読切小説
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奪〜私の許嫁〜

「蓉斗くん…」

「淑妃、好きだよ。」  

ありきたりな学校のありきたりな校舎内。  
教室の奥まったところで男女は唇を重ねていた。
芝之江 蓉斗(しくのえ ようと)と呼ばれる男は樹葉 淑妃(きは しとひ)を抱き締めて愛言を囁く。

「私もよ。蓉斗君さえいてくれれば後は何もいらないもん。」

「俺はダメだな。」

疑問と少しの怒りを持ってその目を見れば蓉斗は微笑み、またキスをする。
二人はこうして放課後、無人の教室で逢瀬を重ねていた。

公に出来ない理由を持っているため人目を憚りこそこそと。

「…時間だ。ごめんな、もう少しでこの境遇ともおさらばできる。」

「うん、ホントに楽しみにしてるから♪」

最後に軽く抱き合い、二人は教室をあとにするのであった。


        


「お帰りなさいませ。」

「…いつもごめんな。」 

先程、教室で言っていた謝罪とは意味が異なる。

「何のことですか?」

「いや、一緒になるつもりもないのに…」

何の話か。

今、蓉斗が話しているのは許嫁の澪川 纏委(みおかわ まとい)だ。蓉斗の未来の嫁、つまり将来結婚を予定する仲であるということ。
しかし、それは二人の親同士が決めたことであり、現代法治国においては全く効力を持たない。
それでも、蓉斗の父親は町の権力者であり纏委の親は隣町のそれなりな地位にいる人物。
高校三年と同時に結婚を予定しているため二人は蓉斗の家で同棲していた。
もちろん蓉斗の親もいるのだが。

「いえ、気になさらないで下さい。私が好きでいていることですから。こんな化け物の許嫁など。」

「いや、それは関係ないんだ…」

控えめな態度の纏委だが彼女は人間ではない。人間の上半身に百足の半身を持つ魔物娘、大百足であった。

「ふふっ、分かっております。蓉斗さんには樹葉さんという方が居られますもの。」

高校三年にあがると同時にこの家に来た纏委も一番最初に聞かされたことだ。

纏委、すまないが俺は君と一緒になろうとは思っていない。好きな人がいるんだ…

まとも自身は蓉斗の両親には歓迎されているし、蓉斗も表面上は拒絶していない。が、先のことについては特に父親と喧嘩する程度には意志の固いことである。

「もしも、万一私と一緒なると気持ちが傾いて頂けた時にお側に控えたいがためなので。蓉斗さんはお気になさらずに。」

クスクスと微笑みながらの遠慮、いや自分の気持ちを殺した態度が蓉斗には痛々しかった。
申し訳ないと思うが自分の好きな人は淑妃であると強く自分に言い聞かせ部屋へと戻ろうとした。
その時。

「蓉斗、纏委さんに申し訳ないと思わないのか。」

蓉斗の父親がリビングから顔を出しいつものように突っかかってきた。

「うるさいな。もう纏委にも了解して貰ってるし良いんだよ。親父には関係ないだろ。」

「あるに決まってるだろう!私と纏委の親父さんとで決めたことなのだ!反故になればどうなることやら。」

いつもの愚痴と嫌みが始まったので無視して自分の部屋と入る。

「全く…申し訳ない、纏委さん。なんとか言い聞かせるから…」

「いえ、お父様。問題ありません。私はこの高校三年が終わるまでに自分のことを精一杯、蓉斗さんに知ってもらい好きになって頂くだけですから。」

「本当に…あんな奴には勿体ない女性だよ。」

父親に照れ隠しの笑いをかけ纏委も自分の部屋へと戻っていた。


       


蓉斗は自分の部屋で、メッセージアプリを使い淑妃とやりとりをしていた。

よーと<今日も短くて本当にごめんな。

しとひ<良いんだって。私はあの時間だけでも幸せなんだから♪

よーと<ありがとう!

しとひ<うん!あと、明日もお弁当持ってくね!

よーと<すごっく楽しみ!

しとひ<ほんと?

よーと<そりゃもう、好きな人の手料理だからな…

しとひ<(。ノωノ)

よーと<可愛い

しとひ<あっ、お風呂入ってって言われちゃった!また明日ね!

よーと<了解!またな!

       

「さてと。」

次の日の昼休み、別のクラスの淑妃と中庭で昼食を食べるため席を立つ蓉斗だが。

「芝之江!」

突然三人の、人間二人と魔物娘の集団に席へと戻された。

「な、なんだよ!」

「判事!容疑者に2、3質問をよろしいでしょうか!」

「許可しよう!」
 
「お、お二人とも…」

人間は同じくらいのクラス宮戸と鞍西だった。魔物娘は…。

「蓉斗さん、ごめんなさい。」

「ま、纏委が謝ること無いよ。」

纏委は小さい頃からの英才教育で頭はかなり良い。それでも許嫁ということも考慮してか蓉斗と同じ学校に通っていた。
残念ながら別のクラスではあるが。

「あたしさ、今日あんたが纏委ちゃんと同じ家から出てくるところ見ちゃったのよ!」

鞍西が言っているのは父親の目もあり、家を出るまでは一緒にしているが少し歩いたところで別れ淑妃と登校している風景のことだろう。

「んでさー、鞍西に聞いて詳細を纏委ちゃんに問うたらさー。」

「『蓉斗さんに迷惑はかけられないので…』の一点張りよ。これは犯罪のにおいがしたから事情聴取ってわけよー!」

宮戸が間延びした声でことの経緯を説明したが蓉斗には面倒なだけだ。

「あたし、親から蓉斗んちの家はお偉いさんだから挨拶しとけーなんて言われるんたけど、やっぱり政略結婚とか!?」

待っている淑妃のことを考えると下手に会話から逃げようとするよりは肯定を重ねた方が楽にすむと悟った。

「チッ…まぁ、似たようなもんだよ。」

「えっ?そーなの?」

魔物娘はともかく人間二人は話を面白くしようとしているだけのようだ。
が、あっさりと自分たちが面白いと思っていた方向に肯定をされぽかんとしている。

「もう、いっても良いか?」

「待ってよ!ならあたしの見たあれはどうなのよ!」

「あれ?」

宮戸が慌てて会話をつなぐ。蓉斗は非常にイライラしているがノーコメントで去れば次が面倒になることは目に見えていたので話を聞く。

「昨日の放課後この教室で誰かと話してたでしょ!」

淑妃とのことを言われ少し動揺するが徹底して冷たい態度は抜かない。


「なんか悪いのかよ。」

「えっ、いや…だって纏委ちゃんと許嫁なんでしょ?」

「なんだ、分かってんじゃねーか。」

鞍西は親から蓉斗と纏委のことを聞いていた。
さして大きくない近くの町の事なので耳にしている者は多かった。

「俺は纏委とは結婚しないし、そもそも好きでもない。」

「はっ?なにそれ?」

「それって大丈夫なの?」

「お前等には関係ない。」

教室の出口へ向かおうとするが女子二人が立ちはだかる。

「そんなの、纏委ちゃんがかわいそうだと思わないの?」

「そうだよ。この話、結構信じている人いるよ?」

「お二人とももう止めて下さい。」

二人は蓉斗ではない声に抗議の声を止めた。纏委はゆっくりと自分に言い聞かせるように話す。

「私の…独りよがりなんです。私は蓉斗さんが好きですが蓉斗さんは違います。」

教室の喧騒の中でも纏委達の周りは沈黙が流れる。
全く、全くを以て関係のない二人からの茶々にストレスが止まらない蓉斗は少しきつめの口調で放つ。

「邪魔だよ、何も知らないくせに。」

二人を睨みつけ通り抜けようとする蓉斗に声がかかる。

「蓉斗さん」

「…何?」

「お昼は…」

纏委は弁当箱を二つ持っているが蓉斗は気にせずに事実を伝える。

「他の奴と食べるから。」

「そう、ですか…」

そうしてスタスタと行ってしまった。
残されたのはやるせない人間二人と少し落ち込んだ魔物娘。

「なんなんあいつ!」

「纏委ちゃん大丈夫?」

「大丈夫です。」

空笑いのような笑顔で微笑む纏委に心を打たれ、この昼食は宮戸と鞍西の二人がお供することとなった。

       

