連載小説
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聖夜癒傷
さて、これで三つ全てを見たわけだけど……
まぁ、結果は変わらず、正孝くんはハッピーエンドを迎えたね。
これで、どんなに運命の歯車が変わろうが人への影響が少ない、というのは立証出来たね?
……ふむ、まだ納得いかない子がいるのかい?
では、まだ時間に余裕があるし、もう一つ、彼の話を見せようじゃないか。
今回は、彼とは初対面の人の話になる。
つまり、元々は関わるはずがなかった人の歯車を組み合わせることで、どう変化するのか見る……と言ったところかな?
あ、ちなみに最初の方は歌姫の子の話と全く同じだから、彼が二次会に行かず、帰宅するところから始めるからね。
めんどくさがったとか言わない。
本当に何もかも一緒なんだから、省略してもいいだろう?
え?そしたらその前の話だってそうじゃないか?
……いや、あれは細かいところが違う……
ああもういい!!
とにかく、始めるよ!!


××××××××××××××××××××××××××××××


カラオケが終了し、皆が二次会に居酒屋に移動する中、僕は一人帰路についていた。
理由は簡単。どうせ二次会に行ったって合コンみたいになるだけだからだ。
恋愛とかそういうのは完全に諦めてる僕からしたら、合コンなんてものには付き合う気になれない。
……にしても、本当に寒いな……
雪でも降ってきそうなくらいだ。

「寒い寒い……!!」

わざわざ口に出しながら僕はコートのフードを被って歩く。
……と……

「……ん?あれは……人……なのかな?」

僕の視界に、路上に寝転がってる……というか、倒れてる女性が見えた。
いや、壁に寄りかかってるから、座ってるようにも見えるかな?
ともかく、僕はその女性に近づいて、様子を見る。
わかったのは、その女性がとても綺麗なことと、今は気を失ってること、そして……

「……酒臭い……」

酔っ払ってること……
やばい、匂い嗅ぐだけで酔いそうだ……
この人、いったいどれだけ飲んだんだ……?
いや、ともかく、ここはほうっておくことにしよう。
と、思ってその場を去ろうとすると、雪が降ってきた。

「………………………………」

このままでも、少しの間はほうっておいても彼女は平気だろう。
平気……だろうけど……

「あー…………うー……」

散々悩んだあげく、僕は路上に寝転がってる彼女を背負って、自分の家まで連れて行くことにした。
まったく、僕はお人好しな気がしてきた……
別に彼女がそのまま雪の中で転がってたって、自業自得なんだから関係ないはずなのに……
でも、自分の家まで連れて行く。
はぁ……まぁ、でも仕方がない気がする。
それが僕なんだから……


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「ただいま」
「あら、お帰り。遅かったわね」
「メールで伝えたでしょ?クリスマスパーティーやってたの」
「……ああ、そうだったわね。……ん?その子は?」

家に帰ると、居間に母親がいたため、軽く話し……て、僕が背中に背負ってる彼女の話になった。
ああ、予想はしてたけど、なんて言えばいいかな……?
……まぁ、ない頭絞って考えるより、普通に説明した方がいいか。

「いや、路上に寝転がってるところを拾ってきた。雪降ってきて、寒そうだったから……」
「あら?雪が?まぁ、それならしかたがないわね」

あ、いいんだ、そんな理由で?

「とりあえず、制服着替えちゃいなさい。お風呂いれちゃうから。その子は……まぁ、適当に寝かせておきなさい」
「はいはい。了解」

そしたら、僕の部屋で大丈夫なのかな……?
そんな心配をしながら、僕は居間から自室に移動するのだった。
机にソファ、ベットにコンポにテレビという、ごくごく普通の部屋が、僕の部屋だ。
自室にはいると、僕は女性をベットの上に寝かせて、制服を着替えてしまうことにした。
まぁ、目覚める前に着替え終わってしまえば見られる心配もあるまい。
そう思って、僕は早々に着替えていく。
が、しかし……

「う……うぅん……?」
「あ、やべ……」

僕が着替えている途中で、彼女は目覚めてしまった。
今の状態見られたら、なんか変態に連れ去られたとか勘違いされるだろうな……
いやまぁ、路上で倒れてたから自業自得だとは思うけど。
でも、なんか暴れられたりしたらこっちが悪いみたいなことになりそうだし……
などと考えているうちに、彼女はむくりと起き上がり、こちらを見てきた。
……ちなみに、いま僕は上半身は裸状態。
した着替えたけど、こっちは間に合わなかった。
うーん、これは詰んだかな……?

