読切小説
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山あり谷あり
おとぎ話の勇者に憧れない男の子はいないだろう。
大人数の軍隊を容易く蹴散らし、美しいお姫さまをさらって閉じ込める悪の魔物。
そんな魔物に単身で挑み、打ち倒し、お姫さまを救い出す勇者。
勧善懲悪で誰一人批判することのない完璧なストーリーだ。

幼い頃は自分もそういった勇者に憧れた。
様々な本を読んでは、自分も勇者になってこういう冒険をしてみたいなあ…と思った。
そして十年近く経って唐突にその夢が叶ったのだが――――心底後悔した。

確かに剣一本で巨大なドラゴンと戦う勇者の姿はかっこいい。
だがそんな風に感じられるのは、本の外という安全な場所から眺めているからだ。
『じゃあ実際に剣を持ってドラゴンに挑んでこい』なんて言われたら、
99%の人間は『命が惜しい』と言うだろう。

農夫の息子として、争いと縁遠く日々平和に暮らしていた自分。
それが何の呪いか、前触れもなく勇者に選ばれて、力を与えられてしまった。
(天使や教団関係者に言わせれば祝福らしいけど)

本当に最初のうちは嬉しかった。男子ならば誰でも憧れる勇者になれたのだから。
しかし天使から新たな勇者の誕生を告げられ会いに来た教団の者を前にしたとき、
自分の喜びは不安と恐怖へ入れ替わった。

勇者は主神から力を与えられる。
何のために与えられるのかといえば、それは当然魔物どもと戦うため。
平凡な農夫として一生を過ごすはずだった自分は、
勇者として、教団の聖なる戦士として、命懸けの戦いを突如義務づけられたのだ。
これが呪い以外の何だっていうんだ?

命が惜しい自分は。教団の者が新米勇者の検分に来たとき言った。
“自分に戦いなどとても務まりません”と。
しかしお偉いさんの返答は硬く冷たいもの。
“君は神に選ばれたのだ。その運命から逃げるなど許されない”
そう言って、勇者を辞退することを却下した。

教団の者が帰った後、自分は両親にも胸の内を明かした。
“命懸けの戦いなんてしたくない。勇者なんて辞めたい”と。
血の繋がった家族で、まだ未成年である息子の訴え。
父も母も同情的になり、慰めの言葉をかけてくれた。
しかし「父さんも口添えする」とか「逃げてもいい」なんてことは決して言わなかった。
栄光ある勇者に選ばれた息子が、命惜しさに逃げ出したなど知れれば村八分にされかねない。
自分もそれは分かっていたが、やはり両親のそういう言葉が欲しかった。



当然と言えば当然だが、人口が多い地域ほど勇者が誕生する確率が高い。
中には神と人の都合で勇者産出国になっている所もあるが基本はそうだ。
自分が住んでいる国は教団の勢力圏内だが、総本山からは遠く離れ人口もそう多くない。
先輩勇者など近くにおらず、自分の訓練は軍所属の兵士や魔法使いが相手をしてくれた。

勇者ということで親元から離され、王城付属の施設で過ごす日々。
剣など一度も握ったことがなく、魔法の“まの字”も知らない自分だが、
勇者の力のおかげで基礎能力だけは常人を遥かに超えるレベル。
訓練を始めて三ヶ月もしたころには(力任せとはいえ)教官たちにも完勝できるようになった。
その報告を受けた教団のお偉いさんは、ついに魔物の討伐を自分に命じた。
場所はこの国の西、中立国家との境界に面する森の中。
木々を分け奥深く入った場所には、小さいながらも拓かれた魔物の集落があるのだという。
発見して数年来、いまだに被害報告はないが、付近の住人の不安の種になっているそうだ。

「―――よって勇者モゲロよ。罪無き村人たちが心安らかにあれるよう、
 部隊を率いて、森の深奥に潜む魔物どもを抹殺するのだ!」
昔見たおとぎ話の中よりは質素な謁見の間。
自分は床に片膝をついて、王様の近くに立っている教団のお偉いさんの話を聞く。
拳を握って熱く語るお偉いさんとは裏腹に、事なかれ主義の王様はあまり乗り気でない。
『新米勇者にはまだ早い』と収めてくれないかな…と自分は期待する。

「王よ。昨今の情勢、国の守りを疎かにできぬことは私も知っている。
 しかし魔物を発見して以来、数年の時が過ぎた。
 力を蓄えた魔物どもがいつ蜂起するか分からないのだ。
 この国に勇者がいる今こそが、討伐の好機ではないか?」
討伐を渋る王さまに“今がチャンス”と出兵を促すお偉いさん。
兵に被害が出るのは嫌だが、教団の意向を完全に無視することもできない。
ひっそり暮らしているなら見逃そう…という考えの王様は困った顔。

表向きはともかく、実際には魔物の集落は発見しだい即殲滅というものではない。
もちろん未来永劫そのままにしておくわけにはいかないが、
人里から遠く、ほとんど干渉してこないなら、機会あるまで放置するのが一般的。
『村人が襲われた』という訴えでも出ない限り、積極的に戦いはしない。
何故なら、兵士の敵は魔物だけではないからだ。
国同士の関係というのは友好国がいつ敵対国になっても不思議ではない。
国内の魔物を全滅させたけど、訓練を積んだ兵もいなくなりました、では困る。
そのため教団は自前の兵や勇者を各地に派遣し、その国へ魔物討伐の協力をさせる。
教団兵や勇者は士気も能力も高く、共同して戦えば国兵の損耗も抑えられる。
普段は魔物討伐に乗り気でない王たちも、こういう時は良い機会だと助力を惜しまない。
そしてこのお偉いさんは『勇者がいるのだから戦うべきである』と主張しているのだ。

「しかし司教殿、勇者モゲロはまだ未成年……言ってしまえば子供です。
 実戦に出すのは、一人前の男となってからの方が良いのでは?」
王様は自分の期待に応え『まだ様子見するべきだ』とお偉いさんに言う。
だが、お偉いさんは鼻で笑うように息を吐き(相手は王様なのに!)、
自慢話でもするかのように、遠い地の事を語り出した。

「教団第二の国レスカティエ。その名は王もご存じであろう。
 もちろん辺境のこの国とは規模も環境も違うので単純には比べられぬが、
 その国の勇者たちは未成年の女子であろうと勇敢に戦っている。
 彼より年下の、それこそ童と呼べるような少女であろうとだ」
だから時期尚早ということはないのだ…とお偉いさんは王様にプレッシャーをかける。
全く、不祥事でこんな地図の端っこの国にとばされて来たくせに、よくそこまで偉ぶれるものだ。
……いや、それとも不祥事を起こしたからこそか? 
自分が有名にでもなったら『ワシが育てた』とか主張して権力の座に返り咲くつもりなのかも。
聖職者の服を着た欲ボケのおっさんに負けないでくれよ…と自分は心の中で王様を応援する。

「……分かりました。そうまで言うのなら、勇者モゲロと兵に討伐の命を出しましょう。
 出発は一周間以内にさせます。それでよろしいかな?」
面倒なことになった…と言いたげにお偉いさんの要求を飲む王様。
“いや、もうちょっと粘ってよ”と思ったが、王様が許可してしまえばもうどうにもできない。
『話はお終いだ』と退出を促された自分は謁見の間を後にするしかなかった。

ガタン、という謁見の間の扉が閉まる音。
背後からしたそれは、自分の内に重々しく響く。
廊下に出た自分は顔を隠すように右手をあて、嘆きに息を漏らす。

なんてこった……。まさかこんな突然に実戦の機会がやってくるなんて。
自分は訓練を積みはしたが、所詮は三ヶ月程度で模擬戦闘。
本気で命をやりとりする覚悟なんて欠片もない。
自分が死ぬのはこの上ない恐怖だし、
魔物であっても他者の命を奪うことには強い抵抗を感じる。
だが、今更になって逃げ出したりなんてできない。
そんな事をしたら故郷の両親がどんな仕打ちをされることやら。
自分は何度もため息を吐きながら、訓練場へ向かって足を進めた。

『悩みができた時は、とにかく剣を振る。そうすれば自然と解決策が浮かんでくるんだ』
そう教えてくれた教官の教えに従い、人気の無い訓練場の隅で自分は素振りをする。
ヒュッ…ヒュッ…と剣が空気を切る音。
三ヶ月前と比べてずいぶん変わったその音に腕の上達ぶりを感じるが、
とても自分の命を預けられるようには思えない。
解決策なんて何一つ思い浮かばず、自分は素振りの腕を止める。
するとタイミング良く声がかけられた。

「おお、ここにいたかモゲロ。話はこっちにも来たよ。とうとう実戦に出るんだって?」
片手を上げて寄ってくるのは一部隊の隊長にして剣の教官。つまり自分の師匠。
この人は荒くれ者の多い兵士の中にあって、物腰の柔らかい良い人だ。
初めてここに来た時、どんなシゴキを受けるのかとビクビクしていた自分。
そんな自分に優しく話しかけてくれて、丁寧かつしっかりと剣の扱い方を教えてくれた。
勇者であることを重荷と感じていることも見抜き、それでも糾弾せず励ましてくれた。
もしこの人がいなかったら、自分は立場の重さに精神を病んでいたかもしれない。

隊長の言葉に“はい…”と重々しく自分は頷く。
すると彼はポンと肩を叩いて話し出した。
「緊張するな、恐れるな……とは言わない。俺だって初めて実戦に出る時はそうだったんだ。
 ましてやお前さんは望んで戦士になったわけじゃない。勇者の力があったって心は一般人。 
 怯え、恐がり、不安に思うのは当然だ。恥じることなんてない」
恐いのが普通なんだ…と、隊長は自分の弱さを認めてくれる。
事態は何も変わらないが、その言葉で心が少し軽くなった。

「お前は勇者だが、これが初陣だ。華々しい活躍なんてする必要はない。
 それに俺や部隊の奴らも同行するから、出来る限りフォローする。
 お前はとにかく生き延びることを考えて戦えばいい」
敵を倒すために戦うのではなく、自分が生きるために戦う。
その心構えがあるだけで、生存率が違うのだと言う隊長。
お偉いさんが聞いたら『勇者がそんなことでどうする!』と立腹しただろうが、
自分にとってその教えは、確かな指針になってくれた。

「まあ最悪の場合、俺たちが盾になってでもお前は助けるよ。
 お前は勇者、今はコレでも将来は世界を救う英雄になるかもしれないんだ。
 『勇者モゲロの命は諸君らの命より優先される』なんて言伝してきたんだぜ、司教サマは」
そう言って隊長は皮肉げに笑う。
兵士一人一人にだって家族はいて、亡くなれば悲しむ者がいるのだ。
薄汚い我欲で『勇者のため犠牲になれ』と簡単に命令するお偉いさんに腹が立った。

……大丈夫です、自分はしっかり戦います。だから全員無事に帰りましょう。
誰かを犠牲にして生き延びたらお偉いさんの思惑通り。
むかっ腹な自分は“そうはさせるか”と怒りにまかせて強く言い切る。

「……そうだな、全員無事が何よりだ。
 よしっ! 景気づけにいっちょ打ち合いでもやるか!」
重い話はここまでと、練習用の武器を取りに行く隊長。
自分もグッと拳を握ってその後を追った。



魔物が潜む森に入って1日と1/4日ほど。
森に慣れた地元民の先導に従い、魔物集落のすぐ近くまで自分たちは来た。
覚悟を決めたつもりだった自分も、間近に迫った戦いの時に体が緊張する。
隊長はそんな自分に苦笑いを向けると『深呼吸でもしろ』とアドバイス。
草木の香りが充満した空気を吸うと、ほんの少しだけ楽になった気がした。
ぎこちないながらも隊長に笑みを返したとき、先行して偵察していた兵士が戻ってきた。

