読切小説
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『クロビネガの娘たち』
さあ、いらっしゃい、いらっしゃい!大将に勇者に、隊長さん!
『クロビネガの娘達』はここいらで一番の店だよ!
床上手の別嬪が、旦那方を待ってるよ!
さあ、いらっしゃい、いらっしゃい!
おお、そこの大隊長さん、どうぞいらっしゃい、いらっしゃい!
そう、そこの大隊長さん!
へ?俺は大隊長じゃない?ただの兵隊だ?
ははぁ、これは失礼。旦那の纏った気配が只者じゃなかったんで、つい大隊長と呼んでしまいましたあ。
それで、旦那さんはこれから何か約束が?無いのなら、これも何かの縁と思って、ちょっと中を見ていって下せえ。
何、ウチは入るだけ、見るだけならタダでございます。
さあさあ、奥のほうへずいっと、ずいーっと・・・




へへ、ようこそようこそ、『クロビネガの娘達』へ・・・。
ウチは選りすぐりの魔物娘を集めた、この界隈で一番の娼館でさあ。
ああ、ご心配しないでくだせえ。ウチの娘達はみぃんな教育が行き届いてますので、客を吸い殺すなんてことはありやせん。
もちろん、お客のことが忘れられず、ついて行くだなんてこともありやせん。
たった金貨何枚かで、魔物娘が極上の夜を旦那にさしあげまさあ・・・。
へへ、それでは口上はこれぐらいにして、空いている娘を紹介しまさあ。
お気に召したのがいたら、言って下せえ。



まずはこちら、ウチで一番のデカ乳の持ち主、ホルスタウロスでさあ。
でかい乳は両手どころか、腕まで使ってよっこらしょ、と抱えなければ持ち上がらないほど。
しかも乳を掴めばその柔らかさは、旦那がこんなにやわらかい物があったのか、と驚くほどでさあ。
勿論、お乳も出ます。あぁまくて、ぬぅくいお乳が、吸っても吸っても止まりません。
へえ、ウチでも人気の娘で、ひいきにしてる客が何人も・・・
え?そんなに人気なのに、何で空いているかだって?
ははぁ、そりゃ旦那の運がいいからでさあ。いつもならひいきの客が押しかけて、俺が先だ俺が先だの言い争いをやってやす。
さあさあ、こちらへどうぞどうぞ。『ホルスタウロス』の部屋でさあ。
え?確かに乳はでかいが、角は無いし尻尾もない、おまけに足首から先もない?
タダの乳のでかい女の足を切っただけじゃないか、だって?滅相もない。
へえ、これには深い事情がありやして、実はこの娘、反魔物派の連中にとっ捕まって、角と尻尾をもがれ、蹄になった足を切り落とされたのでさあ。
おかげで、ホルスタウロスの特徴は乳しかありやせんが、その乳は・・・
はあ、そうですかい。乳がでかすぎるのは苦手だと。
分かりやした。次の娘を紹介致しやしょう。






次の娘は、ウチでも五本の指に入るほどの人気の『リザードマン』でさあ。
ああ、ご安心を。リザード『マン』といっても、ちゃんとメスでございやす。
いわゆる、トカゲの魔物娘ですが、タダのトカゲと違って、温い血の通った温血動物でございやす。
しかもこの娘、元はリザードマンの家でも高名な家系の娘で、昔は人間様を見下していたほどです。
ソレが何の因果か娼婦に身を落とし、遠く離れて暮らす弟妹のためにこうして身体を売っている訳です。
ですが、本人は心まで娼婦になったつもりはないらしく、時々鋭い目でお客を睨むんです。
勿論、睨みはすれどもお客を傷つけるどころか、『サービス』がお粗末だったりするわけではありません。
むしろ、お客の中にはこの娘の『睨み』と『サービス』の腕前のギャップが、非常にそそるという声もありまして・・・。
そういうわけで、五本の指に入るほどの人気な訳でございやす。
さあさあ、ここが『リザードマン』の部屋でさあ。さ、奥へどうぞどうぞ。
あれ旦那、入り口で止まって、何が・・・。
え?『リザードマン』の特徴の尻尾は無いし、鱗も見えない、だって?
ははあ、これは旦那は博識だ。『リザードマン』の特徴をご存知だとは・・・。
いえいえ、別に騙そうとしていたわけではありやせん。正真正銘、この娘はリザードマンでさあ。
ただその尻尾を切り落とされ、身分を示す鱗を一枚残らず引き抜かれ、傷跡を焼き潰されているだけでさあ。
ほら、良く見ると化粧の下に火傷の跡があるでしょう。
そして、この娘がこうなったのには、聞くも涙語るも涙の、まっこと悲劇的なお話が・・・。
はぁ、火傷の跡があるだけじゃないか・・・。それに、一夜を共にするには少々目つきが鋭すぎる、と・・・。
わっかりやした。別の娘を案内しやしょう。



