連載小説
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4-1 逃飛
 キャスが一行に加わって3日目。彼らは森の近くの街道を進んでいた。
 そしてこの話は、いきなり戦闘シーンから幕を開ける。


「えぇいっ!」
 トレアの鬱陶しいという意思を反映した声が挙がる。
 5人は盗賊の奇襲にあっていた。森の中からは矢が無数に放たれ、ナイフや剣を持った男たちが白兵戦へと持ち込んでくる。
 いつもなら何のことはないのだが、矢が飛んでくるこの状況で、彼らが不利であることは必至だった。
 5人は木の陰に隠れて矢を凌いでいた。
「くそっ、奴らはどこから狙っている!?」
「キャス、分からないの?」
「丸わかりだよ。でもここから400メートルも向こうの森の中で、魔導具で肉体強化して狙ってるんだ。ミラでも狙えないよ」
「魔法で一掃とかできないわけぇ?!」
 荷車を盾にしているノルヴィが覗きこもうとした瞬間、目の前に矢が突き刺さった。それを見て彼はキャスに怒鳴った。
「無理だね。あんなところに効果を出せる魔法は、最低でも20秒は詠唱して魔力を集めなきゃ無理だよ。そうすると、魔法陣の魔力の集結発光で気づかれて前衛にタコ殴り、それを援護しようとすれば君たちは矢の餌食さ」
「よく考えてるやつらってことか…」
 トーマは木の陰から覗きこみながら言った。そしてウェポンケースを下ろすと、蓋をあけて中からサブマシンガンとサイレンサーを取り出した。コッキングしてからグリップの上にある4段階のダイヤルを一番上に親指で回して合わせると、姿勢を低くして後方に退いて物陰に隠れた。
「トーマ、何を?」
 ミラは訊ねた。
「前衛がかなり近づいてる。弾数に限りがあるからあんまり使いたくはないが背に腹は代えられないからな…キャス、詳しい位置と数分かるか?ここから狙撃する」
 トーマはそう言うと、左手を銃身に添えてスコープを覗いた。
「後衛でいいよね?トーマから12時の方向に1人、そこから約2メートル間隔で5人だよ」
 少し赤く色の付いたスコープのレンズの向こうに、弓を構える男が見えた。
「見つけた…全く、本当に木々の隙間から狙ってるな」
 そう言うとトーマは引き金を引いた。小さい音で放たれた弾丸は緩い放物線を描きながら男の持つ弓を破壊し、肩を霞めて木に埋もれた。
「なんだ今のはっ!?」
 当然盗賊たちは混乱した。そしてまた1人、また1人と武器を破壊され、身を削られて行った。
「後衛はやった、あとは目の前の奴らだけだ」
「そのようだな…」
「ええ、借りは返す主義よ…」
 トーマ、トレア、ミラが物陰から現れ、武器を構えた。

「がぁっ!」
「うぎゃぁ!」
「ひぃいっ!」
「あがっ!」
「うぐっ!」

 カチンという金属音を立ててトレアが剣を納めた。
「ふん、この程度の者たちに足止めを食らうとは…腹立たしいな…」
「こいつらはどうする?」
「ここに放置しておけばお嫁さんが見つかるわよ。さ、行きましょ」
 一行はその場を後にした。
 そのすぐ後、デビルバグやスライムたちが彼らを見つけたのは言うまでもない。

