連載小説
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10年前の夢
十年前のあの時…私はとある日本のサーキットいた…。

ギャアアアアアアア!!

エアリ「っ…!?」

私はその時、息を飲んだ…。

ブァンッブァァンッ!! ギャアアアアアアア!!

車というのは私からすればただの乗り物…。そう考えていた私は目を疑った。
車が…白煙をタイヤから巻上げながら、横に向いたままカーブを曲がっていったのだ。

クゥ「出たぁー!!黒井のケツ進入ニャああ!!」

横に座るクゥは立ち上がって騒ぎ立てる。少しうるさい実況者もまた同じ言葉を言ってはしゃいでいる。

だが…。
その時の私の耳には入ってなかった…。
目の前を通った車のインパクトが大きすぎたのだ。
感動や感激と言った感情が胸の中に渦を巻いていく。

そうして思ったのだ。

"私もやってみたい"、と。



……

……………

私が日本に来たのは、私達の住処を勝手に抜け出し日本へと消えた家出猫の捜索だった。

エアリ「ふむ。ここが日本の空港か…。」

飛行機を降り、日本に着いた私は自分の人間への擬態が完璧かを今1度確認すると、早速その娘がいると思われる群馬県へと向かった。


-群馬県-

エアリ「やっと見つけたぞ。クゥ。」
クゥ「ニャ!?エアリ様!?」

その娘はとあるちっぽけな修理工にいた。
張り出したゴテゴテのパーツを付けた黄色い車のボンネットを開けて潜り込み、ツナギの隙間から出した尻尾をゆらゆらさせていた。何故人目に付くような場所で堂々と本来の姿を晒すんだ…まったく…。
私が声をかけると、ビクッと驚いたように尻尾をピーンと張らせ、私の名前を口にした。

エアリ「こんな所で何をしている。」
クゥ「ニャ、ニャにって言われてもにゃあ…。エアリ様こそ何故ここにいるニャ!」
エアリ「貴様を連れ戻しにわざわざ日本まで飛んできたのだ!ほら!さっさと戻るぞ!!」

私はクゥの腕を引っつかみ、引っ張っていこうとする。
だがしかし、エアリは必死に抵抗を始める。

クゥ「ニャにするニャ!?イヤニャ!!アタシにはやりたい事があるニャ!!だから帰らないニャア!!」
エアリ「うるさい!お前がいないと計画が丸潰れなのだ!!」
クゥ「イヤニャア…!!アタシは行かニャいニャア…っ。」

遂には涙ぐみ始めてしまった…。
そこまでやりたいと思える事なのか?

エアリ「…ちっ。」
クゥ「…グス…。」

私は掴んでいた腕を離し、エアリに向き直る。

エアリ「…そこまで言うなら私に教えてみろ。ことの次第によっては認めてやってもいい。」
クゥ「ニャ!?ホントかニャ!?」
エアリ「早くしろ。私には予定があるのだ。」
クゥ「ちょ、ちょっと待ってるニャ!」

ふん、認める気などさらさら無いが。クゥがあそこまで入れ込む事だ。少し興味がある。だから少し様子見するだけだ。
…下らない事だったらマミーの呪いをかけて荷物と一緒に住処に引きずって行ってやる。

クゥ「お待たせニャ!!ちょうど良かったニャ!明日D1があるニャ!チケットは2枚あるから2人で行けるにゃ!ホントは太一と行こうと思ってたのニャけれど…。」

バタバタと慌てて何かを探していたクゥが戻って来る。

エアリ「D1?」
クゥ「そうニャ。まあ見てからのお楽しみニャ。明日の朝5時、ここにまた来るニャ。」
エアリ「…いいだろう。いいか?絶対に逃げたりはするなよ。」
クゥ「わかってるニャ。エアリ様もアレを観ればわかってくれるニャ!」
エアリ「ふん、それはどうかな。」

ふんすっ、と自慢げにクゥは捲し立てるが、鼻で笑ってやった。
私は認めてやる気など毛程もないからな。

その時の私はそう思っていた…。少なくともその時は…________
________




-妙義山-


瞬「斉藤瞬です。宜しくお願いします。」
エアリ「エアリだ。よろしく頼む。」

1人と1匹が、握手を交わす。
雰囲気はピリピリと張り詰め、両者の表情は硬い。

瞬「さっき伝えた通り、今回はこのスタート地点から妙義スカイパークの入口のとこまでをイニ●ャルD方式で往復。どちらかが根負けしてスピンするか先行がぶっちぎるまで何度でも。」
エアリ「わかっている。」

瞬(クゥさんから聞いた事が確かならこの勝負、向こうは乗ってくるはずだ…。)
エアリ(ちっ、こんなルール…。舐められてる様なものではないかっ…!)

