読切小説
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30歳まで童貞を守らなくても魔法使いになる方法
フィクションでは『オカルト研究会』なんてものが学校にあったりする。
たいていの場合少人数の同好会で、その員数に反し専用の部屋をもっているものだ。
だが現実的に考えればそんなことはありえない。

まず教師の承認が下りない。
オカルトを健全な学生の趣味として認める学校なんて普通存在しないだろう。

その次には部屋の問題。
最近は少子化傾向とはいえ、全く使われずに余っている教室なんてそうそう無い。
もしあったとしても、より真っ当な部や同好会が獲得に走る。
『オカルト研究会』が彼らを押し退けて使用許可を得るのは難しいだろう。
他にも諸々の理由があるが、以上の二大理由により『オカルト研究会』が学内で活動するのは至難を極める。

そう、至難を極める…………はずなのだが。

「なーに言ってるんですか先輩。不可能を可能にするのが魔法ですよ?
 “至って難しい”程度の壁を越えられなくて、どこが魔法使いですか」
分かってませんねえ…と肩をすくめて笑うのは、自分の後輩にして『オカルト研究会』部長。
長い横髪を纏めた彼女は、魅了の魔法を垂れ流してるんじゃないかと思えるほど可愛い女の子だ。

彼女は“とある手段”で半ば物置と化していた空き教室を不法占拠した。
さらには私物を持ち込み、好き勝手に内装を変えている。
一応ここは私立高だが、彼女は理事長の孫やら何やらという特別な立場ではない。
(実際に理事長の孫だとしてもこんなことできるとは思えないけど)

後輩は細々とした物を収納した戸棚(私物)からロウソクを取り出す。
赤い色をしたそれを燭台に刺すと、机の上に置いてこちらへ差し出した。

「じゃあ先輩、これに火を点けてみてください」
彼女はそう言うが、着火道具の類はこの部屋には無い。
魔法を使って明かりをつけてみろということだ。

自分は人差し指をロウソクに向けて強く念じる。
燃えろー、燃えろーと。
だがしかし。

「やっぱり点きませんかあ……。まあ、あまり期待はしてませんでしたけど、どうです?
 魔力の流れは感じ取れました?」
彼女は明け透けに“魔力”と口に出す。自分はそれに渋い顔をして横に首を振る。

流れなんて全然分からないよ。本当に自分に魔力があるの?
魔法の存在を疑う気はないが、自分にも魔力があるという彼女のセリフは信じ難くなってきた。
「それは保証しますよ。私と先輩の間でちゃんと循環してますから」
そう言われても、全然進歩が無くて嫌になってきた……。
「先輩は感覚が鈍いみたいですからねー。もっと魔力量が増えれば、自覚できるかもしれません」
そう言ってついっ…と指を振ると、ロウソクの芯にポッと火が点る。
これはもちろん手品なんかじゃない。今彼女が使ったのは魔法。
この世界ではおとぎ話の中にしか出てこない神秘の業だ。





自分が彼女に出会ったのは、一年生が入学して一週間ほど経った頃。
運動系・文化系問わず、あらゆる部が新入部員を確保しようと躍起になる中、
新入生の証であるリボンを胸に付けた一人の後輩が勧誘活動をしていたのが目に留まったのだ。

「誰か私と活動しませんかー!? 一緒に神秘の世界へ旅立ちましょー!」
『オカルト研究会』と大きく書かれた手持ちの看板を掲げて声を張り上げる女子生徒。
新入生の身で新しい同好会を立ち上げる心意気は立派だと思うが、現実は残酷。
彼女が透明人間であるかのように、誰も見向きせず通り過ぎていく。

「危ないことなんて何もありませーん! 楽しい毎日になりますよー!」 
後輩は頑張って宣伝するが誰も興味を示さない。
それでも暗い面持ちにならず彼女は勧誘を続ける。
ああまで頑張れるなんて、よっぽど好きなんだろうな。
帰宅部所属で部活動への情熱ゼロの自分にはとても真似できない。

自分はしばらく彼女を眺め続けていたが、あまりのシカトっぷりに可哀想になってきた。
悪い癖だと分かってはいるのだが、自分は誰にも相手にされず放置されている人を見ると構ってやりたくなるのだ。
そして今回もその悪癖が発動。腰かけていた中庭のベンチを立ち、看板を持った彼女へ声かけに向かってしまった。

「私と一緒に魔法の修行をしませんかー!? 別に辛くは―――」
こんにちは。調子はどうですか?
調子も何も見ていれば分かるのだが、口頭で訊くのが礼儀だろう。
初めて声をかけられた後輩は驚いたように目を見開くと、にっこり笑った。

「調子は上々ですねー。さっそく声をかけてもらえましたから」
相手してもらえたことがよほど嬉しいのか、後輩はにこにこ顔で言う。
遠目にも可愛らしい子だと思っていたが、間近で見たその笑顔は遠距離の比ではなかった。
この可愛さをフルに活用すれば、男子部員ですぐ大所帯になるんじゃなかろうか?
まあ、自分はそこまでして仲良くなりたいとは思わないから入らないけど。

君、新入生だよね。入ったばかりなのに、よく自分で同好会作ろうなんて思ったね。
「そんなの当然です。無いなら自分で作らないと!」
グッと拳を握って力説する後輩。ホントたいした行動力だ。

看板には『オカルト研究会』なんて書いてあるけど、具体的に何するの?
正直な所“オカルト”なんて言われても自分には怪談話ぐらいしか思いつかない。
オカルトの内容を訊ねられた後輩は「よくぞ訊いてくれました!」と言わんばかりの顔で説明する。
「一口にオカルトと言っても内容は千差万別なんですよ。
 血を流すだの、生贄捧げるだのといったイメージを持ってる人は多いんですけど、
 それをするのは本当に極一部の過激な考えの持ち主だけです。
 私が立ちあげた『オカルト研究会』の目的はただ一つ」
後輩は一旦言葉を切り、見栄を切る。
「愛する人と二人仲良く魔法の腕前をあげていくことです!」
キリッという文字が目に浮かびそうなぐらいにキメる後輩。
でもその活動内容は部活・同好会としてどうなんだろうか。

「まあ、そういうわけで、よろしくお願いしますね先輩」
後輩は決め顔を崩して微笑むと、こちらの手を握ってくる。
いや、自分は入部するなんて一言も言ってないんだけど……。

自分は入部希望者ではなく、同情心でただ声をかけただけだ。
ぬか喜びさせることになるが“入部する気はない”と断って、すぐ手を解くべきだろう。
しかし、その姿や声には強く惹かれるものがあり、
自分は口を閉ざしたまま彼女の柔らかい手を堪能してしまう。
そして彼女はその沈黙を躊躇いと受け取ったのか、安心させるように明るい声で話す。

「大丈夫ですって。あなたなら何の心配もいりませんよ。
 だって―――こんなにいる人たちの中から、私に声をかけてくれたんですもの!」
後輩は繋いでいた手を離し、バッと両腕を広げて中庭全体を示す。
昼休みの終わりが近づいているにも拘らず、生徒で溢れている中庭を。

「自慢じゃないですけど、男子生徒が誰一人私を見ないことを不思議に感じませんか?
 おまじない好きの女子が誰一人声をかけない事をおかしいと思いませんか?」
そう言うと後輩は首を傾けて口元をニヤッとさせる。

……言われてみると、これは確かに奇妙だ。
これほど可愛い新入生、軽い男子生徒なら冗談半分でも話しかけるぐらいはするだろう。
女子にしたってこれほどの人数がいれば、興味を持つ者が一人や二人いても良いはず。
だというのに自分が話しかけるまで彼女は誰にも相手にされていなかった。

一体どういうことなんだ? と自分は後輩に訊ねる。
すると人差し指を立てて彼女は言った。
「実は中庭に魔法をかけてあったんですよ。
 “私と相性の良い男性しか認識できない”っていう魔法を」
彼女はそう言ってニコリと笑う。
……今までの人生経験からして考え難いことだが、もしかして口説かれてるのか?

「えー、ズバリ言っちゃうとそうです。口説いてます。愛の告白です。
 私と一緒に『オカルト研究会』に入って、イチャイチャしながら魔法の修行しません?」
こんな人が多い所でなに言い出すんだよ…!? と自分は焦るが周りは誰も気にしない。
本当に魔法がかかっているようで、不気味でさえある。

「いや、本当に魔法ですから」
至極真面目に「これは魔法なんですよ」と口にする後輩。
だが口先だけの言葉で信じられるわけがない。

……本当に魔法があるっていうんなら、何か証拠を見せてよ。
気のせいやトリックで言い逃れできない強烈なヤツをさ。
「いいですよ。じゃあ、それを見せたら『オカルト研究会』に入ってくれます?」
それは難しいですね…と渋ることを予想したのに、後輩はあっさり了承する。
常識で考えれば、馬鹿馬鹿しい事この上ないが、
ここまで自信満々な態度をとられると“もしかして…”という気にもなってしまう。
まあ、そんな風に考える時点で自分も結構おめでたい頭なんだろうけどさ。

いいよ。魔法が本当にあると納得できたら入部しても。
後輩はその返答に頷くと、ボソボソッと聞いたことのない言葉を呟いた。
その途端、右足首をギュッと何かが掴む。
えっ? と足元に目を向けると――――。

う……うわぁぁっ!
自分は何年振りかも分からない本気の悲鳴をあげた。
足首を掴んでいる何か。それはむき出しの土から生えた黒い手だったのだ。

なっ、何なんだよこれ!
足を振り動かして黒い手を払おうするが無駄。
強い力で握る手は、根を張った様に地に固定されびくともしない。

離れろ、離れろ、離れろよっ!
半ばパニック状態で地団太を踏むようにもがく自分。
それでも手は離れず、周囲の人間も騒いでる自分を全く見ようとしない。

「どうです先輩? 魔法を信じてくれました?」
分かった、信じるよ! 信じるからコレをなんとかしてくれ!
「はい、分かりました。すぐ戻しますから落ち着いてくださいねー」
慌てず騒がずボソッとまた何かを呟く後輩。
するとあれだけガッチリ掴んでいた黒い手が、ただの土になってボロっと崩れ落ちた。
自分は胸をなでおろしてホッと一息をつく。

