読切小説
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まもむす結婚相談所-くっ……こんいん!-

1日の仕事がうまくいくかどうかは、出勤前に何があったかも重要だと思う。
そういう意味で言えば、私は今日これからの仕事に全力で挑めそうにない。

「お姉さん、耳が特徴的だから魔物娘でしょ。だったら俺とイイコトしようよ」

いつも出勤に使っているルート上、どうしても一通りの少ない場所を通らなきゃいけない私は、その日は運悪く面倒な男に絡まれていた。

 魔物娘ならいつでも誰でもエッチなことをしてくれる。昔はもっと多かったらしいけど、現代にもこんな考えをする男はいるらしい。

 伸ばされた手を叩いて拒絶の意思を示すと、それまでヘラヘラと笑っていた男の顔が不機嫌なものになった。

「なにそれ。あり得ないっしょ。近くに男がいないってことは、お姉さんまだ独身ってことだよね。だったら良くね」

「勘違いしてると思うけど、魔物娘だからって男なら誰でもいいわけじゃないから。少なくとも私はあんたみたいなのはお断り」

意地でも掴もうと襲いかかる男に足払いをしてそのまま倒れさせると、早足に私はその場を後にした。

「それで朝からそんなに不機嫌なのね」

 私がお世話になっている護身術教室のスタッフルームで、オーナーはお茶を入れながらそう言った。

 今はすっかり日も落ちて、夕方ののんびりとした時間だ。

 今日は朝の出来事があって、会員さんの指導にいつもより熱が入っていたように思う。

「それはそうですよ。まったく、ただでさえ男に会うのが嫌なのに、よりにもよってあんなタイプだなんて」

「エレザちゃんも本当珍しいわね。魔物娘なのに男が嫌いなんて」

「別に嫌いってわけじゃないです。ただ、あんまり会いたくないだけです」

差し出されたお茶を飲みながら、私はため息をつく。

 エルフである私は、元々家族や集落の皆と一緒に森で林業を営んでいた。しかし森の奥で暮らしているだけでは男がやってこない現代では、年頃になった娘は都会に出て過ごすことになっている。お母様もそうしてお父様を見つけて里帰りしてきたらしい。

 家で両親の姿を見ながら育ってきた私は、幼い頃は羨ましいと思っていた。
けれど大きくなるにつれて、エッチなことしか興味がない男は好みではないと思うようになっていた。

「そういえば今日はあそこに行く日でしょ。どうなの、何か進展はあった」

「いえ、進展とか別にそういうのはないです。というか、たぶん私の条件じゃ誰も来ないと思いますよ」

身支度を整え、私は仕事着から普段着へ着替えると、挨拶をして教室出た。


 この街では結構大きな施設の1つらしい「まもむす結婚相談所」。そのロビーで私はのんびりと椅子に腰を掛け、雑誌を読みながら順番待ちをしていた。

 都会に出たら、自由に働きながら暮らそう。そう思っていた私の計画は、集落の決まりで勝手にここに登録されていたことで崩れようとしていた。

 いきなり都会に出たはいいものの、男の探し方がわからない子がいるだろうとの配慮から、集落を出る子は行き先にある相談所に登録するらしい。

「エレザさーん、いますかー」

 興味なさげに雑誌をめくっていると、私の名前が呼ばれた。

「お久しぶりですね。ここを介する間もなく、自力で相手を見つけたのかと思いましたよ」

「そんなわけないですよ」

「ですよねー」

 ニコニコと笑顔を浮かべながら、受付のハーピーさんは私のファイルを取り出して渡してきた。

チラリと受付カウンターの端を見ると、前来た時にはなかった人形が置いてあるのが見えた。

「あ、この子ですか。この子はこの前ダーリンが私に買ってきてくれたんですよ。かわいくていいでしょ」

 ハーピーさんは手元に人形を引き寄せると、後ろから手を持って「ヨロシクネ」と人形の手を振って私に挨拶してきた。かわいい。

 人形を持つハーピーさんの左手には指輪がキラリと光っている。男のことは良く思っていないけど、私もいつかはああなりたいとは思う。

「それじゃエレザさんは、いつもの部屋にお願いしますね」

「わかりました」

ひとしきり会話を終えると、私はいつも婚活の面談をしている部屋に行くことにした。

「エレザさんの方で何か進展があった……わけはないですね」

「はい」

 私のことを担当してくれているアヌビスさんは、私があまり乗り気じゃないことをきちんと理解している。だから個人情報が書かれたファイルに少し目を通すと、すぐに自分の持ってきたファイルに視線を移した。

「それでは、今回もこちらから無作為に選ばせてもらったので、試しに会ってみてくださいね」

 私がここに登録した希望の条件は普通の魔物娘には考えられないであろう条件が多いらしく、目論見通りなかなかマッチングする相手がいない。ただ、何も進展が無いのは故郷の皆に悪いので、こうしてたまに適当に見繕ってもらっている。

 渋々だから会ってもだいたい次に繋がることがない。それに対して少なからず悪いとは思っているけど「運命の人ならそんなことになんてなりませんから。安心してください」との言葉に甘えてしまっている。

