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エトセトラ
 魔物が魔王の代替わりによって魔物娘になったことにより、最も変化した部分を挙げるとするならば、祝う心が備わったことであろう。そして、誰かを愛し愛されたいという、魔物娘最大の本能。
 その二つが混ざったとき、冬の夜は我々の世界のクリスマス以上に激しく甘いものになる。
 我々が図鑑世界と呼ぶこの世界には、そのままずばりクリスマスという行事は存在しない。キリストがこの世界では生を受けなかったからだ。
 しかし、聖人の誕生日や記念日を祝うという習慣は存在する。
 魔界の瘴気に中てられ、完全に魔物たちのものとなったこの国でも、そういった祝日が存在する。
 魔王軍を率いどこそこの国を陥落させたデュラハンの将軍の誕生日。世界最初の魔物娘によるサバトが完成した日。自分たちが人を食らう魔物から、人を愛する魔物娘へと変化した日。
 そして当然、魔王様の誕生日と、その夫である元勇者様の誕生日。それから二人の結婚記念日。
 この国で定められている祝日をカレンダーに並べると、全ての日が真っ赤になってしまう。魔物娘たちは祝日が大好きなのだ。つまり、毎夜毎晩がクリスマスであり、聖夜なのである。
 そんな魔物娘たちの、冬の夜のエトセトラ。

 ◆ ◆ ◆

 雪が舞い、地面に積もる。それが月明かりを照らし、今夜はいつもより明るい。
「んちゅっ、んっ、はぁっ……!」
 今日も祝日。街は毎日お祭り騒ぎ。大通りは毎夜屋台が出現し、大勢のカップルが往来する。
 通りを挟む建物の隙間。猫の通り道のような狭い裏路地に、一組のカップルがいた。
「んんっ、うぅんっ……ぷあっ、マ、マサムネさん……」
 ふさがれていた唇がようやく解放され、意味のある言葉をつむぎ出せたのは、この国では珍しい雪女である。
「はぁ……はぁっ……!お雪!もう、もう我慢ができない……」
 雪女お雪の両腕を頭の上で手づかみし、もう片方の腕で腰を抱き寄せる男。彼の髪は闇よりも黒々としており、瞳は黒曜石のようにぎらついている。
 二人はジパングの住人であったが、魔界漫遊をしている内にここへたどり着いたのだ。
 この国は、観光客に厳しい。住んでいる人々は優しく、親切にしてくれるのだが、魔王城の魔力がそのまま流れ込んでいるのだ。
 人間は一時間と経たずに魔物化し、魔物やインキュバスであっても、観光客はものの数時間で耐えられないほど欲情してしまうのである。
「ふぅっ、そん、なっ……こんなところでおっぱいを触っては……だめ、ですっ……!」
 着物が彼の手により肌蹴させられ、下着を身に着けていないせいですぐに生の乳房が露出する。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 マサムネは彼女の声に耳を貸さず、己の欲望のままに彼女の乳房をなで回す。
「んくぅ……や、宿まで我慢、できないんですかぁ……?」
 薄く白く息を吐きつつ、彼女が尋ねる。
 彼らの当初の予定は、もうしばらく屋台を回り、こういったことは宿に入ってから、水入らずで行うつもりだった。
 しかし、濃厚な魔力の影響により、そんなことはお構いなしになってしまったのである。
「ふあっ、あぁっ……そんなっ、乳首、つまんではだめ、です……」
 彼の手は麓を越え、頂にさしかかった。薄く色づく乳首を、人差し指と親指の二本を使ってくりくりとこする。左右の手で、それぞれ一つずつ乳首をもてあそぶ。それによって彼女の手の拘束は解かれていたが、すでに逃げるというどころではなかった。