「初めての神秘体験はどうでした? なんてことない魔法ですけど、結構驚いたでしょう?」
ああ、驚いたよ。死ぬほど驚いた。
証拠を見せろと言ったのは自分だが、まさかホラーチックな魔法を使うとは……。
彼女は案外根に持つタイプなのかもしれないと脳内にメモする自分。

「じゃあ先輩、これにサインを――――あら?」
彼女が何かを取り出そうとスカートのポケットに手を入れた時。

キーンコーンカーンコーン。

スピーカーから昼休み終了の予鈴が全校舎に響き渡った。
「……残念です。もう昼休みが終わりとは」
心残りな顔をしてポケットから手を抜く後輩。
周りを見渡せば、他の勧誘員たちも午後の授業に向けて看板などを片付けている。
次に中庭が賑わうのは放課後になってからだろう。

「私も次の授業があるので帰らせてもらいますね。放課後、またここで会いましょう?」
そう言ってチュッと投げキッスをし、後輩は足早に去っていった。



放課後の勧誘はまさにカオス。
増員した部や昼休みには勧誘しなかった部までやってきて中庭は大混雑だ。
新入生は引っ切り無しにビラを渡され、声をかけられる。
中には気弱そうな奴の手を引っ張って、強引に連れて行こうとする者までいる始末。
まあ、あまりに強引な勧誘は教師に止められて注意されているけど。

自分はごった返す人混みの中をかき分けて、昼休みに分かれた場所まで歩く。
すると先に来ていた後輩がこちらを見つけ「こっちですよー」と手を振った。

悪いね、待たせた。
「いえいえ、2,3分程度だからたいしたことはありませんよ。
 それじゃあ一緒に来てください。部室に案内しますから」
後輩はそう言うとこちらの手を取って校舎内へと進む。
しかし、作ったばかりの同好会に部室なんてあるのか?

「ありますよー。空き教室を一つ確保してありますから」
……先生の許可は?
「そんなの要りません。魔法でちょいちょい…ですっ!」
手を引いて一階の廊下を歩く彼女は笑顔で振り向き、力強く答える。
自分は風紀委員ではないが、魔法の悪用はほどほどにしてもらいたい。

「分かってますって。イチャイチャできる場所を確保すれば、後は何もしませんよ」
イチャイチャって……魔法の修行するんじゃないのかよ。
「魔法にはイチャつくことも重要なんですよ。恋人と愛し合うほど―――っと、ここです」
後輩が言葉を切って足を止めたのは、北校舎一階西端にある普通教室。
あまり近寄る場所ではないので、うっすらとしか憶えていないが、
ここは不使用のイスと机で半分物置と化している部屋だったはず。

後輩はこちらの手を離し、カタカタとローラーの音を立てて引き戸を開く。
そして中へ踏み込むとクルリとこちらに向き直り、深く頭を下げた。

「『オカルト研究会』へようこそ。あなたを心の底から歓迎いたします」

道中の軽い声から一転、年齢不詳の魔女のように重く平坦に告げる後輩。
その声の変わり様に、自分は思わず息を飲む。
彼女はその反応を見ると満足げに笑い、また普段通りの声で喋り出した。

「さあさあ、どうぞ入ってください。
 あまり掃除してないから少しほこりっぽいですけど、そう酷くないと思いますよ」
トントンッと跳ねるように部屋の奥へ進み、手招きする後輩。
ご招待に預かり、自分も教室の中へ入る。

初めて足を踏み入れた空き教室。
その中は黒板側に詰められた机とイスで面積の半分ほどが占められていた。
それでも部室棟にある運動部の部屋よりずっと広いけど。

「それじゃあ先輩、この入部届にサインしてください」
後輩は机の一つを空きスペースに移動させ、その上にコピー用紙を広げる。
学校側に承認されているのかも疑わしい同好会に入部届が必要なのか疑問ではあるが、彼女がそれを求めるなら書くとしよう。

えーと、日付…は今日でいいよな。
部活名…はオカルト研究会、と。
顧問名…顧問なんているのか?

「あ、そこは空欄でいいです。別に提出するわけじゃないですから」
やっぱり出さないのか。……記入する意味が全く無くね?
「まあ、ほとんど無いですね。でも、こういうのは形ですからお願いします」
そういうものかね…と自分は頷き、再びボールペンを動かす。

氏名、生年月日、学年、クラス、出席番号、保護者氏名、担任名……よし、終わり。
書ける所は全て文字で埋めて、入部届は完成。
はいよ、と書き上げた紙を後輩に渡す。

「はい、確かに受け取りました。
 これであなたは正式に『オカルト研究会』の一員として認められます。
 楽しく仲良く、魔法の修行をしましょうね!」
彼女は入部届を受け取ると、にっこり笑いカバンに仕舞った。

それで『オカルト研究会』に入部したわけだけど、一体何したらいいの?
魔法の修行と言われても、イマイチ想像がつかない。
「先輩は全くの初心者ですから、とりあえず私とイチャついてればOKです。
 しばらくの間は特別な事をする必要はありませんね」
それさっきも言ってたけど、なんでイチャつくのが修行になるのよ。
「んー、それについてはなんと説明したらいいか……。
 魔法についての話にもなるんですけど、いいですか?」
一から解説か……。まあ自分は全くの初心者なんだし、その方が良いだろう。

いいよ。少しくらい長くても構わないから、魔法が何かってところから教えて。
「はい、それでは説明します」
コホンと咳払いすると、後輩は声のトーンを変えて解説を始める。
「まず、魔法というのは魔力を扱う技術のことです。
 一口に魔力と言っても、強度や容量など細かい部分はあるんですがそれは省略します」
いきなり省略かい。
「初心者に重要な部分じゃないですから。ともあれ、魔法を使うには魔力が必要になります。
 ここで言う魔力というのは、生物が体内に保有するもののことです」
体内に保有する魔力……RPGのMPみたいなもの?
「それは結構違うんですが……まあ今はその理解でもかまいません。
 魔法は体内の魔力を消費して様々な現象を起こすのです。
 よって先輩のように魔力がない人間は、どれほど集中して呪文を唱えても何も起きません」
えっ!? 魔力無いの自分!?
「残念ですがありませんね。もちろん生存に不都合がない程度にはありますが、
 魔法に回すような余剰魔力は一切ありません。今のまま無理に使おうとすると気絶します」
魔力無しと言われてちょっとショック。
でも、小さい頃に考案したオリジナル最強魔法が発動しなかった理由には納得できた。
「そう落ちこまないでください。修行すればちゃんと使えるようになりますから、ね?」
期待外れでガックリきた自分。後輩は力の抜けた両手をそっと握って慰めの言葉をかけてくれた。
彼女の手の暖かさと優しさが心に沁み入る。

…いや、たいしたショックじゃないから心配しないで。
それで、どうしてイチャつきで魔力ゼロの自分が魔法を使えるようになるの?
「それは私の魔力で先輩の体質を改善するからです」
体質を改善?
「ええ。まず交わりを通じて私の魔力を先輩に注ぎ込みます。
 そうすると徐々に先輩の体質が変わって、余剰魔力を生成できるようになるんですよ」
へー、交わりで魔力を……交わり!?
「はい、交わりです。先輩にはセックスと言った方が分かりやすいですかね?」
何でもないようにセックスと口にする後輩。
しかし童貞であるところの自分はその言葉を平然と受け止めることはできない。

ちょっと待って。自分たち昼休みに出会ったばかりだよね?
「そうですけど、それが何か?」
30分ぐらい話しただけなのに、そんなんでヤるの?
「愛に時間なんて関係ないですよ。三分もあれば充分です」
なにそのインスタントな愛。
「実を言うと一目惚れなんで、三分も要らなかったんですけどね」
いくらなんでも早すぎ。瞬間湯沸かし器じゃないんだからさあ。
「それだけ先輩がステキってことですよ。いいじゃないですか。
 女の子と気持ち良いことしながら、魔法が使えるようになるんですから……」
後輩は右手を伸ばしてこちらの左頬に触れ、クスッと忍び笑いをする。
ほんの一ヶ月前まで中学生だったとは思えない妖しい仕草。
その動作に自分の心臓はドキリと跳ねた。

「改めて言いますけど、私は先輩が好きです。声をかけてくれた時に一目惚れしました。
 魔法の修行を抜きにしても、あなたと抱き合って、キスして、セックスしたいんです。
 私は己の全てをもってあなたを愛し続けます。どうでしょう、私を愛してもらえませんか?」
映画のハイライトシーンのように、重く熱を籠めた言葉で愛を告白する後輩。
何故そこまで想えるのかは分からないが、その言葉の中にある真剣さは本物だと確信できる。
そして自分はこれほどの深くて重い愛を撥ね退けられるほどの理由を持っていなかった。

……分かったよ。今すぐは難しいかもしれないけど、ちゃんと君を愛するから。
“好き”は簡単に言えるのに“愛”という言葉を口にするのは恥ずかしい。
彼女はよくこんな言葉を連発できるものだ。

「ありがとうございます。愛してますよ、先輩……」
囁くように細い声で言って頬から首筋をなでる後輩。
敏感な首に指が触れるとゾクッと快感の鳥肌が立ち、微かに肩が上がる。
その反応を見て彼女は笑みの形に目を細めた。

「では、話の続きを…と言いたいところですが、どうします?
 もう修行に移っちゃいますか?」
修行か……一応訊くけど、隠ぺい用の魔法とか使えるよね?
この空き教室付近はほとんど人が来ないが、万が一の可能性もある。
それに窓ガラスは透明で外から丸見えだし、音が漏れるのも避けたい。

「大丈夫ですよ。この教室に目を付けたときに人払いの魔法をかけておきましたから。
 私たちがいる間は用があっても入れませんし、窓の外から見ても無人無音の教室です」
抜かりはありません! と自慢げに後輩は鼻を鳴らす。
そこまで用意周到なら……いいか。