 アヌビスさんから手渡された資料を見ると、どこにでもいそうな平凡な男だった。一箇所で働く仕事をしているため出会いがなく、今回登録したきっかけも同僚の紹介なのだとか。一言で言えば「パッとしない男」といった印象だ。

「だいたい資料に目は通しました。いつも通り、まずは会ってみたいと思います」

「わかりました。それでは具体的な日取りを決めていきましょう」

今朝遭遇したような男よりはマシだろうと思いながら、私は日取りを決めていった。

 私がこれから会う男の名はオギノと言うらしい。仕事が忙しいのか、アヌビスさんも一度登録に来た日以来会っていないのだとか。

 そして今日、マッチングの日だというのに指定された時間にオギノは現れなかった。

「遅いですね。もう20分も約束の時間を過ぎています」

 種族柄約束には厳しいアヌビスさんが、鋭い眼差しで時計を睨んでいる。私も貴重な時間を使って来ている以上、少し不愉快になっていた。

「すみません、遅くなってしまいました」

それから20分後、40分の遅刻の後オギノが姿を現した。普通ならそれだけ遅刻したならもう見切りをつけて帰っているだろうに、私はなぜかこの時は辛抱強く待っていた。

「遅いですよオギノさん。約束の時間には遅れないようにと、何度も連絡しましたよね」
「すみません、仕事を手伝っていたらどうしても遅くなってしまって」

 ペコペコと謝るオギノの姿は、事前に見せたもらった通りの印象だった。

 女の私よりも少し低い背丈と態度から、かなり頼りない印象を受ける。私がここで希望する相手の条件として出していた「引っ張ってくれる人」とはほど遠いことから考えると、かなり適当に選んだんだなと思える。

「もういいです。それよりこちらが、今回マッチングする相手の方です」

「エレザ……です。よろしく」

「あ、オギノです。今日は遅れてしまってすみません」

 オギノはアヌビスさんに謝るのと同じように、私にもペコリと礼をする。

「それではお二人とも揃ったことですし、さっそく最初の日程を決めましょう」

 これでやっと計画通り進むと安心した表情で、アヌビスさんが持っていたファイルを開く。

オギノは始終低姿勢で、基本的に私の予定に合わせるような姿勢だった。



 つつがなく日程を決めることができてからの私は、なぜか調子が良かった。オーナーからも「最近調子がいいじゃない」と褒められることが多くなったし、久し振りに両親に連絡してみようと思えた。ただビデオ通話の途中からお母様がお父様に甘え始めてからは、それを見るのが嫌になってすぐ切ったので、私の本質は何も変わっていないはず。

 そして今日は、オギノと待ち合わせをして初のディナーだった。

 いきなり2人きりで1日一緒に過ごすのはハードルが高いだろうというアヌビスさんの配慮で、まずは一緒に食事からということだ。

 特にレストランの予約はしていないものの、アヌビスさんからオススメのお店を聞いているので、今日はそこに行くつもりだ。

 少し肌寒い季節の中、月より明るい街灯の下、私はオギノを待っていた。

 腕時計をつける習慣がない私は、スマホアプリで時間を潰しながら時刻を確認する。

 しかし……来ない。

 もしかしてまた仕事だろうかと思う。まだそこまで深い関係ではないけれど、待ち合わせに支障があるといけないので連絡先は知っている。しかしメールの返事も電話も無いことから、仕事をしているのだろう。

 来ないことを考えた途端冷えを意識した私は、同時にイライラしてきた。

 相談所に来る時も遅刻し、今度は大切な2人きりの食事でも遅刻。仮にもこれから結婚を視野に入れて出会う回数を重ねようという時に、これはあまりにも酷い。

「おにーちゃんつかれたー。もう歩けないー」

「仕方ないなぁ。じゃあ走るか」

「うん……なんて言わないよ。かーたーぐーるーまー」

「はいはい」

目の前で、兄妹……じゃないわ。魔女とたぶんその彼氏がイチャイチャしている。

 時間通りにオギノが来ていたら、こんな光景を見ることもなかったのに。どこまで私を不愉快にさせるのか。

 駅に置いてあったフリーペーパーも端から端まで読んでしまったし、バッテリーの節約の為にあまりスマホも触りたくない。依存症とまでいかなくても、スマホに触れないと途端にやることがなくなってしまうあたり、私もすっかり現代人だなと思う。昔の人は、こんな時どうしてたんだろう。

「す、すみません。すっかり遅くなってしまいました」

 ぼーっと、両親や集落の皆、それからまだエルフが森で狩りをしていた時代のことなんかを空想していると、いきなり目の前にオギノが現れた。ちゃんと急いでいたのか、息を荒くして肩で呼吸をしている。

