因みにインジフに憎まれた理由は彼への奉仕を断ったからである。

≪デルエラ様の感想≫
驚いたわ。まさかセクハラ勇者とおバカ勇者にはこんな特技があったのね。それにしてもインジフという男は最低ね。まさかお金の力で勇者になったとは……。これを通していたときは相当乱れていたんでしょうね。

(新たな勇者達)
@名前:アルセニー・ケドロフスキー 性別;男 年齢;36歳

通称:鍛冶職人  出身地:旧レスカティエ王国

レスカティエ一の鍛冶職人として伝えられている。勇者としての活動は不明。

≪デルエラ様の感想≫
いきなり詳細不明の人物のようね。……どうやらヴィクトル・バルリエは詳しいことを知っているみたいだし今はほっておくしかないわね。

A名前:マルヘリート・ファン・ヴァッセンホーフェ 性別:女 24歳

通称:魔導士  出身地:旧レスカティエ王国

7年前までレスカティエにいた女魔導士。元は貴族の出身だが、心優しい性格のためかなりの人に慕われていた。時の大臣の命令に逆らい左遷された。魔法に非常に長けており、無詠唱で高威力の魔法を操っていた。現在はウルスラ・セーデルボリのいる国にいる。

≪デルエラ様の感想≫
これはかなり危険人物ね。混乱魔法や催眠魔法でこちらをかき回すこともできるようだし。彼女に関してはもう一度調べることにしましょう。

B名前:ケヴィン・スラップ 性別;男 年齢:18歳(故人)

通称:不明  出身地:旧レスカティエ王国

レスカティエの貧困層出身。彼は勇者は勇者だが、教団によって勇者としての力を人造的に作り出す実験で生み出された人造勇者である。通称が不明なのは世間には知られていなかったからである。彼に関しては彼の妹が持っていた日記にその詳細が乗っていた。8年前に実験に耐えられなくなり死亡した。

≪デルエラ様の感想≫
………なんて惨いことを……。まさか人造勇者を造ろうとしていたなんて……。その時の大臣は死亡しているから罪に問えないわね。これに関しては彼への冥福を祈り、今度はいい場所で生まれ変わることを願うしかないわね。

C名前:デイビット・コールマン 性別:男 年齢:20歳(故人)

通称:剣闘士デイビット  出身地:不明

出身地不明の勇者。元々は奴隷の身分で剣闘士として、レスカティエから離れた場所で戦っていたが、13歳の時に脱走をして行き着いた場所で、勇者の力を授かった。しかし、5年前に貴族に犯罪の濡れ衣を着せられて処刑された。因みに濡れ衣を着せた貴族は別の勇者が提出した証拠で捕まり、処刑された。

≪デルエラ様の感想≫
これは可哀想な人生ね。奴隷として生きて来てやっと勇者になったら濡れ衣で処刑されたなんて、せめて彼の冥福を堕落神に祈りましょう。

D名前:陳 雪梅(チン シュエメイ) 性別:女 年齢:20歳

通称:雌虎 出身地:東方

東方の国からやってきた勇者。通称の通り虎のように戦いの場になると獰猛なところを見せるが、普段はだらしない性格であった。貴族を思いっきり殴ったことで勇者を首になった。現在はレスカティエで人虎になって夫を探しているとのこと。

≪デルエラ様の感想≫
東方出身の元勇者ね。夫がいないみたいだし、次の作戦でその機会を挙げれば大丈夫そうね。でもまあ彼女の夫になる人は最初は大変そうね……。まぁお互いに快楽に溺れればいいけどね♪

E名前;フローレンス・ディアドラ・フィールディング 性別:女 年齢:25歳

通称:毒舌勇者  出身地:反魔物国家

レスカティエから離れたところにある反魔物国家出身。魔法や剣術など戦闘技術に関しては人一倍優れていたが、誰に対しても一切遠慮しないで毒舌を振るうところもあった。最終的に皮肉に逆上した貴族によって左遷された。現在は反魔物都市に滞在している。因みに彼女の最も得意とする武器は東方の武器の円月輪と言われている。

≪デルエラ様の感想≫
どうやらかなりの毒舌だったみたいね。でも彼女がそれを言うときは言われたほうに非があるときが多かったみたいだから状況を理解して言っていたみたいね。取り敢えず彼女の行方には注意しておかないと……。

F名前:サージェス・ハミルトン 性別:男 年齢:39歳

通称:格闘王サージェス  出身地:レスカティエ近郊の村

12歳の時に教団に勇者として見出された男。格闘王の持ち名の通り様々な格闘技に精通していた。また勇者としての仕事が非番の時には小さい子供たちに無料で護身術を教えていた。そのため民衆からは当時かなり信頼されており、小さい子供からは英雄のように慕われていた。しかし、9年前の大臣の無茶苦茶な命令に真っ向から反対したため追放された。現在は妻のカク猿と共に諸国を渡り歩いており、脅威度はないと思われる。

≪デルエラ様の感想≫
今でも子供には優しいみたいね。立ち寄った村で滞在中に子供達に稽古をつけてあげているみたいだし、それに奥さんのカク猿に毎晩絞られているようだからほっておきましょう。それにしてもインジフの後ろ盾の大臣は碌な奴ではなかったようね。

G名前:??? 性別:??? 年齢:???

通称:伝説の諜報員 出身地:???

