読切小説
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恋の繋ぎ方
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「好きです。私と付き合ってください……!」

今までで一番の勇気を振り絞り、彼女へ愛している気持ちを伝える。
返答はほんの数瞬の後だったが、その時は何日も待っているかと錯覚するほどに長く感じられた。

「はい……私も好きです。こちらこそ、よろしくお願いします」

互いに好き合っていると知った時はこの上なく幸せだった。
この良い雰囲気に包まれているせいか、自然と近付き、彼女の……ユニコーンのクリオの体を抱き締めながら唇と唇を重ね合わせた。


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ぼんやりしていると、いつも告白した時のことを思い出す。
あの日から私はクリオと付き合い始めた。
……のだが、精一杯の勇気を出したせいか、それからは二人とも恥ずかしがってしまいなんともギクシャクな関係になってしまっている。

「はぁ…………」

早い内に何とかしたいとは思ってはいるものの、良い案が出ないまま。
つい溜め息をついてしまうと、先輩から声を掛けられる。

「なんだなんだ、仕事中に溜め息なんかして。怪我とかしたらクリオちゃんが悲しむぞ?」
「えっ、あっ、いや……」

クリオの名前を聞いてドキッとしてしまい、思わず変な反応をしてしまった。
その反応を見るとすぐに食いついてきた。

「そっかそっかー。クリオちゃんとのことで悩んでるのかー。ちょうどお昼休みになる時間だし、経験豊富なお兄さんに話してみ?」

そして強引に先輩に連れられてお昼を食べながら話すことに……先輩が声を掛けた同僚達や後輩と一緒に。
でも、良い機会だし相談してみるのもありかもしれない……。


こうしてみんなに囲まれて昼食を取りながら話をした。
この前告白をして付き合い始めたこと。
お互い意識をし過ぎてしまっているのか、その日以来キスはおろか今までしていた手を繋ぐことすら出来なくなってしまっていること。
いずれ一緒に住んだり結婚することも考えているので、早い内になんとかしたいこと。


一通り話し終えると、先輩がある提案をした。

「それならいっそ、二人っきりで遠いところへ旅行してみるのはどうだ? 見知らぬ街で一緒に観光したり、宿で何日も過ごしていれば距離も勝手に縮まるんじゃねえか? 遠慮しあってるみたいで好き合っているのは感じたしよ」

それを聞いて周りが先輩の発案を聞いて、みな賛成して勝手に盛り上がり始める。

「どうせなら1週間ほど――」
「ただ観光するだけじゃなく、物理的にも距離が縮まる方法を――」
「それなら温泉なら――」
「いいねぇいいねぇ!!」

当事者である私が返答する間も与えられず、旅行する方向で話がどんどん進んでしまっていく。
とは言え、応援して色々考えてくれてるわけだから甘えさせてもらうのも良いかもしれないのかな?
そう考えている内に、ドラゴニアの竜泉郷という温泉地に5泊6日の温泉旅行へ行くということに決まる。

「よし、じゃあ休みを取るために親方に話を付けに行ってくるから。今日は早上がりしてクリオちゃんと旅行のお誘いしてこいよ。」

みんなに仕事場から送り出され、まっすぐクリオに会いに行き温泉旅行のお誘いをすると、顔を真っ赤にしながらも食い気味に『行く! ぜひ行きます!』とすぐに了承の返事をもらえた。





いよいよ温泉旅行の当日。
早朝から約束していた場所でクリオと合流してから馬車に乗りドラゴニアへと向かう。
待ち合わせた時からもそうだったが、馬車に揺られている間も何泊もする旅行ということで緊張しているのかずっと顔を紅潮させたままで、時間を潰すための他愛のない話をしてもイマイチ盛り上がらないまま。


そうこうしている内に、ドラゴニアから竜泉郷へ行く馬車に乗り換え入口に着き、そこから歩いて小高い丘の上にある今回宿泊する宿の龍燈楼に到着する。
建物は古風ながらも綺麗で立派なものだった。