「……え、えと、起きたんだ?」
「……あの、ここっれどこですか?」

あ、まずそこを訊くのね?
あと、ちょっと呂律が回ってませんよ?
まぁ、ともかく、僕は上も着替えてから、僕は彼女の質問に答えることにした。

「ええと、ここは僕の部屋で、君、僕が帰ってる途中で路上に倒れててね?雪も降ってきたし、一応僕の部屋に連れてきたの」
「そう……なんれすか。あ、あなたは……?」
「うん?僕?僕は方丈 正孝。近くの高校の生徒だよ」
「……ああ、私と同じ高校生れすか……」

ふむふむ、同じ高校の生徒なのか……
まぁ、美人だけど僕と同じくらいの年に見えるしさほど驚くことではない。

「あ、わらしは三年、中月 雪野(なかつき・ゆきの)……雪女れす……」
「あ、同級生なんだ?よろしくね」
「同級生なんですかぁ……?」

ああ、なるほど。暗くてよく見えてなかったが、たしかによく見ると、彼女は雪女の特徴である青い肌を持っていた。

「……あ、すみません……ベット、占領しちゃってたんれす……ね?」

ベットから降りようとしたところ、中月さんが倒れそうになったにで、僕は彼女を支える。

「っとと、まだ酔いが冷めてないんだな。しばらくはそこで休んでていいから、今は安静にしてて。落ち着いたら、いろいろと訊こうと思うから」
「はい……すみません……」

そして、またベットに寝かせてから、そう言う。
一応、なんであんなところに倒れてたのか、気になるしね。
酔いが冷めたころにでも、訊いておきたい。

「いいっていいって。気にしないで。じゃあ、僕は風呂入ってくるから、おとなしく安静にしてて」
「わかりました……」

もうそろそろ、風呂が湧いたころなので、僕は風呂場に向かうのだった。
……風呂から上がったら、飲み物用意して、あとは……そうだね。すこし頼もうか……


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「お待たせ。もう酔いの方は平気かな?」
「あ、はい。すみません、ご迷惑をおかけして……」

風呂から上がり、母親に頼んでから、飲み物を持って自室に戻る。
彼女は、ベットから降りてテーブルの前に座っていた。
どうやら、完全に酔いは冷めたようだ。
さっきよりも口調がはっきりしている。

「いやいや。まったく問題ないよ。はいこれ。お茶でよかったかな?」
「あ、はい。大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

テーブルの上にお茶の入ったコップ(もちろん、寒いのでお茶は温かい)とポット(もちろんこちらも暖かいお茶入り)を置いて、僕はテーブルの前、彼女と向かい合うように座り、お茶を飲む。

「あ、風呂湧いてるから、入りたかったら入ってもいいよ?」
「いえ、今はちょっと……」
「そっか。……じゃあ、話、訊いていいかな?」
「……ええ。大丈夫です。酔いも冷めましたし」

話すためなのか、さっきまで足を曲げて体育座りみたいに座っていた雪野さんは、座り方を正座に変えたので、僕は慌てて普通にしていいよと彼女にリラックスするよう言った。
いやはや、礼儀正しい人だな……
まぁ、ともかく、話を訊くことにしよう。

「じゃあ、訊くけど、どうして路上なんかに倒れてたの?」
「……あれは……その……」
「あー、答えづらいようだったらいいよ、答えなくて」

答えようとする彼女の顔が暗くなっていったため、僕はそう言った。
誰しも、あまり言いたくないことの一つや二つ、あるだろう。
僕は、あまりそういうのは無理に聞き出さない。
下手すれば、相手の傷を抉るようになってしまうからね。
と、僕の言葉で、彼女の表情が和らいだ。

「……クスッ……お優しいのですね」
「いやいや、そんなことないよ」
「…………私、彼氏にフられちゃったんです……」

急に語り出した彼女の話は、やっぱり重いものだった。

「今日、放課後呼び出されて、一緒にクリスマス過ごしたいなぁ、って思ってたら、いきなり……」
「………………それはまた……なんで?」
「……お前は重いって。付き合うには重すぎるって……」
「…………………………」

魔物図鑑、雪女の項参照。
……たしかに、雪女という種族共通の性格、献身的な部分は、場合によっては付き合う者にとって重く感じるだろう。
でも……

「そしたら、“氷の吐息”でつなぎとめられたんじゃないの?」
「……出来るはず、ありませんよ。彼に、新しく好きな人がいたんですから……」
「……奪い返そうとは、思わなかったの?」
「……彼が、彼女を選んだんです。私に、彼を奪い返すことは出来ません……」
「……君は、優しいんだね……」
「……そんなこと、ないですよ……」

