連載小説
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その2

 
 
 
 
 ―だが、それからが少し大変であった。
 
 殆どの人が出払っていて、エレナも自室で旦那とイイコトしているだろうから見つかる事はなかった。だが、それから割り当てられた部屋へと入り、彼を着替えさせるのがとても大変だったのである。相手は意識を失っている成人男性で、私は身体の動かし方がまだ全て分かっていない子供も同然だ。そんな私が彼を着替えさせるのは部屋中をひっくり返すような大騒ぎになってしまったのである。
 
 「…ふぅ。これでいい…かな」
 
 しかし、前進すれば何時かは目標に辿り着く。この時の私もそれは同じであった。一時間ほどの格闘の末、私は何とかディルクを着替えさせる事に成功したのである。白い上下と言う簡素な姿ではあるが、これでも着替えさせないよりかはマシだ。何せあの服は煤や煙で汚れていた上、治療の為に切り裂かれてしまったのだから。
 
 「よいしょっと…」
 
 そんな事を考えながら、私はベッドに横たわる彼にそっと掛け布団を掛けた。ワーシープの毛がたっぷり詰まったふわふわの布団はきっと彼の身体を癒してくれる筈である。それが私ではない事が少しだけ寂しいけれど、彼が元気になるのであれば四の五の言っている余裕はない。
 
 「…………」
 
 だが、それから手持ち無沙汰になってしまう。ついさっきまで私は肉体を持たない純精霊であったのだ。それがこうして肉体を得ても正直、何もする事が無い。やりたい事はディルクに対するものだけで、その彼が意識を失った今、暇で暇で仕方が無いのだ。
 
 ―前はそれにも耐えられたんだけどね。
 
 だけど、肉体を得ていると言う充実感があるからだろうか。心の隙間から入り込んでいる暇と言う感覚は私の中に勿体無いと言う感情を生み出していた。折角、肉体を得たのだから他にも色々出来るだろう。今の間にそれをやっておこうと心の奥底が囁いているのだ。だが、辺りを見渡しても特にやる事は見当たらない。着替えを出すのもディルクがその前にしっかりと整理してくれていたお陰で特に問題も無かったのだ。部屋は綺麗に整頓されていて、今すぐにでも発てる準備が出来ている。
 
 ―となると…ディルクの事なんだけれど…。
 
 ワーシープの毛に包まれて寝ている彼は安らかな寝息を立てて、胸を上下させている。規則的なその動きは彼の体調が快方に向かっていることを教えてくれているような気がした。しかし、だからこそ、私に出来る事は無い。このまま放っておけば彼が何時か目を覚ますのは確実なのだから。
 
 ―…んーそれじゃあ…。
 
 そこまで考えた所で私は彼の頬についている煤に気がついた。それは恐らく倒れこんだ時にでも付いてしまったのだろう。浅黒い肌とは言え、真っ黒な煤は目立つものだ。それにシーツも汚れてしまうかもしれないし、今の間に拭き取ってあげるのが良いかもしれない。
 
 ―そうと決まれば…っと。
 
 掛け声のように自分の胸の中でそう呟きながら私はそっと部屋の入り口の方へと歩き出した。そのまま備え付けの洗面器を取って、廊下へ。そのまま廊下の突き当りを見れば、そこには白い洗面台と蛇口が見える。後はそこで水を補給すれば、彼の身体を拭いてあげることが出来るだろう。
 
 ―そう思って近づいた私の視線に真っ赤な女が目に入った。
 
 日輪のような透き通った赤い髪の上では真っ赤な炎が燃え盛っている。まるで髪留めか何かのアクセサリーのようなそれは女の気の強そうな雰囲気に可愛らしさを加えていた。その下に位置する三白眼の釣り目は相手の気の強さを伺わせるようである。トカゲにも似たその切れ長の瞳は真っ黒で、髪との対比が面白い。全体的に血色が良い肌は顔も変わらず、普通よりもかなり赤っぽく見える。しかし、そこにははっきりと艶が含まれており、こうしてみているだけでもきめ細かい肌をしているのが分かった。髪の間から突き出たエルフのような長い耳も同様で、全体的に美しい容姿をしていると言えるだろう。
 
 ―これが今の私かぁ…。
 
 鏡の前でそっと微笑めば、鏡の中の私はぎこちなく笑みを返してくれる。…どうやらまだまだ表情を作ると言うのは難しいようだ。まぁ、その辺りは追々、慣れていけばいいだろう。今はただ、こうして美しい女の姿になれた事を喜べば良い。
 
 ―でも……ディルクも…喜んでくれるだろうか…?
 
 何度も言うように彼は敬虔で純粋な精霊信仰者だ。魔精霊となった私を拒絶しようとするかもしれない。いや、多分、するだろう。彼は魔物に偏見はないが、別に好いている訳でもないのだ。そして、その価値観から言えば、今の私は精霊ではなく『魔物に堕落した存在』に値するのだから。今まで信頼するパートナーとして十年近くを共に過ごした私だからこそ、余計に彼はそれを許せないだろう。
 
 ―だけど…それなら喜んでくれるまで刷り込んであげれば良い。
 
 私はもう彼無しでは生きられない。それも当然だろう。私は彼の為に文字通り何もかも投げ出して今の姿を手に入れたのだから。そんな私がディルクを失うと言う絶望に耐えられるわけが無い。ならば、『魔物らしく』私の身体の良さを教えてあげればいいのだ。もう二度と私から離れられないように、私だけを見つめるように、私だけにその心を捧げてもらうように。
 
 ―ふふ…っ♪今から楽しみだね…♪
 
 この淫らな肢体でディルクをたっぷりと感じるのだ。大きなキャベツのような胸も、それと比べて慎ましやかな尻も、すらりとした太股も、真っ赤なルージュを引いたような唇も、何もかもを使って。それはきっととても甘美なものなのだろう。今からでもそれが楽しみで心が震えるくらいなのだから。興奮した私の下腹部もぽたりと愛液を滴らせて、滾っているのが分かった。
 
 ―その為には…色々とお世話をしないと…ね♪
 
 これはその第一歩だと私は自分に言いながらきゅっと蛇口を絞った。瞬間、そ処から出ていた水がせき止められて止まる。手に持つ洗面台にはもう並々と水が注がれていた。とりあえずはこれで十分だろう。そう思った私はそのまま踵を返して自室へと戻る。その途中で波の様に揺らぐ水を何度か零してしまいそうになったが、何とか大惨事だけは免れた。
 
 「ふぅ…」
 
 水を運ぶと言う意外に大変な仕事を終えて、私はそっとベッドの枕元にある椅子に座った。そのままそっとディルクの方へと意識を向ければ彼は未だ眠りの中に落ちているようである。出た時とまったく違いのない様子に私は少しだけ微笑みながら、そっと人差し指の先を水の中に浸した。そのまま先端に魔力を集中させて、じっくりと温度をあげていく。
 
 ―えーっと…確か人間の体温が36度くらいだから……。
 
 とりあえずその手前くらいで止めておくのが良いだろう。そう判断しながら私は慎重に温度をあげていく。普段からこうしてお湯を作る事はあったが、今はその時と同じつもりではいけないのだ。良くも悪くも今の私は力が滾っている。今までと同じつもりであればあっという間に水を沸騰させてしまうだろう。そして、沸騰したお湯でディルクの身体を拭いてしまえばそれこそ大火傷だ。
 
 「…よし」
 
 それから十数秒ほど慎重に温度をあげていけばそれなりに良い感じになった。恐らく33度ほどだろう。これくらいであればディルクにとって冷たくも無く、熱くもない丁度良い感じになっているはずだ。そう考えた私は洗面器を机において、床に置いてある皮袋に手を伸ばす。その一番上に置いてあるタオルをそっと取り、洗面器の中に浸していった。
 
 ―後はこれを引き上げて絞って…っと。
 
 見よう見まねでタオルの両端を持って、反発するようにぎゅっと捻る。瞬間、捻られたタオルからどばどばと微温湯が落ちていった。それを広げて自分で確かめてみたけれど、べたついたりはしない。こうして実際に感じるのは初めてだが、丁度良い感じなのだろう。ディルクが自分の身体を拭いている時に眺めていた経験しかないが、何となくそう思った。
 
 「さて…っと」
 
 そのタオルを今度は四つ折りにしながら、彼の頬へとそっと近づける。そのまま黒い煤を塗された彼の頬を拭ってあげようとした瞬間、私の手にディルクの息が掛かった。何処かこそばゆい、それでいて生暖かい感覚。それに私の身体が跳ねるように反応し、全身が燃えるような熱を灯していく。
 
 ―ふ…あああぁぁっ♪
 
 手と言う敏感な部分でディルクの吐息を感じる。それは紛れも無く快感であった。微かな、でも、明白に気持ち良いと言える感覚。暖かで、穏やかで、じんわりと広がっていくそれが貪欲な私はもっと欲しくなってしまう。腕だけでは足りない。全身で感じたいと自然と前屈みになってしまうのだ。
 
 ―はっ…い、いや、いけない。それはいけない。
 
 こうして微かに触れただけでも欲望を滾らせてしまうほどなのだ。それを全身で受けてしまえばどうなるか。それこそ私の理性は吹き飛んでしまうことだろう。文字通りケダモノとなって寝ているディルクに襲い掛かってしまうに違いない。確かにそれは魅力的だが、と言うかぶっちゃけるとかなりシたい気持ちはあるが、それは許容しづらいものだ。
 
 ―だって…こうして折角、身体を手に入れた訳だしねぇ…。
 
 何れディルクにはこの身体の良さをたっぷりと味わってもらう。それは私の中では既に確定事項も同然だ。だが、やっぱり私だって女なのである。初めてはロマンチックに…と言うのは望めないと分かっているが、せめてディルクの意識があるときに、と思ってしまうのだ。
 
 ―だ、だから落ち着け…落ち着くんだ私よ…!!
 
 そう言い聞かせて深呼吸をすると少しだけ私の身体から熱が引いてくれた…気がする。いや、それはやっぱり気のせいなのだろう。下腹部の奥でドロドロと煮え滾る欲望は一向に収まってはいない。寧ろ焦らされているかのような感覚にその熱を激しく燃え上がらせていた。
 そんな私とは裏腹に彼は相変わらず規則的な呼吸で胸を上下させる。一体、どんな夢を見ているのか。穏やかな顔で眠るディルクに少しだけ拗ねるような考えが浮かんでしまう。
 
 ―まったく…この子ってば…どれだけ私を振り回せば気が済むんだろうね♪
 
 起きていても、眠っていても、私の心の中を締める愛しい人。起きている時に私に話し掛けてくれる内容も、寝ている時の小さな仕草も、変わらず私の胸を掻き乱す。それが妙に嬉しくて、私はまた微笑を顔に浮かべた。
 
 「ま…今はとりあえず…許してあげるよ♪」
 
 聞いてもいない相手に勝ち誇るように言いながら、私はそっとディルクの頬を拭っていく。無論、力加減も分からない私はそれすらもおっかなびっくりだ。一歩一歩確かめて歩くようにして少しずつ力を篭めていく。それが功を奏したのだろうか。ディルクの頬からゆっくりと煤が消えていき、代わりにタオルが黒く汚れていく。それに大きな満足感を得ながら、私は再びタオルを洗面器の中に浸して洗った。
 
 ―ふふ…♪私だってやれば出来るじゃないか♪
 
 今まで物質世界と隔離されていた身体だった所為で正直、自信は無かった。だけど、私は今、彼にきちんと仕える事が出来ている。彼の役に立てている。その実感は今までどうしても薄かったものだ。だからこそ、今の私の心は浮かれきっていて、もっと彼に色々としてあげたいと思ってしまう。
 
 ―まぁ…幸いにしてまだまだ汚れは一杯あるしねぇ…♪
 
 彼を着替えさせる時にその身体には一杯、汚れがついているのを見ているのだ。それは煤であったり煙であったり様々であるが、まだまだ私には出来る事が一杯ある。それが私には嬉しくて、ついついニヤリとした笑みを浮かべてしまう。何処かいやらしいそれに自嘲を浮かべるが、いやらしい事を期待しているのは事実だけに否定出来ない。
 
 ―さぁって…それじゃあ…♪
 
 そのいやらしい事を振り払うように私は椅子からベッドの縁へと座りなおす。スプリングの効いた柔らかいベッドが私の体重にギシリと小さな悲鳴をあげた。それは勿論、純精霊だった頃には決してなかったものであろう。だが、女としてはやはり重いと言われるような音はどうしても気になってしまうのだ。喜んで良いのか悪いのか。その狭間で少しだけ悩みながら、私はさっき掛けた布団を引き剥がしていく。
 
 ―ふふふ…♪なんだか…ちょっと興奮しちゃうねぇ♪
 
 愛しい人を護る壁を一つまた一つを崩していく感覚。無防備な姿を晒すディルクに少しずつ近づいていくそれは私の中の興奮を否応なく高めていく。それだけでもう身体が蕩けてしまいそうになるくらいな熱に私の全身がブルリと震えた。それは興奮を逃がすためなのか、それとも高めるためなのか。自分自身でも分からないまま、私は右手側の袖をそっと捲くった。
 
 「じっとしておいておくれよぉ…♪」
 
 聞こえているはずの無い相手にそう言いながら、私は再び洗面器からタオルを取り出した。そのまま同じようにぎゅっと無駄な分を搾り出し、大きく広げる。それが大丈夫である事をしっかりと確認してから私は彼の右手を拭いていった。撫でるよりも少しだけ強いその力加減に擦られた汚れはどんどんとタオルの方へと移っていく。それに満足感と充実感を得ながら、私は二つ三つと他の汚れも落としていくのだ。
 
 ―ふふ…悪くないもんだねこういうのも…さ♪
 
 右手が終われば左手へ。その間、眠りの中へと落ちた彼は何の抵抗も示さない。ただ、私の手によってされるがままになっている。それが私の奥底から歓喜と欲望を沸き上がらせるのだ。私のまだまだ拙いであろう奉仕を受け取ってくれる彼に歓喜を、そして今であればどんな事だってバレないであろうという欲望を。
 
 ―今なら…どんな事でも…っ♪
 
 例えキスしても、その汗の浮かんだ身体を嘗め回しても、その指を秘所へと誘い込んでも、きっとバレる事は無いだろう。幾らでも誤魔化す事が出来るのだから。そう思う私の奥底で欲情が加速していく。ディルクの身体を今すぐ貪りたいと、私で一杯にしたいと、そんな感情が溢れて止まらないのだ。
 
 「うぅ…いや、駄目だよそれは」
 
 その感情を振り払うように言いながら、私はそっとディルクのシャツに手を伸ばした。そのまま下から捲り上げるようにゆっくりとあげていく。逞しく引き締まった身体にも幾つか汚れが着いているのだ。それは私にとって見逃せるものではない。ここもしっかりと拭いてあげようと私はタオルを握り直した
 。
 ―だけど、その瞬間、ディルクの汗の匂いが…っ♪
 
 タオルで拭かないまま着替えさせたからだろう。ディルクのシャツの内側にはたっぷりと彼の匂いが蓄えられていた。それが今、こうして空気中に一気に拡散し、私の鼻腔を擽っている。それは無論、私にとっては理性の天敵だ。ゴリゴリと音を立てて理性が削られていく感覚に私の口から吐息が漏れ出る。
 
 「ふ…あぁぁっ♪」
 
 甘い媚をたっぷりと塗したそれに私の背筋が大きく震えた。メスの欲望を、愛しているオスと身体でも繋がりたいと叫ぶ欲望をたっぷりと塗したそれに私の身体がさらなる熱を灯す。だが、私はそれに負ける訳にはいかない。せめてディルクが起きるまで我慢しようと必死で堪え様とした。だが、彼の体臭と言う思いも寄らない援軍を得た欲望の勢いは止まらず、どんどんと私に迫ってきている。
 
 ―駄目駄目…駄目…だってば…!
 
 その欲望を振り払うように、私はそっとディルクの身体に手を伸ばす。だが、それは余りの興奮で震えていた。ふるふると震えるその腕は何処か弱弱しく、今にも手拭を落としてしまいそうである。それを私は堪えながら一個一個丹念に汚れを拭き取っていった。
 
 ―ん…あぁ…っ♪
 
 だが、それでも私の欲望は止まってくれる訳ではない。もはや抑えつける事さえ難しくなった私の劣情は世界の何もかもを淫らに見せるのだ。綺麗に割れたの腹筋も、その間に溜まった小さな汗も、硬い胸板も…全てが私の欲情を掻き立てるものに見えて仕方が無い。自然、荒くなっていく吐息に私は更なる興奮を覚えてしまう。自分で自分を興奮させると言う浅ましい姿に被虐感すら感じた瞬間、私の手はスラックスとの境目に当たった。
 
 「あっ…♪」
 
 それはコツンと当たっただけの小さな接触であった。痛みも何も感じない、触覚だけを刺激される程度の。だが、それが私に大きな衝撃を与えるのだ。何せ…私は意図的に彼の下半身を意識しないようにし続けていたのだから。着替えの時だって危なかったと言うのに、今の状態でディルクの下半身を意識してしまったらどうなるか。それこそ加速した劣情のまま彼に襲い掛かってしまってもおかしくはないのだから。
 
 ―だけど…私はもう触れてしまった…♪
 
 意識してしまった以上、そこにどうしても目がいってしまう。ドキドキと早くなる鼓動を聞きながら、下腹部にある小さな膨らみを凝視してしまうのだ。そこはディルクのオスの部分にして、もっとも敏感な場所だろう。そして…今の私にとって咽喉から手が出る程欲しい部分であり…私の劣情を滾らせるものでもあるのだ。
 
 ―み、見るだけ…見るだけだよ…!
 
 それは決していやらしい意味じゃない。ただ…彼の下半身に汚れが無いかをチェックするだけだ。それ以外に何ら意図のある行動ではない。――そう言い聞かせてはいたけれど、私もそれが欲望に負けただけであると理解していた。何せ私の下腹部はゆっくりと手をそこへと手を伸ばすだけで熱い炎を吹き上げるようにして歓喜しているのだから。全身に一気に勢力を増やし、私の炎を燃え上がらせるそれは私の本能が喜んでいる何よりの証拠だろう。
 
 ―でも…でも、私はもう…我慢出来ない…っ♪
 
 その言葉と同時に私は彼のスラックスに手を掛けた。そのままゆっくりと下へと引っ張るようにして脱がしていく。寝ているディルクに気付かれないように、ゆっくりと静かに。それが功を奏したのか、或いはまだまだ彼の眠りは深いままなのか。ディルクは寝返り一つ打たないまま安らかに寝息を立てている。その間に私の手は中ほどまで下りて、ディルクの下着が私の前に晒された。
 
 ―さっきは…これを換える理性はなかったけれど…。
 
 脱がされた服と同じでそのパンツもまた所々に黒い煤をつけていた。と言う事はその下にもあるディルクの身体にも少なからず汚れが着いているという事だろう。どうせやるのであれば、彼の全身の汚れを拭き取ってあげたい。だから、こうして下着を脱がそうとしているのは決していやらしい意味ではないのだ。そう自分自身に言い訳をしながら、私の両手が今度はパンツの裾を掴む。そのままゆっくりと下へと引き摺り下ろしていき…――そして―
 
 「ふあああぁぁ…♪」
 
 ぴょこんとパンツから浅黒い何かが飛び出してきたと思った瞬間、私の鼻腔を独特の匂いが飛び込んできた。今まで肉体を持たない私にとっては何とも表現し辛い刺激的な匂い。鼻の奥を突くようにも感じるそれは、同時に私の下腹部の熱を激しいモノにしていく。私だって魔物だ。例え嗅いだことが無くたって…その感覚だけで『コレ』が何なのか分かってしまう。
 
 ―オスの…これがディルクのオスの匂い…っ♪
 
 嗅いでいるだけで意識が遠くなってしまいそうな淫らな匂い。何もかも反応に委ねてメスに堕ちてしまいたくなる匂いに私の炎は今まで以上に燃え上がった。天井を焦がすほどの勢いを手に入れたそれは私の身体がそれだけ燃え上がっている証左なのだろう。実際、こうして匂いを嗅いだだけでも私の身体は蕩けてしまいそうな熱を広げていた。
 
 ―でも…これはまだまだ序の口なんだ…ね♪
 
 その匂いの源であろうディルクのオチンポはまだ半勃ちのままだ。硬くも無く、柔らかくも無いそれはこの淫らな匂いに先がある事を教えてくれる。それに私はもう我慢出来ない。人差し指ほどの長さのオチンポに震える両手を近づけていくのだ。
 
 「あぁ…こ、こんな所にも汚れが…あるね…ぇ♪これは…じっくりと拭かないと…♪」
 
 そう言いながらも、私の手にはもうタオルなど握られてはいなかった。それは彼の腹筋の上にあった煤を拭いたまま放置されているのだから。直接触れる私の手では汚れをふき取ることなど出来ないだろう。だが、それでもまだ欲望に敗北していることを認めたくない私の理性はそんな言葉を漏らさせるのだ。
 
 「あぁ…っ♪これが…ディルクの…♪♪」
 
 そんな私の手がディルクのオチンポに触れた瞬間、私の心に例えようもない喜悦が溢れてきた。それも当然だろう。私にとってこうしてディルクのオチンポに触れるというのは念願も同然であったのだ。私ではない別の誰かにこのオチンポが出し入れされるのを見て、何度悔しい思いをしただろうか。だけど、今、それが私の手の中にある。私の手の中で、私を感じてピクピクと震えてくれている。それが嬉しくて、そして気持ち良くって、私の身体の奥からジュンッと熱い粘液が零れ落ちていくのだ。
 
 「はぁ…ぁっ♪ディルクぅ…っ♪」
 
 甘えるような声を出しながら、私の手は確かめるように指を這わせ始める。人差し指大の大きさのオチンポはそれに敏感に反応して震えた。この街に着てからディルクは一度だって女をナンパしてはいない。それ以前の旅路でもオナニーもしていないのだから、きっと溜まっているのだろう。そうと分かっていても私の手でディルクを悦ばせているという感覚は小さなものにはならない。ずっとずっとしたかったそれに興奮と満足感が湧き上がり、私の心を埋め尽くしていった。
 
 「すごい…たくましいよぉ…♪」
 
 半勃つ状態の肉棒はほんの少し触れるだけでもどんどん硬く、そして大きくなっていく。ビクンと震える度にその身を一回りも二回りも大きくしていく姿は相変わらず人間の一部とは思えない。もっと別な…とても淫らな部分のように思えるのだ。
 
 ―そして…今、その淫らな部分を私が触っていて…っ♪
 
 まだ何処か柔らかさを残すオチンポを私はそっと握り直した。その私の手の間から真っ赤な亀頭がちょこんと顔を出している。サクランボの色に似た鮮やかなその粘膜に私の口からまた甘い吐息が漏れ出た。そして、それに反応するようにディルクのオチンポはドクンドクンと脈打ってくれる。まるでもっと触って欲しいとオネダリしているようなそれに私はもう我慢出来なくなってしまった。
 