「凄い立派なお宿ですね……」

流石に緊張がほぐれてきたのか、クリオが感嘆の声を漏らす。

「だねぇ……ここまでとは思ってなかったし。接客も丁寧で景色も良い所だと教えてもらったし楽しみだね」

宿の玄関をくぐると、和服を着た龍が迎えた。
お辞儀をする振る舞いを見ただけで気品を感じさせる。

「龍燈楼へようこそいらっしゃいませ。私、女将の水柏と申します」
「予約をしていたマリスとクリオですが」
「はい、確かに承っております。少々長くなりますが、宿のご説明をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「では。朝食はここから右の館にある食堂で、ご用意が出来ましたら従業員がお部屋へ伺い声を掛けさせていただきます。温泉は食堂に入らず、左へまっすぐ行くとございます。入浴時間については午後12時までとなっておりますのでご注意ください。最後に、右の館の二階からは従業員のお部屋となっておりますので、立ち入りはご遠慮くださいませ。……他に何かご不明な点がありますでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「それではお部屋にご案内いたしますね」

帳場から左の館へ進み、階段を上って一番奥の部屋へ案内される。

「お客様のお部屋はこちらの『逆鱗の間』となります。それと、当館ではサービスで浴衣をお貸し出来ますが、いかがいたしましょう?」
「ぜひお願いします」

どうしようかとクリオの方を見る前に返事をされる。

「わかりました。それでは帳場にてお待ちしております」

そう言って女将はお辞儀をして戻っていく。
部屋に入りひとまず荷物を置いて部屋を見渡すと、二人で泊まるにしては大分広く感じた。
ここでクリオと五泊も泊まるのかと改めて思うと、急に気恥ずかしくなる。
これ以上意識するとまたいつもの様にギクシャクになってしまいそうなので、慌てて別のことに意識を向けさせようと口を開く。

「取り敢えず浴衣を着させてもらって、それから外で夕飯を食べたりのんびりとお店を見て回ろっか?」
「はい!」

帳場へ行くと浴衣の着付け方も教えてくれるそうで、専用の部屋へ通される。

「はーい、ここに合わせて彼女さんは重ねてください」

まさか浴衣は裸の上から着るものだったとは。
初めてクリオの裸体を見ることになるとは思わず、顔が熱くなるのを感じる。
とても彼女の顔を見る勇気が起きないでいるが、恐らく彼女も恥ずかしさで顔を真っ赤にしていそうなのが分かる。

「はい、これで出来上がりです!」
「「ありがとう……ございました……」」

着付け方は実際にやりながら懇切丁寧に教えてもらえて覚えられたものの、それ以上にクリオの裸が頭から離れなくなってしまっているが。

「それでは今度は彼氏さんの番ですね」

まだまだお互いに恥ずかしい思いをすることになりそうだ……。



ここまでの移動や着付けを教えてもらうのに結構な時間が掛かったみたいで、宿から外に出た時にはもう陽が傾いていた。

「それじゃあ行こっか」
「うん……」

まだ恥ずかしさが抜け切っていないせいか外の空気がやけに涼しく感じる。
でも、青色の浴衣ととても似合っていて、普段とは違う装いが見られただけでも浴衣を借りたのは正解だったと思う。
そして宿のある丘から下って竜泉郷の中心地に行くと、観光地なだけあってお店も人も大変な賑わいだ。
人ごみに紛れてはぐれてしまわない様にと、歩くだけで自然にくっ付く形になっていた。


そうして一緒に歩きながら竜泉郷を観光していく。
夕飯には龍水蕎麦という食べ物を食べてみたりした。
店員さんに聞いてみたところ、ジパングでよく食べられる麺料理の蕎麦に龍の魔力が宿って出来たものらしく、この竜泉郷でよく採れる作物なのだとか。
知らずに入ったお店だったが、味も大変美味しくクリオも美味しいと喜んで食べていたようで大満足だった。