恋人の意思を尊重し、自分は身を引く……
優しいけど……かわいそうな人だ……
泣きそうな顔をしながら答える彼女の姿を見て、僕はそう思った。

「そして、そのあと、友人達とお酒を呑んでしまって……そのまま帰りに……」
「酔って倒れた、と。なるほど」
「ええ……」
「……やっぱり、君は優しいよ。そして、強くもある。……少なくとも、僕よりは、ね……」
「え……?」
「僕はね、色恋事情、全部諦めてるんだ。恋なんて一回もしてないのに、ね。なんでかわかる?くだらない理由だよ……」

彼女にばかり辛い話はさせたくない。
とばかりに、僕は話す。

「くだらない理由……?検討がつきませんね……なんですか……?」
「傷つくのが怖いから、だよ。くだらないだろ?なんの行動もしてないのに、嫌われて傷ついてしまうのが怖い……まったく、ヘタレてるんだよ。逃げてるんだよ。僕は……情けない……」
「……そんなこと、ないと思いますよ。たしかに、逃げてるかもしれませんが……それでも、あなたはそれに気がついている。まだ、変えようはあります。だから……」
「……ありがとう。やっぱり、君は優しいね……」

半ば投げやりに答えた僕の話に、彼女は優しく慰めてくれた。
本当に、優しくて、強い子だ……

……もしかしたら、この人なら……
「え?何か言った?」
「い、いえ。なんでもありません。そ、それより、こんな時間までお邪魔してるのは申し訳ないので、そろそろ……」
「ああ、それなら……」
「おまたせ〜!!」

出て行こうとする彼女を止めようとしたときに、ちょうど母親が布団を持って部屋に突入してきた。

「あ、あなたはお風呂は入りにいっちゃって。着替えは用意してあるから。あ、場所分かる?ここから階段降りて……」
「え?え?」
「……おい、母さん、ちょっと待て」

どんどんまくしたてて話す母親に、雪野さんは状況が分からず、混乱した。
なにが起こってるのかわかってる僕も、少しだけ動揺しながら、まくしたてる母親を止め、理由を問う。

「なんで、僕の部屋に、布団を持ってきたのかな……?いや、たしかに泊めないかとは言ったけどさ……」

そう。僕は彼女を家に泊めようと母親と相談した。時間的にもあれだし、まぁ、本人がいいなら多分大丈夫だろう、ということで、オッケーをもらい、準備をしていたのだが、まさか僕の部屋に布団を持ってくるとは……
と、そこまで考えて、僕は彼女にさっき言おうとしたことを言う。

「あー、ごめん雪野さん。さっき言おうとしたんだけどね……あのさ、時間も時間だし、今日はうちに泊まっていかない?もちろん、そっちになにも問題なければだけど……」
「あ、いや、私は一人暮らしなんで問題はないですが……しかし、そこまでお世話になるのは申し訳ないような……」
「あー、いーのいーの。問題ないわよ〜そこらへんは気にしないで〜ぬふふふふ……」
「じゃ、じゃあ、お世話になります……」
「は〜い。ぬふふふふ……」

申し訳なさそうに言う雪野さんに、母親はニコニコニヤニヤしながら答える。
若干母親の様子に引きながらも、彼女はうちに泊まることにきめたらしい。
……そしたら……

「母さん、笑い声が怪しいよ……あと、布団は別の場所に置いてくれないかな?普通に男女一組が同じ部屋で寝るって言うのは、マズイでしょ?僕はいいけど、雪野さん嫌だろうし……」
「あ、私なら大丈夫ですよ?」
「雪野ちゃんがいいなら、なんの問題もないわね。じゃあ、ここに置いていくわね〜。正孝、雪野ちゃんがあがってくるまでに敷いときなさいよ〜。じゃあ、私は下にいるから〜」

そう言って、母親はニヤニヤしながら部屋を出ていった。
残ったのは、僕と雪野さんの二人……
いや、というか雪野さん、女性が簡単に男と同じ部屋で寝ちゃいかんだろ……

「……なんというか、嵐みたいでしたね……」
「……ごめんね、なんか……」
「いえ。大丈夫です……あ、お風呂、入りにいっちゃいますね」
「あ、うん。行ってらっしゃい」

雪野さんが部屋を出たところで、僕はたため息をついてしまった。
いや、たしかに僕は何かする気ないけど、それでも部屋はべつべつにするべきだろう……
今更ながら、僕は後悔していた。
まさか、雪野さんまで一緒の部屋なのを了承してしまうとは……

