読切小説
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もっとゆらいちゃ
 僕と姉さんは海中散歩をするのが日課になっている。

 そして、周囲にイチャつきをばら撒いていくのも日課になってしまっている。

 そう。

 姉さんが僕を後ろから抱きしめ、ゆらゆらいちゃいちゃ。

 ゆらゆらいちゃいちゃゆらゆらいちゃいちゃゆらゆらいちゃいちゃゆらゆらいちゃいちゃ。
 
 僕らの様子を見た人たちが『口の中に砂糖を放り込まれたみたいだ』と形容するぐらい、超々甘々と。

 僕だって、愛する姉さんとイチャつくことは吝かでない。嬉しい。心の底から幸せだ。

 けれど、それを公衆の面前で遠慮なく見せ付けられるほど、僕の羞恥心は開き直れていないわけで。


 だから、今日という今日こそは。

 僕は姉さんを説得し、もう少しぐらい甘さ控えめ大人の味わいな散歩をしようと思っているのである。
 
 固く、かたーく、思っているのである。



 ……そう考えて、もう数えるのも馬鹿らしくなるぐらいの失敗をしてるのには、都合よく目をつぶって。



「弟くーん♥ お散歩に行きますよー♥」


 そんな決意を固めているうちに、本日もやって来た二人のお散歩時間。

 姉さんは触角を喜びでフリフリさせながら、両手をおっきく広げて僕を抱っこしようと迫ってくる。

 いつもなら僕も姉さんに抱きしめられ、そのまま抱っこちゃん状態でお散歩に連れてかれてしまうのだけれど。

 ところがどっこい、今日の僕はいつもの甘ちゃんな僕とは違うのだ。


「はーい、姉さんストップ」


 こっちにニコニコと近づいてきた姉さんを片手で制止し。


「あのね、姉さん。今日は散歩の前に大事なお話が――」
「弟くーん♥」


 片手で制止し――


「あのね、大事なお話が――」
「お散歩にー♥」


 片手で制止し――


「お、おはなし――」
「行きますよー♥」


 ――駄目だ、止まらない……。


 まったく僕の言うことに気付かず、ドレスさながらの美麗な鰭をはためかせ、ゆらゆら近寄ってくる姉さん。

 このまま捕まってはいけないと、僕は姉さんと一定の距離を保ったまま後ろに移動していく。


「弟くーん♥」
「姉さーん?」

「弟くーん♥」
「姉さーん?」

「弟くー……んー?」


 いつまでも僕のことを抱きしめられないことに、超のんびり屋さんな姉さんでもようやく気付いたようで。

 微笑を浮かべたまま首をかしげ、しげしげと僕を見詰めている。


「あれー? どうして弟くんに追いつけないのかなー?」
「それは、僕が姉さんから逃げてるからね」
「……? どうして弟くんがわたしから逃げてるの……?」
「あ、いや……」


 しまった……いくらマイペースな姉さんだからって、僕が逃げてるなんて言ったらショックを受けてしまうかもしれない。


「違うんだ姉さん、別に僕は姉さんが嫌だから逃げてるとかじゃ――」
「あ、そっかぁ」


 慌てて僕が口を開きかけたところで姉さんは、手をポンと叩き。



「弟くん、お姉ちゃんと追いかけっこしたいんだぁ♥」



 ニッコリ、とっても素敵なスマイル&とっても素敵な勘違い。

 思わず僕は天井を仰ぎ、口からブクブクと泡を吹く。



「いやね、姉さん。それはまた違うから僕の言うことを聞いて――」
「うふふー、待ってー♥ わたしの、かわいい、弟くーん♥」
「あーもー、やっぱり聞いてなーい」


 再び姉さんは両手をおっきく広げて、僕を抱っこしようと迫ってきて。
 これはもう退避しかないと、僕はついに姉さんから背を向けて、家の外へと泳ぎ始めた。


「弟くーん、待ってー♥」

「待たないよー、姉さーん」

「うふふ、うふふふふー♥」

「あはは、あはははははー」


 満面の笑みと乾いた笑い。

 ゆらゆら泳ぐ姉さんを時々振り返りながら、陽光がきらめく大海原を、すいすい泳いでいく。

 姉さんは僕を後ろから追いかけ、ゆらゆら、すいすい。

 ゆらゆら、すいすい。ゆらゆらすいすい。

 ゆらゆらすいすい、ゆらゆらいちゃいちゃ。

 ゆらゆらいちゃいちゃゆらゆらいちゃいちゃゆらゆらいちゃいちゃゆらゆらいちゃいちゃ。

 途中で僕らが既に超絶イチャついてることに、海底の岩を嫉妬で噛み砕いているマーシャークさんのおかげで気付き。

 ついでにこのままだと、日が沈むまで姉さんと追いかけっこをするだろうことにも気付き。

 固かったはずの僕の決心も、根元からポッキリと折れてしまったところで。

 観念した僕は、くるりと姉さんに向き直ると。



「つーかまーえたー♥」
「つーかまったー」



 こっちもおっきく両手を広げて、姉さんの柔らかな身体を抱きとめた。

 胸に押し付けられた巨大なふにゅふにゅを堪能しながらも、がっくりと首を後ろに垂らせば、今日も僕らは海の注目の的。

 きゃーきゃーというメロウさんたちの楽しそうな悲鳴が耳に届き。

 脇を泳いでいく魚たちの口からは、まるでツバを吐くかのように、水がぴゅっと吐き出されていった。

 あぁ、今日も見世物状態確定か……段々慣れてきちゃったのが悲しいなぁ……。



「わたしの、ものー♥」
「姉さんの、ものー」



 最高にご機嫌な姉さんの声と、気が抜けたような僕の声が、水中を漂うように伝わっていく。

 今日も僕の吐いたため息は、大きな泡になって海面へとプカプカと浮かんでいき。

 姉さんの吐いた泡はたくさんのハート型になって、僕の泡にキスをするようにつついていき。

 僕ら二人の泡はパチンと、軽い音を立てて弾け、また水に溶けていった。
















 おしまい♪
18/02/03 18:39更新 / まわりの客

■作者メッセージ
中々思うようにSSも書けず、年始は高熱で死にかけ、こんな有様です。
コメントの返信やら何やらは気長にお待ちいただけると幸いです。
ついでにザラメ感覚のSSをどうぞです、はい。

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