「戻ったか。敵さんの様子はどうだ?」
「はい。我々の接近には気付いていないようで、全く無警戒で外へ出ています。
 また、見たところ防御柵など襲撃への備えなどもなく、簡単に攻め込めると思われます」
偵察兵は『容易く攻撃できそうだ』と隊長に伝える。
隊長はその報告にこちらを見ると『行くぞ』と言うかのように頷く。
自分もそれに頷き返すと、ゴクリとつばを飲み込んだ。

可能な限り気配を殺して村へ近づく自分たち。
木々の遮蔽がある程度減り、魔物たちの住居が目前にくると、
隊長は剣を抜いて掲げときの声を上げる。
兵士たちもそれに応えて雄叫びを上げると一気に村内へと駆けて行った。

突然あがった声に畑に種を蒔いていた魔物は顔を上げる。
そして自分たち武装した兵士を目に捕えると―――なんと種もみを放り出して走りだした。

「ヒャッハーッ! 人間が来たぜーっ! 皆リチ様の所へ急げー!」
敵が来たと大声で叫びながら、道を走って一目散に逃げ出す赤い魔物。
その声を聞いた魔物たちが、次から次へと家の扉を開いて外へ駆けだしていく。
てっきり襲いかかってくると思っていた自分は呆気にとられた。

「ボーッとするなモゲロ! 追うぞ!」
が、隊長の鋭い声が意識を戦場へ引き戻す。
そうだ、ここは敵の本拠地なんだ。余程のことがない限り放棄するはずがない。
今逃げている魔物も、身を守るため距離を取ったにすぎないのだ。
一瞬頭によぎった“魔物が全員逃げ出せば戦わずに済むな…”という考えは甘すぎる。
魔物のセリフからして“リチ様”とかいう奴が有事の指揮者なのだろう。
今逃げる魔物もリチ様の元に集えば、魔物の兵として反撃に転じるはずだ。
それまでに一人でも多く減らさなければならない……! のだが。

「モゲロ出すぎだ! 俺たちと行動しろ!」
土剥き出しの道路を先頭に立って自分は走る。しかし後方から隊長が制止の声を放った。
魔物の身体能力は人間と比べて高い者が多い上に、日常生活を送っていた魔物たちは軽装。
隊長以下、完全武装の兵士たちでは追いつけなかった。
腐っても勇者である自分なら武装込みでも追い縋れるが、それだと一人で突出してしまう。
勇者を守る命令も受けている隊長としては、単独で追わせるわけにはいかないのだろう。
自分は指示に従い、速度を落として隊の中に戻る。
……まあ、逃げる魔物に追いついたとしても、
その背に躊躇いなく剣を振り下ろせるか甚だ疑問なので良かったのかもしれない。

逃げる魔物を追った自分たちは、やがて開けた場所に辿りついた
小さいながらも館と呼べる建物とその前に広がる空白地帯。
ここはおそらく村の中央広場とかそういう場所なのだろう。
放射状に繋がっている他の道からも魔物がやって来て、館前の集まりに加わっていく。
隊長は隊を一旦停止させると呼吸を整えさせた。
そして館前で人だかりになっている魔物たちを怪訝そうに観察する。

あいつら……何のつもりなんでしょうね?
「……俺にも分からん。敵が迫ってるのに迎撃準備しないなんて初めて見る光景だ」
そう、村中から集まって来た魔物たちだが、彼女らは隊列を組むだの、
武器を用意するだのといった“戦いの準備”を全くしようとしないのだ。
魔物たちは『ファラさま早くきて〜早くきて〜』と館へ呼びかけたり、
こちらを見ながら数人で顔を合わせて笑ったりと、まるでパーティか何かのような雰囲気。
突撃しようにも、ある種の異様さに罠を警戒してしまう。

そのまましばらく睨みあい(?)をしていると、館の玄関が開いて歓声があがった。
そして人垣を分けて五人の魔物が姿を現す。
人垣を構成しているゾンビやスケルトンと比べて違うオーラを纏わせている魔物たち。
この村の上位者と見受けられる。

一人は長い髪に金属鎧をまとった女騎士の風情を漂わせる女。
一人は一瞥して異民族と分かる褐色の肌をした杖持つ女。
一人は死人の白肌にローブ一枚を羽織った露出狂のような姿の少女。
一人は地に足をつけずフヨフヨと宙に浮く青白い顔の幽霊少女。
一人はマントと見違えそうな色合いの翼を持つ高慢そうな顔つきの少女。
きっとこの中の誰かが“リチ様”や“ファラさま”なんだろう。

鎧を着た女が、ローブの少女に何か話しかけると、彼女は首を横に振った。
そして褐色の女に口を開くと、その女は首を縦に振って前へ歩み出る。
会話ができるぐらいの距離まで近づくと、その女は足を止めて言葉を発した。

「兵士諸君、初めてお目にかかる。妾の名はファラ。ここの村長代理をしている者だ」
魔物たちが登場を待ち焦がれていたファラという名の魔物。
彼女は村長代理という地位に似つかわしくない口調で話す。
「一応確認のために訊くが、そなたらは我らを討伐に来たのか?」
訊くまでもなく自分たちの武装を見れば分かると思うのだが、彼女は念を押して訊いてきた。
隊長は自分たちの代表として、その問いに答えを返す。

「その通りだファラとやら。無駄だと思うが一応こちらも通告しておく。
 抵抗せず大人しくしていろ。そうすれば苦しまないように死なせてやる」
人間同士なら命を保証すると言うのだろうが、魔物相手にそんな事は言えない。
苦痛を感じないように殺してやるのが精々だ。

「ふぅむ……そうは言うがの、どうやって妾たちの命を絶つというのじゃ?」
隊長の通告を受けたファラは特に怒りもせず訊き返してくる。
一目見れば分かるが、この広場にいる魔物はゾンビなどのアンデッドだらけ。
死なすも何も、とっくに生きていない。

「……訂正する。苦しまないよう終わらせてやる。だから抵抗はするな」
律儀に言い直す隊長。
それに少し困った様に息を吐いてファラは言う。
「そう言われても、大人しく終わらされてやるつもりはないのう。
 それより――――我らの姿を見てみよ」
ファラは両腕を広げて、背後にいる魔物たちを示す。
すると魔物たちは笑顔を浮かべたり投げキッスをしたりと、いかにもなアピールをしてきた。
……何のマネだいったい。

「自慢するわけではないが、みな美しい姿をしておろう?
 一人の男として、彼女らを終わらせるのは惜しいと思わぬか?
 そなたらが剣を捨てるならば、我らはその全てをもって愛し抜くぞよ。
 どうじゃ? 我らの夫となり愛と快楽に満ちた日々を送る気はないかのう?」
どんな神経をしてるのか、殺しに来た相手にファラは裏切りをそそのかす。
しかし自分たちは寄せ集めの傭兵ではなく、国に所属する正規兵だ。
あまりの劣勢で敗色濃厚ならともかく、今の状況で“はい、夫になります”などと言う奴がいるわけない。

「言われてみれば少し勿体ないが……魔物は人類の敵だ。
 その提案に頷くのは、国だけじゃなく全人類への裏切りになる」
勿体ないという事は認めつつも、魔物は不倶戴天の敵であると言い切る隊長。
提案を完全に拒否されたファラはやれやれ…と肩をすくめる。
「まあ、さして期待はしてなかったが……やはり残念よの。
 妾もただの言葉では意思を反すことはできぬか」
彼女はそう一人ごちると“言葉”を発した。

『我らを魅力に思う者は剣を捨てよ。そして地に膝をつき、兜を外すのだ』

心を直接殴りつけられたような衝撃。
最高位の精神魔法を受けたらこんな風に感じるのだろうか。
彼女の言葉通りにしなくては…という衝動が湧き上がり、自分は頭を押さえてよろめく。
“迷うことはない、彼女に従え”“それが何よりも正しいことじゃないか”
まるで幼い頃から教え込まれた常識のように、自然と跪づこうとする肉体。
自分は頬の肉を噛むことでその制御を取り戻す。
そして“なんて恐ろしい魔物だ…”と思いながら顔を上げた自分は、衝撃の光景を目にした。

なっ…! 隊長! みんな! しっかりしろ! 正気に戻ってくれ!
自分以外の全員。
魔法に疎い一般兵から、抵抗力が強いはずの魔法兵まで、
部隊全員がファラの言う通りにしていた。
誰も彼も偉大な王に謁見するかのように片膝を土につけ、大事な頭を守る兜を外して地に置いている。

冷静に考えてみればおかしいことはないのだ。勇者の自分でさえ屈しそうになった精神攻撃。
訓練しているとはいえ常人の彼らが抵抗できるはずがない。
正気を保っているのが一人だけという状況に恐怖を抱きながら、自分は剣先をファラに向ける。

おい! みんなを元に戻せ!
そんなこと言ったって敵が戻すはずないが、お決まりのセリフを口にしてしまう自分。
しかしファラはそのセリフをバカにするでもなく、不思議そうに首をひねる。

「む? そなたは妾の言葉に従わぬのか?」
意外や意外と疑問を浮かべるファラに、後ろからやってきたフード少女が答える。
「ファラさま、魔力の感じからして彼は勇者のようです。
 常人よりも遥かに強い抵抗力のために、あなたの命令が効かなかったのでしょう」
詳しく調べずとも“魔力の感じ”だけで勇者だと見抜くフード少女。
その眼力で相当な力量を持つ魔法使いだと分かる。

「お下がりくださいファラさま。命令に従わない上に勇者とあれば危険です」
鎧を着た女騎士が剣を抜いてファラの前に立つ。
見た感じ腕は太くないが握る剣はかなりの肉厚。
その腕力は外見と一致しない強さであろうと想像がつく。

「その通りですファラさま。こんな貧弱そうな勇者に貴女が傷付けられるとは思いませんが、
 万が一があれば大事。王を護るのも貴族の務め、ここは私とユラにお任せください」
マントに似た翼を持つ高慢そうな少女。
彼女は細い剣を抜き女騎士(ユラという名前らしい)と共にファラの壁になる。
しかし王とか貴族とか、もしかしてこいつらはかなりの大物なのか?
確かに精神攻撃といい、勇者と看破した眼力といい、これが一般的な魔物の強さとは思えない。

「うわー、イアちゃんかっこいー! 貴族が板についてきたねー!
 もうただの村娘だったとは思えないよっ!」
「なんでバラすのぉぉっっ!? せっかく口上キメたのにぃぃっっ!!」
フワフワ浮いている幽霊少女。
彼女にイアと呼ばれた高慢(推定)少女は正体をばらされた途端、情けない悲鳴をあげる。

―――その瞬間、自分は無詠唱かつノーモーションで撃てる火球を数発放った。
本来なら驚かせる程度の威力しかない魔法だが、
勇者の力で底上げされている自分の魔力なら牽制程度の殺傷力にはなる。
先制攻撃で怯んだところに突っ込んで、一気にカタを付ける。
五対一という戦力差で勝つにはそれしかないと、乏しい戦術知識で自分は考えた。
しかし。

「ちょっと、危ないじゃないのーっ!」
幽霊少女がブンと手を振ると火球と同じ数の光弾が放たれ、対消滅してしまった。
跪く兵たちの間を駆けようとした自分は足を止めて憎々しげに幽霊少女を睨む。

今の攻防で幽霊少女の技量も僅かながら理解できた。
彼女は同じ威力の魔法をぶつけて相殺したのではない。
打ち消しの魔法を使って火球を無効化したのだ。
ただの相殺と魔法の無効化。
結果は同じだが、それを一瞬で行う難度は段違いだ。

「不意打ちとはな……。卑怯とは言わないが、それが勇者の戦い方か?」
皮肉げに言うユラはすでにファラの前に立って火球をカバーできる位置にいた。
きっと不意打ちが成功していたとしても、彼女なら冷静に反撃してきたに違いない。
命拾いしたとも言えるが、自分はますます窮地に追い詰められた。

「ユラ、イア、コス。その男を拘束して。
 せっかくの勇者なんだから、実験に使うわよ」
フード少女がそう指示を出すと、イアと幽霊少女(こいつがコスか?)がにじり寄ってきた。
しかしユラはそうせずに、フード少女に向かって口を開いた。