「はぁ……」

僕はまたため息をつく。
……まぁ、今更なに言っても仕方がない。
彼女が風呂から出てくるまでに寝よう。
そう思って、僕は布団を敷いて、眠り始めるのだった。


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「…………あれ?おやすみになられたのですか……?」

部屋に入ってすぐに、彼女は僕の様子を見て言う。
しかし、僕は答えない。
寝ているからだ。

「……じゃあ、私も寝ますね……ええと、これを使ってもいいのでしょうか……?……いいん……ですよね……?じゃあ、おやすみなさい……」

そう言って、彼女はベットの中に入って眠り始めた。
……結局、眠れなかった。
一応、彼女が安心して眠れるように答えなかったが、まぁ、眠らなかった。
なぜか。理由は簡単。眠れなかったから。
いや、異性と同じ部屋で寝ることになって普通に眠れる方がおかしいと思う。
……ただ寝ているだけなのもつまらないな……
しかし、何か動いて彼女に誤解されてはまずい……
ふぅむ……やっぱり、寝るしかないなぁ……

「……暇だな……」
「……クスクス……起きてるじゃないですか」
「の!?」

僕のつぶやきに雪野さんが反応したので、僕は驚いて雪野さんの方を見…………

「にょわっ!?」
「なにもそんなに驚かなくても……クスクス……」

たところで、彼女の顔が目の前にいて僕はまた驚いた。
つまりは、彼女は僕の隣で寝転がっていたのだ。

「な、なんでここに?というかいつの間に!?」
「えと……その……やっぱりベットを使ってしまうのは気が引けちゃって……」
「いや、いいよ。ベットは使っても」
「そうですか……それにしても、さっきの驚き方は少し面白かったですね」
「……むぅ……あまり言わないでもらうと助かります……」

たしかに、あのときの声は面白かった。
にょわっ、なんて普通は言わないしなぁ……

「クスクス……そうですね。ところで、なぜ先ほど声をかけたときには応えなかったのですか?」
「あー、いや、普通に僕が起きてたら雪野さんが不安で眠れなくなるかな、と思ってね……」
「……本当に優しいんですね……」

クスクスと笑いながら、彼女は僕のことをまっすぐ見る。
そして、少し恥ずかしそうに、少し躊躇しながら、僕に頼みごとをしてきた。

「あの……少しの間だけ、一緒に寝てもらっても、……よろしいでしょうか……?」
「え……?」

彼女の頼みごとに、僕は動揺する。
しかし、すぐに思い出す。
そういえば、彼女は今日、ふられたばかりで酒を飲んで忘れようとしたんだ。
今はまだ、悲しい気持ちが消せなくて、きっと……
それに、一度人の暖かさを知った彼女達雪女は、もう、人の暖かさなしでは、きっと生きていけない……
なら……僕の取れる選択肢は一つだけ。

「……背中だけなら、かせる……かな?」
「ふふ……本当に、優しいです……」

答えて、すぐに背中を向けて布団に寝転がった僕を見て、彼女は小さく笑いながら、僕の背中に自分の背中をつけて寝転がる。
背中に彼女を感じる。
少しだけ冷たい彼女の体温。
それは、悲しそうな彼女の心を表しているようだった。

「……きっと、貴方なら……」
「??何か言った?」
「……いいえ。なにも」

彼女が何か言ったので、気になって僕は訊いてみるが、彼女ははぐらかす。
うむぅ、気になる……
って、あ、そういえば……

「明日、学校あったよね。荷物とか、大丈夫なの?」
「大丈夫です。学校に置いてありますから」
「そっか。それはよかった……」
「「…………………………」」

それだけ言って、僕達の会話が終わってしまった。
沈黙が僕の部屋を包み込む。
彼女の口は開かない。
僕の口も開かない。
感じるのは、徐々に暖かくなっていく彼女の体温だけ。
そしてそのまま、僕は眠りに落ちていくのだった……


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まぶたの裏に光がさして、僕は目が覚めた。

「う、ん……」

体に少し違和感を感じる。
たしか、昨日は……
昨日、正確には昨夜のことを思い出し、僕は自分の隣を見る。

「……あ、やっぱり……」

隣には、雪野さんが寝ている。
やはり、昨日のことは夢じゃなかったのか……
急に、胸が動悸が起きたみたいになる。
ドキドキと。
緊張してる……
いや、当たり前だ。
いくら色恋を諦めたって、僕は男なんだ。
緊張しないわけがない。

「……うん……?」
「あ、起きた?おはよう」

いろいろと感情を制限して、僕は起き出した雪野さんに挨拶をする。

「……あれ?ここは……あ、そうだった……おはようございます、方丈さん」
「うん。よく眠れた?」
「はい。おかげさまで。お世話になりました」
「いやいや。全然問題なかったよ。さ、母さんが朝食作ってるだろうから、先に下に降りてて」
「はい……」