「……遅すぎ。今何時だと思ってるの」

「すみません」

 本当に何時になっているのかとスマホで時間を見ると、なんと本来の待ち合わせから2時間も経っていた。すごいわ私、よく待ってたわ。

「この寒い中女をこんなに待たせて、どう思ってるわけ」

「本当に申し訳ないと思っています」

 最初会った時の丁寧な言葉使いも忘れて、私は素の私でオギノに詰め寄る。近寄ると汗と雄の匂いで少しクラっとしたけど、きっと気のせい。

「まったく。きっとアヌビスさんもこれを見越して予約の不要な店にしたのね。予約が必要だったらあなた、キャンセル料を払ってもらうところよ」

「そ、それはもちろんです」

「それで、今日はどうして遅刻したのよ。また仕事なの」

「はい……どうしても終わらなくて」

「そんなに忙しいなら、どうして途中で連絡しないのよ」

「仕事中は携帯をロッカーに入れているので。連絡できずにすみません」

 私も仕事柄、自分のスマホは仕事中に持ち歩かない。けれどいつ連絡が来ても良いように近くには置いて連絡状況がわかるようにはしている。そういう臨機応変さがオギノは無いのかもしれない。

 まぁ、今どきそこまで規則をきっちり守るのは、好感が持てるけれど。

「少し遅い時間になったけど、今日はどうするの。私はどっちでもいいけど」

 別にオギノに私と過ごしたいか試しているわけじゃない。時間も遅くなったし、本当に今日は解散でも良いと思っている。無事な顔を見ることができて一安心したし。

「あの、遅くなってしまいましたけど、よければ行きませんか」

 子犬みたいな目で、オギノは私を見る。少し上目遣いになるところは、狙ってやっているわけじゃないと思うけどズルい。

「わかったわ。まぁ、せっかくだもんね」

 いつの間にか感じなくなっていた寒さを気にもとめず、私とオギノは夜の街に繰り出した。

 しっかりとした食事とはいかなかったので、私達は居酒屋に入ることにした。2人共問題なくお酒が飲めるので、何とか空腹を酒の力でごまかすつもりだ。

「普通2回も遅刻してくるとかあり得ないでしょ。どうなってるのよ」

 別に酔うと饒舌になるとかそんなことは無いはずだけど、私は不満をオギノにぶつけてしまっていた。こういうのはもう少し親しくなってからじゃないといけないのに。

「どうしても仕事が抜け出せなくて」

「仕事仕事って、そんなに忙しいわけないでしょう。私達魔物娘が、そのへんはきっちりしてるはずなんだから」

 16時間労働とか、30連勤とか、そんなのは物語だけの話で、普通労働は適当に数時間と決まっているはずだ。生命の一生は素敵な相手と一緒にいる為に存在しているんだから、仕事なんかで一生を無為にするなんてあり得ない。

 オギノは始終申し訳なさそうな態度で、チビチビと飲んでいる。せっかく一緒にいるんだから、そんな態度じゃこっちもつまらない。

「あなた、もう少し自信を持ったらどうなの」

「すみません。僕、男として自信が無くて。昔から男の人を見ると、同じ男なのに自分はどうしてこんなにダメなんだろうと思うばっかりで」

 私にはよくわからないけど、男にとってはどれだけ自分が男らしくあるのかが重要なことらしい。魔物娘からしてみると、種族からして皆バラバラなんだから、そんなことで比べていたらキリがない。私は私じゃない。

 このままオギノの身の上話を聞き始めると、始終暗い話になりそうだったので、私は運ばれてきた料理を適当にオギノに渡して、話す隙を与えないようにした。

「とにかく、今日は許してあげるけど、今度はちゃんと約束通りに来なさいよ」

「あっ、はい、それはもう」

 ぐぐっとお酒を煽って、私は食事に集中することにした。

 これ以上オギノの表情を見ていると、なんだか胸がモヤモヤする。耳が赤くなっているのはお酒を飲んだからということにしておく。

 結局その日は、特に何もなく居酒屋で食事をするだけでお互い別れた。会計は今回の罰としてオギノに全額負担させたけど、帰ってからちょっと悪かったかなと思った。


「それでアイツってば、本当どんくさいんですよ。私が今まで会った男の中でも一番だと思います」

護身術教室で、私はオーナーに話を聞いてもらっていた。オーナーはそんな私を始終にこにこと笑顔で見ている。

「エレザちゃん、ちょっと変わったわね」

「そうですか。自分ではよくわかりませんけど」

「そうよ。来た当初は男に興味ありませんって感じだったのに、今はその人のことばっかり話すじゃない。よっぽどその人のことが気に入ったのね」

「え、そ、そんなにアイツの話ばっかりしてますか」

「してるしてる。ここ数日ずっとそうよ」

 指摘されると、私の顔が一気に赤くなるのがわかった。

 確かに最近はオギノのことばかり考えている気がする。でもそれは私と関わりのある男がアイツだけだからだし、そもそも不甲斐なさすぎるから気にかけていないとせっかく用意してもらった今回のマッチングを逃しちゃうからだし。というか男には優しいのが基本の魔物娘と接しているのに、普通は私みたいな態度を取られたら嫌がるものじゃないの。私なんかに嫌気をさして、さっさと断ればいいのにアイツときたら。この前だってそう、次があることがわかった途端、嬉しそうな顔してさ。