「あんっ、きゅぅっ、ふぅんっ!」
 指の腹が一往復するたびに、ばね仕掛けのおもちゃのように、彼女の体がびくりと震える。
「はぅ、だめ、だめぇです……!」
 彼女の息も荒くなり、物欲しげに腰がかくかくとうごめく。
「お雪も、もう、我慢ができてないじゃないか……」
 徐々に彼の指の力が強くなり、乳首がつぶれ、伸び、引っ張られる。
「くぅぅぅ!」
 じんじんと熱を伴う刺激により、彼女は意思とは関係なく背筋が反り返り、顔が天を仰いだ。
 自分の指で感じているという満足感で、彼の息がさらに興奮を増す。口からは、濃く白い湯気があがる。
「お雪、ずっとしたくて仕方がなかったんだな。息の白さが薄いじゃないかっ」
 何年も連れ添った夫が、妻の欲情を鋭く突く。
 雪女は精が補充され、性欲が満たされるほど体温が高くなる特徴がある。逆を言えば、今彼女の息はあまり白くないということは、精が足りず、性欲がふくれあがっているということだ。
「はいっ、はいぃ……足りないんですぅ……!乳首をいじくられたけでは、全然足りないんですぅ!」
 ついに、お雪は陥落した。理性を本能が凌駕し、口からは男を誘う言葉が漏れる。
「ほしい、ほしいんです!おまんこに、マサムネさんのおちんちんが、ほしいんですっ!」
 快楽に震えたせいで、彼女の着物が着崩れ、生足が外気にさらされる。時折見えるふとももの内側に、とろりと粘度の高い液体が垂れていた。
「もう、もうぅ!うっくぅぅぅんっ!」
 直後、彼の指刺激が彼女の臨界点を突破した。乳首を乱暴にこすられながら、彼女は全身をがくがくと震わせつつ、喉から声を絞り出し絶頂した。
「あぁ、はぁぁ……ふぅぅ……ん」
 彼の指が離れると、支えを失った彼女はがくりと地面に膝を落とした。
「あ、くふっ、くぅぅ……」
 にちにちと、ねちっこい音がする。お雪が肌蹴た部分から股間に手を伸ばし、指で大陰唇を押し広げ、膣の粘膜をこすり、音が鳴る。
「マサムネさぁん、おちんちん……あなたのがほしいですぅ……おちんちん……」
 愛する夫の顔を見上げ、とろとろにとろけた顔でねだる。
「寒いんですぅ、おまんこの中がぁ、とっても寒いんですぅ……」
 彼女は魔物娘の中では、割と性的なことに関して固い性格である。それなのに今、夫であるマサムネですら見たこともないほど淫靡な表情で、肉棒を欲している。ゴクリと大きく彼の喉が鳴った。
「よし、じゃあ……壁に手を付けて尻をこっちに向けるんだ」
 いつになく乱暴な口調であったが、それがさらに彼女を興奮させた。
「はぁい」
 甘ったるく返事をし、彼女は立ち上がる。まだ膝がかくかくと震えており、腰を上げることすらままならない。しかし、愛する夫からの命令である。彼女は途中で諦めることなく、彼に言われた通りの格好になった。
 汗ばんだ素肌にぴったりと着物が張り付き、むっちりとした尻肉を強調する。
 短く、しかし深く呼吸をし、彼はときおり唾を飲み込む。
――今から、このメスを、貪る……
 獣じみた思考により、彼のペニスがさらに股間部を押し上げた。
 着物のすそを震えた手でたくし上げる。ぶるんと音を立て、彼好みの巨尻がさらけ出された。両尻たぶの間には、ぷっくりとふくらみ、愛液でねとねとてらてらとしている女陰が挟まっている。
「はやくっ、早くくださいぃっ、おちんちん、おちん……ふぅぅんっ!」
 彼女が言い終わらぬ内に、熱い快楽が駆け巡った。尻を突き出したまま背筋を反らす。
