連載小説
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1話
大学校舎のとある一室 ゼミが行われていたその部屋に2人の男女がいた 男は指に絆創膏を張っている。女はスプーンをなめている。テーブルにはティッシュ、消毒液、裁縫セットが置いてある。
しばらくして女はスプーンをテーブルに置く

「まったく、今回限りだからな」
「はい、すいません。ありがとうございました」
男はノートを女に渡した。

「先輩、来週ゼミ飲みやることになったんですけど大丈夫ですか。木曜日大丈夫ですか?」
「木曜日・・・・残念だがその日は家庭教師のバイトでダメなんだ。」
「わかりました連絡しておきます。先輩家庭教師しているんですか。へえ・・・ちなみにどんな子を教えているんですか」
「個人情報はあまり言えないが、鍛えがいのある中学生男子だ」
「先輩に教えられれば成績向上は間違いなしじゃないですか」
「そうだといいのだが、・・・いや私が受け持っているのだからそうせねばならないな」
1人気合を入れる先輩を横目に帰り仕度をする。時刻を確認するため携帯電話の画面を見る。

「今何時だ?」
先輩が画面を覗き込む

「ふーん、松井は待ち受けはイエティなのか」
そう僕の待ち受け画面は人気アイドルのイエティだった。
ニヤニヤする先輩

「いいじゃないですか。別に」
携帯電話をしまう。

「・・・・まあそうだが、彼女のどこが好きなんだ」
「なんといっても笑顔ですね。あの笑顔には癒されます。それからもこもこした体。抱きしめられたい」
「・・・アイドルにハマるのもいいが・・・・恋愛はしないのか?」
呆れるように言う。

「したいですけど・・・・」
「藤田とかいいんじゃないか、よく会話してるじゃないか」
藤田というのは同じゼミのワーラビットのことだ。明るい性格でゼミのムードメーカーだ

「藤田さんは学外に彼氏ができたそうです」
「そうなのか、初耳だ。」
「ぼくもおととい知りました」
僕と先輩は帰り支度を終え、部屋を出る。
帰り道、2人並んで歩く。紹介が遅れたが僕は松井ショウゴ。
となりにいるのはゼミで教授のアシスタントを務める赤井リーシャ先輩。先輩は美人で成績優秀なヴァンパイアだ。そう魔物娘なのだ。
さっきは先輩から借りたノートへのお礼として血を提供していたのだ。てっきり噛みついて吸血と思っていたが、縫い針で皮膚を刺し出血したところをスプーンですくい取ってなめるという方法だった。



「松井の彼女にはどの魔物娘が合うだろうか」
「まだ続いてたんですかその話」
「ラミアはどうだ」
「すごい束縛されそうでちょっと」
「まあそうだな、キキーモラは」
「いいと思いますけど、家事とかもうできる年齢ですから。」
「そういうことではないのだが・・・。ワイバーンはどうだ」
「ワイバーンはいいと思いますけど、うちの大学にはいないですよ」
「そうだったな、じゃあ・・・・ダークエルフはどうだろうか」
気のせいだろうか先輩の声が少し硬くなったような感じがした。

「なしですね」
「ダークエルフがどんな種族か分かっているか?」
「えっと・・・・男を奴隷のように扱っていて、でも愛している。うーん・・・・その恋愛観がちょっとわからないですね」
「・・・わからないか」
「はい」
気のせいだろうか先輩の声に元気がなくなった感じがした
その後、話は他愛ない内容に変わった。
駅に着き先輩と別れる。

「失礼します」
「ああ」

僕は改札を通りホームへ向かう



「ダークエルフはなしか・・・・」











夜、私は電話をかけた

「もしもし、赤井です、今大丈夫ですか?・・・・・はい、・・・・・彼のことなんですが、・・・・・・・・・はい・・・・・・聞いてみたんですが。・・・・良い印象は持ってないみたいで・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、そんなことはないと思います。・・・・・・・・・きちんと話せば伝わりますよ。・・・・・・・・では後日伝えます。・・・・・失礼します」

