読切小説
[TOP]
火鼠の皮衣と愚者
 雑然とした料理屋の中には、人々の猥雑な話し声が響いていた。商人や人足、小役人達が酒を飲みながら飯を食っている。酒や肉汁を口からこぼしながら、彼らは遠慮なく騒いでいた。
 料理屋の隅では、三人の男が飯と酒を前に話をしていた。話している男は豚肉料理の喰らいながら酒を飲んでいるが、聞き手の二人の男は酒にも料理にも手を付けない。話し手を注視しながら聞いている。
「場所は分かった。だが見たのが二月前だと、今はいないかもしれない」
 聞き手の男は、なまりのある話し方をした。
「そうでもないさ、一年前からその付近の者は見ている。大方、奴らの交易に使う道なのさ。火鼠と一緒にいた奴は、荷を積んだ牛を引いていた」
「また、通ると言うのか?」
「ああ、間違いなく通るね。俺は旅をしながら物を売るのが商売だ。同類の事は分かる」
 人と魔物が同類なのか?と言いそうになったが、黙った。目の前の男は、火鼠を直接見た男だ。今まで火鼠の話をした者達は、皆また聞きだった。この話し手は、貴重な話し手なのだ。
 話を聞き出すと、聞き手の男達は話し手の男に金を渡して料理屋から出た。今度こそは、火鼠を捕まえる事が出来るかもしれない。その為に、わざわざ大陸まで渡って来たのだ。火鼠を探索してもう三年になる。話を聞き出した男は、雑踏の中を歩きながら無言で呟く。
 今度こそ火鼠を手に入れなくてはならない。私の転落のきっかけになった火鼠を。
 かつて東にある島国の右大臣だった男は、暗い眼差しで前を見据えながら心の中で呟き続けた。

 火鼠の目撃された場所は、都の西南にある山地だ。男は、そこへ行き探索するための準備を従者達と行う。地図を入手し、現地に詳しい者の話を聞く。これから冬になり厳しい寒さが予想されるために、厚い毛の服を用意する。靴も雪に備えた物とする。金は、都にいる祖国の者から用立ててもらっていた。
 男は、八人いる従者達を見渡した。かつてこの大陸に船で渡って来た時は、十四人いた。自分を見捨てて逃げ出す者が出た為、八人しかいない。
 男は、思わず自分の境遇を嗤う。見捨てられて当たり前だな、女にたぶらかされて失脚した挙句、有るか分からぬ火鼠の皮衣を求めて大陸まで来て三年も放浪するのだから。
 男は、自分の転落の有様を思い出していた。

 男は、西方に住む者から「霧の大陸」と呼ばれる所からさらに東の海にある島国の者だ。かつて男は、その島国の大官だった。国を二つに分ける大乱の際に、勝者の側に付く事により出世の道が開けた。彼は、帝から信任されて、国政を左右する右大臣の地位まで登る事が出来た。
 重臣はおろか帝の一族までもが、彼に恭しい態度を取った。彼の一言で国政は動き、万の人間が駆けずり回る。彼は、大陸から渡った絹服を金銀の装身具と共にまとい、大陸の最新の流行を取り入れた豪邸で山海の珍味を食す日々を当たり前のものとして受け取った。一人の女にたぶらかされなければ、今もその生活を続けていただろう。
 女は、ある成り上がり者の老人の養い子だ。天の者と噂されるほどの美貌を持ち、都の貴公子たちの羨望の的となった。彼らは、競い合ってその女を求めた。
 男は、初めは笑ってまともに取り合わなかった。少しばかり顔の良い娘が、成り上がり者らしく豪勢に着飾っているだけ。そう笑っていた。だが、ある遊び人の手引きによりその女を盗み見て、男は考えを変えた。変えざるを得なかった。完全と言う言葉が合う冷ややかな美貌を持ち、涼しげな眼差しを辺りに注ぐ。漆黒の髪と玲瓏な美貌は、青白い月の光を思わせるものだ。これでは天の者と噂されるはずだと、納得せざるを得なかった。
 男は、その女に求婚した。国を動かす権力を持つ自分の申し入れを断るはずがないと確信していたのだ。だがその女は、自分を手に入れたければ証を示してほしいと要求してきた。女の要求は、「火鼠の皮衣」を手に入れる事だ。
 火鼠とは炎を纏う鼠の魔物であり、その毛皮は火にくべても燃えないと言われている。無茶としか言いようのない要求だ。火鼠とは大陸にいると言われる魔物であり、男の居る島国では存在しない。それどころか、大陸にも本当にいるか分からない存在だ。その皮衣をどの様にして手に入れる事が出来ると言うのだ?
