連載小説
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<ミステリーツアー>1.案内状
私の名は、深井 秀樹。どこにでもいる普通の会社員だ
日常といえば、朝普通に車に乗って仕事に行き、夕方になったら帰って飯食べて寝る…そんなことの繰り返し
単調な毎日…なんのかわりばえもしない日常…

その日はいつものように会社に行って仕事を終えて、いつものように帰って来た
でも、この日はいつもと少し違っていた…
郵便受けに入っていた“ソレ”…

これが私の日常と常識を根底から崩すことになるとは思いもしなかった…

家へ帰って郵便受けから回収した郵便物を確認していく
携帯電話の明細からクレカの明細…
保険の更新に車検の案内…
住宅購入を勧めるチラシ…墓地案内のチラシ…
つまらん…
まったく嫌になる
金を出させたかったらもっと面白そうなチラシでも作りやがれ…
一通り目を通しシュレッダーにかけようとした時、一つの茶封筒が落ちた
あて先は書いていない…
が、聞いたこともない会社名が裏に印字されていた
MIKツーリスト?
ツーリストというのだから旅行会社なのだろうか?
旅行か…最近行っていないしなぁ
そう思って封を開けてみた…

“ミステリーツアーへ行ってみませんか?”

チラシを開くとでかでかとそんな文字が目に飛び込んできた

『この度、日々の生活を退屈と思われている方のために、魅惑の別天地へのミステリーツアーを企画いたしました。どこに行くかは当日しだい。お客様の趣味趣向に応じた観光地・お宿・温泉・グルメなどドキドキ尽くしのツアーです』

日々の生活になにか面白いことはないかと探していた私には何か新鮮で内容をよく確認しないまま即これに応募することを決めてしまった…

『お一人様からの参加でも大丈夫。1泊2日の日程です。お客様ごとに特別にガイド(兼通訳)がつきますので、安心して細かなサービスをご利用いただけます』

付属用紙のアンケートに答えればいいみたいだ
早速、アンケートに答えていく

1.今行きたい先は?  1 .海  2.山  B.城  4.その他(     )
1-2.具体的に・・・   @.洋風な所 2.和風な所 3.いろいろある折衷な所

2.日程行はどのうように?
   1 .いろいろ回りたい A.ゆっくりと回りたい 3.行き当たりバッタリの自由行動

3. 2で1.と答えた方へ・・・
    1 .一箇所もしくは数箇所へと行き、そこの観光をいろいろ回りたい
    2 .とにかくいける範囲で片っ端から回りたい欲張りコース

4. 2で2.と答えた方へ・・・
   1 .いろいろ回るのはめんどうだ!決められたコースをのんびりと回りたい
   A.時間の許す限りゆっくりと一つ一つのんびりと回りたい

5. 2で3.と答えた方へ・・・
  1 .お宿を含めた観光地を、足の向くまま気の向くままに回りたい
  2 .なにがなんでも自由!※何かあっても当社では責任を負いかねますのでご了承ください

6. ガイドはどんな人?・・・
  1 .どこまでも引っ張って行ってくれるような人
  2 .ゆったりと穏やかな人
  3 .同性を思わせるような気楽に付き合える人
  4 .子供っぽく幼い…もしくは子供そのものな人
  D.その他 ( お姫様のような人 )

7. その他ご要望もしくは心配事があればなんでもお書きください



「やっぱり、城は欠かせない…日本の城はいつでも?いけるが洋風な城なんてこの辺にあるのか?」
まぁ、希望は希望だし…南の方のテンボスとかドイツ村とかになるのかも…
「歩き回るのはめんどうだし…たまにはゆったりとしたいね。…って行き当たりバッタリの自由行動?!なにがなんでも自由ってなんだこりゃ?!責任が持てないってどこに連れて行くつもりなんだ?!…でも、これも面白いかもなぁ…」
でも、変な所に行ったら帰れないかも…責任もてないらしいし
「お姫様のような人ってどんなだ?まぁ…普通に気品漂う人なのか…TVに出てくるような公家の姫さんみたいなのか…それとも、現存する元貴族もしくは華族だった戦前辺りから生きてるばぁさんか?…まぁ、この会社のお手並みを拝見しよう!」
もし、ばぁさんだったら…このツアーはたして楽しくなるのだろうか?
少々、無理難題を書いたような気もするが…せっかくのアンケートだし