 周りは依然として森が続いており、前方には高くそびえるスプル山脈が見えていた。
「キャス、さっきは助かったよ」
「いいよ、特に何もしてないから」
 トレアの前方でトーマとキャスが会話を始めた。最初は先の戦闘でのことだったのだが、「ところで」というキャスの一言から話の内容はその話を盗み聞くトレアにはチンプンカンプンな内容に発展していった。
「さっきの武器って、銃だよね?こっちの世界じゃもっと原始的なのだから、つまらなくて。どういう仕組み?」
「ああ、これはまず弾薬に工夫があって薬莢と雷管が…」
「なるほど、それなら効率がいいね。でも飛距離は…」
「バレルの両側に電極が…」
「ああ、電位差を利用して…」
 それはおそらく別世界の住人のトーマと天才的な魔女であるキャスの間でしかちゃんと通じ合わない会話だろう。
 トレアは少し心の奥にモヤモヤしたものを感じていた。自然と表情は不機嫌な感情を示唆するものになっていったが、本人も前を歩く4人もそのことには気づかない。
 トレアとキャスは決して仲が悪いわけではない。初対面でこそ問題もあったが、そのあとちゃんと話し合い、和解した。他愛もない話もするし、ノルヴィがドジをすれば、2人で皮肉を飛ばしておっさんを苛める仲でもあった。
 問題なのはトーマとの仲だ。覚えているだろうか、トーマとトレアはキャスの小屋を後にしたところで言い合ってしまった。それからかなり経つが、トレアはなんとなく謝るタイミングを逃してしまっているのだ。
「・・・・・」
 トレアは黙ってトーマを見つめては情けなく目を逸らし、また見つめるという行動を繰り返していた。
 そんなことも露知らず、トーマとキャスは専門的な話に花を咲かせていた。
「それでどうだ?研究はうまくいってるのか?」
「…ごめん、手詰まり状態だよ。媒体に刻む制御式がどうしてもうまくいかないのが今の最大の問題なんだ。僕の知識だけじゃ限りがあるから、旅をしながら集めようと思う」
「そうか…に、しても…問題は他にも時空間魔法を使った輩がいるってことだ…」
 ボナルフを出る前に分かったことがあった。それは『キャスが時空間魔法を暴走をさせる以前に、時空間魔法をトーマの世界につなげた輩がいる』ということだった。
 そのことを知るきっかけになったのはキャスの媒体だった。もう勘の良い方はお気づきだろうが、その媒体とはトーマと共にこの世界にやってきたと思われる隕石の欠片だったのだ。その欠片はキャスが反魔物領近くに媒体を採取に言ったとき手に入れたもので、トーマがこの世界に来るかなり前のことだ。つまり、何者かが何らかの方法で時空間魔法を繋げたことが以前にもあるということになる。依然として問題は投げかけられたままなのだ。
「まぁたぶん偶然的につながったものだとは思うけどね、そっちも」
「いや、俺が危惧しているのはそっちじゃない…」
「暴走、の方だよね?」
「ああ」
「…はぁ」
 キャスは呆れれたようにため息を吐いた。
「トーマってお人よし?」
「ん?いや、どうだろうな…」
 トーマはそう言いながら目線を斜め下に向けてかすかに笑った。
「そんなことを人に言われたことなんてなかったから…わからないよ」
「…ふーん…」
 これは今に始まったことではない。トレアやミラはもちろん、ノルヴィでさえトーマがたまに見せる暗い影のようなものを感じ、気にしていた。だが、彼に過去に何があったか聞く気にはなれず、たとえ聞いても深くまでは話はしないだろうと思っていた。

 話は変わるのだが、いつも騒いでいる人物がたまに大人しいと気になってしまうこと、皆さんにはないだろうか?
 そんなことが一行にも起きていた。気づいたのはミラだ。
「ノルヴィ、どうかした?」
「あ…いや…」
 ノルヴィは周りに注意を向け、拙そうな表情をした。
「いやぁ、な…な〜んとなく付けられてる気がすんだよね…」
「なんですって?」
 ミラは周りに気を配った。すると、森の中を物音立てないように付いて来ている者たちに気付いた。
「いつから居たの…?」
 ミラは小声で訊ねた。
「ボナロフからだよ」
 後ろを歩いていたキャスがミラに聞こえるくらいの声で言った。
「えっ?」
「前に言ったよね、僕の周りをうろついてる面倒な奴らがいるって。あいつらだよ」
 トーマもトレアも先ほど聞いたらしく、気付けば二人とも後ろと側面を警戒していた。
「どこの誰なの?」
「教会騎士団だな…」
「なんですって?」
「それも親魔領に潜入してくるところを見ると、少数精鋭…やっかいよ〜?」
「ノルヴィ、なぜそんなことを知って…」
「っと、今その話はしてる場合ないかもよ?トーマ、トレア、この先で森を抜けるのよ、そこで迎え撃つってのどう?」
「ああ」
「走るぞ」
 5人はトーマの一言を合図に思いきり走った。途中で転びそうになったキャスをミラが受け止め、「掴まって!」と言って背に乗せた。気配もそれに合わせて森の中を駆け抜けてくるのがわかる。気づかれたことに気付き、もう隠密である必要はないので足音がやたらと聞こえてくる。
 森の中の街道を抜け、道の左右に草原の広がる場所に出たところで、一行は森の方を向きトーマ達はナイフや剣を構え、キャスは杖を構えた。ノルヴィは荷車を置いて身構えた。
 教会騎士たちは森を抜けた瞬間、幾つもの光球による攻撃を浴びることになった。だが彼らはそれらを鍛えられた剣で撥ね除け、勢いそのまま5人を取り囲んだ。
「トーマ、油断するな…こいつら相当の手練れだ…!」
「わかってる…」
 騎士たちは一斉に襲い掛かった。攻撃の合間を掻い潜り、5人は別々に散らばった。