 ズボンを破るように引き下ろし、彼の興奮で血液がぱんぱんに詰まったペニスが、一息で一番奥に挿入されたからだ。
「はぁっ、はぁぁ……!お雪の中、いつもより、冷たいっ、ぞっ……!ぐぅ……」
 きゅうきゅうと物欲しげに膣肉が収縮し、いつも以上に大きくなっている陰茎を隙間なくみっちりと包む。その感触に、彼はうめきつつ漏らした。
「だってっ!だってぇ……!私だって、はぁぁ、ずぅっと我慢、してたんですからぁ!」
 数メートル先は賑やかな屋台街だというのに、彼女は恥を捨て本能のままに叫ぶ。それが、彼の腰の動きの原動力となった。
 ぱちゅぱちゅと濡れた音を響かせ、二人の腰がぶつかり離れる。一往復するたびに、彼の熱が彼女に伝わり、冷えた肉が徐々に温かくほぐれていった。
「くぅっ、肉がっ、ぐにぐに、うねって……」
 弱点をもみほぐす動きに彼の腰が止まりそうになると、彼女が代わりに腰を前後させ摩擦の快楽が途切れないようにする。
「あはぁ、だめですよぅ、もっと動いてくださぁい……」
 壁に手を付け、弓のように背中を反らしながら、彼の顔を彼女は横目で覗く。その眼差しは興奮に濡れ、男を絡め取るような流し目であった。
「ほらぁ、マサムネさん……私に抱きついてください」
 彼が言われた通りに両腕を彼女の腹に回す。そのまま体を倒し、彼女のうなじに鼻を寄せた。
「私の体、あったかいですよね……?あなたの先走りのお汁で、精が少しずつ溜まっているんです」
 でもぉ……と雪を溶かすような熱い吐息を漏らす。
「もっと温かいお肉、味わいたいですよね?」
 こくこくとマサムネが何度もうなずき、うなじに鼻先がこすれる。
「あぁん、くすぐったいです……だったらぁ、射精、してください」
 腰をぐりぐりと細かくゆさぶり、子宮口にぴったりと貼りついた亀頭に刺激を加える。
「射精……あなたの精液がほしいんです。奥にたっぷりと出してください」
 そう言って、彼女がさらに首を後ろへと回した。それと同時に後ろ手で彼の頭を自らの顔へ引き寄せる。
「ちゅっ、ちゅっ……キスしながら、いっぱい射精してくださいねぇ……」
「ちゅぅっ、くっ、うぅっ……!」
 ぐにぐにと優しくもみほぐす膣肉と、かすかなキスの感触のダブルパンチで、男の限界は易々と突破してしまった。
 キスの隙間から小さくうめき声を上げ、彼は受け入れるために開ききった子宮口に一日我慢した精液を発射する。
 グツグツという油が煮えるような音を立てながら、インキュバス特有の大量の精液が膣道を駆け巡る。
「ふぅぅ……うぅぅ……はぁぁ……」
 お雪の心に、満足感と、夫を快楽に導いた喜びが満ちる。
 射精を終え、虚脱状態から抜けた彼が見たのは、淫らに肌蹴、肩甲骨の青白い素肌を覗かせた彼女から立ち上る、ほかほかの湯気だった。

 ◆ ◆ ◆

 屋台でざわつく大通りに面する、一軒のレストラン。
 連日予約で一杯のこの店の廊下を、スタッフに案内されつつ歩く一組のカップルがいた。
「すごい、よく予約が取れたね」
 驚きと感動に満ちた表情を浮かべる女性の下半身は、人ではなく蛇のものであった。鱗は最高級のルビーのように赤黒くきらめく。
「まあ半年前からとってたからね。仕事が入らないか毎日ヒヤヒヤしてたんだよ」
 対する男は、そんな彼女の驚く顔が見られてご満悦の様子。
 半人半蛇の魔物、ラミアの女性の名はクララ、男性の名はユミルである。
「こちらでございます」
 スタッフが扉を開け、二人を中に促す。
「料理はすでにご用意しております」