「エレザちゃん、そろそろ時間じゃない」

「え、時間ですか」

「今日も会うんでしょう、その人に」

「あ、そうでした。それではお先に失礼します」

 わたわたとせわしなく帰る準備をして、私は急いで教室を後にした。いつもオギノに偉そうにしている手前、私が遅れちゃ話にならない。

 どうせ遅れてくると思ってのんびり向かう時ほど時間通り来るものだ。私はそんな油断なんかせずに、しっかりと時間通り待ち合わせの場所に到着する。

 本格的に寒くなってきたので、今回の待ち合わせ場所は喫茶店の中にした。しかも充電用のコンセントが完備してあるため、この前みたいにバッテリーを気にしてスマホで時間が潰せなくなることがない。

 案の定オギノは来ていなかったので、私は座ってさっそくスマホを取り出して暇つぶしをすることにした。今回こそは時間通り来ることを願いながら。

 数回のデートを重ねて、オギノが約束通り来れるのはだいたい4回に1回だということがわかってきた。最初は毎回イライラしていたものの、今では待つ時間も少し楽しみになっている。ただそれでも最近は特に来るのが遅いように思う。その時は連絡があったから良かったものの、仕事が終わったのが日を跨いでからという日もあって、デートがキャンセルになった時もあったくらいだ。

 実は今日オギノが時間通りに来なかったら、私はあることを実行するつもりだった。

 結婚相談所にもオギノの遅刻が多すぎて困ることは相談してある。そこで担当のアヌビスさんから、相談所にあるシステムについて教えてもらった。

 デートを重ねた回数に応じて、お互いの個人情報が公開される仕組みがあるらしい。大抵はそうなる前に結婚するからあまり必要とされていないシステムらしいが、相手の魔物娘が嫉妬深い子だったりすると、彼の全てを知りたいとお願いされるようだ。かく言うアヌビスさんも、彼の全てを管理したいとこのシステムを使ったんだとか。

 私はそのシステムを利用して、今回オギノの仕事先を教えてもらっている。だからあまりにも遅いようなら、直接乗り込んでやろうという魂胆だ。

 これだけ毎回遅くなっているのだから、いったいどんな環境で仕事しているのか。毎回待たされている私としては気になって仕方がない。

 今日は夜にライトアップされる水族館に行く予定だった私は、そんな企みをしながらスマホでオギノの仕事先の住所を確認する。

 もちろんオギノには内緒だ。何だかイタズラをするみたいで、内心楽しい。

「あの、お客様。そろそろラストオーダーなのですが」

 私が考え事をしていると、不意に声をかけられた。その言葉にスマホで時間を見ると、なんともう夜中だ。当然水族館はもう閉まっている。

「そう。ならもう出ます。ありがとう」

 結局来なかったなと思いながら、お会計を済ませて店を出ると、私はオギノの仕事先に向かった。これまでずっと彼から連絡が無いことから、きっとまだ仕事をしているはずだ。

「ここがあの男の職場ね」

 オギノの職場は配送センターだった。ここから各店舗に向けて、荷物を仕分けて運んでいくらしい。

 コソコソと隠れながら姿を探すと、すぐにオギノを見つけることができた。

 寒空の下、開けた倉庫で必死に働くオギノの姿は、普段のおどおどした態度とは違って見える。キビキビ……ではないけど、それなりに仕事はできているようだ。

 素人の私にはわからないが、仕事の量はそれほど多くないように見える。いや、今の今まで仕事をしていたのなら、ようやくこの量になったのか。そう思えばかなりの量だ。

 しばらくオギノの仕事ぶりを眺めていると、チャイムが鳴った。すると一緒に働いていた力自慢の魔物娘達は、その夫なのかそれぞれの男と一緒に笑顔で帰る支度を始めた。

 これでやっとオギノも終わりかと私が思っていると、しかしオギノは帰る素振りを見せない。側に荷物を置いていないので、もうオギノがやるべき仕事は無いはずなのに。

 不審に思っていると、オギノは自分の持ち場を離れて女のところへ向かっていった。そこで笑みを浮かべるその女と一緒にそいつの仕事を手伝い始めた。

……は?

 わけがわからない。今日は私と会う予定だったはず。仕事が遅くなるのはまぁ仕方ないと思う。けどさっきのチャイムで自分の仕事は終わったはずじゃない。何で1人だけ他の女の仕事を手伝ってるわけ。仕事が終わったなら、私と会う為に急いで帰りなさいよ連絡しなさいよ。まさか私との約束を忘れてるわけ。それともこんな時間だからどうせ無理だと思ってるわけ。私はわざわざアンタの職場にまで迎えにきてるのに。あーもうこれだから男って最悪なのよ。ここ数日、いったいどんな気持ちで過ごしてたと思ってるの。