 「はぁ…っ♪はぁぁ…っ♪」
 
 ケダモノ染みた荒い吐息が断続的に私の口から漏れるのと同時に私の指が上下に動き始める。最初はゆっくりと感触と形を覚えるように。無論、そこには力加減が分からないが故の不安も存在していた。だが、それも少しすれば慣れてくる。ディルクのオチンポの形を脳裏で思い描けるようになった頃には私の指はディルクのオチンポにしっかりと密着していた。
 
 ―んふ…っ♪こうして…少しだけキツいくらいの圧力で…♪
 
 力が入っていなくてもディルクは気持ち良くはない。かと言って、キツ過ぎれば快楽よりも痛みを感じる。その痛みの手前が今の力加減なのだろう。コスコスと少し上下するだけでもビクンビクンとオチンポが手の中で暴れた。身悶えするほど悦んでくれているような様子に私の口からまた甘い溜め息が漏れ出る。
 
 「は…ぁぁっ♪♪」
 
 それは脳髄まで劣情に染まりきったメスの溜め息だ。欲情と媚をたっぷりと浮かべてオスを誘うような色をたっぷりと塗しているのだから。だが、それも仕方ないだろう。だって、彼のオチンポはもう私の片手では収まり切らない大きさにまで成長しているのだ。その幹の半分ほどは既に私の中から溢れている。今まで数多くの女を泣かせてきたディルク自慢の逸物がこうして私の前にその姿を晒し始めているのだ。それに興奮を感じない訳がないだろう。
 
 「はぁ…♪やっぱり……すっごく良い匂いだよぉ…っ♪」
 
 大きくなった肉棒の先端に鼻先を近づけて、スンスンと鳴らせば頭の奥にジィンとした甘い熱が灯った。オス臭さとも言うべき独特の匂いは大きくなった肉棒から溢れんばかりに放たれている。それは劣情を催したオスのフェロモンとも言えるかもしれない。嗅いでいるだけで御腹の奥――もっともメスの本能が強い子宮が疼いて仕方なくなってしまうのだから。
 
 「こんなのずっと嗅いでたら…私おかしくなりそ…♪」
 
 こうして鼻を近づけるだけでも頭の中が痺れて、オチンポ以外に何も考えられなくなってしまいそうなのだ。これがもっと濃くなれば…もし、精液の匂いなど嗅いでしまえばどうなってしまうのか。多分、理性などあっという間に投げ出して、彼の上で腰を振る浅ましいメスに堕ちてしまうだろう。今でさえそうなってしまいたいと心の奥から欲望が湧き上がって来るのだから。
 
 ―でも…それに負けたくは無い…ね♪
 
 いや、何れはそれに負けてしまうだろう。私とてそんな事は分かっている。胸の奥から湧き上がる欲望に理性は既に白旗を上げているも同然なのだ。後はじわりじわりと押し込まれて、なし崩しに先へと進んでしまう。そんな未来が私の中には描き出されていた。だが、それでも私にはまだ「ディルクと想いを交わした初めてのセックス」を夢見る心が残っている。それが私の中の最後のブレーキとなって、欲望を押し留めていた。
 
 ―それより今は…っ♪
 
 ディルクの上に乗っかって浅ましく腰を振るうのも良い。だけど、それよりも今は手の中の肉棒に集中しよう。そう必死で矛先を変えて、私はまた甘い吐息を吐き出した。そのまま顔をオチンポの根本に埋めるように近づけながら、手の動きを再開する。それはゆっくりと根本から亀頭のすぐ下まで扱き上げる動きだ。だが、興奮を高めたオチンポにはそれはもう焦らされているようにしか感じられないのだろう。その震えを何処か不満そうなものへと変えて、私へと自己主張してくる。
 
 「まったく…しょうがないねぇ…♪」
 
 それに渋々といった感じで言いながらも、その声にはたっぷりと媚が塗されていた。私とてこれ以上を望んでいない訳ではないのだから当然だろう。ただ、ディルクへのご奉仕と言う名目上、その大義名分が欲しかっただけなのだ。自分でも面倒臭い女であると思うものの、こうでもしなければ理性と欲望の折り合いがつけられない。
 
 「じゃあ、お望みどおり…ゴシゴシしてあげるよぉ♪」
 「うっ…」
 
 その言葉と同時に手の動きを早くしていく。じっくりと時間を掛けて上下するのではなく、両端を往復するような動きへ。何処か抽送を髣髴とさせる動きに私の後頭部の辺りがぼぅっと熱くなる。疑似的なセックスとも言えるその動きに私の興奮も否応無く高められていっていた。その上、激しくなった快楽にディルクがそっと呻き声をあげてくれるのだから、充実感もプラスされる。その感覚に私の炎はさらに勢いを増して、小さな部屋に真っ赤な華を広げた。
 
 「はぁ…♪はぁ…♪はぁぁっ♪」
 
 一回擦ればまた大きくなり、二回擦れば匂いが強くなる。そんな逞しくも美味しそうな肉棒に熱い吐息が途切れない。まるで身体の中に渦巻く淫らな熱を吐き出そうとしているようだが、どれだけ息を吐いても私の身体が収まる事は無かった。寧ろ欲情をたっぷりと篭めたメスの息に自らの興奮を高めて、より熱くなっていくのである。
 
 「はぁぁっ♪ディルクのオチンポ……凄いよぉ…♪すっごく…大きくってビクビクしてる…ぅ♪」
 
 誰も聞いていないというのに私の口からは欲情塗れの声が溢れ出る。それもまた私の身体の中では収まり切らない興奮を外へと吐き出そうとしているのかもしれない。だが、それは私の中へ快楽と言う形で返ってくるのだ。普通は決して言いたくはないであろう淫語を漏らすという被虐的なシチュエーション。だが、それは私に独特の開放感と被虐的な快楽をくれるものであった。そして、それを一度、覚えてしまった私はもう我慢出来ない。次々に思いつく限りの淫らな言葉を漏らして、その快楽を浅ましく貪ろうとしていた。
 
 「それにすっごくオス臭くて…私の御腹もう疼きっぱなしだよぉ…♪キュンキュンしちゃって…オチンポ欲しくって堪らない…っ♪♪」
 
 その言葉に応えるように子宮から激しい疼きが広がる。ビクンッと背筋を震わせるようなそれにベッドが小さな悲鳴を上げた。だが、私はそれに気を割いている余裕は無い。何せ今、感じた疼きは今までとは一線を画すものであったのだから。まるで私の言葉を本当にしようとしたような感覚に口の端からドロリと涎が零れ落ちてしまった。
 
 ―あぁ…っディルク…ごめんね…ぇっ♪
 
 私の涎で彼の身体を穢してしまった。その後悔が私の中に広がる。だが、それは何処か劣情にも近い色を灯していた。愛しい人を自分の体液で穢すと言う背徳的な行為が彼を自分色に染め上げているように見えてしまうのである。それはまったく現実と即していない幻想であろう。だが、一度、脳裏に染み付いたその考えは消えてはくれない。寧ろ後悔と共にその領域をじわりじわりと広げて、私の芯を大きく揺らした。
 
 「ふ…あぁぁ…っ♪」
 
 身体中に広がるような淫らな妄想。それにもう一つ吐息と共にドロリと唾液が零れ落ちた。それが先に落ちた分と合流し、その域を大きく広げる。それが上下する私の手にも触れてにちゃにちゃと言う音をかき鳴らし始めた。
 
 ―こんな…こんなやらしい音ぉ…っ♪
 
 オチンポの根本で手と触れ合う度ににちゃねちゃと淫らな音を立てて、その手が上がる度に糸を引く。それが私の中のセックスのイメージと完全に一致した。目を閉じて音だけに集中すればそれは本当に彼と交わっているようにも聞こえるのである。それが嬉しくて私の口からまたドロリと唾液が零れ始めた。
 
 「はぁ…っ♪こんな…こんなにやらしいの…にちゃねちゃって…本当にセックスしてるみたい…♪」
 
 ―ううん…したい…っ♪私…ディルクとセックスしたいよぉっ♪唾液じゃなくって愛液参れのオマンコの中に思いっきり突っ込んで欲しいっ♪
 
 そんな欲望の声から目を背けながら、私はもう片方の手でそっとディルクの根本を触った。指を広げたまま覆いかぶさったそれは掌一杯に私の唾液を絡みつかせる。指の間に糸を引く透明な粘液はヌラヌラと私の手を光らせていた。それに満足気な笑みを浮かべながら、私はそれをそっとディルクの亀頭に被せる。
 
 「うあっ」
 「んふふ…♪折角出した粘液なんだから…ちゃんと再利用しないとねぇ…♪」
 
 言い訳染みた言葉を紡ぎながら、私は亀頭の先に置いた手をぐりぐりと左右へと回し始める。手首を捻る様なその動きにディルクのオチンポ全体が震えて反応してくれた。いや、それどころか新しい潤滑油だとばかりに先端からドロドロのカウパーを漏らしてくれている。オスが感じたときに出すその透明な粘液に彼が感じてくれているのを確信した。
 
 「ディルクも…とぉっても感じてくれてるんだね…♪私の手で…他の女じゃない私の指で…っ♪」
 
 そう言っただけで私の炎は爆ぜるように喜んだ。他の誰でもない自分の手の中にディルクが居る。その上、彼がカウパーまで漏らすほど感じてくれている。その実感がようやく私に届いたのだろうか。一気に満たされた心の中に暖かい感情が宿る。劣情や欲情と言われるものとは一線を画すその暖かな感情は愛や恋と呼ばれるものなのかもしれない。だが、私の中に渦巻く欲望とあっという間に結びついたそれは私自身にも殆ど知覚されないまま別の感情へと変化させられた。
 
 「私も…私もとっても気持ち良いよぉ…♪ディルクがこうして感じてくれるのが分かるだけで…私…私ねぇ…っ♪」
 
 それは決して嘘偽りのない言葉であった。それも当然と言えば当然だろう。私の身体を構成するのは全てサキュバスの魔力なのだ。意識を書き換えるまでに私へと染み込んだその魔力は不定形である。人間のように舌は味覚を感じるものであるなどとは決まっていない。それらを統御する私が「より人間らしく」なる為に「舌は味覚を感じるもの」と定めているだけで、とてもあやふやで曖昧なものだ。つまり私はその気になれば指で感じるどころか膣肉を抉ってもらえるような快楽を得ることが出来るのである。
 
 ―無論…まだそのつもりはないけれど…ね♪
 
 だけど、そのあやふやさが本能に強い影響を受けているのは確かだろう。実際、こうしてディルクを密着している指はもう既に蕩けそうになっていた。その皮越しに彼の興奮とオスの熱を感じた私の指は、それを吸収しようと淫らな面を前面へと押し出しているだろう。その血管が脈動する度、オチンポが滾る度にビリビリとした快感が私の胸へと突き刺さった。
 
 「はぁ…はぁ…♪もう…にちゅにちゅ…でぐちゃぐちゃぁ…っ♪」
 
 そうしている間にディルクのオチンポは私の唾液塗れになってしまった。亀頭の上で撫で上げていた手から幹に零れ落ちた分、もう片方が広げたのだろう。私の両手が蠢く度ににちゃにちゃと音のハーモニーをかき鳴らしていた。その上、窓から入り込んでくる薄暗い光の中でテラテラと光る肉棒には独特の雰囲気がある。何処か扇情的で退廃的なその光景も私の本能を擽り、燃え上がらせるものだった。
 
 「あは…はは…っ♪ディルク…っ♪ディルクディルクぅ…っ♪」
 
 甘えるように彼の名前を連呼しながら、私は手の動きをさらに早くしていく。それはもう暴力的とまで言って良い速さかもしれない。だが、チラリと見上げた彼の顔には苦痛の色は浮かんではいなかった。変わりにあるのは快楽に蕩けたものだけで私の心を安心させてくれる。
 
 ―まぁ…ここまで唾液塗れになってれば当然なのかもねぇ…♪
 
 その全身を唾液でテラテラと光らせているのだ。その摩擦もかなり少なくなってしまっている。それは激しく動かす私の手からオチンポを保護しているのだろう。そして、なくなった痛みを全て快楽へと換えてディルクに注ぎ込まれているのだ。
 
 「うふふ…こんなに激しくても気持ち良いんだね…♪もっと一杯…もっとゴシゴシしてあげる…っ♪」
 
 それに私の興奮はさらに燃え上がっていく。可愛いディルクをもっと気持ち良くしてあげようと亀頭を撫で回す手にも力を入れ始めるのだ。無論、亀頭はオスの身体の中でも断トツに敏感な部分である。その力加減には細心の注意が必要だろう。だが、その亀頭の先は今や溢れんばかりとなったカウパーでしっかりと保護されているのだ。少しくらい無茶な動きをしても大丈夫だろう。そう判断した私は亀頭を撫でる指を少しだけ伸ばしてカリ首にそっと指を置いた。
 
 「うああ…っ」
 
 その瞬間、ディルクがそっと背筋を浮かせる。一瞬、起きたのではと思ってチラリと顔を見上げたが、ディルクに何かしらの動きは無かった。きっとあまりの刺激に反応しただけなのだろう。そう思うと安堵と失望が入り混じった感情が顔を出した。こんな現場を押さえられてしまえば言い訳出来ないので、そうならなかった安堵。そして、起きた彼を押し倒して、早くその肢体を味わい尽くしたいかったからこその失望。その矛盾する感情が私の中で少なからず葛藤となっていたのである。
 
 ―でも…今は…ぁ♪
 
 良きにせよ悪きにせよディルクは起きなかった。ならば、ここで立ち止まっている余裕は無い。後から後から沸き上がってくる欲望に負けないためにもこうしてジリジリと撤退戦を続けなければいけないのだから。真正面から当たればあっという間に粉砕されてしまうであろう欲望に理性を切り売りしながらしのいでいるのが現状だったのである。ここで足を止めてしまえば劣情に飲み込まれてしまうだろう。そうなれば、今までの行為が完全に水の泡とかしてしまうのだ。
 
 ―そうならない為にも…ねぇ♪
 
 カリ首に這わせた指をそっと密着させる。無論、その時に決して爪等は立てない。優しく指の先で抓むようにして押さえるのだ。けれど、その間にも鈴口の上では激しく掌が踊っている。カウパーと唾液を絡ませあうその動きに呼応して、カリ首を押さえた指もまた激しく移動していくのだ。それにディルクはまた背筋を震わせて、たっぷりと悦んでくれる。それどころか先端からまたトロトロとカウパーを溢れ出させてオネダリまでしてくれるのだ。
 
 「うん…っ♪良いよぉ…♪たぁっぷりと…感じさせてあげるからねぇ…♪」
 
 オチンポの根本でそう囁きながら、私の両手はさらに激しくディルクを責めたてていく。そこにはもう何の容赦も存在しない。ただ、快楽を貪り、そして与えようとする意思だけだ。その中には既に「拭いてあげている」と言う大義名分すら存在せず、身体中でディルクを求めるような欲望だけが渦巻いている。
 
 ―あはは…♪どうにもやばいね…これは…っ♪
 
 それはディルクも同じようなものなのだろう。私の手の中で膨れ上がるそれはビキビキと青筋を立てるほどになっており、その逞しさだけでも蕩けてしまいそうだ。その上、その全体からさらに濃くなった匂いを撒き散らしているのだから溜まったものじゃない。脳髄がドロリと溶け出していくような感覚と共に私の中の理性が消えていくのを感じるほどだ。
 
 ―あぁ…もう…我慢出来ない…よぉっ♪
 
 そう思い浮かばせた瞬間、ずっとオチンポの根本で甘えるように横たわっていた私の首が上がった。そのままゆっくりと背筋と共に上へと上がり、オチンポの真上に陣取る。反り返ったオチンポをこうして真正面で見ると真っ赤に膨れ上がった亀頭が私を指しているようにも感じられた。いや…それは指しているのではないのだろう。きっと…そう。きっと『食べてもらいたがっている』のだ。
 
 「ふふ…っ♪ディルクったら甘えん坊なんだから…ぁ♪」
 
 思い返せば、昔の彼は今よりもずっと甘えん坊であった。まだ村が健在であった頃は遊び惚けて良く怒られていたのである。だが、その後に甘えた姿を見せるのだから、ディルクの母親も強くは言えなかったのだ。甘えん坊で甘え上手。それが本来のディルクの姿なのだろう。復讐を心に決めて歩き出してからはそれがすっかりと鳴りを潜めていたが、人間の本質が十年ちょっとで変わるはずが無い。今の彼もきっとまだ何処かで甘えたい気持ちがあるはずだ。
 
 ―だから…たっぷりと甘えさせてあげる…♪
 
 その言葉を胸に私はゆっくりと口を開いていった。興奮の所為か、既に口の中一杯に溢れた唾液は重力に引かれてドロドロと落ちていく。無論、その先には私の大好きなオチンポがあるのだ。亀頭の先から全体に降り注ぐような唾液にオチンポはピクピクと震えて喜んでくれる。だけど、彼に甘えさせえてあげたいという欲望を灯した私はこの程度では止まらない。両手を広がった唾液を塗りたくるように動かしながら、ゆっくりと下へと降りていくのだ。
 
 ―そぉしてそのままぁっ♪
 
 亀頭の先の手を横へとズラして、私はぱくりと亀頭を口の中へと咥え込んだ。瞬間、私の頭の奥で電流にも似た快楽が走る。バチバチと弾けるようなそれに共鳴するように私の全身へとオチンポの感覚が伝わっていくのだ。舌で感じる塩っぽい味も、唇で感じる硬さも、口腔全体で感じる大きさも。何もかもが私の中へと刻み込まれるように走り回っていくのだ。
 
 ―あは…ぁ♪もう…もうこれ以外要らないぃっ♪
 
 一瞬で刻み込まれたそれはまるで烙印のようであった。私の所有者が誰であるかを示す絶対的な焼印。それはもう私から引き剥がされる事は無く、永遠に共にあり続けるだろう。だが、私にとってはそれが幸せであった。心だけでなく身体にも私がディルクのものであると刻み込まれる感覚。それに私の炎が一気に燃え上がった。天井を撫でる程に膨れ上がったそれはもう私にも制御の出来ないものである。この身に宿した興奮を発散するようなその炎が小さな部屋を埋め尽くしそうにさえなっているのだ。
 
 ―はぁ…っ♪ディルクぅっ♪
 
 そこまで欲情を滾らせる自分に興奮を抱きながら、私はそっと瞳を閉じた。そのまま口で味わうオチンポの感覚にしばし心を委ねるのである。指よりも遥かに鮮明に感じられるオチンポの感覚に私は何度も心を震わせ、蕩けそうになってしまう。閉じた目蓋の裏にぼんやりと亀頭の姿が浮かび上がった頃には私の頭はもう逞しいオチンポの事で一杯になり、理性を完全に投げ捨ててしまっていた。
 
 ―あぁ…美味しいよぉっ♪このオチンポ美味しい…っ♪ディルクのオチンポ最高だよぉっ♪
 
 そして欲望に完全敗北した思考がねっとりとした言葉を広げた。それに従うようにして私の舌がゆっくりと動き始める。それは亀頭の周りをゆっくりと回るようなものだ。オチンポを味わうようなその動きに私の舌は存分に応えてくれる。亀頭の裏側のむき出しになった筋の部分も、真っ赤に膨れ上がった粘膜も、たっぷりと味わいつくしてそのオスの匂いを伝えてくれた。それが私にとっては身を震わせるほど嬉しく、後から後から唾液をあふれさせてしまう。
 
 ―ひゅぅぅん…♪あぁ…勿体無い…ぃっ♪
 
 パクリと咥え込んだとは言っても亀頭と唇の間には微かな隙間があったのだろう。幾つかの唾液が私の唇から零れ落ちてしまった。さっきまではそれを広げていた私の手は今はお休み中である。より口の感覚に集中しようとする私の思考はさっきから手を止めてしまっていたのだから。それを動かそうにも鮮烈過ぎるオチンポの感覚に邪魔をされてしまう。別に唾液などは無限に溢れ出るものであると分かっていても、それを快楽を助長する道具に使えないというのが私にとって心を痛める一つの要因でもあった。
 
 ―別に…そこまで貧乏性なつもりは無かったんだけど…ね♪
 
 しかし、こうしてずっとディルクと一緒に長旅をしているのだ。その中で荷物を最低限に抑えるために様々なものを使い切ろうとする思考が育ったのだろう。今までは文字通り死活問題であったディルクが色々と管理してくれていたから表面化はしなかったが、こうして肉体を手に入れた今、私にもそういう感情が芽生え始めているのだ。
 
 ―んふ…♪だったらぁ…♪
 
 カリ首の下辺りできゅっと唇を窄めて、私はディルクのオチンポと密着した。無論、行き場の無くなった唾液が閉じられた口に阻まれてしまう。興奮の所為か熱を灯し、ドロリと糸を引く唾液がゆっくりと下の方へと溜まっていっているのだ。それを私は舌先でそっと救い上げながら、グリグリと亀頭へと刷り込んでいく。
 
 「うぅ…う……」
 
 ―あはぁっ♪ディルクがぁっ♪ディルクが私の唾液で感じてくれるぅっ♪♪
 
 たっぷりと粘液を塗した舌と真っ赤に腫れ上がった粘膜が触れる度にディルクのオチンポはビクビクと震えてくれる。オチンポ全体を震わせる動きは今までとは比べ物にならない。きっとディルクは今、とても気持ち良くなってくれてるのだ。それが手に取るように分かった気がして、私の頭の奥からジュンと熱い何かが漏れ出る。蕩けた脳髄と共鳴しあう様なそれに私の背筋は震えて、もっともっととエスカレートさせていってしまうのだ。
 
 「じゅる…っ♪ひゅ…ふぅっ♪」
 
 より激しさを求める欲望のまま私は一気に口を窄めた。それはもう密着と言う言葉では説明がつかないものであろう。奥へ奥へと引きずり込むように亀頭の先を吸い上げているのだから。窄まった頬がきっと情けない顔を演出しているに違いない。だが、それを理解していて尚、私はそれを止めることは出来なかった。
 
 ―だってこんな…っ♪こんなに美味しいなんてぇっ♪
 
 一気に近づいた頬の粘膜もまた彼の剛直の逞しさを感じてくれる。熱くて、激しくて、逞しいオスの証。それだけでも蕩けてしまいそうなのに、ディルクの先端からはカウパーがまた溢れ始めているのだ。私の唾液と合わさったそれはとても甘く、口の中が蕩けてしまいそうである。それでいてあの独特のオス臭さが私の頭へと突き刺さってくるのだ。それはまだ『食事』と言うものすら味わっていない私にとって、鮮烈過ぎるものだろう。
 
 ―こんなの味わったら…もう他の何か食べられない…っ♪
 
 私はこれまで『食事』をした事がない。だから、私が想像もした事のないほど美味しい料理と言うのも存在するかもしれないだろう。だが、私の本能が、身体が、これ以上美味しいものなどないと言っている。いや…正確には『愛しいオスの精液』以上に美味しいものはないと言っているのだ。その片鱗だけでもこれほど蕩けてしまいそうなのに、もし、その『精液』を味わってしまえばどうなるか。本格的に壊れてしまってもおかしくはない。
 