 だが、男は諦めなかった。右大臣たる自分ならば可能だと信じたのだ。様々な書を読んで火鼠の皮衣について調べ、莫大な財を投じて探索させた。何年もの年月を費やした後、大陸の商人からついに火鼠の皮衣を手に入れた。
 喜び勇んだ男は、火鼠の皮衣を持って女の家に持って行った。それに対して女は、相変わらず冷ややかな態度を崩さなかった。女は無造作に皮衣を火に投じ、燃えないはずの皮衣は燃え上がった。この時の事を男は忘れる事が出来ない。愕然としてふらつきながら女の家を出る男の背に、女の涼やかな笑い声が浴びせられたのだ。
 この事をきっかけに、男の転落は始まった。世間の者は、右大臣たる男を露骨に嘲り笑い始める。自分の意のままに動いた者達は、男を相手にしなくなる。こうしているうちに右大臣として職務を行う事が不可能になり、男は失脚した。
 男は、邸宅の奥の部屋に引きこもりながら考えた。このまま終わるのか?女に惑い、権力を失い、帝どころか下々の者にまで嗤われて終わるのか?
 男は決意する。火鼠の皮衣を手に入れよう。その為に、私は大陸へと渡る。私を嘲り笑った者達に、火鼠の皮衣を突き付けてやる。
 男は、大陸に渡る船に乗り込んだ。臣下の者達は付き従う事を嫌がり、わずか十四人しか従者はいない。その従者も大陸に渡った後で逃げ出し、今では八人しかいない。男は、執念を糧に火鼠の皮衣を探して広大な大陸を歩き続けた。

「ミウシ様、馬を九頭手に入れました。いずれも山地に向いたものです」
 馬を求めて市場へ行っていた従者が、男に報告する。
「よし、ご苦労だった。では明日にも出立する。準備を終え次第、休息を取って明日に備えよ」
 従者は一礼して下がる。彼は、ミウシと呼ばれた男に付き従う数少ない者だ。
 ミウシは、宿の窓から火鼠が見つかったと言う西南を見る。その眼差しは暗い熱を孕んでいる。
 あの女は、私が大陸に渡る時には帝に求愛されていた。今頃、妃の座に収まっているのかもしれない。だが、そんな事は最早どうでもよい。あの女を手に入れる気は無い。ただ、火鼠の皮衣を手に入れて、奴らに叩き付けてやりたいだけだ!それが出来ねば、私は負け犬のままだ!
 ミウシは、殺意さえ孕んだ眼差しをして西南をにらみ続けた。

 ミウシ達は、火鼠が出る山地へと入り込んで一月になる。山地を通る街道沿いに拠点を定めて、街道を通る人々を監視しているのだ。彼らの拠点近くの街道で火鼠が歩いていたという目撃証言があるのだ。街道は人が住む邑を繋いでいるが、魔物達も使う事がある。山の中に魔物達の隠された邑が有り、彼らは街道に入って人の住む邑へ行き商取引をするらしい。
 この一月にわたってミウシ達は街道を監視し続けているが、魔物の影は無い。外れだったかとミウシは苛立つ。これで何度目の外れか数えたくもない。引き上げる事を考えていたある日、従者から魔物らしき一行が通っている事を報告された。
 すぐさま街道を見渡せる草の影に潜み、街道を通る一行を注視する。確かに、獣の手足や尾を持つ娘達が四人ほど歩いていた。魔物達は大陸では、人を装う事もあれば魔物の姿で人前に出る事もある。目の前にいる彼女達は後者だ。
 ミウシは、四人の中の一人を執拗に見つめる。その娘は、手足と尻尾が炎に包まれていた。にもかかわらず、苦痛の表情は浮かべずに歩いている。赤い服を着ているが、その服は炎に触れても燃え上がらない。これほどに奇怪な事が起こっているのにもかかわらず、他の魔物達は気に留めている様子はない。炎に包まれた娘は、鼠のような丸っこい耳を頭に付け、細い尻尾を持っている。
 間違いない、火鼠だ!ミウシは、体が震える事を抑える事が出来ない。自分の人生を狂わせたものが目の前に現れたのだ。
 ミウシは、緊張で震えそうになる声を抑えながら従者達に捕獲のための指示を始めた。

 ミウシ達は、先回りして岩の影に隠れた。火鼠達の一行が近づいて来るのを気配を殺して待ち構える。岩の前を火鼠が通り過ぎる瞬間に、ミウシと従者達は一斉に器に入れた水を浴びせた。
