読切小説
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クー・シーは仕えたい
寒いです。

私は死んでしまうのでしょうか。

嫌です…。

いっぱいご飯食べたかったです。
いっぱい遊びたかったです。
いっぱいよしよしされたかったです。

まだ死にたくあまりせん…。



“神様…”



「チッ…」

カツカツ。
誰か歩いてきます。


なんですか?
誰か近づいてきます。
凄く怖い匂いです。

ひゃう…触ってきました。

「…」

なぜか頭を触られてます。

「…チッ」

口元に何か置かれました。
良い匂いです…。

「…食え」

何かが押しつけられます。
最後の力を振り絞って口を開けて噛みました。

甘いです…。

「…」

誰かは知りませんがありがとうございます。

「あ゛っ?」

ご恩は…。

「チッ、ワンワン言ってんじゃねーよ。」

すみません、私は何も出来ませんが感謝します。このご恩は一生かけても返します。



「…ごめんな。」



“何か”の気配は消えました。

最後にこんな暖かい気持ちになれて私は嬉しいです。

ありがとう…ございました。


ーーーーー☆ーーーーー


「んっ…」

眩しいです。

「ふぁぁ。」

よく寝ましたね。

「昨日のは何だったのでしょう。」

ん?
今何か声がしました。

「誰ですか?」

周りを見渡しますが誰もいません。

「気のせいですかね。」

ん?
待ってください。

「私の考えていることが聞こえます。」

???

ムクリと立ち上がれば以前より視界が高いです。

「なんですか、これ?」

というか、分かります。
何故か分かりませんが分かってしまいます。

「クー・シー?」

私は…魔物娘?
なんですか、これ!?

「光は一秒で地球7週半しますし、エクレアはフランス語で稲妻という意味…」

自分でよく分かりませんがまだまだ出ます。

「学生の所謂モラトリアムからの脱す要件として社会的責任及び問題解決の最重要化が加重のされていることを理解していないため現代の若者は何かおかしいと言われる。FW190A4はとにかく加速とロールが素晴らしく運動性能は抜群に良かった機体であった…」

えーと…余計な知識が凄いです。
基礎的なことから応用的なことまで分かってしまいます。
何故かと問われると困りますがわたしはクー・シーでこの様にハイスペックな者に変化してしまったのですか。


何ですかこの急転回。



では、一体何故…?



「…」

飼い主のために魔物娘に?
私のご主人様は私を捨てました。
それは仕方のないことです。私が可愛くないのが悪いんですから。

「あっ」

昨日の方。

…整理しましょう。
まず、何故か分かりませんが私には知り得ない大量の知識が備わっている魔物娘、クー・シーになれたようです。
理由はご主人様と深く結ばれるため…らしいですが。
先の通りです。

「そう、ですね。」

全然飲み込めませんが、頭では分かっています。

恐らく昨日、私を気にかけてくれた方にお礼をしたい。その一心がこのような変化を起こしたのでしょう。

そして、前の私では絶対に思いつかないようなことも思い浮かんでしまいます。

「あの人に。」

あの人にお礼をしましょう!

「そうと決まれば、です!」

クンクンと嗅げばあの怖い匂いが残ってます。

そちらへ歩いていきましょう。


ーーーーー☆ーーーーー


ここら辺ですかね?
初めてですが匂いを追ってこれました。
正直ずっと辿っていても昨日の時点で動いた距離が分からないので目星をつけました。

この町の大きな交差点。
朝の時間にここは通勤、通学のために大勢の人が通ります。三日も観察すれば見つかると思います。探しましょう。

逆に見つからない、つまりここを通らなければ不規則なお仕事についているか、浮浪者か、社会不適合者かの3択くらいには絞れますし。

「…もしそうだったらどうしましょう。」

いえいえ、不安になってはいけません。
私がこの姿に、クー・シーに成れたのその方のおかげなのですから。

「絶対お礼をします。」

すると向こうで何かが聞こえてきました。

「あっぶねーだろうがぁぁぁ!!!!」

びくんと跳ね上がってしまいます。何ですか、あの怒声は。

少し気になるので向かいしょう。

「おいおい、人を轢いたらどーすんだ?あ゛?」

でかい人がいます…。

「チッ、気をつけやがれよ!!ジジィもあぶねえだろうがァ!!」

何ですかあの野蛮な人は…学生服を着てます。
おじいさんも車の人も他の人たちも皆避けていますね。

「んっ?」

この匂い…。
あの人が昨日の人?