ええと…じゃあ、よろしくお願いします。
「こちらこそ、よろしくお願いしますねー」
後輩はそう返すと、プレザーのボタンを一つ、二つと外し腕を抜いて床へ放る。
プラスチックのボタンが木の床と衝突し、カチッと軽い音を立てた。
次にYシャツの襟元へ手を伸ばし、プチッ、プチッと白いボタンを外していく。
はだけた前面から見えるのは、控えめな胸を包む白色のブラと滑らかそうな素肌。
変なフェチは無いつもりだが、鳩尾からへそにかけてのラインがとても美しくて目を引いた。
彼女はスカートに手をかけパサッと落とす。はいているショーツはブラとお揃いの白。
下着にYシャツという、教師に見られたらもう言い逃れできない姿になったところで、後輩は数歩離れる。
そしてシャツの袖ボタンを外し、細くて白い両腕を抜き出すと彼女は口を開いた。

「先輩はこれどうします? 脱いだ方が良いですか? それとも履いたまま?」
後輩はトントンとつま先で床を叩き、靴下をつまむ。
別に履いていても困らないが、足元だけ布ありというのはアンバランスな感じもする。
どちらかと言えば無い方が好きだ。

「なら脱ぎますね。産まれたままの私の姿、よく見てください……」
膝を上げて片足ずつ靴下を脱ぐと、きちんと爪の切られた綺麗な足指がお目見え。
ほこりっぽい床の上に素足で立ち、背中に手を回す。
フックを外す微かな音が聞こえ、胸を覆う布が取り外された。
やや薄めではあるが、とても形の整った乳房。
それを目に捉えた途端、男性器に流れ込む血流が増え、もぞっ…とパンツの下で蠢いた。

「あ、先輩のおちんちん反応しましたね。私のおっぱい見て興奮しちゃったんですか?」
(いろんな意味で)後輩がいやらしく笑い胸を握る。
「どうです? あんまり大きくないですけど、柔らさはそれなりですよ?
 ほら、こんなにフニフニして、形が変わっちゃうんですから」
そう言って二つの乳房をこねり歪ませる後輩。
明らかに欲情を煽ることが目的の仕草に、自分の股間は傍から分かるほど膨らむ。
彼女はそれをチラリと見るとショーツに手をかけた。

「これで最後です。ちゃんと見てくださいね、私の体……」
引っかけた指を下へずらし、スルッと小さな布を降ろす後輩。
股間の茂みが姿を現わし、布との間に透明な糸が引かれる。
そして右足…左足…と持ち上げて両足を抜くと、役に立たなくなった布から指を離し床に捨てた。

「さあ、先輩も裸になってください。恥ずかしいから自分は着たまま…なんて許しませんよ?」
身体を隠そうとするそぶりを欠片も見せず後輩は言う。

自分たち以外には誰もいない静かな教室。
窓から差し込む光は夕日と言うにはまだ白く明るい。
その光に照らされた彼女はとても美しく、まるで非現実のようだ。
多少は残っていた恥ずかしさも、その光景に溶けて消えてしまう。
自分は彼女の言葉に従い、ブレザーのボタンに手をかけ服を脱ぐ。
Yシャツ、ズボン、肌着、そしてパンツまで。

「ああ…先輩のおちんちん、そんなに大きくなっちゃって……。
 早く私の中に入りたいんですね……」
初めて他人の目にさらす勃起した男性器。
それを彼女は念願の美術品であるかのように見とれる。

「それじゃあ先輩……セックス、しましょう?」
薄汚れた木張りの床。後輩はそこにペタンと尻をつけ、背を倒す。
そして膝を立て股を開き、じわっ…と濡れた茂みと膣口をこちらに見せつけた。
「先輩のおちんちん、ここに入れてください……」
彼女は期待を顔に浮かべ、今か今かと待つ。
自分は男性器を片手で掴み、穴の入口へと近づける。

……ついに童貞でなくなる時がきた。
それもこんなに可愛くて、自分を愛してくれる女の子を相手に。
別に童貞であることにコンプレックスを持っていたわけではないが、
彼女で初体験できることをとても幸福に思う。
自分は男性器の先端を濡れた肉に触れさせて口を開いた。

……さっきの今で言うのもなんだけどさ。
「なんです? 止まってないで早く―――」
君が初めての相手でとても嬉しいよ。もう好きになってきた。
「えっ? そうなんですか? もう私を好きに……」
裸になっても恥ずかしがらなかった彼女。それが今、頬を紅く染めて視線をさまよわせる。
その様子にさらなる可愛さを感じながら、自分は腰を進めた。

「あっ、先輩っ…!」
想像していた以上に熱くて柔らかい女性の膣肉。
それが男性器を包み、ぬめった粘膜との摩擦で快感を与える。
自分は呼吸を止めることでなんとか射精を堪えた。
「あ、あ、先輩の、おちんちん…が、入って……くるっ!
 あはっ…! あなたの、初めての女に…なっちゃった……っ!」
童貞を奪えたことが嬉しいのか、彼女はかすれた声で喜ぶ。
「もっと、入ってください……。私のまんこなら…全部、飲み込めますから…っ!」
卑猥な単語を口にして深い挿入を求める後輩。
自分はそれに応え、根元まで一気に押し込む。
「んくっ…! は、入っちゃいましたね……、ずっぽり…って。
 まんこの中が、少しきついです……」
彼女も快感を堪えているのか、やや硬い笑みを浮かべる。
そして右手を上げ、男性器を飲み込んだ下腹部をその指でなぞった。
「おちんちんの血管で心臓がドクドクいってるのが分かりますよ……。
 さ、私のまんこで好きなだけおちんちんをシゴいてください。
 私はあなたが相手なら、何をされても気持ち良いんですからね?」
体を好きにしていい、遠慮するなと言う後輩。
その御言葉に甘え、自分は彼女の膝を押さえて腰を動かし始める。

自慰とは違い、女性とのセックスは思ったほど速度が速くなかった。
手を動かすのと腰全体を動かすのでは、体力への負担が違いすぎる。
だが動きが遅いからといって、快楽の度合いが低いなんてことはない。

「先輩っ! 先輩のおちんちんで、私のまんこ広がってますよっ!
 もっと…もっと、グチュグチュして! 私の穴をあなた専用にしてくださいっ!」
喘ぎや嬌声を吐き出す唇。全身にジットリかいた汗とそこから発散される香り。
可愛らしい顔にスラリと整った肢体。淫語を矢継ぎ早に繰り出す好色で愛に満ちた精神。
速度など比較対象にならないほど多数の要素で、彼女は快楽を与えてくれる。
そして今その快楽が臨界を越えようとしている。

「ああ、分かります…! 私の中であなたがどんどん硬くなってるっ…!
 もうイきそうなんですね…! おちんちんから精液出そうなんですね!?」
口端から透明なよだれを垂らしながら喋る後輩。
自分はジワ…ジワ…と男性器の中を昇ってくる射精感に、コクコク頷くことしかできない。

「んっ……もう、いいですよっ…! 私もイきますからっ…! 
 あなたの精液、中にくださいっ…! まんこの中…真っ白にしてぇっ!」 
後輩が背をのけぞらせブルッ…と身を震わせる。
膣がキュッと締め付け、放出しかかっていた精液を一気に絞り出した。
「あっ、あぁぁっ! 精液っ! 生おちんちんから出てるっ!
 すっ…すごいっ! まんこの中ドロドロにされるの、気持ち良いっ!」
年頃の男性として、自分もそれなりの頻度で自慰を行っている。
だから、そう溜まっているはずがないのに全く射精が止まらない。
まるでこの先一年分の精液を一度に放出しているよう。
「あははっ! なんですかこの量! 子宮に溜まってますよっ!? 
 こんなに出るなんて、やっぱり相性最高ですねっ!
 もうこのまま孕ませちゃってくださいよ! デキたらちゃーんと産んであげますからっ!」
冷静な状態なら血の気が引いたであろう後輩の言葉。
しかし射精の快感が止まらない自分には右耳から左耳へ素通り。
結局、完全に収まるまで彼女へ精液を注ぎ込んでしまった。



大量射精した後は、その量に比例する様な虚脱感が襲ってきた。
自分は体を上げていられず、後輩を下敷きにして倒れ込んでしまう。
じっとりと汗で濡れていても、彼女の肌は心地良い。

「あっ、疲れちゃいました? いいですよ、休んでください。
 先輩は初めてですからねー。修行すればそのうち持久力も上がりますよ」
男の体重を受けて重いであろうに、彼女は文句一つ言わない。
それどころかこちらの背に両腕を回して抱き締めてくる。

「んー、先輩の肌も香りもステキ……あ、キスしてませんでしたね」
今頃になって思い出したように言い、後輩は唇を重ねる。
「んっ……ちゅ…っ」
初めてのセックスの後に、初めてのキス。
ホント順序がメチャクチャだ……。

しばし彼女に抱かれて数分。
自分はなんとか虚脱状態から回復し、彼女の腕を解いて体を起こした。
そして少し冷たい木の床にあぐらをかき、恐る恐る口を開く。

ごめん、中に出しちゃった……。どうしよう…。
膣内射精の許可を出したのは彼女だが、それで自分が免責されるはずがない。
もしこれで彼女が妊娠していたら……。

退学やら中絶やらの単語が脳内で膨れ上がり、恐怖感が増していく。
今更になって避妊がどれほど重要か思い知らされた。
事が済んだ今となっては、妊娠していないことを祈るしか―――。

焦燥で髪に爪を立てる自分。
そんな事をしても痛いだけで何の解決にもならないが、止められない。
動揺しすぎてどうにも落ち着けない自分は後輩にも意見を求める。

あのさ、もし子供ができてたら「私が妊娠したら何か問題なんですか?」
こちらが焦る様子を“どうしたの?”という顔で、寝転がったまま眺める後輩。
何故そんな顔ができるんだ? 彼女は事態の深刻さが分かっていないとでもいうのか。

校則知らないのか? 不純異性交遊は退学なんだぞ?
「退学? 誰が私たちを退学にするんです?」
誰がって……そりゃ校長あたりが処分するんだろ。
後輩は「ふーん、そうですか…」と呟くと、勢いをつけて上体を起こす。

「果たして校長先生はこの教室に踏み込んでこれるでしょうかね?
 窓の外から私たちがセックスする姿を覗いて“けしからん!”なんて怒るでしょうか?
 そもそも弱小同好会が教室一つ占拠していて、先生方は何故叱らないんでしょう?」
回りくどい言い方だが、彼女の言いたいことは理解できた。

……魔法って便利なんだな。
「ええ、とっても便利です。先輩も早く使えるようになると良いですね」
それは部長さまに期待する……のはいいんだけど、子供どうしよう?

