「ふーん。つまりエンジェルをうまくたらしこんであいつを正式に勇者の後釜にしたわけね」
　ベルがふくれっ面でにらみつけてきた。
「別にたらしこンだわけじゃネェよ。単にアシュエルとスピエルが以外に話せるやつらだっただけだ」
　ベルの眉間のシワはさらに深くなった。
「へー。名前で呼ぶなんてずいぶん短い間に仲良くなったじゃない」
　ベルはオレをジト目でにらンできた。かなり不機嫌みてェだな。
「ただ話し合っただけだ。そンなにヤキモチやくなよ」
　オレの言葉にベルは顔を赤くした。
「や、ヤキモチなんてやいてないわよ！」
　あわてすぎだぞベル。それじゃヤキモチやいてるって言ってるよォなモンじゃネェか。
「でもこれで魔物たちは安全だよね。あれ以上にショボい勇者なんていないでしょ」
　クリスの言う通りあいつには史上最弱の勇者になれる素質があるな。あれに負けるよォじゃ完全に終わってるゼ。

「でもあれは一応次の勇者ですよね？少しは強くするために鍛えようとするのではないですか？」
　デビーが心配そォに言った。
「心配しなくてもあいつに見込みなンざネェよ。それにあいつを教えてきたやつらもこっちに回ってくるだろォゼ」
「どういうことですか？」
　デビーはわけがわからネェのか首を傾げた。
「考えてもみろよ。あいつの家は勇者の地位を買えるほどの大金持ちだ。当然金によりをかけて強ェ師匠に教えさせただろォさ。それにも関わらずあれってことは才能は皆無ってことだろォよ」
　まァやめさせられネェよォに強く指導しなかった方にも問題はあるかもしれネェがな。けどそれもあいつの腐り切った貴族のプライドが原因だしよ。学ぶ努力もしネェやつに実力がつくわけがネェだろォよ。

「しかもあいつは大勢の前で平民のガキにコテンパンにされたンだ。いくらオレが勇者だとは言ってもあまりにも無様な試合だった。本来なら聖剣を没収して勇者の地位を剥奪してェ所だろォよ。あいつの家もあンな家の恥さらし勘当してどこかに追放してェ所だろォさ。だがそれはできネェンだよ」
　オレの言葉にベルはハッとしたよォな顔をした。どォやら気付いたみてェだな。
「…あいつをハインケルの次の勇者にしろって言うのがエンジェルの、いえ主神の意思ってことになるからね」
　オレはベルの言葉にうなずいた。
「そォいうことだ。教団にとって主神の言葉に逆らうことは確実に処刑されるレベルの重罪だ。そォなると教団はどォすると思う？」
「…後釜に期待できない以上あなたが負けたら終わりますね。だからあなたが魔物に負けないように鍛えあげようとするってわけですか」
　その通り。オレが倒れなかったら使えネェスペア未満のジャンクなンざ出さなくてすむってわけだ。
「お兄ちゃんは最初から裏切るつもりだから、後には才能がない訓練不足の貴族のボンボンが残るってわけだね。お兄ちゃんえげつなさすぎるよ」
　クリスが呆れたよォな目で見てくる。
「ついでにあいつが確実に死んだということが証明されネェ限り次の勇者を選べネェよォにしてきた。ついでにアシュエルが様々な祝福を授けることと、人魚の血を内緒で飲ませることを約束してくれたゼ。これで当分の間この教団からまともな勇者は出せなくなったってわけだ」
　オレがそォ言うとデビーとクリスは呆れたよォな目で見てきた。
「さすがハインケル。いつも通りの外道ぶりね」
　ベルだけは仕方ないと言うように苦笑を浮かべるだけだ。
「さすが幼馴染だけあって慣れてますね。若干毒されてるみたいですし」
　デビーが生暖かい目を向けてきた。
『幼馴染って言うより夫婦の域だよね』
　シンカが楽しそォに爆弾発言した。
「ふ、夫婦？！も、もう。何言ってるのよシンカ」
　そォ言うベルは顔を真っ赤にして、照れくさそォに笑っている。
「お兄ちゃんも顔真っ赤だよー」
　クリスが余計なことを言ってきた。
「コホン。とりあえずあいつのことはこれで終わりだ。次に今後の方針を説明するぞ」
　オレは話をそらす意味も込めて自分の考えを言った。

　　　　　　　　つづく

■作者メッセージ
説明だけで終わってしまいました。次はもっと話が進められたらいいです。