連載小説
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旧時代の遺産 Legacy in the old age
翌朝…
「ん…朝か。」
起きた後、宿屋で処理を済ませて朝食にすることにした。
「この店にしよう。」
店に入り注文を済ませ、外を見た。
「海はいつも同じだよなぁ…、程度の差こそあれ寄せては引くの繰り返しだ。」
そうしてるうちに、朝食が来たようだ。
「いただきます。」
朝食を食べながらまた海を見る。
「!?」
海でマーメイドやその仲間達が乳繰り合っているのを見て、むせそうになった…。
「朝から節操がないな…。」
ハプニングはあったが、とりあえず朝食を終えて街の酒場で情報集めをする。
「ここからは海を渡るか近くの村へ行くか、ミルスの街に戻る行き先の道があるのか。」
「そうだよ、君は確かミルスの街から来たんだったな。」
「はい、そうです。」
「なるほど、なら次は近くの村から東に行くのがいいかもしれないよ。」
「と言いますと?」
「東にはクルスという山あいの街がある、そこで本土の情報を集めるのもいいよ。」
「なるほど、参考にさせてもらいます。」
「いやいや。」
「ありがとうございます。」
俺は酒場の店主に銀貨を一枚渡す。
「ずいぶん太っ腹だね。」
「貴重な情報にはそれなりの対価を払うのが正しいでと思うので。」
「何せ、ありがとう。」
「では機会があったらまた。」
「良い旅を。」
しばらく歩いていると、今度は市場に着いた。
「食料を買って行こう。」
「いらっしゃい、干し魚が安いよ〜。」
「ならそれ3つ。」
「まいどあり〜。」
なかなかの値段で干し魚を手に入れた。単なる思い上がりでいなら、幸先も悪くないのかもしれないなぁ…。
「あれは見たことない店だな、行ってみよう。」
俺はやや遠いが見たことのない店に向かった。
「鍛冶屋かな?」
「…いらっしゃい。」
(この人は、青い肌に1つの瞳…確かサイクロプスだよな。)
「店主さん?」
「そう。」
「この剣、どんなものか見てくれないか?」
「…わかった。」
15分くらい経って、店主が話し掛けて来た。
「…終わった。」
「どんなものですか?」
「貴方は一体これをどこで手に入れたの?」
「なんでそんなことを?」
「…どこで手に入れたの?」
「そんなに珍しいものですか?」
「私も書物とお伽話でしか見たことのないもの。」
「え?」
「どこで手に入れたの?」
「まず最近起こった「グリネの虐殺事件」を知っていますか?」
「…聞いた。」
「俺はその事件の生存者で、村長が倉庫の中身を持って行っていいと言っていたから形見として持ってきたんだよ。」
「…なるほど。」
「あと1つ、いいか?」
「なに?」
「グローブ作ってくれないか?」
「…グローブ?」
「指が出るやつで、手の甲が金属付いてるやつ。」
「…わかった、今すぐとりかかる。」
「頼んだよ。」
「…任せて。」
しばらくして、店主は俺の手のサイズを測ったりして、金属を打ち始めた。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
「こうやってできるのか…。」
「…。」
ガン!
どうやら成型は終わったようだ。
「…後は冷やすだけ。」
「ありがとう。」
「…貴方が使っているもう1つの剣、少ししか見えなかったけど、大切に使われてる。」
「わかるのか?」
「…傷は付いてるけど、無駄な傷がない。」
「そんなもんか…。」
「…そう。」
後は彼女がグローブを作っていく工程を、見ていた。
「…完成。」
「はめていいか?」
「…そのために作った。」
「なら。」
俺は作られたグローブをはめる。
「…サイズとか、突っ張りとか大丈夫?」
「しっくり来る、まるで作りたてなのに使いなれたグローブをはめたみたいだ。」
「…よかった。」
「ソニア?名前か?」
「…作ったものには名前を刻む。」
「職人ならそうするよな、つまり店主はソニアって名前なのか。」
「…そう。」
「ソニアさん、いくら払えばいい?」
「…一生生きて居ても見られるか分からない物をを見せてくれた、お金は要らない。」
「そ、そうか。」
「…だけど、その剣は欲しい。」
「一応、俺にはやることがある。きっとこの剣はそれを助けてくれるだろう、それにこれは村長の形見だからな。」
「…残念。」
「まぁ目的が終わったら渡してもいい。」
「…本当?」
「それまでにこの剣が残っていたなら。」
「…約束。」
「ああ、約束だ。」
グローブを作ってもらい、俺は店の外に出た。
「…ありがとう、すごく珍しい物を見せてもらった。」
「ならまたいつか機会があれば。」
「…グローブ、壊れたらいつでも来て、直すから。」「ありがとう。」
俺はソニアと別れ、昼食にすることにした。
「あ、お兄ちゃん。」
「お、クリムか。」
「お兄ちゃんもここでご飯?」
「だな。」