まだデキたという確証はないが、最悪の事態を想定しておくべきだろう。
学校の目は誤魔化せるとしても、人間一人を産んで育てるなんて学生にできることじゃない。
時間的にも、社会的にも、金銭的にも問題が山積みだ。

「それも問題ないですって。ぜーんぶ、魔法でどうにかできますから。
 だからぁ……私が妊娠するまで中に出してくださいね?」
彼女はそう言って、ニタァ……と妖しく笑う。
自分の未来に立ち塞がる数々の難問。後輩はその全てを魔法で解決してみせると言った。
それは非常に助かるのだが、どうして彼女はそこまでして子供を欲しがるのだろう。

「先輩こそ何言ってるんですか。愛する人の子供を欲しいって思うのは当然でしょう?
 そりゃあ普通の学生なら結婚まで我慢しないとですけど、私はそうじゃないんです。
 すぐ産んでも大丈夫なら、作らない理由がありませんよ」
眉をひそめて呆れた声を出す後輩。まるでこちらが非常識であるかのような言い草。
遅まきながら、自分はそれでようやく気がついた。

彼女は魔法が使えるだけの女の子ではない。
常識や倫理といったものが根本的に違う、宇宙人のような存在なのだ。
そんな相手をこちらの尺度で考えても困惑するだけ。
“何故”“どうして”と考えるだけ無駄だ。

こんな可愛い女の子が、己の全てをもって愛してくれる。
その事実を幸福と思い、彼女が喜ぶようなことをしてやる。
それが彼女とうまく付き合っていく方法なのだろう、きっと。

……念を押して訊くけど、本当に魔法で解決できるんだよね?
後になって“やっぱり無理です”なんて言われたら死ぬよ? 割と本気で。
「それは絶対大丈夫です! ジャンプしても地球が割れないぐらいの確実さですから!」
“死ぬ”という単語に反応したのか、後輩は力強く言い切る。
こうまで言うなら、本当に心配する必要はなさそうだ。

分かったよ。じゃあ、その…子供産んでくれるかな?
まさか学生の間に口にするとは思わなかったセリフ。
それを受けて後輩は「待ってました!」と言わんばかりに、喜んで抱きついてくる。

「もちろんですよっ! あなたの子供なら十人でも百人でも産んじゃいます!
 さあさあ、もう一回しましょう! これは魔法の修行でもあるんですからねっ!」
抱きついたおかげでこちらに密着する後輩の乳房。
サイズは控えめとはいえ、少し潰れる程度にはある。
その感触で萎えていた男性器は再び勃起し、彼女への欲望はまた燃え上がった。



「あ、そうそう。先輩ってお昼はどうしてるんです?」
初めての“部活動”を終えて、一緒に歩く帰り道。
建物の陰に沈みつつある夕日を浴びながら、後輩はそんな質問をしてきた。
別段隠すこともないので自分は正直に答える。たいてい購買だよ、と。

「へー、そうなんですか。家族の誰かがお弁当作ってくれたりはしないんですか?」
誰も作らないなあ。ウチは両親揃って赴任してるし、自分で作ってまで食べたくないし。
「あら、先輩って料理できるんです?」
できません。料理覚えてまで弁当作りたくないってことだよ。
いや、米だけ炊いて後は冷凍食品という手もあるが、それなら買って食べた方が早い。
「そうですか……じゃあ先輩、私が作ってもいいですか?」
タン、と長い横髪を跳ねさせて前へ出る後輩。振り向いたその顔は自信ありげ。

料理できるんだ。女の子って感じでいいね。
別に料理できない子を馬鹿にするわけじゃないけど、男として恋人が料理できるというのは嬉しい。
「自分で作ってるうちに勝手に身についた…って感じなんですけどね。
 まあ“不味くはない”程度の腕はあると思います」
料理できない身からすれば十分スゴイよ。それじゃあ、頼んでもいいかな?
「任せてください。腕によりをかけた魔力食を作ってきますから」
カバンを握っていない左手で拳を作り気合を入れる後輩。
それはいいんだが、魔力食ってなんだ?

「ほら、少し前に頭脳食とか流行ったじゃないですか。頭が良くなるとか活性化するとか。
 アレの魔力版です。食事でも先輩の体質改善を図ろうと思いまして」
食事で体質改善か……。どういう味なの? 薬膳料理は不味いって聞くんだけど。
恋人の手作り弁当は嬉しいが、その味が漢方薬だったら喜び半減ではすまない。

「魔力のために我慢して食べるようなものじゃないんで安心してください。
 基本的に甘い物が多いですから、先輩なら気に入ってくれると思いますよ?」
甘党の自分はそれを聞いて一安心。だが、何故彼女はそんな事を知っているのだろう?
食事の話題なんてこれが初めてなのに。

「先輩のことなら何でも知っています……って言えたら良いんですけど、まだまだその境地には遠いですね。
 ネタバレしちゃうとキスです。一番最初にキスした時、チョコレートの香りを感じたんですよ。
 お昼に菓子パンか何か食べたんじゃないんですか?」
彼女の推測は正解。自分は昼食の最後にチョコチップ入りのメロンパンを食べた。
だが数時間後、それも歯磨きをしているというのによく気付くものだ。

「自慢じゃないですけど、私は結構感覚鋭い方なんですよ。だから――――」
後輩は突然歩く足を止め、顔を近づけてきた。
彼女の髪から漂う香りを鼻の奥で感じると同時に、唇に熱い物が押し付けられる。

人通りが少ないとはいえ、道端で堂々とキスをするなんて―――。

自分がそう思った時には、彼女はすでに顔を離していた。
どうやら微かに触れるだけの軽いキスだったらしい。

「―――先輩の考えてることまで分かるんです。私が好きで好きでたまらないでしょう?」
クスッと笑い左手の人差し指で唇をなぞる後輩。
妖しさと淫らさと可愛らしさが絶妙に混ざったその仕草に、彼女の言う通りの心境になってしまう。

「では先輩、名残惜しいですけど私の家は向こうなのでお別れです。
 明日はお弁当を作ってきますから、昼休みは教室にいてくださいね」
後輩はそう言うと、背を向けて少し前の分かれ道まで戻っていく。
会話が一段落するまで付き合ってくれたのは、彼女なりの気遣いだったのだろうか。



四時限目のチャイムが鳴って、やっと始まる昼休み。
普段なら我先にと走って購買へ向かうのだが、本日は席に腰掛けて後輩の来訪を待つ。
自分がどのクラスかなんて伝えてないが、彼女なら容易く見つけ出すことだろう。

彼女が作る『魔力食』とは一体どんなものなのか?
そんな事を考えながらイスを傾けていると、友人……と言っていいのかどうか微妙なクラスメイトが、隣の机から声をかけてきた。

「あれー、どうしたんお前? いつもならダッシュで教室出てくのに」
弁当持参の彼はこちらに怪訝そうな顔を向けた。
自分はそれに対し“昼食のアテがあるんだ”と返す。

「アテ? なんだー、まさか恋人が弁当でも「せんぱーい! お弁当持ってきましたよー!」
教室中に響き渡るソプラノな声。
その発信源はドアの所で、包みを持たない右手をブンブン振っていた。

オカズを突っつこうとしていた彼は後輩をチラリと見て、ハシをポロリと落とす。
そして身を乗り出すと、強い語気で話してきた。

「オイ……オイオイオイ! なんだよあの子!? 滅茶苦茶可愛いじゃねえか!
 あのリボン一年だよな!? 俺と同じ帰宅部のお前がどうやって知り合ったんだよ!」
「可愛い女の子と付き合いたいなー」とよく漏らしていたクラスメイト。
彼はルックスがさほど変わらない自分に恋人が出来たことがショックなようだ。

どうやってと言われても……。昨日の部活勧誘の時に偶然出会ったんだよ。
そしたら一目惚れされて付き合うことになったんだ。
「一目惚れぇ!? ありえねーだろ! 俺とお前どこが違うんだよ!」
頭を抱えて天井に叫びをぶつけるクラスメイト。
たしかに自分と彼にたいした違いはないだろう。
強いて言うとするなら“運”だろうか。まあ、どうでもいいけど。
恋人のいる優越感的なものを感じつつ、自分は席を立って扉へ向かう。

「こんにちは先輩。昨日話した通り、お弁当作ってきましたよ」
後輩はそう言い、見せつけるように弁当の包みを揺らす。
自分は“ありがとう”と感謝の言葉を述べて、どこで食べようかと訊く。

「んー、そうですねえ……やっぱり部室が良いんじゃないですかね?
 二人っきりで静かに食べられますし」
部室か……。うん、ちょっとホコリっぽいけど悪くはないね。
じゃあ、部室で食べようか。
「はい、そうしましょう。では、ちょっと急ぎましょうか」
部室は一階で、二年の教室は三階。
のったり歩いていたら、食べる時間がかなり削られてしまう。
後輩はスキップのように細かく跳ねて先導し、自分を急かした。

部室の半分を占拠している大量の机とイス。
それを移動させてくっ付ければ、たちまちテーブルの出来上がり。
四つの机を合体させたテーブルの上で、後輩は弁当の包みを解きフタを外す。
その中身は『魔力食』という名に反し、ごく一般的な料理に見えた。