「蓉斗くん!じゃあね!」

「おう、またな!」

今日も教室での密会を終え、自宅とは逆方向の淑妃の家近くまで送り届ける。
彼女と別れ一人になると今日のことが思い出された。

「それにしても…何だったんだあの二人」 

いきなり押し掛け人の恋愛、結婚に口を出して。 

「全く…」

そう、ですか…

あの時の纏委の悲しげな顔が忘れられない。いつも心には留めておいているが自分と一緒で彼女も被害者なのだと。

それでも賢明に、自分なんかよりは余程努力して自分のことを好きになってくれようとしている。

「悪いこと、してるよな…」

いや、悪いのは親だ。
あの父親さえふざけたことを言わなければ…。

「クソっ…」

イライラと独り言で愚痴を呟いている間に家につく。

「ただいま…」

と言ったが、蓉斗はすぐに後ろを振り向き逃げたかった。
玄関を開けたそこには普段から出迎えてくれる纏委の他に中年の男。

「なんだよ、親父。」

「なんだよじゃない!!」

怒鳴りを優に越え怒号。頭に響き非常に不快だ。
隣にいる纏委も怯え、俯いていたのが完全下を向いてしまった。

「うるせぇな!なんなんだよ!!」

「…纏委さんの作ってくれた今日も弁当はうまかったか?」

その話を聞いた途端、蓉斗は纏委を睨みつける。

「誰を睨みつけているんだ!纏委さんは必死に隠し、あろう事かお前を擁護したんだぞ!!!」

なんだそれ。
というか、何で残っているんだ。毎日弁当は作るが、両親の目があるからだ、蓉斗がノータッチでもいつも空になっていたはずだ。

「今日はたまたま食べなかったんだよ。」

苦し紛れの答えであることは蓉斗が一番理解しており、返ってくる答えもそれに沿ったものだ。

「嘘をつくな!!!」

纏委さんが話してくれたよ。
お前は毎日誰か、纏委さん以外の誰かと昼食を取るそうではないか。
何をふざけたことをしている?
お前の未来の妻が丹誠込めて作っている弁当があるというのに…纏委さんが朝、何時に起きるか知っているのか?

などと途切れることなく怒りにまかせた事実の垂れ流し、蓉斗にとっては説教地味た話が続く。

「だいたい、お前は分かってないんだよ。俺はただお前に最高の奥さんを見つけただけなのに!」

「何勝手なこと言ってんだよ!俺の嫁くらい俺が見つけるっつうんだよ!!!」

でしゃばるな!!
そう言って父親の横を通り抜け階段を駆け上がる蓉斗。
その間も父親が何かを必死に訴えていたが聞く耳を持たず部屋へと一直線。

「あいつ…」

「お父様、申し訳ありません。」

黙っていた纏委が口を開いたのは謝罪のため。

「な、何を言ってるんだ。あいつが全部悪いんだよ。」

階段をあがり、話の続きをしようとする父親に対し制止を促す。

「お父様、これ以上お二人が言い争っているのを見るのは…私としても辛いです。」

手すりに手をかけたまま少しの間考える。

「わ、私がお話してきます。その結果、お弁当を断られたらもう仕方ありません。」

「…纏委さんがそれで良いなら。」

渋々、承諾し書斎へとあがっていく。纏委は蓉斗の部屋へと向かった。
コンコンとノックをすると父親じゃないことは分かっていたのだろう、鍵を開ける音ととに中に通された。

「蓉斗さん…」

「…」

鍵を開けに立っただけで纏委が入ってきたらすぐに椅子に座りそっぽを向いてしまった。

「もう、お弁当は作りません…ご迷惑をおかけしました。」

「えっ?」

父親から何としてでも弁当を食べるように説得しろと言われたと思っていた蓉斗は驚く。

「ま、纏委はそれで良いの?」

そんなことをすればまた嫌みを言われるのではないか。
自分だけではなく、説得出来なかった纏委にもそれがいく可能性は十分にあった。

「良いんです。たかだか、お弁当ですから…うっ、うっ…」

ポロポロと泣き始めてしまった。これまた突然のことに改めて驚き大百足の側へと駆け寄る。

「ご、ごめん。」

「いえ、わ、私が悪いんです。」


勝手に作っていただけなので。ただ…蓉斗さんに一回も食べてもらえなかったのが…

普段から落ち着いており、泣き方まで大人っぽい纏委。故に、蓉斗は非常に哀愁が感じられひしひしと心にくるモノがあった。

「独りよがりなんです。ご迷惑をおかけ」

「明日…お願いできるかな?」

キュッと手を握り真剣な眼差しで纏委へと問いかける。

「よ、蓉斗さん?」

目元にたまった滴を男が払うと纏委の頬は赤くなる。

「ごめん、食べもせずに。一回、情けとかではなく纏委のご飯を食べさせてもらえる…かな?」

纏委は今までになくパァと明るい表情になりコクコクと必死に頷いた。

「ありがとう。」

「私こそです。頑張ります!」

自分なんかの為に弁当を作れるというだけでこれほど嬉しそうにされたら蓉斗も照れ笑いがでてしまう。

「なら、明日は教室に迎えに行くよ。」

「はい!」

今度は纏委から手を握りキラキラした目で元気よく返事をされ、後には引けない蓉斗であった。

        

「さっぱりしたぁ。」

淑妃は自室で髪を乾かしていた。するとメッセージアプリに反応がある。

「あっ、蓉斗くんだ!…ん?」

内容を確認すると、それは不可解なものであった。

よーと<淑妃、明日は弁当いらないから

しとひ<なんで?どうして?今日おいしくなかった?
    
よーと<いや、美味しかったよ。その…諸事情でさ

しとひ<お弁当がいらないのは分かったよ。一人で食べるの?

既読が着いてから二分、返信にかかった

よーと<そう、用事があってさ。早くすませないといけないんだ

しとひ<そう、なんだ…了解!

よーと<ごめんな

しとひ<いやいや!用事なら仕方ないよ!

よーと<ありがとう。今日は疲れたからもう寝るよ。おやすみ

しとひ<うん、お疲れ様!おやすみなさい!

「用事ってなんだろう。」

少し引っかかる部分を残しながら淑妃も就寝へと向かった。

        

「蓉斗さん、ど、どうですか?」

自分の胸の前で手を組み祈りつつ、問いかけてくる。
今は昼休み。
約束通り中庭で昼食を食べていた二人。蓉斗には他愛のないイベントであっても纏委には一世一代の大事なのだ。

「…うまい。」

「本当ですか?」

「いや、ごめん…。こんなにうまいモノを毎日作ってくれてたのか…。」

自分の知らないところで恵まれていたこと、そしてそれを承諾を得ていたとは言え踏みにじっていたことが重くのしかかる。

「いえ…それは少し違います。」

照れた様な笑顔で斜め上を見上げた。蓉斗と目があっていてはうまくはなせないからだろうか。

「蓉斗さんにこうして美味しいと言ってもらえて、初めて意味があるんです。だから今日がお弁当初日です!」

余程恥ずかしいかったのか手で顔を覆ってしまった。通常であれば自分を可愛く見せる、所謂ぶりっこな仕草も纏委がどこか天然であることを知っている蓉斗にはただただ可愛らしく思えた。

「いや、それでも本当にごめんな。」

明日から毎日でも食べたいがそういうわけにも行かなかった。

「気にしないで下さい。三年生の頭に転校して以降、今日ほど幸せな日は無かったのですから。」

チキチキと顎肢がご機嫌な音を立てており、二人は向かい合って笑いあう。
予想していなかった、午後の幸せな昼下がり。

中庭はさして立地が言い訳でもないため、わざわざ昼を食べに出てくる者は少ない。
にもかかわらず、中庭には三人分の人影があることを蓉斗は知らないままであった。

        

その夜、もちろん日課なので蓉斗と淑妃はメッセージを電波に乗せていた。
ちなみに、ほぼ毎日行われていた教室にての逢瀬も昼のことが思い出され何か後ろめたい気持ちから今日は止されていた。

しとひ<今日はどうだった?

