連載小説
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4-3 牢屋の男
 体が跳ね上げられた衝撃で彼女は目が覚めた。
「んっ…」
 ずっと同じ体勢だったからなのか、首回りと右半身に怠さとかすかな痺れを感じながらキャスは上体を起こした。手は枷をはめられていて、杖を召喚しようと試みたが妨害されてしまった。
〔…魔力収集を阻害されてる。枷に結界を掛けられてるのか…〕
 彼女は当然と言えば当然だと納得し、首を回してから壁に寄りかかるようにして立ち上がった。
 馬の蹄と金属の擦れて軋むような音、それに揺れを感じることから馬車に乗せられているのだとすぐに分かった。今入れられているところは一畳分の広さで、両側に覗き窓があり光が差し込んでいた。
 彼女が覗き窓から外を見ると、外は遠くにルプス山脈と手前に森を望む草原を走っていることがわかる。恐らく、大陸の南西の方に下ってきたのだろう。
 唐突に馬車が大きな何かの作った影の中に入った。キャスが〔なんの影だろう…〕と思っていると、馬車は急に右へ針路を変えた。
「うわっ―!」
 左側の窓を右側の窓を覗きこんでいた彼女は遠心力で反対側の壁に強く打ち付けられた。
「いぃ〜たぁ〜ぃ…」
 後頭部をぶつけて、その痛さにしばらく涙目でうずくまっていたが、気を取り直し頭の上の覗き窓から馬車の左側の様子を窺った。
 目の前に赤褐色の色をした、表面に光沢のある壁のようなものが姿を現した。
〔下の方が光ってる…?〕
 壁の下の方は鋼のような銀色の金属とみられるもので装飾が施されていた。そして地表から1メートルほど浮いているように見え、その壁の下部の裏側から青白い光が溢れていた。
 見上げてみると、高さは優に100メートルはあろうかと言う巨大なもので、上にも装飾が施されていた。見る限り、その壁は緩やかに湾曲しているようであり、まだ馬車の向かう方向に何百メートルと続いているようだった。
〔なんだろう、この壁…城の城壁?…それにこの光は一体…って、あれ?…もしかして〕
 キャスはあることに気付いた。装飾は、いや、正確にはその壁は馬車の後方に向かって流れていた。別にそれはどういうことではない、馬車は進んでいるのだから壁が後方に流れていくのは当然なのだが、明らかにその速度がおかしいのだ。壁は人が小走りする程度の速さで後ろに流れていく、だが、草原の草はまるで川が流れるように後ろに過ぎ去って行っていて、明確にその速度に違いがあった。草はまず動くことはない、と擦るならばだ。
〔まさか、壁が動いてる…!?〕
 そう、その光景からは、壁が馬車のスピードより少し遅いくらいの速度で動いているとしか思えなかった。
 徐々にその壁は速度を落とし、馬車もそれに合わせて速度を落としていった。壁が完全に静止すると、馬車はその壁に向かって方向を転換し、次の瞬間にはウィィィン…ガガン…という機械音が聞こえてきた。
 馬車がまた動きだし、少しして始めに段差の付いた傾斜を上っていくのがわかった。覗き窓で外の様子を窺っていると、壁の中に入ったようだった。壁の中には明かりがあり、鉄の無機質な内壁が見えた。
 カツンカツン…と人の足音らしきものが近づいてくると、馬車の閉ざされていた扉が開かれた。
「降りろ」
 白い鎧を着た騎士が2人いて、1人がキャスに命令した。
 彼女は大人しくそれに従い馬車を降りた。すると後から馬車が一台入ってきて、中から一戦交えたあの騎士たちが降りてきた。
 それに気を取られていたキャスは、後ろで枷につながれた紐を握った騎士に尻を蹴られた。
「とっとと歩けっ」
 騎士に前後を挟まれ、そのままどこかへ連行されていく。
 壁や床は全て金属で作られていて、灯りは等間隔に設けられている。灯りと言えば一般的にはオイルランプなどだが、ここの灯りは全てこの世界ではどちらかと言えば少ない電灯だ。
 歩いているときに突然声が至る所から聞こえた。
『ウルベルド小隊が帰還した。負傷者がいる模様、医療班は速やかに治療を行え。繰り返す…』
 キャスは歩きながら辺りをきょろきょろ見回した。どうやら声は壁の上の方に付いた網の張った穴から聞こえてくる。
〔魔法じゃない…どういう仕組みなんだ…?〕
 魔力はこの建物内からは人間のもの以外全く感じず、魔法を使ったときに起こる魔力の変異も認められない。キャスには不可解極まりなかった。いや、実際この人工物全てが彼女にとって不可解だったのだが。