 感嘆の声を上げ、二人は部屋へと足を踏み入れる。部屋の四隅にはミニもみの木が観葉植物のように植えられていて、それらの間を魔力イルミネーションでチカチカと光る紐が渡されている。床はクララの鱗とおそろいのダークレッドの絨毯。壁の三方は雪を思わせるふかふかした白で覆われていた。そして入り口の反対側の一面は透明になっており、雪降る街の風景を眺めることができる。
「それでは、ごゆっくりお召し上がりください」
 スタッフがうやうやしくお辞儀をしながらそう言うと、丁寧に部屋の扉を閉めた。
 あとに残されたのは、カップル二人。
 中央に置かれたテーブルにつく。扉から見て左右の面に相対するように一つずつ椅子が置かれていたが、どちら側に誰が座るか二人は迷うことがなかった。
 入り口から見て左側には、普通の食事。そして右側にはコップが一つ置かれており、それぞれ人間用、魔物用とすぐに分かったからだ。
「それじゃあ、さっそく食べようか」
「そうだね」
 二人は席につくと、すぐに手を合わせ、食事に移った。
 ユミルがなれないテーブルマナーに四苦八苦しているのを、クララが笑顔で見つめていた。
「クララは食べないのか?」
 まっすぐ見つめられていることに居心地が悪くなった彼が、耐え切れずに話しかける。
「うーん……ユミルが食べ終わるまで待とうと思って」
 器用に椅子の上に折りたたまれた蛇の下半身、その先端をふりふりと左右に揺らしながら彼女が答える。
「ん、それじゃあ、早く食べ終わらないといけないな……もう我慢ができないんじゃないか?」
 彼女の揺れる尻尾を見つつ、彼が言う。二人は小さな頃からずっと一緒で、互いの癖は知り尽くしているのだ。
――円を描くように尻尾が揺れている……これは欲情しているサイン。
「ううん、いいんだよ。もぐもぐしてるユミルの顔、好きだし」
 ふふっと彼女が笑い、彼の心がキュンとときめいた。彼女の笑顔は、いつ見ても彼の心をドキドキさせる。
 そう言われながらも、彼は食べ終わるのを急ぎ、さらに元々早食いの気があったので、たっぷりとあった食事を十五分ほどで食べ終えてしまった。
「ごちそうさま」
 ぱちんと拍手をするかのように両手を合わせ、食事終了の合図をする。
「ふふふ、そんなに急がなくてもよかったのに……ともかく、今度は私の番だね」
 そう彼女が言うと、目の前に置いてあるカップの中身を口に含んだ。それは飲み干されることなく、口内をうごめかせる。
 くちゅっくちゅっ……と粘り気のある音が鳴る。徐々に彼女の顔がとろりと淫靡な色に染まっていった。
 カップの中身は、特製の蜂蜜酒。当然普通の蜂蜜ではなく、ハニービーがアルラウネの蜜を門外不出の製法で精製して作ったものである。さらに隠し味として濃厚なホルスタウロスのミルクが入れられており、これを口に含んだ魔物娘はたちどころに甘々とろとろな気分になってしまうのである。
「ふぉれじゃあぁ、おひんひん、だひてくだひゃい……」
 ちろちろと舌を口の外へと出しながら、ラミアがおねだりする。
「……うん」
 とろりとした表情を浮かべた彼女を見て、彼はこれから受ける快楽を想像し、静かに興奮する。
 彼はためらうことなくパリッとしわ一つないフォーマル服のズボンを脱ぎ捨てた。
 視覚による興奮と、聴覚による興奮、そして匂い立つ蜂蜜酒の香りにより、彼の陰茎はびきびきと音が聞こえそうなほどいきり立っていた。
「んふふぅ……おいひそう。いたたきまぁ……あふぅ」
 口内にねっとりとした酒を含んだまま、彼女は亀頭を口内に招き入れた。
「うっ、くぅぅ!」
――熱い!