「リチ様、ここは私に任せてもらえないでしょうか。
 こういった類の男は心を折ってやらないと反抗的になります。
 私が正面から叩きのめして、己の貧弱さを思い知らせてくれましょう」
なんと一対一で戦うと言うユラ。だがフード少女…リチは首を横に振る。

「必要ないわ。そんなことしなくてもすぐ「まあ、良いではないかリチどの」
ユラの案を却下しようとしたところで、ファラが口をはさむ。
「ユラも戦士、勇者という得難い敵が目前にいるのだから手合わせを望んでも仕方あるまい?
 ここはどうか妾の顔を立てて……な?」
微笑みを浮かべて頼むファラにリチは『仕方ないか…』と了承の意を返す。
そしてイアとコスを下がらせてユラを前に出させた。
自分も兵たちの隙間を縫うように進み出てその前に立つ。

剣の稽古のように一体一で向き合う自分とユラ。
他の四人は後ろへ下がってその様子を眺める。
ユラは初めて剣を構え、その隙の無さに彼女の腕前が自分よりも上であると察する。
なのでこちらからは仕掛けず、防御重視の構えを取ることにした。

「……付け焼刃だな、おまえ。たいして訓練を積んでいないだろう」
リチのように剣の腕前を見抜く眼力。やはり彼女は戦士として相当な技量のようだ。

「試しに軽く打ってやる。ちゃんと防げよ」
そう言うとユラは細剣を振るうかのように、重い剣を横薙ぎにしてきた。
“試しに軽く”と言うだけあって、防御は間に合いその一撃を剣で受け止められた。
しかし腕力と剣自体の重さが相まって、ズザッ! と靴底を滑らせ後退してしまう。
実戦において格好の隙。だが彼女は二撃目を打ち込むことなく剣を構え直す。

「流石にこの程度は防げるか。じゃあ次だ。どこまでいけるか見てやる」
ご丁寧なことに段々ハードルを上げてやると宣告するユラ。
冷たい汗と熱い汗を同時にかきながら、自分は再び防御の構えをとる。
模擬戦で受けた隊長の剣とは、重さも速さも全く違うユラの一撃。
しっかり地面を踏みしめなくては剣圧を受け切れず転倒させられかねない。
自分は内心慄きながら剣の柄を強く握った。

宣告した通りユラは段々と力や速度を上げていった。
打ち込みも単発ではなく二撃三撃と続けるようになり、いつしか実戦の切り合いに。
しかし実力が拮抗しているわけでもない自分とユラの戦いはこちらの防戦一方だ。
反撃の目を完全に捨て、防御に徹していなければとうにやられていただろう。
もっともこのまま守り続けていても彼女を倒すことはできない。
今は耐えられても、いずれ防ぎ切れなくなって致命的な一撃を貰うのは確実。

自分は切り札を切る覚悟を決め、ユラの一撃をあえて弱く受けた。
すると当然ながら剣圧で足元が滑り隙ができる。
彼女はトドメを刺すつもりか、追撃の突きを放ってきた。
自分はそれを――――下からの切り上げで弾く!

「なっ……!」
防戦一方だった相手に剣を跳ね上げられてユラは驚愕の表情。
その隙に自分は踏み込み、剣を持つ腕を狙って一撃。
これは手甲の厚い部分で流されたが、間髪入れずに二撃目に移る。

「っ……! おま…えっ…!」
突如覚醒したかのような自分の動きにユラは初めて防御に回った。
そして追い詰められたような顔でこちらの剣をひたすら防ぐ。
周りからは自分と彼女の立場が逆転したように見えるだろう。

タネを明かせばこれは奇跡でも秘められた力でもない。
強化の魔法で身体能力を上昇させただけだ。
ただし使ったのは一般的に使われるノーリスクの強化魔法ではなく、
あまり好まれない……いわゆる反動が来るたぐいの身体強化。
強化率は桁違いとはいえ、本音は自分だってこんな魔法使いたくない。
だが、いざという時“死ぬよりはマシ”という覚悟で使おうと習得しておいたのだ。
そしてたった今それを勇者補正のかかった魔力で自分の肉体に使用した。
その結果は見ての通り。

戦士の技量で相当に上を行くユラを、付け焼刃の技と力任せの動きだけで圧倒している。
もう彼女は剣だけでは防ぎ切れなくなり、あえて鎧で受けるようにもなった。
一番最初、試しに放たれた横薙ぎの斬撃。それをそっくり返すように自分は剣を横に振る。
彼女は剣を立ててそれを受けようとするが、
渾身の力を込めた一撃は剣をその手から弾き飛ばす。
宙を舞う剣を瞳に映し“信じられない”といった顔をするユラ。
“これでトドメだ”と返す剣でその首を刎ね――――ようとした瞬間、
自分はとてつもない悪寒と嫌悪に手を止めてしまった。

「……どうした。私の首を落とさないのか?」
剣を失った時点で敗北を認めたのか、刃を首に当てられても彼女は取り乱さなかった。
ただ、寸止めするような動きでなかったのに、なぜ剣を止めたのか疑問に思っているようだ。
自分は剣を握る腕に力を込め、細い首を切り裂こうとする。
しかし腕だけが石像になったようにピクリとも動かない。
その理由は……分かっている。

……殺したくないんだよ。
「は? それはどういう――――」
自分は死にたくない! 殺したくもないんだよ!
襲撃者として全く矛盾する言葉を、自分は目の前の女に叩きつける。

魔物は人間の敵だ。
だが人間に似た姿をしていて、人間と同じ言葉を話し、人間と同じように考える。
それを殺すのは人間を殺すのと何が違うんだ?

きっとお偉いさんなら“魔物は人間ではない”と言うだろう。
しかしそれを言うならエルフだって人間じゃない。
エルフと魔物、どちらを殺しても“人間ではない”から罪にならない?
そんなわけがない。エルフを殺せば人間を殺したのと同じに扱われる。

人間とエルフと魔物。
罪になるかどうか決めるのは人間の法だけ。
それを取り除けば命の重さはどれも同じだ。
自分にとって魔物を殺すのは人間を殺すのと変わらない。
そして人間を殺すだけの度胸なんて自分にありはしない。

きっと本物の勇者ならば器用に魔物の命と人間の命を別区分にできるのだろう。
だがそんな器用な真似、自分にはとてもできない。
……自分は勇者でもなんでもなかった。
たまたま勇者の力を得て、周りに踊らされただけのガキだったのだ。

情けないような、恥ずかしいような感情が胸に湧いてきて視界が滲む。
手から力が抜け、首に突きつけていた剣が落ちカタンと音を立てる。
自分は自由になった両手で兜を外すと、それも地面に放り捨てた。
そして土に額が付くように土下座してお願いする。

さっきまでの事は謝ります。
もう二度とこんなことはしませんから、どうか自分たちを帰してください。
自分は死にたくない。しかし魔物を殺すこともできない。
戦うことができない以上、命乞いをして慈悲にすがるしかない。
何ともみっともないが、ガキの自分にできることなんてこれぐらいだ。

「そう言われても私には……ファラさま、どうします?」
権限のないユラは困った様にファラに判断を仰ぐ。
土下座したままの頭に近づく足音が聞こえると、村長代理の言葉が耳に入った。
「そなたにとっては残念じゃが……今更になって解放などできぬよ」
『それはできない』と拒否するファラ。
望みは断たれたか…と自分が諦めの心境に至ったその時――――強化魔法が切れて反動が襲ってきた。

『苦痛』と形容できるレベルの筋肉痛。それが全身のいたる所で発生し、
無呼吸で長距離走をしたかのような息苦しさで、呼吸がゼエゼエと荒くなる。
もう土下座の体勢でなんかいられない。
自分は土の上にゴロリと転がり、痛みと苦しさに顔を歪める。

「お、おいっ! しっかりしろ! 何かの発作か!?
 コス! リチ様! コイツを診てくれ!」
思いっ切り動転したユラの声。
暗くなる視界の中“まさか心配してくれるとは…”と思いながら、自分は意識を失った。



ふっ、と目が覚めて目に入ったのは、そう古くない木の天井。
のそっ…と寝返りを打つと、肌触りの良いシーツと毛布の感触。
窓から入り込む光の角度は昼を過ぎたところだろうか。
自分は何でこんなところで寝ているんだ? とボケた頭で考えた時、
カチャッと木の扉が開いて、スカートを履いた美しい女が入ってきた。

「あ、目が覚めたのねモゲロ。丸一日寝てたから心配したのよ?」
そう言ってトトッとベッドに駆け寄るのは…………たしか、ユラ。
彼女の名前が浮かんだ途端、意識を失うまでの出来事を一瞬で思い出した。

……殺さなかったんだな。
ベッドから身を起こしてユラに言う自分。
彼女はその発言で不快そうに眉を寄せた。
「殺さないわよ。やっぱり貴方も誤解してるのね」
誤解。一体何を誤解しているというのか。
「……あなたは魔物の事をどれだけ知ってる?」
どれだけと訊かれても……不倶戴天の敵で、人間を堕落させたり殺したりするんだろ。
「その前提が間違いなのよ。私たちは人間を殺したりなんてしない。
 大半の魔物は傷付けることにさえ強い拒否感をもつのよ?」
……そう言ってもあんたは完全に殺しにかかってたじゃないか。
打ち合いになってからの剣撃に手加減は一切見られなかった。
まともに食らったら即死か致命的な重傷を負っていたはずだ。

「私の剣は魔界の金属で出来ているから誰も死なないの。
 殺すつもりで打っても軽い擦り傷ができるぐらいよ。
 そうでなければ、とても戦いなんてできないわ」
戦士のたしなみなのか、普段着でも腰に下がっている肉厚の剣。
ユラはそれを抜いてトントンと刃を叩く。
鑑定眼の無い自分にはこれが非致死性兵器には見えないが、試せばすぐばれる嘘をついても仕方ないだろう。
“人間を殺さない”という言については、ひとまず信じても良いかもしれない。
だが“人間を堕落させる”という部分についてはどうなんだ?

「それについては……間違っているとは言い切れないわね。
 でも堕落することの何が悪いの?」
ユラは剣を納めて話し続ける。
「魔物だって主神の教えを何でも正反対にしているわけじゃない。
 私たちの間でも殺人や窃盗は普通に犯罪よ。
 他者に害を与えない限り、あらゆる欲に溺れた生き方を許容する。
 この“自由”を主神側が“堕落”と呼んでいるにすぎないわ」
堕落というのは一方的な見方であり、魔物にとっては自由の別称にすぎないと言うユラ。
たしかに誰にも迷惑をかけないなら何をしたって個人の自由だ。
そう考えてみると、主神の教えは不必要な制限をかけているだけ――――ちょっと待て。

まるで思考が誘導されたような、以前の自分からは出てこない発想。
自分はバシバシと両手で頬を叩いて気を入れ直し、ユラを睨む。

おまえ……何かしただろう!?
思考を弄られた所を見ると、精神に影響する魔法か薬物だろうか。
彼女は己の都合の良い様にこちらの精神を操作しようとしたのだ。
……危なかった。やはり魔物に気を許してはいけない。
自分は心中でそう戒めたが、ユラは『私は何もしていない』と手を振る。

……分かった、おまえじゃなくて仲間の誰かがやったんだな。
コスかリチかそれとも他の魔物か。
何にせよ誰かが自分の精神を「本当に誰も何もしていないわよ」
“操れると思うな”と言い返そうとした自分の先手を取ってユラは恐るべき事実を語り出す。

「この村ね、リチ様の実験で頻繁に魔力が放出されるから半ば魔界と化してるのよ。
 完全に魔界化したわけじゃないから、見た目では分からないけど、
 魔物の魔力がいたるところに充満してる。
 ここにいる人間は何もしなくても、魔力に侵されて価値観が魔物に近づいていくの。
 特にあなたは魔法の反動で抵抗力が弱まっていたから、今更逃げ出してももう手遅れ」
今はまだ平気でも、浸透した魔力が馴染んできたらどこにいても無駄だとユラは言う。

なん…だと……。
魔物の僕になった男性、インキュバス。
人類の裏切り者である彼らは、魔物同様に教団から討伐される。
よりにもよって、そのインキュバスになってしまったのか?