 火鼠は悲鳴を上げて水から逃れようとするが、九人の者に囲まれて水を浴びせられた為に防ぐ事が出来ない。残りの三人の魔物は慌てて剣を抜くが、ミウシ達は棍棒で打ちかかり叩きのめす。火鼠は炎が弱まり力の衰えた様子を見せたが、従者達に打ち掛かっていく。その速さは人間離れしたものだ。兵士として訓練を受けている従者達を、拳と足を繰り出して打ち倒していく。
 ミウシは、火鼠の後ろに回り込む。火鼠が従者二人の攻撃を防いでいる隙に、頭へ棍棒を振り落す。鈍い音が響き、火鼠は地に膝を付く。すかさず従者達は、火鼠に棍棒を叩き込む。
 荒い息をつきながら、ミウシは倒れた火鼠を見下ろす。弱まった炎が火鼠の手足を覆っている。ミウシと火鼠の周りには、三人の魔物と五人の従者が倒れていた。

 ミウシ達は、大陸を支配する国の都へ向って歩いていた。都には入らないが、その近くにある邑に祖国の者がいるのだ。そこで帰国の準備を行う。
 ミウシ達は、火鼠を初めとする魔物を連行していた。どの魔物も娘であり、捕えてみると弱く見える。だが、魔物はいずれも人間離れした力を持っており、気を抜く事は出来ない。
 火鼠は、手足と尾の毛皮を水で濡れた状態にしている。毛皮の炎によって、火鼠は格闘家としての力を発揮しているのだ。水で毛皮を濡れた状態のままにしておかなくてはならない。
 火鼠は震え続けている。濡れた服は脱がして着替えさせたが、毛皮は濡れたままなのだ。もし、捕えたのが雪の降り始めた後ならば、火鼠の体には凍傷が出来るだろう。ミウシは内心安堵した。毛皮を手に入れるのだから凍傷を気にする必要は無いかもしれないが、少女にしか見えない火鼠に凍傷を負わせる事は気が引けた。
 他の三人の魔物娘も連行していた。目的は火鼠だけなので必要は無いのだが、逃がしたら仲間を連れて火鼠を取り返しに来るかもしれない。だからと言って口封じに殺すのは後味が悪い。それで火鼠と共に連行する事にしたのだ。祖国の者のいる建物についたら引き渡し、そこで働かせればよいだろう。
 ミウシは自分の甘さを笑う。火鼠からはさっさと毛皮を剥げば良い。他の魔物娘は殺して隠せば良い。なぜ、こん棒で殴った傷の治療してまで、わざわざ連れて歩いているのだ?ミウシは自分を笑いながらも、魔物娘をこれ以上虐げたくはなかった。
 まあ、甘いのは自分だけではない。ミウシは魔物娘を見てそう思う。捕獲の際に五人の従者を倒されたが、死者も重傷者もいない。火鼠は急所を外して従者を倒したし、剣をふるった魔物娘も従者を損壊していない。魔物娘を尋問すると、西方から取り寄せた魔界銀で出来た剣で切ったそうだ。魔界銀で出来た武器は、衝撃を与えるが殺しはしない。魔物達は、わざわざそのような物を使っているのだ。
「私達をどうするつもりなの?」
 火鼠は、か細い声でミウシに尋ねる。
 ミウシは、無視して答えない。まだ、祖国から離れた大陸にいるのだ。余計な情報を与えない方が良い。
 火鼠は力なくうつむく。毛皮から発する火を消されると、火鼠は別人のように気弱になる。オドオドと人の顔を窺う様子からは、兵士たる従者達を蹴倒した雄姿は窺えない。水で濡れた毛皮は白くなっており、赤かった髪の毛までが白髪化している。小娘呼ばわりする事さえ不適切なほど弱々しい有様だ。
 ミウシは、自分の股間に力が入っている事を意識した。火鼠の炎は、人の戦闘意欲を掻き立てる。そして火鼠を倒した者の情欲を煽る。ミウシは火鼠の体を見た。小柄だが、引き締まった健康的な体をしている。むき出しの手足は官能的でさえある。顔立ちは整っており、可愛らしい造りだ。悄然とした火鼠の態度は、嗜虐心を掻き立てる。
 従者の前で、この少女を犯すわけにはいかない。ミウシは、性欲をごまかすために大股で歩き始めた。

 ミウシ達は、都の東にある邑の中にある邸宅に入った。そこは、祖国が外交のために使う施設の一つである。かつては大官だったミウシは、その建物を使う事が出来た。そこで祖国に戻る手はずを整える。
 ミウシは、都に入る事は避けた。大陸の実権は皇太后の手にあり、彼女は密告制度による恐怖政治を行っている。その殺戮の中心となっているのが都だ。出来る事ならば入りたくはない。