「あ゛?何見てんだ?」

「ひゃい!」

こっちにきますよ!

「なんか文句あっか?」

私の二倍くらいあるのでは無いでしょうか。

「い、いえ…その…」

「チッ」

舌打ちが多いです。

「き、昨日…」

「あ゛っ!?」

まさかの社会不適合者さんでした。
怖いですよぉ。

「んだよ!何とか言えや!」

全然お話しさせてくれません。
でもお話しないと始まりません!

「き、昨日はありがとうごじゃいました!」

噛みました。

「…昨日?」

目の前の方はみるみる目を丸くされます。合点がいったようですが何せあり得そうにもないことなので驚かれてますね。

「わた、私その、貴方のためにクー・シーに成れたようです…」

「お前…昨日のワン公か?」

コクコクと頷きます。
この人声が大きいので周りの人にも見られちゃってますよ…。

先の方もそれに気づかれたようですね。周りをキョロキョロと見渡してます。

「何見てんだ!!」

違いました、威嚇されてました…。

「…チッ、ちょい面貸せや。」

私を小脇に抱えるとえっちらおっちらとわき道に入っていきました。


ーーーーー☆ーーーーー


「お前何なんだよ。」

ここは小さな公園。
190近い大男とクー・シーはベンチに座っていた。

「何だ、と言われるとすごく難しいですね。」

「なんで昨日の事を知ってる?」

犬で言えばほえる寸前、グルルッと威嚇が聞こえてきそうな声のトーンだ。

「だから、申し上げているように昨日の捨て犬が私なのです。」

先ほどからかなり繰り返しているが男は聞かない。

「んなこと、言われたってよ…チッ」

横目でクー・シーを見ると再度舌打ちを繰り返す。

「まぁ…良いだろう。それで何のようだ。」

意外に吹っ切れるのは早く、話題が切り替わった。

「はい!私、貴方様に恩返ししたく参った次第です!」

耳をパタパタとさせ尻尾はフリフリと揺れている。

「恩返し?何かと思えば。」

“帰んな”