付属の封筒にアンケートを詰め、入っていた切手を舐めて貼り付ける…
さて、どんな旅になるやら…期待を込めて送った



数日後…
すぐに案内の手紙がやってきた
旅のしおり、料金について
それと…全責任は自己で取るという誓約書…
誓約書?なんだこれ?!
普通は、何かあったときの備えとして保険なのだが…

まぁいいさっそく、旅のしおりを見てみる

1日目
 最寄駅(AM7:00頃) → アパート → 現地ゲート → 牧場(AM9:00頃) ・ 植物園(果物の採り放題・食べ放題あり)→ お宿(PM6:00頃)

※1日目の昼食は、現地牧場でのご提供となっております
植物園での果実採り放題・食べ放題では雨天の場合、食べ放題のみとなることもございますのでご了承ください

2日目
 お宿(AM9:00頃) → 城・城下町巡り → 現地ゲート → アパート → 最寄駅へ(PM9:00頃)

※2日目の昼食は、城下町でガイドと共にとる事となります

なお当ツアーには、スペシャルサービスとしてオプションサービスのご提供がございます
オプションサービスについては、現地ガイドにお尋ねください


「・・・」
このアパートってなんなのだろうか?ゲートって?マ○ー牧場の入場ゲートみたいなところなのだろうか?
食べ放題か…なんの果実か知らないが…食いまくってやろうじゃないか!
6時ごろに宿か…どんな宿なのだろうか?部屋が静かな宿がいいなぁ・・・安いパック旅行だと頭の上にうるさいエアコンがついていたり、上の階にボイラーみたいのがあってうるさくて眠れないなんてことがよくあるからなぁ…
風呂は…温泉とは書いてないけど、のびのび出来るならなんでもいいや…
2日目の城・城下町ってどこに行くんだろう?まぁミステリーだし…楽しみにしてみましょうかねぇ…
…スペシャルオプション?なんだ?これ・・・
ガイドさんお勧めのサービス?・・・謎だ…

いままでこんなツアー聞いたこともない…
似たようなツアーならいくつもあるけど…お客にアンケートとってそれからどこ行くとか、日程見ればどこに行くとかなんとなくわかるものだが…これはまったくどこ行くか分からない…
まぁ、開けてびっくり玉手箱みたいな旅行なのだろう!今から楽しみだ!!







当日・・・

その日は旅日和を思わせるいい天気だった
空はスカッと晴れ渡り、風も凪いでいる
よし、行こう!
家を出る時、なんとなく家の中を見渡した…いつもの風景…

思えば、なんとなく旅の後に何が待ち構えているのか予感めいたものがあったのかもしれない…

最寄の駅に行く。待ち合わせの場所に行くと丁度、白いバンがやってきた
10人くらい乗れるバンで中にはもう何人かが乗り込んでいるのが見えた
『MIKツーリスト ミステリーツアー : 深井 秀樹 様』
という案内の紙を掲げた男性が中から出てきた
「おはようございます。深井は私です」
「あ、おはようございます。MIKツーリストの加瀬 晃と申します。本日はご参加ありがとうございます」
加瀬さんという人はおそらく、私と同じくらいの人なのだろう・・・
「深井様。お荷物をお預かりいたします」
たいした荷物ではなかったが・・・小さなバッグを手渡した
「おトイレやお忘れ物はありませんか?なければ、お席に着き次第出発させていただきます」
そう言って、彼はバンのサイドドアーを開けてくれた

「おはようございます」
そう言いながら中へと乗り込むと、数人の人達があいさつを返した
「深井様。どうぞ空いているお席へ」
加瀬さんの指示のもと真ん中辺りの席へと座った
ドアーを閉めると運転席へと座る加瀬さん

「皆様、大変お待たせいたしました。この度は当MIKツーリストのミステリーツアーへのご参加ありがとうございます。これより、最初の目的地への移動をさせていただきます。それにあたって、シートベルトのご確認をお願いいたします」
カチャカチャと音がした後再びアナウンス…
「最初の目的地までは、高速を使っての移動となります。気分の悪くなった方やトイレなど何かありましたらすぐにお申しでください。それから、車内でのおタバコは禁止とさせていただいております。・・・他に何かご質問はありますでしょうか?・・・なければこれより出発とさせていただきます」

