連載小説
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聖地への招待状
ギャアアアアアアアアアア!!

パパパンッ!!

?「うるさいクルマですねっ…!」
?「…。」

赤城道路の側の茂みに佇む二つの影。
その前をアフターファイヤーを吹き出しながら四輪ドリフトでインプレッサが駆け抜ける。
そのヘッドライトが影の正体を照らし出す。
1人は3本の尻尾をゆらゆらと振る狐の魔物。
もう1人は、まだ高校生と言っても過言ではない容姿の青年。

?「いきなり赤城へ来ましたが、あのクルマを見に来たのですか?」
?「ああ…。」
?「上手いですねぇ。WRCのプロも顔負けです。あのクルマって、前に言ってたチーム鶯の人ですよね?やっぱり気になります?」
?「あのチームのFDに負けそうになった事がある。」
?「え?旦那様が?」
?「ああ。」

二人の前を地元の走り屋であろうS15が通過する。
そのヘッドライトが照らし出したのは、ツートンが目立つリトラクタブル。

?「噂で名が通ってるだけのチームかと油断してましたが…。旦那様がよもや苦戦する程の相手とは…。う〜ん…。」
?「そこまで深く考えないでいい。また戦う事にはなるだろうけど、どうせ負けないよ。」
?「旦那様が負けるとは思ってませんが…。情報はあった方がいいと思われますね。」
?「必要ないと思うけど、どうしてもって言うなら。」
?「ええ、どうしてもです。万が一がありますからね。私が直々に集めますから、旦那様は走り込みを怠らぬよう。」
?「はいはい。」
?(まぁ、いろいろ情報集めたって結局走ってみなきゃわからないよ。それに俺とこのハチロクならどんな奴が来たって負けない。実際負けてないんだからな。)

青年の目が月の光を受け、赤い光を反射させる。

?「さぁ、今日はそろそろ行きましょう?私、もう我慢できません…。///」
?「ああ、行こう。」

2人は背後に駐車していたパンダトレノに乗り込む。
走り出したそのクルマは甲高い4スロのサウンドを響かせながら、赤城の闇へと消えていった…。



~数日後~


-椿ライン-


渉「そろそろ群馬辺りの遠征にでも行くか?」

この日、彼等はチーム全員で集まって合同で走り込みをするという目的でこの場所に来ていた。
それぞれバラバラに1人1人走っていたが、皆が丁度休息に入ったところで渉が切り出した。

隆文「別に俺は構わないぜ。」
サリナ「遂になんちゃらDの聖地に殴り込む訳ねっ!私もエボIIIにミスファイア入れちゃおうかしらっ。」
渉「辞めといた方がいいかもな。気苦労が耐えなくなる。」
サリナ「ぶー。冗談よ。真面目に返さないでよ。」

頬を膨らませて抗議するサリナ。
その会話を聞いた優が笑い声をあげる。

優「ははははっ、この間も後ろの車燃やしかけてたしなw」
エレナ「ああ!!それアタシの34の話だろ!!」
渉「はははっあれは危なかったw」
エレナ「笑い事じゃねーぞっ!!FRP溶けるとこだったぞ!!次やったらてめぇのクルマも燃やしてやるかんな!!」
渉「ホントに済まなかったってw」