彼女を下に行かせ、僕は即行で制服に着替えて、朝食を食べに下に降りるのだった。


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「では、お世話になりました」
「いえいえ。大丈夫よ。また遊びにいらっしゃい」
「じゃあ、行ってくるね」
「はいはい。行ってらっしゃい」

朝食を食べ終え、僕達は学校に向かうことにした。
まだ登校するには早い時間なのだが、雪野さんは制服を家に置いているため、行く前に雪野さんの家に行って彼女が制服に着替えるためだ。

「そういえば、ここは学校からどれくらいなんですか?」
「うーん、そんなに離れてないかな?商店街近いし、だいたい、歩いて二十分ちょいってところ」
「商店街の近くというと、私の住んでる場所の近くですね。私は、商店街近くのアパートで暮らしてるんで」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、商店街向かえばもう道はわかるね」
「はい。そうですね」

そんなたわいない話をしながら、僕達は商店街に着いた。

「さてと、じゃあ、もう家近いだろうし、僕は行くね」
「え?一緒に行かないのですか?」
「一緒にいても僕にできることなさそうだし、女の子の着替えに着いて行くわけには行かないし、何より、一緒に行ったら雪野さんが誤解されちゃうでしょ?だから、僕は先に学校に行ってるよ」
「そう……ですか……」

そう言って、僕は彼女と別れ、学校に向おうとする。
なぜか去りぎわに彼女は少し悲しそうな顔をしたけど、たぶん一人きりになるのが寂しかっただけどろう。
それはそれでついていった方がいいかもしれないけど、流石に女性の住居に行くというのは気が引ける。
と、そんなことを考えながら歩くと

「あの、方丈さん!!」
「ん?なに?」

雪野さんが呼び止めてきた。
なんだろうと、僕は振り返り、彼女の話を聞く。

「えと、その、放課後、校門前で舞ってもらえませんか?あの……昨日のお礼がしたいので……」
「え?あ、うん。わかった。放課後校門でね?」
「はい。お願いします」
「別にお礼なんていいのに……まぁ、好意には甘えさせてもらうけど。じゃあ、また放課後に会おうね」
「……はい!」

放課後に待ち合わせ。
なんというか、青春みたいな感じがするな……
まぁともかく、そんな約束をしてから、僕は今度こそ学校に向かうのだった。


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そして放課後。約束なので僕は校門前で雪野さんを待っていた。
僕のクラスは他より早くHRが終わったため、少し待つ羽目になっている。
けど、こういうのは少しいいな、と僕は思っていた。
なぜなら、そういうのは僕じゃなかなか体験出来ないことだろうから、だ。
色恋は諦めているが、彼女が欲しくないわけではない。
だから、少しそういう気分に浸っても、罰はあたらないだろう。
と、そんなことを考えながら待っていると、よく見知った三人が、校門を通ってきた。

「あれ?京介に委員長に……副委員長か。珍しい組み合わせだね」
「お、マサ。なにしてんだ?」

京介に、委員長に、副委員長。
放課後に、この三人が揃っているのは珍しかった。
……いや、京介と委員長だけなら、おかしくはないな。
付き合ってるんだもんな……
京介と委員長が付き合うことになったと言う話は、朝早くから京介から聞いた。
というか、かなりの頻度でデレっとしていた。
その度に、委員長と恋仲になったことを自慢していた。
うざったいことこの上なかった。
まぁそんな感じだったため、放課後に二人でデート、なんてのは簡単に考えつく。
のだが、そこに副委員長が加わると話は別だ。

「いや、人と待ち合わせだよ。そっちは……二人ならデートだと思ったけど、どうやら違うみたいだね」
「そうなんだよ……放課後長門とデートしようと思ったのに、こいつが乱入してきてさぁ……」
「別にいいじゃねーかよ。一緒に買い物に行ったって!」
「すまないな、京介。今日ばかりは、買うものが買い物だからな……」
「まぁ、いいけどさ……ところで、何を買いに行くんだ?重い物なのか?」
「オレを見て重い物とか言うな。結構ショックだぞ……あー、買うのはあれだ。洋服さ」
「…………ああ、なるほど、そういうことか」
「?なんで服なんか?」
「そりゃあ二人っきりのデートの時の勝b……痛っ!?」
「それ以上言ったら……分かるな?」
「ははは……京介、今日くらいは勘弁してやれよ。そうすりゃ、後々でいいことあっから。それに、二人っきりでデートする機会なんていくらでもあるだろう?お前ら、付き合ってるんだから」
「うーん……まぁ、そうだな。じゃあ長門、行こうぜ」
「ああ、そうだな。真紀、行くぞ」
「はいはい。じゃあな、マサ。また……来週だな」
「うん。また来週」