よーと<特に変わりなかった。体育の後の古文は死ぬほど眠かったなぁ

しとひ<分かる!本当に眠いよね先生も眠そうなんだからお昼寝の時間にしてくれれば良いのに!   
 
よーと<無茶言うなよ(笑)しとひは何かあった?

しとひ<私も特に無いかなぁ強いて言えば、久々にお昼友達と食べたかな!

蓉斗読んだ跡は残っているが返信に少し間があった。

よーと<本当に悪かったな…ちょい、仲間と色々あってな

ここでも間があり、素っ気ない返信が返ってきた。

しとひ<そっか…明日はお弁当いるよね?

よーと<もちろん!お願いできるかな?

しとひ<分かった
    
    ごめん、今日はもう眠いから寝るね
    おやすみ

よーと<おう!おやすみ!

いつも自分が送った就寝の挨拶に既読がつくのだが蓉斗が送った際にはすでに淑妃はアプリを切っていたようだ。

         

キーンコーンカーンコーン

聞き慣れたチャイムがなると同時に纏委ではなく、淑妃と昼食を取るため席を立ち上がるろうとした瞬間。
デジャヴを感じる光景。
しかし、今日のそれはその量が違った。

「待ちなさいよ。」

「あっ?」

威圧して見ればクラスの女子が、他クラスも含む、女子ばかり10人程度で押し寄せていた。

クラス連中もなんだなんだと少し注目している。

「なんだ?」

「あんたさ、纏委ちゃんと付き合ってるの?」

また、関係のないモノがぞろぞろと並んでいるということか。
蓉斗はうんざりしており、軽くあしらって流そうとした。
か、うまく行かず。

「付き合ってねーよ。じゃ、俺用事あるから。」

「待ちなさいって!」

「なんだよ!」

ガヤガヤと周りもはやし立てはじめた。

「纏委ちゃんのこと考えなよ!」

「彼女、ちょくちょく保健室行くから理由聞いたら朝早く起きて夜遅くに寝るからって言うじゃない!」

「あんたのためにお弁当作ってるらしいよ!」

「なのにあんたと来たら!」

口々に、打ち合わせでもしたかのように別々の人間から一本の話ができあがっていく。

「結局毎日、誰と食べてるのよ。」

「…」

こんな日に限って…。
なんと言い返そうかと考えているとクラスの男子側からも声がかかってきた。

「確かになぁ。俺も纏委ちゃん狙って良いか分からないからはっきりしろよー。」

「あははっ、バカ!何大声で言ってんだよ!」

「でも、今の話聞く限り澪川可愛そうじゃね?」

女子と同じ可愛そうだという派。
纏委を口説いて良いのか知りたい派。
笑って話を大きくしようとしている派。

とにかく、蓉斗には敵しかいない空間だった。一刻も早く離脱するために早足で扉へ向かうが当然のように待ったの声がかかった。

「良いわよね、男は。二股かけても女の敵にしかならないんだから。むしろ、それで喜ぶ子すらいるし。」

「女がそんな事したらすぐにビッチ呼ばわりで男は疎か女友達もいなくなるんだよ!」

宮戸と鞍西が挑発してきたのだ。どちらに話の方向を持って行きたいのかは明白だが蓉斗は乗ってしまった。

「…何が言いたい?」

ギロリと二人を睨むがそれ以上に10人から睨まれるといくら女子相手とはいえ少し威圧を感じる。

「二股野郎…」

誰の言葉かは分からない。が、自分の境遇も知らない連中が好きな勝手に言い放題なことが許せなかった。

自分の好きな人をまっすぐに愛すこともできない境遇に我慢ならなかった。

うるせぇ!!テメェらに何が分かるって言うんだよ!

そう言うつもりであった。
しかし、その前にか細くはあるが声があがる。

「わ、私と蓉斗さんは付き合っています!」

一斉に振り向いた。蓉斗と漏れなく、だ。
見れば、大百足。

「私が引っ込み思案なため色々詮索されるのを防ぐために、蓉斗さんは公言しなかったのです…」

な、何を言っているんだ?
纏委の言っていることがイマイチ、それどころが一言も入ってこず混乱が頭を支配する。
が、その言葉の効果は誰より先に自分が理解することとなる。

「そ、そうなの?」

宮戸が恐る恐る声を出す。

「で、でも纏委ちゃん。そんな事なら言ってくれれば…」

私のために蓉斗さんが決めて下さったことなので

教室が静まり返る。まるで静かにするとことを誰かに強要されているかのごとく、誰も声を発さない。
蓉斗も同様に何も言わない。
今、あれだけ荒れさらに激化しようとしていた事が沈静化され始めているのに対して油を注ぐようことは避けたかった。

「ごめん、芝之江…」

「わ、悪かったよ。」

先頭をきって謝罪を入れたのは宮戸である。次に鞍西と首謀者と考えられる二人から波及し茶々を入れた連中が続々と謝ってきた。

「…」

「蓉斗さん。」

手を平を返して急に謝罪する集団に言いようのない怒りを覚えている蓉斗。その空気を悟って弁当箱を二つ持った纏委が手を取る。

「行きましょう。」

当然、向かうのは中庭だ。教室の野次馬たちを一通り無視して廊下へとでるが結果弁当箱を二つ持っているのは二名となる。

「蓉斗くん…」

目を丸くして、蓉斗とその繋がれた手を順々に見る。
昨日のやりとりで昼食について確認を忘れていた。が、用事というのは昨日だけで今日は一瞬に食べられるだろう。

蓉斗はおかしな噂が立つことを恐れ、今日までどちらかの教室で落ち合うことを避けていた。しかし、今日たまたま来てしまった淑妃は当然、今の教室内での出来事を理解してしまっていた。

「…」

「待て!淑妃!」

と言っても遅く、淑妃は走り去っていった。

「蓉斗さん…」

「ごめん、纏委。」

ここでも、助けてもらったばかりの女性を置き去りにして彼女のところに行くことは憚られたが考えるより先に動いていた。

だが結局、昼休みの間校舎を隅々まで探したが淑妃は見つからず午後の授業が始まってしまった。

        

その放課後。
校門の前で待っていれば必ずあえると完全下校ギリギリまで淑妃を探した。
その日、最後のチャイムが鳴り終えしばらくすると待ちに待った者が姿を現す。

「淑妃!」

「…」

完全に無視。
蓉斗をその場に居ない者かのように扱う。

「おい!」

横を通り抜けようとする淑妃の腕をとりどうにかして話をしようと試みる。

「離して!」

「少しで良いから話をさせてくれ!」

「嫌だよ!高校卒業したら家を出て一緒になるとか!昨日のお昼だってあたし見てたんだから!!!」

ガンと頭を殴られたような気がした。
なぜ?誰が話した?纏委か?