夕飯を終えるとすっかり陽が沈んでいたが、外の時計を見るとまだ入浴時間には余裕があったため、腹ごなしも兼ねて歩き回ってみる。
すると、とあるお店で足が止まった。
看板には『お土産屋兼加工屋  龍窯 竜泉郷支店』とあった。
つい気になって足を止めていると、クリオも興味を惹かれたようだった。

「いらっしゃいませ〜!」

元気な店員さんの声を聞きながら店に入る。
棚にはドラゴンを模した土台に宝珠がはめ込まれている物やドラゴニウムという鉱石を加工して作られたアクセサリーが並んでいる。
岩石や金属が炎で溶かされたような塊は謎めいた竜塊と言うらしく、2日ほどでお好みのデザインに加工してもらえるのだとか。
他にも見事な細工品が数多く陳列されている中、ある品物が目についた。
ペアになっている焼き物のカップなのだが、綺麗な青緑色がクリオの毛色のようで心を惹かれる。

「すみませーん、これをください」

気付いた時には買っていた。
するとクリオから声を掛けられる。

「何か気に入ったのでも見つかりました?」
「うん。これを二人で使いたいな……って思ったんだけど、どうかな?」
「はい、とても素敵なカップで……、帰ってから二人で使うのが楽しみですね」

そう言って上機嫌な彼女と一緒に宿へと戻った。



ふぅ…………。
温泉に浸かっていると今日一日の疲れが身体から湯へと溶けていくみたいだ。
丁度いい湯加減が身体を温めながら、浸かっていないところは外気が心地良い涼しさをもたらしてくれる。
温泉は丁度良い温かさでほんのりと甘い香りがするのもあってか、とてもリラックス出来る。
初めての温泉に良い景色とあって風流な詩でも紡げてしまいそうだが、今はそれどころではなくなってしまっている。
と言うのも、一緒に入っている壺湯の浴槽がとても狭く、常にクリオと密着しているからだ。
少しでも身じろぎをすれば肌をもっと触れ合わせてしまいそうで、全く身体を動かせそうにない。
宿に戻ってきた時は嬉しそうな顔や振る舞いをしていた彼女も、温泉に来てからはすっかり紅潮して黙ってしまっている。
温泉が混浴で、帰ってきたのが遅かったせいか他の利用客がいないため、僅かな物音や水音が響いてしまうほどの静かという様々な状況が合わさり、より一層気まずい空気を作り出していた。
うう……どうしたものか……。
そう思っていると、この重い空気を壊すかの様に戸を開ける音が聞こえた。
クリオに一肌が触れてしまうのではと振り向くのを躊躇してしまい、視界の中に現れるまで動けずに待っていると入ってきたのは女将の水柏さんだった。

「失礼します。お湯加減はいかがでしょうか?」
「は、はい。丁度良い具合です」
「それは良かったです。こちらはサービスとなっておりますので、よろしければお二人でお飲みになってください」

そう言って水柏さんは徳利とお猪口が載った小さなお盆を湯船に浮かべた。
徳利の周囲は冷気を纏っており、良く冷やされていたのがはっきりと分かる。

「それではごゆっくりなさってください」

そう言うと、水柏さんはサッと退出していった。
そしてまた二人の間に静寂が訪れた……。

「の、飲みましょうか……」
「そ、そうだね」

温泉に来て初めてクリオが口を開く。
クリオが徳利を傾けると、桃色の液体がお猪口を満たしていき、温泉のとはまた違う甘い香りが鼻をくすぐる。

「それじゃ……」
「「いただきます」」

口にしてみると飲む前に感じていた以上に濃厚な甘みと香りが口に広がり、お酒の味が強くないせいかとても飲みやすくて二人でどんどん飲んですぐに飲み切ってしまった。
温泉に浸かりながらお酒を飲んだからか、頭が蕩けるような心地になる。
ふとクリオの方を見ると、傷一つない綺麗で美しい身体で、温泉で暖まったのか肌が微かに赤くなっていて、その何とも言えない色香に目を奪われてしまう。
じっと見つめていると、彼女に話しかけられる。