 祖国へ戻る準備をしながら、ミウシは祖国の事を思い出していた。思い出すのは、政敵であり同じ女へ求婚した男の事だ。
 その男は皇子であり、巨大な権力を持っていた。先の大乱の際に勝者側に付かなかったために冷遇されたが、下積みを重ねて確実に上ってきた男だ。策略を巡らす事でも知られている。
 その男は、ミウシの転落のきっかけとなった女に求婚していた。その皇子に女が要求したものは、蓬莱の玉の枝だ。蓬莱とは、不老不死の仙人たちが住むと言われる伝説の島だ。その島では、根が銀、 茎が金、実が真珠の木の枝が生えているという。その枝を自分に差し出す事を、女は求婚を受け入れる条件としたのだ。
 皇子は、まともに探し出して手に入れる気などなかった。職人達に偽物を作らせて女に持って行ったのだ。その詐術は、報酬をもらっていない職人達の訴えで露見した。
 その皇子は、ミウシ同様に笑いものとなったが失脚はしなかった。その皇子は、法と官僚制の整備の仕事をしている。整備しながら、国を動かす制度を私物化していったのだ。その為に皇子を失脚する事を免れ、逆に政敵達を落とし入れていった。ミウシの失脚も、その皇子の暗躍が原因の一つだ。
 ミウシが大陸へ出立する頃、皇子は国史の編纂の仕事に携わっていた。自分の都合のいいように編纂をするつもりだろうと、ミウシは考えている。見た目は蓬莱の玉の枝の偽物の様に立派だが、所詮は捏造、改竄された物だ。そんな物が、祖国の歴史として伝えられていくのだ。ミウシとしては笑うしかない。
 私は、そんな男達がいる国へ戻るのだ。何のために?自分を笑った連中を見返すためだ。火鼠の皮衣を手に入れた事をきっかけにして、政治の世界へ復帰するためだ。私は、あの皇子よりも上に立つのだ。
 ミウシは楽しげに笑った。その笑いには力が無かった。

 ミウシは、一刻も早く祖国へと出立したかった。だが、出国を協力してくれる大陸の役人が捕えられてしまい、出国の日が伸びてしまった。その役人はある高官に繋がる者であり、皇太后の配下の酷吏に高官が捕らえられた事により連座して捕まったのだ。
 ミウシは、大陸の他の役人と連絡を取りながら出国の手段を探るがうまく進まない。ミウシは、大陸の現状を溜息交じりに考えた。
 皇太后は、皇后だった頃から実権を握っていた。夫である帝が死ぬと、息子を帝に仕立て上げて傀儡とする。密告制度を設けて酷吏を使い、皇族や高官一族、それらに連なる人々を始末してきた。現在も皇太后の巻き起こす殺戮の嵐が、都を中心として大陸全土を吹き荒れている。
 今、一つの噂が囁かれている。皇太后は、自分が帝になるつもりであると。大陸では、女が帝になる例は無い。皇太后は、その前代未聞の事をするつもりだと噂されているのだ。大量殺戮は、皇太后が帝になるために行っていると囁かれている。
 醜いな、ミウシは吐き捨てるように呟く。祖国も大陸も、人による醜行が繰り返されている。どちらも無価値だ。
 ミウシは嗤う。私には、彼らを責める資格など無い。私自身が醜行を繰り返してきたのだ。
 ミウシは、祖国で起こった大乱の事を思い出した。帝が死んだあと、その息子と弟が帝の地位を争って内戦を引き起こしたのだ。ミウシは、弟の方に味方をした。その内戦で、ミウシは全身を血で染めた。敵を殺しただけではない。敵になる可能性のある者、裏切る可能性のある者、戦に消極的な者、それらの者を殺す際に巻き添えにした者、彼らの血でミウシは染まった。
 内戦は弟が勝ち、ミウシは出世する事が出来た。内戦後もミウシは醜行を続ける。邪魔な者を罠にかけて次々と始末し、その成果により右大臣まで登る事が出来た。右大臣になってからも、自分の地位を脅かす可能性のある者は始末してきた。
 ミウシは敵の策略により失脚したが、それはミウシがやって来た事と同じだ。ミウシが失脚したのは自業自得だ。それなのに、今になって他人の行為を醜いなどと言える立場にはない。
 私は何をやっているのだろうな。ミウシは力なく笑う。
 ふと、ミウシは魔物の事を思った。奴らは人間のように醜悪な事をするのだろうか?