「今まで用事があるならどんな用事か教えてくれてたのに。」

おかしいなぁと思って、嫌な予感がして見てみれば…澪川さんと

言い訳のしようがない。
これが、例えば纏委に無理やり誘われて等、言えばこの場は凌げるかもしれない。しかし、頼んだのは自分だし家のことを説明しても今のままでは苦しい言い訳にしかならないだろう。

「…淑妃、聞いてくれ。」

振り払おうとまた力を込められる腕は拒絶と判断していいだろう。

「二週間後の週末、遊園地に行こう。」

それまで目を臥せていた淑妃も顔を上げる。その表情に怒り、悲しみはない。

「だ、大丈夫なの?」

蓉斗だけでなく、纏委の親も顔が広い。その町でデート紛いの何かをしていればバレる可能性は当然出てくる。

「もう、良いさ。もしそれで何かを言われたら二人で逃避行でもしよう。」

疲れたような笑顔は逆に裏付けに感じられ、淑妃は思わず蓉斗に飛びつく。

「嬉しい…」

「ごめんな…」

「もう大丈夫!」

非常に短いやりとりだが二人の絆が戻るには十分な時間であった。

        

自室の扉がノックされれば出ないわけには行かない。
相手は纏委であった。

「蓉斗さん少し良いですか…?」
 
部屋へと通され一拍置いて纏委は話し始める。

「その…本当にすみません。蓉斗さんが…」

「良いんだ、分かってる。」

昼休みの件。
身勝手なことを自分のためだけに言ったのではない。
一触即発のあの状況を打開するにはあのようにするしかなかった。
そのくらい蓉斗にだって理解できる。

「俺のためだったんだよな。」

纏委の顔を見ればまたも泣きそうであった。

「お、おい泣くなよ。」

「ご、ごめんなさい。蓉斗さんに迷惑だけはかけちゃだめだと思いながら…」 

ポロポロと頬を伝う悲しみを見て蓉斗は慌てる。

「ありがとう、本当に助かった。」

抱きしめる、ことはしない。
手を取り目を見て真っ直ぐに話す。
それくらいしか思いつかなかった。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

許嫁を退き、他の人と結ばれようとしている自分の行為に罪悪感を覚えつつ纏委を慰めるしかなかった。

        

翌日。
晴れやかな気分で登校し、自分の席へと座ると友人三名がいつものように寄ってきた。

「しーと、おはー」

「おはよー」

これまたいつもの軽い挨拶。
こうしてホームルームのチャイムまで軽い談笑をするのが日課である。
内容も対していつもと変わりない、イケメンな俳優・アイドル、不倫騒動、どの先生が嫌いか。思いついたところから徒然に話していく形で進んでいく。

「後はぁ…そう言えば7組の蓉斗君、纏委ちゃんと付き合ってるとか言ってたね。」

「それ聞いた!昨日、お昼にクラス内でアナウンスしたとか言ってた。許嫁?とかじゃなかった?」
 
淑妃も聞いたがやはり他人が話している尾と現実なのだと再認識することになりどもってしまう。

「へ、へぇ。そうなんだ…あれって嘘かと思ってた。」

「確かに芝之江君が纏委ちゃんと絡んでるの見たこと無かったもんねぇ。」


「許嫁って古くない?しかも親同士が勝手に決めたんでしょ?私なら嫌だな。」

「でも、なんかさ、蓉斗君が人見知りの纏委ちゃんに野次馬が行かないようにわざと言わなかったんだってさ。」

「そーなの?案外優しいところあるじゃん。」

「…で、でもさ。それじゃ纏委ちゃん可哀想だよね?本当に好きだと思われてるかも分からないのに!」

「淑妃どーしたん?やけに否定的じゃない?」

ハッとする。無意識に自分の素直な気持ちが言葉になっていたようだ。

「…そんな事無いよ。ただ、纏委ちゃん可哀想だなーってさ。」

「そう?あっ、そう言えば2組の雹縣君も白蛇さんの彼女がいるとか言ってたね。」

「そーなの?」

話題が移り変わり胸をなで下ろす。本当に愛されてるのは私だけ。
そう自分に言い聞かせ朝の他愛ない会話を続けた。

        

「ただいまー」

今日は蓉斗が習い事の日でいつもより早く帰った。

「おかえり。」

リビングでテレビを見ていた母親に迎えられる。

「疲れたー」
 
「今日は早かったじゃない。」

「うん、面倒だから切り上げてきた。」

逢瀬の事は親にすら言っていない。一応受験生であることを利用して談笑がてら友達と勉強していることになっている。

「そう、お疲れさま。」

母親とは仲が良く、学校での話をよくする。

「今日さ、物理で寝そうだった友達の動き、コクコクって寝そうなときの」

「あるね」

「あれ、物理の先生が見つけて怒るのかと思ったら首に掛かってる力とか計算し始めて…」

母娘で笑いあう。何にもない日常だと思ったがここでもあの話題が。

「そう言えばさ。あんたと同級生の芝之江さん?っている?」

一瞬、誰のことか分からなかったがいつも「蓉斗君」と呼んでいる人物と同一であることが分かった。

「あー、あの子ね。」

その子がどうしたの?

「いや、大したことじゃないんだけど。前にあったPTAの集まりで結婚する子が決まってるのに誰かに付きまとわれているって親御さんが困っててね。」

テレビを見ながらだが話を続ける。困っている、から続く話など淑妃は聞きたくもなかった。

「でもさぁ、本当に好きな人と一緒になれないなんて可愛そうじゃないかな?」

「そこは大丈夫なはずなのよ。二人とも好いての事らしいから。」

「えっ?そんなの誰が言ってるのよ。」

「誰って、芝之江さんと澪川さんよ。」

淑妃の母親が言っているのは二人の母親が言っていたという事。

二人が好きあっている?何を言っているの?

「芝之江さんの奥さんも澪川さんの奥さんもここら辺では顔が利くんだから。もし許嫁の話が分かってながら蓉斗君にちょっかいだしてたら村八分にされちゃうから。」

「…それって不味いの?」

「そりゃねぇ、ご近所と挨拶すらできなくなりそうね。」

なによそれ。蓉斗君は私を好きだと言ってくれてたのに。
何で親が口出しとかしてんのよ。

「もしかしてあなた、蓉斗君と何かあるの?」

「い、いや!あの子大丈夫かなって子がいるくらい!」

我にかえり、くるしい言い訳をしておく。

「ふーん、その子にも教えて上げなさい。」

「う、うん。ありがとう。」

母親は夕食を作りに行ってしまった。一人残された淑妃は揺れ動く。

私が遊ばれているのか、纏委が遊ばれているのか、と。

        

よーと<よっ!淑妃明日は昼ご飯一緒に食べよう!

よーと<おーい!淑妃?

よーと<寝てるのか?とりあえず見たら一言だけお願いなー

端末を机におくとトントンと近頃、毎日鳴っているノック音が響く。

「どーぞ」

既に誰かは分かっていたので抵抗なく部屋へと通した。

「蓉斗さん、よろしいですか?」

「ど、どうしたの?」

非常に、この上なく申し訳無さそうな表情の纏委。
端から見てても可愛そうなくらいだ。

「実は…」

        

「来ないのかな…」

大事な、非常に大事な話があったが淑妃は中庭に顔を出さなかった。
もちろん、昼休みのはじめに淑妃の教室にも行ったがおらず昨日のメッセージにも既読がついただけで返信はなかった。

