連載小説
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双日と双月
「多分あいつが無様に負けたせいで雇ってたやつらが流れてくるから修業が厳しくなりそォだな。あらかじめ覚悟しとけよ」
 オレはとりあえずこれから起こりそォなことを説明した。
「わかった」
「はい」
「オッケーだよ」
 皆いい返事をした。これなら大丈夫そォだな。

「後できればもう少し味方が欲しィ所だな」
「味方ってエンジェル2人いれば十分じゃない。これ以上女の子増やしてどうするつもりなのよ?」
 ベルが不思議そォに聞いた。
「確かにアシュエルがいりゃ内部から破滅させることはできる。だがあまり表立って動かせネェだろ。他の教会にバレてエンジェルに対する信頼がなくなっちまったら他の教会を破滅させる計画にも影響が出てくるしよ」
 実は主神と敵対する神のエンジェルはほとんどの教会に入り込ンでいて、連携もしっかりしているらしい。主神のエンジェルもいるにはいるが、ただ主神の指令を当たり障りネェよォに修正して伝えるだけで、他の教会はおろか主神にさえ連絡を取ることがネェンだとよ。ちなみに何でオレが言うまで教会を内部から破滅させる案が出なかったのかと言うと、主神の人間に対する影響力がそこまであるとは思ってなかったかららしい。まァ神界では尊敬されるどころかかなり軽蔑されてるみてェだからムリもネェのかもな。
 後主神のエンジェルもいるらしいが、ただ主神からの指令を修正して伝えるだけで、他の教会はおろか主神にすら連絡することはネェらしい。主神のことが大嫌いだから手紙を見ずに燃やすエンジェルも多いよォだ。ざまァみろとしか言いよォがネェゼ。
「後どォでもいいが何で仲間に加わるのが女だって決め付けてンだよ」
「そんなの考えるまでもないわよ。現に仲間も女の子しかいないじゃない」
 ベルがそォ言うとクリスとデビーが深くうなずいた。できれば反論してェ所だがやるだけ時間の無駄だろォよ。

「…話を戻すぞ。味方が欲しいとは言ったが簡単にできることじゃネェ。裏切りを持ちかけた時点で上の方に話が伝わって、異端として裁かれる可能性が高ェからな。つまり相手は主神の信仰にとりつかれてなくて、主神の正義じゃなくて人としての正義を貫けるやつに限られるってことだ」
 まァンなやつほとんどいネェだろォがな。騎士なンざほとンどが主神の教えを盲目的に信じるだけで自分で考えることすらできネェ狂信者共の集まりだしよ。魔物は邪悪な物だという根拠もネェ偏った正義をふりかざして、自分たちが神に選ばれたとか本気で信じてる思い上がったクズだらけだ。やつら自分たちがやってることがただの殺戮だっていう当たり前のことも理解してネェだろォよ。
「だったら見習いさんはどうですか?まだそれほど主神の信仰に凝り固まってないでしょう」
 デビーが手を挙げて提案した。
「…残念だがやめておいた方がいいな」
「なんでよ?まさか男だからって言うんじゃないでしょうね」
 ベルがジト目を向けてきた。
「違ェよ。あいつは確かにまだ主神の教えに毒されてネェ。だが考えてみろ。あいつに感情を隠し通すなんつー器用なマネができると思うか?」
「「「思わない(わ)(です)(よ)」」」
 全員声を揃えて納得しやがった。少し見習いに同情するゼ。
「だろ。うかつにバラすとオレたちの計画が教団に漏れるし、あいつも確実に処刑されちまうンだよ。まァ経験を積ンだら信仰にとりつかれるかも知れネェが、死ぬよりはマシだろ」
「…あんたって性格悪いけど変な所で優しいわよね」
 ベルが苦笑まじりに言った。
「オレは別に優しくネェよ。ただ悪ィことが起こるのがわかってて何の対処もしネェなンてことができネェだけだ」
 もちろん敵は別だがよ。むしろどンどン悪ィ方に導くことにしてるゼ。
「ひねくれてるわね。ま、あんたらしいけどね」
 ベルがどことなく優しい口調で言うのを聞いて、デビーとクリスが生暖かい視線で見てきた。
「とりあえず仲間に引き入れるやつは慎重に見極めろ。あまり焦って声をかけすぎネェよォにしろよ」
 結局話はそれで終わった。オレたちはいつも通り特訓をしてから眠りについた。
 