突然勇者にされて命懸けの戦いを強要されたあげく魔物の討伐に失敗して、
教団に槍持ち追われるインキュバスと化した。
本当に何なんだよ自分の人生は……。

あまりに滅茶苦茶な運命に自分は頭を抱えて俯く。もうどうしたらいいのか分からない。
そう悲嘆する自分の両手に、そっと柔らかい手が重ねられる。
顔を上げるといつの間にかベッドに乗っていたユラの顔が目の前にあった。

「そう気を落とさないで。この村はあなたを受け入れるわ。
 私たちと一緒に暮らしましょう? 大丈夫、あなたの仲間もいるから心配は不要よ」
至近距離で見つめながら優しい言葉をかけるユラ。
この先どうするべきかを見失った自分に彼女の言葉は救いだった。
まるで手の平を返すように彼女への感謝と好意の情が湧いてくる。
もしかしすると未来に絶望したせいで、早々に魔力にやられてしまったのかもしれない。
でも、それでも構わないと自分は思ってしまう。

……ごめん、本当に迷惑をかける。
何でもするから、自分をここに置いて欲しい。
弱々しく言葉を発する自分。ユラはそれを否定するように首を振る。

「迷惑なんかじゃないわ。私たちは男の人が大好きなんだもの。
 出て行きたいって言っても逃がさない」
ユラはクスッと忍び笑いをし、トンとこちらを押し倒して上に乗ってきた。
「モゲロ、私はあなたが大好きよ。剣で私を負かした男はあなたが初めて。
 貧弱勇者だなんて言って本当にごめんなさい。
 お詫びと歓迎を兼ねて、私の体で気持ち良くしてあげるわね」
そう言うとユラは腰から下にかかっている毛布を剥いで投げ捨ててしまった。
次いで腰に下げた剣を床に放り投げる。
そして丈が短かめのスカートに手を差し込み、白い下着をスルッと下ろす。
右、左と順に足を動かして薄い布を抜くユラ。
まくれ上がったスカートからは、透明な糸を垂らした女性器が見えた―――って待て!

いや、お詫びも歓迎もいらないから! パンツ戻して! 上どいて!
不意を突いて交わりにもつれ込もうとするユラ。自分はそれを言葉で制止する。
それで彼女は動きを止めてくれたが、むーという顔。

「何で止めるのよ。あなたは私とセックスしたくないの?
 もしかして女に興味無い? だったらリチ様に矯正してもらうわよ?」
不穏な単語が含まれる彼女のセリフ。
別に自分は同性愛者ではないし、最上級の美しさを持つユラは勿体ないほどの相手だ。
しかし(自分の主観で)出会って十数分の相手と肉体関係を結ぶというのは……。

「じゃあ、どのくらい経ったらいいの? 一週間? 一ヶ月? 一年?
 言っておくけど、ここでのあなたの主な仕事は私たちとセックスすることだから。
 三日間も“おあずけ”すれば誰かが犯しに来るわよ?」
セックスが自分の仕事かい……というか私“たち”って?
「あなたが気絶した後、村の皆が兵士たちを一人一つずつお持ち帰りしたのよ。
 でも、私たち……私とコスとイアとファラさまとリチ様の分は残らなかった。
 最後の村人でちょうど終わっちゃってね。
 だから、寝ていたあなたを私たち五人で共有することにしたの」
当人の意志を無視して勝手に決めないでもらいたいが、
行き場の無い自分は“住まわせてもらう”身分。
ここで生きていくなら彼女らの意思に逆らうのは難しい。

……分かった、やるよ。でもヘタクソとか言わないでくれよ? こっちは初めてなんだからさ。
それなりに金はあったが、勇者が“そういう所”へ行けるはずもなく自分は童貞だ。

「そんな事言わないから安心なさい。じゃあ…下を脱いで。 
 上はそのままでいいわ。初めてなら裸になるのは恥ずかしいでしょ?」
なんとも気を遣ってくれるユラ。
自分はその言葉に甘えさせてもらい、ズボンとその下のパンツを取り除く。
下半身丸出しというのはこれはこれで恥ずかしいが、ユラが腰の上に跨り、
スカートで見苦しい物を覆い隠してくれる。

「それじゃあ、入れてあげるわね。ん……っ!」
勃起した男性器の先端。
そこに熱くて濡れた物が当たったかと思うと、一気に男性器全体を覆い尽くしてしまった。
「あはっ…! 入ったわっ! あなたのちんぽ、全部入ったっ!」
声を高くして言うユラはスカートを持ち上げて見せる。
すると布の下に隠されていた彼女との結合部が目に入った。
「ほら、私のまんこ、がっぷり食いついてるでしょう?
 これから、この穴でちんぽをしゃぶってあげるわねっ!」
ユラはスカートを摘まんでいた指を離すと、ベッドに両手をあてて腰を上下させ始める。
遮られた視線の先で繰り返すグチュリグチュリという水音。
それが一度鳴るごとに耐えがたい快感が脳に流れる。
「んっ…いい、顔っ! 気持ち、良いのねっ…!」
息をはずませながら喋るユラ。
呼吸の乱れは運動によるものではなく、興奮によるものだろう。
彼女の方も快感を感じているのだ。

男女だけが互いに与え合うことができる交わりの快感。
自分の脳はすっかりそれに浸されてしまい、快感の頂点を目指して体が準備してしまう。
「もう、射精…する? 精液…出したい? なら、中に出してっ!」
焦点が怪しくなった瞳でユラは膣内射精をねだる。
「孕ませても、いいからっ! あなたの精液……全部、ちょうだいっ!」
ユラが背をのけぞらせ、膣内が一気に締め付けられる。
自分は手足を硬直させ彼女の望み通りに膣へ精液を解き放った。
「んぁぁっ! 出てるっ! 童貞精液出てるぅっ!
 もっと出してっ! 童貞ちんぽで妊娠させてぇぇっ!!」
卑猥な言葉を発しながら絶頂に達したユラ。
普段なら顔を背けただろうが、今の自分には痴女のような彼女がとても愛しく感じられた。

初めての交わりで汗をかいた後。
自分はベッドに寝転がりながらユラと話をする。

……そういえばさ、色々と訊きたいことがあるんだけどいい?
疑問を覚えれば分からない事だらけ。
『答えられることなら』と返したユラに自分は質問をする。

まず訊くけど、ユラやファラとかこの村でどういう立場なの?
他の村人と比べて明らかに目立っていた五人。彼女らはいったい何者なのだろうか。

「そうね、どう話しましょうか……。まずリチ様のことからで良い?」
誰からでも構わないよ。全員説明してくれるなら。
「わかったわ、じゃあリチ様から話すわね。
 リチ様は自身もアンデッドの強力なネクロマンサーで村の村長。
 この村の住人は全員リチ様が蘇らせたものなのよ」
なんと。五人の中では目立たない方だったのに、まさか全ての元凶で村長だったとは。
「リチ様は研究者肌で、権力になんて全く興味を持たない方よ。
 この村を作ったのも実験を繰り返しているうちにアンデッドが増えすぎたから。
 だから村長といっても、指導者的な事はほとんどしていないわ」
なるほど、だから村長代理なんてのがいるわけだ。
「私とコスとイアについては特に語ることはないわね。
 リチ様が作ったアンデッドの中で能力が高かったから、近くに置かれたただけ」
それだけ? 何か話すことはないの?
「何かと言われても……ああ、イアの前で貴族に関することはあまり口にしない方がいいわね」
そういえばコスに言われて叫んでたけど、アレは何なの?
「ヴァンパイアは“夜の貴族”“闇の貴族”なんて言われるでしょう?
 でも彼女、生前は何の変哲もない村娘だったから気にしてるのよ。 
 ファラさまが蘇ってからは名目だけでも貴族の位をもらったけど、
 今でもそこを突っつくと泣いたり怒ったりで情緒不安定になるから」
貴族の位がそんなに大事なのかねえ……。上昇志向の無い自分には理解できないよ。
それで、貴族の位なんてものを与えられるファラさまは何者なのよ。
「ファラさまはこの村の中では新参ね。遥か昔は遠い南方の地で一国の女王をしていたそうよ。
 だから私もリチ様もファラさまには敬意を払っているわ」
女王だって? うーむ、それならあの精神に干渉するカリスマ性も納得できる……のか?
「他の同属は滅んだ王国の末裔に王として崇められているそうだけど、
 ファラさまの国は跡形もなく消え去ってしまったらしいわ。
 だからここで王国を再興する機会をうかがいつつ、皆のまとめ役をしているの」
太古の昔は女王として崇められていたのが、今は集落の村長代理か。
よくそんな待遇に甘んじていられるな。
「ファラさまは偉ぶらない気さくな方よ。村長代理の仕事も楽しんでやっているわ。
 まあ、私たちに関することはこのぐらいかしら。そろそろ起きましょう」
ユラは会話を切ると寝ていた身を起き上がらせる。
自分も脱いでいたパンツとズボンを手にとって穿き直した。

木製の扉についたドアノブを回し、自分とユラは寝ていた部屋から廊下へ出る。
一定の間隔で設けられたガラス窓からは、穏やかな午後の光が差し込んでいた。
静音用のカーペットが敷かれた直線の廊下。
ユラは自分の前に立ち、廊下の先に見える下り階段へと進んでいく。
そして階段まであと数歩というところまで来たとき、ちょうど上がってきたファラと顔を合わせた。

「ユラ、イアがおぬしを探して―――おお、目覚めたかモゲロ!」
彼女はユラの後ろにいる自分を確認すると喜びを顔に浮かべた。
そしてユラの横を回り込んで間近に寄ってくる。

「リチどのが処置をしたとはいえ、中々起きぬから心配したのじゃぞ?
 ああ、無事に目覚めてくれて本当に良かった!」 
こちらの手をギュッと握って、心配したのだと語るファラ。
自分のために気を揉んでくれた事は感謝するが、いきなり親しげに触れられても反応に困る。

あ、いや、心配してくれてありがとうございます……。
滲み出る女王のオーラゆえか丁寧語になってしまう自分。
「なにを言うか。夫の身を案ずるのは妻として当然であろう?」
そりゃあ妻なら旦那さんの……って、自分はあなたと結婚した覚えが無いんですけど。
ユラに“共有する”と言われはしたが、肉体関係と婚姻は全くの別だろう。
「そうじゃな、正確には未来の夫と言うべきか。
 しかし、何にせよおぬしが妾の伴侶となるのは決定済みじゃ。
 女王と交われるのは夫のみと古よりの法で定められておるからの」
そんな昔の法律盾にされても…と思ったが、夫になろうがなるまいがやることに変わりはない。
女王の夫という肩書は意識すれば重いが、実際は交わりの相手を務めるだけのことだ。

分かりました、法律なら結婚します。
でも、女王の夫が他の女とも関係を持って良いんですか?
「構わぬぞ。法には夫の重婚を禁止する項目など無いからの」
流石は昔の法律だ。穴がスカスカすぎる。
現実的には夫が浮気なんて出来なかっただけだろうけど。

「ところでファラさま。イアが私に何か用とか?」
会話の途切れたタイミング。
今までのやりとりを黙って見ていたユラが、そこで割り込んできた。
ファラは握っていた手を離すと、思い出したように話す。

「おお、そうであった。十日前の件でイアがおぬしと話を詰めたいとの事じゃ。
 西外れの倉庫にいるから、早いところ書類を持って行くがよいぞ」
「承知しました。直ちに向かいます。
 モゲロ、悪いけど村の案内は帰って来てから「それなら妾が引き継ぐぞ」
『客間で待ってて』と言おうとしたユラを遮り、『自分が案内する』とファラは言う。

「全く暇というわけではないが、急ぎの仕事もない。
 無知な夫に新天地の知識を与えるのも妻の役目というものよ」
ファラはそう言うと自分の左横に回って腕を絡ませてきた。
ユラよりも大きく露出度の高い胸が左腕に当たり、心拍数が上がってくる。
ユラは自身で案内をしたかったのか少し残念そうな顔をしたが、
『ではお願いします』とファラに頭を下げると、急ぎ足で階段を下りて行った。



玄関扉を開けてまず目に入るのは村の中央広場。
つい昨日、兵士と魔物で睨みあった舞台。
自分の数歩前を歩くファラはクルリと振り向いて口を開く。

「見ての通り、ここが村の広場じゃ。
 昨日の襲撃で分かっていると思うが、道路はここから放射状に伸びておる。
 迷子になった場合は太い道を通れば自然と帰ってこれるぞよ」
『村は狭いからまずないだろうが』と付け加え、ファラは放射道路の一本に歩みを進める。
自分はその後ろをついて歩きながら首を巡らせ、村の風景を眺める。

建ち並ぶ家々の外観は自分の生家とたいして変わらない。
誰が見ても“普通の家”とコメントするだろう。
自分の故郷と違うのはどの家にも小さい畑が付属していることだろうか。
そして反対に家屋が無く、畑だけが広がった場所というものも見られない。
あれほどの狭い畑では、食べていけるほどの収穫は得られないはずだが…?