「えっ?」

何でですか?
もちろん、何も対価を頂かない、正真正銘の奉仕だ。
クー・シーになった今、ほぼ万能である自覚はあるし目の前の男のために使いたいと思った。

「俺は何もしてねぇし。お前が生き延びたんじゃねぇ。ハナから死ぬ事があり得なかったんだよ。」

「そ、そんなこと!」

なぜ?
自分は素直に、純粋に御礼がしたいだけなのに。

「んじゃ、俺が昨日何食わせたか分かってるのか?」

分からなかった。
甘かった、それだけしか覚えていない。

「わから…分からないです!ですが、それだけ弱っていたという事です!」

ハッと空笑い、そして呆れたように漏らす。

「…飴だよ、飴。そんなもんで生き返るほど丈夫に出来てるわけねぇだろうが!」

男は見かけに寄らず論理的な思考の持ち主のようだ。

「で、では私はご奉仕させて頂けないのでしょうか…?」

クゥーンと意図せずに喉が鳴ってしまう。いくら上位の力、知恵を持つクー・シーでも昨日今日の成り立てではまだまだ精神が安定しない。

「…チッ」

痛いくらいに睨みつけてくる男。
ベンチから勢いよく立ち上がると大声でこう告げた。

「あーあー、お前のせいで学校行く気失せちまったよ。落とし前つけてもらわねぇとなぁ?」


「お、お金はないです。」

この場合の文脈から読める落とし前の意味がイマイチ分からないクー・シーには謝ることしかできなかった。

「金じゃねーよ。そうだな…とりあえずうちに来いや。」

「ま、待って下さい!」

家について行くことは全く問題ないのだが。
まさか鍋か何かにされるのではと思うとサッーと血の気が引いていく。

振り向かずにのしのしと歩いていく大男に訳も分からず、とりあえずクー・シーはついて行くしかなった。

「…」

「…チッ」

ビクッとする。
とにかく、昨日まで子犬だった者には荷が重すぎたのだ。

「……お前、名前は。」

「はい?」

「名前だよ!!」

「はい!!…名前はありません。」

可愛くなかった私は名前をもらう前に捨てられてしまいました。

「…チッ」

面倒くさそうに舌打ちをする。

「私のことはお前でもなんでもお呼び下さい。」

少し、歩くのが早くなった男に必死について行く。

「よ、よろしければ!」

「あ゛ぁ?」

「ひゃう…」

フルフルと震え若干青くなるクー・シー。
男はため息をつきトーンを抑えて問う。

「なんだよ。」

「ご、ごめんなさい。」

「良いって。で、なんだ。」

ぶっきらぼうだが怒っている雰囲気はいっさい感じられなくなった。
クー・シーも勇気を出して声を出す。

「貴方の…お名前を是非伺いたいのですが。」

チッ。
また舌打ち。

「ごめんなさい…」

あまりにも申し訳なさそうにするクー・シー。耳はしゅんと垂れ下がっている。
しかし、会話は続けられた。

「慶努。」

「はい?」

「馬空慶努だ。」

「ばくう…けいどさん。」

それ以上は言わない。慶努と名乗った男は嫌そうにひたすらに前を見て歩く。

「あ、あの…慶努さんとお呼びしても…」

「好きにしろや。」

もう、どうでも良いという言い方で放つ。しかしクー・シーにはこの上なく嬉しい。

「…チッ」

全く文脈が、舌打ちに文脈がいるのかは分からないが、分からないところで舌打ちが聞こえた。

前を見ればケンカしそうになっている二人の学生服。慶努と同じだ。

「お前が先に言ったんだろうが!」

「おめぇだろうが!!」

今にも殴り合いになりそうな勢いだ。クー・シーにはとても恐ろしくて見てるしかできないが…。

「てめぇらぁぁぁぁぁっ!!」

交差点での怒声と全く同じ。
耳がキーンと鳴るため必死に両手で押さえる。

「「慶努さん!」」

それまでいがみ合っていた二人の息がぴったりと重なった。

「今何してたんだ?」

威圧感マックスハートで問いかければ二人の学生服も緊張がはしる。

「…ケンカです!」

「おい!」

一人が正直に言えばもう一人はそれを止めようと口を挟む。
しかし、もう言ってしまった。

「ほぉ、良い度胸だなあ。あ゛ぁん?」

いきなり慶努に肩を寄せられビクッと竦むのは当然クー・シー。
自分が!?なぜ?という表情だ。

「さ、さすがっす…」

「あんな可愛らしい獣人を…」

「なのに、仲間割れか?俺とやるか?」

あ゛っ?

「「すみませんでしたっ!!」」

またも綺麗にハモる二人。お礼を言いつつすたこらと逃げていった。
詰まるところ、恋人といて機嫌がいい慶努の目の前で決闘をはじめるのかという威嚇。

「チッ、ボケどもが。」

しかし、そこに恐怖は感じない。理由は簡単だった。

「…慶努さん、お優しいんですね。」

「あ゛?」

それすらも切れ気味だがクー・シーは微笑む。
先ほどまでの大声も合点が行く。これも先の魔物娘に慣れたことの恩恵だろう。

「交差点でもそうでしたが、慶努さんはぶっきらぼうなだけで他人のことを考えています。」

交差点でも車にひかれそうになっていた老人を助けていた。
今だって嘘をついてケンカをとめた。

それに昨日。

「っるせーよ。」

フンとそっぽを向きまた歩き始めた。
先ほどよりは嬉しそうに慶努の後をついて行くクー・シー。
なんだか嬉しくなってきた。自分が仕える主人がとても優しいことが分かったから。