「『魔力食』と言っても、見た目がおどろおどろしいわけじゃないですからねー。
 先輩はどれから食べます? 私が取ってあげますよ」
プラスチックの箸を開閉しカチカチと鳴らす後輩。
箸が一セットしかなかったのはそういうことか。

そうだなあ……じゃあ、その唐揚げっぽい物から。
レタスっぽい葉の上に三つほど乗っている、肉の塊を自分は指名する。
後輩はそれを箸でつかみ、口の中に入れてくれた。

自分は甘党だが肉と甘味はあまり相性が良くないと思っている。
だがこの唐揚げ(らしき物)はその偏見を一噛みで覆した。
スパイスの効いた衣。それを噛み切った中から出る甘い肉汁。
甘さと辛さが潰し合うどころか、互いに補い合って美味と感じさせる。

初めて味わった『魔力食』。
それは一口で自分を虜にするほどの物だった。
後輩はその様相に微笑むと、もう一つある小さめの弁当箱からおかずを口へ運んだ。



学校が終わるとさっさと家に帰って、スーパーで弁当買って、勉強もそこそこにゲーム。
去年はそんな感じで生活していた自分だが、後輩と出会ってからはそれも変わった。
甲子園出場を目指す野球部のように、部活動に熱心になったのだ。
とはいえ活動内容が内容なので、青春してるだなんて思わないけど。

「―――では、一度目を閉じて心を平静にしてください」
梅雨に入り連日の雨天。
分厚い雲に閉ざされた空は、数日の間太陽の姿を見せていない。
蛍光灯も点けず薄暗い部室でイスに腰掛け、ザアザアという雨音を耳にしながら自分は瞑想する。

「二ヶ月間私と交わり続けて、先輩の体質はだいぶ改善されました。
 もう簡単な魔法を使うぐらいの余剰魔力は生成されています。
 そこで今日は一つ、初歩の初歩な火付け魔法を使ってみましょう」
カン、と金属の何かが机の上に置かれる音。
それに瞼を開くと、銀の燭台に刺された一本のロウソクが目に入った。

「火種程度の簡単な魔法には呪文は必要ありません。
 魔力を集中して念じるだけで使うことができます。さあ、試してみてください」
後輩はそう言うと燭台をこちらへ押し出す。

……ついに自分も魔法使いになる時がきた。
ロウソクに火を点すなんてたいしたことじゃないけど、
フィクションの中にしか出てこない神秘の業を自分の手で起こせるのだ。
自分は期待と緊張にゴクリとつばを飲み、深く息を吸う。
そしてパイロキネシスのイメージで、ロウソクの芯をジーッ……と凝視。
集中の邪魔をしないためか、後輩も無言でその様子を見つめる。

十秒経過。何も起きない。
たぶん二十秒経過。何も起きない。
三十秒は越えたと思う。何も起きない。
どう考えても一分は過ぎている。何も起きない。

自分はロウソクを睨むのを止め後輩へ視線を移す。
すると彼女は困った顔で口を開いた。
「ええと…先輩、魔力全然集まってません……」
やっぱりかー、と期待から変わった失望を吐き出す自分。
魔力を集中と言われても、魔力自体が感じ取れないのだから集めようがない。

「うーん、おかしいですねえ。先輩程度に魔力があれば、
 うっすらとでも感じ取れるはずなんですけど……」
あごに手をやって首を傾げる後輩。
だが、そう言われても分からないものは分からない。
「そうですかぁ……。じゃあこの件は後で色々考えてみます。
 今日は予定変更して、いつも通りの修行にしましょう」
彼女はそう言うと窓際に置いてあるベッド(どうやって持ち込んだのやら)に向かい、制服から下着まで無造作に脱ぎ捨てる。
そしてキシッ…とスプリングを軋ませてベッドの上に乗ると、バサッ! とタオルケットを広げそれに包まった。

「今日も肌寒いですからねー。さ、先輩も一緒に温まりましょう?」
はだけた浴衣のように肩口から垂れさがる白いタオルケット。
いかにもな女の子座りをし、胸元や太ももをチラ見せする彼女は全裸とはまた違った色気を出す。
その姿に魔法失敗で下がったテンションは回復し、自分も服を脱いでベッドへと上がる。
膝立ちになって、シーツにしわをつけながらにじり寄る後輩。
タオルケットの隙間からつるっとした腹やよだれを垂らす女性器が見え、股間のモノが硬くなる。

「先輩はごろーんと寝ちゃってください。私の肌で温めてあげますから」
両手を使い首元で押さえていたタオルケット。
彼女はムササビのようにそれを広げ素肌を見せつける。
自分が指示通りバネの効いたマットレスに横たわると、彼女はそのまま覆い被さってきた。

ファサッ…と自分たちに被さるタオルケット。
質が良いのか、自宅のタオルケットと比べてその手触りは段違い。
だがその心地良さも、後輩のなめらかな肌とは天と地ほどの差があった。

こちらの胸に密着し、ふにゃっと潰れる柔らかい乳房。
紙風船のようにしか感じられない体重。すぐ目の前にある整った顔。
彼女は全身をベタッと押し付け、こちらを温めようとする。

「んー、先輩の体も温かいですね。じゃあ、もっと温かくなりましょうか」
後輩は少し頭を動かしてチュッとキスをする。
そしてタオルケットの下で体をもぞもぞと動かした。
「えーと、先輩のおちんちんは……あ、ありましたありました」
彼女はこちらと顔を合わせたまま、腰の位置を調整する。
……もうすっかり体の寸法を把握されているようだ。

「それじゃ、入れますねー。んっ……」
クチュッという微かな水音と共に熱に飲み込まれる男性器。
いつもと違い上体を密着させているが、その気持ち良さは変わらない。
自分はより深く入れようと、タオルケットの下で手を移動させる。
幼児のようにつるつるで弾力のある尻。ずっと撫でていたくなる手触りだ。

「あっ……先輩の撫でる手つき、すっごくイヤラシイです…」
イヤラシイと言いつつも、その顔には微笑が浮かんでいる。
どうやら彼女も喜んでくれているようだ。
自分はしばらくナデナデした後、ギュッと掴んで下から突き上げる。
滑った膣壁を進む陰茎から快感が走り、トンとぶつかった所で止まった。
「あはっ…! おちんちん子宮口に当たってますよ…!
 せっかくだし突っ込んじゃいます? 赤ちゃんの部屋入ります?」
胎児が生まれ育つ場所。女性……いや、人間全ての聖地。
彼女はそんな聖地の中へ自分を受け入れると言う。
だが子宮は挿入されることなんて想定していないはずだ。
ヘタに入れて傷付きでもしたら……。

「全くもう、心配性ですね先輩は。女の子の体は結構融通効くんですよ?
 子宮におちんちん押し込んだぐらいで壊れたりしませんってば」
右手の人差し指で、こちらの頬をピンと弾く後輩。
どうやら彼女にとって自分は取り越し苦労の心配性らしい。
……まあいい。本人が“やっていい”と言うのだから、させてもらおう。

「はーい、ちょっと広げますね。ん……」
息を止めて後輩は腹に力を入れる。
すると閉じていた子宮口がクパッと開き、男性器の先端に噛みついてきた。
膣内でしゃぶられているような感覚に腰が動き、より奥へと自分は侵入する。
それは彼女にとっても強い快感だったのか、ブルッと身を震わせた。

「んくっ……どうです先輩? 私の子宮の中は……」
快楽に顔を歪めながら言う後輩。
膣とはまた違う感触に自分は“気持ち良い”としか答えられない。
「“気持ち良い”ですか……。それは良かったです。
 なら、もーっと気持ち良くなって、孕むぐらい出してくださいね?」
彼女は押し殺した声でそう言うと、ゆっくり腰を前後させ始めた。

全身を擦りつけるようなスローペースの動き。
混じり合った汗が互いの肌を濡らし、潤滑液のように機能する。
白いタオルケットのおかげで彼女の背も尻も見えないが、
その下にある肉体との接触は十分以上に性欲を煽ってくれる。

自分は少し頭を上げて彼女にキスをした。
キスといっても軽いものではなく、舌を絡めるような深いものだ。
彼女はそれを受けると積極的に舌を動かし、こちらの口内へも差し込んできた。
互いの唾液を交換し合うその行為は、もう一つのセックスのようにも感じられる。
上で繋がり、下で繋がり、ずっとこのままでいたいと考えてしまうほどの快楽。
そして本能は彼女と永遠に一つになるため、自分の分身を送り出そうとする。

「あ、もう…射精、するんですね…?
 私の子宮にっ……直接、ぶっかけるんですねっ…!?」
子宮内への直接射精。彼女はそれに喜色ばむ。
「いいですよ…っ! 私を妊娠…させてくださいっ! 私と…一つに、なりましょう!」
後輩はグッと腰を押し付けて男性器を深く咥えこむ。
ストローで飲むようにチュゥッと子宮口がすぼまり、竿の中を上っていた精液が強烈な快感と共に吸い出された。
「あっ! おちんちんが、暴れてるっ! 精液…びちゃびちゃっ……!」
子宮の中に直接精液を浴びせられ、身を硬直させる後輩。
しかし彼女の生殖器だけは激しく蠕動し、こちらの精液を強制的に搾り取る。
「ああ…先輩の精子、いっぱい泳いでるっ…! これなら、絶対受精しますねっ…!
 んっ! 突っついて……るっ! ちっちゃいあなたが…私の卵子、ツンツンしてますっ…!
 もうすぐ…混ざりますよっ! 私たちの遺伝子が、グッチャグチャにっ……!」
受精の経過を口にする彼女の顔は、薬でもやったかのような多幸感に満ち溢れている。
子供を身籠ることをそれほど幸せと思ってくれることに、こちらも嬉しさが湧いてきた。
自分は尻を掴んでいた手を背中へ移動させ、後輩を強く抱き締める。
すると彼女もこちらの背後に腕を差し込み、ギュッとしがみ付いた。
「もっ、もう壁が破れちゃいます…! 私たち、混ざっちゃいますよぉっ!
 ぐ……混ざ、る…っ! 混ざるっ…! 受精するぅっ!」
背中に爪を立て、唾液を飛ばしながら嬌声を発する後輩。
その様は人というより、獣のメスのように感じられた。