「我々は田畑の収穫だけで食べているわけではないぞ?
 周辺の森に入れば植物・動物共に食糧となるものは大量に手に入る。
 それに畑は狭いが、収穫量は普通の土地よりも遥かに上じゃ」
ああそうか。この集落は広い森の中にあるから畑以外からも食糧を得られるんだ。
畑だらけだった故郷との違いを実感しつつ歩いていると、やがて村の端の方まで辿りついた。
村端の家にもやはり畑はあり、魔物の虜となってしまった元兵士が耕して……って隊長だ。

慣れない手つきでクワを振り下ろし、土を柔らかくしているのは紛れもなく隊長。
その後をスコップで掘り、窪みを作っているのは赤い姿をした魔物。
どうもその姿に見覚えがあるなあ…と思ったら、襲撃した時、真っ先に出会った魔物だった。
ちょっと話をしようと家へ近づいていくと、クワを振っていた隊長が気付き、むこうの方から寄ってきてくれた。

「おうモゲロ! 目が覚めたか! その感じだと大丈夫みたいだな!」
ええ、村長が色々してくれたおかげで元気ですよ。
ところで隊長がその家の畑を耕しているってことは……。
「ああ、そいつと結婚したんだ俺。いやー、一生独身かと思っていたら、
 こんな良い嫁と出会えるとか、人生って本当に分からんものだよなあ!」
ハッハッハと嬉しそうに笑い声をあげる隊長。
ヒャッハー! と叫ぶ嫁が良い嫁なのかは疑問だが、
人生は分からないという部分には同意する。
しかし隊長は重要な事を忘れているんじゃないだろうか?

隊長はずっと彼女と暮らすつもりですか?
「そりゃ当然だろ。もう別れるだなんて考えられやしないって」
……姪っ子のことはどうするんです?
自分がそう言うと幸せ絶好調だった隊長は途端に真面目な顔になる。

隊長は独身で子供なんていない。
しかし歳の近い兄がいて、そちらは結婚して子供をもうけたそうだ。
ところが不幸な事故で兄夫婦は揃って死去。
唯一残された幼い娘を孤児院に入れたくはないと、
一人身でありながら姪を引き取って一緒に暮らしていると聞いたことがある。

確かに隊長(や部隊の皆)は生きている。
しかし魔物と夫婦になったのではもう家へ帰ることはできない。
兵士が誰一人帰らないとあれば、自分たちは討伐に失敗して死亡したとされるだろう。
誰もいない家で“君の叔父さんは死んだんだ”と告げられる姪のことはどうするのか。

「……俺だってこういう仕事だ。
 信用できる相手に、戦死した場合のことは任せてある」
少なくとも孤児になることはないと隊長は言う。
だが姪っ子は親を再び失うことになるのだ。その心には深い傷が刻まれるだろう。
美しい妻と幸せな毎日を送るのは結構だが、まだ子供の姪を犠牲にしてまでするのか?
自分は部外者だと分かってはいるが、責任感ある隊長がそんな選択をしたことに失望を覚えた。
隊長もこちらの内心を理解したのか、気まずそうに顔をそらす。
そして、重い空気をぶち壊すように隊長の妻が奇声をあげる。

「ヒャッハー! そんなシケた顔してどうしやがった!
 心配事があるなら、アタシに全部話しやがれぇ!」
いつの間にか傍に寄っていた隊長の妻。
本人も一人で抱え込むのは辛いのか、家に残っている姪っ子のことを彼女に話した。

「あー……そりゃ確かにキツイわー。だが気にすることねえぜヒャッハー!
 どうせもう少しすりゃ、この国征服すんだからなあ!」
隊長の妻は聞き捨てならない言葉を吐く。
自分はその発言に驚き、彼女に訊き返す。

ちょっと待ってください! この国を制服って、まさか戦争吹っかける気ですか!?
いくら魔物が人間より強いといってもそれは無謀だ。
村と国では人口に差があり過ぎる。

「ヒャッハー! アタシはともかくリチ様とファラさまをバカにしちゃいけねえぜー!
 水源にばらまく魔力汚染薬なんてとっくに開発済みの量産中よぉ!
 運良く逃れた奴もファラさまにかかればイチコロだぜー!」
ああなるほど、正面から戦うんじゃないわけね。
魔力汚染薬とやらで人間がインキュバス化&魔物化してしまえば、一気に敵が味方に。
何かの事情でそうならない人間がいたとしても、
ファラの一声をあびせれば簡単に降伏してしまうだろう。
そうやってこの国は魔物に征服され、親魔物国家として生まれ変わるわけだ。
姪っ子も魔物と化してしまうが、人目をはばかることなく叔父夫婦と一緒に暮らせる。
隊長も自分と同じ結論に至ったのか、その顔から憂いの表情は消えていた。



一通り村内を回った自分は館へ戻ると、コスやリチとも顔合わせをした。
コスははしゃぎ、リチは静かだったが二人とも自分が支障なく目覚めたことを喜んでくれた。
一日寝かされていた客間が自分の私室として与えられ、夕食までの間おとなしく過ごす。
そしていつの間にか帰ってきたユラが『食事の時間だ』と呼びに来て共に食堂へ向かう。

白いクロスが敷かれた円形のテーブル。
リチとファラは席についていて、コスがいそいそと皿を運んでいた。
イアはどうしたのか…と思ったら、エプロンをつけて厨房で料理の仕上げ中。
その慣れた手つきはまさに『趣味:お料理』の村娘だ。
まあ、それを口にしたら酷い事になるだろうから思うだけにしておこう。



食後の湯浴みというのは気分が良い。
特に今の自分は進軍して汗かいて、戦って汗かいて、ユラと交わって汗かいてで相当ベタベタしている。
温かい湯でそのベタつきを流すサッパリ感といったらもうたまらない。
自分は石鹸で全ての汚れを洗い落とし、風呂桶を逆さにして頭から湯をかぶる。
そしてやや窮屈だが五人は同時に入れそうな浴槽にザブンと沈んだ。
天井付近の魔力光に照らされた広い浴室内は向かいの壁が湯気で霞んで見える。
何を考えるでもなく、ポーッと風呂の心地良さに浸っていると、
前触れもなく風呂の扉が開き、にわかに浴室内が騒がしくなった。

「モゲロさーん! 一緒にお風呂入りましょー!」
水で濡れた石床の上をペタペタッと足早に歩くのはコス。
彼女はタオルをボールのように丸めて左手に握っており、全く肌を隠していない。
あまり熟していない体型だが、それが逆に女の子の可愛いらしさを強調する。

「これコス、浴場で急いではならぬぞ。
 前のように転んで痛い目に会いたいのか?」
小さい子に言う様な口調で注意するのはファラ。
彼女もタオルは手に持っており、見事な体つきを見せつけている。
コスとは肌の色も肉付きも正反対のその肉体。
強烈な女王の色香に水中に沈んでいる男性器が立ち上がってしまう。

「ファラさま、コスに注意しても仕方ありません。
 頭を打っても死にはしないのですから、放っておきましょう」
コスがはしゃぐのはいつものことなのか『構う必要はない』と進言するイア。
入ってきた三人の中、彼女だけは胴体にしっかりとタオルを巻いて大事な所を隠していた。

「ひどーっ! イアちゃんもうちょっと優しくできないのー!?」 
「ちゃん付けを止めるならちょっとは優しくしてあげるわよ。
 というか、私は貴族であなたは平民なんだから少しは敬意を払いなさい」
「イアよ、自ら“敬意を払え”と言うのは貴族に相応しい振る舞いではないぞ」
三人は話しながら近づいてくると、風呂桶で浴槽から湯をすくい体に浴びせる。
そして自分を見てコスとファラは笑みを浮かべ、イアはフンと鼻を鳴らした。

「ちょっと待っててねー、モゲロさん。
 すぐ体を綺麗にするから、そしたらセックスしようね」
そう言うとコスはイスに腰かけ、丸めていたタオルを広げ石鹸で泡立てた。
「待て、モゲロと交わるのは妾が先じゃ。
 他の女と抱き合った直後に夫婦の契りを交わすなど格好がつかぬではないか」
ファラも同じように腰かけると、急いでタオルを泡立てる。
「コス、あなたはファラさまの後になさい。私は一番最後でいいから」
イアも体に巻いていたタオルを外すが、彼女はゆっくりと泡立ててから体を洗う。
コスはイアの援護射撃に不満を表したが『二番目にしていい』という彼女の言葉に不承不承ながらも頷いた。

自分に背を向けて体を洗う三人。
流石に全員が体を洗うまで湯船に浸かっていたのではのぼせてしまう。
自分は湯から上がり、一度腰かけたイスに再び座る。
すると二人が熱い視線でこちらを見つめてきた。

今の自分は彼女たちと同じく、タオルで体を隠していない。
(戦士としては)貧弱な手足から、硬くそそり立った男性器まで全てが丸見え。
全裸で欲情している姿を見られるのは思ったよりずっと恥ずかしい。
だが性欲を一切隠さず露わにするのは、羞恥以上の解放感を与えてくれた。
自分は何一つ慮ることなく彼女たちと交わってよく、また彼女らもそれを望んでいる。
数時間前に童貞を失ったばかりの自分にその事実はとてつもない誘惑だ。
自分は待つことに耐えられなくなり、イスから立ち上がってファラの背後へ移動する。
そして膝をついて屈み、長い黒髪の垂れた背中に声をかけた。

あの…ファラさまとセックスしたいです。して良いですか?
言葉を飾ることなどせず、ストレートに要求をぶつける自分。
彼女はその直球っぷりにククッと笑うと、風呂桶の湯で泡を落とし立ち上がった。

「もちろんだともモゲロ。我らは夫婦となるのじゃ。
 子作りの営みなど、おぬしが望む時に好きなだけしてくれよう。
 それと妾に敬語は使わずともよいぞ。夫婦は本来対等な立場なのじゃからな」
農夫の息子にすぎない自分を女王と対等だと認めるファラ。
彼女は石床の上にゴロンと寝転がると下品なほどに股を開く。
閉じられていた陰唇がパクリと割れ、ユラの時は見えなかった膣の中が目に映る。
綺麗なピンク色をした、粘液を溢れさせる肉の穴。
自分はいてもたってもいられず、慌てるように彼女に覆い被さり、男性器を挿入する。

「ちょっ、モゲロさん急ぎすぎー!」
「ファラさまを乱暴に扱うなんて何考えてるのよ……」
その様子を見たコスとイアの二人は口をそろえて非難。
しかしファラ本人は全く気にせず、嬉しそうに笑う。