「ところでどこに行かれるんですか?本当にいきなりお家に行ってもよろしいのですか?」

流石に聞きたくなったので、この和やかな雰囲気の中で聞くことにしたが。家族もいるだろうし迷惑ではないかという気遣いだったが。
とんでもない言葉が返ってきた。



「…保健所」



ピンと耳を立て吃驚した表情をする。

「そ、そんなぁ!」

キャンキャンと泣くように抗議の声をあげ男へと駆け寄る。

「んなこと言ったって俺にどーしろって?」

「何か役に立って見せます…だから捨てないでください!」

捨てられるのだけは…。自分が悪いのは分かっている。だがもう二度とあんな思いはしたくなかった。

「…チッ」

冗談だよ。

慶努はそういって角を右に曲がる。
まだ住宅街の路地と言ったところ。その行った先の家に怒鳴り込んでいった。

「ババァ!!」


ガラガラと平屋の扉を開け声をあらげる。
すると暗めな廊下の先に小さい人影が見えた。

「あらあら、慶ちゃん。来てくれたのね〜」

小さな小さな老婆だった。
腰が少し曲がっており歩くのもやっとという感じだ。

「チッ、変な呼び方止めろつったろ!」

「ごめんなさいねぇ。」

悪びれずに謝る、その老婆は温厚が化身のような雰囲気だ。

「何度も言わせるなよ。」

「それより、今日はどうしたの?」

ご飯食べていく?