 ミウシは、火鼠を監禁している部屋に入った。火鼠の毛皮は水で濡らしており、炎は消えている。だが、念のために手足には鎖を付けている。
 ミウシが入ってきたのを見て、火鼠はおびえた表情をする。無言のまま自分を見続けるミウシを、火鼠はこわばった表情で見つめる。
 ミウシは、無言のまま火鼠の胸を掴む。声を上げてもがく火鼠を取り押さえて、小ぶりな胸を揉みしだく。そのまま服を引きはがしていく。
 ミウシは、火鼠に対して情欲を感じていた。火鼠の炎を見た時から、火鼠に襲い掛かりたかった。文献には、火鼠の炎を見て、かつ火鼠を倒した者は強い情欲を覚えると記してある。だが、従者の前で火鼠を犯すわけにはいかない。邸宅に監禁した後も、小娘を犯す事に罪悪感を覚えたミウシは我慢してきた。だが、もはや限界だ。
 ミウシは、火鼠の頬に舌を這わせる。顔をそむける火鼠の顎を掴み、舌を頬から首筋へと動かす。そのまま鎖骨へ、胸へと唾液を塗りこめていく。小ぶりの胸に顔を埋めて、匂いを嗅ぎながら舐め回す。胸を唾液で汚しつくすと、右腋の匂いを嗅ぎ、舌を這わせる。身をよじる火鼠を組み伏せながら、腋を凌辱し続けた。
 ミウシは男根を取り出すと、火鼠の小さな顔に押し付けた。もがく火鼠の鼻を掴み、無理やり口を開かせる。顔同様に小さい口に男根をねじり込み、前後に動かす。涎を垂らして呻き声を上げる火鼠を、ミウシは男根で嬲った。
 ミウシは、長く耐える事は出来ずに精を放つ。火鼠の口の端からは、白濁液が沸き上がるように溢れ出す。咳き込む火鼠に構わずに、ミウシは精を流し込み続ける。ようやく射精が終わり男根を引き出すと、火鼠の口からは精液が刺激臭と共に飛び散った。
 ミウシの男根はいまだに萎えず、天を向いて反り返っていた。唾液と精液にまみれた男根を、火鼠の小さな胸のふくらみに擦り付ける。桃色の乳首と乳白色の肌が、赤黒い肉の塊に蹂躙される。男根にねばりつく汚液が少女の健康的な肌を汚し、臭いを付けていく。
 ミウシは、火鼠の胸から男根を離す。火鼠の右腕と右肩を掴み、男根を右腋に擦り付ける。腕を締めさせて、男根を腋に挟ませた。ミウシは、そのまま男根を前後に激しく動かす。火鼠の挟む事の出来ない小ぶりの胸では、男根への刺激は物足りないものだ。格闘で鍛えた腋に挟むと、男根を高ぶらせる刺激が味わえた。
 腋への蹂躙をしばらく楽しむと、ミウシは火鼠をうつ伏せに押し倒して四つん這いにさせた。尻を掴んで腰を上げさせて、尻の穴と女陰をむき出しにさせる。女陰を右手でまさぐると、薄い陰毛が愛液で濡れ濡っていた。手に付いた愛液を舐め取ると、ミウシは男根で引き締まった尻を嬲る。男根の先端からあふれる先走り汁を、白い尻に塗り付けていく。尻を嬲りものにした後、ミウシは男根を女陰にのめり込ませた。
 ミウシは、獣の交わりの様に四つん這いの火鼠を後ろから責め立てた。尻を掴み、男根を奥へと突き進める。奥に硬い輪の様な物があるが、子宮の入り口である事が分かる。その輪を繰り返し突き上げ、攻め立てる。かすれた声を上げる雌の鼠を、雄の獣が唸り声を上げながら犯す。
 雄獣は、何のためらいも無く中へと子種汁をぶちまけた。汚精が、小動物の子宮を汚す。長い射精に雄は震え、雌は痙攣する。雄と雌の結合部から、濃厚な臭気を放つ白い子種が音を立ててあふれ出て来る。雄が男根を抜くと、女陰からは白濁液がしぶきを上げて飛び散った。
 女陰は、白濁液だけではなく赤い物でも汚れていた。白い液に赤い液が混ざり合っている。ミウシは、自分が処女を蹂躙した事を自己嫌悪と満足の中で噛みしめた。
 ミウシの目に、うつ伏せになっている火鼠の顔が入った。その顔には奇妙な笑みが浮かんでいる。その笑みの意味は、ミウシには分からなかった。

 凌辱をする事で性欲を収める事は出来た。だが、残ったのは空しさだ。ミウシは、ぼんやりと火鼠を見つめている。考える気力は湧き起こらない。
「君は、私をこれからどうするつもりなの?」
 火鼠は、ミウシの顔を見ながら訪ねる。
「東にある島へ連れていく」
 ミウシは、隠すことなく答える。隠す気力がなくなっていた。
「私を玩具にするために?それとも売り飛ばすの?」
「お前の毛皮を欲しがっている女がいるのだ、鈴麗」
 火鼠の名は鈴麗と言う。ミウシが尋問した時に、隠すことなく答えた。
「私の毛皮を珍しがって手に入れようとする者の話は聞いたことがある。それで、君は引き換えに何を手に入れるの?」