 トーマは振り下ろされた剣をナイフと足運びで受け流し、相手の顎目掛けて拳を突き出した。背後から近づく騎士の薙ぎを、身を回しながら屈んで躱し、刈り上げるような足払いで相手を転倒させると眉間に一撃を食らわせ動きを止めた。
 一連の動きから分かるように、トーマの体術はこの世界に来てから格段に鋭く強くなっていた。なぜなら、旅路で遭遇したり、ギルドの依頼で盗賊と戦闘になることも少なからずあり、それらから身を守るためトレアと暇さえあれば鍛錬をしていた。銃の弾薬はいくら100発近くあるとはいえ、それでも限りがないわけではない。また、非殺を掲げる親魔派となっている以上は、狙って打てる状況下でない限り、銃は兵器としての能力がありすぎるのだ。
〔…俺でも、奴らに大きく出遅れはしないはず…〕
 トーマは剣を向ける騎士に対して、落ち着いた様子でナイフを構えた。

 敵味方の入り乱れる中、ミラは絶え間なく走り続けていた。
 なぜなら四方から囲まれれば、この半獣の体は不利になる要因になる。そして囲まれないためには、動き続けながら攻撃するしかないのである。
 強力な蹴りを有していても、所詮は生身。相手は相打ちであろうと傷を負わせてくる、もし足に傷でもつけば、それこそ、魔法によって鍛えられた異常な切れ味の剣であるなら、いくら魔物とはいえ馬の命は容易く奪われるのだ。
 彼女は風のように駆け抜けながら、冷静な狙いで矢を放ち、矢に付加した魔法で騎士の動きを奪っていった。だが、矢を見切った騎士はそれを剣で叩き落とし、さらには、折り畳み式の小弓を構えミラを狙った。
 矢を放ち放たれ、落とし落とされ、勝負は拮抗していた。
「もう、やっかいね!」

 当初、トレアは素早い剣捌きで騎士に攻勢に出ていた。隙あらば腿を切り付け、背後にまわり気絶させた。しかし、さすがに2対1では分は悪く、疲労の色も見え始めていた。
「くっ…!」
 このままでは不利になる一方、そう考えたトレアは奇策に出た。
 剣を2人の間に向かって投げ、その身体能力を持って2人の上を前転しながら飛び越えたのだ。そしてその遠心力を利用して、1人の頭部を尾で強打して気絶させ、見事な着地と当時に剣を再び取り、振り向きざまにもう1人の首元に刃を当てた。
 彼女は剣を突き付けた、その長身にして一際体つきの良いその男を見上げる形で睨みつけた。
「降参しろ、命までは取りはしない!」
「くっ…」
 騎士は動きを一瞬止め、顔を引きつらせた。だが、トレアは狂気染みた騎士の執念を目の当たりにするのだ。
 彼はこの状況に置いて、高圧的の笑みを浮かべ、トレアの剣を握った。
「…なんてなぁっ!」
 彼は剣を動かないようにホールドしたまま、トレアに向かって大きく一歩を踏み出したのだ。
「ッ―!」
 トレアの手に切ってはならない肉を切る感触が伝わるとともに、その目は狼狽と驚愕に見開かれていった。そしてその大きく見開かれた瞳には、まるで溶岩のように吹き出す鮮血とその向こうに浮かぶ、狂気に満ちた男の笑みだった。