 私がぐるぐると思考を巡らせていると、会社からさっきまでオギノと働いていた人達が出てきた。居ても立ってもいられなくなって、私はその人達の前に姿を現す。

「あのっ」

「何だいお嬢さん」

「あそこにいる男なんですけど、どうしてまだ働いているんですか」

「んー、あ、オギノのことか」

「そうです。今日は彼と会う約束だったんです、数時間前に。なのに仕事場まで見に行ったら、まだ働いてるじゃないですか。どういうことなんですか」

「あんた、あいつとどういう関係なんだ」

「私は……」

 絶対私の顔は真っ赤だ。

「私は、彼と、アイツと……オギノと、結婚を前提に付き合っているんです」

 目をぎゅっと閉じて、私は恥ずかしさに震える。

 言った。ついに言ってしまった。それを言ったら何だか負けた気がしていたけど、もう止められない。

「マジか……マジかーーー……そっかぁ……あー」

 私の言葉を聞いたその人は、空を仰いて呟いていた。いったいどうしたんだろう。

「そっか……ごめん、ちょっと待ってて。すぐ連れてくるから」

 私にそう言うと、その人は会社に戻っていった。そして10分もしないうちに、オギノを引っ張って戻ってきた。

「どうしたんですか先輩……え、エレザさん。どうしてここに」

 いきなり職場に現れた私に驚いている横で、先輩と呼ばれたその人はオギノに詰め寄っていた。

「お前なぁ、そういう事情があるならちゃんと言えよ。何で彼女待たせて仕事してるわけ。完全にこっちが悪いじゃんもー。うちだったら二度と外に出れなくなるところだぞ」

「本当にごめんね。こいつ自分の予定とか事情全然話さなくてさ。独身だから俺らも気を利かせて職場の女の子となるべく一緒になるように手配してたりとか、長く働きたいって言うんで8時間も働かせてたりしてたんだよね。たぶんそれで今までも迷惑かけてたよね」

 私はこれまでオギノが時間通り待ち合わせに来ないことを思い返す。

「ちょっと嫁に連絡いれてから残りの仕事はこっちでやっておくからさ、君はオギノと一緒に過ごしな」

「えっ、でも先輩」

「いいからおとなしく言うこと聞いておけ。キレるぞ、十代みたいに」

「はぁ、わかりました」

 走って会社まで先輩が戻った後には、私とオギノがポツンと取り残された。何というか嵐のような人だったわ。

「えっと……エレザさん」

「ここじゃなんだから、場所を変えましょ」

これ以上離さないように、オギノの手を掴んで私は強引に歩きだした。


 連れ出したはいいが、今の時間どこも閉店で正直行くところがない。そう思っていた矢先に私のスマホが震えた。誰からか見てみると、なんとお母様からだ。

「ちょっと待ってなさい」

 オギノのそう言うと、私は小声で電話に出る。

「もしもしお母様。どうしたの急に」

『あ、エレザちゃん。元気かなって思って。あれから良い人は見つかったかしら』

「あー……今ちょうど、その、彼といるんだけどね」

『そうなの。やったじゃない。あんなに男の人を避けてたエレザちゃんにも、ついに良い人ができたのね。よかったわ』

「あのねお母様、ちょっと聞いて欲しいの」

『なぁに』

「今からその人と大事な話をしようと思うんだけど、どこでしたらいいのかわからなくて。お店もこの時間じゃどこも空いてないし」

『あら、そんなの簡単じゃない。うってつけの場所があるわよ』

「どこなの」

『ホテルよ、ホ テ ル。もう行っちゃいなさいな。そうすればその後だってすぐにできるでしょ』

「なっ」

 お母様の発言に驚いて、私は思わずオギノとチラチラと見る。不思議そうな目でこっちを見るオギノと目が合うと、より意識してしまって恥ずかしい。

「何言ってるのお母様。いきなりそんなところ行けわけないじゃない」

『でも他にどこにも行くところなんて、この時間じゃないでしょ』

「それはそうだけど」

『ならいいじゃない』

「うぅ……」

『それじゃあんまり待たせちゃ彼に悪いし、お母さんもお父さんと一緒に寝るから、後はがんばりなさいね』それだけ言うと、お母様は電話を切ってしまった。

「もういいんですか」

 電話を終えたのを見届けると、何も知らないオギノは心配そうな顔をして私を見てくる。本当にもう、そんな顔ばっかりして。

「あーーーもう、仕方ないわね。来なさい」

 こうなったらもうヤケだ。オギノの手を引いて、私は近くにあったホテルに飛び込んだ。

「えっ、ここって、ちょっと、エレザさん」

「いいから黙ってついてきなさい。いいから」

「でも」

「いいから」

 中に入って適当に部屋を選ぶ。と言っても空いている部屋は2つしかなくて、さすがは魔物娘が一般にいる時代というところだった。

 お風呂とタブルベッドがある、シンプルな部屋だった。私はオギノを押し込むようにして中に入る。入り口の扉を閉めると、ガチャリと鍵のかかる音がした。

「いいからアンタはそこに座りなさい」

「は、はい」

 私の剣幕に恐れをなしたのか、オギノはおとなしく言うことを聞いてベッドに腰掛けた。

「あのね、言いたいことは山程あるのよ」

 彼の目の前に立ち、見下ろす形になる。

 さっきからずっと、ドキドキするのが止まらない。私は男なんて何とも思ってないはずだったのに。オギノの顔を見ていると、胸が締め付けられるような、苦しいような感覚になってしまう。1番酷かったのは、彼が他の女と一緒にいるところを見た時で、あの時は苦しくて体がちぎれるかと思った。