次に紹介いたしやすのは、人気は中ほどなれどひいきのお客が離れない、『ラミア』の娘でさあ。
この界隈より遠く離れた砂漠からきた、正真正銘のラミアでさあ。
腰を境に、美女の身体と蛇の胴がくっついた、魔物娘の中の魔物娘。
チロチロと長い蛇の舌は、接吻すれば舌に絡み、口淫すれば竿に絡むと人では絶対味わえない悦楽をもたらしやす。
そして腰から下の蛇の胴は、愛し合う男の体に巻きつき、すべすべとした鱗で男の肌を撫で回して天国へ導くと言い伝えられてやす。
まあ、ウチの娘は天国へ導くほどではないものの、口と舌は天下一品でさあ。
ひいきの客も、この娘の口と下の虜でございやす。
さあさあ、こちらが『ラミア』の部屋。奥で娘が旦那を待って・・・
え?ベッドの上に転がってるのは上半身だけ、腰から下はどうした、って?
ははあ、これはこれはついうっかり。この娘がこの界隈に流れてくるまでの話を忘れてやした。
この娘、都会にあこがれて砂漠を出たのはいいのですが、街に来るまでの駄賃として商人に鱗を何枚か取られたんでさあ。
おかげで鱗の傷が化膿して、三日三晩、生きるか死ぬかの境をさまよい、『足』を切り落として一命を取り留めたんでございやす。
でも足を切り落とすときに、舌を噛んでしまい、自慢の細長い舌もなくなって・・・。
あ、安心して下さい、旦那。下のない口での奉仕もなかなか乙なモンで・・・
はあ、上半分だけじゃ気分が乗らない、と。
分かりやした、次の娘ですね。




次は、一部のお客に根強い人気のある、『ハーピィ』の娘でさ。
ハーピィの軽くて細い身体は羽のようで、一度抱けば病み付きになるそうで。
それにウチのハーピィは童顔なのも相まって、子供を相手にしているようだとお客からは人気で・・・。
え?本当に子供なんじゃないかって?滅相もない。
この娘は十年前からウチで働いていまさあ。
ささ、こちらが『ハーピィ』の部屋でさ。
どうぞどうぞ・・・って、両腕は肘から先が無いし、両足も太腿の真ん中から下がないじゃないか、って?
へえ、旦那。実はこの娘の出身は、ダッハラトの向こうは大陸東部、ジパングに程近い土地でして。
何でもその土地では、『空を飛ぶもので食べないのは雲、足のあるもので食べないのはテーブルと椅子』という言葉があるほど料理が盛んだそうで。
それで、そこでは恐ろしいことに、魔物さえもバラして食べているとのことです。
特に、ハーピィの手羽と腿肉は絶品で、このように手羽と腿を取った残りが安値で売り出されるそうで。
勿論そのままでは、残りの部分も美味しく食べられていたのでしょうが、ウチの主人が哀れに思ってこの娘を買い付け、連れて帰ったのであります。
おかげで、ハーピィの特徴である翼と足は無くなりましたが、この軽くなった身体はお客が思い通りに扱えるということで人気で・・・。
へ?子供過ぎる上に、手足の断面が気になって仕方がない?実は手足を切り落としただけの子供だろう、だって?
旦那、さっきも言ったようにこの娘は十年・・・へえ、かしこまりました。
次の娘を案内しまさあ。





旦那、次が正真正銘、真実真証の『クロビネガの娘達』の随一の娼婦でさ。
ホントは今日のところは休みなんですが、お目が高い旦那のために特別案内いたしやす。
『クロビネガの娘達』の随一の娼婦は、『デュラハン』でさ。
ん?旦那、どうしやした?
へ?デュラハンなんて危険な魔物をよく娼婦に出来たな、だって?
へへへ、流石は旦那、博識ですなあ。
ご安心を。ウチのデュラハンは良く出来ていますから。
旦那ならご存知でしょう。デュラハンは首が取れると好色になり、アレのこと以外何にも考えられなくなる、って。
そいつを少々応用したまででさあ。
それに、毎日ホルスタウロスのお乳を飲ませてやってるから、普通のデュラハンより乳の方もでっかくなっとります。
その上、この娘はついこないだまでウチで働いていたサキュバスから、直々に男の悦ばせ方を学んだもんです。
飲み込みも早いおかげで、デュラハンだというのにサキュバスぐらいの床上手、というわけでさあ。
それに、この娘もリザードマンと同じく実は名のある家の出身で、元は魔物の軍団で人間を狩って回っていたそうです。
それが何の因果か、今ではタダの娼婦。
この間まで狩って回っていた人間に奉仕し、人間様に組み伏せられて悦んで『お仕置き』を受ける、と言うのはなかなかそそるでしょう・・・へへへ。
さあさあ、ここがデュラハンの部屋でさ。
ちょっと待ってくださいね、今明かりを着けやすから・・・。
さあ、これがウチの随一の娼婦のデュラハン。
むっちりとした尻に、大きな乳。腹はきゅっと締まっているて、肌はきめ細かい。
戦場でウッカリ頭を落としてしまい、今も見つかっていませんが、どうです、なかなかのもんでしょう・・・って、旦那!旦那!
何を慌てて走って・・・あ、旦那!違うんです、これは違うんです!
この娘、本当に戦場で頭をなくしただけでさあ!別に首を切り落としたわけではありやせんから、旦那!旦那ぁ!!



あーあ・・・行っちまった・・・。

10/10/07 12:21更新 / 十二屋月蝕

■作者メッセージ
どうも、十二屋です。
ふと思いついたネタを文章化してみました。
図鑑世界には、こういう風にタダの女性に手を加えて、傷物の魔物だとするところぐらいあるんじゃないかなと思いました。
ごくごく短い作品でしたが、お楽しみいただけたでしょうか。
とりあえず、今回は語ることもないので、このぐらいにしておこうと思います。
十二屋でした。


追伸
井上雅彦先生はやはりすごい方だと思います。

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