肌寒いとはいえ今の時期は夏目前。
交わってしまえば温かいを通り越して熱くなる。
繋がったまま幸せそうな顔でまどろむ後輩。
自分はその背を覆っているタオルケットをバサッと剥いでベッドの端へ放る。
そして左手を伸ばして彼女の長い横髪に触れ、口を開いた。

……子供、できたんだよね。
「はい、デキました……。私たち、パパとママですよ…」
後輩は意識の半分がどこかへ行っているような声で呟き、腹に片手を当てる。
自分はその仕草にズシッ…と重いものを感じた。

いずれこうなると分かってはいたし、少しばかりは覚悟もしていたが、
改めて“子供ができました”と言われると相当なプレッシャーがある。
妊娠に伴う問題の大半は彼女が魔法で解決してくれるが、子育ても魔法で…とはいかないだろう。
オムツの交換に抱き方・あやし方、躾にその後の教育……本当に自分にできるか不安になってくる。
やっぱり無責任すぎたかなあ…とちょっと後悔しつつ溜息を吐く自分。
その溜息で心の内を察したのか、後輩はやれやれといった顔になる。

「もー、あなたは何も気にする必要ないんですってば。
 私と子供を愛してくれれば、それ以外の問題はどうとでもなるんです」
愛してくれれば、か。君はともかく、子供の方は愛せるかどうか不安だなあ……。
我ながら酷いセリフだと思うが“血が繋がっている”というだけの理由では自信が持てない。
いや、自分の子供だから愛する努力は極力するつもりだけど。

「大丈夫ですって! 先輩ならちゃんと愛せますよ!」
抱いた不安を払うように明るい声を出す後輩。
そう言ってくれるのはありがたいが、それでも心配だ。
「もし本当にどうやってもダメなら、魔法かけてメロメロにしてあげますから!」
それってただの洗脳では…と思ったが、口にするのは止めておいた。
子供を愛せないよりはずっと良いと思うから。



断続的に雨が降り注ぐ梅雨が明けると、殺人的な直射日光が突き刺さる夏になる。
期末テストも終わって、夏休みに入るまでの微妙な時間。
その間も自分は修行を続けていたが、魔法を使えるようになる気配は全くない。
もしかして後輩が自分を騙しているんじゃないか? とも疑ったが、それに対する彼女の返答は。

「嫌ですねえ、私が先輩を騙すはずないじゃないですか。
 それにですよ? もし騙していたとして、先輩は私が嫌いになります?」
“わかってるんですよー”という顔で微笑む後輩。自分はそれに苦笑いするしかない。

いまさらになって嘘だと言われても、彼女を嫌うことなんて無理だ。
何故なら、言葉は嘘だったとしても彼女が自分に向けてくれる愛は本物だから。
放課後は毎日修行の相手を務めてくれ、自ら望んで妊娠までした彼女。
こちらの何気ない一言でも喜び、ときおり見せる妖しい仕草は自分の心を捕えて放さない。
自分は麻薬のような彼女に依存しつつある。もう離れることなんてできない。

「んふふ、いい顔ですよ先輩。どんどん私に溺れちゃってくださいねー。
 そのうち私無しだと生きられないようになっちゃいますけど、別に構いませんよね?
 どうせ死ぬまで一緒なんですから」
ぬらりっ……と蛇のように舌を出して、左手の人差し指と中指を舐める後輩。
目を細めて笑うその姿は淫蕩な魔女をそのまま具現化したかのようだ。
今の重大発言でさえ、彼女への欲望に埋もれていってしまう。

「さて、一学期最後の部活動を始めましょうか」
そう言って半袖のYシャツボタンに手をかける後輩。
自分も同じようにボタンに手をかけて脱ぎ出した。



自分の両親は揃って遠くへ行っているので、年始年末やお盆ぐらいしか帰ってこない。
また、帰ってくる場合も“○○日に帰る”と事前に必ず連絡してくる。
突然帰宅され、見てはいけないものを見られるなんてことはないのだ。
そして後輩もマンションで一人暮らし。家族とは完全に別居している。
長期休暇かつ、誰の目をはばかる必要もないとなると……まあ、分かるだろう。
自分は夏休み初日に後輩の家へ招かれ、泊まり込みで魔法の修行をすることになったのだ。

「―――先輩の問題はただ一つ、感覚の鈍さです!」
エアコンの作動音が微かに響く室内。
屋外とは別世界な空気の中、リビングのソファに腰かけ、後輩は自分の問題点を言い切る。
「先輩はもう十分に余剰魔力があるんです。
 だから魔力さえ知覚できれば、初心者の階段を2,3段は上がれます!」
魔力的には問題ないと言う後輩。
だが誕生して以来、見たことも聞いたこともない魔力をどうやって感じ取ればいいのか。

「そこはもう薬に頼りましょう。品切れだった材料が手に入りまして、今朝やっと作れたんですよ」
後輩はそう言うとポケットから二つの小瓶を取り出し、ガラステーブルの上に勢いよく置く。
一つは宇宙人の血液のように青い液体で、もう一つは鮮血のように赤い液体。
両方とも食欲を減退させる色で、うっすらと光を放っている。

……なんなのこの薬。
漢方薬の比じゃないぐらい怪しい液体。それに自分はちょっと引いてしまう。
「これは私が独自のレシピで調合した飲み薬です。
 男が青、女が赤を飲んで交われば、互いの魔力を感じ取れるぐらい敏感になるんですよ」
フフッ…と自慢げに後輩は笑い、ちゃぽっ…と音を立てて赤い小瓶を横に揺らした。
自分も青い小瓶を手に取り、目近でジーッ…と観察。

横にユサユサと振ってみたら赤い小瓶と同じような音を立てた。
どうやら粘度は水道水並に低いらしい。
次は縦にガボガボと振ってみる。
特に滞留物はないようで、液体の中を浮遊する物は確認できなかった。
最後にキュッ…とコルク栓を抜いてみる。
すると瓶口から、色に似つかわない甘い香りが鼻へ潜り込んできた。
匂いからしてどうやら不味くはなさそうだ。だがその色が飲むのを躊躇わせる……。

瓶を手にして迷う自分。
後輩はそんな自分を後押しするように喋る。

「たしかに色は良くないですけど、別に毒じゃないんですから。
 それにこれ飲んじゃえば、すぐにでも魔法が使えるようになるんですよ?
 いっちゃいましょうよー、こう…グビッと!」
テレビで見る飲み会のように、飲め飲めと勧める後輩。
だがどうにも踏ん切りが……。

「……案外意気地なしですね先輩は。なら私が先に飲みましょう。
 私が飲んだら、先輩も飲んでくださいね?」
彼女はそう言うと、赤い小瓶のコルク栓を外してコクコクッと一気に飲み干してしまった。
一気飲み後にフゥッ…と吐いた息がやたら艶めかしい。

「はい、飲みました。次は先輩の番ですよー。
 言っときますけど、今更中断なんてできませんよ? 赤は私が飲んじゃいましたからね」
後輩は酒を飲んだようにうっすらと顔を染めている。
もちろんアルコールではなく、欲情で染まっているのだろうけど。

「ほらー、さっさと飲んでくださいよぉ。のったりしてたらムリヤリ飲ませますよー?」
もう我慢できないといった感じに後輩は服を脱いでいる。
これ以上躊躇っていたら、本当にそうされそうだ。
自分は覚悟を決めて小瓶を傾ける。

舌に乗った薬は甘酸っぱくて思った以上に美味。
ゴクッと飲み込み、さらっとした液体が胃の中に落ちると体がポッと熱くなった。
目の前に立っている裸の少女がいつも以上に愛しく感じられ、その体に触れたくなる。
数十秒前の彼女と同じように自分も我慢できなくなり、ソファから立って一枚、二枚と服を抜ぐ。
そして最後まで脱いだのを見ると、後輩はペタンとフローリングの床に尻をついた。

「さあ、来てください先輩……。私の魔力、しっかり感じ取ってくださいね?」
彼女は少し股を広げ、左手を差し伸べて誘う。
自分はその誘惑に乗って、膝をつき彼女に伸しかかる。
いつもと同じように股の間に体を割り込ませ、勃起した男性器を彼女の膣へ挿入。
相変わらず心地よい彼女の体内。濡れそぼった粘膜との接触は全く飽きない。
だが今回は快感ではない別の感覚もあった。

イメージとしては血流が近いだろうか。
血ではない何かが体の中を巡り、彼女との結合部からそれが流出していく。
また彼女の側からも何かが送り込まれ、自分の体の中に混ざっていく。
これが魔力……なのか?

「ええ、そうです。先輩のおちんちん通ってるのが魔力ですよ。
 それと、私の方からも行ってますよね? これが魔力の循環なんです」
こちらの腰に足を絡めながら後輩は説明する。
「今でも循環はしていますけど、射精した時なんてそれはもうスゴイですよ?
 精液と一緒に魔力の塊が放出されて、私の魔力が減った分を埋めちゃうんですからね」
その瞬間が楽しみなんだと唇を舐める後輩。
生肉に齧り付く前の肉食獣みたいでなんか怖い。
「じゃあ先輩、動いてくださいな。いつもみたいに私のまんこでおちんちんシゴいて、
 たーっぷり中出ししてください。魔力の交換、しましょうね……」
内緒話のように囁かれる最後の言葉。
自分はそれに頷いて返し、腰を動かし始める。

グチュッ、グチュッと粘ついた音を立てながら動く自分の体。
自分の下で喘ぐ後輩からは、絶え間なく魔力が流れてくる。
そして微量だが、彼女とは違う感じの魔力も一緒に流れてくる。
これは一体なんなのだろう?