 ―あぁ…っ♪でも…壊れたい…っ♪
 
 壊れてディルクの精液だけを飲んで生活したい。ディルクのオチンポだけを感じて生きていきたい。ディルクに何もかも預けて彼だけの事を考えていたい。そんな欲望が私の中で今、産声をあげた。まだ生まれて間もないそれはあっという間に勢力を増して、私の身体を乗っ取っていく。
 
 「んひゅ…♪れろぉぉ♪」
 
 その欲望に従って私は亀頭を吸い込むのを止める。このまま同じ事を続けて、ディルクが慣れてしまっては意味が無いのだ。彼自身も言っていたが、こういう交わりで大事なのは緩急である。ずっと同じ事を続けられれば幾ら気持ち良くても飽きてしまうのだから。
 ―だから…代わりにぃ…っ♪
 
 吸い込むのを止めると言っても、男根と密着するのを止めた訳ではない。緩急をつけるといってもここで何もしないなんて私の本能が許さないのだ。その証拠に私の舌は舌先を尖らせて鈴口をくりくりと刺激している。ぴったりと閉じた亀頭のお口にキスするようにして必死にこじ開けようとしているのだ。それがディルクにとっては気持ち良いのだろう。少し舌先をくねらせるだけで腰を浮かしそうなほど悦んでくれていた。
 
 ―あはぁっ♪それに…カウパー直接舐めるの美味しい…っ♪
 
 私の唾液で幾らか味が変わっていたのだろう。直接味わうカウパーは余計にオス臭いものになっている。味もそこまで甘ったるくなく、何処かすっきりとしたものになっていた。かと言って、美味しさと言う総合的な分野ではどちらも劣ってはいない。寧ろそれぞれを味わいつくす事で舌がその差をより顕著に感じ取り、より淫らで美味しいものであると認識させてくれているのだ。
 
 「くちゅ…じゅるるっ♪」
 
 鈴口を穿る舌先を一旦止め、私はそ処でまた一気にオチンポを吸い上げた。自然、きゅっとしまった口の中でオチンポがビクンと震える。鮮烈な鈴口への集中攻撃から全体を慰撫するような愛撫へ。その落差がきっと今の彼には強く響いているのだろう。薄目を開けてちらりと様子を見れば、ディルクの顔には苦悶にも似た快楽の色が灯り始めていた。
 
 ―ふふふ…嬉しいなぁ…っ♪
 
 そうやってディルクが私の拙い愛撫で悦んでくれている。その感覚が私の中に甘い熱を灯す。誰よりも愛しくて、誰よりも傍にいたオスが感じてくれているのだから当然だろう。無論、もっと彼に気持ちを良くなって欲しいと言う感情も強くなり、私はじゅるじゅると音を立てながらオチンポを深く飲み込んでいく。
 
 「うあ…っ」
 
 それにディルクが小さく呻いたのを無視しながら、私はオチンポの中ほどまで飲み込んだ。咽喉の手前まで差し込まれた亀頭の存在感が凄まじい。微かに触れる程度だと言うのにその熱も逞しさも、私の口腔で撒き散らされているように感じるのだから。熱く滾った肉幹も例外ではなく、ドクンドクンと脈動しているのが分かった。
 
 「ひゅふ…♪でゅる…っ♪」
 
 そんなオチンポに対して私はきっと淫猥な表情を浮かべているのだろう。必死になって口を伸ばしてオチンポを咥え込んでいる上に、その滾りを感じているのだから。蕩けた頭に欲情と鼓動が反響し、ジンジンと甘く響く感覚もさっきから止まない。口の端からは抑えきれなかった涎が潤滑油としてドロドロと零れてさえいるのだ。きっと私は今、ディルク以外には決して見せられないメスの表情をしている。それが私の本能をさらに燃え上がらせ、抽送をするように顔を上下させていく。
 
 「ふゅ…ふぅ…♪くちゅぅ♪」
 
 唇は密着させるのではなく、オチンポに対して垂直に立てる様に。舌も勿論、その間も動き続けている。深く差し込まれているときは裏筋の敏感な部分を舐め回し、時には撫で上げるように舐めるのだ。唇がカリ首まで上がってきたら、その先端に浮かんだカウパーをたっぷりと楽しむように鈴口を穿る。カウパーの味がしなくなれば、今度は亀頭の周辺だ。くりくりと舌先を立てたままにしてゆっくりと円を描いて降りていく。そのままカリ首周辺まで舐めれば、今度はまたゆっくりと顔を上下させるのだ。
 
 「ひゅ…ふぅ…っ♪ひゅ…ひゅぅぅん…っ♪」
 
 ずっと口を閉じてディルクに奉仕を続ける感覚。それは何処か息苦しいものであった。魔力で肉体を形作っている私に本来、その感覚は決して相応しくは無いものであろう。私には呼吸など必要ないのだから。だが、人間に強い憧れを持つ私はこの息苦しさにも淡い快感を感じてしまう。被虐的な趣味でもあるのかもしれないが、それだけではない。だって、私がこれだけ息苦しいというのはディルクにそれだけ奉仕を続けた証なのだから。
 
 ―それを…それを肉体的に感じられるってどれだけ幸せな事か…っ♪
 
 その感覚は長い間、肉体を持たなかったゴーストか契約者を得ても、純精霊時代が長かったものにしか分かるまい。こうして肉体を得てようやく私は本当の意味で「生まれた」のだ。それ以前は世界から隔離されているも同然で手を伸ばしても何も手に入らなかったのだから。だけど、今は違う。こうして息苦しさも、そして快楽も、オチンポの滾りも、全て自分のものとして感じる事が出来る。その感覚に私は悦びを弾けさせ、奉仕をエスカレートさせていく。
 
 ―もっとぉ…っ♪もっと気持ち良くなって…っ♪
 
 その一念を胸に抱いて、私はじゅぼじゅぼと頭を激しく上下させる。オチンポを激しく扱きたてるそれにディルクが小さな呻き声をまた上げてくれた。だけど、私はそれに悦びを抱いても止まる事は無い。時折、休憩をするように頭を止めて、亀頭周辺を味わう以外にはじゅぼじゅぼと音を立てながら頭を激しく振るっているのだ。
 
 ―あは…っ♪私…本当にセックスしてるみたい…っ♪
 
 いや、しているのだろう。これは紛れも無いオーラル・セックスなのだから。口腔を使った奉仕と言うよりは、口の粘膜でのセックスと言った方が正しい。そう思った瞬間、私の子宮にまたドロリとした感覚が膨れ上がった。既にその中一杯に滾っている欲情がまた全身に波及する。熱が弾ける感覚と共に敏感になった全身は決して小さくない快楽を覚えていた。きっとこれが『イく』と言う事なのだろう。
 
 ―あぁ…私、イちゃった…っ♪舐めてるだけで…オチンポじゅぼじゅぼしてるだけでイッちゃったぁっ♪
 
 それは例えようも無く甘美な感覚だった。少なくとも全身の芯が蕩けて、身体中の力が抜けそうになるくらいには。ディルクに奉仕していなければ、私はそのままくたぁと倒れこんでいたかもしれない。それくらいに甘く痺れる感覚が私の全身に広がっていたのだ。…いや、それは正確ではない。より正しく言うならば、今もその余韻が私の全身に残っている。
 
 「ふわ…っ♪ふゅ…ふぅ…うぅぅっ♪♪」
 
 鼻で必死に息をしながらも、反響しあう余韻に思わず口が開いてしまう。瞬間、私の口の中に閉じ込められていた唾液達がドロリとオチンポへと降りかかった。生暖かい私の唾液に塗れたオチンポはとても嬉しそうにビクビクと震えている。きっと本当に悦んでくれているのだろう。そう思うと力が抜けそうな身体に熱が入り、またオチンポを咥え込んで顔を上下させていくのだ。
 
 ―はぁぁっ♪もっと欲しい…っ♪「イく」が欲しいよぉっ♪だから…ディルクも一杯、気持ち良くなってぇっ♪
 
 欲情塗れの叫び声を胸中で浮かばせながら、私はじゅぼじゅぼと音を立ててオチンポを責め立てていく。だけど、ディルクは射精してくれない。薄目を開けるまでもなく、オチンポの震えはもう最高潮に達していてそろそろ射精しそうではある。だが、何かが足りないのだろう。高まりきった高ぶりから先に進みそうにはない。それが悔しくて、敏感になった舌や唇を必死に動かすけれど、やっぱり彼を射精に導くことは無理だった。
 
 ―どぉしれ…っ♪何が足りないの…っ♪
 
 そのままたっぷりと五分は奉仕したけれどディルクはやっぱり絶頂してはくれない。その間に敏感な私の肢体は三度はイッているというのに肝心の彼が射精に至れないのだ。やっぱり私では無理だったのだろうか。私の拙い愛撫ではディルクを気持ち良くしてあげることなんて不可能だったのだろうか。そんな諦めが顔をあげた瞬間、私の咽喉にディルクの亀頭が当たった。
 
 「うあ…っ♪」
 
 瞬間、彼の背がびくりと跳ねる。一瞬だが弓なりになった背筋は今までにはなかった強い反応だ。ふと自分の身体に意識を戻せば、彼の亀頭は私の咽喉奥に包み込まれている。文字通り他に何も通していない処女穴に包まれたディルクのオチンポも今までに無い滾りを見せて、熱を膨れ上がらせていた。
 
 ―あぁ…なるほど…♪これが…足りなかったんだねぇ…っ♪
 
 多分、ディルクは普通に扱かれるよりもこうして密着されるのに弱いタイプなのだろう。思い返せば、口を窄めて密着していた時にも強い反応を示していた気がする。それは手扱きからフェラへと移行したが故の反応の強さだと思っていたが、弱点だったと言うのも無関係ではないのだろう。少なくとも肉棒をはち切れんばかりに膨らませて、咽喉を押し広げるようにまた大きくなる姿は今の今までなかったものだ。
 
 ―だったら…このまま気持ち良くしてあげる…よぉっ♪
 
 その言葉を胸に私は一気に顔を下へと降ろしていく。ぐぐぐと言う音と共に亀頭だけでなく肉幹までが私の咽喉マンコへと入ってくる。まだ誰にも荒らされた事のない処女地はいきなりの侵入者に驚いたように痙攣して、きゅっと締まった。だが、それで乱暴な侵入者が止まる筈もない。寧ろ、その締め付けや痙攣を快楽として受け取って、さらに膨れ上がっていくのだ。その逞しくも激しい侵入者に咽喉が押し広げられ、気道が塞がれてしまう。
 
 ―でも…まだまだぁっ♪
 
 まだディルクのオチンポは少し残っている。そう考えた私は気道を塞ぐ亀頭をさらに奥へ奥へと進ませていく。ようやく全て飲み込めた時には私の咽喉は肉棒で一杯になってしまっていた。
 
 ―あはぁ…っ♪私の中…ディルクでいっぱぁいっ♪
 
 咽喉を押し広げるほどの太さ。咽喉の締め付けに負けない堅さ。咽喉全体を震わせるほどの脈動。そして、密着する咽喉が溶けてしまいそうな独特の熱。それらを一杯に感じた私の意識があっさりとオーバーフローを起こす。処理しきれない程一杯になったオチンポの情報にふっと意識が遠くなった瞬間、溢れんばかりの快楽が全身へと飛び散った。今までの溶かすようなそれとは比較にならない悦楽に、私の全身が痙攣を起こす。それに反応したオチンポがまたビクンッと私の中で跳ねて、私の絶頂をより高いものにしてくれるのだ。
 
 ―美味しくって逞しくって…気持ち良くって…オチンポ最高だよぉっ♪
 
 少しずつ戻ってくる意識の中でそんな言葉を思い浮かばせながら、私の顔はゆっくりと動き出す。首の付け根の奥まで入り込んでいたオチンポをゆっくりと引き出していくのだ。けれど、それは亀頭が咽喉の入り口までやって来た所でピタリと止まる。そして、また奥へ奥へと分け入るようにしてオチンポを飲み込んでいくのだ。
 
 ―んふ…♪少し…楽になってきたかもねぇ…♪
 
 抽送のようにそれを繰り返している内に私の咽喉も慣れ始めたらしい。ねっとりと絡みつくようにして肉棒を締め付けていた。きゅっと締め付けるだけではなく、上下に蠢き、刺激にアクセントを加えるそれにディルクがまた呻き声をあげる。引き抜かれるときに時折、カリ首の後ろ辺りできゅっと咽喉を締め付ければ、それだけでディルクは背筋を浮かせて悦んでくれるのだ。
 
 ―あはは…♪嬉しい…嬉しいよディルクぅっ♪
 
 慣れたとは言ってもディルクは子供の握り拳大はある亀頭を誇っているのだ。肉幹も大きく私の指数本分はある。そんなオチンポが入っているのだから、慣れたとは言っても気道が塞がれているのには変わりがない。だが、私の中の息苦しさはまるで変わってはいなかった。まるで快楽のスパイスとして使っていただけのようにも息苦しさは私の淫らさの象徴なのかもしれない。そう思うだけで私の心は歓喜に躍る。淫らになればなるほど私はディルクを気持ち良くして上げられるのだから当然だろう。
 
 ―だから…もっと感じてね…っ♪射精してねっ♪私に精液ご馳走してねっ♪
 
 甘い媚をたっぷりと浮かばせた思考で私は一気にスパートを駆けていく。咽喉をゴリゴリと削るように締め付けながら、激しく抽送していくのだ。メスの欲望を前面に出したそれは多少の痛みや苦しさでは止まらない。寧ろそれを燃料にするようにしてどんどんと加速していくのだ。燃え盛る欲望を糧に頭を動かす私はその過程で何度も絶頂を味わっている。その絶頂と共に身体中に広がるオチンポの感覚に痺れすら感じながらも私は必死に頭を動かし続けた。
 
 「う…っくぅぅ…っ」
 
 そんな私の上でディルクが今まで以上の呻き声を上げる。それに応えるようにしてディルクのオチンポがまたぐんぐんと大きくなっていった。さらに一回り大きくなったオチンポに咽喉から全身に黄色い悲鳴と共に快楽が駆け巡る。それも当然だろう。何せその先端からはさっきからカウパーがドロドロと溢れてている上に、脈動を途切れさせないのだ。どんどんと濃くなっていくオスの匂いもまたディルクの射精が近い事を教えてくれる。
 
 ―はぁぁっ♪来るんだねっ♪ディルクぅっ♪しゃせーしてくれるんだねぇっ♪
 
 それを敏感に感じ取った私はさらにディルクを追い立てようときゅっと唇を再び立てた。どうしても快楽が不足しがちになる根本を扱き上げるようにしてそのままじゅるじゅると抽送し続けるのである。さらに今までずっと休んでいた舌も動き出し、ディルクの裏筋を攻め立てていった。無論、その間にも私の首は激しく動き続け、髪を振り乱すようにして火の粉を飛ばしている。
 
 「うあああ…う…あああああっ」
 
 それらの刺激に彼も限界になったのだろう。今まで以上の呻き声をあげてディルクの腰がすっと持ち上がる。本能的にメスの一番深いところで射精しようとする動き。それに私の頭がまたドロリと蕩けた瞬間、咽喉の一番奥で熱い何かが弾けた。びゅるびゅると堰を切ったように吐き出されるそれが精液であると気付いた瞬間、私の頭が真っ白に染まり、全身がそれに塗り替えられていく。
 
 ―来たぁっ♪しゃせーっ♪せいえきっ♪ざぁめぇんっ♪
 
 ずっと待ち望んでいたディルクの子供を作る白濁液。それが今、私の咽喉の奥に張り付くほどに射精されている。そう思っただけで私の身体は数え切れないほどの絶頂の波を沸き起こらせた。今度こそ蕩けてしまった身体がぺたりと力なく倒れこみ、ディルクの腰の上に頭を落とす。その間にも意識はどんどんと射精へと引き込まれ、飲み込まれていった。オチンポに負けないくらい熱くて、咽喉に張り付くくらいドロドロで、咽喉が埋まってしまいそうなくらいに多い精液。もう私の意識はそれだけしか考えられず、愛液が滝のように糸を引いて零れ落ちる下腹部の事など忘れ去られてしまっていた。
 
 ―あぁぁっ♪美味しいっ♪こだねぢる美味しいよぉぉっ♪
 
 それは無論、舌の上で吐き出されたものではない。舌は唇と共に根本付近にあり、咽喉奥で吐き出された精液とは距離が離れすぎているのだ。だが、それでも私は精液の味というモノをはっきりと感じている。その何とも言えない蕩けるような甘さも、アクセントのように少しだけ混じる塩味も、弾けんばかりのオス臭さも、何もかも。咽喉の肉壁へと張り付くぷりぷりとした新鮮なザーメンの感触さえも感じ取り、私の腰は自然と上下へと揺れ始める。まるで子宮にもこのザーメンが欲しいとオネダリするような動きにも構わず、私は必死にそれを味わい、嚥下しようとしていた。
 
 ―でも…それさえも難しくて…っ♪
 
 数週間も禁欲され続けていたぷりぷりのザーメンは壁に張り付いて、中々、胃の中へと流れてはいかない。べったりと張り付いた咽喉に甘えるようにして離れないのだ。そんな風にして前へと溜まるものだから、自然と咽喉が詰まってしまう。お互いに絡み合い、引っ付きあいながら道を塞ぐ精液はどんどんと膨れ上がっていき、私の咽喉を圧迫していた。
 
 ―それが良い…っ♪それが良いのぉっ♪
 
 だが、同時にその精液は私にとって世界で一番に美味しいと断言できるものなのだ。他に口にしたものなど自分の唾液とカウパーだけだけれど、私の本能がこれ以上に美味しいものはないと叫んでいる。それだけのものが私の咽喉に絡まっているのだ。その幸せは実際に体験してみないと分からないだろう。大好物で口の中が一杯になって、しかも、蕩けてしまうくらいに気持ち良いのだから。美味しくて、気持ち良くて、幸せで…。その三つが輪を描くようにして絡まりあい、相互に高めあっていく感覚は実際に味わってみなければ分かるまい。
 
 「ひゅふぅ…♪ふ…ぅぅぅっ♪」
 
 そんな感覚の中でもう十数回の絶頂を味わった頃にはディスクの射精も収まり始めていた。どれだけ溜まっていたとしてもディルクはまだ人間である。インキュバス化していない身の上では一分も絶頂が続けば十分すぎるほどだろう。だが、私にとってはそれが不満であった。その精液が咽喉を叩く感覚を再び得ようとディルクのオチンポに絡みついたのである。
 
 「ぢゅるる…じゅるるるるっ♪」
 
 そのまま咽喉を震わせて、精管から一気に精液を吸い上げる。その間に指は何時の間にかオチンポの下にある精嚢に伸びており、掌の中で転がすように刺激していた。唇もきゅっと窄まり、根本に残った精液を搾り出すように動き始める。だが、それでも先端から零れ落ちるだけで、あの叩きつけられるような快感は来ない。それが私の中の燻った炎を燃え上がらせる。いや…最初から燻ってなどいなかったのだろう。何せ私が一番欲しい部分は……股の間にあるオマンコの部分には一滴の精液も入ってきてはいないのだから。
 
 ―あぁ…♪欲しい…っ欲しいよぉっ♪オマンコにもざぁめん欲しくて堪らないよぉ…っ♪
 
 この熱くて、ドロドロで、とっても甘い精液を子宮で味わってしまったらどうなるのか。その想像はもう私にとっては振り払えないものとなってしまっていた。一度、射精して尚、天を穿つようにそそり立つ肉棒に今すぐ貫いて欲しい。その欲望ももう誤魔化せないものになっている。気を抜けば今すぐディルクを犯してしまいそうな淫らな炎が私の身体の中で燃え上がっているのだ。
 
 ―でも……でもぉ…っ♪
 
 同時に私の中の『初めて』に対する憧れもなくなってはいないのだ。『初めて』はディルクを顔を合わせて、想いを通わせた状態が良い。魔精霊と化した今ではそれは殆ど無理も同然だろう。それでもせめて、『初めて』は彼の与り知らぬ所ではなく、ディルクの意識のある場面が良い。その乙女心とも恋心とも言い難い憧れがその欲望に対する最後のブレーキであった。
 
 ―ディルクが…起きてくれればこんな風に悩まなくても良いのに…♪
 
 憧れと欲望。そのどちらも選択できないまま私はそっと口の中からじゅるじゅると音を立ててオチンポを引き出していった。このまま何もせずに咥え込んでいたらそれこそ欲望に負けてしまいそうだったからである。しかし、目の前でそそり立っているオチンポに我慢出来ず、私の手は彼の逸物をゆっくりと焦らすように扱いていた。
 
 「う……あ…れ…?ここ…は?」
 
 そんな私の祈りが通じたのだろうか。三擦りもした頃には彼がゆっくりと目を開き始めた。半開きになった瞳で胡乱に周囲を見回す姿は意識がまだはっきりとしていないようである。それに少しだけ心が痛むが、それだけと言えばそれだけだ。特に重大な障害のようなものは見当たらない。言葉もはっきりしているし、目も意識の灯ったものになり始めている。ディルクの健康に対する心配はもういらないと言ってしまっても良いだろう。
 
 「…ディルク…」
 
 思わずそんな彼に呼びかけてから、私は「しまった」と思った。さっきまで欲望を滾らせ続けていたので、この状況をどう説明するかなんてまるで考えていなかったのだから。だが、一度、口に出してしまった言葉は飲み込むことが出来ない。少しずつはっきりとしたものになりつつある視線で彼は私を捉えた。
 
 「あれ…?君…は…?」
 
 君などと言う他人行儀な呼ばれ方に私の心は大きな悲鳴を上げた。今まで私たちは一心同体も同じであったのだから当然だろう。「私と貴方」は私にとっては「オームとディルク」であったのだ。そんな私の心がこうして他人行儀にされる痛みに耐えられる訳がない。心臓を思いっきりハンマーで横殴りにされたような衝撃に私は思わず胸を押さえた。
 
 「あ、あの…大丈夫かい?医者は特に支障ないって言ってたんだけれど…」
 「医者…?支障が…ない…?」
 
 そこまで反復するように噛み砕いた瞬間、ディルクの目に強い意志が浮かんだ。ぱっちりと見開かれた顔は多くの人が振り返ってもおかしくないほどの魅力に溢れている。どうやら彼にも状況が飲み込め始めたようだ。まだ半分、眠りの中に片足を突っ込んでいるような胡乱な瞳からはっきりとした意思が溢れたものになっている。
 
 「俺は…助かったんだな…」
 
 横たわったままの姿勢でディルクはポツリと呟いた。それは聞いているほうが切なくなるくらい様々な感情が入り混じったものだったのである。どうやら彼は単純に命が助かった事に喜んではいないらしい。…いや、それも当然か。彼はあの場で死ぬ覚悟を決めてしまっていたのだから。ある種、今までの贖罪と言う意識もあった行為が全て無駄になった事にきっと心を痛めてしまっているのだろう。
 