プンスコと怒るエレナに渉は笑いを堪えながら謝罪を入れる。
見かねたセツナが小さく渉に呟く。

セツナ「気をつけた方がいい、エレナは本気でやるからな。」
渉「…マジか。」

渉の顔は一気に青ざめる。
次からは絶対にやらないように心に誓う渉だった。

エレナ「ったく。」
瞬「つっても渉。群馬にもいろいろ場所あるけど、最初はどこに行くつもりだ?」
セルフィ「実は既に一緒に走らないかっていう話は来てるんだ。」
瞬「どこからだ?」
渉「妙義山だ。そこを地元にしてるチームから連絡がきてる。」
隆文「妙義か。」
セツナ「どんなチームなんだ?」
サリナ「またいろは坂の時みたいに変な奴らに引っかからないでよ?」
渉「今回はちゃんと確認もとってある。大丈夫だ。」
瞬「まじで気をつけてくれな…。」
渉「あ、ああ。気をつけるさ。」
セルフィ「今回もそうだけど、これからは私も県外からの魔物娘達から情報集めるようにするからっ!安心して!」
渉「さてっ、俺はまたちょっと走って来る。セルフィはどうする?」
セルフィ「私は渉の横に乗るっ!」
瞬「俺らも行くか。」
セツナ「そうだな。」
エレナ「優、ちょっとタイヤ変えんの手伝ってくれ。」
優「あいよ。」
隆文「俺はエンジンがカンカンだからボンネット開けてもう少しここにいるわ。」
サリナ「なら私のエボの中に行きましょう!モチのロン拒否権はないわ☆」
隆文「なにいぃぃぃぃ…」ズルズル…

走る者。車を弄る者。(引きずられていく者。)
それぞれがバラバラに散らばる。
神奈川の夜は更けていく…。


その日の夜明け頃…。

-妙義山-


?「首尾はどうです?」
?「大丈夫です。先程連絡が入りました。全ては計画の通りに。」

暗闇が包む駐車場にヘッドライトの明かりを受ける稲荷の言葉にアヌビスが答える。

?「わかりました。とにかく情報が欲しいので、わかった事があれば直ぐに連絡を下さい。特にあの白いFDに関しては…。」
?「承知しております。そのFDには私が自ら走り、レポートさせて頂きます。」
?「今回は上り?」
?「はい。私の32なら勝つ事は危うくもついて行く事は出来るかと。」

アヌビスの背後には白い32が止められている。
Rのエンブレムはないが、全体的にGT-R風に纏められている。
フロントバンパーには、NI●MOの特徴的なエアダクトが確認できる。

?「勝てるなら勝ってしまわれても構いません。それまでの相手という事です。貴女のHCR32はRB26に載せ替えたのですよね?」
?「はい。チューニングは足回りを重視しておりますが。」
?「20DETなら危うかったかも知れませんが、貴女の腕に26のパワーがあれば大丈夫でしょう。」
?「それはわかりませんが。全力は尽くします。」
?「お願いしますね。下りのお相手は?」
?「ER34との事です。」
?「あら、奇遇ですね。相手チームからもFRのスカイラインが出てくるとは思いませんでした。どんな方が走られます?」
?「私達のチームメンバーの中で下りのタイムが一番良かった者を出しますので、そちらは心配ありません。」
?「わかりました。一応車種も聞いておきたいのですが?」
?「ワンダーシビックです。それもB16Aに換装されています。」
?「上出来ですね♪あくまで狙いはFDですが、勝てる勝負は勝っておきましょう。」
?「そうですね。私も全力を尽くせるよう、車のセットアップを。」
?「そうね、頼みました。ただ無理はしないように。他にもデータ確保の場は設けてあります。貴女が無茶をして事故を起こしたりしては元も子もありませんので。」
?「わかりました。肝に銘じます。」
?「ではまた。何かあれば連絡を。」
?「ええ、また。」

会話を終えた稲荷はアヌビスに背を向け、傍に止められていたハチロクに乗り込み、下っていった。

?「…私では勝てない。自分が一番よくわかる。どうせお前達も端から勝てるとは思ってないのだろう?」

独り佇むアヌビスが小さく呟く。

「あいつなら…。クゥなら勝てただろうか…?」

アヌビスが発した言葉は、妙義に吹く風に紛れて消えていく。
瞬達はまた新たな試練を迎えようとしていた_______



16/12/18 00:43更新 / 稲荷の伴侶
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■作者メッセージ
どうも、稲荷ノ伴侶です。m(_ _)m

これでも頑張ってます。はい。汗
みじけぇ…とは自分でも思いますが、堪忍して下さいorz


次回、懐かしい顔ぶれ

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