 階段を上り、1つの部屋の前に連れてこられた。扉が機械音を立て自動で開き、薄暗い部屋の中に檻があり、その一つにキャスは放り込まれた。
「うわっ!」
 乱暴に放り込まれて、キャスは転んで声を挙げた。
「大人しくしていろ。魔法さえ使えなければ、貴様などただの子供だ。おかしな真似はせんことだな」
 騎士はそう言うと部屋から出て行った。
 手枷で魔法も両手も扱えないが、もともとキャスも大人しくしている気など毛頭ない。だが、一体これからどうしたものかと胡坐をかいて考えようとした時だった。
「なんや、自分も難儀なこっちゃのぅ」
「誰?」
 隅の方から声がして、キャスは振り向いた。すると毛布を被って寝ていた男が体を起こしてキャスの方を向いた。
「ずいぶんなご挨拶やな。俺はここの先輩やぞ?」
 男の顔は暗くてよく見えないが、声と魔力で若い男だとわかった。
「先輩って、ただ僕より先に捕まってただけじゃん…」
「しゃーないがな、50人に囲まれてもうたら…」
 キャスは〔どうせ嘘だろう〕と思い、それをスルーした。
「はいはい。で、あんた誰?」
「…自分、なんやエラそうやな…」
 男は立ち上がってキャスに近づいた。
「おい、ガキンチョ。俺も自分も同じ牢屋にぶち込まれた仲や、もうチョイ仲良うしようや?」
「うるさいなぁ。ここから抜け出す方法考えてるんだから、邪魔しないで」
「このガキャ、人が優ししとったら付け上がりよって…顔みせぇ!」
 男はキャスの帽子を取り上げた。
「あ、何するんだっ!」
「何するて、生意気な自分の顔拝むん…やんけ…」
 キャスの顔を見るなり、男の言葉はだんだん弱くなり、彼の表情が驚きと戸惑いの色に変わる。
「なに?僕の顔に何かついてる?」
 キャスがそう訊くと、男は彼女に聞き取れないほどの小さな声で何かを呟いた。
「え?なに?」
「あ、いや…つーか自分女やったんかッ!?」
 男は言葉を濁し、誤魔化すように驚いて見せた。ちなみに、今この近さになってやっと男は少し焼けた肌で、赤茶色の髪の毛を後ろの上の方で束ねていることが分かった。
「なにさ、文句あるの?」
「いぃや、別に。ただ口の悪い嬢ちゃんやと思ただけや」
 男はそう言うと、意地悪く笑っていった。
「てぃっ!」
「ふがっ―!」
 キャスは男の顎を下から蹴り上げた。
「おまッ…何すんねんッ!」
 男は顎を押さえて怒鳴った。キャスは憎たらしく男を睨み返した。
「うっさい。とっとと帽子返せっ」
「あん?知るかい、こんなもんッ!」
「あっ!」
 男はキャスの帽子を牢屋の隅に投げて、また元の場所に戻った。
「・・・・・」
「・・・・・」
 2人の間に長い沈黙が続いた。
〔なんなんだよ、こいつ!〕
〔なんやねん、こいつ!〕
 互いにそっぽを向いて座っていると、ローブを纏った髪を剃った男が騎士が3人引き連れやってきた。
「ご機嫌いかがかな、魔女殿?」
 ローブの男がキャスに丁寧に挨拶をした。
「手枷されてこんなところに入れられてて、気分が良いわけないだろ。なんなら代わってあげようか?」
「いや、遠慮しよう」
 男はそういうと、キャスに目線を合わせるようにしゃがんだ。
「さて…魔女殿よ、聞きたいことがある。君が使ったという空間転送術だが、その公式を教えていただこう」
「もしかして、親魔領…もとい、魔界の中枢に騎士たちを送り込む気?」
「ご名答、正解だ」
「やだね…それに悪いけど教えたところで、お前らみたいな三下になんか扱えないね、残念でした、分かったらお家にでも帰ってママのおっぱいでも吸ってなよ」
 キャスは壁にもたれかかって、足を犬でも追い払うようにクイクイッと動かした。
「はぁ…そうかぁ…おい、開けろ」
「はっ」
 騎士が鍵を取り出すと牢屋の扉を開け、ローブの男が中に入った。
「うっ…!」
 男はいきなりキャスの首を大きな手で鷲掴み、壁に押し付けながら立ち上がらせた。
「おい小娘…あまり調子に乗るなよ。今この手で貴様の首の骨を折ることくらい容易いのだ…」
「あっ…がっ…かふっ…」
 キャスは苦しさに藻掻こうとするが、手枷と体が壁に押し付けられているので上半身は身動きできず、足は朦朧としてきた意識で立っているのが精いっぱいのようだった。
「おいおっさん」
 相部屋の男がローブの男に言った。
「ん?…なんだ、貴様か…」
「か弱い女相手にずいぶん粋がっとるやんけ。自分、あれか?よくおる小悪党やろ?弱い奴にガンガン行きよるけど、強い奴にヘコヘコしっぱなしゆう奴」
 男はキャスを投げ捨てるように解放した。
「けほっ…ごほっ…」
「ふん、泥棒風情が魔物なんぞを庇いおって…」
 男は牢屋を出ようとした。
「その泥棒風情に部下の一個大隊潰されたんはどこのアホやったかいのぉ!」
 男はピクリと一瞬動きを止めたが、彼はその部屋を出ようとした。そして出る瞬間、騎士に言った。
「死なん程度に痛めつけろ」