「きゃあああぁぁッ!!!!!」

 突如響いた悲鳴に4人はトレアに向いた。4人だけでなく、騎士の内何人かの意識も彼女に向けられた。
 首から血を流す騎士は、トレアの剣が反らされるのを感じると、それに乗じて剣を弾き、彼女を突き飛ばした。
 彼女は後ろに数歩退くと、そのまま足の力が抜けたようにその場に座り込んだ。彼女は顔面蒼白で恐怖におののいた顔で自分の震える手を凝視していた。
「あぁ…魔物がこんなもんで腰抜かすたぁ、拍子抜けだぜ………とっとと消えろや!」
 ゆっくりと近づく流血の騎士。そして彼の剣が今まさに振り下ろされんとしたとき、対峙していた騎士を蹴り飛ばしたトーマはトレアと彼の間に割って入った。
「ぁがッ―!」
 トーマは右肩から腹にかけて切り付けられた。幸いなのは、その傷は命を奪うまでに至らなかったことであった。
「ちぃ…ぬりぃ真似してんじゃねぇよ…」
 流血の騎士は鬱陶しそうにそう言った。首から血が出ていることを気にも留めず、彼は剣を振り上げた。
「らあぁっ!」
 トーマは痛みも出血も顧(かえり)みず、右手に持ったナイフで騎士の腹を突き刺した。
「ぅがっ―!」
 これには騎士も堪らず声を上げて後ずさりした。どうやら自分でどこが傷つくか分かっているなら、その痛みに対して耐性を持てるが、そうでなければ人並みのようだ。
〔こいつ…俺の鎧を穿(うが)ちやがっただと―?〕
 騎士は傷口を抑えながら驚嘆の表情を浮かべた。
「はぁ…はぁ…こいつは…残念なことに超高周波ナイフでな…そんな鎧突き刺すくらいのことはできる…」
 荒い息でトーマは言った。だが、右腕には力が入らないのか、ナイフを握ったまま力無く垂れ下がっている。
「ちょうこう…?まぁいい…、ナイフがどうであれ、てめぇはただの死に損ない…もう俺に一太刀だって加えらんねぇよ」
「トーマッ!」
 援護に向かっていたミラは、騎士目掛けて突っ込んだ。
「おっとぁ…!」
 騎士は首と腹に傷を負っているにもかかわらず華麗な後方ステップで避けた。

〔こいつぁ拙いッ…!〕
 今まで騎士の攻撃を躱し続けていたノルヴィが、騎士の腕を掴んで投げ飛ばし、荷車まで走り寄った。そして荷台の穴の開いた板を1枚取り外した。
 案外にも軽く外れた板の中には一本の剣が納められていて、ノルヴィはその剣を取ると追ってきていた騎士の剣撃を鞘で受け止め、その状態から剣を抜き騎士を一蹴した。
「退けッ!」
 ノルヴィは行く手を妨害する騎士の腕を擦れ違いざまに切り付けていき、騎士たちは次々に剣を落とした。
 ミラは振り返ると流血の騎士に向かって矢を放った。矢は彼の足元に向かっていたため彼は油断したが、着地と同時に魔法陣が展開し騎士は動きを封じられた。
「っ…!」
〔ちっ…こういうヤツかっ…〕
 騎士の動きを封じることには成功したが、動きを止めていたミラに騎士たちの放った矢が迫る。
「しまっ…!」
 ミラは一瞬覚悟したが、ノルヴィの剣が矢を叩き落とした。
「ノルヴィ…!?」
 ミラは狼狽した。ノルヴィが剣を持って戦っているところなど、いや、ノルヴィが剣を持って戦えるなどとは一切思っていなかったのだから。
「今は俺よりあっちの嬢ちゃんだッ!」
 その通り。嬢ちゃんことトレアは、未だに体は言うことを聞かず動けずにいた。出血で憔悴の色が見えるトーマになんとか近寄ることはできたが、彼の肩に掛けた手の震えは治まる様子を見せなかった。
「…トーマ…!」
 トレアは青い顔でトーマに声をかけた。いつもの彼女からは想像できないようにか細く、高い声だった。
「ばかっ…周りに気を…!」
 トーマが後ろに顔を向けると、先ほど倒した騎士が意識を取りもどし剣を握って立ち上がっていた。
「この…よくもっ…!」
 騎士は怒りの籠った声でそう呟きフラつきながら近づいてくる。
「来るなッ…!」
 トレアは落としていた剣を握るが、ガチガチと震え戦えるような様子ではなかった。ノルヴィとミラは2人に駆け寄ろうとするが、騎士たちは手負いであっても剣を離さず取り囲み、行く手を阻んだ。
「トーマ、トレア!」
「くそっ、てめぇら…!」
 追い込まれた。彼らは、たった1人の騎士の狂行を皮切りに、絶命の淵へと追い込まれたのだ。