そう言って僕は委員長達と別れる。
……でも、なんで服を買うのに副委員長を呼ぶんだろう……
どうせだったら、そういうのに詳しそうな村紗さんを呼べば良いのに……
と、そんなことを考えながら三人を見送っていると、三人と入れ違いに、雪野さんが走ってやってきた。

「す、すみません。掃除してたら遅れてしまいました……!!」
「いいよいいよ。さっきまで友達と話していたし。……というか、大丈夫?結構息上がってるよ?」
「だ、大丈夫です……少し急いで走っただけなんで。……それよりも、行きましょう。私に着いてきてください」
「行くって、どこに向かうの?」
「え?私の家ですけど?」

…………え?


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「さ、どうぞ入ってください」
「えーと、じゃあ、お邪魔します……?」

結局、朝なんだかんだ言って行かなかった彼女の住居に、僕は入った。
本人曰く、お礼に夕食をご馳走してくれるらしい。

「なにもないところですみませんね」
「いや、女性の部屋に入ったのは始めてだから、確実には言えないけど……別にそうでもないと思うよ?」
「ふふふ……ありがとうございます。さて、じゃあ夕食を作るんで、適当にくつろいでいてください」
「うん。わかったよ」

台所に雪野さんが向かい、僕は適当にソファに座る。

「…………………………」

いや、適当にくつろいでいてくださいと言われても、女性の住居には初めて来るから、緊張してなにかしてないと落ち着きそうにないんだよな……
かといって、なにかやることも無いし……
とりあえず、母親に夕食は作らないようメールで伝えておこう。

「……………………送信、と……」

……終わってしまった。
これは……本格的になにもやることがなくなってしまった。

「…………」

落ち着かない……
なんか、そわそわしてしまう。
なにか良い暇つぶしはないだろうか……
……あ、暇つぶしじゃないが一つあったな。
そう思って、僕は雪野さんのいるキッチンに向かう。

「あら、方丈さん?どうかしましたか?」
「いや、手伝うことないかな、と思って」
「あ、いいですよいいですよ。そんな、方丈さんはお客さんなんですから、くつろいでいてください」
「いや、なんかしてないとちょっと落ち着かなくて……なんでもいいから、手伝わせてくれない?」
「そうですか……なら、申し訳ありませんが、これを切ってもらっていいですか?私は火加減を見ますんで」
「ん。了解。これは……ざく切りでいいのかな?」
「はい。お願いします」

とりあえず、僕は雪野さんの手伝いをして時間を潰すのだった。


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「さて、ではいただきましょう」
「そうだね。いただきます」
「はい、召し上がれ」

料理が完成し、僕と雪野さんはテーブルに向かい合って座り、夕食を食べ始める。
メニューは、肉じゃがや野菜炒め、味噌汁など、一般的な家庭料理が多い。
一口僕はまず肉じゃがをいただく。

「うん。うまい!!」
「ほっ……それはよかったです。お口に合うかどうか、心配だったんですよ」
「いや、雪野さん料理上手だね。本当にどれも美味しいよ」
「ありがとうございます」

一口食べてから、僕の箸はどんどん進む。
本当に美味しい。
しかも、温かみのある料理だ。

「今日はありがとうね。こんなに美味しい料理、初めてだよ!」
「ふふふ……それはよかったです。…………方丈さんがよろしいのであれば……毎日でも作って差し上げますよ……」
「え…………?」

彼女の言葉に、僕は箸を止め、顔を上げた。
そこには、顔を赤らめ、下を向いていた雪野さんがいた。
そして、彼女はハッとしたように顔を上げて、なんでもないと言う。
いやでもたしかに……
しかし、彼女はなにも言ってないと言うし……
やっぱり、気のせいなのかな……?
うん。気のせいだ。そう結論づけて、僕は箸を再び動かすのだった。
そして、だいたい三分の二ほど食べたところで、僕の携帯が鳴った。

「ん?誰だろ……って、なんだ、母さんか……」
「何かあったんですか?」
「いや、夕飯はいらないってメールで送ったんだけど、その返信が今返ってきたところなんだ」
「そうなんですか」

さて、内容は……
なになに?
“了解。じゃあ、楽しんでらっしゃい。ごゆっくり〜。じゃあ、雪野ちゃんによろしくね〜”
……なんであいつは僕が雪野さんといることわかったんだ!?
いや、予想はつくか……
にしても、何を言ってるんだか……