「…いってぇ…」
 相部屋の男は痣と傷を作って床に大の字で倒れていた。唇の端から血が滲んでいる。
「あんのボケ共…ちっとあ手加減せぇや…」
 騎士たちは一しきり彼に暴行を振るうと出て行った。彼は鈍い痛みを感じながら愚痴をこぼした。
「あ、あのさ…」
「あ?なんや?」
 男は首を微かだけに動かしキャスを向いた。
「あ、ありがとう…」
「は?阿呆、何ゆーとんねん…ただ俺があのハゲが気に入らんかっただけじゃ…」
「…感謝するだけ損だった…」
「………しゃーないな、今は礼言われといたるわ」
 彼は顔を天井に戻し、目を瞑った。
「自分、名前は?」
 男はキャスに訊いた。
「…キャサリン…キャサリン・マイトナー…あんたは?」
「フィムや、フィム・ロックブルック」
「フィム…」
 フィムとキャスは暫く何も話さずにいた。話の種が思い浮かばなかったのもそうだが、2人とも疲れていて話す気力がなかったのだ。やがて、キャスは壁を支えにして立ち上がりフィムに近寄り、足元に座った。
 フィムは彼女をチラリと見て、小さく微笑みを浮かべた。
 それからまた暫くして、キャスは口を開いた。
「…その、平気?」
「傷か?」
「…うん」
 キャスは小さく頷いた。
「平気や、大したことあらへんわ」
 フィムはそう言うと起き上がり、胡坐をかいて座った。
「ねぇ、ここってなんなの?」
「牢屋」
「いや、そんなつまんない洒落いいから…」
「はは、すまんすまん。いうなれば、一種の船やな」
「船?」
「せや、教会軍部の開発した新型陸上艦とかゆうてたな…」
「聞いたの?」
「いや、書いとってん」
「なにに?」
「盗みに入った教会軍部の建物の中にあった書類」
 キャスは半ば呆れ気味に「なんでそんな所入ったのさ」と笑い混じりに言った。
「興味半分や」
「あっはは…バカなんじゃないの?」
 キャスとフィムは出会ってそれほど時間が経ったわけではない。それでも彼女は、その興味半分という理由がとても彼らしいと思い、思わず噴き出した。
「ほんまやな。おかげで騎士に取り囲まれるわ捕まるわ…」
「あはははは…」
 2人はまたぎこちなく黙り込んだ。キャスは視線を泳がせた末に、牢屋の端に転がる自分の帽子を見つけた。
「あ、帽子…」
 キャスはそう言うと、立ち上がって帽子に近づこうとした。その時、大きな揺れが起こり、ガタンと大きな音が鳴った。