 それから予想通りあのカスが雇っていたやつらが回ってきた。おかげ修業は厳しくなったが色ンな流派を学ぶことができた。中には使える技もあるしよ。
「りゃっ」
 一番修業内容がきつくなったのはベルだ。魔術だけじゃなくて、魔力が使えネェ時に使えるよォに棒術を習うことになった。どォでもいいがあいつ聖剣ベーシクしか使えネェのに何で棒術なんか習ってたンだよ。やっぱり最高の教育を受けてたって言う見得のためか?
「ほう。なかなか筋がいいな。どこかで習っていたのか?」
 棒術を教えてるやつは感心したよォに言った。
「はい。自警団に入ってた父に少し手ほどきを受けてました」
 ベルは感情を押し殺した声で答えた。
「…そうか。辛いことを思い出させてしまったな」
 棒術のやつはすまなさそうな声で言った。どォやら真相を知らネェみてェだな。
「大丈夫です。あたしは1人じゃありませんから」
 ベルはオレとデビーの方を見ながら言った。
「そうか。お前たちも家族を失って辛いだろうが彼女を支えてやってくれ」
 思ったよりいいやつだなこいつ。だからと言って裏切るのをやめる気はネェがよ。教団がやってることは誰かが止めネェとダメなンだからよォ。その役目を誰かに押し付けるつもりも、譲ってやるつもりもネェよ。
「わかってますよ」
「そんなこと言われるまでもありません。彼女は大切な仲間ですから」
 オレたちの言葉に棒術の先生は満足そォな顔をした。こォいうやつらの思いを踏みにじる以上絶対に教団に負けるわけにはいかネェよな。

 午後の魔術の修業もレベルが上がっていた。新しい呪文はもちろん、魔力の制御の練習もやった。
「ま、ざっとこんなもんでしょ。…ちょっと失敗しちゃったけどね」
 そォいうベルの前には大きくえぐられた崖があった。
「やるじゃねェか。やっぱベルはすげェな」
 オレが頭を撫でるとベルはうっとりとした顔をする。
「ふにゃ。…にゃっ?!い、今は修業中よ。撫でるなら後にしなさい!」
 撫でられること自体はいいのかよ。
「ふーん。ホントにやめていいのかァ」
 オレはさらに撫でた。
「ふにゃー」
 オレはしばらくベルの頭を撫でてから修業に戻った。

 魔術の修業が終わってヒマになったな。さて、どォしよォかね。
『教会の図書室にでも行ってみたら。孤児院のよりずっと大きいから色々知識がつくかもよ』
 腰にあるシンカが語りかけてきた。
「何で資料室は知らネェのに図書室は知ってるンだ?」
『んー。何か図書室にエッチな本があるか探してたよ。後女の子にモテるために勇者になったとか言ってたよ』
 シンカは楽しそォに答えた。
「そいつすぐに魔物の色香に落ちただろ」
『わかる?あいつ見た瞬間私を捨てて全裸で飛び掛って行ったんだよ。あんなの勇者に選ぶとか主神ってやっぱりバカだよねー』
 まァあンな理由で教団のやつらを操ってるくれェだしよ。知識はあってもそれを使うだけの頭なンざネェだろォよ。
「そォだな。とにかく図書室に案内してくれ」
「了解」

「へェ思ってたよりすげェじゃネェか」
 図書室はかなりの数の本があった。
『でしょ。さすがの私もエッチな本の場所くらいしか覚えてないよ』
 あンのかよ。教団ってそォ言うの禁止してなかったか?
「だったら自分で探すしかネェか」
 オレは戦術書や歴史書を主に探した。ついでに国の情報とかを調べられたら最高なンだがよォ。
「へェ。結構種類あるンだな。どれから読ンだらいいのかねェ」
『さあ?そんなの調べようとする持ち主いなかったもん』
 だと思ったよ。どォせ勇者の力だけで何とかなると信じてるバカだったンだろォさ。