携帯電話をしまいベッドに倒れこんだ。


















数日後のお昼
僕と赤井先輩は食堂で昼食をとっていた。

「今週か来週の授業終わり・・・・空いてるか?」
唐突に聞いてきた。
「放課後ですか」
リュックから手帳を取り出し予定を確認する
「今週は木、金、来週は月、水、木が空いてます。何かあるんですか」
「ああ、・・・ちょっとお願いがあるんだ」
「はあ」
珍しく先輩は奥歯に物が挟まったような言い方をしている。

「・・・・お前に会いたいという人がいてだな、その・・・会ってほしいんだ」
「え・・・・」
それってもしかして・・・・・・

「安心しろ、怪しい勧誘ではない」
僕のほうを向き先輩は言う。
ということは・・・・これは恋とか恋愛とかそういうフラグか?だとしたらどうしよう、えーと、えーとこういう場合は・・・・。落ち着け僕、舞い上がるな。まずは詳しい話を聞いて

「その・・・相手はどんな人なんですか」
「相手は・・・・女性だ」
はい確定しました。春が来ました。ついに春が来ました。・・・・・いやでも待て、これはいたずらの可能性も・・・・ない。先輩がそんなことをする性格ではない。ということはやっぱり恋愛関係だ。うん間違いない。ほかの可能性はあり得ないあり得ない。
先輩の話など耳に入らずひとりあれこれいろいろ考えている僕
たぶん、いや絶対表情が緩んでいる。だってさ、僕に会いたいっていう女性がいるんだよ。男としてはねえ。まだ会うと返事も会う日も決めていないのに会った時のことをいろいろ考えてしまう。冷静にならなければならないのに舞い上がってしまう。

「どんな女性なんですか」
「その・・・・結構美人だ」
「マジですか」
「ああ」
先輩の返事に食いつく僕。もはや先輩の奥歯に物が挟まったような言い方など気にならなくなっていた。合コンに誘われた状態の僕はいよいよ浮足立った。美しい女性が僕に会いたがっている。その女性は先輩を通して僕にアプローチしてきた。ということは・・・・・・相手は僕を知っていて僕は相手を知らないということになる

「相手の人は僕の知らない人ですか」
一応聞いておく
「そうだ」
「ということは学外ですか」
「いや学内だ。ついでに言うと・・・・・私の先輩なんだ」
その女性は先輩の先輩だった。ということは間違いなくいい人だろう。全く根拠のない女性像を組み立ててしまう僕。顔は、性格は、趣味は、服装は・・・・・妄想が止まらない。

「先輩に松井の予定を伝えるから・・・・聞いているか?」
自分の世界に入ってしまった僕に先輩が話しかける。

「・・・すみません聞いてませんでした」
「だから、松井の予定を伝えて予定が合う日を後日連絡するから」
「わかりました」
「私は3限があるから先に行くぞ」
「はい」
先輩はおぼんをもって食器の返却口に行く

だが僕は舞い上がっていて肝心なことを聞き忘れていた
「その女性は人間ですかそれとも魔物娘ですか」と











食堂を出た私は授業のある校舎に向かいながらつぶやく

「変な期待を持たせてしまったな。でも口止めされているし・・・・」













後日 放課後例の先輩の住んでいるマンションに行くことになった

約束の日 
僕はメールに書かれた住所を頼りに大学近くのマンションに向かっていた
寮の前まで来ると赤井先輩が待っていた

「先輩、お待たせしました」
「すまないな、夕方に」
「いえ」
先輩に案内され部屋に向かう

「その先輩は1人暮らしなんですか」
「そうだ」
一人暮らしの女性の部屋に招かれる 
先輩と2人とはいえこの状況にドキドキしてしまう

「ここだ」
扉横には小泉と書かれた表札がある。
インターホンを押すとすぐ反応があった

「こんにちは」
「こんにちは」
「いらっしゃい、上がって」
現れたのは褐色の肌で濃いクリーム色の髪をした女性だった。
耳の形がとがっているので魔物娘のようだ

「失礼します」
「・・・失礼します」
僕と赤井先輩は部屋に上がる。落ち着きなく部屋中を見まわしてしまう

「こちらへどうぞ」
案内されイスに座る。
例の先輩は台所いく

「飲み物は私が・・・」
「いいの、座ってて」
そう言われ先輩は僕に向き合うように右斜め前に座る。
ほどなく小泉先輩がお茶を持ってやってきた。
お茶を配膳すると席に着く。僕の真正面に。
赤井先輩が紹介する