 騎士が振り上げた剣が逆光を反射した。騎士の目が見開かれ、恐ろしい形相を浮かべる。
「神に仇成すものは、深淵の闇に消えろぉッ!!」
 無情にも剣は振り下ろされた。

「残念」

 振り下ろされた剣は草を断ち、地にその切っ先を埋めた。
「なに…!?」
 騎士の目の前から一瞬にして2人は消えた。
「消えただとッ!」
「隊長!こっちも消えました!」
 ミラとノルヴィの姿もなかった。
 そして隊長と呼ばれたのはトレアの『心』を斬ったあの騎士だ。彼はそれを聞いて状況を確認すると呆れた表情を浮かべ、見た目からわかるほどにやる気をなくした。
「ちっ…興冷めだな…おい、この忌々しい術を解け!」
「はい」
 騎士の1人が陣の外から矢を斬ると、魔法は解け小隊長は首を回し関節を鳴らした。
「おい…血止めだ…」
「はい」
 彼は少しフラついていた。首と腹に傷を負い、あれだけ大量の出血をしたのだ、当然である。むしろ、白い鎧が紅く染まるほどの血を流していながら、まだ意識を保っている方が異常である。
 小隊長は草原に座り込んで部下に治療を受けながら、森の中にそのナイフのように細く鋭い一重の三白眼を向けた。
「そこに居んのはわかってんだ、出てきやがれ…!」
 部下の騎士たちはその意識を森の中に向けた。すると、物怖じせずキャスが堂々と姿を現した。
「わかってたんだ」
「ふん…てめぇだな?つまんねぇ小細工してやがったのは…」
 小隊長はそうニタァと笑みを浮かべた。すると部下の一人が柄に手を添えた。
「貴様…魔女だな?」
 部下の騎士はそう言うと剣を抜き構え、他の騎士たちも剣を構えていた。
「だったら何さ?…言っておくけど、僕の魔法とあんたらの剣、どっちが有利かわかってるよね?」
 キャスが手を前にかざすと、まるで小さな粒子が集まるようにして杖が現れた。
「あぁ?んなもん…こっちが断然有利に決まってんだろうが!」
 隊長がそう言うと騎士が2人キャスに向かっていった。
 キャスは光球を出現させ、その2人の騎士に目掛け放った。だが、その攻撃は騎士に振るった剣によって弾かれ明後日の方向に飛んで消えた。そして次の瞬間には、キャスの首元に剣が2本当てられていた。
「ほらな?」
 キャスは顎を少し上げて固まっていた。
「魔法ってなぁな、強力なものになりゃあなるほど、魔力を溜めんのに時間かかんだよ。逆に今みてぇな速攻型の魔法は隙が少ねぇかわりにちょっと鍛えた剣なら弾き返せるくれぇの威力しかねぇ…
 つまりぁ、魔導師は俺たちにゃ1人2人じゃ勝てねぇんだよ!」
「さすが…精鋭ってとこだね…」
 キャスはお手上げのジェスチャーをして言うと持っていた杖を消した。2人の騎士は剣を大きく振り上げたが、「勝手に殺すな」という小隊長の命令で剣を高く上げたまま静止した。
「なぜです、隊長…」
「神に背くものは、すぐにでも抹殺すべきでしょう?」
「俺もそうしてぇところだが、上のじじい共の命令でな…もうすぐ始まるアレへの贄にする奴を捕えて来いってよぉ…」
「…分かりました…」

 ドッ―

「うっ―!」
 鈍い音がして、キャスの体は騎士に担ぎ上げられた。
 やがてやってきた馬車に騎士団は乗り込み、馬車は東の森へ走り去って行った。
12/06/11 02:02更新 / アバロンU世
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■作者メッセージ
最初思ってたより流血表現が多いような…
でも基本そんなグロ過ぎないし大丈夫だb

楽しんでいただけていれば幸いですが…

※誤字報告いただき、修正しました。

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