連載小説
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「……?」

 とある18禁イラストサイトの二次創作小説投稿CGIに掲載された、更新頻度の低い…かといってよく練られた文章を書くわけでもない、凡庸で影の薄い、普段の日本語もおかしい…そんな人物の小説を、あなたは偶然目にし、読んでいた。
そして最後に追加された、今までとは異なる趣のサブタイトルの話を選択したが…開いてみると、たったの2行しか書かれていない文章。
『なんだこれは?』あなたはそう思った。この作者、何のつもりだろうか?と。
とはいえ、わざわざ考察を巡らすほど深い話でもなし。考えても仕方がないと、あなたは見ることをやめ、他のやるべき事に移った。
こんな小説でも何かしらは心に残るという者もいるだろうが、時が経てば、こんな文章のことなど頭の片隅にも無くなってしまう…そのはずだった。

 …だが、その後。

 あなたが家にいるとき、突然チャイムが鳴り響いた。
それ自体は別におかしくない事だったが、あなたがドアを開けると、見たこともないほど綺麗な女性が、片手で持てるような小さな段ボール箱を抱えてそこに立っていた。

「こんにちは!」

 配達員らしき帽子と制服に身を包み、そのやや幼げな…しかし整った顔立ちに、まるで何かを祝福するかのような笑顔を浮かべている。
男女問わず目を引くだろうその美貌に目を奪われたが、それだけではない。
荷物を支える両手は、鮮やかな色の羽毛に覆われていたのだ。
それは正に、あなたの愛してやまないあのサイトに掲載されていた…いや、そんなはずは…
期待よりもまだ混乱と疑念が勝るが、あなたはまず、何者なのか尋ねた。

「あ、名乗り忘れてました。えっへへ…ごめんなさい。『ハルピュイア運送』です。
 『モンスターズ・ミラクル・マーケット』さんからの品をお届けに参りました♪」

 注文?身に覚えがない。それに、ハルピュイア運送?聞いた事もない。

「あれ?おかしいなぁ…。ほらこれ、あなたのお名前とご住所ですよね?」

 確かに、ラベルの宛先欄には自分の名前と住所が入っている。
送り主は『モンスターズ・ミラクル・マーケット』品名には…『恋するゼリー』?

「そこ、最近ネット通販も始めたみたいで。うちも大忙しですよー。
 その分、お給料はいいんですけどね♪」

 雑談もそこそこに、これは受け取っていいものかどうか悩む。大がかりな詐欺かもしれないからだ。
最近は自分のような者を狙った犯罪も多いと聞く。無防備に受け取ってしまえば、どんな事になるか…だがそこで、あなたはこの箱の中身に、少しだけ好奇心を抱いてしまう。同時に、この配達員にも。…そこでひとつ、聞いてみることにした。

「…え?羽を触ってみたい?」

 触ってみれば、本物かどうかもある程度わかるだろう。
それに羽を触ることは、すなわち、自分が彼女の手を触るということ。
そんな要望に対する彼女の反応も、正体を確かめるのに有効なはずだ。

「はい、どうぞ♪
 でも、本命はこの箱なんですから…あんまり夢中にならないでくださいね?」

 予想以上にあっさりと手を差し伸べる配達員。
だが、これも好都合。羽の表面を撫でたり、骨格を探ろうと揉んだり、羽毛を少しだけかき分けたり…だが、全然抵抗されない。こんなにしつこく触られたら、普通、女性であれば嫌悪を示すと思うのだが…
…それに、触っていて妙なことに、羽毛の下にあるであろう人間の手の存在が感じられないのだ。羽毛も、本当に体表から生えているように感じる。

「…そろそろ、満足しました?」

 配達員が恥ずかしそうにしているのに気付き、羽を開放する。
今のところ…この配達員は、あの魔物娘図鑑のハーピーであるとしか思えない。人間のコスプレ等である証拠に乏しい。
では、この箱も…?
いまだ怪しさはぬぐえないが、あなたはこの箱を試しに受け取ってみることにした。

「1,000円になります♪」

 代引きかよ。



 箱を受け取り、自室に戻って開封してみると…中から現れたのは、ゼリーの容器だった。
蓋には『恋するゼリー』と書かれている。
…そこであなたは思い出した。以前、そのような名前の小説を読んだということを。
そのゼリーが、実際にやってきた?いや、そんな馬鹿な…
しかし、半透明の容器からは、かつて読んだ話の中で、あなたが少し気に入ったと思った話に出てくるゼリー…それと同じ色が透けて見える。
しかも容器は微妙に動いており、まるで生きているようだ。
疑念と混乱があなたの頭の中に渦巻く…しかし、自分はもう受け取ってしまった。ここで見なかったことにする選択肢はない。
意を決し…あなたはゼリーの蓋を剥がした。
その中から出てきたのは…



「はじめまして!旦那さま♪」





 
19/04/30 08:03更新 / K助
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