別に彼女ができたわけでもないのに……
「どうかしましたか?」
「いや。ただ母親が余計なことを書いただけだよ」
「なんて書いてあったんですか?」
「なんというか、本当に余計なこと。読む価値もないよ。さて、じゃあ食べちゃおうかな」
「そうですね」

雪野さんから携帯を隠すようにしまって、僕は料理の残りを食べ始めたのだった。
そして、すぐに残りを食べ終える。

「ご馳走様。美味しかったよ」
「お粗末さまです。お口にあったようでよかったですよ」
「うん。さて、じゃあ片付け、手伝うよ」
「ああいえそれは…………わかりました。じゃあ、お願いします」

僕が手伝いを進言すると、彼女は断ろうとして、さっき僕が料理を手伝った理由を思い出し、了解した。
台所に食器を持っていき、二人で洗い始める。

「にしても、方丈さんは無用心ですね」
「何を突然言うかな?それに、どういう意味?」
「いえ、なんの躊躇、考えもなく魔物の住居に入ったんですよ?襲われたって仕方がないじゃないですか」
「うーん、そうかもね。でも、雪野さんは知り合いだし……と言っても、昨日会ったばかりだけどね……大丈夫だと思ってるよ」
「……それは嬉しいですけど……でも……」
「うん?」
「なんでもありません!」

どうやらなにか怒らせてしまったようだ。
うーん、なにが悪かったんだろう……
少しむすっとした雪野さんを見ながら、僕は頬をポリポリとかいて怒らせた原因を考えてみたけど、結局分からずじまいだった。


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「さて、と、じゃあ、そろそろお暇しようかな?」

食器の片付けも終え、僕はそう言って荷物をまとめ始める。

「え……?もう少し、ゆっくりしていっても良いのですけど……?」
「いや、流石に女性の部屋にいつまでもいるっていうのは、少し問題でしょ?」
「いえ、私は大丈夫ですから、もう少し……」
「それに、夕食ご馳走になってさらにこれ以上迷惑をかけるのはね……」
「それも大丈夫です!手伝ってもらいましたし……」

うん?なんかえらく強く僕にここに残させようとしてるな……?
でも、さすがにこれ以上いるのはな……

「でも、やっぱり迷惑をかけるのは駄目だよ……」

そう言って、僕は荷物を持って外に出ようとする。
と……

「待ってください!!」
「え……?」

突然、雪野さんが後ろから抱きついてきた。

「え?ちょっ雪野さん!?」
「……だから、言ったじゃないですか。あなたは無用心だって……」
「え?」

抱きつきながら、彼女は僕に言う。

「私だって、魔物なんですよ……?人を、襲っちゃうんですよ?あなたは、無用心です……」

ギュッと、その暖かさを全身に感じるように雪野さんは僕を抱きしめる。

「……でも、それはその人が好きになったから、でしょ。君には好きな人がいる。なら僕は……」
「その彼には、フられてしまいました。それに、あなただから、私は襲うんです。これ以上、なにかいう必要はありますか?」
「…………はははは……まさか、僕に好意を寄せてくれる酔狂な人がいるなんてね……」

雪野さんの言葉に、僕は自重気味に笑った。
まさか、僕のことを好きになってくれる人がいるなんてな……
まったく、考えつきもしなかった。
でも、やっぱり嬉しいな……

「そんな言い方、しないでください。その言い方は、あなたを好きになった人のことを侮辱してます……そしてなによりも、自分自身を傷つけてしまいますから…………」
「雪野さん……」
「……あの時、傷ついていた私の心を、あなたは優しく温めてくれて、癒してくれた。何気ない、ちょっとの気遣いでも、私にはとても嬉しいことだった。だから、私はあなたを……好きになった」
「たった、一日だけなのに?」
「そう。そのたった一日、あの時だったからこそ、私はあなたを好きになった。あの、一番誰かにいて欲しかった時に、あなたがいてくれた。それは、私にとっては、とても、とても、それこそ、一番、大切なことなんです」

抱きしめる力を少し強めて、雪野さんはそういった。
雪野さんの少し冷たい体温を感じながら、僕は覚悟を決めて、手に持っていた荷物をおろした。

「……僕なんかで、いいのかな?」
「ええ。もちろん。むしろ、あなたしかいないです」
「……僕も、恋をしていいのかな?」
「……私にならば、いくらでも」
「ははは……なんか、立場が逆だね。普通は、こういうの、男が言うのに……」
「いいじゃないですか。別に。……でも、じゃあ、そちらから、言ってもらってもいいですか?」
「言うって……何を?」
「何って……まだ、なにも言ってないじゃないですか」
「え?」