「でも…読んではいるんだよな。」

アプリを起動して、もう一度意志の疎通を図ろうか迷うが少なくとも読んでくれているということ。

「まぁ、あんまりしつこいのもどーかだしな。」

ため息をつき顔を上げるとちょうど纏委が手を振りながらこちらへと近づいてくる。

「蓉斗さ〜ん」

よく言えば陽気、悪く言えば少し間の抜けた声だ。

「どうした?」

「あっ、いえ、私がこんなことを言うのもなんですが…」

今日樹葉さんお休みだそうです…

「もちろん、蓉斗さんが聞いてないわけないと思ったのですがここに蓉斗さんが見えたので。」

「あ、あぁ、いや。それは分かっていたが、弁当なくて困っててさ。購買は戦争しているし。」

今日も弁当箱を律儀に二つ持っている纏委は少し嬉しそうに問いかけてくる。

「もしよかったらご一緒しませんか?」

ここぞという時だが大百足は目をそらしている。もし断られたらどうしようというありがちな考えからだ。

纏委からの情報で昼飯がないことが初めて分かったので予定が狂ってしまった今、恰好の誘いである。

「お、お願いできるか?」

「はい!!」

隣へと、控えめに蓉斗の斜め前だが、座り一つ大きい方の弁当箱を渡す。

「蓉斗さん、今日のことですが…」

「うん?」

包みをとり、箱を開けて鳥そぼろを手を着けようとしていた蓉斗も真剣に聞く。

「よ、よろしいんですか?」

「纏委には悪い事になるが、とりあえずは予定通りにさせてもらうよ。今無視したら勘当もんだしね。」

やっと一口ありつくと甘しょっぱく煮てあるそぼろとご飯に感謝する。

「ほ、本当にもうしわけ…」

「纏委のせいじゃない。俺が悪いんだ。」

煮え切らない俺がな。

「そんな事より、これうまいよ。」

淑妃が休みなら風か何かなのだろう。今夜のことを考えても仕方がないと割り切り話題を変える。

「本当ですか!?今日は蓉斗算に食べてもらえるか分からなかったのですが手を抜かなくて良かったです。」

本当に嬉しそうにしてくれる纏委を見て少し嗜虐心がわいてくる。
うーん、感心したような声を出し、次の質問で意地の悪いことをした。

「手を抜いてる時あるの?」

「あっ…それは秘密です。」

案の定、少し恥ずかしそうに俯くのでからかいたくなり追撃を加える。

「まぁ、纏委だって生きてるんだからな。完璧超人とまではいかないかぁ。」

「そ、そうですよ!私だって普通の女の子です!」

「料理ができて、愛想が良くて、可愛くて俺なんかにはもったいないくらいだ。」

ボッと音が鳴るくらい顔を赤くして両手で顔を隠す纏委を見て口角があがってしまう蓉斗だった。

        

「実は、明日の夜、うちの母とお義母様が婚約パーティーを開くと聞かなくて…」

「えっ?」

内容は簡単な催し物を学校の澪川家の経営するホールで立食式のパーティーをするらしい。

「全く…」

「ど、どうしましょう。」

考えるが避ける方法はない。
恐らく、体調や用事を理由にしてもどこかで絶対に開くことになる。

「…はぁ、仕方がないか。」

「や、やるんですか!?」

「纏委には悪いんだがな。」

「い、いえ私は良いんですが…」

明日淑妃にだけはしっかり説明しないとな。
昼飯の時で良いかな。

        

淑妃は布団の中で困っていた。

「どうしよう…」

結局休んでしまった。
今、纏委との関係が偶然にも確立されつつあるこの現状で登校しても蓉斗と話せない、触れ合えない境遇に自制が効くか心配であった。

今日はお昼どうしたんだろう。
何で、私がこんなに悩まなければいけないんだろう。
本当に…私のことが好きなのか。

「でも…万が一バレたらお母さん達にも迷惑かけちゃう…」

親や姉妹にまで迷惑はかけられない。

「はぁ…もう学校終わってる時間だなぁ。」

午後も6時をとっくにすぎている。一応具合が悪いと言うことで休んだがもう良くなったと言っても問題はないだろう。少しの罪悪感とこれからに対する不安感で本当に体調不良を起こしそうでもあった。

そんな中自室の外、扉の前で母親の声がする。

「淑妃、あんたに届けもんよ。」

何だろうと気になったので、まだ少し具合が悪そうな雰囲気を出して扉を開けた。

「はい」

「なにこれ?」

「さぁ?朝は郵便受けに入ってなかったわよ。」

一通の封筒だ。

ありがとうと、とりあえず受け取り部屋へとUターンした。
早速中身を見ようとハサミで丁寧に開ければそこには。

「わぁぁ!」

蓉斗と約束した遊園地のチケットが二枚。
そして短い文章の綴られた手紙。

『本当に割り切らなくてごめん。
でも俺ちゃんと決めてるから。淑妃が俺の一番だって事。だから、これ、お前が持っててくれ。楽しみにしてるーー蓉斗』

ジワッと涙が溢れそうになるのを堪えようとするが、それでも堪えきれない。
とにかく嬉しかった。

ピロリン

携帯端末のメッセージアプリがメッセージの通知音を景気良く鳴らす。

「蓉斗君かな!」

うきうきでロック画面を解きアプリを開く。蓉斗ではなく友人のようだ。
数少ない蓉斗との事を話している友人。

が、しかし、淑妃は愕然とした。

「なにこれ…?」

かなな<淑妃!起きてる!?ヤバいよ!

芝之江君と澪川さんが婚前パーティーしてる!

大勢の幸せそうな人々が写っている写真。
淑妃は酷く混乱した。

今、たった今蓉斗との繋がりを改めて感じられたのに。
手には確かに握られていた遊園地のチケットに軽く皺が寄る。

気持ち、考えを整理する前に淑妃は会場へと向かっていた。

        

「蓉斗よ!ズルくないかズルくないか?」

「何がだよ。」

クラスの友人達が纏委を指差し迫ってくる。

「何が?じゃねーよ。」

「可愛い彼女がいていいよなぁぁぁ。」

「そんなんじゃねーって。」

もちろん、誰にも言ってない分絡みがウザったくなるのは覚悟していたことだ。

「そんなんじゃないなら俺にくれって言う話だよぉ。」

なんでこいつは泣き目なんだろう。
肩を組んで本気で喜んでくれている者、彼女の友達紹介をせがんでくる者、グチグチと何か呪詛を振りまいている者。様々だが何だかんだで和やかな雰囲気である。
しばらく、談笑に花を咲かせる。

蓉斗としては嘘であることを隠しているため少しだけ胸が痛い。クラスの連中とその親が少しいるだけでそんなに人数はいないが後で誤解を解くには骨が折れそうだった。
だからこそ、今だけは勘づかれないためにも笑顔でいなければ。

しかし、時は来てしまった。
もう後には戻せない。それが時間の経過であり、誰にでもあり得るもっとも残酷な現実の真理だ。

『それではこれより、纏委様のご友人によるスピーチをお聞き下さい!』

スピーチ?
誰だ?そんな話聞いてないな。

纏委を探すがどこにも見あたらない。
おかしいな…さっきまで居たのに。

仕方がないとスピーチをするらしい人間が出てくる方へとを目をやる。
壇上に出てきた人影。それを見て驚くのは蓉斗だけであった。

「しと、ひ…?」

壇上の女はあたりを見渡す。誰かを捜しているようだ。しかし、蓉斗の思考は追いつかない。


なんで、ここにいる?
一番居てはマズいだろ。そのために今日会おうと連絡したのに…。

遂に淑妃は混乱する蓉斗を見つけた。
哀しげに目を細め、笑顔になる。
とびきりの作り笑顔に。
原稿らしいものを広げ軽やかな話始めた。

「本日は澪川纏委さんの友人代表として、この様なスピーチの機会を頂き誠にありがとうございます。ここからは呼び方を友人としてのもので


纏委は蓉斗君をずっと見てきました。彼女は蓉斗君が他の女性に靡かないかといつも相談してくれました。

会場で軽い笑いが起きる。

もちろん、そんな事もなく二人は着実に中を深めていたようです。
特に蓉斗君はお父様と口論等で揉めることはあったそうですがそれも纏委さんを第一に考えてのことだそうです。
私は、お二人がお似合いだと思います。素っ気ないけど彼女想いの蓉斗君に、一途な想いを素直に届ける纏委。
こんな二人はこの先、どんな困難も乗り越えていけると私は信じます。

完全に吹っ切れた顔で纏委、蓉斗の順に顔を見て、最後の言葉をゆっくりと読み上げた。

纏委さん、そして…蓉斗君。この度は本当におめでとうございます!
 
        

私、澪川纏委は蓉斗さんを愛しています。今すぐ、“食べて”私だけのモノにしてしまいたいです。
しかし、蓉斗さんには虫がくっついていました。

樹葉淑妃

別に彼女が悪いわけではありません。彼、蓉斗さんを見初め男性として愛したのですから。
ただ、私がいる以上それを見過ごすわけにはいけませんでした。

「だって私だけの蓉斗さんですから。」

幼少期、初めて会った根暗な私に蓉斗さんは言いました。

僕達結婚するんだって。愛いお嫁さん貰えて僕嬉しいよ!