 いや、本当はわかってる。オギノの会社の人にも言ったけど、私は彼と結婚を前提にデートを重ねているのだ。頭ではそう思わないようにしていただけで、本当はとっくに、彼のことを好きになっていたのだ。

 ちゃんと言わなきゃ。オギノに気持ちを伝えなきゃ。

「あ、あの……エレザさん。僕何かしましたか」

 立ったまま心の準備ができず、じっと睨んでいる私に、オギノが声をかけてきた。

 ダメだわ。彼の顔を見ているだけで、胸の奥がキュっとなって、我慢できなくなってくる。やっぱり私も、お母様と同じ魔物娘ということなのね。きっとお母様もこんな気持ちになったんだわ。

「あのね……聞いて欲しいことがあるの」

「なんでしょう」

「あの……私ね、正直約束全然守れないアンタのこと、最低だと思ってたわ」

「それは……はい、すみません」

「だけど、気付けば私、アンタのことばっかり考えるようになってて。仕事場のお世話になっている人にも指摘されるくらいで。今だって、アンタの顔まともに見れないくらいなのよ。その……恥ずかしくて」

「え……え、それって」

「だからね、あの、その……」

 頑張れ私。大丈夫、いつも通り強気にいきなさい。コイツは頼りないんだから、私がしっかりするのよ。

「あ、アンタは放っておけないから、私が面倒見てあげるわ。一生ね」

 もうダメ。言いたいことだけ言ったはいいけど、もうまともに彼の反応を伺うなんて恥ずかしくてできない。

 私はオギノの反応を待たずに、勢いに任せて彼を押し倒した。

「ちょ、ちょっとエレザさん」

「黙りなさい」

 何か言おうとするオギノを無視して、私はベッドに横たわる彼を強く抱きしめる。彼の胸に顔を埋めて匂いを嗅ぐと、頭がクラクラして本能を刺激されるのを感じた。

 わかる。これが私の求めていた雄の匂いなんだとわかる。

 もっと欲しい。勢いに任せて乱暴に彼の服をはだけさせる。全部脱がすまでなんて待っていられない。素肌が見えた半脱ぎの状態で構わない。私はもっと欲しくなって、今度は舌で彼の胸を舐めて味わう。

 少し塩味を感じるのは、さっきまで彼が頑張って働いていた証だ。

 舐めながら、手でオギノの股間をまさぐる。すると少しだけど勃起しているのがわかった。ちゃんと私で感じてくれていて嬉しい。

 そのままズボン越しにペニスを擦りながら、舌での愛撫を続ける。時折「うっ」とかオギノが呻き声を上げるから、ちゃんと感じてくれているのがわかる。

 こういうことは初めてだったけど、意外と魔物娘の本能で何とかなるものだ。私の冷静な部分が妙に感心していた。

 だんだん暑くなってきたので、私はいったん彼から離れて馬乗りになると、見せつけるようにして大胆に上着を脱ぐ。

 わざと目を合わせて、上着、インナー、最後にもう一度目を合わせた後にブラジャーを取っ払う。オギノの目は始終私の胸元に釘付けで、触れている下半身からもビクビクと反応が伝わってきた。

「なぁに。そんなに私の体が気になるわけ」

「だって、こんなことされて、気にならないわけがないですよ」

「そうよね……それで、アンタはどうしたいの」

「それは……その……」

 彼ったら、この期に及んでまだ躊躇している。それがかわいすぎて、私はもっと興奮してきてしまう。

「ああもう」

 一気に下も脱いで、生まれたままの姿になって涼しく身軽になった私は、焦れったくてオギノに覆いかぶさった。そのまま勢いのままに彼の唇を奪うと、じっくり時間をかけてその口腔内を味わう。

 よく女の子は甘いとか言うけど、私にとっては彼こそが極上の味だった。どれだけ味わい尽くしても足りない。彼から得られる精気が極上の快楽と共に伝わってくる。

「んぅ」

 彼は両手を私の背中に回して、恐る恐る撫でてくる。ぎこちない仕草がとってもかわいくて、私はますます感じてしまう。

「……っは、はぁ、はぁ」

 じっくりキスを楽しむんだ後、私はなるべく体に触れながら、ゆっくりと彼の股間に移動していった。その間ずっと視線は合わせたまま、逃さないぞという意思を込めていく。

「あら、ここはもうこんなになってるじゃない」

「う……すみません」

「何謝ってるの。嬉しいんだから謝るんじゃないわよ」

大きくテントを張ったズボンのペニスがある部分が、先走りでいやらしく濡れている。そこをグリグリと意地悪く撫で回しながら、ニヤニヤと私は語りかける。

 ゆっくりとファスナーを降ろすと、やっと出れたとばかりにピンと張り詰めたペニスが顔をのぞかせた。もっと至近距離で、ちょうど顔を打ち付けられるような距離で見ていればよかったと、ちょっと後悔する。

 生で見たペニスからはじっとりと我慢汁が出ていて、雌を引きつけるフェロモンを感じた。見ているだけでいかにもおいしそうな、今すぐ味わいたい、ずっと欲しくなるような気持ちにさせる。