それぞれの思惑を胸に、両者はスタートラインに並んだ愛車に乗り込む。
FDが先頭、その後ろにR32。

渉「カウントいきます!!」

渉が2台へ向けて声を張り上げる。
それを聞いた両者は、ブリッピングを開始する。

ヴァンッ!!ヴァンッ!!ヴァンッ!!
ヴォンッ!!ヴォォオンッ!!

渉「5!!」

ヴァンッ!!ヴァンッ!!ヴァンッ!!
ヴォンッ!!ヴォォオオオオババババッ!!

渉「4!!」

FDからは一定間隔で4ロータリーサウンドを響かせる。
対してR32は、レッドゾーンまで一気に回転をはね上げる。レブリミッターによるアフタファイヤーがまるでマシンガンの様に空気を轟かせる。

渉「3!!」

瞬(点火カットのレブリミッターか、やっぱりクゥさんの言う通りか。)
エアリ(どんなにエンジンが良かろうと、私の計画は完璧だ!)

渉「2!!」

瞬(最初の一発目が肝心だ…。)
エアリ(私の予定に2本目はない!)

渉「1!!」

2台のブリッピングに力が入り。
甲高いエンジンサウンドを響かせ、排気管から吹き出た炎は付近をフラッシュの様に照らす。

渉「GO!!!!」

ギャアアアアアアア!!!!
ギャアアアアアアア!!!!

FDが一気に回転を繋ぎロケットスタート。
それに続いてR32が後輪から白煙を噴き出しながらスタート。

エアリ(ふむ、やはりスタートダッシュのストレートでは少し置いていかれるな。だが予定通り。)
瞬(スタートしてすぐのこのストレート…。お世辞にも長いとは言えないが、車速は結構ノるんだよな…。だが、プラクティスでの反復練習でタイミングは掴めている…!)

ヴァァアアアアアア!!!!
ヴォォォオオオオオ!!!!

FDは上りをものともせず、4ロータリーのパワーでグイグイ加速していく。
それに続く32も、負けじと全開で上っていく。

エアリ(一つ目のコーナー。このストレートを登りきった先にあるS字。このコーナーはコンクリートウォールでブラインドコーナーになっている。さぁ!貴様はどう抜ける!?)
瞬(…っ!!ここだ!!)

瞬が動いたのは、1コーナーのブレーキングポイントから遥か手前。
そこで瞬は、ブレーキングと共に大振りのフェイントモーションを掛ける。

エアリ(なっ…に!?)

いきなりの動きに驚き、咄嗟にフットブレーキを踏み込むエアリ。だが、FDはそのまま振り返してはサイドブレーキを引き絞り、リアタイヤをロックさせ、カウンターステアで姿勢を維持したままコーナーへと吹っ飛んでいく。

瞬「そしてこのまま!!」

コーナーに突っ込んだFDはサイドブレーキを降ろし、アクセルコントロールでS字を大振りのドリフトで駆け抜ける。

エアリ「…!?」

エアリは唖然としたままFDとは少し遅れてS字を抜ける。
エアリが見詰めるS字を抜けたその先でも、FDはスライドを止めず、有り余るトルクに任せて流しっぱなしで短いストレートを抜け、そのまま次のコーナーへと突っ込んでいく。