静かに動き出すバン。車内はいたって静か…
暇なので他の人々を観察する
前の席に座っているのは、中年のおっさん。後頭部しか見えないが…耳にタバコをさしていかにも早く吸いたげだ
その隣には、カップル…いや片方は女に見えるがありゃ男だろうか…?どこか線の細い女っぽい美青年といった所だ
私の隣には、捻り鉢巻をしたおっさん…なんかツナギ着てるし本当に旅に行くのだろうか…
その後ろには、アロハシャツのにぃちゃん。海にでも行くのだろうか?そんな感じだ
私の後ろには山登りでもしそうな雰囲気の人…顔は浅黒く髭を少し伸ばした山の男という感じだ
一番後ろの席には大学生位の人が3人ほど…友人なのだろうか?小さな声で話をしている。携帯ゲーム機が見える…こんな時までゲームをすることもないだろうに…

観察を終えて窓を見ると、もう高速に入ったようで順調にかっ飛ばしている
どうやら、都心とは反対方向に行っているみたいだ

車内は静かだが…酒の匂いがした。隣のおっさんが角瓶でもうやっていた
「おっ?にぃちゃんもやるかい?」
「いえ・・・」
「そうかい…」
ツナギ姿のおっさん…どこに行くのか興味が湧いたので少し話してみることにした
「失礼ですが…どのようなツアーを希望されたのですか?」
「…ああ。ちょっと石像を見たくってなぁ」
「石像ですか?」
「不思議かい?まぁそうだよなぁ。俺は普段、石屋で墓石とか石切っているんだが、本業は石仏とか地蔵とか作っているんだ。こう…いろいろ作っていたんだが…ある日、気にくわなくなっちまってなぁ…。昔の人が作った像っていうのは本当に魂いれたような…生き生きとしてるものなんだ。もう、何年何百年ってそこにあるのになぁ…だから、あのアンケートに生きているような入魂の石仏や石像を学びたいって書いたらぴったりのところに案内すると言ってきた。だから、これは俺にとって観光の旅ではなく学びの旅なんよ」
「そうだったのですか。てっきり、違うツアーにでも紛れたのかと…」
「にぃちゃんは、どんな旅だい?」
「観光です。ストレスを溜め込んでいる自覚はなかったのですが…知らないうちに溜め込んでいたらしく、いつもの日常になにか刺激はないか?といつも考えているのに気が付いたのです。どこ行くか分からないツアーと聞いて飛びついてしまいました」
「ははは。よくあることだよ。若いんだしいろいろ行って見るといい」
「はい」
そんな話をしていたら、もう着いたらしくどこか閑静な住宅街へとバンは入っていく…
住宅街を抜け…雑木林に入り…向こうに一軒のアパートが見えてきた
時間にして、1時間も経っていない
「お待たせいたしました。まずは、アパートに入っていただき、各人様ごとのツアーへとご案内させていただきます」
バンを降り、荷物を持ってアパートの中へ…

アパートの一室にはMIKの文字…
中は待合席のようになっていて、すぐ隣にトイレがある。部屋の中のソファに腰掛けようとすると、すぐにタバコのおっさんが呼ばれた
おっさんは、いかにもスケベそうな赤ら顔で待ちかねたとでも言うたげに腰を上げ、向こうの部屋へとのっそりと行った
特に、耳をそばだてていたわけでもなかったが…
どこか少女のような声でえらそうにしゃべる声と、落ち着いた女性の声が聞こえた
“いい体してるねぇ…おねぇチャンも一緒にいかない?”あのおっさんの声らしい
しばらくして、その声が消えた…
次に、学生さん3人組…アロハシャツ…山男…が、向こうへと行った
カップル?が手を繋ぎながら扉へと入っていく
「じゃぁ…お先…」
石屋のおっさんもそう言って向こうへと消えた…
…彼らは一体どこへと行ったのだろうか?


