連載小説
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夏休み突入から十日目
「ケント〜…熱ぃよぉ…」

「…帰ればいいだろうが」

何度目になるか分からない問答をまた重ねる。

「冷たいなぁ」

「エアコン壊れたって連絡しただろ…」

「そうだけどさぁ…」

ちらっとこちらを見てからわざとらしく照れたふうに答えてくる。

「そしたらケントに会えないじゃん?」

「キモイわ」

ベシっとノートの背で叩く

「痛いぜ。謝罪を請求だ」

「はいはい」

無視してまた宿題に取り掛かる。

「構ってくれてもいーじゃんよー…」

ぶつぶつとぼやきながらハルも宿題を再開する。
部屋の中が、しばらくはガリガリと字を書く音だけになる。
まぁ、外の蝉がうるさいので決して静かになった訳ではないが。

そうして三十分が経過した頃

「なぁ〜ケントー」

「…なんだよ」

どうせ無視しても返事するまで続けるので嫌々ながらも返事をする。

「お腹すいたんだけどー」

「…素麺でいいか?」

「え、マジ?作ってくれんの?」

「いらねーなら作らねーよ」

「いや、いるいる。超いるよ」

「待ってろ」

ペンを放り投げて伸びをしてから、部屋を出て素麺の準備に向かう。

「あ、手伝うー」

後ろからぴょっこぴょっこと着いて来る。
何というかこう、構って欲しい子犬のような気がして、笑えてくる。

「え!?何、何で笑ってんの珍しいな!」

「何でもねーよ」

適当にあしらって準備を進める。

「なー、何か無いのかよー?」

「冷蔵庫の中から素麺に入れたい奴決めて準備しとけ」

「おー。お前何入れんの?」

「お前に合わせる」

「えー、じゃぁどうしようかなっー」

嬉しそうにはしゃぐ様子を横目で見ながら、素麺を茹でていく。
何を入れるか悩んでいるようだ。
と、何故かコーヒーやら牛乳やら呟いているのが聞こえてきた。

「…まともに食える物にしろよ」

「んー」

どうせ聞いて無いんだろうが、一応言っておいた。



「中々、美味いな」

「お、だろ〜?」

結局、梅干しと山葵になっていた。
程よい酸味と辛味が食欲をそそる。
途中で果物を入れるのを止めさせて正解だったようだ。

「うーん、俺って天才」

「…バカと天才は何とやらって知ってるか」

「酷ぇ!俺なんだかんだ成績お前よりいいからな!」

「学校の成績だけで頭の良さは決まらないけどな」

「あー言えばこー言いやがってよぉ…」

お互い言い合いをしながらズルズルと素麺を啜る。

しばらく文句を垂れていたが、素麺の方に気が向いたのか黙って食べ始める。

「ごちそーさん」

「おう」

ハルが食べ終わって食器を流しに持っていく。
何だかんだ言ってそれなりに礼儀正しい。
言動とかが少しばかりアレだが、結構きちんとしてる奴なんだよな。

「なーなー、アイス食べていー?」

「一本だけな。腹壊すから」

「子供扱いすんなー」

机に突っ伏してもごもごとアイスを咥える様子は子供と言って問題ないような気がするが。

「ご馳走様でした」

「おー、俺にも感謝しろよー?」

「…果物入れようとしやがった癖に」

「結局入れなかったし美味かったろ」

「はいはい。ありがとうございました」

「おーともよ。どういたしまして」

ふふんと笑ってまたアイスを口の中で転がし始める。
その間に流しに食器を漬け、アイスを一本取って部屋に戻る。

「お帰り。なぁ、ちょっと見ててくれよ」

「…?」

「んっ…」

咥えていたアイスを持って、ゆっくりと出し入れし始める。
何度かピストンしてから抜いて、舌を伸ばして先をちろちろと舐め始める。
開けっ放しにしている口端から、唾液とアイスの混じった白濁液が伝い落ちる。
最後に殆ど溶けたアイスの回りをこそぐように舌で舐めとってから、ゆっくりと飲み込む。

「どーよ?」

ドヤ顔で聞いてくる。

「…一応聞くが、どういう意味でどうよって言った?」

「勃った?っていみぃぃぃぃぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”」

アイアンクロー。攻撃が一段階上がった気がする。

「お前はそんな事をやってるから学校でホモって言われんだぞ」

「ほ、ホモじゃねーってのぁぁぁぁぁ死ぬ死ぬ死ぬ」

「…あれ?そういやお前彼女いただろ、エミちゃんだかアケミちゃんだか。あれどうした」

「あ、それ別れたんだわ」

「…は?」

「いや、夏休みはケントの家に通い込むから会えないって言ったら振られた」

再びアイアンクロー。当社比二割増し。

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぁぁぁぁぁ!」

「お前本当ホモじゃないよな?いやどっちでもいい。潰すから」

「痛い痛い痛いいだいぃぃぃぃ」

あんまりにも暴れるので渋々離す。
かなり痛かったのか、蹲って頭を押さえている。

「本当お前いい加減にしないとホモ確定させるわ」

「ち、違うって言ってんじゃんよー」

「どこが違うんだ馬鹿」

「だってさ、同性だと子供出来ないし、結婚も出来ないじゃん」

「…いやその理屈だともし同性で子供出来て結婚出来るなら男でも良いのかってなるぞ」

「うん。全然おっけー」

でも、と一言置いてから、急に真顔になる。

「男って言うかケントが良いんだけどさ」

じっと見つめられて一瞬飲まれる。
…が、よく考えるとやっぱりおかしいのでアイアンクローをかけようとする。
と、初めて腕を掴まれ止められた。

「俺、本気だから」

「…ああ、明日にでも一緒に病院行こうか」

「そうじゃなくてさ、本当に解決する方法あるんだって」

「お前話聞いてる?」

「じゃあお前、明日見てろよ!」

「え、いやちょっと本気でお前何言ってんだ」

「うるせー!絶対ヤらせて下さいって土下座させてやるからな!」

どたどたと帰る準備をしてから、去り際にあっかんべぇして帰って行った。

「…何なんだ一体」

普段からちょっと…いやかなりアレだったがここまで酷い事があっただろうか。

「構わなすぎたか…?いや、でもそれだともっと寂しいアピールが…」

「…まぁ、明日くるって言ってたし、いいか」

どうせ特に何も無いだろう。うん。


アイスは全部溶けていた。
13/10/28 00:37更新 / ポレポレ
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■作者メッセージ
もう一つの方の続きを書いていたら急にアイディアが湧いて来てしまったのでつい。
オーラルが好きなのでキスとかフェラとかその変に異様に力が入ってる時があるかもしれませんが趣味ですごめんなさい。

アイスを出したの忘れて溶けてたらショックですよね。

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