「こちらがこの間言った私の先輩小泉サラさんだ。で彼が後輩の松井です」
「会ってくれてありがとう、小泉サラです。学部は○○学部で種族はダークエルフです」
「はじめまして。松井ショウゴです」
お互い挨拶する。先輩は人間ぽくないとは感じたけどダークエルフなんだ・・・・。
小泉先輩を見る。褐色の肌、尖った耳。ベージュの髪・・・・あれ、ダークエルフは銀髪だったはず

「えっと小泉先輩、僕に会いたいと言うのは」
単刀直入に聞く

「実はだな、小泉先輩は・・・」
言いつつ赤井先輩は小泉先輩を少し心配そうに見る
小泉先輩は意を決した表情でこちらを見る

「私、松井君のことが好きです。結婚を前提に私の奴隷になってください」
いうと小泉先輩の顔は赤くなる。

「・・・・えっ」
驚く。会って10分も経たず告白。
好きなことは伝わった。でも奴隷って・・・・・。
生まれて初めての告白にどう対応したらいいのかわからない。告白されるのは嬉しいがどう返事をしたらいいのかわからない。相手はダークエルフ、確か気に入られた男性は奴隷扱い、今更のように思い出す。

美人の先輩から告白され嬉しいのに・・・・喜べない。

「松井」
戸惑う僕に赤井先輩が話しかける。

「はい」
「その、驚いているところだが先輩も緊張しているので、とりあえず話を聞いてほしい」
「ええと・・・・突然告白して混乱させてしまってごめんなさい。まずはその・・・・私の話を聞いてください。松井君のことはリーシャを通して知りました。でも松井君は私のこと知らないのでリーシャを通してこの形で会うことになりました。」
少し緊張している様子の小泉先輩
「それで・・・学校で松井君のことを見かけて、一目惚れしました。姿を見かけるたびにますます好きになっていきました」
赤くなる先輩。
「一目惚れ」「ますます好きになった」と言われるとこちらも赤くなってしまう

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
見かねた赤井先輩が助け舟を出す
「話題を変えましょう、ね、先輩、まずは趣味とか好きなものとかから。・・・ほら松井からも自分のことを紹介して」
「・・はいっ、僕の趣味は・・・・」









この日は自己紹介をした後告白の返事はせず、学校生活のことやテレビといった他愛ない話をして先輩の家を後にした












帰り道 赤井先輩と帰る 


「はあ・・・・・」
「・・・・・」
「告白って重たいですね」
「・・・・そうだな」
好きではない女性(魔物娘)から告白された。返事は待ってほしいと言われた。
小泉先輩は美人で優しい人にという印象。けどダークエルフ。偏見は持つべきでないと思うけどなんか裏の顔がありそうでちょっと怖い。だから告白を断ろうとも思うが付き合っていくうちに好きになっていったという恋愛も聞く、それに次いつ出会いがあるかわからないから機会があったらものにしろともいうし・・・

「・・・どうしたらいいですかね」
「どうしたらって・・・・私に聞くな」
「先輩も経験無いからですか」
「・・・・・・・」
あ、まずい、触れてはいけないことを言ってしまったらしい。確かヴァンパイアの恋愛って・・・・・
「すみません、言い過ぎました」
頭を90度下げ謝る 初めての経験だ

「自分で考えろ。・・・・言っておくが、彼女がかわいそうだとかそういう憐みの感情で告白を受け入れてはダメだからな。きちんと1人の女性として受け入れるか否かで判断する。わかったか?」
「・・・・はい」
「それから、どんな返事になっても直接会って話すこと」
「わかりました」