 「…ごめんね。でも…私は…私はディルクを助けたかったから…」
 「だから、お前は…オームは魔精霊に?」
 
 ―追求するような言葉は鋭いものであった。
 
 怒りが灯っている訳ではない。ただ、現状確認の為にも鋭く入り込んでくる鋭利な言葉。それにまたズキリと心が悲鳴をあげる。それは今まで「誰か」に向けられることはあっても、私には向けられた事のなかったものだ。まるで意図的に私とディルクの間に溝を作ろうとしているようなそれに私はもう我慢出来なくなってしまう。
 
 「そう…だよ。こうして…身体も手に入ったんだ。力も…今までとは比べ物にならない。これで…ディルクの役に立てる。私で性欲処理だって…出来るようになったんだよ…っ♪」
 「オーム…俺は…」
 「ほぉら…♪このおっぱいも凄いだろぉっ♪感度も良くってさ…♪ふるふるって震えるだけで気持ち良くなっちゃうんだよ♪まだ自分でも殆ど触ってないけれど…ディルクの手で触られたらきっともっと凄くなっちゃうだろうねぇ♪」
 
 これ以上、この話は続けたくない。その逃避の先に私はさっきの欲望を選んだ。彼だって、これだけ良い女の裸を見れば我慢出来なくなるはずである。これだけシリアスな話をしている中でもディルクのオチンポは未だに堅いままであるのだから。目の前で胸を強調するように双丘を抱き締めれば、彼の視線はそっちへと集中する。やはりディルクも男の子なのだろう。女の裸に興味をそそられるお年頃と言う奴だ。
 
 ―ふふ…っ♪だったらサービスしてあげないとねぇ…♪
 
 そんな意思を篭めて私は胸の先で燃え上がる炎を止めた。瞬間、彼の目の前で私の胸の全てが曝け出される。頂点で勃起している桃色の大きな乳首も、その周りの大きな乳輪までも。その二つが腕の間でぎゅっと前へと押し出されて、ディルクの視線を集めていた。親指の先くらいに大きくて、淫らな乳首は彼の視線を感じるだけで甘い痺れを起こし、私の御腹の奥にまで快楽を伝えてきている。それを感じながら、私はゆっくりと前屈みになり、さらに胸を強調していった。
 
 「他にも…さ♪私もまだ触った事がないけど…オマンコももうドロドロでね…っ♪こんな濡れ濡れの所に…ディルクのオチンポ突っ込んだら…とっても気持ち良いと思うよぉっ♪今だって私はもうおかしくなりそうなくらいで…挿入れられただけでもイッちゃいそうなんだからぁ…♪」
 「…はぁ…っはぁ…っ!!」
 
 私の誘惑にディルクもまた荒い吐息で反応を返してくれる。ケダモノ染みたその瞳にはもう私の胸しか映ってはいない。幾ら彼が溜まっていたと言っても、ここまでの反応は少し違和感を覚える。ディルクは私が知る限り両手の指では数え切れないほどの相手を食い物にしてきた経験豊富なオスでもあるのだ。そんな相手が今更、胸くらいでここまで強い反応を示すだろうか。私の胸だからと言う推測をしたいが、私はそこまで楽観的ではない。
 
 ―まぁ…別に構わない…ね♪
 
 強いて言えば私の四肢から吹き上がる炎が彼の身体にも当たっているくらいである。だが、それも本物の炎のようにディルクを傷つけることは無い。それも私の魔力の一部であるので、私がその気になれば無論、それは武器として使えるだろう。だが、その意思の無い私にとってそれは欲情を示すバロメーターに過ぎなかった。
 
 「オーム…聞いてくれ…お、俺…は…」
 
 だが、それほどの興奮を宿していてもディルクは必死でそれに抗おうとする。横たわった身体は炎に暖められたように紅潮して彼の興奮が手に取るように分かると言うのに抵抗の意思を見せているのだ。それが私にはとって、とても恐ろしいものである。もしかしたら彼の口から三行半が飛び出るかもしれないのだから。それを聞きたくない私は彼の言葉を止めてしまおうとそのまま彼の身体へと身を投げ捨てる。
 
 「うっ…!」
 「ふふ…♪ディルクももうセックスしたくて堪らないんだろ…♪だったら…私と一緒に素直になろうよ…♪」
 
 ディルクの身体は途中まで汚れを拭いていた所為で服を幾らか捲り上げられている状態だ。そんな状態で滑らかな女の肌と密着すればどうなるか。理性などすぐに明後日の方向へと投げ捨ててしまうだろう。そう思っての行為であったが、ディルクの顔にはまだ抵抗の意思が浮かんでいる。もう風前の灯にも近いそれに私はトドメを指そうと彼の唇にそっと口付けをした。
 
 「んんんっ!!」
 「ん…ちゅぅ♪」
 
 驚いた顔で固まる彼を見ながら、私はそっと目を閉じた。そのまま彼の柔らかい唇の感触に身を委ねるようにして、何度も何度もキスを降らせる。その内、彼も諦めてきたのだろうか。少し唇が開いて、その中への道が開いたのが分かる。それを感じた私はすぐさま舌を突き出して、彼の口腔を貪り始めた。
 
 「ふゅ…ふぅっ!!」
 
 そんな私にディルクが止めろと言った気がするが、無論、私はそれを無視する。ディルクが欲望に負けるまで私はキスを止めるつもりは一片足りとてないのだ。このまま一気に押し込んで私の身体の虜になってもらおう。そうすれば、ディルクに捨てられる事はなくなる。その一念で私は必死に舌を動かし、彼の暖かい中を味わっていた。
 
 ―はぁ…っ♪ディルクの中美味しい…っ♪
 
 ぷりぷりとした独特の弾力を持つ唇はそれだけでもとても魅力的だ。思わず吸い付いて、その感触を思う存分味わってみたいと思うくらいなのだから。しかし、ディルクの中はそれだけでは終わらない。その中には果汁のような美味しい唾液がたっぷりと詰まっているのだ。ただ甘いだけではなく、芳醇な香りを併せ持つその唾液は私にとってはご馳走も同然である。精液には及ばないにせよ、頭の後ろをジュンと湿らせる味はとても淫らで美味しいものであった。
 
 ―ずっと…ずっとこれを味わっていたいよぉ♪
 
 けれど、それは叶わない夢である。私はその気になれば呼吸なんて必要ないけれど、ディルクはそういう訳にはいかない。人間である以上、どうしても呼吸が必須であるのだ。どうしてもその間を取らなければいけないし、私が彼に息を吹き込むといっても限度がある。私の我侭でディルクを窒息死させるなんてぞっとする話であるし、キリの良い所で切り上げなければならないだろう。
 
 ―でも…ぉっ♪
 
 口の中を舐め回すたびに甘いドロドロの唾液が私の舌に触れるのだ。その誘惑を断ち切ることは正直、難しい。今も頬の粘膜を舌先で舐め取るようにしているが、その動きはまるで収まる気配がなかった。ディルクの全てを手に入れようとしているように貪欲に生暖かい口腔を舐めまわしていく。
 
 ―はぁ…っ♪身体…熱くなっちゃうっ♪
 
 たった一滴の唾液でさえ、ディルクのものだと思えば媚薬にも感じられる。身体の芯までジュンと湿って蕩けてしまいそうになるのだから。既に愛液を垂れ流している下腹部ではさっきから強い疼きが何度も走って、彼が欲しくて堪らないと主張しているようだ。いや、それは心も同じだろう。彼の粘膜を舐め回していると思っただけで奥からドロドロに溶かされた欲望が幾らでも溢れ出てくるのだ。
 
 ―欲しいよ…っ♪私…ディルクの全部が欲しい…っ♪
 
 唾液だけじゃない。オチンポも。精液も。汗だって。彼の何もかもを貪って、受け止めてあげたい。そんな欲望のままに私は歯茎をぺろぺろと舐め回す。歯筋に合わせて、上から下へと。歯並びの良い歯肉はそれにたっぷりと悦んでくれて、顎を上下するようにして反応を返してくれる。それがまた嬉しくて、私は歯磨きをするように丹念に歯を舐めていった。
 
 「ん…ひゅ…ぅ…♪」
 
 上下共にそれが終わった頃にはディルクの口の中は私の唾液でも一杯になった。それも当然だろう。私が上でディルクが下と言う位置関係は未だに変わってはいない。自然、私の唾液はディルクの口の中へと落ちていくのだ。それが彼の口の中で溜まってドロドロになっているのだろう。ディルクの唾液の味が私の唾液と混ざり合って薄くなっていくのが分かった。
 
 ―だけど…それも美味しくない訳じゃなくて…っ♪
 
 私の身体がもうこれ以上ない程に発情してしまっている所為だろうか。ディルクの口の中に溜まっていく私の唾液はとても甘い香りを発していた。経験のない私にとってそれが何の香りに近いかは分からないが、ふわりと口の中一杯に満ちるドロドロの甘さは発情したメスのフェロモンのようだ。それがただでさえ甘いディルクの唾液と絡み合い、濃厚な味と匂いとなって私に返ってくる。鼻の奥へと突き抜けるような匂いと幾ら味わっても物足りない味。それをもっと味わおうと私はさらに激しく舌を突き入れた。密着した唇には空気の入る隙間が殆どなく、とても息苦しいものであったが、私はもう我慢出来ない。
 
 ―あぁ…っ♪ごめんね…ごめんねディルクぅ…っ♪♪
 
 息の出来る隙間が殆どないまま私に口の中を貪られ――いや、犯される感覚。それはきっと男としてのプライドを持つ彼にとって厭うものであるだろう。だが、私はもう止まれない。その甘い蜜を一滴残らず貪ろうと舌を奥へと突き進めるのだ。その途中、生暖かく柔らかいものに触れた瞬間、私の目蓋の裏でバチバチと火花が弾ける。
 
 「〜〜〜〜ッッ♪♪」
 
 それは決して柔らかいだけではなかった。押せば跳ね返す弾力を持ち、不用意に触れた私の舌に対抗している。だが、それでも弾き返しはしないのだ。許容と反発。その中間にある器官がディルクの舌であると気づいた時には、私の脳髄はその感覚に支配されきってしまった。必死で奥に進めた舌を、彼の奥に隠れている舌に絡ませ始める。
 
 「ひゅふぅ…っ♪ふぅぅぅっ♪」
 
 ぬるぬるでドロドロ。それでいて柔らかくて硬い。そしてとっても熱い粘膜。それに私は一瞬で心奪われてしまった。今まであんなに必死だった唾液に目もくれず、彼の舌へとちょっかいを出し続ける。心の中にあるのは彼の舌を味わうという事で殆ど埋め尽くされてしまっていた。無論、それは身体も同じであり、必死で人間のサイズよりも舌を長く変え、縛るように絡みつく。それに彼がピクピクと舌全体を震わせて反応してくれるたびに私の御腹の奥はどんどんと熱くなっていった。
 
 ―はぁ…っ♪私ぃ…ディルクとキスしてるぅっ♪とっても深いディープキスしてるよぉっ♪♪
 
 お互いの舌と舌とを絡ませあい、想いを交えるような深いキス。それは私にとって一種の憧れであった。何時か彼とそんな交わりがしたい。そう思ってない筈の胸を焦がしたのは一度や二度ではない。そして…それが今、私の目の前で現実になっている。いや、ただ現実なだけではない。五感全てがディルクで埋め尽くされてしまっているのだから。
 
 ―あぁ…っ♪幸せぇ…っ♪
 
 念願の一つが叶ったのを感じて、私の胸の奥からとてつもない充実感が溢れ出して来る。だけど、それは決して終着ではない。まだこの先があるという事を私は本能的にも知識的にも知っているのだ。今までに感じたどんな感情よりも大きな充実感もそれに比べれば前菜に過ぎない。寧ろそれが呼び水となって私に欲情を呼び込み、最後のタガを外させた。
 
 ―もっと…もっと幸せになりたい…っ♪
 
 今でさえ胸から溢れかねねない程の感情が溢れているのだ。これがもし…この上のモノを味わってしまえばどうなるのか。溢れ出る感情を抑えきれず、私はどうにかなってしまうかもしれない。そんな考えさえ私の中にはあった。だが、それでもするすると下腹部に降りていく私の両手は止まらない。そのままディルクのオチンポの先端を人差し指と中指の間で固定し、もう片方で愛液塗れの秘所を開いた。
 
 ―もう…もうドロドロぉっ♪
 
 大陰唇によって抑えられていた愛液も押さえがなくなってしまえば落ちるしかない。私の指によって開かれたそこからはドロドロと愛液が滴り落ちて私の手にも降りかかった。無論、それはディルクのオチンポにもたっぷりと愛液が塗されたという事である。私の中でも最も淫らな体液がディルクのオスの部分を汚しているのだ。そう思っただけで私の胸はまた大きく高鳴ってしまう。
 
 ―もう…っもう挿入れちゃうねっ♪キスしたまま挿入れちゃうからねっ♪
 
 上の口と下の口で同時に繋がる。その想像だけで完全に発情した私はクラクラとしてしまいそうになるのだ。だが、それはもう想像だけじゃなく手が届く現実となってきている。それが私の最後の後押しとなった。亀頭の先端にオマンコの入り口は触れた瞬間、くちゅりと愛液が染み出す音が聞こえる。それにディルクは一瞬だけ身体を硬くして抵抗の意思を見せた。だが、私はそれを抑え込み、そのまま一気に腰を落としていく。
 
 ―ふああああああああぁぁぁっ♪♪
 
 熱い。それがまず私の脳裏に焼きついた感覚だった。ついさっき射精したというのにディルクのオチンポは焼け付くように熱い。触れた粘膜が愛液で保護されていなければ火傷していたんじゃないかとさえ思ってしまうくらいだ。
 次いで感じるのは大きさ。今まで何も受け入れた事のない処女地がゴリゴリと音を立てて押し広げられていく。まるで身を引き裂かれていくような感覚が私を襲っていた。しかも、それが激しく脈動し、他の意識を逸らす事さえ許さないのだから尚更だ。
 
 ―でも…っ♪でも気持ち良い…っ♪信じられないくらい良いよぉぉっ♪
 
 そう。だけど、それが気持ち良いのだ。今までの快楽が全てお遊びに思えるほど、激しく強く私の中へと刻まれていっている。火傷しそうなほどの熱さも私の膣肉を溶かす淫熱として受け止められ、身を引き裂かれるほどの大きさも発情しきった肉に快楽をくれるものでしかない。本来であれば痛みを伴ってもおかしくないと言うのに、痛みなんて身体中の何処を見渡しても存在しないのだ。サキュバスの魔力で出来た身体の所為だろうか。大きく開いたエラの部分で肉襞を抉られるだけで私はイってしまう。
 
 ―しかも…っ♪それは軽いものじゃなくってぇぇっ♪
 
 フェラチオの時に味わったようなものとは比べ物にならない程の快楽が今の私には流れ込んできていた。直接、快楽神経を刺激されているようなくらいに鮮烈で激しいそれに私の腰がガクガクと揺れる。ピンッと張った四肢もプルプルと震えて私の味わっている悦楽を現しているようだ。そして、その度に私の中でディルクのオチンポが擦れて、私をさらなる高みへと連れて行ってくれる。絶頂の中で絶頂を味わう私の意識にスゥっと桃色の霞がかかり始めた。
 
 ―あぁぁっ♪スゴイぃっ♪すごいすごいすごいすごいぃっ♪
 
 頭の中で何度もそれを反復しながら私はさらに腰を沈めていった。その度に私が味わう悦楽は膨れ上がり、背筋に震えが走ってしまう。どんどんと私の身体の中に入り込んでくるオチンポの感覚にダラダラと涎を漏らしてしまった。だけど、それは全てディルクが受け止めてくれて、ごくごくと嚥下してくれているのが分かる。
 
 ―凄いよぉっ♪ディルクのオチンポすごいっ♪もうイキっぱなしなのぉっ♪
 
 絶頂を繰り返し、敏感になった身体が再び絶頂を繰り返す。その渦の中に私はもう完全に囚われてしまっていた。そこから逃げ出す事さえ考えられず、快楽の所為で力の入らなくなった腰をゆっくりと下ろしていく。その度に結合部からはぐちゅぐちゅといやらしい音が溢れて、私たちの鼓膜を打った。誰が聞いてもセックスしてるであろうと理解するような淫らな音。それも私にとっては欲望の燃料にしかならず、さらに激しく身体を燃え上がらせながら一気に腰を落とした。
 
 ―ズンッ♪♪
 
 「ひゃ……っ〜〜〜〜〜っ♪♪♪」
 
 そして私とディルクの腰が完全に密着した瞬間、私の頭の中でバチバチと火花が弾けて、意識がすっと遠くなった。けれど、それは途中で無理矢理、身体へと引き戻される事になる。一気に子宮から弾けた熱が身体中へと飛び火し、あしらこちらで激しい快楽を巻き起こして意識を飛ばすことさえ許さなかったからだ。
 
 ―あぁぁあああああああああぁぁぁっ♪
 
 メスとしての最奥――子宮の手前にある子宮口の部分。そこにディルクのオチンポがしっかりと食い込んでいた。さっきの火花はその衝撃の所為だったのだろう。まだ冷静な私がそう言った。だが、私の身体はそれどころではない。あちらこちらでバチバチと弾けた電撃のような快楽が私を追い詰めているのだ。ビクンビクンと跳ねる身体はまな板の上に載せられている魚のようにも見えるだろう。そんな自分を間抜けであると理解しても私の身体中を襲う悦楽はまるで手加減してはくれない。
 
 ―来たぁぁぁぁぁっ♪オチンポ来たよぉっ♪おくっおきゅぅっ♪♪
 
 念願のディルクとのセックス。快楽に善がる心はそれに溢れんばかりの歓喜を灯した。だが、それは残念ながら私の胸中だけに納まるものではない。予感したとおり心の奥から湧き上がる感情が私の身体に現れていた。四肢から吹き上がる真っ赤な炎がその典型だろう。私の一部でもあるその炎が既に部屋の中を埋め尽くさんばかりの勢いで広がってるのが分かる。壁を焦がす勢いで広がるそれとは別に、私の目尻から涙が溢れて止まらない。
 
 ―あは…っ♪あはははっ♪私…壊れちゃった…♪ディルクのオチンポで壊れちゃったよおっ♪
 
 悲しくなんてないのに涙が出てしまう。嬉しくて、嬉しくて、今にも死んでしまいそうなくらいなのに、私の目尻から溢れる涙は止まらない。それはきっと私が壊れてしまったからなのだろう。ディルクのオチンポが気持ち良くって、そして、念願のセックスが出来た事が嬉しすぎて。私のネジはもうぶっ飛んでしまったのだ。
 
 ―でも…それで良いっ♪ううんっ♪それが良いのっ♪
 
 ポロポロと歓喜の涙と言う矛盾したものを流す私。それもディルクの所為だと思えば決して悪くはない。それだけ彼が私の身体に刻み込まれているのだと、私が彼を感じている証なのだと、そう思えるからだ。
 
 ―ディルクも…っ♪ディルクももっと壊れてぇっ♪私と一緒になってね…っ♪
 
 その想いを胸に私は止まっていた舌をゆっくりと動かす。既に舌の根まで巻きつくように占拠した私の舌はさっきから繰り返される絶頂の波にプルプルと震えていた。舌全体に巻きついたそれが彼に性的な興奮を与えているのだろう。くちゅくちゅと淫らな音をかき鳴らしながら絡み合う粘膜の奥から呻き声のような音が漏れ出てきた。
 
 ―あはは…っ♪じゃあ…もっと気持ち良くしてあげるから…ねぇ♪
 
 この言葉を胸に私は扱くようにゆっくりと舌を上下させる。蛇のような細い舌が彼の舌の表面にある小さな粒粒一つ一つを味わうように動いているのだ。小さな肉の粒粒を擦りあげる度に私の頭の奥でバチバチで軽い電気が流れる。それが何百とも言う数に重なって襲い掛かってくるのだから溜まったものではない。すぐに私はその変則的なキスに夢中になって、必死になって彼の舌を縛り上げていた。
 
 「う…うふゅ…っ!」
 
 そんな私の下で呻くディルクはまったく何の抵抗も見せてはいなかった。挿入前に私を止めようとしたままの姿勢で身体を硬直させている。まるでその瞬間に石になってしまったかのような彼の姿に私の胸は歓喜で震えた。それは彼が私を消極的であれども受け入れてくれているという証しなのだから。少なくとも私とセックスする事を拒んではいない。それが私にとってはとても嬉しくて、胸の中が一杯になってしまいそうになるのだ。
 
 ―じゃあ…セックスするねぇ♪いっぱいじゅぼじゅぼってするからねぇ…っ♪
 
 彼がそれを許容してくれるのであれば我慢する必要はない。その言葉を胸に抱いて、私はゆっくりと腰も上下させていく。密着した腰を膝立ちになるように立て、ぬるぬるとなった肉棒を私の膣肉から引き剥がしていった。それに私の膣肉が不満げに震えて、きゅっと膣内を締まらせる。今まで押し広げられる側だった膣肉が見せる初めての反抗。それにディルクのオチンポがビクンと大きな反応を返して、膣肉を抉ってくれた。
 
 ―ふわぁぁ…っ♪気持ち良い…っ♪ビリビリイくぅぅっ♪
 
 肉襞を亀頭のカサに掴まれ、引き出されるような感覚。それは肉を引き出されるのにも等しいものであった。度重なる絶頂で私の膣肉はもう過敏なりすぎているくらいなのだから当然だろう。だが、それが今の私にとってはとてつもない快感であった。逞しい肉棒で抉られ、引きずられる度に私の身体は何度も絶頂を繰り返す。子宮の奥にドロリとした熱を灯すその絶頂は全身に波及すると同時に奥から熱い愛液を噴出させていた。
 
 ―こんなのぉ…っもっとおかしくなりゅよぉっ♪
 
 オチンポを引き出す途中でさえ、腰が砕けそうになってしまう。だが、魔物の本能がそれを許さない。男に媚を売り、犯される事を最高の悦びとするメスの本能は溢れる絶頂の快感を燃料と潤滑油にしている。それにより燃え上がり、そして滑らかになっていく私の身体は腰を動かし続けていた。そうしている内に私の腰が高く上がり、まるで犬が伏せているようなポーズへと変わる。頭を伏せ、尻を高く上げる姿はオネダリしているようにも見えるかもしれない。
 
 ―ううん…っ♪私…っ♪私、オネダリするよぉっ♪してるんだよぉっ♪
 
 本当はこうして私だけが腰を動かすんじゃない。ディルクにも動かして欲しい。ううん。動かすだけじゃもう物足りない。私を組み敷いて、後ろから乱暴に犯して隅々までディルクの証しを刻み込んで欲しいのだ。ケダモノのように…ううん。ケダモノとなって私を求めて欲しい。その欲望が私の腰を突き降ろす原動力となった。
 