 虚ろなままミウシは、女への求婚とその女の要求の事を話す。
 鈴麗はじっと聞いていたが、やがて小さく笑う。
「つまらない女を好きになったものだね。そんな下らない要求をする女に何の価値があるの?仮にその女を手に入れたとしても、女は君を絞りつくそうとするよ」
 鈴麗の毛皮と髪は白くなっており、戦っていた時の力の張りつめた様子は無い。だが、瞳は真紅のままであり力を失っていない。
 ミウシは笑う。鈴麗の言う通りだとミウシは認める。既にミウシはその女への熱は冷めており、女の程度は分かる。鈴麗の言う通り、その女は男を貪るあばずれだと理解していた。
 もしかしたらその女は、自分の周りから男を全て排除するために、男から収奪しようとしているのかもしれない。だとしても、男にとっては無価値な女だ。
 鈴麗をあの女の前に連れていったらどうなるだろうか?ミウシは鈴麗を見ながら思う。自分の求めたのは火鼠の皮衣だ、火鼠ではない。火鼠から皮衣を剥がせ。そう言い出すかもしれない。あの女なら言いかねない事だ。実際に、あの女に破滅させられた男もいるのだ。龍の首の珠を要求されて海で遭難した挙句に失明した者、燕の生んだ子安貝を要求されて転落死した者などがいる。
 女の中には残酷さを誇らしげにひけらかす者がいる。あの女はその類かもしれない。ミウシは、陰鬱な思念に浸る。ミウシが自分を転落させた女と共に思い浮かべたのは、自分が今いる国を恐怖で支配する女の事だ。
 大陸を支配する皇太后は、自分が皇后へのし上がった時に前の皇后と妃を殺した。その殺し方は尋常ではないものだ。棍杖で百回打ち据えて血みどろにすると、手足を切断して酒壺に放り込んだのだ。前皇后と妃は、酒壺の中で何日も泣き叫びながら死んでいったそうだ。
 全ての女が醜悪な性根を持っているわけではないと、ミウシは思う。だが人面を持ちながら、獣に例えると獣に失礼なほど残酷な性根を持った女がいる事は確かだ。私の求婚した女やこの国の皇太后はその類だ。ミウシは苦さを噛みしめながら考える。
 もっとも男の中にも獣以下の性根の男はいる。ミウシは、蓬莱の玉の枝の偽物を作らせた皇子を思い浮かべた。皇子は、自分の企みを露見させた職人達を袋叩きにした。世間一般では、それで皇子の報復は終わったと思われている。だが、その続きがある事をミウシは調べていた。
 職人達は、皆が不審な死をとげているのだ。ある者は崖から落ち、ある者は川で流され、ある者は家が焼け、そしてある者は食事中に倒れた。金を貰えば何でもやるごろつきが職人達の周りをうろついており、皇子の配下の者がそのごろつきに接触した形跡があるのだ。
 祖国の男だけではない、今いる国の男も同じだ。ミウシは、酷吏達の事を思い浮かべる。皇太后の配下である酷吏の大半は男であり、彼らは残虐さを競い合っていた。酷吏の代表格とみなされる男は、帽子の形をした鉄の器具を使い頭を砕く拷問をする事で知られている。目の前で人の頭が砕かれる様を見せ付けられ、脳味噌のこびりついた鉄の帽子をかぶせられると、容疑者は小便を漏らしながら酷吏の望む事を「自白」するそうだ。
 男も女も関係ない、獣以下の者達が世の隅々まで徘徊しているのだ。ミウシは、自分の思念に押しつぶされそうになりながら考える。人の顔をした怪物が自分を取り囲んでいるような気がして、ミウシは息苦しさを覚える。
 ミウシは、引きつるように笑い出す。鈴麗は目を見張ってミウシを見つめるが、ミウシは気に留めずに笑い続ける。私が人を責められる立場にある訳ないだろう。獣以下の事をしてきた私が。
 ミウシは、自分の出世のきっかけとなった大乱の時の事を思い出す。ミウシは、脱走を図った兵を見せしめの為に切り殺し、その屍をさらした。その兵は用役に動員されていた農民であり、戦が始まった為にミウシが無理矢理兵にしたのだ。家族を抱えたその農民は逃亡しようとし、ミウシは農民の抗弁を聞かずに切り殺したのだ。
 私は獣以下だ。現に鈴麗を犯した。言い訳など通用しない。他人を獣以下と責める資格など無いのだ。ミウシは自分を嗤い続ける。
 私が国へ戻って何になるのだ?今更どうなると言うのだ?ミウシには、国へ戻る理由が分からなくなってきている。だが、この国にとどまる理由も見つからない。目の前の火鼠を見ながら、嗤い続ける。苦労を重ねて火鼠を見つけたが、いったい何の役に立つと言うのだ?ただ、犯すためにだけいるという訳か?
