連載小説
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そのじゅうはち
たぶん雲の上にいる父さんと母さん、俺は今、教団の大敵という身でありながら
反魔物国家に息を潜めているんだ。なぜこんな事態になったのか
じっくり考えまくったが皆目わからない。
驕り高ぶったリリムに活を入れてやろうと些細な悪戯を仕掛けただけなのに
どこで運命の歯車が狂ったものか、まったく頭が痛いよ。
だが、後悔してもいられない。運命は切り開くものなんだからさ。


「おかわり頼む」
俺はさっきまで麦酒で満杯だったジョッキを空にし、
まだあどけなさの残った顔をした胸のでかいウェイトレスに手渡した。
「はーい」
俺のような若い男が酒場に入り浸っていることが珍しいのか
ウェイトレスは微笑みながらウインクしてカウンターに戻っていった。
一応、幻覚の魔術を用いて顔を変えてるから
正体には気づかれてはいないはずだ。というかバレてたら
とっくの昔にこの酒場は完全武装した兵士に十重二十重に囲まれている。

「……さっさと帰って土下座でもしたほうがいいんじゃないですか?
あの方の怒りも少しは収まってると思いますし。七発くらい殴られそうですが」
「少し程度では怖くて戻れんな」
それに頭に血が上った状態のリリムに七発も殴られたくない。
「だったら最初からあんな非道なイタズラを
やらなきゃよかったんですよ」
「あそこまでやるつもりなどハナからない。ああなったのは偶然の産物だ」
「僕に言い訳されてもねー」
フードをかぶって顔を隠した小柄な影が
肩をすくめると、テーブルの向こう側にちょこんと座った。
俺が出奔してからすぐマリナ達に頼まれて後を追ってきたミリュスである。
「せっかくだし、もっと飲んだくれてたい」
「そんなことしてたら彼女達がしびれを切らしますよ。
この国を潰す原因になったりして、悪評をまた増やしたいんですか?」
「それは嫌だな」
「でしょ?」
「けど今はただ羽を伸ばしたい気分なんだよな」
「言いにくいですけど、それはただの逃避ですから」
言って欲しくないことをはっきり言ったなコイツ。
「じゃあ来週にでも帰るよ」
「明日にしろ」


「まあ、帰途につきながら飲んだくれれば酒を楽しめる時間もそこそこあるだろうから
いいとして、今日はどこに泊まるんだ?」
「とりあえず僕に付いてきて下さい。説明は後ほどしますので」
名残惜しいが、酒場をやむなく出ると、俺はミリュスの案内で
町外れの廃屋へと足を踏み入れた。

「無関心の結界を張ってありますので、よほど大きな騒ぎを起こさない限り
この建物が人目にとまることはありません」
「んぅううぅ、ううぅーーーーー!!」
「それはわかったが……」
「んおおおおぉぉ!おおおおおおぅーーーーーーっ!!
んぐうううううぅぅぅーーーーーーーーー!!」
「ああ、この女性ですか?
この国に入る前から僕らのことをつけ狙ってた魔狩人ですよ」
魔狩人――とは、特定の国家や団体に属するのではなく、驚くことに
単独で魔物と戦ったり、時には反魔物派の連中に金で雇われたりする流れ者の総称である。
パーティを組むのが常識の冒険者とは違い、個人主義で、
己以外は信じないし頼らないという、独立独歩の精神で生きているのだとか。
早い話が腕の立つぼっちだ。
その中には、勇者の才を持つ者もたまにいるとのことだが
こうしてお目にかかるのは初めてである。
「わざとここに引き寄せて結界を張ってから一戦交えたんです。
なかなか強かったですけど、しょせん僕の敵じゃなかったですね」
だから服のあちこちが破れて血が滲んでるのか。
「で、お仕置きとして、ああしてるという訳です」
と言うとミリュスは冷たく笑い、床にべったり張り付いている魔力塊の
手枷足枷で捕らえられ、潰れたカエルのようなポーズでうつぶせになったまま、
床上にある一際でかい魔力塊から生えている無数のイボイボがついた棒状のものを
引っ切り無しにアナルに出し入れされて狂う女を指差した。
その女の叫び声がくぐもっているのは、丸い球のような魔力塊を
口に押し込まれているためらしい。長い黒髪を振り乱し汗だくで悶える
その様は倒錯的なエロスに満ち満ちていて、しかもその臀部には
尻穴のすぼまりを中心にして『快楽のルーン』が刻まれているという徹底ぶりだ。
「処女を破るのはかわいそうだったんで、そっちの穴のほうを
使ってあげることにしたんです。最初は耐えてましたけど、快楽のルーンを
刻んで掘っていたら、すっかりメロメロになっちゃいまして。
まだ心は堕ちてないみたいですけど……」
「それは凄いな」
あれを刻まれてから嬲られたりしたら、いや、刻まれている途中ですら
人間には決して耐えることはできず確実に魔物化するはずだが、さすがは
勇者ということか。たいしたものだ。
「んごおおおおおぉ!おおっごおぉ!おおぅ!
おっ、おうっ…………おぉオォオオオゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
奇声のような喘ぎをあげて、狩られた狩人が尻の肉を痙攣させた。
「あははは、ホントいい声出してイキますね」
ネズミをいたぶる猫のように、敗者の尻を撫でるミリュス。
「おォオンッ!?」
「定期的にこうして『食べて』おかないと、魔物になっちゃいますしね」
「おぐぉおごおおおおおぉ!?おっ、んごお、おおお、おおォオッ!?
ンッオオオォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ああ、だから魔物化してないのか。合点がいった。