あれからでした。私は蓉斗さんと一緒になるために、彼の求める女性になるために努力をしました。

高校三年生で樹葉さんが居たときは驚きはしましたが怒りはありませんでした。

蓉斗さんも男を磨くために女性とコミュニケーションをとることは重要です。
蓉斗さんは心の底では私のことを愛して下さっているのですから。

しかし、人間思いこみというものもあります。
それを現実に戻して差し上げるのが私の使命でした。

ーーーーーーーーーーー

「蓉斗さんは悪くないんです…」

「そーなの?」

「私が…こうやって他の人に詮索されるのが苦手なので…」

「あっ、ごめんね!」

「いえ、宮戸さんと鞍西さんは優しいので大丈夫みたいです。」

ある意味本心だ。

「そう?そんな感じで言われると嬉しいな〜」

「でも、あたし放課後の教室で8組の淑妃と芝之江が一緒に居るところみたんだけど…」

思わぬ展開だった。今、私が言おうとしたことを言ってくれた。
この二人なら大事にしてくれると踏んでのこと。

「そ、そうなんですか!?」

悲しい表情を見せれば二人は困惑して、宮戸の方が何かを決心した顔になる。

ーーーーーーーーーーー

さて、ここら辺で…。
落ち込んだ顔をつくりリビングへと入る。

「た、ただいま帰りました。お父様。」

「おかえり、纏委さん。」

いつも鞄に入れている弁当箱をわざと手に持ってます。
青の包みと赤の包みの両方を。

「どうしたんだい?」

「な、何がでしょう?」

さっと弁当箱を隠しました。

「ん?お弁当がどうかしたのかな?」

「い、いえ!何も!」

もちろん、おかしく思ったお父様に問われます。弁当箱を渡すことになり、経緯を話します。

「わ、私の腕が及ばずよ蓉斗さんに食べてもらえないだけですから…」

「…それは今日だけかい?」

無言で答えました。

ーーーーーーーーーーー

「どうやら…樹葉さんと何かあるみたいなんです…」

再び宮戸さんと鞍西さんに仕込みをしましょう。

「やっぱり…」

「纏委ちゃん、何してるとか聞いた?」

「いえ…恐ろしくて聞けません…」

メソメソしてれば二人は私を見かねて案を練ってくれます。
本当にありがたい。

「じゃあさ、私が問いただしてあげる!」

「それで途中に纏委ちゃんが来て、教えてくれた事実を言うの。」 

あくまでも許嫁は纏委であり、公言していないのは纏委のためを想ってのことだと。
淑妃と何かあれば態度で分かるだろう。

正直、この二人の頭の回り方が一番の誤算であった。
嬉しい誤算の範囲だが。

「お、お願いできますか?」

「「もちろんっ!」」

ーーーーーーーーーーー

「はい、ではお母様、お願いします。」

『明後日のPTA会議でそれとなく蓉斗さんと付き合うのはマズいという噂を流せばいいのですわね?』

「はい、そうです。あとは…」

『婚約パーティーを形だけで良いからでしょう?分かりましたわ。』

「ありがとうございます。」

『…ふふっ。』

「な、何か可笑しかったですか?」

『いえ、わたくしもあの人と結ばれるために奔走したものですよ。』

母も大百足だ。現代において本来の性質である凶暴性の解放は、もちろん無くしては無いが、法治国家では良くない結果を招く可能性がゼロではない。
そんな中で事実を積み上げ周りから固めていく考え方は母から受け継いだもの。

「私は間違っているのでしょうか?」

『魔物娘であることを逃げ道にすれば間違ってないという答えになるでしょう。』

でも、そんな事は超越してあなたが悔いの無いようにするのですよ。それが少し残酷であっても。

ーーーーーーーーーーー

友人からのメッセージを見て、淑妃はすぐに行動した。
財布とスマホだけを持ってタクシーに飛び乗り、幸い近かったホールへと向かう。

「お釣りはいりません!」

まさか、創作だけの台詞かと思っていたものを自分が言うことになるとは。などと思う暇もなく走った。

「はぁはぁ…」

なぜか警備員はおらず、すぐに入れた。
すると見えてきたのは大きな人影、いや、大百足の陰。

「樹葉さん…」

「澪川さん!」

息も切れ切れに纏委へと質問する。

「蓉斗君は!?」

「こちらです。」

やけに冷静に案内をしてくれる纏委を疑えないくらい混乱が拭えない淑妃はただただ着いていくのみだ。
しかし、やっとのことで気づく。

「こっちって…裏側?」

言葉を略さずに言うとステージの裏側である。
決して大きくはないが幼稚園児のお遊戯を披露するような規模でないことは確かだ。

「そうです、樹葉さん。あれを見て下さい。」

「蓉斗君!」

…えっ?
なんで、あんなに嬉しそうに?

「樹葉さんには大変申し上げにくいんですが…」

蓉斗さんは私と結ばれることを望んでいます。

「だからこのパーティーにも出席してるわけですし、あの様に楽しく談笑されてます。」

「どうして?」

なんで?なんで?なんで?
ポケットをまさぐれば例のチケットがくしゃけしゃな姿を表す。

「蓉斗君は!私と一緒!」

「…そうですよね。それを進言したのは私です。」

遊園地に、二人きりで遊びに行くと言えば彼女もふっきれてくれるのではないかと。

「吹っ切れる?どうゆうことよ!!」

怒りにかませた声だが広めのホール。などその裏方からの声など誰にも届かない。

「困りましたよ…。引くに引けなくなったから助けてくれと言ったのは蓉斗さんでした。」

「…」

「だから、やんわりとあなたに伝えてきたつもりでしたが…」

弁当のこと、周りの友達や家族にまで関係が知れ分かっていたこと、クラス内での暴露。

このパーティー。

「う…そ…」

崩れ落ちそうな淑妃に纏委は優しく語りかける。

「もちろん、樹葉さんにも選択権はあります。」

纏委の差し出す手には封筒が二枚。

「両方とも原稿になります。」

片一方は今、この場で蓉斗さんと結ばれるのは私だと宣言し逃避行をねだると言うもの。もう一方は私達のことを受け入れ祝福し歓迎の限りを尽くす言葉を並べ立てたもの。

「選ぶのはあなたです。」

淑妃は纏委が説明を終えると同時に封筒を両方の取り上げ中身を確認すると迷いなく逃避行を選んだ。

「…良いんです。私は良いんです。が、情けと言いますか…。あなたが心配です。」

「どういうことよ!」

苛立ちが押さえられずに今にも纏委2飛びかかりそうだ。
ゆっくりと諭すような口調の纏委の話を我慢が利く限り堪えて耳を傾ける。

「今日ここに集まってくれた皆さんは私、澪川纏委と芝之江蓉斗さんを祝福するために参られました。」
 
確かにそうだ。
蓉斗の周りの人間も楽しそうであったし。時々纏委を呼ぶ声がなんとなくだが聞こえてくる。

「ここを納めたとしてあなただけではなく、その家族の方々は大丈夫なのでしょうか?」

母が言っていた。
村八分を受けたら近所との挨拶もままならなくなる。

「何より…ここ数日の蓉斗さんの動向を理解した上でもあなたを選ぶと思われますか?」

ハッとする。

今の蓉斗は淑妃が信じた蓉斗なのだろうか。陰気で弱気なイメージしか受けなかった彼女、纏委のこの余裕と自信は。もし蓉斗に拒絶された場合…味方はいなくなる。先の二つの出来事が最悪の結果を招くであろう。

「…」

完全に止まってしまった。今すぐ、壇上に上がり蓉斗に問いかけたい。
選ばれるのは私だ。

YES、うまく行ったとして蓉斗と淑妃以外はほぼ敵。淑妃の家族だってどうなるか分からない。

NO、うまく行かなければ全員敵。最悪親にすら見放されるかも知れない。

「…ぅ…うぅ…」

微塵も自信が沸いてこなかった。
選ばれたとして考えればそれ以外を全て捨てても良いくらいの選択肢だと思える。
いや、それすら思い切れていない。
なのに、失敗すれば全てを失う。

「良いじゃないですか。」

纏委が甘言を紡ぐ。

「今は私に預けておくと考え、これからまた取り返せば…いえ取り返すなんて表現すら意味を持たないかも知れない。だって、蓉斗さんがあなたを選べば万事解決なのですから。」