 いつまでも陰惨に笑い続けるミウシを、魔物の娘は無言で見つめていた。

 ミウシは、帰国のための準備に没頭していた。外交に携わる役人と交渉し、大陸にいる祖国の者達と連絡を取り合う。必要な書類を記入し、提出先を調べる。火鼠を移送するために必要な物を揃え、港町に使いを出して帰国に必要な船を手配する。帰国の準備に没頭しなければ、自分を見失いそうだった。
 ミウシは準備をする中で、自分の迷いを振り払おうとする。私は火鼠を手に入れたのだ。後は帰国して、私を笑った奴らに火鼠を見せ付ければよい。あの女は、火鼠を見せ付けた後は無視する事にしよう。当然、皮衣を差し出すつもりは無い。見せ付けるだけだ。後は、火鼠を連れて詐欺師の皇子の所へ行くのも良い。ついでに、蓬莱の玉の枝の偽物を作らせた職人を奴が殺した事を都中に触れ回ってやろうか?
 女などいらない、政治への復帰も諦めた。どちらも私には、今更必要ない。ただ、私を笑う奴らに負けたくないだけだ!
 ふと、気配がおかしい事をミウシは気が付く。邸宅の中がやけに静かなのだ。人の立てる気配が感じられない。ミウシは剣を手に取り、部屋から廊下に出る。
「誰かいないのか!」
 ミウシの誰何に応える者はいない。
 ミウシは剣に手を掛けて、じっと気配を探る。異常事態が発生している事は明らかだ。
 右の部屋から、赤い光が踊り出て来た。その者は、手足を炎に包まれて赤色に染まっている。ミウシの捕えた火鼠、鈴麗だ。気弱な表情は消え、好戦的な顔をしている。
 ミウシは剣を抜き、鈴麗に向けて構えようとする。鈴麗は、構えを取らせずに踏み込み蹴りを放つ。後ろに下がって避けようとするミウシを、鈴麗は追い込みをかけて蹴りを放ち続ける。構えを取る事が出来ずに、ミウシは後ろに下がり続ける。ただの蹴りならば剣で薙ぎ払える。だが、鈴麗の蹴りは炎に包まれているのだ。
 ミウシは、廊下を照らす燭台を鈴麗に向けて蹴り上げた。鈴麗が無造作に振り払うわずかな隙に体勢を建て直し、剣をふるう。剣をふるいながら、一室に飛び込む。その部屋は、事務仕事をする一室だ。追いかけて飛び込んでくる鈴麗に対して、ミウシは硯や花器、書類などを投げつける。ミウシはそうして鈴麗の注意を逸らしながら、一つの物を手に取る。
 ミウシは水差しを取り、中の水を鈴麗に振りかけた。水が弱点である火鼠は、とっさに後ろへ飛び退り体勢を崩しかける。ミウシは、鈴麗を突こうと剣を構えながら駆ける。
 ミウシは、後頭部に衝撃を感じた。足がふらついて、地に崩れ落ちる。ミウシの意識が急速に働きを止めていく。
「本来ならば、私一人で相手をするべきだね。だが君は、集団戦と不意打ちが好きみたいだ。君の作法に従う事にしたよ」
 闇の中へと沈んでいくミウシに、鈴麗の得意げな声が聞こえた。

 ミウシが拠点とする邸宅は、魔物娘達の襲撃を受けた。鈴麗達をさらわれた魔物娘の邑は、捜索達を組織して行方を探り続けた。誘拐現場に残された痕跡や、付近で見つかったミウシ達の宿泊跡、街道沿いの人々の証言、街道沿いに残された痕跡からミウシが拠点とする邑を探り当てた。そこからはすぐに事は進んだ。街道沿いの人々の証言から、東の島国の者だと分かる。邑内で東の島の者が住む所は限られる。鈴麗の囚われている邸宅は特定された。
 邸内に侵入して図面を作成し、鈴麗達の居場所も特定する。その後、ミウシ達が帰国の準備に忙しい隙を見て急襲したのだ。鈴麗と囚われの魔物娘達は救い出され、ミウシを初めとする下手人達は連行された。
 邑内の役人達は、外交問題になるとあわててミウシ達を探し求めた。だが魔物娘達は、ミウシ達と違い痕跡を残すような事はしない。すぐにも役人達の捜索は暗礁に乗り上げた。役人達は都へ報告したが、都はあまり捜索に協力しなかった。皇太后の恐怖政治で都は混乱しており、また都から見れば東の島国など所詮は辺境の小国に過ぎない。
 邑内の役人や都の役人の中には、犯行は魔物の手によるものと察する者もいた。彼らは、ミウシ達の捜索を打ち切るように動いた。役人の中には、魔物娘達と密かに関わりがある者が多いからだ。