「あ…それは、赤ちゃんのですよっ…! まだ小さいけど…、女の子ですから…っ!」
その発言で自分はハッと思い出す。
腹がつるっとしているせいで意識していなかったが、彼女は妊娠していたのだ。
セックスで魔力を交換するというなら、胎児とそうなってもおかしくない。
まだ肉片サイズとはいえ、彼女の子宮にいるのは血の繋がった実の娘。
そんな相手とセックスしていたことに、苦い物がこみ上げる。

「ん? どうしたんで――――あぁ、そうですか……」
表情の変化で自分の思考を読んだのか、後輩はニタァッ…と嫌らしい笑みを浮かべる。
「せんぱぁい……そんなこと気にしたっていまさらですよぉ?
 気付いてなくても、近親相姦で魔力もらっちゃった事実は変わらないんですからね?」
ねっとりと脳にまとわりつく後輩の言葉。
自分はそれで人として越えてはならない一線を越えてしまったことを自覚した。
しかし彼女はそのことを責めるどころか、面白がって言葉を続ける。

「信じ難いでしょうけど、ちっぽけな胎児だって相手はちゃんと選んでるんですよ?
 先輩と魔力を交換してるってことは、先輩が好きってことなんです。
 大きくなったらあなたとセックスして子供を産みたいって考えてるんです。
 分かります? この子もあなたも、とっくに堕ちるとこまで堕ちているんですよ」
常識も、倫理も、道徳も、何も持ち合わせていない、まさに“魔女”な言葉。
価値観が違うことは理解していたつもりだったが、本当に“つもり”だった。
彼女は父と娘の近親相姦すら歯牙にかけていない。
あまりに理解が及ばず、彼女が恐ろしくさえ思えてくる。

わからない…。君が理解できないよ……。
自分は情けなく呟く。すると彼女は笑みを柔らかくし、両手でそっと頬を挟んできた。
「先輩、女の子を理解しようだなんて思っちゃダメですよ?」
“理解できない”という自分の言葉をそのままに肯定する後輩。
「女の子っていうのは、謎と不思議と神秘のカタマリなんです。
 男の子が無理に理解しようとしても、頭が痛くなるだけで良いことなんてありません。
 愛し愛され、気持ち良いことをする。その程度の理解でいいんですよ」
相互理解なんて最初から放棄していた彼女の言葉。
考えるな、感じろ。そういうことなのだろうか。
「そうですそうです。何も考えず、ただ感じればいいんですよ。
 さあさあ、二人…じゃなくて親子三人で感じ合いましょう?」
後輩はそう言って膣内をうねらせる。
膣のひだひだが男性器を舐め回す快感に、止まっていた腰が再び動き出した。

魔力の循環はただ挿入しているだけでも行われる。
しかし快感の度合いが強くなり、絶頂が近づくほど循環はより多く早くなっていくらしい。
自分が射精感を自覚する頃には、腹の底に魔力が集まっていくのをはっきりと感じられた。

「あ…! 先輩のお腹、魔力が溜まってますよ! もう射精するんでしょう!?
 ええ、構いませんよ! お父さんの魔力、赤ちゃんにもあげてくださいねっ!」
足だけでなく、腕まで使って強く抱きしめてくる後輩。
女の子の柔らかい肉体が密着し、膣が男性器を圧搾する。
その瞬間、精液と共に魔力が放出されるのを自分は確かに感じた。
「出てます…! 出てますよっ! おちんちんから、精液と…魔力がっ!」
脈動する男性器から放たれる精液。その中には大量の魔力が詰まっている。
こんなに出して大丈夫なのか? と不安になるほどの量が自分の中から抜けていく。
「どうです!? すごい量でしょう! でも心配いりませんよっ!
 私の魔力をたっくさんあげますからねっ!」
その言と共に流れ込んでくるのは、大量な後輩の魔力と微量な胎児の魔力。
二人の魔力が減った分を埋めるように……いや、それ以上に注ぎ込まれ、体の中が魔力でギチギチになる。
一瞬、破裂するんじゃないかと思ったが、全身が一回り膨らむような感覚と共にすぐさま馴染んでしまった。
「んふふ……魔力が感じられると違うでしょう? 私はいつもこうやってたんですよ。
 あなたの体を変えるために、ね……」
快楽の中にたゆたう声で言う後輩。
毎回こんなことやってたなら、魔力ゼロでも使えるようになるだろうな…と自分は納得した。

「さあ先輩、やってみましょう!」
あの後、数回交わって時間は夕方。
真夏の外光でまだまだ明るい部屋の中、お馴染みのロウソクをテーブルに置く後輩。
「もう魔力は感じ取れますよね? 初歩中の初歩、火付けをしてみてください!」
流石に失敗なんてしないだろう…という顔で彼女はこちらを見る。
もう魔力を感じられるのだから成功するだろう…と自分も思いつつ、右手人差し指を芯に向ける。
体の中を巡っている魔力。それを人差し指の先端に集め、ビームを撃つ。
そんなイメージで精神を集中すると――――。

「あっ、点きました! ちゃんとできましたよ先輩!」
ポッと燃え上がったロウソク。その火を目に、後輩は喜びはしゃぐ。
そして自分もついに魔法使いになったという実感に顔がほころんだ。



魔法が使えるようになってからも、自分は彼女のマンションに宿泊し続けた。
どうせ家に帰った所で宿題とゲームぐらいしかやることがないのだし、
だったら後輩と一緒にイチャイチャしながら魔法修行した方が良いと考えたのだ。
彼女がそれを断わるはずもなく、夏休みの前半は爛れた日々に終始した。
朝起きてセックス、昼食食べてセックス、寝る前にもセックス、
何かと理由を付けてセックス、特に理由が無くてもセックス。
円グラフにしたら半分以上が修行を兼ねたセックスになっていることだろう。

そんな感じで時刻も日付も忘れるぐらいの快楽に満ちた生活していたある日。
後輩の携帯電話からメール着信のメロディが響いた。

おーい、携帯鳴ったよー。
台所で昼食の後片付けをしている彼女に呼び掛け、携帯を持っていく自分。
後輩はジャーッと流していた水道を止めて手を拭き、携帯を受け取る。
そしてピッピッと操作しメールを見ると、喜ばしさと妬ましさが入り混じった顔になった。

どうしたの、そんな顔して。
メールの内容を見ていない自分には、何故そんな顔になるのか分からない。
彼女はそんな自分に携帯をひっくり返してディスプレイを向ける。
そこには、にこにこ顔で赤ん坊を抱えた少女が写っていた。

「……友達がわざわざ写真付きでメール送ってきました。
 出産記念だそうで、自慢するため知り合いにばらまいてるそうです」
出産記念って、どう見ても未成年なんだけど。
「彼女も魔法使えますから」
あ、そうなんだ。
自分はもう“魔法”の一言でたいていの事は納得してしまう。
「……先輩、私も自慢したいんで子供産んでいいですか?」
自慢て……妊娠してるんだからそのうち嫌でも産むことになるだろう?
「先輩が協力してくれるなら、今日中にでも産めるんですよ。
 一年ぐらい普通に待つつもりだったんですけど、写真見たらもう我慢できなくなりました」
ポケットに携帯を仕舞いながら言う後輩。しかしそんな理由で早めるだなんて……。

一年という妊娠期間は子供が育つためだけにあるのではない。
ただの男女が父親母親の自覚を持つまでの訓練期間でもあるのだ。
赤子を扱うための訓練をし、いずれ産まれる子供に思いを馳せる。
人間はそうやって“親”になるのである…………って本に書いてあった。
その過程をすっ飛ばしていきなり一児の父親とか、ただでさえ不安なのが余計に酷くなる。

「私がついてるんだから平気ですよ。それに考えてもみてください。
 一年待ってたら、先輩が三年生になってから産まれるんですよ?
 受験とか就職とか、そんな大変な時に産む方が問題だと思いません?」
うっ、痛い所を突いてくる……。
「その点、今なら一ヶ月近い休日があります。
 子供の扱いを覚えるなら、今日産んじゃった方が良いですよね?」
なんか丸めこまれてる気がしないでもないが、彼女の言うことにも正しさを感じてしまう。
「それに今だったら、子供をすぐに見られますよ。
 夜中なんかに産気づいちゃったら、子供見せるのは次の日になっちゃいますからね」
パタッとスリッパを鳴らして後輩は一歩近づく。
「ねえ、見たくありません? 私のまんこから子供が出てくるのを……」
耳元にそっと囁きかける後輩。
その声には多大な妖艶さが含まれ、出産をセックスの一部ととらえている事をうかがわせる。
彼女に溺れている自分がその誘いを断れるわけがない。
仕方ないな…と息を吐いて自分は頷いた。

怪しげな小物が様々に置かれている後輩の私室。
彼女は裸の状態で床に複雑な魔法陣を描いていた。
というのも、ろくに腹も膨らんでいない状態では産めないから。

「―――なので、赤ちゃんには一気に育ってもらいます。これはそのための魔法陣なんですね」
速乾性のマーカーで線を引きながら説明する後輩。
しかし、成長促進なんてして本当に問題ないのだろうか?
フィクションでは、成長が止まらずそのまま老いてすぐ死んだケースもあるのだが。
「それは大丈夫ですよ。この魔法は成長促進じゃなくて時間加速ですから。
 単に私と赤ちゃんが一年分歳をとるだけです」
彼女は「これで先輩と同い年ですよー」と楽しそうに言って筆を進める。
そして数分後、マーカーのキャップを閉じてベッドの上にポイッと放り投げた。

「終わりました。後はこの魔法陣の上でセックスすれば赤ちゃんがどんどん育ちます」
そう言って後輩は魔法陣の中へ手招き。
彼女と同じく裸になっていた自分は男性器を勃起させてその中へ踏みこむ。
腕が届くほどの距離へ近づくと、彼女は両手を伸ばしてこちらの肩に優しく触れた。

「先輩、愛してますよ……」
何度かけられたか覚えていない単語。彼女はそっと微笑んでそれを口にする。
その様が普段と違う気がして、自分は疑問に口を開く。

どうしたのさ。なんか改まって。
「いえ、これで私も母親になるわけですから、ちょっと想うものがあるんですよ。
 三ヶ月……長いようで短かったですねえ」
そっか…出会ってまだその程度しか経ってないんだな。
彼女の言葉に四月からの出来事を追想する自分。
…………確かに幸せな日々だったけど、エロいことしかしてなかった。