「違げぇよ!」

前にも食事を共にしたことが読み取れる言葉を慌ててかき消し塗り替える。

「…このワン公、預かってくれや。」

「!?」

クー・シーは驚き、困り顔で隣にいる慶努を見上げた。
一方、老婆はそれを見て無言だ。

「こいつよ、捨てられててな。昨日ちょっかいかけたら化けてでやがったんだ。」

「私は妖怪でありません…」

とりあえず口を出すが意味をなさない。それに現状一番の問題は慶努に、自身の恩人に仕えられないという事だ。

「…」

黙って聞いている老婆。慶努は無視して続ける。

「んで、邪魔だしよ。どうせなら嫌がらせを兼ねてここに来たってわけだ。」

斜め前を見上げポリポリと頭を書き、自分の言いたいことは終えたと言わんばかりだ。
そこで、やっと口を開くのはもう一人の人間。

「そうかい。独り身の寂しい私のためにその子を連れてきてくれたんだねぇ。」

朗らかに。
仏のように。

「おいおい、婆さん。話を聞いてたか?ん?」

チッと舌打ちをしている慶努は老婆とは真逆の存在である。
しかし、慶努を全く気にせずに続く言葉はクー・シーに告げられたものだった。

「お嬢ちゃん私と一緒にいてくれるの?」

「わ、私…その…」

とにかく困ってしまった。

私は慶努さんに助けられました。だから恩返しのため仕えたいです。
しかしその慶努さん自身がこのご老人に仕えろと言うのなら…。

「クゥーン…」

そっと慶努の学ランの袖をつかみ助けを求める。

「こいつ昨日まで死にかけの子犬だったくせに今朝急にこんなんになっちまったんだよ。」

この場合の助けとは、少なくとも慶努の言葉ではない。
それはどのようなものか。クー・シー自身思いついていないが老婆は分かっている。

「慶ちゃん、その子はあなたに付いてきたんじゃないの?それなら私の所に預けるなんて可哀想よ。」

諫めるように、諭すように年上の貫禄を声に乗せ乱暴な若者に説いていく。

「…しらねぇよ。別にこいつが勝手についてきただけだ。」 

そう、慶努の言葉には裏があるのだ、どの言葉にも大抵は。
それを理解しているので止まらずに言葉を紡いでいく。

「お嬢ちゃん、慶ちゃんはあなたに好きに生きて欲しいみたいよ。」

「んなこと言ってねぇ。」

即答だ。
つまり、内心を当てられたからだろう。

「慶ちゃんは大きいけどとっても優しくて思いやりがあるのよ。お嬢ちゃんも助けてもらった恩返しがしたいのよね?」

「は、はい!」

初めて強く意見を言う。
だって、これが私の初めてのしたいことなんだもん。

「私は慶努さんと一緒にいて…ありがとうをいっぱい伝えたいです!」

ニコリと微笑めば老婆もにっこり笑う。多数決で答えは出てしまったため、後は慶努次第だ。

「私凄く嬉しかったのよ。また慶ちゃんが会いに来てくれてこうしてお話してくれたんだから。もうそれだけで老い先短い人生の幸せですよ。」

「…」

「だから、お嬢ちゃんのことを考えるのも良いけど。それなら好きにさせてあげるのが良いんじゃないかしらねぇ。」

決して彼女と目を合わせようとしない慶努の目はいつの間にかクー・シーとあってしまった。

「…チッ。勝手にしろ。」

ガラガラと扉を開け大声でがなり立てて言う。

「精々死なんようにするこった!!」

ゆっくりと歩き出すのを見てクー・シーも慌てて歩き出す。
一回後ろを振り向き御辞儀をして。




「お嬢ちゃん、慶ちゃんを頼んだよ。」




ーーーーー☆ーーーーー

デカい人間の後ろにクー・シーはトボトボとついて歩いていた。

「…慶努さん、すみません。」

「何がだ。」

声から棘は消えている。若干、上の空を感じられるためクー・シーはどうすればいいのか分からない。

「…おい。」

何かを悟ったように口を開いた。

「何でしょうか…?」

「名前、どーすんだよ。」

「な、名前ですか?」

自分には勿体ないと思っていた。可愛くない、だから名前も貰えずに捨てられた自覚はあった。

「ねーと困んだろうが。」

「…」

「チッ、欲しいのか欲しくねーのかはっきりしろっ!!」

「ひゃ、ひゃい!」

うぅ。良いのかな?まだ何もしてないのに…。

「ん?」

嫌な匂いがします。
これは“危険”の匂いです!

「慶努さん!何か悪いことが…」

しかし、すでに遅かった。後ろから大きな、敵意のこもった声が響き渡る。

「慶努よぉ!」

「チッ」

いつも通り舌打ちで返す。見るからに因縁を持っている相手だ。

「前回はよくもまあ、うちの連中に…」

「気にすんな、なんの歯ごたえもなかったからな。」

限りなく素っ気のない対応だがもちろん相手のボルテージはあがる。

「嘗めたこと言ってんじゃねーぞ!!」

クー・シーも驚かないような声。
全くの未熟な怒気。

「いやな、お前等うるさかったんだよ。」

呑気に理由を、この場合は言い訳か、述べ気だるそうにしている。
完全に驚異だと思われていないことにプライドが許さない男だが、突然笑う。

「だからよぉ、お前が連れと歩いているなんて状況見逃せぇねぇよなぁ!」

「あ?」

「な、なんですか!?」

いきなり、声を上げるのはクー・シーだ。
男の仲間が二人隠れており人質を取ろうと伺っていた。

瞬間途轍もない殺気が男を襲った。

「おい、やめとけや。あいつは関係ぇねぇよ。」

「う、うるせぇよ!」

こうなったら自棄だと仲間に合図を送り連れ、つまりクー・シーを痛めつけようとしたのだが。


「やめろ!!!」

「ごめんなさぁぁい!」

二人分の野太い悲鳴。
見ればクー・シーが二人分の親指を押さえていた。

「こ、ここを捻ると親指が取れるか体が爆発します…」

「なっ…」

もう誰が一番驚いているのか見当も付かない。

クー・シーを相手取る二人はまさか手を取られたかと思ったら凄い力で一瞬にして動けない形に持って行かれるとは思っていなかった。
痛くはないが動けない状態に混乱している。

敵の大将は呆気にとられもう言葉もでてない。

慶努は怪訝そうな目でクー・シーを見ていた。
が、この自体を収集するために口を開く。


「まぁ、そう言うことらしい。残念ながら俺よかあいつの方が強いんだ。悪かったな。」

「…なんなんだよ!!!」

最後に大きく情けない声でやるせなさを吐き出し一人で逃走してしまった。

「離してやれ。」

慶努が言えば従順に二人分の手を離すクー・シー。
もちろん、速攻で二人もトンズラだ。ふとクー・シーを見れば。

「ば、爆発は嘘です。単に関節で動きにくい方に押えだけなので。痛くも無かったはずです。」

なぜか申し訳なさそうなクー・シーを一瞥し嵐のような、なんとも間の抜けた時間が終わったところで慶努はつぶやく。

「なんだこれ…」


ーーーーー☆ーーーーー


未だ二人は歩いていた。
お互いに少し距離を取って。

「お前、何なんだよ。」

何度目の質問か。しかしクー・シーは慶努の望む答えを持ってはおらず慶努もそれを理解していた。

「何、と言われましても…クー・シーです。」

「答えになってねぇ。」

「先ほどのは…その…えーと、私の種族は兎にも角にも主となった方、仕える方をお守りしてお世話をさせていただくために様々な能力を持ち、また持てるようなスペックなのです。」