 大陸にいるミウシの祖国の者達も、すぐに捜索を打ち切った。彼らにとっては、ミウシは権力闘争に敗れた者であり、お荷物に過ぎなかった。
 こうして魔物娘達は、悠々とミウシを攫っていった。

 その邑は、山の中に隠れる様にあった。街道から半日ほど山の中に入った所にある。山肌に隠れた盆地の中にあり、稲作を行う中心に邑はある。山肌が防壁になるため、邑の周りには低い柵で囲っているだけだ。
 邑から外を見渡すと、刈り入れの終わった稲作地が広がる。また、牧畜を行うための広い牧草地も見る事が出来る。邑の中は、建物が適度に整然と並んでいる。猥雑さはあるが不潔さは無い。街路には、多くの人々が歩いていた。
 ただ、人々と言っても普通の邑とは違い、様々な姿をした者達が歩いている。ある者は狐の耳と尻尾を生やし、またある者は虎のような毛皮で手足を覆っている。男は人と同じ姿をしているが、女は人とは違う姿の者が多い。
 邑の中の道を二人の男女が歩いていた。男は普通の人の姿をしているが、女は手足を炎で覆っている。女には鼠のような耳と尻尾が付いており、尻尾も炎で覆われている。彼らはミウシと鈴麗だ。邑の警備のために見回りをしているのだ。
「さすがに一年経てば暮らしにも慣れたようだね」
「まあな」
 鈴麗の言葉に、ミウシはそっけなく答える。
 ミウシは邑に連行され、住むことを強要された。ミウシは鈴麗のものとされたためだ。罪を償うために、被害者である鈴麗のものとなる事が相応しいと見なされたのだ。ミウシは、鈴麗の命令の下で邑の警備の仕事をさせられている。
「あのまま大陸中をさ迷うよりは、この邑で暮らした方が君にとってはマシさ。それに、君の国に戻っても碌な事にはならないだろうね」
 鈴麗の言葉に、ミウシは答えない。その通りだと思うが、わざわざ鈴麗に言うつもりは無い。大臣から転落した挙句が、魔物の住処の見回りをして暮らすわけか。笑うしかないな。ミウシは、声を出さずに笑う。
「まあ、住めば都さ。十年もここに住めばそう思う様になるね」
 鈴麗の言葉を聞き流し、ミウシは欠伸をする牛を眺める。この邑から逃げるつもりは、ミウシには無い。虐待されるような事は無いし、第一、今更どこへ行く当てもない。祖国へ帰っても、自分を歓迎する者など一人もいない。
 結局、私は意地を張っていただけだ。転落した屈辱から、無駄なあがきを続けていただけだ。女も権力も意地も、ここに至っては意味が無い。
 ミウシは鈴麗を眺めた。体は小柄で、顔に化粧気は無く、肌は日に焼けている。だが生命力あふれる体を持ち、生気を満面に表わしている。覇気はあるが残酷さは無い女だ。男を破滅に追いやる隠花植物の様なあの美女とは違う魅力がある。
 これはこれでいいかもしれない。そう思うが、口に出す気は無い。
 ふと、美女に求愛して無様に失敗した自分たちの顛末を、どこかの文士が物語に仕立てるかもしれないと言う妄想がミウシに湧き上がった。あの詐欺師皇子は、歴史の捏造、改竄に励んでいるだろう。それに反発した反骨気取りの文士は、自分たちの顛末を笑い話に仕立て上げて皇子を嘲り笑うかもしれない。
 ミウシは、声を上げて笑う。せいぜい笑い話にするがいい。あの皇子も私も、笑われて当然の者だ。それに、人を笑っていられる内が幸せなのだ。自分が笑われる番になって、果たして自分も笑えるものかどうか見物だ。
 突然笑い出したミウシを、鈴麗は驚いたように見る。だが、すぐにやれやれと言った顔でたしなめる。
「君が突然笑い出すのは珍しくないし、この邑の人も慣れている。でも、恥ずかしい事には変わらないのだからね」
 ミウシは構わずに笑い続け、邑内の道を進む。私の人生は笑い話として終わるだろうが、せいぜい私も笑う事にしよう。困った顔で付いて来る鈴麗を連れて、ミウシは笑いながら歩き続けた。
14/11/20 20:41更新 / 鬼畜軍曹

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33