 ―んきゅぅぅぅぅぅぅぅんっ♪♪
 
 上から下へ。一気に腰を下ろした私に跳ね返ってきたのはさっきの挿入時とは比べ物にならない快感。肉襞一つ一つを抉られるだけで容易くイッてしまう淫らな肢体は、その一つ一つを全て認識していた。入り口の方の粒粒に近い膣肉に亀頭がぶつかった快感も、中ほどにある突起状の肉襞が肉茎に押しのけられた悦楽も、奥の子宮口に鈴口が飛び込んできた蕩悦も、何もかもが一気に私の中へと飛び込んできたのである。膣肉全部を犯されて抉られる快楽を同時的に叩きつけられた私の意識はまたフワリと遠くなり、口の端からドロリと唾液が零れた。
 
 ―こんな…っ♪こんなのぉ…っ♪
 
 それは余りにも強すぎる快感だっただろう。人間でも耐えられるか分からないほどの快楽は、肉体を得てまだ数時間の私には刺激が強すぎる。一気に頭の中がそれ一色になってしまい、身体がそれを求め始めた。一心不乱と言わんばかりに腰を動かし、絶頂を繰り返す浅ましい姿。それに私の頭の奥がまたドロリと溶けて、崩れていく。けれど、私にはもう何が溶けてしまったのかは分からない。後に残る甘い痺れと快楽のみが私にとっては真実であり、過去の事などどうでもよくなってしまったのだ。
 
 「じゅるぅぅっ♪」
 
 蕩けてしまった自分の再構成などまるで考えられないまま私は舌をさらに伸ばしていった。サキュバスの魔力で出来たこの身体は私の意志にしっかりと応えて、細長い蛇のような舌で彼の舌先をちろちろと穿る。無論、その間も私の舌が彼の舌に巻きついているのは変わりがない。まるでラミア属の交わりのように全身に巻きついて逃がさないようにしながら、じっくりと味わっていたのだ。
 
 ―んふぅっ♪また大きくなったぁっ♪
 
 その舌での刺激が気持ち良かったのだろうか。ディルクのオチンポはまたビクンッと震えて、私の膣の中で大きくなってくれる。無論、そこに苦しさなどあろうはずもない。膨れ上がった肉棒に私のオマンコは悦び、さらに大きな悦楽をそこから引き出していた。サキュバスの魔力で出来た魔物の肉体は大きくなったオチンポを歓迎するように絡みつき、その肉襞で洗い立てるようにして密着している。
 
 ―あぁぁっ♪オマンコイくっ♪オマンコ痙攣してまたイっちゃうぅぅ♪
 
 少しずつ膣肉も慣れてきたのだろうか。数度の抽送を経た頃には膣肉はもう柔らかく伸びきってしまっていた。けれど、締め付けがなくなった訳ではない。キツイ膣と言う構造はそのままでより柔軟にオチンポに密着している。そこにディルクのオチンポが大きくなったのだからアクメを堪えられるはずがない。ただでさえ身体中が弾けるような激しさを持っている悦楽がさらに勢いを増して私に襲い掛かってきた。
 
 「きゅふふぅぅぅっ♪♪」
 
 それに私は段々と堪えられない様になってきてしまう。身体中から力を奪うような電流がさっきから絶え間なく流れ続けているのだ。それは痛みならば兎も角、快楽を伴っているから性質が悪い。抵抗さえ考えられないまま私の身体は無力化されていく。どんどんと力が入らなくなった身体の中でそれがもっとも顕著なのは舌だろう。挿入前からずっとディルクに絡み付いていた私の舌はもう殆どの力を失い、密着する事も危ないくらいにまで追い詰められていた。
 
 ―もう…自分の意思じゃぁ…っ♪
 
 自分の意思じゃ止まらない腰の動き。そこから齎される激流のような快楽の波は舌を自分の意思で動かすという自由をまず私から奪った。無論、私の意志で伸ばされていた舌は元の長さへとゆっくりと戻っていっている。もっと彼とキスを続けていたいけれど暴力的なまでの快楽はそれを許さない。必死に舌を動かそうとしても神経が快楽に侵食されてしまったようで、その反応はとても鈍いのだ。
 
 「ふ…にゃあっ♪でるくぅっ♪でぃるくぅっ♪」
 
 仕方なくキスを諦め、彼の口を解放した瞬間、彼の胸が一気に息を吸い込んでいた。よっぽど苦しかったのだろう。胸を上下させて必死に酸素を取り込もうとする動きに少しだけ心が痛む。だが、それを私は身体に反映させることができない。腰は相変わらず動き続けていて、口は舌足らずな声で彼の名前を呼ぶだけだ。
 
 「気持ち良いっ♪でぃるきゅも気持ち良いっ?」
 「うあ…あぁっ」
 
 唾液のカクテルが糸を引いてゆっくりと落ちていくのを見ながら、私の口はそんな言葉を漏らした。だが、それは今の彼に答えられるものではなかったのだろう。身体中を痙攣させるようにして震える姿には言葉を紡げるような余裕が見当たらない。ぎゅっと頑なに閉じられた瞳も彼の余裕の無さを感じさせる。だが、それは同時にそこまで気持ち良くなってくれていると言う証左だ。それが私には嬉しくてオマンコがきゅっとディルクを締め付けた。
 
 「うぅっ」
 「あはぁっ♪魔物オマンコ気持ち良ひんらねぇっ♪エロドロオマンコで感じへ、気持ち良くなってるんだねぇっ♪」
 
 呻き声を上げたディルクを追い詰めるように私の口から淫語が飛び出る。しかし、それは同時に私自身を燃え上がらせる諸刃の刃であった。淫らな言葉を紡ぐたびにオマンコから這い上がるそれとは違う冷たい快感がゾクゾクと背筋を這い上がってきている。思わず身震いしたくなるそれを新たな彩りとして私の意識がさらに快楽一色に染まっていった。
 
 「んふぅぅっ♪私ももう一杯らよぉっ♪イキッぱにゃしでぇっ♪身体の中、気持ち良いで一杯なのぉっ♪」
 
 キスするほどに顔を近づけながら私の独白が続く。半開きになったまま口から鈍い舌を突き出して、舌足らずな声で続けるそれにディルクがまた小さく呻いてくれる。口からはハァハァと荒い吐息を幾つも吐き出し、じっとりと汗ばんでいた。一見すれば熱病に浮かされたようにも見えるが、魔物の本能が決してそうではないと言っている。鼻にツンと突くオスの匂いがどんどんと濃厚になってきて、彼が射精へと近づいていることがすぐに分かるからだ。
 
 ―あぁ…っ♪もうすぐアレを…子宮でざぁめん味わえるんだねっ♪♪
 
 数え切れないオーガズムの中で私の思考にその言葉が灯った。口で味わった時でさえ蕩けそうであったあの濃厚なオスの子種汁。無論、普通の人間には子宮で味を感じるような器官はない。だが、この身体はセックスに特化した魔物のものだ。私がそうと願えば、子宮で精液の味を感じる事も可能かもしれない。そして…それをもし味覚を備えた子宮で受け止めてしまえばどうなってしまうのか。
 
 ―私…中毒になっちゃう…♪ディルクのこだねぢるちゅーどくになっちゃうよぉっ♪
 
 彼の精液抜きでは生きていけない身体にされてしまう。それはきっと確実であろう。今でさえ私はもうディルク抜きでは生きていけない身体になってしまったのだ。その上、ザーメンの味まで覚えこまされてしまえばマトモでいられるはずがない。価値観も大きく書き変わり、彼の精液だけで生きていく本当の魔物になってしまうだろう。
 
 ―あぁ…でもぉ…っ♪
 
 それは精霊にとっては恐ろしいものであるだろう。自分の今までのアイデンティティが崩壊し、完全に淫らな魔物へと変貌してしまうのだから。だが、今の私はそれを心待ちにしていた。身も心も完全に魔物に堕ちて、ディルクに犯される日々を胸を高鳴らせていたのである。それどころか私の身体はその妄想だけでビクンッと大きく反応し、きゅっとオチンポをまた締め付けたのだ。
 
 「う…ああああぁぁっ!!」
 「きゅふぅぅぅぅぅぅんっ♪」
 
 瞬間、ディルクの腰が一気に持ち上がり、私の子宮の扉を一気に突いた。ズンッと言う衝撃と共に一気に突き抜けた快楽に私の口からは間抜けな嬌声が漏れ出る。それを止めようとしても二度三度と繰り返される打ち上げに私の身体は跳ねてしまう。ズンズンと下から突き上げられる度に私の身体はアクメを迎えて、意識をかき乱されてしまうのだ。
 
 ―ふあああああぁぁっ♪おくっおくおくおきゅがっ♪ズンってぇぇっ♪
 
 今までは私が主導権を握り、私がディルクを犯しているという一方的なものであった。だが、今、その構図が壊れつつある。ディルクが下から突き上げてくれることによって、私のリズムが崩れていっているのだ。それは無論、私が意図した方向からの快楽ではない。身構えることすら許さない不意打ち続きの悦楽に私の思考が一気に真っ白に染まった。
 
 「おー…む…っ!!」
 「きゃうんっ♪」
 
 それは行為だけで言えば私が腰を振っていた頃となんら変わりが無いものであった。敏感な肉襞溢れるオマンコを限界近くまで勃起したオチンポが抉っている。その構図は決して変わっていない。だが、下から突き上げられる不規則なリズムが私にそれを感じさせなかった。ベッドをぎしぎしとしならせながら必死で腰を振るうディルクに私の身体は蕩けきってしまったのである。
 
 「ふあぁぁっ♪ひっ…うぅぅっ♪」
 
 くたりと力尽きた私の腰を今まで動かなかったディルクの手が掴んだ。けれど、それは私を引き剥がそうとするものではない。寧ろ最奥にたたきつけるようにして無理矢理、腰を密着させてくるのだ。引き寄せられた腰がディルクの逞しい身体をぶつかりぱちゅんと爆ぜた肉の音を響かせる。それに頭が真っ白になった瞬間、ディルクの身体がガバリと起き上がった。汗だくになった二つの身体ごと浮き上がらせるそれに私は何の抵抗も出来ないまま、そのまま下へと組み敷かれてしまう。
 
 「でぃる…っきゅふぅぅっ♪」
 
 騎乗位から正常位へ。あっという間に体位を変えられた私のオマンコをディルクのオチンポがゴリゴリと抉る。だが、それは入り口辺りの浅い部分だ。まるで私を焦らしているようにディルクのオチンポが浅い部分を素早く何度も擦りあげている。その刺激に子宮と膣穴の間くらいの部分が熱くなり、唐突に排泄欲求が私に襲い掛かった。経験の無い私にも分かるくらいに秘裂の上から何かが噴出そうとしている。それに私は軽い混乱を覚えた。
 
 「や…らっ♪出るっ♪出ちゃうからぁぁっ♪そこ…やらぁっ♪」
 
 その気持ちのまま必死にディルクにアピールするけれど、それは決して聞き入れては貰えない。寧ろそれを燃料にするようにして彼の腰がさらに細かく動く。仰向けになった私の上の部分をゴリゴリと削るそれに排泄を我慢する気力を削られているようにも感じた。だが、ここで私の気力が折れてしまえば私のオシッコがディルクに降りかかってしまうかもしれない。そもそも魔精霊となったこの身体に厳密な意味での排泄があるのかは分からないが、クリトリスの下の部分から溢れそうになる液体なんて他に考えられない。
 
 ―こんな風に…一方的に弄られて、何の抵抗も出来にゃいなんてぇ…っ♪
 
 どれだけ必死で訴えてもディルクは今までの仕返しだと言うように止まってはくれない。ハァハァと荒い呼吸を繰り返しながら、私を一気に責め立てて来る。そんな無慈悲な彼の姿に私の背筋がゾクゾクと震えて止まらない。念願の私を犯すディルクの姿がここにはあるのだ。それに心震わせても仕方ないだろう。だが、その寒気にも似た快楽が私へのトドメとなった。ついに決壊した私の下腹部からビュッと凄い勢いでディルクに液体を噴きかけたのである。
 
 「ふあああぁぁぁっ♪ふ…にゃあああぁぁっ♪」
 
 しかも、それは一度や二度では止まらない。決壊した後から幾らでも溢れるようにして噴出すのだ。ディルクのオチンポが浅い部分を擦る度に噴出すそれは快楽で滲んだ視界では透明な色に見える。人間の出すオシッコは基本的に黄色系であるので、それとはまた違うのだろう。だが、それがどういったものであるかというかは相変わらず分からず、「私の排泄物が愛しい人の身体を汚している」と言う快楽の中で私は心を揺れ動かしていた。
 
 「は…はは…っ!まさか…潮吹きまでするなんて…な!」
 「あきゅぅぅぅんっ♪」
 
 そんな私を嘲笑うようなディルクの声が耳に届いた。その瞬間、私の背筋に今までにない快楽が走り抜ける。ケダモノのように犯されるだけじゃなく言葉でまで虐めてくれる。そんなディルクに熱い欲望と愛情を滾らせながらも、私の理性は必死に口を動かしていた。
 
 「ごめ…っ♪ごめんなしゃいっ♪あにゃたを穢してぇっ♪ごめんにゃさいぃっ♪」
 
 必死で謝りながらも私の中の歓喜と悦楽は止まらない。本当はもっと申し訳なく思わなければいけないはずなのに、ディルクに攻めてもらっていると言う歓喜と、オチンポに擦りあげられている快楽がそれを許さないのだ。じりじりと追い詰めるようにしながら私を飲み込んでいく快感の波はもう抗う事さえ考えられない程に成長している。そして、その殆どを魔物化した私はそれに悦びさえ感じているのが現実であった。
 
 「だったら…もっと締めろよ…!そんなんじゃ何時まで経ってもイけないだろ…っ!」
 「あぁっ♪ごめ…ごめんねぇっ♪」
 
 冷たいディルクの言葉はきっと嘘だ。その顔にはもう溢れんばかりの欲望と快楽に堪える色が浮かんでいるのだから。オチンポも今すぐ射精してもおかしくないくらいにガチガチになっている。それでもこうして私を責め立ててくれるのはプライドの為か、それとも私の被虐性に気付いてくれたのか。今の私にはどちらかは分からない。ただ、その言葉がくれる快感だけが真実であり、それを受けた肉体が必死に力を篭めて緩みかけた膣肉を締め上げているのが現実だ。
 
 ―あぁぁっ♪きゅってすると良いっ♪素敵なのぉっ♪
 
 尻の穴に力を篭めるようにしてオマンコを締め上げれば肉襞を擦り上げるオチンポをさらに感じる事が出来る。浮き出た血管の一つ一つまでを感じられるまでに敏感になった膣肉が締め上げているのだから当然だろう。今にも抜けかねないくらい浅い部分で前後する亀頭の皺の一つ一つまで感じながら、私は数え切れないほどのオーガズムを迎えていた。
 
 ―でも…っ♪でも物足りない…っ♪物足りないのぉっ♪
 
 浅い部分を犯されるのは勿論、気持ち良い。もう蕩けきってしまって気を抜けばオマンコが緩みそうになってしまっているくらいなのだから。それほどアクメを繰り返して、敏感になった膣肉を抉られているのだから気持ち良くないはずがないのだ。だが、貪欲な私はそれではもう我慢出来なくなってしまっている。その奥まで…子宮の入り口まで一気に挿入して私の中をディルクで一杯にして欲しくて堪らないのだ。
 
 ―疼いてりゅぅっ♪奥疼いてるのぉっ♪しきぅの口がぴくぴくしてりゅぅっ♪
 
 正常位になってから敏感な最奥はずっと放置されっぱなしだ。悦楽を受けるのは入り口の浅い部分で、奥の一番、欲しい部分ではない。それにさっきから子宮が強い疼きを走らせていた。まるでオチンポは子宮と密着しているのが当然だと言わんばかりの主張に私の全身は震えて、自然と足が彼の腰に絡みついてしまう。
 
 「ん?」
 「あ…っ」
 
 オスを逃がさないようにしようとしているメスの動き。それに気付いたディルクが唐突に腰を止めた。瞬間、彼の余裕の無い表情に意地悪そうな色が浮かぶ。その顔は私が今、どうしようとしていたか気付いているのだろう。他の女を相手にしていた時と同じようにその瞳を意地悪に輝かせて、私を見下ろしていた。
 
 「どうしたんだ…?」
 「あ…あぅ…っ」
 
 意地悪に囁くディルクの声に私の顔がふいに赤くなってしまう。今までずっと彼の母代わり、姉代わりとして成長を見守ってきたのだ。そんな私がメスの表情を丸出しにして奥までオチンポを求めていたなんて知られたくはない。でも、それはもう手遅れなのだろう。低く、甘く囁く声には確信の色さえ混じっていた。
 
 「何をしようとしてたんだ?ん?」
 「わ、分かってるくせにそういう事聞くのは卑怯だよ…っ♪」
 
 それは今まで彼に襲い掛かっていた女の言えた台詞ではないだろう。だが、私の中には魔物化した意識だけではなく、これまで過ごした経験などもしっかりと詰まっているのだ。繰り返されるアクメや滾り続ける欲望の所為でそれは今まで薄まっていたが、こうしてディルクが責めに転じた事で顔を出す余裕が出来たのだろう。
 
 「悪いな。俺は物分りが悪いんだ。ちゃんと言ってくれないと…な」
 
 そう言いながらディルクの指がそっと私の下腹部を押し込んだ。そこは意図的なのか、それとも偶然なのか。丁度、私の子宮が宿る部分であった。上から感じる予想外の圧力に私の子宮が歪み、愛液をオマンコへと垂れ流していく。無論、それだけではない。同時に吹き上がる欲望が私の中の駆け巡り、腕がディルクの背中に回った。
 
 「…おか…して…っ♪」
 「聞こえなかったなぁ」
 「おか……犯してっ♪私の奥までディルクのオチンポで一杯にしっ〜〜〜〜〜っっっ♪♪」
 
 そこで私の意識は一瞬、途切れた。ブツンと言う音と共に途切れた意識が最後に感じたのは溢れんばかりの歓喜の感情。それが私の子宮から湧き上がったものであると理解した頃には少しずつ意識が戻り始め、快楽もまた感じ始める。
 
 「ああああぁぁっ♪良いよぉっ♪素敵ぃっ♪オチンポ良いのっ♪」
 「まるで俺がチンポだけの男みたいな言い方だな」
 「ち、違うのっ♪ディルク大好きなのぉっ♪ディルクのオチンポじゃないとやだぁっ♪ディルクのオチンポさいこぉっ♪」
 
 ―あは…私、何を言ってるんだろうねぇ…♪
 
 まだ何処か身体と遠い意識が他人事のようにそう思った。だが、それと同時に身悶えするほどの悦楽が私へと襲い掛かっていたのである。身体の中では到底収まり切らない激しいうねりに私の思考が飲み込まれ、汗の浮かんだ身体からはあらゆる体液が流れ出ていた。汗も涙も唾液もそしてディルク曰く潮まで噴出させながら、ガクガクと身体を揺らしている。疼き捲くっていた子宮口は奥まで叩きつけるような抽送に強い歓喜を沸きあがらせてドロドロの愛液を絶え間なく漏らしていた。
 
 「じゃあ、どんな所が良いんだ?」
 「ふわぁ…じぇんぶぅっ♪じぇんぶいいのぉっ♪」
 「全部じゃ分からないな。ちゃんと言わないと動くの止めるぞ?」
 「ああぁぁっ♪や…らぁっ♪やらのぉぉっ♪動いてぇっ♪じゅぷじゅぷぐちょぐちょしてぇっ♪」
 
 甘えるように言いながら私の足はぎゅっとディルクに密着する。その間も彼は腹筋から腰の筋肉を滑らかに動かして私の奥まで擦りあげてくれた。涙と快楽で滲んだ視界を下に向ければ、真っ赤に腫れ上がった亀頭の一部まで見え隠れしている。引き絞った弓のように思いっきり引かれた一撃は私の脳髄に突き刺さり、子供のような甘い声を漏らしていた。
 
 ―そんにゃ私を見るディルクの目は…とぉってもやしゃしくてぇ…っ♪
 
 ギラギラとぎらつく瞳の中には確かに暖かいものが混じっている。それは愛情とも欲望とも言い難いものであったが、彼が私を大事に思ってくれているのに違いはないだろう。それが嬉しくて私の身体はまた震えた。快楽ではなく歓喜で軽いアクメを迎えてしまった私の尿道からは幾分、勢いの弱くなった潮が噴出す。
 
 「ほら…だったら教えてくれよ。俺の何処が最高なんだ?」
 
 段々と責める事にも慣れはじめたのか快楽を浮かばせながらもしっかりとした言葉で私に淫語を強要していた。その瞳に宿っているのはさっきも言ったとおり優しいものだ。でも、もし、ここで言わなければ彼は本当に腰を止めてしまうだろう。今まで見てきた彼と何処とも知れない馬の骨とのセックスでも、彼はこうして主導権を握ってきたのだ。間近で彼の嗜虐性を見てきた私にはこれがブラフであるとは決して思えない。
 
 「お…大きしゃがねっ♪ぴったりにゃのっ♪私のオマンコぴったりでぇっ♪子宮の口をこつこつしてるのが良いのっ♪ビリビリって来るの素敵ぃっ♪硬さもビキビキでぇっ♪オマンコ広がっちゃってりゅぅっ♪オマンコでぇるくせんよぉなのぉっ♪」
 「他には…?」
 「熱いのぉっ♪熱くてドロドロぉっ♪オマンコ溶けちゃいそうにゃんだよぉっ♪火傷しちゃいそうなくらい熱いのに、それが良ひのっ♪アクメしちゃいそうなくらい良いのっ♪かた…かた…っちもぉっ♪子宮にぴったりでぇっカリ首ゾリゾリなのぉっ♪オマンコ引っ張られてゴリゴリされてるのが良いっ!オマンコ犯されるの最高なんだよぉっ♪」
 
 口からついて出た淫語は決して秩序立って構成されたものではない。彼の一突き毎に片手では足りないほどのアクメを多重的に味わっている私にとって最早、秩序なんてものは残されてはいなかった。あるのはただディルクに対する愛情と、この甘く淫らなセックスに対する歓喜だけ。それ以外はもう何処か彼方へと投げ捨てられ、私の口から漏れ出るのは本能からダイレクトに溢れる言葉だけだ。
 
 「それじゃあ…似たようなチンポがあれば俺は要らない?」
 「あぁっ♪意地悪ぅっ♪でぃりゅくは意地悪だよぉっ♪」
 「一応、自覚してるよ…!正直…自分がここまでだなんて思ってもみなかったんだからな…。で…返答は?」
 「ディルクじゃないと駄目なのぉっ♪ディルクが大好きだからぁっ♪ディルクならたんしょぉほうけいれも良いのっ♪ディルクのオチンポで犯されるのが一番素敵ぃっ♪」
 
 それはきっと私だけではないだろう。魔物にとって大事なのはモノの大きさではない。精の味だ。そして、それが魔物の気分によって大きくされる以上、重視されるのは相手を気に入っているかいないかである。それは顔についても同じことが言えるだろう。別に魔物は顔で相手を選んでいる訳ではない。もっと総合的な心の交わりを重視しているのだ。教団が「凶暴な」と断じている魔物の方が、人間の女なんぞよりもよっぽど心を重視していると言い切ってしまって良いだろう。
 