「深井 様〜?大変長らくお待たせいたしました。どうぞこちらへ…」
やれやれ、ようやく私の番だ。どんな説明なのか…


部屋の中には、3人ほどの人がいた
一人は、加瀬さん・・・あとの二人は見たこともない格好をしていた
最初に見た印象は…コスプレ?だった

一人は、少女…頭に山ヤギのようなくるっとした角のようなものとヤギ耳を付けていて、やたらと露出度の高い服…いや、服ではなく水着のようなものを身に付けていて、足にはヤギ足のようなブーツを履いていた
もう一人の女性は、思わず胸に目が行ってしまうような豊満な胸と悩ましげな体を持つ美人だった
やはり、頭には角、腰あたりに蝙蝠のような羽を付けていて、くるっとしたしっぽ…を生やしていた。よく、雑誌とかマンガでみるサキュバスのコスプレをしていた
常に魅了されそうな笑みを浮かべている
「では、簡単にご説明を…では、バフォ様…」
「うむ。では、言うぞ?一回しか言わんからな?心して聞くが良い」
ヤギの少女が偉そうに言った
「まず、このバッチを身に付けるのだ。これがないと、おぬしのような人間はすぐに誰とも知れぬ者に襲われ二度と家に帰ることが叶わぬこととなろう」
と言って、小さな丸いバッチを手渡してきた
「は?」
ヤギ少女の言うことが理解できなかった。襲われる?帰れない?何故?
「これは、ガイドさんが貴方を見つけるためのアイテムでもあるから決して失くしたりしたらだめよ?」
と、サキュバスの人
「えっと、ツアー進行につきましては、すべて現地のガイドさんにお任せしているので、日程につきましては彼女にお尋ねください。なお、決してお一人の思い付きによる勝手な行動はお慎みくださいますようにお願いいたします。以上をもちましてご説明を終わらしていただきます…なにか、ご質問はありますでしょうか?」
と、加瀬さん
「…襲われるとか、帰れないって?」
「はい。えっと、私どもがご説明するよりも、現地へと赴き何故そうなる可能性があるかを直接ガイドさんに聞いたほうが、ご理解も早いでしょう。とにかく、このバッチはこのツアー参加の証明でもあり、あなたの身を守るセキュリティのようなものでもありますことをご理解できずとも心に留めておいて貰えたらと思います。さて、説明が長くなりました。現地ガイドさんもあなたの到着を首を長くして待っていることでしょう。ですので、さっそく次の目的地へとお進みいただきましょう」
そう言うと、彼はとある部屋へと案内した
そこは一畳あるかないかの部屋
こんなところで何をするのだろうか?
「あの…!」
「ご心配なさらずとも、すぐですので。入った後目の前が眩しくなりますが、痛みを感じることも体調不良にもなることもないので安心してプロセスに身を任せられることをお勧めします。では、良い旅を!」
グッドラックとでもいいたげに親指を立てて扉を閉めた加瀬さん・・・
扉を閉めると真っ暗になる部屋…
どうなるって言うんだ?少しばかりの後悔…と…
床が光りだした

ゆっくりとほの暗く徐々に光りが増し輝いていく
黄色い光から青白い閃光のような光へ…
私の足元にゆっくりと丸い…まるで魔方陣のように展開していく光
一畳ほどの空間は徐々に広がりを見せついにはちょっとした広場のような空間となり…次の瞬間!!
雷のような閃光が目を射し…何もわからなくなった…





「・・・さま」
肩辺りが揺れている
「・・・ぃ…さま」
強い光を浴びた直後のように目の前は真っ黒だ。そんな中、声が聞こえる
ゆさゆさと体を揺さぶられる・・・
「ふ…ぃ…さ…。お…」
確か、狭い部屋に押し込まれて…
「深井 様!起きてください!!」
「・・・?」
名を呼ぶ声…ゆっくりと瞼を開くと…誰かがいた
最初に、分かったのは“黒”色だった。それがぼんやりと見えた
次に、白…赤…と見えた

焦点がはっきりとすると、それが女の人だとわかった
「???…誰ですかぁぁぁぁ!!!」


それが、彼女との出会いだった…







11/07/02 23:50更新 / 茶の頃
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■作者メッセージ
まだ、本格的な夏ではないというのにこの暑さ…
日本で一番暑いと自負している街の近くに住む当方としては、魔界にでも引っ越したい今日この頃…
暑すぎて頭が回らない…
みなさん、熱中症には十分に気をつけてくださいね…

このss…完全に丸投げしていたものであり、今後も続くものではたぶんありません…

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