彼女の言葉に、僕は困惑する。
いや、言うって、だから何を……
考えても出てこない。本当になんなんだ?
と、考えてると、雪野さんは煮えを切らして答えを教えてくれた。

「こ・く・は・くですよ。まだ、私もあなたも言ってないですよ!」
「あ、そうだった。忘れてた……」

そういえば、まだどちらからも告白はしてなかったな……

「……もう、あなたが言わないなら、私から言ってしまいますよ?」
「わ、ごめんごめん!!ちゃんと言うから、ちょっと待ってて!!」

彼女の言葉に、僕は慌てて待ったをかける。
そして、覚悟を決め、彼女に向かって振り返り、そして、告白する。

「僕と、付き合ってください!!」

右手をだし、お辞儀をしながら、僕は告白する。
その手に、冷たい、しかし暖かい感触が伝わってくる。
それを感じて、僕は顔を上げた。
するとそこには、とてもとても嬉しそうな笑顔をした、雪野さんの顔があった……

「……はい。よろしくお願いします……!!」


××××××××××××××××××××××××××××××

「あ、あの、方丈さん……」
「うん?なに?」
「今日は……あの、うちに泊まりませんか……?」
「……うん。いいよ」

××××××××××××××××××××××××××××××


「ふぁ……おふぁよう……」
「あ、おはようございます、正孝さん」
「おはよう、正孝〜」

朝起きると、母親と雪野さんが仲良く朝食を作っている。
最近よく見るようになった風景だ。
彼女と付き合い始めて約二ヶ月。彼女とは同じ大学に通い、楽しいキャンパスライフを送っている。
そして、大学に入学してからというものの、彼女はほぼ毎日朝に僕の家に通っている。
そろそろ、母親が彼女の部屋を用意しないか、とか言いそうだな……
まぁ、それはそれでいいけど。

「はい、出来たよ〜」
「よし、じゃあいただきます」
「いただきます」

僕と雪野さんは朝食を食べ始め、母親は父を起こしにいく。
そして、そのあとは学校に向かい、授業。
今日はどっちも午前に授業が終わるから、そのあとはデート。
さて、今日はどこにいこうかな……?

「ねぇ、雪野さん。今日はどこに行きたい?」
「うーん……どこでもいいですよ。あなたと行くなら、どこでも楽しいですから」
「そっか……」

じゃあ、今日はどこにいこうかな……?
参ったな……僕も、雪野さんと一緒なら、どこに行っても楽しいんだよな……
きっと、僕はずっと一緒に彼女といるだろう。
だって、僕は彼女を幸せにしたいんだから……
11/02/16 23:12更新 / 星村 空理
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■作者メッセージ
「……二人とも、正座」
「「はい……」」

どうもこんにちわ。フミフミ☆らじおの凍丸文々です。
今回は、美核さんが反省会をしている駄作者と星村さんの代わりに、私があとがきを任されることになりました。
さて、いかがだったでしょうか?
楽しく読んでくださいましたら、幸いです。
いやはや、今回は長かった。
文字数と言うか、時間が。
なぜこんなに遅れたかと言うと……お、ちょうどやってますね。

「じゃあ、ここ数日、予定がない時にしていたことは?」
「勇者30に、百万トンのバラバラ……」
「東方心仮面視聴に、FF9、あと東方人形劇です」
「その間、聖夜癒傷以外に作品は……?」
「「書いてません!!」」
胸はって言うな!!
「「すいません……」」

……と言うことです。
ちなみにこの後、あの二人は焼却されて新しくなります。
どうか、ご冥福をお祈りください。
さて、では少し解説をば。
今回は歯車は……結構変えていて、覚えてないそうです……
なんというか、もうどうしようもないですね、あの駄作者。
で、なぜ乙女戦をアップしなかったかというと、実はなんと、リクエストしてもらえたそうです!!
リクエストをしてくださった沈黙の天使様、ありがとうございました!!
ご期待に添えたでしょうか?
出来てなかったらごめんなさい……
他の読者様も、もしリクエストなんかがあり、あんな駄作者でもよろしければ、メールなどでリクエストをお送りください。
作者にない頭絞って話を書かせてもらいますから。
さて、今回はここでお暇いたしましょう。
そろそろ二人が処分されるので。
では、またお会いできましたらよろしくお願いします。
以上、駄作者星村に代わり、凍丸文々でした。


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……全くフミフミ☆らじおの話が出来てないから文々を出したと言うのは、内緒の話です☆

「すみません、美核さん。ちょっと火付け役代わってもらっていいですか?」
「ええ、いいわよ」
「では……“ドメガ”!!」

え?待ってそればくはt……

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