2日後、強烈な睡魔に襲われ僕は大教室の机に突っ伏していた。1限がはじまるギリギリまで寝ておく。そうしないと授業中寝てしまう。
この科目は必修科目であり1限にあり教授の教えが難しいことで知られている。教室内の何割かは再履修の上級生だ。
再履修を避けるためにもこの科目だけはこれ以上の欠席遅刻、ましてや落とすことなど許されない。
それに体の一部(血液)と引き換えてまでノートを借りているし、落としたら赤井先輩に申し訳なさすぎる・・・・・のだが、眠い。とにかく眠い。

「松井くん、起きて」
突然、頭上から声が聞こえた。
上体を起こし声のした方を向く。
そこにいたのは小泉先輩だった。

「おはよう。授業始まりますよ」
にっこりほほ笑む先輩。
見回すと先ほどより人数が増えているし教授も来ている。
先輩は僕の隣の席に座る

「・・・・・おはようございます。・・・・どうしたんですか?」
「リーシャから松井君がこの授業危ないと聞いて、寝ないよう見張るために来ました」
「・・・・・え」
「松井君、教科書とノート、筆箱を出しましょう」
僕の驚きをよそに先輩は授業の準備をするよう促す
「・・・・はい」
カバンからノートと筆箱と教科書を・・・・・教科書を・・・・教科書・・・・・あれ?
必死にカバンの中を探る。僕の動きを不審に思って先輩が話しかける。
「どうしたの?」
「・・・・・・教科書」
「忘れたの?」
「はい」
「こんなこともあろうかと」
いうと先輩は自分のリュックから教科書を取り出した。
「はい、忘れちゃだめですよ」
「ありがとうございます」
先輩から教科書を受け取る。

美人の先輩が隣に座っている。教科書を借りる
ちょっとドキドキしてしまう。


授業が始まって十数分。
小泉先輩が隣にいるお陰で眠気は吹き飛んだ。吹き飛んだのだが・・・・
「・・・・・・」
「松井くん」
「はい?」
「今のところわからなかったでしょ」
「・・・・はい」
「今の話はね・・・」
先輩は自分のノートを取り出し説明する。
ちょうど今やっている内容のページを開く。
「今の話は・・・」


そのあと僕は授業を聞かず、先輩のノートを使った解説を聞いていた。先輩の教え方のほうがとても分かりやすかったからだ。

「ありがとうございます」
「どういたしまして。分からないことがあったらまた聞いてね」
「はい」
「ところで、のどかわいていないかな?」
「すこし」
「よかった」
カバンから細長い水筒を取り出す

「紅茶なんだけど」
カップに注がれた紅茶を受け取る。

「いい香りですね」
「そうでしょ。アールグレイっていうの、熱いから気をつけて」
「はい」
紅茶を飲む。
なんだかほっとする。

「先輩どうして・・・」
「どうしてって好きな人が困っていたら助けたくならない?」
微笑む先輩。見下すような不敵な笑みではなく温かみのある笑み
その表情にドキッとしてしまう。恥ずかしくなって目をそらす。
忘れていたわけではないが改めて言われると恥ずかしい。
告白の答えもまだ出てないし。
紅茶を飲みほしカップを返す。

「ご、ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
小泉先輩は水筒を鞄に入れ席を立つ。

「名残惜しいけど、私も授業があるからまたね」
「・・・はい」
先輩は教室を出ていく、それを目で追う

・・・・・・・またねってことは来週も?

「・・・・・・どうしよう」

今までにないアプローチに戸惑う僕だった











教室を出た私の足取りは軽かった
抑えようとしても頬が緩んでしまう

「ふふふ、松井君と間接キスしちゃった」


14/11/23 00:47更新 / 明後日の女神
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■作者メッセージ
ダークエルフの小説を読んでいて男性側の人権は?と野暮なことを思い、図鑑設定とは違い主導権を握りつつも優しさを前面に出したダークエルフさんを書いてみました。どうでしょうか
たぶん好みが分かれるのではないかと

それから「嫉妬は〜」のリーシャの大学時代の話にもなります。

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