「どうした、なにがあった!?」
 部屋の外から騎士の慌てた声が聞こえてきた。
「落石だとよ、船体に被害はないってさ」
 騎士はそう言うとどこかへ歩いていくようだった。

 一方、牢屋の方に描写を戻すと、胡坐をかくフィムに埋まるように抱かれたキャスの姿があった。立ち上がった瞬間に衝撃があり、キャスはバランスを崩して目の前にいたフィムに向かって、飛びこむように倒れたのだ。
「あ…えと…」
「おう…すまん、平気か?」
「あ、うん…」
 フィムはキャスの体を離して座らせると、隅に転がっていた帽子を取って彼女の頭に被せた。
「一個訊くけど、自分どうやって帽子被るつもりやったんや?」
「あ…そっか…」
「自分ちょいちょい抜けてるなぁ…」
「抜けてない、うっかりしてただけっ」
 2人は壁にもたれかかって座りなおした。
〔…なんなのさ…さっきの感覚…〕
 さっきの感覚とは、フィムに抱かれていた時に感じた妙な安心感だ。キャスが思わずうっとりしてしまいそうになった、その今まで感じたことのない感覚。
 そして、先ほどから物思いに耽(ふけ)っていたのはフィムもそうだった。
〔…なんでここにきて…思い出してまうんやろうな…〕
 フィムはさっきキャスを抱きしめた右手を無意識に動かしていた。

 しばらくしてキャスは大きな欠伸をした。
「でかい欠伸やな」
 フィムが笑いながら言った。
「しょ、しょうがないだろぉ」
 キャスは恥ずかしそうに帽子の鍔をグイッと引っ張り顔を隠した。
「まぁ、たぶん外は夜やろうな。俺も疲れたし、自分も寝たほうがええで」
 この牢屋、窓も時計もないため今が何時なのか判断がつかない。フィムとキャスはお互い横になった。
「…変なことしないでよね」
 キャスが釘を刺すように言う。
「アホか、俺にそんな趣味無いわい!第一、自分魔女やろがッ!」
 フィムは思わず突っ込みを入れた。
「…そうだけど?」
「魔女ゆーたら立派な魔物やぞ?その自分がなんでそないな心配すんねん?普通それを待ち望んどるモンちゃうんか?」
 そう、普通ならそうだ。魔女であるなら、自ら相手を誘惑してもおかしくはない。ならば、キャスはなぜあの様に言ったのか。
「だって僕は普通の魔女じゃないし」
「はぁ?どういうこっちゃ?」
「僕はバフォメットのところに行って、確かに魔女に魔物化されたよ。けど、僕は単純に強大な魔力を手に入れて研究をしたかっただけ。『余計な物』までもらう気はないから、あらかじめ『抑制陣』を体に仕込んでたんだよ。それで力だけもらってさっさと逃げてきたわけ」
 キャスの頭脳が魔法学において群を抜いていたことは今に始まったことではない。それは数十年前も変わらなかった。
 抑制陣とは何らかの事象を抑制する効果を発揮する陣、刻印だ。主に治療の際の痛み緩和などに使われることが多い。キャスは独自で研究し、快感を抑える効果を持った刻印を自分の体に施していた。それも、怪しまれないようサキュバスやダークエンジェルに刻まれたルーンの様な形で。
「ま、さすがに魔力をもらうときは『反応』はしちゃったけどね」 
 とキャスはちょっとした失敗でも話すように言い捨てた。
「ほな、今は魔力のでかい人間ちゅうわけか?」
「っていうわけでもないけどね。今あるくらいの衝動なら『抑制陣』でどうにでもなるし。僕がしたいのは研究だけ。他の物は邪魔だよ」
「はぁあ〜…色々おんねんなぁ」
 フィムは半ば呆れたような感じを混じらせ言った。