「ははっ! そこまで急くとは、そんなに妾の体が欲しかったか!?
 ああ構わぬぞ、おぬしの好きなように妾の肉体を貪るがよい!」
挿入時の乱暴さも彼女を求める想いの表われと解釈したのか『好きにして良い』とファラは言う。
女王直々の許しを得て、自分は遠慮なく体を動かし始めた。

ユラの時と違い、全裸で抱き合ってのセックス。
汗のぬめりや熱い肌の温度が直接感じられ、着衣より遥かに上の一体感が感じられる。
この感覚と比べれば、裸にならない交わりなどただのじゃれ合いだ。
自分は腹までなすり付けるように身を倒し腰を振り続ける。

「うわ……何てあさましい動きなのかしら。まるで獣ね。
 自分の匂いでファラさまにマーキングでもするつもりなの?」
「えー? あんなにスリスリされるのって気持ち良さそうじゃない?
 それにモゲロさんの匂いが付くなんて最高だと思うけどなあ」
自分の動きを見ている二人は肯定・否定両方の意見を出す。
だが自分はそれに反応は返さず、褐色の女体をひたすらに貪る。

「んっ…! そんなに、肌を…なすり付けおってっ……!
 全身が、我らの汗で…ヌルヌルではないか……っ!」
自分の肌から滲む汗とファラの肌から滲む汗。
二つの液体は混ざり合い、互いの肌に心地よい滑りを与える。
自分は汗にまみれた彼女の両乳房を手で握り、その柔らかさと肌のぬめりを堪能する。

「おほっ! 胸を触るか!? そこは妾の自慢の部位よっ!
 どうじゃ、豊かな膨らみであろう!? 妾を孕ませればここから母乳が出るぞよっ!」
一瞬、大きく腹を膨らませたファラの姿が脳裏に浮かぶ。
それを現実にしてやりたいと思い、自分はより強く腰を打ちつける。
「おお、おぬしの思いが伝わってくるぞっ! 妾が身籠った姿を見たいのじゃな!?
 いいぞ! 妾に種付けするがよい! 母となった身を味合わせてくれようではないか!」
ファラは両足をこちらの腰に回し、後ろから男性器をより押し込む。
敏感な先端がトン…と肉の壁にぶつかると、
堰を切った様に精液が溢れ出し、彼女の膣を白い濁流で汚し尽くす。
「くっ…これは、何という勢いよっ! まるで、小便のようじゃ…!
 こっ、これほど出されては、双子になってしまうではないかっ!」
すでに一度ユラと交わったというのに、尿のように精液はほとばしる。
だが射精は放尿とは比較にならない快感を伴う。
自分はその勢いが止まるまで身を硬くしてしまった。

射精が収まるとファラは足を解いてこちらを解放した。
夢現の瞳で宙を眺める彼女の顔はとても美しい。
人類の至宝とも呼べそうなその顔に軽く口づけをして自分は立ち上がる。
踏みつぶされたカエルのような姿勢で床に転がる彼女の姿は自分の性欲にさらなる火を投げ込む。
浴場にいるのが自分と彼女だけならそのまま再戦に身を投じただろうが、
この場には待っている者が二人いる。
自分は一度湯をかけて身を清めるとファラから視線を外し、白い肌の幽霊少女へと目を向けた。

「さあ、モゲロさん! わたしの番ですよー!」
コスはそう言って真正面から抱きついてくる。
その重さは大したことないが、突然だったので足元を滑らせ危うく転びかける。
黙っていたイアがその行いに怒りの声を放った。

「何やってんのよバカコス! あなたと違ってモゲロは頭打ったら死ぬのよ!?
 ふざけるのは一人でやりなさい!」
悪いことをした妹を相手にするようなイアの叱責。
コスはしゅんとして『ごめんなさーい…』と謝る。
「まったく、外見だけ無駄に歳とって……」 
イアが呟いた言葉。自分はそれに疑問を感じ彼女に訊ねる。

イア、コスって見た目通りの歳じゃないの?
見た目と実年齢が一致しない者はときおりいるが、
彼女の呟きは一般的な意味とは異なっているように感じた。

「そうよ。この子の見た目は十代中盤だけど、実年齢は九歳ちょっと。
 何でも甦るときに“数年後の理想の自分”をイメージして体を作ったとか」
なんと。見た目は少女、中身は子供とは……。
ついつい珍獣でも見るような目で、コスを観察してしまう自分。
しかし彼女は無遠慮な視線も気にせず『えへへ…』と照れたように笑う。

人間では幼い子供しか浮かべられない、完璧に無邪気な笑み。
一般的な男性でも欲情するに足る肉体でコスはそれを浮かべる。
ユラやファラと異なり、妖しい雰囲気を漂わせない彼女。
二人に対する物とは方向性の違う欲情が湧き上がり、自分はコスに向かって喋る。

じゃあ、コス。シたいんだけど良いかな?
「もちろんですよ! わたしだってモゲロさんとセックスしたいんですから!
 どうします? ファラさまみたいに寝た方が良いですか? それともわたしが上に乗っかる?
 イスに座ってギューッと抱き締め合うのも良いですよねー!」
友達相手に『どんな遊びをしよっか?』と言うようにコスは明るく話す。
“床に伏せてほしい”と自分が体位のリクエストをすると、
『分かりましたっ!』と彼女は元気に答え、両手両膝を床について尻を突き出した。

「はい、やりましたよー! 早くモゲロさんのおちんちんくださーい!」
目の前にある白くてスベスベした尻。
その割れ目の奥には、機能しているのか分からない肛門があり、
さらにその下には、毛の一本も生えていないツルツルの女性器。
無邪気な言動のコスだが、やはり交わりを前にしてその穴は粘液を滴らせていた。

これで本日三度目になるというのに、全くくたびれた感のない男性器。
自分は彼女の尻を手で掴むとそれを女性器にあてがい、腰を前に進める。

「んんっ! これが、モゲロさんのおちんちんっ…! 
 熱くて…硬くて…素敵ですっ!」
そう言うコスの膣内も自分に負けないほどに熱く、
ファラと比べ小柄な肉体は、彼女よりも狭い肉道で強く締め付けてくる。

「んあぁ…セックス、良いっ…! モゲロさんのおちんちん、とても良いですっ…!
 好きです…! 大好きですモゲロさんっ……!」
呼吸を弾ませながら『好き好き』と連呼するコス。
おそらく“お菓子が好き”“オモチャが好き”というような、
“子供的な好き”も混ざっているのだろうが、それでも彼女は自分に好意をぶつけてくる。
幼さならではの直接的な愛情表現。
それがあまりにも可愛くて喜ばせてやりたくなる。

「モゲロ、さんっ…! わたしも、赤ちゃん……欲しいですっ!
 ファラさまみたいにっ、種付け、してくださいっ!」
コスは精神年齢一ケタなのに子供を欲しがる。
きっと母性ではなく『わたしも可愛い赤ちゃんが欲しい』という羨望に似た感情だ。
子供が子供を生めばその先に待っているのは苦難の連続だが、彼女は魔物だし孤独でもないから大丈夫だろう。
お望み通り赤ちゃんをプレゼントしてやろうと自分は考え、射精に向けて腰を動かす。
四つん這いのこの体勢はこちらが動きやすく、出し入れの速度がどんどん上がる。

「はっ、速いですっ! わたしのおまんこ、めくれちゃいますっ!」 
パシンパシンと浴場に響く音。
その間隔が狭まるほどに呼吸のテンポが上がり、快感の強度も強まる。
「もっ…もうダメぇっ! イっちゃう! わたしイっちゃうよぉっ!
 お願いっ! モゲロさんもイって! 一緒にイきながら種付けしてぇっ!」
一人だけ先にイくのは嫌なのか、同時に達しながら妊娠したいとオネダリするコス。
だが彼女にねだられるまでもなく自分も限界だ。
自分は我慢することなく幽霊少女の体内に精液を放出する。
「ひゃっ、出てるっ! モゲロさんのおちんちん汁出てるよぉっ!
 種付け…気持ち良いっ! 赤ちゃん作るの気持ち良いっ!
 モゲロさん、好きっ! 大好きっ! 愛してるよぉっ!」
コスの口から出た『愛してる』という言葉。
それは大人の階段を一歩上った証のようだった。

「ふゃぁ…もげろ、さぁん……」
絶頂を越えたコスは疲労困憊で、くたぁ…とそのまま床に崩れ落ちる。
土下座する様な姿勢で倒れたコスの女性器はパッカリと開いたままで、
注がれた精液がそこから零れ落ち、石の床に白い汚れをこびり付かせていた。
自分は満足感と共にそれを眺めると、再びタオルを巻きつけたイアに近寄る。

待たせたねイア。それじゃあ「私はしないわよ」
キッパリと放たれたお断りの言葉。
てっきり彼女とも交われると思っていた自分は拍子抜け。

え? だって他の皆は「私は吸血鬼だもの。口から吸うだけで十分なの」
イアはそう言うと膝立ちになって、こちらの股間前に顔を位置させる。
そして口を大きく開き、勃起したままの男性器をパクッと口内に含んだ。

「はむ……っ。ん、れ…う……」
飴を舐めるように男性器の先端をなぶる舌。
細くて色白な右手が陰茎を握り、クチクチと音を立てながら前後に動かされる。
農作業や剣の訓練で硬くなった自分の手と違い、イアの手は美しくて柔らかい。
やっていることは自慰と変わらないのに、
美しい少女にされているだけで興奮の度合いは段違い。
これもセックスの一形態なのだと自分は理解する。

「んっ…んっ…んふ…っ、ん…」
膣に挿入した時よりはゆっくりとやってくる射精感。
これで四度目だというのに、陰茎の中をジワジワと進む精液の量は減った感がない。
完全ではないにしても、自分の体は相当に変化しているのだろうと推測。
自分の肉体が変質していくことへの嫌悪は皆無ではない。
しかし彼女たちとの交わりをより楽しめるなら、それでも良いと思ってしまう。

快楽の中で自分は微かに苦笑いを浮かべる。
自分の価値観はすっかり魔物に毒されてしまった。
あの隊長と同じだ。自分はもう彼女たちと離れることなんてできない。
これからは魔物と共に生きていこう…と心中で決意を固める。
そして自分はその決意を精液に込めてイアの口内へ放出した。

「んぶっ…! ごほっ! お、げっ……!」
大量の精液を口の中に注ぎ込まれてイアはむせた。
しかし決してこぼそうとはせず、頬を膨らませて堪えコク…コク…と飲み下す。
その様が小動物のようで可愛らしく、軽く笑いを漏らしてしまう。
するとイアはムッとしたように目を鋭くし――――サクッと陰茎に牙を突き立てた。

うわぁぁっっ!! 何するんだよイア!
自分は突然の凶行に悲鳴をあげる。
そして“放してくれ!”と頼むが、彼女は聞く耳もたず。
イアの吸血は痛みがないどころか、交わりのような快感を伴っていた。
だが無痛だからといって、大事な所に穴を空けられて平然としていられる男がいるわけない。
頭を掴んで引き剥がそうかとも思ったが、それで傷口が余計に大きくなったら恐い。
結局、彼女が自ら口を離すまで、男性器からの吸血は続いたのだった。

気がおさまったのか、腹が満たされたのか、ようやくイアは口を離す。
魔物の魔力で傷跡一つ残っていない男性器を確認し、自分はやっと生きた心地に戻る。
そして彼女の顔を見下ろし“悪かったからこういうのは勘弁してよ…”とこぼす。
こちらを見上げる彼女はそれに答えず、口をガパッと開けて見せた。
その中を目にした自分は“うっ…”と血の気が引くのを感じる。

イアの口の中。そこには鮮血と精液の混合物が満ちていたのだ。
彼女はそれを見せつけるようにクッチャクッチャと何度も歯で噛み、
よく混ざったそれをゴクッと音を立てて飲み込む。
そして立ち上がるとフゥッ…と息を吐いて口を開いた