「なら一緒に食べよう。」
クリムは屈託のない笑みで言った。
「ならそうするか。」
注文を済ませ、しばらくクリムと話して過ごした。
「お兄ちゃん、次はどこに行くの?」
「とりあえず東のクルスに行って、しばらくはこの本土に留まる。」
「ならまたこの街に来たら来てね。」
「ああ、約束だ。」
賑やかな昼食を済ませ、街を出た。
「貴方がブランの言っていた人間のようね。」
「…あんたは?」
「私はノワール、魔界第73王女よ。」
「つまりブランの姉さんか。」
「えぇそうよ。」
「で、何の用だ?」
「ブランが貴方を好きになったみたいなのよ。」
「えぇ!?」
「ブランは、村のみんなを失って、ただ戦うことでそれを忘れようとしてる、教団に対する憤怒と憎悪が貴方を支えてるって聞いたけど、教団に対する憎しみ以外は薄れたみたいね。」
「いや、立ち直りつつあるだけだ。」
「まぁ立ち直ってるなら、良かったわ。」
「教団の奴らは二度と歴史に現れることが出来なくなるまで殲滅する、この命に代えてもな。」
「それは良くないわね。」
「…あんたには分からんだろうさ、魔王夫妻の庇護下に生まれ、魔族である事を誇りに生きることができた。いきなり知らない世界に飛ばされ、その世界でできた初めての親しい人達のほぼ全てを失い、目の前で最後の1人の死を見届けた事のないあんたには分からないだろうさ。」
「…」
「俺は今すぐには教団の支配している場所には向かわない、止めるならチャンスはまだある。」
「そ、う…。」
「形見に誓った、絶対に仇を取ると。」
「形見?」
「これだ。」
俺はノワールに双剣を見せる。
「貴方、これをどこで手に入れたの!?」
「だから形見だって。」
「これを貴方に持たせておくのは危険どころじゃないわね…。」
「そもそもこれはどんな双剣なんだ?」
「これは、かつて私達が人を食らう存在だった時代、人間と魔族が一振りづつ作り上げた剣よ。」
「?」
「見た目が似ているだけで、これは双剣じゃないわ。」
「そうなのか。」
「特に魔族が作った方は、貴方に持たせておくと間違いなく破滅の未来になるわ。」
「どんな剣なんだよ…。」
「その黒い剣が、魔族が作った剣よ、対象の魂を破壊し、命を食らう事でさらに強くなる剣よ。」
「教団の奴らを食わせかねないと。」
「そうよ、人間が作った方は封印の力を持つ剣で、倒した相手を封印できるのよ。」
「なるほど、封印って解除できるのか?」
「できるらしいわよ、対象が魔力を蓄えたら自動で解除されるって書物に書いてあったわ。」
「そうか。」
「貴方には、早くブランのもとに行って幸せになって欲しいのよ。」
「俺にはその資格も権利もない、こんな話が来ること自体が間違っている。」
「…」
「教団と戦って命を落とすのも、それこそが償いなんだろうよ。」
「…」
「何せ、あんた達にこれを渡すわけにはいかない。」
「…私達魔物は、人間がいないと生きて行けないのよ。言葉で話しても無理なら、私達の未来のためにも貴方からそれを手に入れないといけないみたいね。」
「それでいい、正義だとか愛だとかそんな不純物を挟まなくても戦える。」
「え?」
「あんたはあんたの利で戦えばいい、俺は俺の利の為にこれを奪わせない。」
「…どうして分かってくれないのよ!」
「戦う気がないなら、帰れ。」
「え?」
「教団関係の連中はともかく、戦う気がない奴らと戦う意味はない。」
「…。」
「欲しいなら、自分の力で奪い取って見せろよ。」
「仕方ない…わね…。」
彼女は腰に差していた剣を抜く。
「おい、それは魔界銀の剣だろう?」
「…それがどうしたの?」
「殺傷能力のある武器を使ってくれ。本来の戦いには死か勝利しかないんだ、そんな不純物はいらない。」
「…出来ないわよ、そんなの。」
「甘いね。」
「え?」
「相手を殺す覚悟がないなら、そんなのは戦いではない。」
「だから説得できるならしたかったのに。」
「出来なかったなら、それは机上の空論でしかない。」
「?」
「あんた等が語るのは所詮理想論だ。」
「理想論?」
「人間にその理想論が通じていたなら、もうとっくに戦いは終わっているだろう。」
「…」
「人には欲がある、だから争いは無くならない。」
「だから私達が愛する心をもっと強くしたら争いをなくせるって言ってるのに。」
「なら俺を倒せ。」
「え?」
「俺を倒して愛の強さを俺に見せてみろよ。」
「…貴方に分かってもらえる可能性があるなら、私は迷わない!」
彼女が構えた。
「…いつでもいい。」
俺は封印の力を持つ剣を抜いた。
「貴方、なぜ本来使ってる剣じゃないの?」
「お前に殺す気がないなら、俺も殺す必要性はないだろう。」
「…そうね。」
「さあ、破壊の剣を賭けて決闘と行こう。」
「…そうね。」
(しかしリリムって特に弱点ないな、どうしたものかなぁ…。)
「考え事なんて、随分余裕じゃない!」
彼女は飛びながら斬り掛かってくる。
「だぁっ!」
ギィン!