 彼が最初に感じたのはそれだった。皮をかぶった亀頭粘膜に、とろとろにとろけた蜂蜜酒が染み込んできたのだ。敏感な粘膜を通し、アルコールのような何かが体内に行き届く。
「んっ!ふぉぉっ!」
 その効果により、勃起したそれがさらに一回り大きくなる。
「んちゅっ、じゅるる……皮、むくね?」
 時折、垂れ落ちる蜜をすすりながら、上目遣いでクララが言った。
「あぁ、あぁぁ……」
 蛇の二股に分かれた舌先が、包茎の先端の穴を左右に押し広げる。その状態のまま、彼女はペニスをさらに口内の奥へと挿入していった。それにより、いとも簡単につるりと皮がむけていった。
「んっふっふー。むけまひたー。かめひゃんかめひゃん、こんばんわー」
 口に亀頭を含みながら、おどけたように歌うクララ。舌が敏感な粘膜に当たり、彼が声にならないうめきを漏らした。
「いつでもだひて、いいからねー。んぼっ、ぬちゅっ、ぐちゅっ……」
 彼女が顔を上下に動かし始めた。唇がカリを中心に何度も往復を繰り返す。唇がカリを捉え、通過するたびに、ぐぽん、ぬぽんと下品な音が鳴り響いた。そのたびに、特に敏感な部分に蜜が染み渡り、彼が吐息を漏らす。
「あぐっ、それっ、すごい……!」
 二つの舌先が、顔を上下させるのと同じように、裏筋を挟み上下させる。左右から攻めてくる禁断の快楽が、彼の射精欲を急速に膨れ上がらせた。
「で、るぅっ!」
 一声。それが精一杯であった。彼が悲鳴のように叫ぶと、こってりとした精がゼリーのような弾力をもってほとばしった。
「んんっ、んぅ……」
 蜜の黄色に、精液の白が混ざる。彼女は目を閉じ、味覚に意識を集中させ、口内の肉で二つの液体を混ぜ合わせた。
「んんん……ぬぽっ。ごくっ、ごくぅ……!」
 喉を伝い落ちた瞬間、かっと彼女が目を開いた。
「うわっ、わっ、わぁっ……!」
 そしてきらきらと瞳を輝かせる。
「すごい、これ、美味しい……」
 ぽつりと感想を漏らすと、テーブルの上に乗っていたカップを手に取り、残りをぐびりと口の中に流し込んだ。
「もう一回、出せるよね?」

 ◆ ◆ ◆

「ぼうや、そんなところで何をしているんだ?」
 二つの屋台に挟まれた狭い空間に、一人の少年が座っていた。喧騒に包まれた通りの中で、そこだけが切り取られたかのように暗く、静かである。周囲に目を光らせていた、パトロール中の保安官が彼に声をかける。
「名前、なんて言うんだ?」
 少年の前に腰を下ろし、保安官が目線の高さを合わせる。彼女の髪は艶やかな黒であり、その間を割って一対の黒い犬耳が生えていた。ぺたんと音が鳴る。彼女の髪と同じ黒の尻尾が地面に下りた音。彼女はアヌビスである。
「何か、あったのか?遠慮なく言ってみろ」
 彼女が努めて優しげな声で言う。
 彼女はこの街で生まれ、この街で育った。『遺跡を侵入者から守る』というアヌビス特有の本能が、そのまま『この街を守る』というものへと移り変わっており、異国風のエキゾチックな服装を皮の鎧に着替え、杖は剣に持ち替え、街を守る保安官として平和を守っている。
 だが、そんな平和を愛する心も、今日起こった悲劇が影を落としていた。
――何で私だけこんなことに……
 仕事に精を出すことは、彼女にとっては喜びである。しかし、今日は仲間がいない。一人の勤務だ。なぜなら、他の保安官――全員魔物娘である――が、全員彼氏や夫とのデートという理由で欠勤してしまったからだ。
 魔物娘は仕事に対してはルーズである。前もって届出を出していた者も数人いたが、ほとんどは当日いきなり休むと言って、意気揚々と街へと繰り出して行ったのだ。後に残されたのは、職場の中で唯一独り身の彼女のみ。
「ほっといてよ、おばさん」
「お、おばっ……!」
 少年の余りにも非情な一言に、彼女の心は大きく傷ついた。