「…」

全然、全く、これっぽっちも意味が分からなかった。
昨日、自分は捨てられてた可哀想な子犬にせめて出来る事として近くのコンビニで普段なら絶対買わないクッキーを買って与えた。
あの時は幸せそうな反面、もうじき死ぬという表情を見せたので諦めて次の日、つまり今日また見に来て場合によっては埋葬してやろうと思っていたのだ。

「チッ…」

なのに何故。
いや、生きていたこと事態はこの上ないのだが自身の所に来たのか。
せっかく生きていたのなら自分の好きに生きればいいのに。
昨日見捨てた自分の所に何故。

「慶努さん。」

「お、おう?」

考え事、感情の整理をしていた慶努はとっさの呼びかけにとちってしまう。

「ご、ご迷惑でしょうか?」

「はっ?」

後ろを振り返れば涙目。
俯き、ふるふると震える昨日までの小さな子犬がそこにいた。

「私、記憶があまり無いのですが“幸せ”を感じずに死ぬところだったんです。いっぱいご飯食べたかったですし、撫でて欲しかったですし、遊びたかったんです。」

慶努は静かに聞いていた。
今朝、交差点で当たったときに突き放さなかった自分が悪いんだからせめて話だけはと。

「最後偶然持ち合わせた飴だとしても私には最高のご馳走でした。撫でてもらって最高に心地が良かったんです。」

何もしてやれなかった自分に対してこれほど感謝しているとは考えてもみなかった。
ほんの2.3分の間構っただけだった。
見捨ててしまったのに。

「慶努さんに仕えられればどんな事でもします!何をされても文句は言いません!」

だから…お側にいさせて下さい。
精一杯の気持ちを込めて頭を下げた。
望まれるなら土下座だってするし足だって嘗める。
とにかく自分の生きる糧が、希望が、意味が欲しかった。

「…」

それは慶努も理解した。
アイデンティティが無い。自分に仕えることで存在意義を確立したいのだと。

しかし、それを慶努は許さなかった。

「ダメだ。」

「わふっ…」

本当に、本当に悲しい。
何がいけないのかなどはもう分からない。
分かっていたら捨てられなかったのだから。
涙が溢れ、もう立っていられなくなってしまいそうだった。

だが、慶努の言葉は続く。

「仕えるんじゃねぇ。…側にいるだけだぞ。」

「ふぇ?」

「俺の命令じゃねぇ。お前の考えで、お前の意思で俺に着いてくるんだ。」

それなら許してやる。
最後は尻すぼみになりほぼ聞き取れないような声。
クー・シーにはしっかりと聞こえていたが。

「で、では一緒に居てもいいんですか!?」

「…チッ」

舌打ちで返事をしてまたスタスタと歩き出す。

「あ、あ、ありがとうございます!!!」

またしても思い切り頭を下げ一気に慶努へと駆け寄る。

「よろしくお願いします!」

思わず腕に抱きつけばもちろん返ってくるのは舌打ちだ。クー・シーは全く気にせずにすり寄る。今の今まで我慢していたのが爆発したようだ。

「…そーいや」

もう諦めた慶努は別の話題を振る。
非常に重要な話題。

「“チコ”ってのでどうだ。」

小さな声だ。クー・シーは既に自信の無いときや恥ずかしい時などに声が小さくなることを知っていた。

「チコ?もしかして…」

名前ですか!!?

「嫌なら良い。」

「い、嫌じゃないです!チコが良いです!!!」

ここぞの大声に慶努はそれ以上何も言わなかった。
表情はぶすっとしているが内心はホッとしていた。

隣のクー・シー、いやチコがこれだけ嬉しそうにしているのだから。

「慶努さん、ありがとうございます!」

満面の笑みでお礼を言えば当然のごとく返事は無く。



“…チッ”





18/04/25 09:56更新 / J DER

■作者メッセージ
久方ぶりの投稿です。

いやはや…これ続けたいんですけどね。
やる気元気根気次第なんで読み切りで載せるゴミやろうです。

それでもここまで読んでいただけた方、本当にありがとうございます!
そして、また次でお会いしましょう!
それでは。

宜しければ、以前の物もお読み頂けると幸いです。

では最後に皆様の余暇のお供になれることを願いましてー。

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