「貧弱でも流石は勇者ね……。血も精液も良い味わい。
 ブレンドするとさらに美味と。いいわ、この味に免じて今の無礼は許してあげる」
許してくれなかったら一体どうなったのだろうか……。
自分は彼女への恐れを抱きつつ、ファラとコスに起きるよう声をかけた。

三人の相手をしたので、風呂を上がった時には結構時間が過ぎていた。
素晴らしい時間ではあったが、初日からこれは精神的に疲れる。
湯で温まった体が冷えていくのと引き換えにやってくる眠気。
自分は与えられた部屋のベッドに潜り込み目を閉じた。



熟練の戦士は深い眠りについていようと、殺気を感じ取れば瞬時に覚醒するという。
訓練など積まなくとも、戦いを通じて殺気に敏感になれば、勝手にそうなるのだそうだ。
しかし自分は熟練の戦士に勝てる力があっても精神的には素人同然。
熟睡中の襲撃に即座に対応するなんてとても無理だ。
だからまあ、気付かなかったとしても仕方ない……はず。

「―――んっ! ああ……とっても良いわ、モゲロっ…!」
まだ暗い部屋の中。
腰にかかる重さと可愛らしい声、脳を蕩けさせるような快感で自分は目を覚ます。

「あっ、目が…覚めたの? 寝てても、良かったのに……っ!」
昼間の太陽のようにガラス窓から差し込む月の光。
その光に照らされるのは、死者の白肌を持つ陰気そうな少女。
この村の村長で全ての元凶である魔物、リチだ。

リチ、いったい……何を?
自分もこれが一般的に言う夜這いだという事は分かっている。
だが彼女なら寝込みを襲わずとも堂々と来れるはず。
寝ている間にこそこそと交わるのは不可解だ。

「ちょっと、お腹すいたから、夜食にねっ…!
 起こすのも、悪いと、思ったから…っ!」
自分はその言葉でリチの行動を理解する。
彼女はこちらの眠りを妨げぬよう、気遣ってくれたのだ。

「でも…起きたなら、意味ないわね…!
 もっと、気持ち良く…なりましょう……?」
目が覚めてしまったのなら、こっそりする必要はない。
リチはそう言い、ゆっくり動かしていた腰を速く動かし始めた。
目覚め立てで快楽への心構えができていない自分は、その刺激に呻いてしまう。

「あら、やっぱり寝起きは弱いのかしら? この程度で鳴くなんて」
そう言うとリチの右手がポゥッ…と紫の薄い光を帯びた。
彼女はその手をこちらの胸板に当て、トントンと聴診するように叩く。
魔法を使っているようだが、何の魔法なのだろう?

「もっと我慢できるようにね、体を弄ってるの。
 あなたはまだ“出来あがって”いないから」
よりセックスを楽しめるように肉体を弄っているのだと言うリチ。
性生活が楽しくなるのはこちらも嬉しいのだが、魔法でむりやり肉体改造されるのは……。

「なに言ってるの? 勇者なんてやってる時点で今更じゃない」
勇者が今更ってなに。
「……もしかして知らなかった? 勇者は主神の魔力で体を改造されてるのよ?
 見た目は普通の人間と同じでも、中身はもう別物。インキュバスの方がまだ人間に近いわ」
快感さえ吹っ飛ぶほどのショック。
自分は目をむいてリチに言い返す。

何だそれ!? そんなこと誰も言わなかったぞ!
「“主神の魔力で人間をやめた”なんて通りが悪いでしょう?
 だから“勇者の力で強化された”って一般には言われるのよ。
 でも、それを知ってる人はあなたに教えなかったみたいね」
知っている人。あのお偉いさんなら、おそらく知っていただろう。
だがあの男は自分に何一つ伝えなかった。
彼にとって自分は完全に道具であり、
一人の人間として尊重する価値など全くなかったということだ。
真実を隠していたお偉いさんへの怒りと共に、この体への嫌悪感が湧いてくる。

今すぐ腹を切り裂けば普通の人間と変わらない内臓がはみ出てくるだろう。
だがその内臓も主神の魔力に侵されているのだ。
脈打つ心臓や呼吸を繰り返す肺、全身を循環する血液も同じ。
こんな肉体に魂が収まっていることが酷く不快に感じる。耐えられないほどに。

リチ! もうリチの好きなように弄っていいから、この体を何とかしてくれ!
自分は躊躇いなどかなぐり捨て、縋るようにリチに言う。
そんな自分に彼女は優しく笑って返すと、トントントンと再びこちらの体を叩きだした。
「分かったわ。あなたの体から主神の魔力を搾り出してあげる。
 そして代わりに私の魔力を注ぎ込むわね」
彼女はそう言うと手を止めて『準備は終わり』と呟いた。

「今、あなたの体に魔法を刻んだわ。
 これでセックスすれば、主神の魔力は全部精液に乗って出ていく。
 でも外に射精する必要はないわよ。主神の魔力は私がもらうから」
リチは止めていた腰をまた動かし始めた。
自分も早く射精しようと膝を立てて下から彼女を突き上げる。

「あっ、子宮が…押し上げ、られてっ…! やっぱり、二人でする方が…良いわねっ!」
寝ている自分を一方的に犯していた時は余裕綽々だったリチ。
しかしこちらも動いて膣奥を突くようになるとその余裕も詰まった。
一つ突き上げるごとに彼女は可愛い声で鳴く。

「くっ…ん! 分かる、わっ…! 魔力…集まってるの、がっ…!」
月光を浴びながら体を上下に動かすリチ。
小さくも大きくもない乳房が喘ぎと共に震える。
ベッドに横たわり下から眺めるその姿は、死の魔術師というよりも月の女神のようだ。
アンデッドなのに神聖さを感じさせる彼女がとても愛おしくなり、
自分はリチの腕を掴み引き倒して口づけをする。

「んむっ! ん…っ、ちゅ……ぷぁ………っ。
 もう……キスはいいけど、先に言いなさい?」
いきなりの行いにリチは軽く注意したが不快感は見せない。
彼女も口づけを喜んでくれたのだ。
自分は彼女の背に手を回し、きつくない程度に抱いてその胸に顔を埋める。
心音など全く感じない肉体だが、肌の熱さと汗のぬめりは愛情と欲望をさらに煽り立てた。
ファラの時以上の密着状態でかなり動き辛いが、その負担にも負けず自分はリチを突く。
リチの方もこちらの頭を抱えるように抱き、少し落ちたペースで腰を打ちつけてきた。
彼女に抱えられ心地良い香りに包まれた中、待ち望んだその時が近づいてくる。

「ああ、なんて力なのっ…! あなたのちんぽに主神の魔力が溜まってるわ!
 さあ! 出してちょうだい! 大嫌いな勇者の力、全部私が飲んであげるっ!」
リチは強い力でギュッと頭を抱き締める。
自分は同じように強く締め付けてきた膣内に、主神の魔力に侵された精液をぶちまけた。
「く……ぁっ! 多…いっ! 美味しいっ…! 全部、出してっ!
 魔力入りのちんぽ汁、まんこに飲ませてぇぇっっ!!」
本当に飲み込むように奥へ奥へと蠕動するリチの膣。
それに促され精液が出ていくたびに、自分の中から強靭さが失われていくのを感じる。
おそらく自分を超人にしていた勇者の力が抜けているのだろう。
後に残されるのは、インキュバスになりかけの人間―――ではなかった。

「じゃあモゲロっ、あなたにあげるわね! 私の、魔力っ!」
リチはこれ以上ないぐらいの喜びと興奮に満ちた声で『魔力をあげる』と言った。
その言葉が終わると同時に、自分の中に強靭さが戻ってくる。
それは以前ほどの強さではなかったが、ただの人間だった頃よりは遥かに上。
どうやらリチは吸収した主神の魔力を利用して、一気にインキュバス化させてしまったらしい。
「さあ、セックスを続けましょう! 今度は子作りよっ!
 他の子みたいに、私にも種付けしてちょうだいっ!」
食欲が満たされた次は性欲……というわけでもないのだろうが、
強大な力を得てハイになっているリチは抜かずに二回戦を求めてくる。
完全にインキュバスになった自分がそれを拒否するわけもなく、
月が沈むまで彼女の望むままに交わった。



「モゲロさーん! 朝です―――あれ、リチ様?」
幽霊に似つかわしくない、明るくて威勢の良い声。
非実体化して壁から上半身を出したコスの声で自分は目が覚めた。
すぐ隣で寝ているリチも今のが目覚ましになったのか、
のそっ…と上半身を起こしてゴシゴシと目をこすった。

「ふぁぁ……おはよう、コス。起こすのは構わないけど、もう少し静かにして…」
「はーい、分かりましたー。で、それはともかく、リチ様もモゲロさんとシたんですか?」
「ええ、モゲロとセックスしたわ。
 最初は夜食のつもりだったんだけど、たくさん貰っちゃった……」
クスリと妖しく笑ってリチは腹を撫でた。
その動作があまりに艶めかしく、毛布の下で朝っぱらから男性器が立ってしまう。

「うらやましいなー。わたしなんて昨日は一回しかできなかったんですよ?」
「そうなの? なら今していけば? ほら、ちょうどモゲロもしたいようだし」 
こちらの欲情を見抜いていたのか、リチはバサッと毛布を剥いで下半身をさらさせる。
それを目にしたコスは一瞬で実体化し、あっという間に服を脱ぎ去ってベッドに飛び乗ってきた。

「あーん、モゲロさんてばスケベー! こんな朝から「ちょっと待ちなさい」
抱き付き押し倒そうとしてきたコスをリチは制止する。
「私も朝食代わりにモゲロとするの。あなたが寝なさい」
「分かりました。こうでいいですか?」
コスは抱きつこうとしていた自分から身を離し、スプリングを跳ねさせ寝転がる。
そしてリチが彼女と交わるかのように、その上に体を重ねた。
絡み合う少女二人の手足と、縦に二つ並んだ女性器。
通常ならばまずお目にかからない光景に、ゴクリとつばを飲んでしまう。

「さあモゲロ、好きな方に入れてちょうだい。ただし入れる相手は交代交代よ」
「どっちが先でも恨んだりしませんから、お願いしますねー」
コスは頭をあげて、リチは首を振り向かせて言う。
その美しい顔を見た途端、自分は我慢できなくなってリチの尻を掴んで挿入した。

「あっ…! 私が、先なのねっ!? 嬉しいわっ…!」
男性器で貫かれ、二度三度と突かれたリチは弾んだ声で喜ぶ。
「モゲロさん! わたしにもっ…!」
選ばれなかったコスは『早く欲しい』とねだる。
自分はそれに応え、リチの膣液にまみれた男性器をそのままコスの膣に押し込む。

「あぅ…っ! リチ様で…べちょべちょの、おちんちんっ……!」
他人の体液で汚れた性器。
人間の女性なら嫌悪を示すだろうが、コスは全く気にしない。
それどころか、リチも体内に受け入れられると嬉しがる。
リチの方も同じで、二人の体液が膣内で混じり合うことに興奮を感じているようだ。
魔物の体液は媚薬に似た効果を発揮するそうだが、それは魔物同士でも有効なのかもしれない。
なにしろ抱き合い胸を押し付け合ってキスしているぐらいなのだから。

「んっ…リチ、さまっ! 好き…ですっ!」
コスはチュッチュッとリチの顔にキスの雨を降らせる。
「私もよっ…! あなたは…ゴーストの、最高傑作だわっ! んむ……っ!」
リチはコスを褒めると、唇と唇を深く触れ合わせる。
同性愛者のように舌を絡め合い、粘つく唾液で顔を汚す二人。
交互に挿入するのは自分に負担ばかりあって、あまり気持ち良くないのだが、
死体の白肌で愛情を交換する少女たちは見ているだけでも性欲を満たしてくれる。

「好き、好き! 大好きです…リチさまっ! お母さぁんっ!」
リチへの好意を繰り返し紡ぐコスの口。そこから飛び出た母という言葉。
言い間違いと思えないはっきりした言い方に、自分はリチへ訊ねる。