「……むふんっ。ああ、おいしかったぁ」
両の黒目がおかしな方向を向いている死に体の魔狩人を放置して
俺はデルエラたちの居場所についてミリュスに尋ねた。
「姉さんからの情報によると、教国の軍隊が
レスカティエの西にある大橋を挟んで、こっちの軍と睨み合っているそうです。
しかも驚くことにデルエラ様がみずから先頭で出張ってるとか」
てっきり剥製かと思っていたカラス――いや、鳥タイプの魔力塊――が
飛翔して、ミリュスの肩に止まった。それが伝令の役目を果たしてるということか。
「マリナか教官ならともかく、デルエラというのは珍しいな」
「ええ、そうですね。教国側も、まさかリリムの一人が
真正面から姿を見せるとは予想外だったらしく、若干引いてるみたいです」
これは好都合だな。
あの性悪プリンセスがそいつら相手にストレス解消でもしてくれれば
俺に降りかかる憤怒の熱量もだいぶ下がるというものだ。
「いい機会だ。明日の早朝にでもここを発つぞ。
これは天の理が俺に味方してるに違いない」
「そんなわけないでしょ」
聞き覚えのあるやばい声がした。


うわあああ。デルエラだあああああ。


「ど、どういうことだ。レスカティエにいるはずではないのか」
「残念だったわね。トリックよ」
ああ俺が造った偽者を最戦線に出したんですねわかります。
「その坊やが消えたのは、貴方のお目付け役として
後を追っていったということなのは、お見通しだったからね。
となると、私は、その子のお姉さんが何か不審な動きをしないかどうか
こっそり見張っていればいいのよ」
それでわざわざ目立つような行動をしたのか。相変わらず頭が切れる女だな。
「で、それを追いかけて単騎で来たわけだ」
俺がミリュスの肩にいる鳥型魔力塊を指差すと、デルエラは無言で笑った。
なお、この場合の笑いとは、威嚇である。


………………


「赤き灼熱の烈波ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「……白き凍結の豪波」
気合の入りまくっているデルエラが無詠唱で放った
上級火炎魔法を、同じく、無詠唱の上級冷気魔法で相殺する。
「降りそそぐ怒りの竜ぅぅうっ!!!」
今度は無数の雷が俺へと殺到してくる。
「あー、そそり立つ荒ぶる竜」
なので竜巻のバリアで防いだ。

流石に街を住民ごと終わらせるわけにもいかないので
俺とデルエラは街から遠く離れた山岳地帯で決戦をしていた。

「さっさとボコられてデルエラ様の溜飲を下げてくださいよー」
「やかましい外野だな、お前はその女と乳繰り合ってろ!」
そう、すっかり気に入ったらしく、ミリュスはあの負け犬ハンターを
二人目の嫁にするつもりなのだとか。ティネス卒倒しそう。


……で、どうなったのかというとだが、仕方がないので
わざと攻撃を喰らったら、それがよりにもよって動きを止めるのが目的の
『防げるがすごい強力な一撃』だったらしく、俺の胴が千切れちゃって
デルエラやミリュスが半泣きで慌てた。
思いのほかダメージが深くてうまくくっつかず、それから数日の間は
魔力塊で固定しないとすぐに分離してしまう有様だった。
(そのせいで酒を飲んでも切断面からダラダラこぼれていくので
禁酒するハメになるというオチがついた)

黒髪の魔狩人――アニーだが、帰りの旅路でエロ小僧に
ねちねちと嬲られてついに陥落し、アマゾネスになった。
今宵の時もそうだったが、俺や、俺の息のかかったインキュバスは
リリムのように女性を様々な魔物にできるみたいだ。
ただし本家と違い、どんな魔物になるかは完全にランダムのようである。


あと教団の軍隊は不利を悟ってそそくさ戻ったらしい。何しにきた。
12/09/16 20:16更新 / だれか
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■作者メッセージ
まさかのグロ展開。

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