 ―らから…ぁっ♪渡さないっ♪ディルクはぁっ♪ディルクのオチンポは私のものなんらからぁっ♪
 
 今まで私が魔精霊化していなかったばかりに彼と一夜の関係を共にした人間の女達。それに対抗するように胸中で呟きながら、私の腰は左右に揺れた。既に肉体のコントロールは私の手を離れてしまっているので、それは魔物の本能が齎した動きなのだろう。左右に揺れた瞬間に脳髄に突き刺さるような快楽はさっきとはまた違う彩を与えた。ただ、上から下へと突くのではなく、途中の壁にぶつかって滑るような感覚。それに私の視界が真っ白に染まって、叫ぶような嬌声が漏れ出た。
 
 「ひゃぅぅぅぅぅんっ♪」
 「うぅ…っ」
 
 瞬間、ビクンッと震えた膣肉がディルクのオチンポをさらに締め上げた。既にドロドロの愛液塗れとなった淫らな肉棒にまだ足りないとばかりに四方八方から絡みつきている。ヒクヒクと細やかな痙攣を繰り返す肉襞はまるでディルクのオチンポに私の愛液を刷り込んでいるようだ。その想像だけで私はまたイッてしまい、どろりと口から唾液を零れさせた。
 
 「ごつごつぅっ♪じゅるじゅる来てりゅぅっ♪オマンコ広がっちゃうぅっ♪」
 「く…ぅ…!!良いぞ…このまま…俺も…っ!!」
 
 その言葉と共にディルクの腰がさらに激しく動き始めた。ただし、それは前後に大きく擦り上げるものではない。子宮の奥の辺りで細かく動き、コツコツと扉を叩くような動きだ。膣肉の中でも最も敏感で肉厚な部分を短いスパンで何度も叩かれる悦楽に私の目蓋の裏で何度も星が瞬く。思わず反り返った背筋がまるで逃げるようにディルクから離れていくが、私の四肢と彼の腕がしっかりと捕まえて許さない。
 
 「ふあぁぁっ♪出りゅんだねっ♪ディルクのざぁめん来るんだねぇぇっ♪」
 
 メスを屈服させて自分の精液を種付けしようとするオスの動き。それは必ずディルクが射精前に行う動きであった。どうやら彼は子宮口の感覚が好きなようで、今まで寝てきた女皆にこうした動きを見せていた。それは私も例外ではないようで、今もちゅっちゅと子宮口にキスを繰り返してくれるのである。子供がやる啄ばむような甘いキスを繰り返す唇同士は数え切れないほどの別離を繰り返す果てにドロドロに蕩けて興奮を高めていくのだ。
 
 ―あぁぁっ♪ドロドロぉっ♪ぐちょぐちょらのぉっ♪
 
 最初の頃に比べて粘度を増した愛液がキスを繰り返す度に子宮口と鈴口の間に糸を引いているのが分かる。それが再び擦りあわされ結合部からはにちゃにちゃねちゃねちゃと絡み合った音が響いていた。私の内股全体を濡らすほどに広がった愛液も抽送の度に糸を引いて淫らなハーモニーを掻き立てている。同時に私の鼻にどんどんと濃厚になっていく匂いが叩きつけられ、興奮が最高潮に達した。
 
 「ご褒美ぃっ♪ご褒美ちょうらいっ♪私にでぃるくのご馳走せーえき頂戴っ♪」
 
 甘く囁きながら絡みついた私の足がさらにディルクの腰を前へと進めさせる。密着するほどに近づいた腰はどちらも痙攣していて、お互いに強い快楽を感じているが一目で分かるだろう。実際にディルクのオチンポは私の中でまた一回り大きくなり、噴火する前の火山のような激しい熱を吹き上がらせていた。さっきディルクに言わされたのよりもさらに強く逞しくなるオチンポに私の腰はさらに大きな震えを見せる。それにまたオチンポと擦れる部分が僅かにズレて、私に新たな絶頂を齎した。
 
 「しにゃいのぉっ♪妊娠しないからぁっ♪何時でも膣内出しおっけーにゃんだよぉっ♪何時でもディルクに犯されたがってるメスしきぅにしゃせーしてぇっ♪」
 
 この身体はあくまでサキュバスの魔力で作り上げられたものに過ぎない。本来の意味での「生物」ではなく、子宮は確かに存在するが次世代を残す事には使えないのだ。私とディルクの子供が作れない。それは少しだけ残念な事ではあるが、同時に躊躇いなく彼に膣内出しを要求できる事でもあるのだ。それが私にとっては嬉しく、肉襞を奥へ奥へと蠢かせる原動力になっている。
 
 「あぁ…!するからな…!膣内出し…するから!お前の中まで全部…俺で染め上げるから…っ!!」
 「あぁぁぁぁぁぁああぁっ♪♪」
 
 それは私がずっと待ち望んだ言葉だった。彼はどんな女と寝る時だって避妊は決して欠かさなかったのである。避妊具は常備していたし、膣内出しなんて持っての外だった。だけど、今、ディルクは避妊具もなしに私に膣内出ししようとしてくれている。他の女とは違って、私だけに…私の子宮だけを精液で埋めようとしてくれているのだ。無論、それは私に生殖能力がないからなのかもしれない。だけど、それに嬉しさを感じるのは変わらず、私の膣肉は今までにない締め付けを見せた。
 
 「うあ……射精る…ぅぅぅっ!!!」
 
 それにディルクが小さく呻きながら宣言した瞬間、私の中でオチンポがビクンと跳ねた。そして、脈動したオチンポがそのまま子宮口へと叩きつけられた瞬間、オチンポと変わらない程の熱が私の中へと吐き出されていく。ドロドロのマグマのような熱を灯したそれが子宮口に触れた瞬間、私の頭の中に味が、熱が、感触が、濃厚さが刻み込まれていくのだ。
 
 ―ざぁめん来たぁぁぁぁっ♪せいえきっ♪こだねぢる来てりゅぅっ♪♪
 
 さっき舌で感じたのとは比べ物にならないほど鮮烈な精液の感触。それに私のアクメがさらに一段、高いものにされてしまう。意識がふわりと身体から離れそうになりながらも精液の味や匂いに無理矢理、引き戻されてしまうのだ。まるで嵐に翻弄される小船のように私の意識は快楽と精液に翻弄されていた。まるで雷に打たれたような激しい蕩悦が意識を失うくらいの快楽を与えているのに、それさえも許されない感覚はとても被虐的である。
 
 ―ふあぁぁあっ♪絡んでるぅ…♪♪しきぅのお口に絡み付いてりゅよぉっ♪
 
 濃厚な精液がべったりと子宮の口に張り付いて離れない。フェラチオの時と同じく途中の壁にべったりと張り付いてしまっているのだ。それを子宮がじゅるじゅると吸い上げているが、精子がたっぷりと詰まった精液は中々、動いてはくれない。しがみつくように子宮口の中で留まりながら、その味と匂いと私に伝えてくれていた。
 
 「ふああぁぁっ♪」
 
 何時までも消えない精液の味と匂い。それは舌で咽喉で受け止めた時よりもよほど濃厚でしっかりとしたものであった。やはりサキュバスの魔力で出来ているだけあって交わりにとても都合の良い様に出来ているのだろう。子宮の手前でも精液の味や匂いを感じられる淫らな身体。舌や鼻と同じかそれ以上に敏感に味と匂いを感じる姿に骨の髄まで魔物化してしまった事実を実感した。
 
 ―美味しい…っ♪ざぁめん美味しいっ♪♪こだねぢる一杯でドロドロだよぉぉっ♪
 
 そして、それが収まった後には身体中が精液で埋め尽くされているような錯覚が私を襲う。腹だけでなく、手や足にもドロドロの精液の甘くてオス臭い感覚が広がっていくのだ。まるでその内側をザーメンで汚されてしまったような感覚に私の身体は戦慄くように震える。身体中で享受する子種汁の味はそれだけでアクメを迎えてしまうほど気持ちの良いものであった。
 
 ―でも…ぉっ♪それだけじゃなくって…ぇっ♪
 
 私を責め立てている間、ずっと我慢していたのだろう。ディルクのオチンポからはひっきりなしに精液が吐き出されている。それはかなり勢いが弱まったとは言え、私の子宮口に全て吸い込まれていた。じゅるじゅると音を立てるように精液を必死で吸い上げる子宮口と、螺旋を描くように蠢きながら奥へと引きずり込もうとする膣肉がディルクと私に強い快楽を与えてくれている。もう腰は密着し、動いていないと言うのに精液の所為か抽送の時と勝るとも劣らない悦楽が私に刻み込まれていた。
 
 ―こんなのぉ…っ♪もう…っ無理らよぉっ♪♪
 
 精液の味を一度、覚えてしまえば後戻りできなくなるかもしれない。その予感は私の中にあった。けれど、まさかここまでとは思ってもみなかったのである。身体中が精液で満たされるような感覚はフェラチオの時とは比べ物にならない程の充実感を私に与えてくれていた。その上、射精の為に膨れ上がったオチンポが今も私の膣内でビクンビクンと震えて擦りあげてくれている。鋼鉄を思わせるような硬さを手に入れたオチンポは絡みつく膣肉を弾き返し、私に蕩けるような蕩楽を齎してくれていた。それを直接受け取る腰が砕けてしまったかのようにガクガクと震えて、本当に壊れてしまったかのようにも感じる。
 
 ―あはは…♪壊れたぁ…♪♪私ぃ…壊れちゃったよぉ…♪
 
 膣内で直接射精を味わう感覚。それはこれ以上ないほど、私の中に刻み込まれてしまった。それはもう二度と忘れることが出来ないだろう。いや、忘れることが出来ないどころかきっと我慢すら不可能だ。この世でもっとも甘美な感覚を私は経験してしまったのだから。それは手放す事さえ考えられず、水が地面へと染み込む様にして私の中へと入り込んでくる。愛液のようにドロドロの粘性を伴った『膣内出し』と言う経験はアイデンティティが転がる私の最奥に広がり、その勢力を広げていった。
 
 「あぁ…あ…きゅぅ…ん♪」
 
 その頃にはディルクの射精もようやく落ち着き、私の身体が糸が切れたようにベッドの上へと倒れこんだ。ディルクを掴んでいた四肢からも力が抜けて、ピクピクと震えている。その内側では今も精液の感覚が渦巻き、収まらないアクメの波が押し寄せてきていた。動かれていない今でさえアクメを繰り返す淫らな肢体。そんな自嘲すら今の私には蕩楽を助長させるものでしかなかった。
 
 「う…ふぅ…っ」
 
 未だ快楽の中にある私とは対照的にディルクの顔には少しずつ冷静さのようなものが戻り始めていた。私のオマンコの中にあるオチンポはまだ硬いが、それでも全盛期ほどではない。少しばかりこじんまりとなったオチンポが彼のクールダウンを何より如実に教えてくれた。滲む視界でそっと彼の顔を見れば、そ処にはどこかすっきりした色が浮かんでいる。
 
 ―でも…私…はぁっ♪♪
 
 今も現在進行形でイきっぱなしだ。精液の感覚も未だ鮮烈なものとして私の中に渦巻いている。だけど、それはどうしても色褪せてしまったものだ。出来立ての飴の様にドロドロの精液はやはり何処か冷えたものになってしまっている。快楽はそれがさらに顕著でイきっぱなしと言っても後を引く余韻を貪っているだけに近い。勿論、それらは何もない時に比べれば、とても充実しているものだ。精液の味を知らなかった頃であればそれだけでも十二分に我慢が出来ただろう。
 
 ―だけど…私はもう知っちゃった…ぁ♪精液びゅるびゅるってされるの知っちゃったのぉっ♪
 
 そう。私はもう精液で直接、子宮口を叩かれる感覚を知ってしまった。あの射精したてのドロドロの精液で内側から溶かされるような快感を知ってしまったのだ。その私にとって今の状態は生殺しでしかない。どんどんと色褪せていく感覚に焦りすら感じてしまう。もっとこの感覚を味わっていたいのに波が引くようにして消えてしまうそれらに私の心は我慢出来なくなった。
 
 「うあ…っ!!」
 
 唐突に上がった声は驚くような声は勿論、ディルクのものだ。だけど、私はそれに驚くことはない。正直に言えばそれは予想の範疇であったのだから。
 
 「ふにゅ…ぅ♪…うふ…っ♪でぃるくぅ…っ♪」
 
 甘えるような穏やかな声とは裏腹に私の炎は彼の全身を包んでいた。けれど、それは決して彼を火傷させたりするものではない。彼を包んでいるのはオスの身体ではなく欲望を燃やさせる魔物――イグニスの炎なのだから。
 
 「もっとぉっ♪もっと犯してぇっ♪ぐちょぐちょになるまでぇっ♪精液溢れるくらいに犯してぇぇっ♪」
 
 私の叫びと共に炎の勢いがさらに強くなっていく。それに応えるようにして彼のオチンポがビキビキに硬くなり、膣肉をまた押し広げていった。力を取り戻したそれに悦びを感じたのも束の間、動き出したディルクの腰に私の身体は快楽に染まる。
 
 「んあぁぁっ♪そうらよぉっ♪もっと犯しゅのっ♪身体中ドロドロになりゅまでっ♪精液で一杯になるまで犯してねぇっ♪♪」
 
 ケダモノのように必死で腰を使う彼に甘く囁きながら、私の四肢はゆっくりと力を取り戻していく。そして、その手が、足が、彼を欲望から放さないと言うようにまたディルクへと絡み付いていき――
 
 ―そして、私たちは愛欲に塗れた日々へと第一歩を踏み出したのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―…世の中にはとてつもなく理不尽な出来事と言う奴が存在する。
 
 その最たる例が天災だろう。自然と言う文字通り人知の及ばない領域が牙を向いたそれにはどれだけ備えても人は勝つ事が出来ない。ただ被害を少なくなるように、何事もなく過ぎ去るように祈る事しか出来ないのだ。
 
 ―だからこそ、人は自然を、精霊を恐れた。
 
 自然の力の一部とは言え、自在に行使する元素の塊。それが精霊である。だが、彼らはただの元素や魔力の塊などではない。人と変わらぬ意思を持ち、時として人に力を貸し与えてくれる。そんな彼らを崇拝し、自然への回帰・共存を訴えるのが精霊崇拝だ。
 
 ―そして…俺の村もその精霊崇拝の村であった。
 
 「それがどうしてこうなったのかなぁ…」
 
 思わず呟く自分に少しだけ意外な気がした。汗だくになった身体は指一本動かす体力がなく、荒い吐息を吐き出すだけで精一杯だ。さっきまで舌を動かす体力も気力もなかったが、少しずつ回復してきているらしい。それに安堵する反面、状況がまるで変わっていない事に溜め息が漏れそうになった。
 
 「ひゅぅ……すぅ……」
 
 ―…まったく。幸せそうな寝息を立てて…。
 
 唐突に横から聞こえてきた寝息にそんな事を思ってしまう。とは言え、言葉そのものほど呆れているような感情はない。寧ろ、何処か穏やかな父性ともいうべき感覚が俺を包んでいた。
 
 ―あーぁ、涎まで垂れ流して。後で拭いてやろう。
 
 そんな事を思う俺の視界では一人の女性が俺の腕に抱きついていた。寝ている最中でも火の粉を撒き散らせるように弾ける赤い髪からは同じ色の炎が立ち上っていた。だが、それは密着している俺の肌に熱さも感じさせない。逆に暖かさとも云うべき安心感を与えてくれている。だから、だろうか。炎を彷彿とさせるオレンジがかった髪の色を苛烈ではなく、暖かさとして受け止めてしまう。
 
 ―まぁ…その髪が今は涎と汗でべっとべとなんだが。
 
 内側に軽く跳ねた横髪が特に酷い。顎よりも少しばかり長い位置にある所為かベッドに横になる彼女の下敷きになって涎の攻撃を受けているのだ。ショートに切り揃えられた後ろ髪や前髪は無事とは言え、横髪の被害は甚大である。後で何とかしてやらないと起きた頃には頬に張り付いてしまっているだろう。
 
 ―ま…それまで俺が起きてられれば…の話だけどな。
 
 少しばかり褐色の良すぎる肌は交わりが終わった後でも艶やかに光っている。たっぷり汗も掻いたからだろうか。テラテラと光る肌に思わず性的なものを感じてしまう。特に母性と女性的な魅力の象徴である大きな胸が顕著だ。その滑らかさを余す所なく俺に教えるように抱きついて、その形をリアルタイムに伝えてきているのだから。今まで触ってきたどんな女の胸よりも滑らかで美しいそれに自然と興奮が掻き立てられてしまう。
 だが、その興奮も今の俺に襲い来る眠気の前には無力だと言い切ってしまってもいい。身体中を飲み込もうとする大蛇のような眠気はもう俺の足元にまで迫ってきていた。それも当然だろう。何せ俺はついさっき抜かないまま何十発も絞られたばっかりな上に、このベッドにはワーシープの魔力がたっぷりと篭められているのだから。
 
 ―その証拠に…俺のパートナー様は大変、嬉しそうに寝ていらっしゃる。
 
 安心しきった表情で俺の腕を抱き締めながら、涎までたらして惰眠を貪る姿。それは普通では考えられない姿だろう。何せ彼女はイグニス――炎の精霊が魔物化したものだ。サキュバスの魔力に侵食され、今の姿を手に入れた彼女達は人に似ているようで人ではない。食事も――これは厳密には少し違うが――睡眠も必要とせず、排泄もしないのが一般的な常識だ。だが、今の彼女は演技でもなんでもなく確実に寝入っている。猛禽を思わせる切れ長の瞳を目蓋の裏に閉じて、小振りな顔を安心感で一杯にして眠っているのだ。それは眠りの魔力がたっぷりと詰まったワーシープの毛から影響を受けたからだろう。
 
 ―でも、俺は眠れない。
 
 正直、何十発もヤったのは初めての経験だ。自分があれほどケダモノになって性を発散するだなんて思ってもみなかったくらいである。どれだけ射精しても尚、収まりのつかない身体に軽く混乱すら覚えながら、彼女の魅力的な肢体を貪っていたのを覚えていた。金玉の中はもうからっぽで一滴の精液すら残っちゃいない。だと言うのに、俺の身体は眠るのを拒否するように目が冴えてしまっていた。
 
 ―…実際、考える事が多すぎるんだよなぁ…。
 
 俺はあの時――燃え盛る修道院に飛び込んだ時には死ぬつもりであった。自分の命で誰かが助かるのであればいいと捨て鉢にさえなっていたのである。それが『パイロマニア』として多くの人を焼き殺してきた俺に出来る最後の償いであるとも感じていたのだ。それは一種、逃避でもあったのだろう。だが、それは彼女の――オームと俺が呼ぶパートナーの所為で失敗してしまった。
 
 ―オーム…。
 
 集合を意味するその名から分かるとおり、彼女は元々、一体の精霊ではなかった。教団によって間接的に滅ぼされた俺の村に住む小さな精霊達の集まりである。だが、今はそこに一個人としてのパーソナリティを確立していた。別個に人格があるのではなく、一個人としての『オーム』として俺を育て、導いてくれている。それは今も変わらない。捨て鉢になった俺をまた導いてくれたのは彼女であるのだから。
 
 ―でも…俺は彼女に何をした…?
 
 彼女は本来、複数の精霊が集まって生まれたものだ。つまり一個人としてのパーソナリティを確立したという事自体が彼女のほかの人格を消去した事に他ならない。それは…一体、どれほどの恐怖だっただろうか。自分が消え、自分以外の何かに統合されるなんて考えただけでも背筋に寒気が走ってしまう。だが、オームはそれを行ってくれた。俺の怨嗟の声に応えて、自分を消してまで傍にいてくれている。
 だが、俺はそんな彼女の力を復讐に…いや、人殺しに使った。それはもう言い逃れの出来ない罪であろう。別に教団の連中を焼き殺した事に後悔がある訳ではない。だが、そこまでして俺に尽くしてくれる最も身近な女性の手を俺は血で染めていたのだ。しかも、自分のやっている事がどれだけ憎んでも足りない教団と同じ事であると指摘されるまで気づいていなかったのだから。
 
 ―…最低だな、俺は。
 
 思わず漏れ出る自嘲はここ数日間の間に何度も浮かぶものであった。復讐と言うだけあって別に誰かに認めてもらいたかった訳ではない。下劣な行為に手を染めていると言う自覚はあった。だが、それにオームを巻き込んでいる事に何の躊躇いを覚えなくなってしまった自分に吐き気を持ってそう呟く。
 
 ―実際、最初の頃はちゃんとしていた気がする。
 
 まだオームの人格も覚束ないで試行錯誤を繰り返していた時期の頃だ。その頃は彼女にきちんと誠意と尊敬を持って、精霊の力を人を傷つける事に使っている事に痛みを覚えていた気がする。だが、今の俺にはそれがない。痛みには慣れきって…いや、目を背けて、彼女に向ける誠意や尊敬を別の物へとすり替えていたのだ。
 
 ―オーム…俺は……。
 
 彼女は何時だって俺の傍にいてくれた。死に掛けながら砂漠を横断した時も、そこで隊商に拾われて旅のイロハを叩き込まれたときも。教養を身に着けろと図書館の中に数日、閉じ込められた時にも彼女は心折れそうになる俺を何度となく励ましてくれた。触れる事は出来なかったが、その身体のように暖かな言葉を掛けて続けてくれたのである。彼女がいなければ、彼女が導いてくれなければ今の俺はいない。それだけは自信を持って断言出来る事であろう。
 
 ―そんな彼女を好きに…なんてのは少し不遜なんだろうな、やっぱり。
 
 オームは「契約とは対等な立場なんだから敬語は要らない」と何度となく俺に言ってきていたのだ。最初はそれに慣れなかったが、今ではそれほど違和感無く使いこなせる。契約者と精霊を繋ぐ絆も必要事項だけでなく時折、雑談とかも昇らせたりして遊び心も出てきていた。だが、それでも俺がオームを好きに…なんて感情は認められないし、認めたくもなかったのである。
 
 ―…そんなの認めたって辛いだけだからな。
 
 精霊は俺達よりも遥か高次元にいる存在だ。肉体を持たないのは俺達よりも下等だからなどでは決してない。より高次元な場所に彼女達はいるのだ。そんな精霊に惚れた所で、何が出来るというのか。無論、恋愛にとっては心のつながりと言うのはとても大事である。だが、人間とは精霊のように心だけで出来ているのではない。聖人君主でもなければ清く正しいお付き合いなど不可能だろう。だが、精霊と恋人になってしまえば自然とそれを求められてしまうのだ。
 
 ―それに別に恋人になんかならなくたって俺がオームに一番近い男ってのは変わらなかったし。
 
 心の繋がりだけで云えば、契約者と言うだけでも十二分にあったのだ。オームの伝えたい事は言葉に出さずとも伝わってきたし、逆もまた然りだ。それはそこらに捨てるほどいる『恋人』達よりもよっぽどしっかりとした繋がりであろう。
 