そう、今はこの場を壊さずに今だけ流れに身を任せれば安全に確認できる。
最悪蓉斗の気持ちが淑妃の知らないモノに変化しきっていたとしても淑妃自身が傷つくだけで済むのだから。

「そ、そうよ。」

今、一番の解決策は目の前の恋敵から提案されたのだ。
しかし、リスクを取らずにどんな答えでも丸く納めるのはその方法が一番、いや、それしかなかった。

「今は、今だけだから…」

持っていた原稿をうち捨て、目の前に落ちていた原稿を拾い上げる。
そう、二人の祝福を述べる原稿を。

「いってらっしゃい。」

勝ち誇った纏委の笑みに淑妃は気づいていたのだろうか。
壇上にあがり淑妃は読み上げる。

自分の“本心”を。


ーーーーーーーーーーー

纏委宅。
客を無事に全て帰らせ、やりきった蓉斗と纏委の両親は祝杯といって飲みにでてしまった。

今は二人きり。

「蓉斗さん、大丈夫ですか?」

椅子に座った蓉斗は床を見つめるだけで憔悴しきっていた。理由が分からなかった。
恋人だと思っていた人が実はそれほど本気ではなかったのではないか。

「いや、そんなことは…」

「蓉斗さん!」

ビクッとすくみ顔を上げる。

「す、すみません、大きい声を出して。そ、それでも言っておきたいんです。」

何を?

決して声には出さない。表情から読み取れる内容だ。

「私、がいますよ。」

「…なに?」

「私が蓉斗さんの側を離れません!」

纏委は勢いよく抱きついてくる。何事かと思い蓉斗もはっきりと反応し始めた。

「どうしたんだよ!」

「離しません!」

纏委が僅かに震えている原因が掴み取れ無い。
大きな体であるが故に気の毒になり自分の方に置かれている頭を撫で始める。

私は…蓉斗さんから逃げません。

「!!!」

怒りが駆け抜ける。
しかし、ここぞと言うところでは纏委も引き下がらない。

「違います!淑妃さんを悪く言うつもりはありません!」

「うるさい!」

「誰だって!あの流れでは話を切り出せないと思います!」

良いか悪いか、淑妃に言ったことと事実としては全く同じである。

「誰もが敵に成り得る状況で、私たちの親の顔の利きを理解してる状況で。誰でも淑妃さんのような行動を取ると思います…」

つまり、俺は好きな人と一緒になれないのか?

「そ、そうなります…。で、でも!」

私が蓉斗さんのことをきっと幸せにしてみせます…

細かいところであれば毎日の弁当作り。いつ、蓉斗が欲するかも分からないのに毎日毎日、作り続けていた。
常に自信の感情、欲望よりも蓉斗の考えを第一にしてきた。



何より、好きな人がいると言っている自分を陰ながら愛してくれた。愛し続けてくれた。



「ま、纏委…」

「何ですか?」

密着から少しだけ離れお互いの顔が見られる位置にまで戻る。

「今更、虫がいいのは分かっているけど…」

「はい?」

黙って、しかし何となく何を言われるかの予想がついたのだろうか、少し笑顔だ。

「俺、君のこと好きになっても良いかな?」

途端に纏委の目は潤んでくる。もちろん、悲しみや寂しさの涙ではない。

「嬉しいです!本当に!」

また先ほどと同じような体制で、つまり密着してお互いの温もりを感じるが先程までとはその種類が違ったのであった。

        

「蓉斗さん…その」

「ん?なに?」

「当たってます…」

「えっ、あっ!」

すまん!
当たっていたモノは奇しくも淑妃より女性敵な体つきをしていた纏委に抱きつかれていては蓉斗のモノも主張を始めていた。

「良いんです。それより、私で興奮さてくれているという事が嬉しい…」

ズボンの上からサワサワと撫でられ体をぴくつかせてしまう。

「蓉斗さん、可愛いですよ。普段はあんなに凛々しいのに。」

纏委の手は止まらない。

「纏委待ってくれ、本当に。頼むから。」

「ダメです♪」

それでも止めようと声を上げかけるが纏委の方が一瞬早く、その下半身で体にぐるぐると巻きついた。

「ふふっ…蓉斗さんは私のモノです。」

はらりと、気づいたときには纏委は上裸になっている。

「やめっ!」

躊躇なく自分のふくよかな胸で蓉斗を包み込んだ。

「わっぷ!」

謂わば、顔をパイズリされてる状態だ。
苦しい、助けてくれという感想ともうこのまま死んでも良いかという欲求で頭が支配されかけた。

「蓉斗さんのために大きくなったんです。私のすべては蓉斗さんのために…」

纏委が、蓉斗が苦しそうなことを察して十数秒。
やっと解放された。

「纏委!やりすぎだ!」

両方の意味で天国が見えてしまったのでこれ以上強くはいえないがそれでも死んだ祖母に挨拶を出きるくらいには苦しかった。

「す、すみません…。でも蓉斗さんがやっと答えてくれたので、嬉しくて!


正直こんな無邪気な笑顔を見たことはなかった。ドキッとしてしまうギャップに押され少量の怒りは霧散する。

「これからですよ、いっぱい気持ちよくなって下さい!」

「ぃっ!!!!!!」

グサッと何かが足首を指した。さほど痛みはなかったがショックの方は大きく、患部を見てみれば纏委の顎肢であり、若干の恐怖を覚える。

「ま、纏委?」
 
「大丈夫です、すぐ気持ちよくなれますから。」

言われたとおり、その瞬間にはジワッと快感が体を駆け抜ける。

「なんだ、こりぇ」

すでに舌が廻っていない。とにかく快感が押し寄せ脱力してしまう。自分ではどうにもできない。
 
「〜♪」

鼻歌を歌いながら蓉斗の服を脱がせていく。下半身は自分で巻き付いているためとりあえず上だけ。

「蓉斗さんの指…」

いつの間にか恋人の指を取っていた纏委はそれを口へと放り込む。
ジュルジュルと淫猥な音を立て舐めたてた。
それだけではない。

指、手の平はもちろん、腕、肩とフレンチキスを続けていく。

「蓉斗さん、蓉斗さん、蓉斗さん…」

蓉斗のことを呼んでいるのは誰のためでもない自分のためだ。
こみ上げる感情が押さえきれずに自分が爆発してしまうのではないかと思うくらい蓉斗を想っていた。

蓉斗は半目で力が入っていない自分が貪られるのをただただ見る羽目になる。
しかし、それでも良いかと思えるくらいに心地よかった。

「それじゃ、蓉斗さん…」

キス。大百足にとって口づけは非常に大切なものだ。
唇同士が触れ合うまさにその瞬間。



「待ちなさいよ!!!!」

     
 
        


「蓉斗君…」

いつの間にか歩いていた。
意味もなく、ただ歩かなければ崩れてしまいそうだった。

なんで。
私はあの人が好きだっただけなのに。
あの人も私を…。

本当は纏委のことを?
今となっては分からない事。とにかく心が穴だらけだった。

「私が悪いのかな…」

分からない。
ただ、あるのは纏委が勝ち自分が負けたという現実。
頭をかきむしりたくなるが必死に堪える。

「…」

不思議と泣きはしなかった。
泣きたいとも思わなかった。
なぜなのか。

あんなにも、敗北を味あわされて…。
 
「最後に蓉斗君と話たのいつだっけ…」
 
思えば蓉斗の言葉は一切聞いてない。
聞いているのは自分への愛だけ。

「…?」

おかしい、何の意味があるんだ?
自分が二人の邪魔になるなら嫌悪を言葉にして追い払えば良いだけの話ではないか? 

何かがおかしい。
いや、そんな事はないか。

「蓉斗君笑ってたもんね。」

楽しそうに笑うホールでの姿が何よりの証拠ではないか。
自分に言い聞かせるように心で何度も繰り返すが。

いつの間にか。
そう、いつの間にか走っていた。
一言で良い。

自分をきっぱりを振ってもらう言葉を求めて。

実は纏委の家はそう遠くなく、また豪邸のため非常にわかりやすかった。

「ここ…」

呼び鈴を鳴らそうと家に近づくが声が聞こえる。

ぃっ!!!!!