「あ、あのね……お姉さんには、ネフティスという名前があるんだけどね……」
 がっくりと頭を垂れ、うめくようにつぶやく。
「ふぅん……」
 心底興味がなさそうに、少年が言った。
「そ、それで、ぼうやの名前を教えてくれないかな?……お姉さんはちゃんと教えてあげたんだし」
「ベエル」
 顔を横に向けた状態で視線だけを彼女に向け、少年はそっけなく答える。
「ベエルくんね。それで、ベエルくんはどうして一人でこんなところにいるんだい?」
 少なくとも、会話は成立するということで、彼女は使命感のみで頭を持ち上げた。視線を彼の顔に向け、質問をする。
「……」
 ベエルは答えない。
「お父さんお母さんとはぐれたのか?」
「……」
 答えない。
「どうしたんだ?答えてくれないと、お姉さん何もできないだろ?」
 眉尻を落とし、彼女が問う。
「なあ、教えてくれないか?お姉さんが、何とかしてあげるから」
「……父さんと母さんが……」
 搾り出すように声を漏らす。
「ん?」
 ネフティスが耳をひくつかせ、彼の口元に寄せる。
「父さんと母さんが、屋台に行かせてくれないんだっ!」
 突然の大声に驚き、彼女が飛びのき尻餅をついてしまう。
「うわっ、わっ、びっくりした……ほ、ほう……まあ、確かに……」
――ご両親が言うことも分かるかも。
 夜の街は子供には早すぎる。と彼女は思った。
 昼はまだいい。彼女たちも昼の顔を持ち、露出を抑えた服装を身に付けている。しかし、夜はどうだ。独り身の魔物娘はこれ見よがしに胸元、ふともも、尻を強調した淫靡な衣服を身に付ける。相手のいる魔物娘は、周りの目を気にせずいちゃつく。子供にはあまりにも刺激が強すぎる。
「やっぱり、お姉さんも分かっちゃいないんだ……」
 恨みのこもった目で、彼女を見つめるベエル。
「うぐっ、い、いや……ま、まあなぁ……」
――これは困った。
 彼女は悩んだ。このまま両親に彼を引き渡すか。それとも……
 ここまで考えた彼女の脳裏に、一つのアイデアが浮かんだ。思わずふかふかの手をぽんと叩く。
「そうだ、じゃあ、お姉さんと一緒に屋台を回らないか?」
「え?」
 きょとんとして少年は彼女を見つめる。
「うん、そうだ、それがいい。さすがに子供一人では色々な意味で危険だからな。保護者がいれば安全じゃないか」
 そこまで言うと、彼女は彼の手をとり、引っ張り立たせた。
「よぉし、出発ー!」
「え、ちょっ、ちょっと……!」
 彼女は彼の返事を聞かず、夜の街へと引っ張り出した。

「ふぅ……どうだった?」
 それから数時間経ち……遊びつくした二人は、元いた屋台の隙間へと腰を下ろしていた。
「……」
 少年はまた答えない。答えないというより答えられないと言った方がいいだろう。
 何しろ、彼は数時間もの間、彼女に引っ張られっ放しだったからだ。彼女の言うがまま手を引かれるまま、わたあめを食べ、魚を掬い、射的をした。両手一杯に景品を抱え、口の中はいまだイカ焼きで一杯である。
「そうか、楽しかったんだな」
 ネフティスがふふっと声を漏らし微笑む。彼もそれにつられるように微笑み返した。それが何よりも楽しかったという答えであった。
「さてと、それで、これからどうするんだ?もう遅いから、お家に帰らないと……」
「もぐ……ごくん。いやだ」
 ようやく咀嚼を終えた彼が、一言つぶやく。
「やだ。今日は家に帰りたくない」
 まっすぐな瞳で、彼女を見る。
――ああ、すっかり懐かれちゃったな……
 困ったように、彼女は頬をかいた。
 だが、このとき、彼女の心の中に、困惑とは違った感覚が湧き出しつつあった。
――手の痺れが、取れない。
 さっきまで彼の手を引いていた右手を、彼女は何度も開いたり閉じたりした。まだそこが熱を持っているようで、甘い痺れを伴う。
 だが、異変は彼女だけではなかった。