「戦術を学びたいのか?ならこの本がおすすめだぞ勇者殿」
 声がした方を向いてみると2人の女騎士がいた。見たところ双子みてェだ。本を差し出してる方は銀髪に銀色の目で、黄色い鎧を着ている。もう1人の騎士は金髪に金色の目で、オレンジ色の鎧を着ている。それよりも目を引いたのが2人の武器だ。銀髪の方は三日月のよォな刃に月が象られた柄がついてる曲刀で、金髪の方は太陽の形の柄をした剣だった。
「ああ。あなたたちがあの有名な『双月』のセレネ殿と『双日』のアメラ殿ですか」
「ほう。勇者殿に知られているとは光栄だな」
 アメラは嬉しそォに笑った。
「聞いた所によるとアメラ殿は太陽の神、セレネ殿は月の神の加護を受けているとか。そんなあなたたちがどうして主神を信仰する教団の騎士になったんですか?」
 まァ本当は資料室で見たンだけどよ。
「無力な人たちを助けたいからだ。なぜか主神のことを考えただけで吐き気がするがそれとこれとは別問題だ」
 どォやら太陽の神は主神派じゃネェみてェだな。まァ主神派に属してる神の方が珍しいンだろけどよ。
「私も主神の教えには裏があると感じているが、それと弱者を救うこととは別問題だ」
 どォやらそこらへん他の教団の騎士とは違うみてェだな。
「主神が気に入らないんなら王宮に仕えようとは思わなかったんですか?」
「論外だ。この国の上層部は私利私欲のためにしか兵を動かさないからな」
 へェ。よくわかってンじゃネェか。どォやら頭も悪くネェみてェだな。

「こちらも聞きたいことがあるのだがいいか勇者殿?」
 セレネが真剣な顔で見てきた。
「何でしょうか?」
「貴公は隊長や他の勇者を迎えに行った騎士に辛く当たっているようだな。やはり貴公の村を守れなかったからか?」
 どォやらこの2人は何も知らネェみてェだな。
「ええ。騎士と言っても全て守りきれるわけではないとは頭ではわかってるんですけどね。それでももっと早く来れなかったのかとか、あれだけやれるとかどれだけ弱いんだとか思ってしまうんですよ。時々本当は教団が仕組んだことなんじゃないかという疑心暗鬼にとらわれてしまうこともあります」
 オレが軽く核心をつくとアメラがにらみつけてきた。
「いくら勇者殿でも言っていいことと悪いことがあるぞ!」
 やっぱり仲間を侮辱されると怒るよなァ。だが話を進めるためには言わなくちゃいけネェンだよ。
「落ち着けアメラ。勇者殿はなぜそう思うのだ?」
 セレネは割と冷静に聞いてきた。ずいぶん対照的だな。

「冷静に考えてみて下さい。勇者パーティー全員の村が教団が来る直前に滅ぼされるなんてどう考えても不自然でしょう。しかもその全てがぼくたちを迎えに行く途中で起きています。これは魔物に情報が漏れていたか、教団が自分で手を下したかのどちらかだと考えられます」
 オレの言葉にアメラとセレネはうなずいた。
「まず魔物に情報が漏れていると仮定しましょう。情報を手に入れたなら魔物はぼくたちの村が中立で、魔物についての知識もあるということがわかるはずです。放っておけば教団が何を言ったところで魔王を倒そうなんて考えないでしょう。わざわざそんな場所を攻めて魔物に何のメリットもないでしょう。むしろ強大な敵を自らの手で生み出してしまうことになります」
 アメラとセレネは口をつぐんでいる。反論する言葉が見つからネェみてェだな。
「次に教団が手を下したと考えてみましょう。主神が選んだ勇者が住む所は中立で、魔王を倒せと言った所で全く相手にされないでしょう。そこで教団は村を滅ぼし、それを魔物のせいだと偽りました。そうすることで勇者が魔物を恨むように仕向けたのです。ほら、きれいにまとまるでしょう」
 オレがそォ言うと2人とも呆然としている。仲間がそンなことをしたなンて信じたくネェンだろォな。
「まァ単なる戯言ですし聞き流してくれていいです。もしかしたらお酒でも飲ませたら自慢げに話してくれるかもしれませんよ。知らない方がいいかもしれませんけどね」
 オレはそォ言ってセレネから本を受け取った。
「本選んでくれてありがとうございます。それではこれで」
 オレは固まっている2人を残して図書室を後にした。

          つづく
11/04/08 17:27更新 / グリンデルバルド
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■作者メッセージ
少しバラすのが早すぎたような気がします。まあ引っ張ってもしょうがないですけど。
次も新キャラを出す予定です。

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