リチ、コスがお母さんって言ったんだけど……。
まさかとは思うが、コスを産んだのはリチ―――。
「そんなわけないでしょっ!? この子は孤児だったのよっ!」
「だからねっ! リチ様が、お母さんなのっ!
 いつもは嫌がるけど、特別な時は、許してくれるんだよっ!」
なるほど、実の親がいないコスにとっては、アンデッドにしたリチが母親なのか。
そして三人で交わっている今は“特別な時”だから許されると。

外見年齢の近い義理の母娘。
自分はそんな二人と交わっていることにほのかな背徳感を感じた。
その背徳感は肉体の力へと転化し、自分の腰を速める。

「おっ、お母さんっ! モゲロさんが、速いようっ…!
 わた…わたしっ、イっちゃいそうっ!」
「もう少し…我慢しなさいっ! イくのは、三人でよっ……!
 モゲロ! あなたは…どうなのっ!?」
限界が近づいているコスとリチ。
自分は二人に対し“こっちも限界だ”と伝える。

「そう、だったら、イくときは私たちのまんこにかけるのよ…!
 私でも…コスでも…中で出したら、ダメだからっ!」
昨夜と違い膣内射精をリチは許可しない。
まあ、どちらか一方に注ぎ込むのではもう一方は満たされないだろう。
それでは三人で交わっている意味が薄い。
だったら女性器に直接浴びせた方がよっぽど良い。
自分は射精直前に男性器を抜くと、自らの手で二度三度動かし最後の一押しをする。
「あ…モゲロさんが……ひゃあっ!」
「あはっ! 大した勢いね! まんこがベタベタになってるわっ!」
ファラが“小便のよう”と形容したとおりに勢いよく飛ぶ精液。
それは開いていた二人の穴にかかり、綺麗な色をした膣肉を白く汚した。

「んー……良かったよぉ、お母さん…」
「そうね…たまには、こういうのも良いかも……」
コスとリチは身を重ねたまま気だるげに語り合い、口づけをする。
自分も射精後の気の抜けた意識でそれを眺めた。



六日ほど経って、この村での生活に慣れたころ。
リチが開発した魔力汚染薬がついに想定必要量にまで量産された。
この汚染薬は基本的に水に混ぜる物であり、複数ある水源や各地の井戸に投入しなくてはならない。
ところがこの村のアンデッドには人間に化けられない者が多い。
偽装できる少人数で汚染薬を撒くことも不可能ではないが、手間がかかり過ぎる。
なので計画の実行役には魔物の夫である自分以下、隊の全員が選ばれた。
自分たちはもう死んだことにされているだろうが、知り合いと顔を合わせなければ注意を惹かない一般人。
堂々と人間の支配領域に踏み入り暗躍できる。

戦闘を行う可能性が低いことから、一チームあたり二、三人で編成された投入部隊。
自分は隊長と二人のチームになり、他の隊員同様魔物たちに見送られながら集落を出た。
そして旅人のふりをして移動しつつ、川や井戸を巡りポチャポチャと石に似た固形薬を投入。
正直、あまりに容易すぎて“本当にこんな方法で征服できるのか?”と心配さえした。
しかしそれは杞憂だった。



顔色の良い男と顔色の悪い女のカップルがそこかしこを歩く街中。
自分は見慣れた王城への道を五人の魔物と共に進む。
彼女たちは魔物であることを隠していない。
本来なら即座に兵に囲まれて槍を向けられていただろう。
そうなっていないのは――――兵がもういないから。

投入完了から約一ヶ月。
たったそれだけの期間でこの国は魔物の支配下となってしまったのだ。

「――――で、この国に残っている抵抗勢力は全員あの城の中だそうです。
 ファラさまが声をかければ、すぐに白旗をあげて門から出てくるでしょう」
汚染薬投入からの経過報告の紙をめくりながら話すイア。
ファラはそれを聞くと『任せるがよい』と自信たっぷりに肯く。

「なんかあっけないねー。お城攻めっていったら、大人数でワーワー戦うと思ったのに」
「敵にしろ味方にしろ、余計な被害が出ないのは良いことじゃない。
 それに城は私たちが使うんだから、壊したら修理が面倒よ。そうよね、ユラ」
「その通りですリチ様。不要な戦いは極力避けるのが一流の戦士というものです」
緊張感ゼロで雑談を行うのはコスとリチとユラ。
こちらにはファラがいるので“勝ったも同然”という雰囲気。
おとぎ話の悪役ならそういった心の油断から逆転されるのだろうが、生憎とこれは現実。
籠城者たちはファラの命令に逆らえないだろうし、万が一できたとしても数の差は圧倒的。
どうあがいても彼らに逆転の目はない。

自分たちは閉じられた城門に向かって散歩するように歩いていく。
城壁の覗き窓からはこちらを監視してる兵が見えた。
ファラはその兵士に余裕の笑みを見せ“言葉”を発する。

『聞こえておるか、城の者。妾の名はファラ。魔物にしてこの地の女王である』
風に声を乗せる魔法。それは隙間風にも乗り、城中全ての人間に音を伝える。
『そなたらの国はもはや潰えた。
 人間の女はことごとくが魔物となり、男もその伴侶として共に暮らしている。
 主神の教えと、そなたらが定めた法に従う者は誰一人いなくなったのだ。
 救援の見込みが無い籠城など、無駄に時を費やし恐れを膨らませるだけと思わぬか?
 そう思うならば、城の頂上に白い旗を掲げ城門を開くがよい。
 さすれば、妾は新たに生まれた親魔物国家の王として、そなたらを国民に迎え入れようぞ』
このまま城に閉じ籠っていてもいずれ食糧が尽き破綻する。それはお互いの共通認識だ。
今はまだ食糧庫が豊富であろうが、それが底をついた時の惨状は想像するにおぞましい。
城内の誰もがいつか来るその時を恐れているだろう。

だがそこにぶら下げられた白旗という選択肢。
命を保証するどころか、国民として受け入れるという温情に満ちた扱い。
彼女の声でそれを提案されてなお抗戦の意思を保つなど、普通の人間には不可能だ。

ファラが話を終えて数分後。
城のてっぺんに白い布がひるがえった。
そして門の向こう側からガタッ…という閂を外す重い音。
ギギギッ…と軋みながら開いていく門の隙間からまず見えたのは、地に跪いて臣下の礼をとる王の姿だった。

こうして血を流すことなく穏便(?)に国を完全支配したファラ。
彼女は王城前の広場に人々を集めると、かつて滅んだ王国の復活を宣言した。
すでにこの地を実効支配していた彼女に異を唱える者などいるはずもなく、
望みのままに国名は変更され、名実ともに親魔物国家として生まれ変わった。



本来魔物には結婚の概念はあったが、結婚式をあげる習慣はなかった。
なにしろ恋人から夫婦になっても、やることは何も変わらない。
名前や認識が少し変わる程度のことで、大騒ぎする必要性を感じなかったのだ。
特に野生に生きる魔物は、十年来の親友が結婚するとしても、
『私たち結婚するの』『そうなんだ、もっと仲良くしなよ』ぐらいの会話で流してしまう。
しかし、元人間の魔物や元人間の親を持つ魔物は、結婚式への憧れを持つことが多い。
そして自分が関係を持っている五人は全員が元人間のアンデッドなわけで……。

バン! と勢いよく開かれる控室の扉。
開いた扉の向こうからは、ニコニコ顔のコスがタタッと部屋に踏み込んでくる。

「モゲロさん見てくださーい! ドレスですよドレス!
 すっごいヒラヒラしてますよー!」
はしゃぎ回るには不向きな純白のドレス。
コスそれを指でつまんで己の姿を見せつける。

うん、似合ってるよコス。いつも以上に綺麗だ。
「そうですかー? ありがとうございますー!
 そうだ、スカートの下も見てください! 下着もずいぶん「いい加減にしなさい」
コスの後ろから現れて後ろ襟を掴むのはユラ。
鎧に身を包んでいることが多い彼女も、今は白いドレスを纏っている。

「結婚前のドレス姿は新郎に見せるものじゃないのよ。
 下着まで見せびらかしたいなら、夜まで待ちなさい」
ユラはコスを叱ると、こちらを見て軽く頭を下げる。
「ごめんなさいね、モゲロ。コスがはしゃぎすぎて。
 もうすぐ始まるから、少し待ってて」
そう言うとユラはコスの襟を引っ張り部屋を出ていく。
『もうすぐ始まる』という彼女の言葉に落ち付きの無さを覚える自分。
深呼吸をしたり水を飲んだりしてみるが、やや速くなった心臓は治まらない。
早く始めてくれよ…と思いながら控室をうろうろしているとノックの音。
進行役の男性が顔を出し『始めますよ。こちらに来てください』と一言。
自分は頷いて返し、彼の後に続いた。

ざわざわと賑やかな城の広間。
そこに集められているのは、集落の元住人(と自分の両親)だけ。
これは女王の結婚式でもあるが、ファラは盛大な式を行おうとはしなかった。
自分としても見ず知らずの観衆に見られながらの式なんて嫌だから良かったけど。

イスに座り並ぶ出席者。その前方にある祭壇。
自分と五人はその祭壇前にずらっと並び、進行役の問いかけを受ける。

「えー、新郎モゲロ。あなたは如何なることがあろうとも妻を愛し抜くと誓いますか?」
こういう場面で“いや、それはできません”なんて答えたらどうなるのか?
少しばかり興味があったが、そんな答えを返す度胸はないので素直に“誓います”と答えた。

「えー、新婦ファラ。あなたは如何なることがあろうとも夫を愛し抜くと誓いますか?」
「無論じゃ。妾の夫は過去も未来もこの男しかおらぬ」
褐色の肌に白いドレス。
美しいコントラストを醸し出すファラは、王国復活を宣言した時以上の厳粛な声を出す。

「えー、新婦イア。あなたは如何なることがあろうとも夫を愛し抜くと誓いますか?」
「はい。モゲロが私を愛するならば、最低限それに見合ったものは返すと約束します」
愛の宣誓というより何かの契約のような言い方をするイア。
進行役は少し面食らったようだが、ゴホンと咳払いすると式を続ける。

「えー、新婦ユラ。あなたは如何なることがあろうとも夫を愛し抜くと誓いますか?」
「誓います。たとえ私の剣が折れることがあろうと、愛だけは決して折れません」
剣が折れようとも心は…と誓うユラ。いかにも騎士っぽくて格好良さを感じる。

「えー、新婦コス。あなたは如何なることがあろうとも夫を愛し抜くと誓いますか?」 
「もちろんです! わたしはモゲロさんが大好きですから、ずっと愛しますよー!」
子供ならではの元気さ。広間に響くほどの大きな声でコスは答えた。

「えー、新婦リチ。あなたは如何なることがあろうとも夫を愛し抜くと誓いますか?」 
「誓います。私はモゲロからとても大きなものを貰いました。
 この先の人生全てをかけて愛し続け、恩を返します」
リチが自分から貰った大きなものとは、もちろん主神の魔力。
自分が放ったそれを彼女は丸々と取り込み、以前より遥かに強大な魔術師となったのだ。

一通り終わった愛の宣誓。
進行役は広間の全員に聞こえるように言う。

「今、彼らは永遠の愛で結ばれました! 皆さん! 心よりの祝福をお願いします!」
その言葉が終わると同時に拍手の音が広間に満ちた。
村の元住人全員が笑顔で手を叩き『おめでとー!』などと喝采をあげる。
最前列にいる自分の両親など二人してハンカチで目元を拭っている。
その後ろの席にいる隊長も穏やかな笑みで祝福の拍手をしてくれた。

一農夫の息子だった自分が、まさかこんな結婚式をあげることになるとは……。
ホント人生ってのは分からないよなあ…と思いながら、自分は出席者たちに手を振った。
13/07/26 17:20更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
自分の中でリッチがお母さんポジになりつつあります。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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