「まあ、これからは三ヶ月なんてバカらしくなるぐらい一緒に過ごすんですけどねー」
声を普段の調子に戻して、かるーく言う後輩。
あまりに素早い態度の切り替えに拍子抜けする。
「では、始めましょうか。先輩が下になってもらえます?」
後輩は肩から手を離して床を指差す。
塗料は完全に乾いているので、特に異議を唱えることもなく自分は寝る。
そして腰の上に彼女が跨り、粘液を垂れ流す女性器をぬちゃっ…と開いた。
「じゃ、おちんちん入れますねー。
 ヤってる最中にお腹が膨らんだりしますけど、先輩は気にしないでいいですから」
彼女はそう言うと開いた穴の中へ男性器を飲み込む。
生殖器を介して自分たちは繋がり、魔力の循環が始まった。

股を開いた正座の様な姿勢で、体を上下させる後輩。
正確な体重は知らないが相当に軽く、重力に引かれるままに腰を落としてきても重いだなんて思わない。
彼女が腰を上げると熱い肉に擦られる快感と共に自分のモノが姿を見せる。
そしてバツンと腰を落とすと、乳房の震えと共に自分のモノが姿を隠し鋭い快感が走る。
自分はそれに熱い呼気を吐き、彼女の乳房をギュッと握る。
するとピンと立った乳首の先端からビュルッと母乳が噴き出た。

「あー、もうおっぱい出るようになりましたね。飲んでみます?
 たぶん牛なんかより美味しいですよ」
やや膨らんで丸みを増した胸。成長した胎児ですっかり出っ張った腹。
自分たちが交わり始めてからほんの数分。
そんな短時間の間で彼女の体は変化し、臨月の妊婦になってしまった。

「胎児って考えてたより重いんですねえ。子宮がズシッて下がっちゃってますよ」
膨らんだ腹の頂点、へその辺りを触れながら彼女は言う。
確かに言われてみると、最初に挿入した時と比べて膣の奥行きが狭いと感じる。
だがその行き止まりが突然開き、彼女は膨れ上がった子宮の中へ男性器を迎え入れた。

「せっかくだから、赤ちゃんにも見せてあげましょうね……」
肉厚の子宮口を抜けた先は熱をもった海。
羊水に浮かぶ胎児に先端が触れると、娘がピクリと体を動かしたのが分かる。
そして次の瞬間にはベロリという感触とお馴染みの快感。
これってまさか……。

「あら、この子ってばもう“おしゃぶり”を覚えちゃったみたいですね。
 産まれる前からお父さんのおちんちんをしゃぶるだなんて、本当にスケベな子ですねえ」
「流石は私の子ですねー」と嬉しそうに言う後輩。
いやもう、常識外の領域だと分かってはいるんだけど、まさか腹の中にいる子にフェラされるとは……。

液体に満たされた子宮の中では音は鳴らない。
しかし舐められるごとにピチャピチャという音が脳内で再生される。
顔さえもわからない実の娘。
そんな相手に男性器をしゃぶられ快感を受ける自分。
後輩は以前“もう堕ちるとこまで堕ちている”と言ったが、今の自分は本当に最底辺だ。
なにしろ成長した娘はどれほど気持ち良いのだろう、なんて考えてるんだから。

「……子供が舐めてると動けないですね」
上下運動を止め、深く腰を下ろした後輩。
さっきの嬉しがりはなんだったのか、彼女は快楽を感じられなくなると不満を露わにした。
だがそれでも自身を優先しない辺りはちゃんと母親だ。
自分は乳房を弄っていた手を彼女の尻に回して”よしよし”と撫でる。
それで少しは機嫌を直してくれたのか、纏う雰囲気が和らいだ。
そして間髪入れずに小さな口でカプッと噛みついて吸引する胎児。
赤子の口内にはとても収まらない量の精液が先端から迸った。

「あ、出しましたね先輩。飲み切れなくて零してますよこの子。
 娘のおこぼれというのはちょーっと気に入りませんけど、魔力はいただきます」
精液と共に彼女の子宮へ注ぎ込まれる魔力。
子供は必死に飲み込んでいるのだろうが、かなりの割合が口から漏れて羊水の中を漂う。
後輩はその“おこぼれ”から魔力を吸収すると一度立ち上がって身を離し、自分のすぐ横で膝をついた。
いったい何なのかとこちらも上体を起こし、自分たちは裸で向き合う。

「それじゃあ先輩、ちょうど良い時期まで加速したようなんで産みますね。
 ちゃんと見てくださいよ? 私から先輩の子供が出てくるところ……」
後輩は薄ら笑いを浮かべると、へそ付近に左手を当てボソボソと呪文らしきものを呟く。
その途端、女性器からボタボタッと色味がかった液体が零れ、魔法陣の上に広がった。

「子宮口が開きましたね。おちんちんでフタしてないから、中身がだだ漏れです……」
彼女は膝立ちの姿勢で床に零れていく羊水を眺める。
「あ……お腹が、ギュッてしてます……。赤ちゃんが、押されて―――あぅっ!」
話している途中で息を詰め背を丸める後輩。
産むのはやはり痛いのか? と一瞬心配したが、その顔に苦痛の色は一切見られない。
「痛いわけ……ないじゃないですかっ…! 気持ち良すぎて、どうにか…なりそうですっ!」
後輩は快感に身を震わせながら喋る。
苦痛の呻きを聞くよりはずっと良いが、快楽に喘ぐ出産というのもどうなんだろう。
いや、彼女が苦しまないのは何よりも良いことなんだけど。
「あっあっ、子宮口…伸びちゃってますっ! 頭が……頭がぁっ!」
男性器よりも巨大な胎児の頭部。それが子宮口を押し広げているらしい。
「ふ…ひっ……! 今度は、まんこが伸びっ……ひぃっ!」
モゴリッ…と下がった膨らみの頂点。どうやら胎児は無事に子宮口を抜けたようだ。
「せせっ、せんぱぃっ……! 赤ちゃんがっ…まんこの中、通ってますっ!
 こんな……太いなんて、まんこがっ…削れちゃいますよぉっ……!」
快楽が強すぎて腰を上げられなくなったのか、ドシンと彼女は床に尻を落とし寝転がる。
開いた穴がこちらの正面を向き、綺麗な色をした肉洞がさらされた。
「ん…ぁっ! 進んで、ますっ…! もう頭が…出ますよっ!」
彼女の膣内はビクンビクンと脈動し、子供を外界へと送り出す。
そしてヌルッと体液まみれで顔を出した娘を目にし―――自分は驚愕した。

まず綺麗に整った可愛らしい容貌。
これは母親が母親なのだから驚くには値しない。
次にショートヘア程度に伸びている頭髪。
胎児にしてはずいぶん長いと思うが、まだ常識の範囲内だろう。
だが、後頭部から生えている二つの長い角はどう見ても人外のそれだった。

「ああん、そんなショック受けないでくださいよっ!
 たしかに言ってませんでしたけど、私が人間じゃないぐらいなんだっていうんですかっ!」
実は人間でなかった後輩。
確かにショックではあるが、魔法を使う時点で普通でない事は分かっていたし、価値観の異様さはむしろ納得がいった。
それに彼女の愛は本物で、自分もそれに依存しているのだから、
いまさら人外だといって恐れたり、蔑んだり、逃げたりなんて出来ない。
「そうですよっ…! あなたはもう、私無しじゃ生きてけないんですからねっ!
 死ぬまで愛し合って―――あ、ぎ……ぐっ! あ…たま、抜け、ましたっ!」
言葉を途切れさせ後輩は息む。
裂けそうなほどに広がった膣口から子供の肩口が出て、そのままズズッ…とひり出されていく。
「もっ、もう出ちゃいますっ! あなたの子供、出ちゃいますよっ!
 出る……出るっ…! まんこから赤ちゃん出るぅっ!」
ビクン! と後輩が腰を上げた瞬間、子供はズルッと足先まで抜けてしまった。
羊水やら何やらの体液で濡れているフローリングの床。
その上にボテッと落ちた赤子には角に加えて、二枚の翼と矢尻型の尻尾がついていた。

……どう見ても女悪魔だコレ。
ケホケホッとむせて、肺の中の液体を吐き出す娘を見ながら自分はそう思った。



「はぁ……出産って気持ち良いですけど、すごい疲れますね……」
寝転がって呼吸を整えていた後輩。
彼女は上体を起こすと、股間から伸びている肉の管をズルズル引っ張り出す。
「産んだら邪魔物以外の何でもないですよねこれ。よい……しょっと!」
ベリッ! という痛々しい音を立てて引きずり出された胎盤。
しかし彼女は何も感じていないかのようにそれを床に放る。

「えーと、携帯はどこにやったか……あ、あった」
ベッド上に置かれていた後輩の携帯電話。
彼女はそれを掴むとこちらへ差し出した。

「撮影お願いします先輩。友達に送るから綺麗に撮ってくださいね?」
へその緒をダラッと伸ばした赤子を抱いて笑う後輩。
どうやら元凶の友人のように、彼女も子供を自慢する気らしい。
自分は携帯を受け取ると撮影モードを起動して、レンズを良い角度に合わせる。
小さなディスプレイに映るのは母親の胸に抱かれ、安らかな顔で眠っている娘。

……ああ、これは確かに可愛い。自慢したくもなるだろう。
子供を愛せるか心配だ…なんて悩んでいた数週間前の自分が酷いバカに思えた。

自分は娘をきちんと可愛がることができる。
娘も父親である自分を愛し懐いてくれることだろう。
そして小学、中学と成長した暁には―――。

育った娘との交わりに思いを馳せたら、萎えていた男性器が持ち上がった。
画面に映っている後輩がムッとした顔になったが、やれやれ…といった感じでまた笑顔に戻る。

自分は“はい、笑ってー”とお決まりのセリフを口にし、カシャッと撮影ボタンを押した。
13/06/04 18:14更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
勢いのままに最後まで書き切らないと失速すると改めて思い知りました。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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