「あむ」

 何も言わず、我慢できない私はいきなりペニスを咥えた。私の口にちょうど収まるサイズのそれは、口の粘膜と舌で味わい尽くしてくださいと言っているようなものだ。

 無心でペニスを貪る淫靡な音が部屋中を埋め尽くす。もう私の頭の中では、彼のペニスがおいしいことしか考えられない。

「うぁ……エレザさん、それすごっ……うゎ」

 よほど感じているのか、オギノはそんな声を時たま出しながらビクビクと女みたいに体を震わせることしかできていない。

 甘噛みして恥垢を味わったり、頬の内側で歯磨きするように擦ったり、味わい方一つとってもバリエーションをつけられてちっとも飽きがこない。本当にこのペニスおいしい。おいしい。

「あ、だ、ダメですエレザさんっ、出る、出ちゃいます」

「んー、いーじゃない。このまま出しちゃいなさいよ」

 見つめながら、見せつけるように亀頭の先端を舐めながら挑発する。

「だめっ、で、出る」

 今だ。タイミングを見計らって、私は奥までペニスを咥えた。それと同時に、今まで我慢していた分の精液が一斉に出てくる。それらは全部私の喉奥に向かって勢い良く放たれ、たちまち口内を埋め尽くした。

「んっ……んぅ」

 これすごい。今までで1番気持ちいい。絶対体験しちゃダメなやつだ。こんなの癖になるに決まってる。絶対他の女になんか味あわせない。

 まだ尿道の中に残っているはずの精液を吸出しながら、ゆっくり味わって精液を飲み込む。コクリ、コクリと喉が鳴る度に、私は幸せを感じていた。

「はぁ……はぁ、すごかったです」

「ん……そう。アンタもすごかったわよ。そうとうたまってたのね。何よ、ここはこんなに逞しいじゃない」

 一度出して萎えてきたペニスをつつきながら私は彼に微笑む。

お父様と違ってオギノはまだ人間だから、一度出したら今日はもうできないだろう。私は彼を押し倒してからずっと濡れっぱなしだけど、彼にこれ以上負担をかけるわけにはいかない。どうせ明日になればまたできるようになるんだから、その時にまたやればいいだけと思うことにしよう。

「ん、しょっと」

 モゾモゾと彼の隣に移動して横になると、私はじっと彼と顔を突き合わせた。少ししたら体が冷えてくるだろうと思って、そっと掛け布団をかけて2人の体を包み込ませる。

「あのね」

「はい」

「さっきの返事だけど、アンタは……オギノはどう思ってるのよ」

 拒絶されたら嫌だなと思いつつ、私は脚を絡ませながら囁く。

「あの……うまく言えないんですけど、僕でよければ、よろしくお願いします」

 聞き終えた後、私は嬉しくて思わず彼をギュっと抱きしめた。

「そ、そう。それならあの……嬉しいわ。あの、そ、そう。だから、じゃあ、さっそく明日からお願いね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 やった。これで彼はもう私のものだ。

「ねぇ、気になることがあるから聞いておきたいんだけどいい」

「僕に答えられることなら何でも」

「あのね、私のどこが好きになったの。あ、私はその、アンタのそのいつもする表情がその、かわいいなって思ったのと、あの、いっつもおどおどしてるから、私が守ってあげなきゃって思ったから、なん、だけど」

「僕は、そうですね。何だかんだ言って優しいところですかね」

「優しいって、本当。私、アンタに結構辛くあたってなかった。だって、普通の魔物娘ってもっと優しいもんじゃないの」

「そんなことないですよ。エレザさんはちゃんと優しい人です」

 私の不安が伝わっていたのか、オギノは私の背中を優しく撫でてくれた。

「僕が何度待ち合わせに遅れてもいつも会えるまで待っててくれますよね。それにいつも次は次はって言ってくれて、僕は嬉しいです。正直いつも遅れた時はこれっきりなのかなって不安で仕方ありませんでしたから」