――何で、こんなにドキドキするんだろう。
 心臓が早鐘のように激しく打つ。『何で』と彼は自問したが、彼の中ではすでに答えが分かっていた。だが、心の奥が認めたくないと叫んでいるのだ。
 彼は彼女の笑顔を見た。
――あんなにお姉さんぶっていたのに、僕より子供っぽいじゃないか。
 彼は彼女の豊かな胸を見た。
――周りと違って、鎧でしっかりとガードされているのに。
 彼は彼女のむっちりとした尻を見た。
――そんなところ見てドキドキするなんて、おかしいのに。
 彼は彼女の寒さで朱に染まる頬を見た。
――まるで、僕と手をつないでドキドキしているみたいで。
 彼は彼女の甘い香りを嗅いだ。
――女の人って、みんなこんな匂いがするんだろうか。
「……ああ、そうか」
――僕は、この人が好きになったんだ。
 それは、言葉には出なかった。
「ん?どうした?」
 彼女が問うが、彼は答えない。
「ふう、また沈黙か。しょうがないな……それで、家に帰るのが嫌ならどうするんだ?」
 呆けた表情を浮かべていた彼だったが、その言葉で我に返り、視線を上げた。
「お姉さん、保安官なんでしょ?詰め所に泊めてよ」

「ほら、今日は私しかいないから、貸切だぞ」
 屋台の隙間から程近いところに、石造りの簡素な建物が建っていた。ここが保安官詰め所である。正義感に燃えるネフティスと、その他大勢のそれなりの正義感を持つ魔物娘たちが、ここに勤務している。
「寝室は二階だからな」
 後ろをついてきた少年の方に振り向き、彼女が言う。
「……」
 だが、彼は沈黙を保ったまま動かない。
「どうした?眠くないのか?」
 うーむ……と彼女がうなる。
「ちょっと、それは困るなぁ。お姉さんな、これから着替えるんだ。だから、早く二階に行ってくれないと」
 保安官全員が魔物娘であるため、詰め所にはいわゆる更衣室というものがない。その場で着替えるのだ。
「うん……」
 ようやくうなずいた少年。それに安堵のため息をついた彼女は、再び彼に背中を向け、皮の鎧を外すために背中の紐を緩めようとした。次の瞬間。
「お姉さん……!」
 ベエルが彼女を後ろから強く抱きしめた。身長の関係で、紐にかけた手が彼の顔にぶつかり動きをさえぎられる。
「わうっ!?ちょ、ちょっと、ベエル……!」
 戸惑う彼女だったが、彼は腕を緩めない。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!でも、僕、もう……」
 下半身の皮に覆われた部分、ちょうど彼女の尻の谷間に、彼の抑えのきかなくなった肉棒が押し当てられた。
「わっ、わぅっ、ふぅっ!ちょっと、何やって……」
「はぁっ、はぁっ……」
 彼は荒い息を吐き、押し当てた部分を何度も上下させた。
「ふぅぅ、うぅっ」
 ズボンごし、さらに彼女のそこは固い皮にさえぎられていたが、抱きしめている部分から伝わる彼女の熱と、股間に広がる物理的な刺激、そして汗ばんだ背中から漂う女の香りで、彼の興奮は高ぶっていた。
「わぅぅ、待って、待ってぇ……」
 困惑と欲情と歓喜が複雑に入り混じった感情が、声となって漏れ出る。
「そんなに、激しくされたらっ……」
「うぅぅ、と、止まらないぃ……」
 少年が、甘ったるい声を上げる。
「お姉さぁん、好き、好きっ、好きぃ……!」
――わおぉぉぉん!
 彼の告白を聞いた瞬間、彼女の心の中で獣が吼えた。
「待てっ!」
 彼女の大声で、催眠術にかかったかのように彼の腰が止まる。
「駄目じゃないか……そんなに激しくこすったら。そんなことしたら、出ちゃうだろ?精液、びゅーびゅーしちゃうだろぉ?」
 くるりと彼の方を向き、彼女が嗜める。
 刺激を無理やり止められ興奮が収まらないベエルが、迷子の子犬のような視線で彼女を見上げる。
――わうっ、わうっ!