「蓉斗君!?」

今のは間違いない。何かが起きている。
耳を澄まし、ドアに近づければ呻くような蓉斗の声。良く聞き取れないが、逆言えば呂律が回らないほど何かをされているということなのか?

「どうしよう…」

咄嗟に取っ手に手をかければノブがゆっくりと下に降りる。

そう、纏委、蓉斗の二人が家におり大きなイベントを終え浮かれた纏委の両親は鍵をかけ忘れてたのだ。

もう、迷わなかった。

思い切り中に入り、一瞬耳を澄ませば声の聞こえてくる方が分かる。
すぐにその部屋に向かい、その可能性の扉を開いた。

        

「樹葉さん!?なぜここに!?」

「そんな事より!あんた何やってんのよ!」

ぱっと見であればぐったりとした蓉斗を纏委がどうにかしようとしている図。
テンパっている淑妃に性行の二文字はなかった。

「蓉斗君を離して!!」

必死になって纏委の、大百足の体を剥がそうとするが。
所詮は人間の、しかも小娘の力である。魔物娘をどうすることも出来なかった。

「…はぁ、仕方ないですね。」

耳元で飛翔する見えない蠅を睨むような目で淑妃を見下すと足の先端を腹へと淑妃へと突き立てた。

そう、大百足の強力な毒を持つ顎肢を。

「いっ!!!!」

後ろに後ずさりしてへたり込んでしまった。

「全く…そこで私達の神聖な交わりを見てて下さい。」

邪魔者は排除したと言わんばかりに露骨な笑顔を蓉斗へと向けた。


毒に多少慣れた蓉斗が小さく悲鳴を上げるほど、ゾッとすると様な綺麗な笑顔だった。


そのままキス。

「んっ…」

人間のくぐもった声などかき消す二人分の吐息の交わり。
やっと、蓉斗を自分のものに出来という達成感が甘美な時間を生み出す。

しかし、二人はいきなり大きな力で剥がされた。

「きゃっ!!」

纏委はよろめき、蓉斗はもちろんその場に倒れ込む。

そのはずだった。
実際は“誰か”に支えられ床との衝突は避けられた。

「何!?」

見てみれば、そこには。

「しと、ひ?」

そこにいたのは大百足だった。

        

「蓉斗くぅん♪」

非常にねっとりとした淫らな声で愛しい男を呼ぶ。

「纏委なのか?」

「そうだよ。」

蓉斗に肩を貸しつつ、いつの間にか先程の纏委と同じ格好になる。

「なんだろうね、もう蓉斗君を離したくない…」 

「止めて!!!」

キス。
先程やっとの思いで纏委げ成し遂げたことをすぐにやってしまった。
すると淑妃の体はびくりと跳ね上がった。

な、なにこれ…?

大百足とは男性の唾液に以上反応を示す。快楽が量も度合いも倍増どころではなくなった。

「離れなさいよ!」

今度は纏委が淑妃と同じ事をした。
ぷはっと淑妃は蓉斗から離れるがその目はもう快感に支配されていた。

「なんで、あなた。大百足に」

改めて疑問を投げかけるがそれは淑妃の知るところではなかった。
普段、女性であれば絶対に受けないその毒。

通常であればもちろん、何の問題もなく男性と同じ様な効能を得るだけだ。
が、淑妃は何かが違った。
正確には言えないが、その蓉斗への想いが魔物娘をも凌ぐものであったからだろうか。
はたまた、単純に体質か。

「良いじゃん、そんな事。」

「樹葉さん…蓉斗さんは渡しません。」

「私も魔物娘になったことだし。そんなの、決着をどう決めるかなんて分かり切ってるでしょ。」

淑妃から引き離し纏委が大事そうに支えていた蓉斗を見る。

纏委は慌てて蓉斗に問いかけた。

「蓉斗さん!樹葉さんに引導を渡して下さい!」

「あっ…ん?」

俺はどっちを愛せばいいの?

大百足の毒に初めて犯されその思考までも弛緩してしまった蓉斗には極論どちらの大百足を愛するかなどどちらでも良かった。

愛してくれた者を愛す。
それだけだった。

        

「邪魔よ!どきなさい!」

「あなたこそ!」

魔物娘の中でも巨大な大百足。
その種族二人で蓉斗の股間に群がっていた。

「あっ…二人とも気持ちいいよ。」

そんな言葉が二人をさらにヒートアップさせる。
じゅるぐちゅと頭を口に含みエロティックな音を口元からたてている纏委。
懸命に舌を竿へと這わせている淑妃。

「よーとふぁん、わらひのほうがきもりいいでふよえ?」

「私の方が、チュッ、気持ちいいよね?」

それぞれが自分がテクニックで勝ってことを明言するように促す。

「はぁ…きもちい…」

ダメ男だった。
完全に弛緩、何もかもが緩みきっていた。

「ジュプ、っは、樹葉さん、もう舌が動いてないみたいですよ!疲れたならお帰りになって下さい!」

「レロ、纏委さんこそ、レル、何だか息が上がってますよ。休憩したら?」

一層、二人からの責めが執拗になり蓉斗自身も決壊が近い。

「射精そう!待って二人とも!」

「良いんですよ!蓉斗さん、私に出して下さい!」

「蓉斗君!私にいっぱいかけて!」

亀頭をジュルルルと吹たてられ、竿ははむはむと啄まれる。
そして、蓉斗の我慢は解かれた。

「射精る!!!」

ビュルルル、ビュクビュク
勢いよく白い邪心が吹き上がった。

「あっ!こんなに…」

「臭い、すっごいね。」

もろに浴びた二人はうっとりとした表情で息を整える。

「蓉斗さん、私ですよね!?」

「私だよね!」

すぐ我に返り、自分の方が上だという事を耳にしたかったが。


「…えっ?」

「蓉斗さん…」

慣れない毒、よく分からない状況。様々な事柄が相まったのだろう。
蓉斗は寝てしまっていた。

        

もう、どうにもならなかった。

その後、纏委の両親が帰ってくると電話があったため大百足二人で大喧嘩をしながら片付けをして難を逃れた…

そんな事はなく、もちろん淑妃が大百足化していることが大問題となる。

二人で知らぬ存ぜぬの一点張りだったが釈明はうまく行かず方々に何かとしこりを残す結果となった。

蓉斗は淑妃の変化を気にしてなく、むしろ纏委と淑妃の両方との距離感が近くなり満足であった。



「蓉斗さん、お弁当食べましょう!」

「蓉斗君!お弁当食べよう!」

「えと…」

今の日課はこれ。
とにかく何かにつけては纏委と淑妃が競い合っていた。

「纏委ちゃん、蓉斗君が困ってるでしょ!」

「良くおわかりに。さぁ、そちらへ捌けて下さい!」

ぐぬぬと顔を付き合わせる。

「元気だなぁ…」

男と二人の大百足。
とにかく慌ただしい三人組であった。
 
18/04/25 00:14更新 / J DER

■作者メッセージ
しょーもな(自覚

ホントすみません…。
知り合いに寝取りの設定だけ投げられ、エンドだけ考えろというところからスタートしまして。
しかもその設定も5,6年前に某掲示板に出てたSSのパクリとか言う。

話の構造は本当に軽くだけ設定として聞いたことに肉付けをして自作エンドなので最後の一瞬だけいつもの私のキャラらしい言動になってたかと思います。
ちなみに、原作?ではそのまま鬱エンドたったとか。


なぜ上げたのかと言われれば24000字にもなってせっかく書いたのに何か勿体なく感じたからです…。
本当に申し訳ないです。懺悔しながら次は自身の作品を上げたいと思います。
やっぱ、イチャラブしかないか…それでは。

宜しければ、以前の物もお読み頂けると幸いです。

では最後に今回ばかりは皆様の余暇のお供にならないことを願いましてー。

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33