エアリ「………そういう事か…っ!」

それを見たエアリは、次のコーナーをグリップで駆け抜け、一気にドリフトするFDとの差を詰めると、"サイドブレーキ"を思いきり引き絞る__________




-数日前-


クゥ「エアリの目を覚まさせてほしいのにゃ。」
瞬「…?どういう事ですか?」

クゥの言葉に、チームの面々は皆首を傾げる。

クゥ「エアリ。さっき説明した通り、HCR32に乗る妙義山のチームの頭脳。そして、アタシの元仕事仲間。」
渉「それはわかってますが、その話となんの関係が?」
クゥ「まぁ黙って聞くニャ。エアリは元は海外のピラミッドで過ごす仕事熱心なアヌビスだったニャ。そんなエアリをこの世界に引き込んだのはアタシなのニャ。」
瞬「…。」
クゥ「きっかけはとても簡単だったニャ。とある走りをみたのにゃ。」
優「とある走り?」
クゥ「"ドリフト"ニャ。」
セルフィ「ドリフト?」
クゥ「そうニャ。何も知らなかったエアリを、アタシはD1に連れていったのニャ。」
エレナ「ほー。これまた派手なヤツに連れてったもんだ。」
クゥ「それ以来エアリは、日本に入り浸っては峠に通い始めたのニャ。その時はボロボロのワンビアだったけどニャ。」
クゥ「あの時のエアリの車はそりゃ酷かったニャ〜。バンパーと片側のドアは安モンつけて色違い。リアサイドはぶつけてベコベコ。ナンバーはテンプラだしサスはバネカットのシャコタンでしかもデフロックで乗り心地は最悪ニャ。」
隆文「うっへぇ…。」
エレナ「ひっでぇな…。」
クゥ「でも、エアリはそれでもワンビアを気に入っていたし、ドリフトを辞めようともしなかったニャ。」
セツナ「それほどの目標があったって事だろうな。」
クゥ「当たりニャ。エアリには夢があったニャ。」
セルフィ「いい事だと思う。」
セツナ「…その夢をもう一度思い出させろという事か。」
クゥ「簡単に言えばそうニャ。」
優「因みにどんな夢なんだ?」
クゥ「ドリフトの最高峰といえば?」
優「D1…。」
エレナ「つまりD1を目指していたって事かい?」
クゥ「そうニャ。」
サリナ「今は目指してないの?」

サリナの問いにクゥは表情を曇らせる。

クゥ「エアリは…それこそ毎日走り込んでいたニャ…。D1に出る只それだけの為に、雨の日も雪の日も…。ぶつけても、少ない知識で直してはまたぶつけて…。それでも諦めてなかったニャ…。でも…」
瞬「…?」
クゥ「ある時、妙な稲荷に会ったらしいのニャ。」
セルフィ「妙な稲荷?」
クゥ「何でも、パンダトレノに乗った赤い目の男と一緒にいたらしいニャ。」
瞬「っ!!」
クゥ「ん?知り合いかニャ?」
瞬「え…?ああいえいえっ。何でもないです。」
セルフィ「…。」
クゥ「?とにかくその稲荷と会った時から、エアリは変わってしまったニャ…。」
渉「変わったというと?」
クゥ「…その日からドリフトを一切しなくなったのニャ…。夢を追って走り込んでいたのに、下手糞なグリップに鞍替えニャ…。あれだけ大切にしていたワンビアも廃車にして、得体のしれないHCR32をどこかから用意してきたニャ。」
エレナ「その稲荷と何かあったんじゃねぇのかい?」
クゥ「そこまではわからニャいニャ。でも、アタシも流石におかしいと思って問い詰めたのニャ。そしたら…、ニャにも言わずにアタシの目の前から姿を消したニャ…。五年程探し回ってそしてやっと見つけたと思えば、今度はキミ等とバトルっていうもんだから、慌ててここに来たって事ニャ。」
由佳「私達はただの付き添いニャけれどね〜。」
瞬「だとしても、どうすれば?」
クゥ「次のエアリとのバトル、"ドリフト"で走ってほしいニャ。」
瞬「っ!?」
クゥ「少なくともそれで未練があるかはわかるニャ。エアリがそれに乗ってくれば、夢に対する未練が残ってるニャ。もし乗ってこなくてもキミなら簡単にぶっちぎれるニャ。」
由佳「私と戦った時のあのドリフトならいけるニャ!」
クゥ「それにあの人ドリフトしかやってないからドックファイトはからっきしニャ。」
瞬「…。」
クゥ「無理を言ってるのは承知ニャ…走るのは瞬ニャ…。無理なら無理で構わニャいニャ…。でも…エアリの事が気がかりでしょうがニャいのニャ…。頼むニャ…。この通りニャ…。」

考えるそぶりを見せる瞬に、クゥは頭を下げる。
それを見た瞬は慌て、頭を上げるように促す。
しばらく考えた末、瞬は口を開く。


瞬「…つまり派手なドリフトを見せて追走に誘えばいいんですよね?」
クゥ「そうニャ…。」
瞬「渉!」
渉「ん?」
瞬「ちょっくらシエラのとこ行ってくる。足のセッティング、ドリフト用に変えてくる。」
クゥ「っ!!」

それを聞いたクゥはそれまでの俯いた雰囲気から一転。
パァっと笑顔を見せる。
渉は「そう言うと思った。」とフッと笑い、どこかへと電話を掛け始める。

クゥ「ありがとうニャ!!」

FDへと乗り込む背中に向けて、クゥは声を張り上げたのだった__________







17/12/08 00:22更新 / 稲荷の伴侶
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■作者メッセージ
どうも、稲荷ノ伴侶ですm(_ _)m

またまた久々にの投稿で滅茶苦茶かもしれません…。
大目に見てつかぁさい(´・ω・`)

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