 キャスはふと目を覚ました。するとすでにフィムは目を覚ましており、騎士が持ってきたと思しき粥のような物を食している最中であった。
「おう、起きたか」
「…今って…朝?」
「さぁな。なんせ窓ないし。ほれ」
 フィムはキャスの分の粥を彼女に差し出した。だが彼女はそれを前にしてぼぉ〜っとしているだけだ。
「どないしてん?」
「あのさ…」
 キャスはフィムにゆっくり目を向けた。
「これでどうやって食べろってのさ?」
 彼女は後ろ手に枷で拘束された手を揺らして見せた。
「あ、そうやったな…」
 するとフィムはキャスの横に身を寄せた。そして自分の使っていた木製のスプーンでキャスの分の粥をすくった。
「ほれ、あ〜ん」
「あ、あ〜んって…」
 キャスは戸惑い顔を背けた。
「なんや、食わんのか?」
「・・・・・」
 キャスは目をキョロキョロ泳がせ、半ば大袈裟に感じるが意を決したように静かにぎこちなく口を開けた。
 口に入れられた粥は何とも淡泊な味で、仄かな塩分以外の味を感じない。それはそうだ、牢屋の中の人間にそれほど旨いものを食わせる義理はないし、そんな気もないだろう。むしろ、その仄かな塩分が付いているだけ、まだマシかもしれなかった。
 だが、彼女にとって味などどうでも良かった。ただこの、誰かに食事を食べさせてもらっているこの状況が彼女はとても照れ臭く、落ち着かないものだった。
〔なっ…なっ…なんでこんなことになってんのさぁ〜〜〜!!!〕
 彼女は心の中で叫んでいた。「これでどうやって食べろってのさ?」というあの台詞は、ただのその場にいない騎士と目の前のフィムに対する嫌味のつもりだった。だが、フィムはそれを「手を使えないから食べさせろ」という意味に受け取ったに違いなかった。
 キャスは自分が見た目だけでなく、本当に幼い子供になってしまったようで、本当は気にする必要のないはずの羞恥心を感じていた。
 粥がなくなり、フィムは匙を置いた。
〔…なんで食べるのにこんなに…疲れなきゃいけないのさ…〕
 いわずもがな、それは誰の所為でもなくただの自意識過剰である。 

 それから2人はまた暇な牢屋の中で壁にもたれ掛かって天井を見つめていた。牢屋の中には動力や人の歩く音が混ざり合った小さな騒音が響いていた。たまに揺れもするが、もう慣れてしまったらしい。
「そういえばさぁ…」
 キャスは思い出したように話し始め、2人は顔を見合わせた。
「この船ってどこに向かってるの?」
「大陸の南西にあるユーゼンリオンやろな…」
「ああ、大陸南西ってまだ反魔領だもんね」
「せや。俺もそっから逃げてきたんやけど、ついこの前捕まってもうてな。
 ユーゼンリオンは要塞都市って言うのんがよう似合うような所や。町を囲む塀はめっちゃ高いし、対魔物用に銃を装備した兵士が塀の上で空に睨み効かしとるし、大砲もある上に、大型魔導具が対魔法結界を三重に張り巡らしとるからなぁ。逃げる時は苦労したで…」
 フィムは話しながら腕を組んで遠い昔を思い出すように目を瞑った。
「それじゃさすがに魔王軍も迂闊に手を出せないってわけだ…」
 世界の三分の一以上が親魔領となった今でも、教団や反魔物を掲げる国家は、尚も激しい抵抗を続けていた。反魔領の町々は高い壁と警戒を敷くようになり、被害を免れようと魔物たちはその周辺を離れていた。
 魔王率いる魔王軍も、その抵抗に手を焼くしかなく、今現在、お互いに抑制しあう拮抗状態が続いていた。
「まぁ、どうせあと3日はゆっくりしてられるし、暇つぶしでも考えようや」
「…暢気だなぁ…」
 キャスはそう言って再び天井を仰いだ。

12/06/11 02:03更新 / アバロンU世
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■作者メッセージ
現在、若干魔物っぽくないキャスですが、今度キッッッチリ堕ちさせますからご安心をw

次回はおっさんと姉さんの話す

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