 ―まぁ…好きだって言えばオームは迷いながらも頷いてくれたんだろうが…。
 
 彼女はとても火の元素を司るとは思えないほど献身的な精霊だ。その全てを俺の為に捧げてくれた彼女に告白すればきっと拒みはしないだろう。迷いはするが最終的にはきっと頷いてくれる。そんな確信が俺の中にはあった。だが、その先はどうだろうか?肉体もなく触れ合う事の出来ない『恋人』。それにオームが悩まないはずがない。だからこそ、俺は自分の思いを奥の方へと閉じ込め、気晴らしに女遊びをするようになったのだ。
 
 ―…それがどうしてこうなったんかねぇ…。
 
 あの男――水の魔精霊を従える両腕のない男との戦いから俺だけではなくオームも悩んでいる事に気付いていた。文字通り手も足も出なかった魔精霊との戦闘。最初はそれに自分を責めているのだと思っていた。それが違うという事に気付いたのはこの街に翌日の事である。サキュバスの魔力に侵されたオームが時折、その爆ぜる炎のような身体の中に女の肢体を浮かばせるようになったのだ。最初はそれが何なのか俺には理解できなかったが、あれはきっと魔精霊化の兆しであったのだろう。
 
 ―精霊は基本的に魔力で出来ているのは周知の通りだ。
 
 それは勿論、魔力の影響を強く受けると言う事でもある。その特性を利用し、小さな火種のような精霊達は今のオームへとなった。だが、それが悪しき方向に転ぶ事も多々あるのである。それがサキュバスの魔力に侵され、魔物になる魔精霊化だ。
 
 ―無論、どれだけ影響されやすいといっても確実に魔精霊と化すとは限らないのだが。
 
 元々が魔力の塊であるだけあって精霊たちは魔力の扱いにも長けている。そこら中に自然と漂うサキュバスの魔力程度ではそう簡単に魔精霊化しない。魔界と化すだけの魔力であれば話は別かもしれないが、少なくとも精霊そのものが受け入れようとしなければ自然と魔精霊化するなんて中々、起こらないのだ。だけど、それは『自然』でなければ簡単に魔精霊化するという事でもあって――。
 
 ―あの魔精霊の攻撃を受けてオームが変質した可能性が高いんだよなぁ。
 
 魔精霊とはサキュバスの魔力で変質した精霊の事を指す。無論、その攻撃にはサキュバスの魔力がたっぷりと篭っているのだ。そんな魔精霊の攻撃をオームは二度三度と防いでくれていたのを覚えている。その時に何かしらの影響を受けてしまったのは否定出来ない。それが濃厚なサキュバスの魔力を漂わせるこの街に入ったことで一気に表面化したのだ。
 
 ―ま、俺の推測なんだけれど。
 
 だが、彼女が魔精霊化に悩んでいると仮定すればこれまでの彼女の様子にも納得が出来る。今までは何でも俺に相談してきた彼女が今回の悩みだけ打ち明けなかったのも、俺が魔精霊を魔物と考える宗派に属するからだろう。心配性で激情家な面を持つ彼女はすぐに思考が悪い方向にも行き過ぎるので捨てられるとか考えていたかもしれない。
 
 ―…そんな事ないのになぁ。
 
 寧ろ捨てられるかもしれないと脅えていたのは俺の方なのだ。何時、愛想を尽かされるんじゃないかとびくびくしていたのである。それは必死に虚勢で誤魔化していたが、何度となく夢に見て夜中に飛び起きた。俺にとって最大の悪夢とは教団に殺される事ではなく、オームに見捨てられる事だったのである。
 
 「終わり良ければ全て善し…かね」
 
 結局、オームは俺を助ける為に魔精霊化した。そして彼女は俺を貪欲に求めてくれたのである。それは彼女もまた俺を好いてくれていた証左であろう。それが…今はとてつもなく嬉しい。それだけでこれまでの擦違いや行き違いをチャラにしても良いくらいだ。
 勿論、まだまだ問題はある。修道院の放火の件についてはまだ何も解決してはいないのだ。あのハワードと名乗った細面野郎が俺を捕まえに来るかもしれない。だが、今の俺は例え投獄されるとしても構わなかった。この幸せだけ胸に一生を檻の中で過ごしてもいいとさえ思っていたのである。
 
 ―…まぁ…オームが許さないだろうけど。
 
 何だかんだで俺よりも激情家なオームが俺との別離を耐えられるはずがない。檻の中まで追いかけてくるか、それとも抵抗を試みるかのどちらかだろう。それは勿論、嬉しい。だが…こんな俺の人生にそこまでオームを付き合わせて良いのかと、そんな気持ちさえ生まれていたのだ。
 
 ―俺は………。
 
 どうすればいいのかは分かっている。このままオームに気付かれないまま警備隊に出頭すればいい。そこで裁きを受けるにしてもしないにしても、ハワードと言う男とは話しておかなければならないだろう。だが、俺の脚は一向に動こうとしない。死すら受け入れたのに比べればオームと少しだけ離れるなんて大したことないはずなのにまるで縫い付けられたかのように動かないのだ。
 
 ―…ホント、救えないな、俺って奴はよ。
 
 そんな自嘲を浮かばせながら俺はそっとオームの頬を拭った。だが、涎が作るラインを消しても後から溢れる唾液は止まらない。俺は少しだけ笑いながら鉛が絡みつくような身体を捻って枕元にある手拭を取った。そのまま彼女と枕の間に挟むようにして保護しておいてやる。これで途中で涎が冷たくて起きるなんて事はないだろう。
 
 ―コンコン。
 
 「ん?」
 
 そこまでしたところで俺の耳に控えめなノックが聞こえた。それに扉の方へと視線を向ければ、何かが扉の前に立っているのが分かる。窓の外を見ればもう夕刻だ。太陽が沈む前に真っ赤な光がカーテン越しに差し込んできている。そんな時間に一体、誰が用なのだろうか。
 
 「あー……」
 
 本当は居留守を決め込んでしまいたい。身体中に纏わりつくような疲労はそろそろピークに達しているのだ。正直、このまま倒れこむように寝てしまいたい。だが、自警団が相手である可能性もあるのだ。今回の放火について一番、怪しいのはまず間違いなく俺なのだから。
 
 ―それなのに居留守を決め込むってのは…なぁ。
 
 ただでさえ疑いを掛けられている上に心象まで悪くしてしまってはそれこそ勝ち目がない。俺だって無実の罪で投獄されたいと思うほどマゾではないのだ。出来ればここから先も彼女と一緒に幸せな日々を過ごして生きたい。その為にはなんとしても濡れ衣を晴らさなければいけないだろう。
 
 「やれやれ…ったく」
 
 ぼやきながら俺は身体に力を篭めてゆっくりと起き上がっていく。ギシリとベッドが軋むのと同時に俺の身体も悲鳴を上げた。だが、それを気力で捻じ伏せながら俺は上体を起こす。そのままオームに気付かれないように腕を引き抜き、立ち上がった。ずっと抱き締められっぱなしだった左腕がビリビリとした痺れを訴えるが、それ以上に何処か空虚な感覚が身体全体を包んでいる。どうやら俺はよっぽどオームの身体が気に入ったらしい。
 
 ―コンコン
 
 「はいはい。分かってますよ」
 
 二度目の控えめなノックに小さく応えながら、全裸の俺はそっと下着とズボンを履いた。上半身に何か羽織ろうとも思ったが、セックスの最中でシャツが何処かに行ってしまったらしい。今から荷物を開ける時間はないだろうし、先に応対しよう。そう思って俺は扉まで歩き、鍵を開いた。
 
 「どうも。お待たせしました」
 「やぁ。こんばんは。お忙しいところすみませんねぇ」
 
 扉の先にいたのは見慣れた細顔であった。特徴的な細長い顔と狐を笑っているのかいないのか分からない目元。口元は常に演技っぽく釣りあがっていて、観るものに警戒心を抱かせるだろう。100人中90人はいけ好かないであろう特徴的なその顔は一度会っただけとは言え、忘れるはずがない。
 
 「おや、ハワードさん。どうしたんですか?」
 「いえね。ちょっと貴方に用事がありまして…今、宜しいですか?」
 「構いませんよ。あ、シャツを取って来た方が良いですか?」
 「いえいえ、気にしないで下さい。すぐに済みますし」
 
 そう言って警備隊の服を着込んだハワードは小さな薬壷を取り出した。掌にちょうど収まるくらいの大きさの壷からは独特の薬草の香りが漂ってきている。一体、何の薬なのだろうか。薬壷に入っているという事は軟膏か何かだと思うのだが…。
 
 「貴方を診た医者の人に頼まれましてね。火傷の薬だそうです」
 「あぁ、これはどうもご親切に。お代の方は?」
 「命を顧みず子供を助けたヒーローからはお金は頂けないからサービスだそうですよ」
 「ヒーローって…そんな…」
 
 実際、俺は大した事などしていない。俺がやったのはあくまで飛び込んだことだけだ。オームがいなければ今頃、黒こげであったし、彼女が魔精霊化を決断しなければこの世にもいない。そもそも子供を助けると言う動機と同じくらい自暴自棄になっていたのだ。そんな俺が他人からヒーローなんて呼ばれる資格などはないだろう。
 
 「いやいや、中々出来ませんよ。自分の命も顧みず火事の建物の中に突っ込むなんてね。例え火の精霊と契約していても」
 「……」
 
 ハワードの言葉に一瞬、心がざわつきそうになったが、この男はもう大体の当たりをつけているのだ。俺が『パイロマニア』であると言う証拠はなくとも確信はしている。それを初日のやり取りで理解している俺は彼の言葉に反応を返すことはなかった。ただ、曖昧に笑って受け流すだけである。
 
 「まぁ、それはさておき。ここからが本題なんですが…」
 
 ―来たか…!?
 
 仕切りなおしとばかりに話題を区切るハワードに思わず身体が身構えそうになってしまう。俺はそれほど頭や勘が良い訳ではないが、ただ薬を受け渡すためだけに警備隊員の男が出張ってくると思うほどお人好しではない。そもそも俺の医者から薬を受け取ったのが、俺の正体にもっとも近いであろうハワードと言う辺りがそもそも出来過ぎている。俺は馬鹿だが、そこに偶然ではなく、必然性を感じる程度には頭が働くのだ。
 
 ―でも…何を言い出す事やら。
 
 俺が今回の放火に無実であるだけに、証拠なんて何一つとしてない筈だ。そのままでは幾らそれぞれで独立した体系を持つと言う警備隊員では逮捕するのは難しい。だが、それはあくまで良識があれば、の話だ。教団の統治する街では警察機構は権力者の私兵と化していることも少なくない。証拠のでっち上げは日常茶飯事で、見せしめとして濡れ衣のまま連れて行かれる光景は何度も見てきた。
 無論、比較的安全に統治されているこの街が決して同じだとは思わない。だが、俺の中での警察機構への信頼感はほぼないに等しいのだ。それこそ今、この場で逮捕状を突きつけられる可能性もある。そうでなくとも証拠を引き出そうとカマ掛けくらいはしてくるだろう。それに引っかからないように思考を張り巡らせながら、俺は一つ頷いた。
 
 「貴方、消防隊員とかなるつもりありません?」
 「は?」
 
 ―だけど、齎されたのは想像とはまったく違う言葉であった。
 
 てっきり事件の事を聞きだされるのかと思っていた俺はまったく予想外な方向からの一撃に思わず間抜けな言葉を返してしまう。しかし、それも当然だろう。だって、俺は『パイロマニア』と教団から呼ばれる放火魔であったのだ。それはこの男も確信を持っているはずである。だが、彼の言葉はそれとは決してそぐわないもので――。
 
 「いえね。今回の貴方たちの手並みを見て上が貴方を気に入ったみたいでして。精霊による消火の手際と言い、貴方の飛び込みっぷりと言い、消防隊に是非とも欲しいとの事で」
 「は、はぁ…」
 
 消火の手際と言われても俺はその頃、意識を失っていたから何が起こったのかは分からない。だが、こうして褒められた以上、オームが何かしらをやってくれたのだろう。俺ではなく彼女の活躍が認められたというのは正直、嬉しい。けれど、話の流れがあまりにも突然すぎて、俺は曖昧な答えしか返せなかった。
 
 「とは言え、貴方も旅人ですし、拘束は出来ません。あくまで自由意志に任せるとの事なので考えておいてください。返事は貴方が街を出ると決心するまでで結構ですので。もし、興味があれば、警備隊本部の私の部屋にでも来てください。給金などのお話もその時にしますよ」
 「え、えぇ。分かりました。また今度寄らせていただきますね」
 「えぇ。落ち着いた後にでもお願いします。それではお楽しみの所すみませんでした」
 
 そう言ってハワードは一礼をして歩いていく。その後姿を見ながら、またいきなり爆弾を落とすのではないかと俺は身構え続けた。だが、細身の彼の身体はどんどんと遠ざかり、フロントの手前まで足を進めている。どうやら本当に用件はこれだけだったらしい。それに安堵して胸を撫で下ろそうにもどうにも納得が出来なかった。
 
 「あ、あの!」
 「ん?」
 
 思わず口から出た言葉にハワードがゆっくりと振り返る。だが、俺は何を言えばいいのか分からない。自分を逮捕しなくて良いのかなんて聞ける筈がないし、下手にそんな事を云えば薮蛇になりかねないのだ。結局、そのまま言葉が出てこず、俺は固まり続けている。
 
 「あぁ、もしかして犯人の事ですか?」
 
 そんな俺に助け舟を出すようにしてハワードが言った。それに小さく頷くと彼はその顔に浮かぶ笑みを深くする。どうやら俺の心の機微なんてお見通しらしい。そう主張するような仕草に少しだけ反抗心を覚えるが、ここで下手に喧嘩をしてもデメリットしかないのだ。そう言い聞かせて俺は心を落ち着かせる。
 
 「安心してください。もう捕まりましたよ」
 「…え?捕まった…?」
 「えぇ。つい先ほど大捕り物を演じましてね。いやぁ、私の活躍を貴方にも見せてあげたかったくらいで」
 
 そ処から先のハワードの自慢話は耳には入ってこなかった。何せ俺は自分が疑われていると決め込んでいたのである。だが、この事件は犯人逮捕と言う意味である種の収束を見せた。それはつまり…俺が臭い飯を食う必要はなくなったという事で……。
 
 「だから、安心してくださいね。仕返しに此処に放火されたりなんてありませんから」
 「は…はは…」
 
 笑顔のハワードから告げられた冗談は『する側』であった俺にとってはとても笑えないものであった。それでも必死に誤魔化そうと思わず顔を引きつらせるが、笑みになっているとは思い難い。それでも彼は何も言わず、ニコニコと顔を笑顔の形に固めたまま再び一礼した。
 
 「事件の詳細が聞きたければまた後日、警備隊の本部に来てください。それでは、またお会いしましょう、『ディルクさん』」
 
 そう言ってハワードが再び背を向けて歩き始めた。そのままフロントへと出て行った彼は扉を開いて宿から出て行く。それを見送ってから俺はようやく溜め息を吐く事が出来た。
 
 ―やれやれ…寿命が縮まるかと思ったぜ…。
 
 だが、これでもう安心できる。ハワードが嘘を吐いた可能性は無きにしも非ずだが、少なくとも強引に逮捕しようとしている訳ではないのが分かっただけでも御の字だ。絡め手をわざわざ使ってくると言う事はボロを出すのを待っているも同然である。だが、無実である俺には出すボロなんてない。つまりここから立ち回りを大きく間違えなければ捕まることはないだろう。
 
 ―それにしても消防団員…か。
 
 さっき言われた言葉を咀嚼するように反芻しながら、俺はそっと扉を閉めてベッドに潜り込んだ。その頭の中ではハワードに言われた言葉がぐるぐると渦巻いている。確かに最近、旅の資金が心許なくなって来たからここらで補給したいとは考えていた。そこにわざわざ雇ってくれると言う話が来たのだから正直、渡りに船である。だが、これは下手をすれば定住も考えなければいけない大きな話だ。俺だけでは決して決められない。
 
 ―まぁ…悪い話じゃないよな。
 
 ずっと教団と敵対してきただろうか。魔物と精霊を明白に区別する価値観を持つ私はこの街を結構、気に入っていた。そこら中に活気と穏やかさが渦巻くこの街は物価も安く、定住するには良い街である。その反面、その物価の安さが再び旅に出るのは難しくするだろう。だが…それも教団への復讐を止めれば特にデメリットではない。俺は別に世界を見るなんて大層な目的ではなく、教団に自分達の痛みを少しでも与えてやる為に旅をしていたのだから。
 
 ―その辺は…まぁ、明日考えるか…。
 
 一人で思い悩んだ所で答えなんて出ては来ない。これからの二人の進退にも関係する重要な案件なのだ。オームとも相談して決めなければいけない。そんな風に答えを投げながら、俺はそっと隣のイグニスを見つめた。穏やかに寝息を立てるその寝顔に微笑ましいものを感じながら、俺はそっと彼女を抱き締める。抱き枕にするように彼女の柔らかさを全身で感じながら、そっと瞳を閉じれば今まで押さえ込まれてきた眠気が一気に噴出した。
 
 
 ―そして、俺はそのまま眠りの中へと落ちていったのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―闇の中を一人の男が走っていた。
 
 荒く息を上げながら、必死に腕を振って走り抜ける姿はまるで何かに追われているようだ。だが、彼の後ろには何者も迫ってきてはいない。それでも男は時折、背中を振り返りながら、必死になって暗い路地を駆け抜けていた。
 
 「くそっ!!!」
 
 そんな風に男が毒づいた瞬間、目の前に光が開いた。曇り空の夕刻でも光の殆ど差し込まない路地に比べれば大通りは大分、明るい。その光が見えた事で男の顔に一瞬、安どの表情が浮かぶ。
 
 ―良かった…!助かった…!!
 
 このまま大通りの人ゴミに紛れれば追っ手を巻く事も不可能ではない。そうして夜になればこの街から脱出すればまだ命を永らえる可能性はある。そう思って男がさらに加速しようとした瞬間、目の前に光の前に影が立った。
 
 「っ!!!」
 「やぁ、こんにちは」
 
 男の前に立った影が穏やかに言った台詞とは裏腹に男の背筋に戦慄が走った。逆光でも尚、光を遮った影の着ている服が分かるからである。それは今の男が最も見たくないものの――つまり警備隊の制服であった。
 
 「あぁ、抵抗しないほうが良いですよ。下手に抵抗すると貴方の後ろの男に腕を折られちゃいますから」
 「っ!」
 
 忠告するような影の台詞が紡がれた瞬間、男の後ろで何かの熱が膨れ上がった。反射的に振り返ろうとした瞬間、男の腕が捕まれてしまう。それに抵抗しようと身を捩ったが、それも背後の何者か――影の言葉が正しければ男――にとってはお見通しだったのだろう。すぐに関節を極められて、地面へと倒されてしまった。
 
 「な、なんです…?善良な一般市民にこんな事をして…!!警備隊って言うのは市民を護る為のものじゃないんですか!?」
 「えぇ。そうですよ。だから、こうして護ってるんじゃないですか。『パイロマニア』と言うテロリストからね」
 
 影の台詞の男の身体が硬直した。潜入者として特別な訓練を受けてきた男ではあるが、動揺全てを押し隠せる訳ではない。教団の一部しか知らないような極秘事項の一つでもあるその名前を出されて、彼の身体に緊張が走った。だが、それも一瞬の事である。人に気取られない程度の動揺をすぐに胸の奥へと隠した男は善良な市民の仮面を被って抗議した。
 
 「な、何の話ですか?パイロマニアってなんです?」
 「…そもそもおかしい話なんですよねぇ」
 
 男の抗議に構わず影は独白するように呟く。そのままゆっくりと押し倒された男へと足を進めて、見下ろすように前に立った。長身の影を床へと倒れ伏した男は見る事が出来ない。視界に入るのは大量生産された革靴のみだ。
 
 「『正体不明』で炎を扱う『テロリスト』。この時点で既に矛盾してるんですよね。正体不明の相手をどうしてテロリストと断じる事が出来るんです?」
 「だから…なんの話を…!」
 「黙れよ」
 
 完全に関節を極められた男が暴れようとした瞬間、背後の男が力を篭めた。それだけで全身に痛みが走って抵抗する力を奪われてしまう。背後の男はかなりの実力者であり、手馴れているのが男には分かった。
 
 「でも、これって異名の生まれ方を考えれば割りとすぐに説明できるんですよね。異名とは対象の敵対者から生まれるのが殆どです。ですが、『パイロマニア』は正体不明でその犯行がどれだけ多岐に渡るのか、そもそも個人なのか団体なのか誰にも説明できない。でも、『パイロマニア』と言う名前だけは噂ではありますが、周知されている。つまり…教団にとっては炎で変死した人間や教団の施設を焼かれるのは『パイロマニア』の仕業であってくれたほうが都合が良いんですよ」
 「つまり意図的に教団が『パイロマニア』と言う敵対者を作ってるって事か?」
 
 影の言葉に背後の男が尋ねた。それに影が頷き、再び続ける。
 
 「えぇ。教団内部にそれで得をする人間がいるからですね」
 「それは…つまり…」
 「そう。簡単な話、『パイロマニア』ってのは教団内部の権力闘争で死んだ人間を誤魔化すために生まれたスケープゴートみたいなもんなのですよ。やれやれ…本当に教団って奴は度し難いですねぇ」
 
 影がヤレヤレと言わんばかりに首を振った。それに背後の男も鼻を笑うようにして同意する。お互いに教団と言う相手にはかなり痛い目を見ているのだ。そのやり口も知っているだけに、お互いに納得が出来る説明であった。
 
 「それが…一体、俺になんの関係が…!!」
 「だから、貴方が本当の『パイロマニア』だって言ってるんですよ。ラザフォード君」
 
 その場で一人立場の違う男が必死の抗議を続ける。だが、それは二人にとって殆ど聞き入れられないものであった。彼らにとってはこの男こそが『パイロマニア』であると既に確定しているのである。
 
 「貴方の経歴をざっと説明しましょうか。ジェームズ・ラザフォード。28歳。東部の出身で裕福な商家の生まれ。両親が熱心な教団の信者であったために神学校に通う。そこで優秀な成績を収めた貴方は本部直下の最高学府に入学。そこでもトップクラスの成績を収めて卒業」
 「中々、輝かしい成績だな」
 「まだ続きますよ。そこから学長に気に入られて、助教授に。若くして最高学府の助教授になったとしてひっきりなしに講義や公演の依頼が来ていたそうです」
 「つまりエリート人生まっしぐらのリア充だったと。爆発しろ」
 「リア充の意味は分かりませんが、エリートなのは確かですね。さて…では、ここからが質問なんですが…そんなエリートのラザフォード君がどうしてこんな場所にいるんです?」
 「それは別人だ…!俺はジェームズ・ラザフォードなんて名前…じゃ…!!」
 
 ギリギリと締め付けられる痛みに男は顔を歪めた。だが、それでも背後の男は力を緩める気配がない。寧ろ殺意すら覗かせながら、力を篭めていた。下手に動けば骨を折られるであろう。そんな予感が男の背筋に汗として流れた。
 