俺と彼女の剣がぶつかる。「っ!」
「きゃっ!」
双方威力を殺し切れず後ろに飛ばされる。
「…最後に、1つ聞いてもいいかしら?」
「答えるかは別として、たんだ?」
「貴方には教団の人間達のような正義に対する信仰もなければ、私達魔物のような愛に対する理想もない。なら一体貴方を動かしているものは何?」
「…償いかな。」
「償い?」
「俺は村の他の人達が死んだのに、自分はおめおめと生きている。」
「…」
「だからこそ、もうあんなことを繰り返さないようにするために、教団を滅ぼす。」
「…貴方、教団に対する憎しみはあるのよね?」
「もちろん。」
「だけど貴方にあるのは、憎しみだけじゃない気がするのよ。」
「?」
「弱いものを守りたい、そんな感情を感じたわ。」
「かもしれないな。」
「貴方が街に入ってから、様子を見ていたわ。」
「覗き見とは趣味が悪いな。」
「貴方がクリムに見せた優しい心、あれは嘘なの?」
「どちらも本心だ。」
「貴方、矛盾に気づいているんじゃない?」
「いや、戦う力がないものを守ってそれを滅ぼそうとする教団を潰す、これなら矛盾は解消されないか?」
「やっぱり貴方には優しい心がないわけじゃないのね。」
「そんなものか?」
「そうよ。」
「まあ決着はつけないといけない。俺が滅ぶか、教団がみんな滅ぶか。」
「1人じゃ無理よ。」
「だから仲間を集めて行く。」
「仲間?」
「教団に家族や恋人を殺された奴らを集めたら、滅ぼすことができる可能性がある。」
「…」
「もういいだろう、決着を付けよう。」
「そうね。」
(とは言っても、身体能力は俺より上の可能性が高いな。多少姑息かもしれないが…。)
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
彼女は跳躍して思い切り斬り掛かってくる。
「今だ!」
俺は体をひねり足払いを掛けた。
「!」
彼女もそれに気づいたが止まるにはスピードが速すぎた。
ドサッ!
「動くな。」
「あ…。」
「俺の勝ちだな。」
「さぁ私を封印しなさい。」
「いや、しない。」
「?」
「とりあえずこれは俺の物だ。」
「負けた以上、仕方ないわね…。」
「安心しろ、教団の奴ら以外には使わん。」
「人間が死ぬのが嫌なのよ…。」
「そうか。」
「貴方とはまた会う気がするわ。」
「予言か何かか?」
「女のカンよ。」
「おいおい。」
俺は何の為に教団を滅ぼそうとするのか、少し分かったきがした。
15/03/03 23:32更新 / サボテン
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■作者メッセージ
人物紹介
マリン
港町で歌を歌っているマーメイド、その歌声を聞いたジュンは感動の涙を流した。
ジュンが運命の石を使ってから数分後、振られて傷心した男を手に入れ、彼の心の隙間を歌で埋めたことから彼が彼女の王子様になったようだ。

ソニア
バレノの街にある鍛冶屋の店主、種族はサイクロプス。
ジュンが持っている双剣がどんなものかを鑑定し、譲って欲しいと頼み、目的が終わったら譲る約束をした。
ノワール
魔界第73王女のリリムでブランの姉。
愛があれば戦いをなくせると考えている理想主義者だが魔物には支持されているようだ。

どうも、サボテンです。
第4話になりました。
次はまた旅だと思います。
リクエストは引き続き受付していますので、どんどんお願いします。

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