「……あの、このままですとのぼせてしまいそうですから、お部屋へ戻りませんか?」
「あ、ああ、うん。そうだね、戻ろっか」

脱衣所へ戻り、クリオに服を着付けようとするが急ごうとする気持ちやドキドキする興奮のせいで教えてもらっていた着付け方がすっかり頭から抜けてしまっていた。
浴衣はぐちゃぐちゃに乱れていることで肌を晒しており、彼女の清楚で貞淑な雰囲気が消え失せてしまっている。
またこちらも、温泉でのことやクリオに着付けている際に彼女の匂いを嗅いだことでギンギンに猛り立っていた。
が、少しでも早く戻ろうという気持ちが高まっていてお互いにそれを気にすることも恥ずかしがる様子が一切なかった。
早く……早く……!
脱衣所から帳場の前を通り部屋へと息を乱し早足で戻って行く時に、クリオの手を握っていたが全く意識していなかった。
こんなに服が乱れたところを見られてニヤニヤと笑われそうだが、それどころではない。


いよいよ部屋に着き、敷かれている布団へ座る。
いくら興奮していて今すぐ襲い掛かりたくなる気持ちであっても、その前にこれだけは言葉で伝えておきたい。
ほんの少しでも気持ちを落ち着かせるために息を吸い込む。

「あの……、この旅行が終わったら一緒に暮らしたいと思うんだけど、どうかな?」

全く思いもよらない言葉だったらしく、とても驚いて暫しの間言葉を失っていた。
そしてポロポロと涙を零し始める。

「はい。改めて、これからもよろしくお願いします」

彼女をしっかりと見つめ、二度目のキスをした。
初めての時と違い、唇が触れる程度ではなく、舌を入れ合って貪り興奮を高めるようなキス。

「好き、大好きです」
「私も愛してます……」

彼女の身体を抱き締めながら優しく布団へ押し倒した…………。















「おはようございます。食堂はこのまままっすぐお進みください」

翌朝、元気な声で女将と女中達がお客を食堂へ送ってゆく。

「後は逆鱗の間のお客だけになりましたけど、まだ来ませんね」
「呼びかけもちゃんとしたのよね?」
「あ、あー、えーーっと、それが――」

呼びかけを任されていた子が少し躊躇ってから話し始めた。



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他のお客にお声を掛け終え、残すは逆鱗の間のみ。
部屋の前へ行くと、隙間からとても濃い淫香が漏れ出ていて、ふすまを開ける手が止まってしまう。
この濃い精の匂いは……。
どうしようかと躊躇していると、溢れている匂いがより一層強くなると共に喘ぎ声が聞こえる。

「クリオっ……! クリオっ……!」
「あっ♡ あ゛〜〜〜っ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ もっとぉ♡♡♡」

…………………………。
お取込み中のようですし、また時間を空けてから来ましょう。
そう自分に言い聞かせながら部屋を後にした。


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「――というわけでして……。当分終わりそうにないかと」
「いいなぁ〜、私も睦まじい旦那様を見つけてねっとりと濃厚な時間を過ごしたい〜」
「そうなると、おススメの観光スポットを考えたりしたのも無駄になりそうですね」
「そうなりそうね……。でも、お二人が愛し合いながら幸せになれているし、良いんじゃないかしら? 来館された時はぎこちない空気がありましたけれど、その様子でしたらもう深い仲になられたみたいですし……ね?」

そう言って女将はふっと優しく微笑んだ。
18/02/06 22:13更新 / 群青

■作者メッセージ
恥ずかしがり屋同士が旅行で距離を十分すぎるほどに縮める話でした。

ヒロインをユニコーンにしたものの、あまり身体的特徴を活かし切れていなかったかも……というのが書き終えて気になった所。
お淑やかな子がエッチをする時になると一変して物凄く活発になるのが大好き……



今までのSSは他人から恋人になる過程を書いてきましたが、次回作は元からラブラブなカップルや夫婦がベタベタ甘々な性活を送るSSを書いてみたいな〜と思ったりしてます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
次もありましたら、よろしくお願いします。

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