名前も性別も年齢も不明の人物。これに関しては教会が最初から隠していたと思われる。通称の通り諜報員としては世界一の腕前を持っているらしい。街の人もこの人物の通称だけ聞いたことがある程度の人物とのこと。詳しい情報が入り次第再び報告させて頂きます。

≪デルエラ様の感想≫
………名前も性別もわからない勇者?……そんなのがいたのかしら?でも街の人に伝説の諜報員として知られているみたいだし……。取り敢えずお父様のほうに何か乗っているかもしれないから一端置いておきましょう。

H名前:レベッカ・ラヴォアジエ 性別:女 年齢:不明

通称:謎の暗殺者 出身地:不明

名前と性別だけ判明している勇者。彼女は教団のアサシンであり、顔もわかっておらず常に変装しているらしい。さすがに魔物には失敗しているが、人間や動物に対する暗殺成功率は90%を超えるらしい。

≪デルエラ様の感想≫
諜報員に次いで今度は暗殺者か。この国は何か隠していると思ったけどやはり予想は当たったみたいね。彼女に関してもお父様の方に期待するしかなさそうね。

I名前:デメトリア・ザッパローリ 性別:女 年齢:25歳

通称:人斬りデメトリア 出身地:旧レスカティエ王国

レスカティエの中級家庭出身。勇者としては下の中であり本人もかなり気にしており努力して何とか他の勇者に追いついているレベルの差だった。そのコンプレックスから教団の計画に乗った。しかし、実験に失敗してしまい勇者としての力も失ってしまった。その絶望から教会に封印されていた武器の一つに手を出してしまい人斬りになった。現在はレスカティエで幼馴染の夫と生活している。因みに彼女が用いた武器はカースドソードであるため斬られた人は無事だった。

≪デルエラ様の感想≫
本当に教会は碌でもないことをするわね。コンプレックスを抱いている人にこのような仕打ちをするなんて、取り敢えずカースドソードを彼女が使ってよかったわ。そのおかげで大事にはなっていないようだしね。今は教会から追われているときに必死に匿ってくれた彼女の夫に任せましょう。

J名前:イーヴァル・ヒルディングソン 性別:男 年齢:67歳

通称:仕立屋イーヴァル 出身地:旧レスカティエ王国

レスカティエ一の仕立屋。針と糸と材料があれば数十分で芸術のような服を作っていたらしい。勇者としてはベテランで新米だったころのメルセやプリメーラの教官でもあった。しかし、貴族が賃金を払わなかったことで切れてレスカティエから失踪した。この件に関しては教会は彼を責めず貴族に対して罰を与えた。現在は魔王城下で仕立屋として働いている。

≪デルエラ様の感想≫
どこかで見たことがあると思ったらお母様の城に服を届けていた人じゃない。それにしても勇者としての記録を消された理由はどこかの貴族のせいで勇者が逃走したなんてとても言えないからなんてなんか情けない気がするわ。まぁ今は安全出来るから放っておきましょう。

K名前:ダイキ・タカムラ(鷹村大樹) 性別:男 年齢:45歳

通称:陰陽師 出身地:ジパング

ジパング出身の勇者。教会も知らない東方の技術の陰陽術を使用していた。魔物に関しては基本的には自分からは攻撃しない人物だった。最終的には大貴族によって貶められて追放された。現在はジパングに戻り静かに生活している。

≪デルエラ様の感想≫
また貴族によって追放されたのね。つくづくこの国はどこまで腐敗していたのかしら……。まぁいいわ。それより彼はジパングにいるから確認に生きようがないわね。とりあえず元々魔物には自分からは動かなかったみたいだし置いときましょう。


「………これで全部かしら?」
「はい。これで報告書は以上です。」
「取り敢えず今回はレスカティエの裏側の一部を見たわね。」
「……はい。まさか人造勇者を造ろうとしていたなんて……。」
「それも酷いけど今回は貴族や教会に刃向かった人も多かったみたいね。」
「……私は病弱だったので詳しく知らなかったのですが、とにかくレスカティエは腐敗してたんですね。」

デルエラとフランツィスカは二人同時にため息をついた。

「それでデルエラ様これからどうされますか?」
「……取り敢えずお父様からの報告書を待ちましょう。」
「なぜでしょうか?」
「もしかしたらさらに詳しい情報があるかもしれないからよ。」
「なるほどそういうことでしたか。」
「だからしばらくあなたも好きにしていいわよ。」
「……えっ!?本当ですか?」
「ここまで付き合ってくれたのだからしばらく愛しの彼に専念すればいいわ。」
「はいっ!有り難き幸せです。」

そういってフランツィスカはデルエラの部屋から出て行った。

「ふふふっ、喜んじゃってよほど嬉しかったのね。」

そう呟いてからデルエラは報告書をもう一度一読してから少し考えだした。

「やはり諜報員が気になるわね。この人物に関してはもしかしたらお父様の情報にも無いかもしれないわ。だから先に手を打っておいたほうがいいかしら………。」

レスカティエの城の一室でデルエラは今後についてしばらく考えるのだった。
16/11/07 20:42更新 / 旅人A
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■作者メッセージ
今回は詳細が不明な人物が多く出てきましたが、次の報告書にすべて詳細は乗っています。次回はエロありかエロなしか区別つけろとの感想がありましたので現在親魔物になった勇者の夫婦生活にしたいと思います。たぶん下手糞ですので指摘してください。ただし、気持ち悪いとか罵倒だけはやめてください。罵倒するんでしたらどうしたら改善するかを記述してください。

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