 「とぼけても無駄ですよ。ちゃんと裏は取っていますから。貴方の学部時代の友人に貴方の似顔絵を見せて確認しています。確かに本人であるとね。彼は心配してましたよ。いきなりいなくなったから何をしてるんだって」
 「カマを掛けるならもう少し…マシな事を言うんだな…!この短時間で俺の似顔絵を書いて確認なんて出来るはずがないだろ…!」
 
 そもそもこの街には毎日、多くの人が入り込み、多くの人が出て行く。その中で一々、人を調べてなどいられない。男がよっぽど怪しい真似をしたのなら別だが、厳戒態勢の中でも殆どフリーパス同然で街の中に入れたのだ。警戒されていたのであれば、街に入る前に止められていただろう。それに男がこの町に来たのはつい三日ほど前だ。その間に遠く離れた教団の勢力下にいる友人にコンタクトを取るなんて不可能だろう。そう男は考えた。
 
 「短時間?何を言ってるんです?貴方が最初にこの街に足を運んだ三ヶ月ほど前から貴方はずっとマークされてたんですよ?」
 「っ!!」
 
 影の言葉に男の背筋に冷たいものが走る。確かに影の言う通り男は数ヶ月前から行商人の皮を被ってこの街に潜入し始めた。無論、それは彼の信じる教義を歪めるこの街の修道院を破壊する工作の為である。だが、下見を兼ねて修道院に接しているうちに時間が過ぎ去り、行商人を演じる彼は何度か街を発たなければならなかった。結果としてその間に『パイロマニア』の名前は教団内だけでなく外でも囁かれるようになってしまったのである。
 
 「(だが…これはブラフだ…!)」
 
 でなければ、ここまで放置していた理由が分からない。確かに彼は人の良い行商人の仮面を上手く使い分けていた。だが、それでもマークされていたのであれば、もっと早く具体的なアクションがあっただろう。三ヶ月と言う期間の間に彼は何度となくこの街に足を踏み入れていたのだから。
 
 「笑えないブラフだな…!!」
 「では、もっと笑えなくしてあげましょう。貴方の三ヶ月前に初めてこの街で止まった宿は踊る龍の焔亭。その時に食べたのは人気メニューのクリームシチュー。でも、貴方は半分ほど残した。そうでしょう?その時の言い訳は体調が悪かったから。でも、魔物娘の作った料理が気持ち悪くて食べられなかっただけですよね?」
 「っ!」
 
 言い当てるように口を開いた影の言葉に男の背筋が大きく震えた。影の言葉は的確に男の精神力を削っていく。常に後出しを続ける影に何処まで知られているのかが、どんどんと分からなくなっていくのだ。逆光でほとんど判別できない目の前の男に戦慄めいたものを感じながら、男は口を噤む。
 
 「まぁ、キッカケとしてはとっても情けないものなんですけれどねぇ」
 「…なんだ?」
 「いいえ。貴方が親馬鹿で助かったと思いまして」
 「うるさい。気が散る。一瞬の油断が命取り」
 
 組み伏せられた男は知る由もなかったが、彼がマークされたのは修道院に必要以上に近づいたからだ。彼を後ろから組み伏せる男の娘が修道院に勤めていると知っていたら、そしてその娘の親が親馬鹿で有名である大隊長である事を知っていたなら、男ももう少し慎重な手段を取っていただろう。だが、結果として修道院に足しげく何度も通う好青年は親馬鹿の喫線に触れ、その身元から何から全てを洗い出されたと言うわけだ。
 
 「まぁ、そんな訳で抵抗は無駄です。ちゃっちゃと自白して楽になっちゃいなさい」
 「無実の罪を着せておいて…良く言う……っ!!」
 「本当に…腕の一本や二本は折られないと分からないようだな」
 
 男の言葉に組み伏せた男が冷酷に言った。同時に前へ前へと掛けられる圧力に男の身体が悲鳴をあげる。ゆっくりとじっくりと弄るように腕を折ろうとする男に彼の背筋に嫌な汗が浮かんだ。後ろにいる親馬鹿にとって最愛の娘――無論、文字通りの意味で――ごと修道院を焼き払おうとした彼に煮え滾るような殺意を抱いていると知ればもう少し違う反応もあったかもしれない。
 
 「――お止めなさい。そんな事をしても貴方の娘は喜びませんよ」
 「…別に喜んで欲しいわけじゃない」
 「だけど、悲しませたい訳じゃない。でしょう?」
 
 影の言葉に男の動きがピタリと止まった。未だ男の身体中が悲鳴を上げているが、それでも腕が折られるほどではない。しかし、後、数センチ身体を傾ければ男の腕はあっさりと折れてしまうだろう。潜入員として人並み以上の訓練を受けてきた男にはそれが分かった。
 
 「……お前は卑怯だ」
 「最高の褒め言葉をどうも」
 
 短いやり取りの後、後ろからの圧力がふっと軽くなるのを感じて男は小さな溜め息を吐いた。潜入員としての訓練を受けてきたとはいっても、痛みに鈍感になっている訳ではない。潜入員として拷問される訓練も何度か受けてきたが、それでも痛覚全てを遮断できるような身体の構造にはなっていないのだ。
 
 「まぁ、そんな訳で彼を抑えるのにも結構、大変なんですよ。そんな訳で死にたくなかったら自供してくれるとこっちも調書を作りやすくて楽なんですがね」
 「誰が…自供なんか…っ!!」
 
 だが、それでも男には矜恃があった。それはちっぽけだと言われるようなものかもしれない。しかし、自らが信じる神とこうして真っ向から対立する彼らに屈するつもりはなかった。男にとって絶対的に正しいのはこれまで様々な形で恩恵を与えてくれた主神の方であったのだから。人間を誘惑し、堕落させる魔王側の人間に屈するつもりがあれば、最初から潜入員などやっていないだろう。
 
 「そうですか。それじゃあ仕方ありませんね」
 「はっ…!だったら、お前等の望む答えが得られるまで拷問でもするってのか?」
 「そんな野蛮な真似はしませんよ、教団じゃないんですから」
 
 嫌味のような影の言葉に男は反射的に反論を紡ごうとする。しかし、ここで反抗しようものならば、男が教団側の人間であるという事がバレてしまうだろう。『主神側』ではなく、『教団』と影が言ったのも罠だ。主神を信仰するのは何も教団だけではない。教義こそ大きく違えどもこの街の信仰そのものも主神信仰であると言えるのだから。それをこの街で警備隊を率いる影が理解していないはずがない。それでも尚、教団と言った言葉に男は影の意図を理解したのだ。
 
 「まぁ、貴方にとっては最も耐え難い罰かもしれませんけれどね」
 「何を」
 
 ―言っているんだ?
 
 肩を竦める影への返事は途中から言葉が出てこなかった。影の後ろから見慣れた修道服が姿を見せたからだ。首から足元まですっぽりと被る黒染めのそれは彼の故郷でも使われているものである。その向こうにある顔は逆行となる男には判別できない。ただ、女性らしいふくよかな肢体が修道服の下に隠されているのが分かるだけだ。男を弾くような黒染めの服が誰しも羨むような女性らしいラインに持ち上げられる姿は何処か背徳的な雰囲気を女性に纏わせている。
 
 「こんにちは、デビット様」
 
 この街での男の偽名を呼びながら、女性は微笑んだ。それはそこだけ切り取ってしまえば、とても穏やかで心安らぐものであっただろう。
 
 ―だが、今のこの場は異常だ。
 
 一人の男が取り押さえられ、苦痛に顔を歪めている。その前に立つ影はのらりくらりと罪状を述べながら男を追い込んでいく。そんな非日常の真っ只中だ。そんな中で『何事もなかったかのように微笑む』と言う事がどれだけ難しい事か。それこそ螺子が吹っ飛んでなければ不可能だろう。
 
 ―だが、女性はそれをやってのけた。
 
 その事に男――ジェームズであり、デビットでもある彼の背筋に汗が流れる。影相手にも感じなかった本能的な恐怖が腹の底から沸き上がっている。煮え滾るように熱いのに身体は凍えるように冷たくなっていく。その矛盾した感覚に彼の身体は逃げようとした。だが、押さえつけられたままの身体は一向に抵抗できず、そっと彼の前に屈みこんだ女性から逃げる事は出来ない。
 
 「あら…大変。デビット様…頬が汚れていますわ」
 
 この異常な状況にもっと何か言う事は無いのか。そう男が返す暇もなく、女性はそっとハンカチを修道服のポケットから取り出した。そのままゆっくりと撫でるように男の頬を撫でていく。それだけ。ただ、それだけの行為なのに男は自分が扇情的なものを感じているのに気付いていた。
 
 「大変…でしたわね」
 
 ゆっくりと丹念に吹き上げながら女性はぽつりと漏らす様に言った。その言葉に男が反射的に顔を上げれば、見目麗しい穏やかな女性の顔が目に入る。すっきりとした顔の曲線の中に垂れがちな目と小さな唇、目に惹かれるように下へと垂れる眉が配置されている姿は母性溢れるように見えた。男にとってそれはこの街で最も身近だったが故に、最も裏切った事の多い女性の姿である。だが、それが今は男にとってとても恐ろしく見えてしまうのだ。それは薄暗がりのこの路地の所為だろうか。それともこの異常な状況の所為か。人並み以上の精神力と頭脳を持つ男でも分からなかった。
 
 「でも、私が来たからには、もう安心ですわ」
 
 そう安心させるように言いながら、女性の手はそっと男の頬を掴んだ。まるで大事な宝物を包み込むような手付きとは裏腹に滑らかなな女性の肌が男に煽情的な感覚を齎す。何処か性的なものを伴ったそれに男の本能はさらなる危険を訴えるが、油断なく取り押さえた親馬鹿の拘束は決して緩むことがなかった。
 
 「デビット様はとっても優しい方ですもの。子供たちの為に修道院の改修を手伝ってくれたり色々奔走してくださった優しい方ですわ」
 「それは…」
 
 修道院だけでなく、教会と孤児院を兼ねるこの街の修道院は裕福であるとは言えずとも貧しいと言う程ではなかった。子供たちには常に温かいスープと白パンが配られている。だが、それでも遊びたい盛りの子供たちは物を多く壊すのだ。そして、そんな傷がそこかしこにある修道院の改修を簡単に決意出来るほど裕福ではなかった。結果として怪我の危険性のある重大なもの以外は全て放置されてきたのである。
 
 ―だから、男はそこに漬け込んだ。
 
 修道院を『パイロマニア』として燃やす任務を承った彼は前準備の為に修道院に近づき、その中が継ぎ接ぎだらけで出来ている事を知った。そして、少しずつ修道女達と仲良くなっていく中で男は自らの資金を使って修道院の改修を提案したのだ。無論、それは今日の『裁き』の為にとても頑丈である反面、燃え易い木材を選んだり、穴の開いた壁の中に油壺を仕込む為である。だが、それでも修道女達は我が事のように喜び、男に多くの信頼と感謝を述べた。無論、目の前の修道女もその中の一人だ。
 
 「だから…きっとデビット様は洗脳されていますの。きっと悪い夢を見ているだけなのです。だから…私がそれを解いて差し上げますからね…」
 
 呟くように言いながら女性が再び微笑んだ瞬間、男は彼女の瞳にまったく光がないのに気付いた。光沢のないその瞳に自分の姿が鏡のように反射しているのを見て、男の背筋に本能的な恐怖が鳥肌を立たせる。まるでその瞳の中に飲みこまれていくような感覚に反射的に身を捩った瞬間、彼が拘束から解放された。
 
 「(逃げなければ…っ!!!)」
 
 この女性に捕まってしまえばきっとただではすまない。そんな本能めいた予感に背筋を震わせながら、男は一気に立ち上がろうとする。どうして今までしっかりと捕まえられていた身体を今更になって解放するのか。そんな事を考える余裕は彼にはない。ライオンに襲われ、必死で逃げるシマウマのようにただ逃げる事しか考えられなかったのだ。
 
 「駄目ですよ…」
 「っ!!」
 
 しかし、反射的に飛び起きた身体は女性の手に腕が捕まれる事で再び拘束されてしまう。それを振り払って逃げようにもこの細い腕の何処にどうしてそんな力があるのかと言いたくなるような力で締め上げられている。力だけで言えば親馬鹿よりも強いそれに純粋な恐怖を感じて腕を振り回した瞬間、屈みこんだ女性もゆっくりと立ち上がった。
 
 「こんなに脅えるなんて…よっぽどデビット様は酷い事をされてきたのですね…。でも、大丈夫ですよ。私がちゃんと…その傷を癒してあげますからね…」
 「ひっ…!」
 
 振り回した腕が偶然、女性の頭に当たり、彼女のベールを引き剥がした。瞬間、ばさりと広がる濃紺色の髪。薄暗がりの中でさえとても映える美しい髪に男が何かを感じる暇もなく、その上にある見慣れない突起に目を惹かれてしまう。まるで羊の角を模した様な独特の髪飾り。だが、それは男にとって髪飾りではなく、『本当に女性から生えているものである』と一瞬で理解出来てしまった。
 
 「まずは…教団の手の届かない所に行きましょうね…♪そこでずっと…ずぅっと二人で…暮らしましょう…?」
 「や、やめ…っ!!」
 
 男の抵抗も虚しく、女性の手は彼を自分の方へと引き寄せる。そのまま豊満な肢体で包み込むようにしてぎゅっと抱き締めて彼の唇に甘い口付けを落とした。瞬間、絡み合う二人の姿がぼやけていき、うっすらと消えていく。しかし、女性はそんな異常にまるでお構い無しに男の唇を貪り、愛しそうに口付けを繰り返していた。その内、二人は跡形もなく消えてしまい、後には警備隊の制服を着込んだ二人の男だけが取り残される。
 
 「行きましたね」
 「……あぁ」
 
 満足そうな影――ハワードの言葉にもう一人の男は不満そうに返す。それにハワードは小さく笑った。娘を殺そうとした相手への殺意はきっと収まってはいない。今も滾っている筈だ。それを抑えてこうして彼らを見送った男にハワードは好感を抱いたからである。
 
 「…なんだ?」
 「なんでもありませんよ」
 
 しかし、それを友人に言ってやるのも癪だとハワードは笑いながら誤魔化した。それにからかわれていると思った男が小さく溜め息を吐く。これ見よがしな友人の姿にもう一つ笑いを浮かべた瞬間、男はぽつりと言葉を漏らした。
 
 「しかし…どうやってあの子を追い込んだんだ?」
 「追い込んだなんて人聞きの悪い。教団にあの男が騙されてて、貴女の力が必要ですと言っただけですよ」
 
 「まぁ、そこに多少の脚色をした事は否定しませんがね」と付け加えるハワードに男は空恐ろしいものを感じる。相変わらず目的の為ならば手段を選ばないからだ。今回の事だって別にあの穏和で責任感の強い修道女を巻きこまなくても良かった筈である。だが、この男は教団のスパイにとって最も辛い罰を与える為に言葉巧みにあの修道女を堕とした。堕落神信者であるダークプリーストになった彼女は今頃、パンデモニウムで愛した男とよろしくやっているだろう。
 
 「…やっぱりお前だけは敵に回したくないな」
 「人聞きの悪い。私は本来、結ばれなかった二人を結びつけた恋のキューピッドですよ?」
 「結果だけを見ればな」
 
 だが、偽りの仮面に惚れてしまった修道女と教団の潜入員を無理矢理結びつけるのは果たして幸せだったのか、と男は思う。別に潜入員に同情している訳ではない。可哀想なのは騙され、利用され続けたあの純朴な修道女の事だ。最後の最後まで誰かに利用され続けたあの子に自身の娘をどうしても重ねてしまう。
 
 「結果よければ全て良しと言うでしょう?それに…誰だって仮面を被って他人に接しているものです。多かれ少なかれ…ね。そこに惚れても決して不幸せになると決まったものではないでしょう?」
 「それは詭弁だろう」
 「否定しませんよ。でも、事実なのは変わりありません」
 
 ニコニコと何時もどおりの笑みを浮かべる友人に男はそっと肩を落とした。偽悪者で偽善者。そんなハワードの一面はきっと性分なのだろう。男にもそれが分かっている。だが、せめてもう少し言いようはなかったんじゃないかと思うのだ。
 
 「(まぁ…それは俺が未熟な証拠か)」
 
 結果だけを見れば確かに全てが丸く収まっている。純朴な修道女は愛した相手を手に入れて、教団の潜入員も何れ彼女の献身に心を打たれる事だろう。現場を押さえることは出来なかったが、こうして無事に事件を解決する事も出来た。ハワードの言う通り、結果だけを見れば間違いなくハッピーエンドである。それが納得できないのはきっと自分が青臭いからだろうと男は結論付けた。
 
 「っと、そろそろ行かないと危ないですね」
 
 そんな事を考えている男の前でハワードがこれ見よがしに懐中時計を取り出した。規則的なリズムを繰り返すそこには既に結構な時間が刻まれているだろう。男が空を見上げれば曇天の中に僅かに浮かんでいた光が薄っすらと弱まり始めている。街には少しずつだが、魔力灯の光が灯り、昼とは別種の活気を見せ始めていた。
 
 「何処へ行くんだ?」
 「今回の放火事件のヒーローの所に、ですよ。ドクターに薬を渡すのを頼まれましてね。後、領主様からもスカウトして来いと直々に」
 「それは…可哀想に」
 
 手段を選ばないこの男の手に掛かればスカウトを断る事などできないだろう。きっとあの手この手を使って、どうやっても男を引き込むはずだ。何も悪い事などしていないと言うのに、こうして間近で見ているだけでも薄ら寒くなる手腕を向けられる相手に男は微かな同情を抱いた。
 
 「それはどういう意味です?」
 「そのままの意味だよ。それよりほら、とっとと行かないと嫁にまた怒られるぞ」
 「おっと、これはいけない。あの人が本気で怒ると三十分は居心地が悪くなってしまう」
 「三十分だけかよ」
 
 まぁ、しかし、既にサキュバスに堕ちきったエルフはそんなものなのかもしれない。寧ろ三十分も不機嫌さを維持できる事に驚くべきだろう。キス一つで蕩けてしまって不機嫌な理由を明後日の方向へと投げ捨てる魔物娘も多いのだから。
 
 「(もっとも、それから後は普通に詫びるよりも長い時間拘束される訳だけどな。無論、性的な意味で)」
 
 男が下らない事を考えているうちにハワードはそっと手を上げる。そのまま左右にぱたぱたと腕を振りながらハワードはそっと口を開いた。
 
 「それじゃあ私は行きますね」
 「おう。気をつけてな」
 「えぇ。貴方も」
 
 友人にそう言いながらハワードはそっと踵を返して、歩き出す。薄暗い路地ではなく大きな通りに出た瞬間、彼の目を強い光が焼いた。ずっと逆光であったが故に彼の目は光に慣れてはいなかったのである。眩いばかりの光に目を慣らしながら、ハワード・ノリスンは――この街の警備隊における最高権力者の一人は歩いていく。
 
 ―ドンっ
 
 「おっと…すみません」
 「いえ、こちらこそ」
 
 目が眩んでいた所為かハワードは一人の男性とぶつかった。お互いに短く謝りながら擦違おうとした瞬間、ハワードの胸元から一枚の紙が落ちてしまう。ぶつかった衝撃で胸ポケットから溢れてしまったのだろう。はらりと落ちたその紙に小さく苦笑めいたものを浮かべながら、ハワードはそれをそっと拾った。
 
 ―それは短い一通の手紙だった。
 
 書かれているのは自分の近況と用件のみ。本当に簡潔な手紙に効率主義な送り主らしいとハワードの口から小さな笑みが漏れ出た。ルカと言う子に想いを寄せていて、ハワードともその関係で知り合った送り主は今、水の精霊使いとして世界中を旅している。『禁呪』の暴走事故で両腕と魔力を失い、最高学府からも追放されたと聞いていたが、意外と旅を楽しんでいるようだ。
 
 「(ま…良い事ですが…ねぇ)」
 
 ハワードにとって少年は路傍の石も同然だ。友人であるとハワードが認識する中には少年は決して入っていない。だが、それでもあの親馬鹿の娘であるルカに手を出して、涙目になっていた所を助けた少年は、その頼みを聞いてやろうと思う程度には親しいのだ。道端にある石をわざわざ踏んづけようと思わないようにその訴えに耳を傾ける程度の器量は冷徹の形容詞と共に語られるこの男にもある。
 
 「(それがまさかテロリストの手助けをしてくれ…と言われるとは思いませんでしたが)」
 
 少年曰く、あのディルクと言う名の精霊使いは悪い人間ではないらしい。実際に彼と接したハワードも確かにそう思う。本当の『パイロマニア』の正体にも気付かず、親しげに話していた様子は復讐鬼としての姿には見えない。きっと本質は純朴な青年なのだろう。ハワードの演技にあっさりと騙される姿に、ハワード自身が不安になるくらいだ。
 そして御節介な少年に彼の面倒を頼まれたハワードは少年から伝え聞いた特徴の相手を探す為に街の入り口で張り込むことになったのである。結果としてそれはディルクの決心を促すものになったが、ハワードにとって来るかどうかも分からない相手を待ち続ける日々は無駄の一言であった。それこそようやく顔を見せた相手に少しばかり意地悪がしたくなるくらいには。
 
 「…終わりよければ全て良し…ですね」
 
 念のためにディルクの周囲につけた密偵からの報告ではディルクからは復讐心を感じられない。彼がこれからどうするのかは誰にも分からないが、この街に引き込むのはそう難しい事ではないだろう。魔精霊化したパートナーも連れている事だし、魔界化間近なこの街にもすぐ適応できるはずだ。そして、魔精霊を連れる精霊使いはこの街にとって大きな戦力になる。結果だけを見れば、この街にとってもディルクにとっても悪い結果にはなっていない。そうハワードは考えて、そっと唇を持ち上げた。
 
 「(まぁ…あの男がこちらの申し出を受けるかは分かりませんが…)」
 
 受けなかったら受けなかったで幾らでも脅しようはある。そんな物騒なことを考えながら、ハワードは華やかな街並みを歩いていく。その先にいる新しい犠牲者の事を考えながら、この街で最も敵に回してはいけないと囁かれる狐顔の男はのんびりと歩いていくのだった。
 
 
 
 
 
 
 
11/08/13 00:10更新 / デュラハンの婿
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■作者メッセージ
イグニスさんはちょっとばかりお馬鹿だけど、でも、お姉さん気質だと思う(挨拶)
そんな訳で色々やってまして間が開いてしまいましたが、一人で勝手に姉御系魔物娘推進企画(仮)最終弾となるイグニスさんのお話でした。

今回、すこしばかり何時もと違う感じですが、
たまにはガチシリアスやったっていいですよね?←

それはさておき、イグニスさんはやっぱり可愛いですね^q^
あの三白眼で強気そうだけど、大きなお胸がうへへへへ。
ノームちゃんのはザ・巨乳!!!ってかんじですが、イグニスさんは美乳って形容詞がよく似合うと思います^q^
思いっきりちゅっちゅしたいのはどっちも変わりませんがね!!!!←

さて、そんな事を書き連ねつつ今回はそろそろ筆を置くとします。
次はそう遠くない内に投稿できると思うのでよろしければまた見てやってくださいませ。

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33