 ネフティスの心の獣が嬉しそうに吼える。
 彼女は素早い手付きで、身に付けていた防具と下着を全て脱ぎ捨てた。
 外の明かりに照らされ、彼女の裸体が姿を現す。
「あぁ……」
 少年は思わずため息をつき、喉を鳴らす。
 胴体部は人間と同じ皮膚をしており、それは月光を反射し白く輝いている。腰まで伸びた髪の左右の一部が、体の前面にかかり垂れ、皮膚と白黒のコントラストを作っている。
 手足は全てを吸い込む黒い毛並みに覆われており、彼女の興奮の証として、汗で濡れ一本一本がきらめく。普段から鍛えているせいか、乳房は胸筋にしっかりと支えられ、垂れることなく存在感を放っている。
 腹筋は分かれている部分が見えるか見えないか。程よく脂肪が上に乗り、強さを見せつつも女性らしさも損なわれていない。
「見とれるほど、綺麗なのか?私の体」
 一気に艶やかになった彼女の声を聞き、彼は一度大きくうなずいた。
「そうか……ふふ、それはよかった」
 それじゃあ……と彼女は近くの絨毯を敷かれた部分を指差した。
「そんなに興奮してたら、二階のベッドまでもたないだろ?あそこに横になってくれないか」
 言われた通りに彼が寝そべると、その体を彼女がまたいだ。
「ほら、我慢してくれたご褒美だ。ここに、今からベエルのおちんちん、入れるからな」
 ふさふさの二本の指で、自らの大陰唇を押し広げる。そこは桃色に色づいており、すでに彼の体に滴るほど愛液に濡れぼそっていた。
「じゃあ、入れるぞ……」
 彼にその瞬間を見せ付けるように腰をゆっくりと下ろす。
「……ほら、亀さんが、私の入り口にくっついた」
「くぅあっ……」
 しっとりとした膣肉が先端に触れただけで、彼は気持ちよさそうにうめいた。
「今から、お前の童貞、お姉さんがもらうからな」
 濡れた瞳で彼を見つめる。彼は一度だけ、小さくうなずいた。
「んっ、んんっ……わうぅ……!」
 ずんと音が出そうなほど、彼女は一気に腰を落とした。ぞりっと内壁をこする感触に、一気に力が抜けたせいだ。
 それによって、彼女は心の準備もないまま、処女の証を勢いよく散らしてしまった。
「あぁぁ!はぁぁぁ!」
 それは、どちらの声だったかは分からない。二人は同時に悲鳴とため息を混ぜた声を漏らした。
「あ、血……」
 接合部を見て、少年がつぶやいた。そこには、一筋の赤い血が。
「わぅぅ、悪いかぁ……私だってぇ、ずっと独り身だったんだからなぁ……」
 ぐすっと鼻を啜りながら彼女が言う。
「でも、これからは、これからはぁ!ベエルとぉ、一緒ぉ!わぅ、わぅぅ!」
「ちょっと、お姉ちゃん、腰をそんな、上下っ!」
 しばらく動きを止めぷるぷると震えていた彼女であったが、言葉が終わると同時に激しく体を上下に揺さぶり始めた。
「わうっ、わうっ、わぅぅぅ!」
「お、ねえちゃっ……出る、出ちゃうよ!」
 次の瞬間、彼女の中を熱い感覚が駆け巡った。ベエルは耐え切れず射精してしまったのだ。オナニーもろくに覚えていなかった彼が、長年溜めていた精液。初めての精液を味わい、彼女の獣が完全にあらわになってしまった。
「わんっ、わんっ、わおぉぉぉんっ!もっと、もっと、もっとほしい!精液ぃ、びゅーびゅーしてっ!」
 ネフティスは腰を止めなかった。二度、三度、何度射精しても、騎乗位を止めなかった。
「おお、ついに万年独身のネフティスさんにも彼氏が……」
「結婚式はいつかしら」
「子供はいつかなぁ」
「ねえ、あんなの見たら私もう我慢できないよぅ……」
 大通りに大きく口を開いた詰め所の、その上一階で一心不乱に、外聞も知らず大きな音を立ててまぐわっている二人。すぐに二人の声を聞きつけた野次馬で詰め所前はごった返してしまった。しかし、当の二人は全くそのことに気付かない。初めてのセックスに、ただただ溺れるのみであった。
「ああ、また出るぅ!」
「わおぉぉん!」

 ◆ ◆ ◆

 夜が更け明けて、また太陽が昇る。
 昼を越えまた宵が来て、同じようにエトセトラ。
11/12/25 10:58更新 / 川村人志

■作者メッセージ
ハイクを詠みます。
クリスマス 今年も童貞 インガオホー

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