「そう、そうだったのね」

「本当は僕から言わなくちゃと思っていたんですが、すみません」

「いいのよ。だって好きになったのは私もなんだから。どっちが先に言うかなんて些細な違いよ」

 お互いの気持ちを確かめあえた私達は、自然と体を絡ませていた。ぴったりとできるだけ隙間ができないように、お互いを求め合う。

「あむ……ちゅ……」

 目を合わせれば、どちらからともなく自然とキスをする。繋がっている部分が多ければ多いほど幸せになる。

「あ……意外と早いじゃない。もうできるのね」

「あの、いいですか」

 脚を絡めているうちに、オギノのペニスが硬くなるのがわかった。てっきり朝までおあずけかと思っていたから、これは嬉しい誤算だ。

「言っておくけど、私初めてだから。ちゃんと優しくしなさいよ。というか、私がリードして動くから」

「わ、わかりました」

「アンタが気持ちよくなれるかわかんないけど、その、頑張るから」

「大丈夫ですよ。もう今でも十分気持ちいいですから」

 そういうこと言うのはズルい。オギノのくせに。

 一方的に犯す騎乗位じゃなくて、今のまま、お互い密着している側位で繋がることを私は選んだ。その方が暖かさを感じられる気がした。

「それじゃ、入れるわよ」

「はい」

 そそり立ったペニスをあてがうと、ずっと濡れっぱなしのヴァギナがピクリと反応した。まるでこれから来るごちそうに喜んでいるみたいだ。

 クチュリと音を立てて、ゆっくりと私の中にオギノが入ってくる。熱くて気持ちよくてどうにかなってしまいそうだ。

「なに……これぇ」

 じわじわ奥まで入れると、膣の形がオギノのペニスに合わさるまで感触を楽しむ。体全体が喜んでいるのがはっきりとわかる。これは今までの気持ちよさの比じゃない。

「って、え、ちょ、ちょっとぉ、何してんのよぉ」

 カクカクと小刻みにペニスが震えた。いや、震えているんじゃない。オギノが動いていた。

「ごめんなさい。気持ちよくて、止められません」

「そんなこと、言ってぇ」

 初めは小さいピストンだったのが、私にバレてからだんだん大きなものになっていった。パンパンと音は立たないものの、1回1回しっかりと私の子宮に亀頭が打ち付けられるのを感じる。

「あっ、ひぁ、ちょ、まっ、わ、私がっ、する、ってぇ」

「エレザさん、エレザさん」

 オギノは腰を振ることに夢中で、私の声なんて聞こえちゃいない。ずっと私の名前を呼びながら、一心不乱に射精に突き進んでいる。

 名前を呼ばれながら突かれる度に、私の頭の中はふわふわして、気持ちよくなって、真っ白になってしまう。

 気持ちいい、きもちいい、もうそれだけしかかんがえられない。

「あ、ま、また出ます」

 オギノが慌ててペニスを抜こうとする瞬間を、私は見逃さない。絡めていた脚を開いて彼の腰に回して、しっかりと逃げられないようにする。

「え、エレザさん」

「いいからぁ、だしなさいぃ、け、けっこん、けっこんするんだからぁ」

 絶対逃さないように、全身でオギノを抱きしめる。

「うっ、あぁ」

 ついに我慢できなくなったオギノが、私の中に思い切り射精する。

 ビクビクと波打ちながら、子宮に何度も精液が打ち付けられる。

 これだめだ。ぜったいにんしんだ。わたし、ままになる。

「す、すごすぎぃ。オギノあんた、やるときはやるじゃないのぉ」

「はぁ、はぁ、き、気持ち良かった」

 出し切って放心しているオギノの頭を優しく撫でる。

 これからこの人と一緒に生きていくんだ。そう思うと、私は幸せな気持ちに包まれるのがわかった。



 初めての夜を終えてから、私達はすぐに入籍の手続きをした。そこは魔物娘が一般的な世の中で、手続きはすぐに終わることができた。

 オギノがあんなにも約束を守れなかったのは、彼が断れない性格をしていたのと独身だったからだった。他の人の仕事まで、自分は独り身で自由だからと思って引き受けていたらしい。中でも最近は、あの日私が気になった女の子に頼まれることが多いらしく、その量も多かったとのことだ。

 女の勘から、私はあの子はオギノのことを狙っていたのではと思った。だからオギノにはさっさと仕事を辞めてもらって、私と一緒に故郷で働くように言い聞かせることにした。

 さすがに仕事を辞めることに難色をしめしたものの、私がオギノの会社に入籍したことを伝えると、むしろ会社側から私と行くように言ってくれた。

「よかったわ。エレザちゃんも無事に独り立ちできて」

「だな、あんなに男嫌いだったエレザも、立派になってお父さん嬉しいぞ」

「だから、別に嫌いではないってば。その……好みの男がいなかっただけなんだから」

 今は里帰りして、私達夫婦は新居を構えて住んでいる。近くに住む両親も様子を見に来てくれるし、皆優しい。

「それよりエレザちゃん、彼のことはちゃんと名前で呼んであげてるの」

「え、べ、別にお母様には関係ないでしょ。いいのよ、夫婦の形は人それぞれでしょ」

「えー」

 普段皆の前ではもっぱら「アンタ」呼びだ。けれどエッチの時だけは、少し素直になれて名前で呼ぶことができる。正確には、気持ちが昂ぶって自然と名前で呼んでしまうんだけど。

「そろそろ彼が帰ってくるんじゃないか」

「あ、本当だ。それじゃまた来るから」

「はいはい。今度は焦がさないようにね」

 得意じゃなかった料理を教えてもらいに実家に戻っていた私は、オギノが帰ってくる時間になったので急いで家を後にした。

 家事はテキトーにやればいいかと思っていたから、今になって苦労している。だってまさか、こんなことになるとは思わなかったから。

 でもまぁ、好きな人の為にいろいろやるのは、悪くないかなって思っている。

「あ、エレザさん。おかえりなさい」

「それはこっちのセリフよ。まったく……おかえり」

 ちょうど自宅の前で鉢合わせた私達は、お互いに笑いながら一緒に中に入った。


18/12/29 23:45更新 / NEEDLE

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