連載小説
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里帰り・戦闘2
あの初夜から、何日か後。
俺とラーシュはジパングにある俺の実家に行くべく、空を駆けていた。
「−−ッ!!はあっ・・ラーシュ、飛ばしすぎだ!
いくら楽しみだからって、少しはスピードを考えてだな・・」
「む・・何か言ったかー!風が強くて聞こえ無いぞー!」
絶対に嘘だ。
ラーシュの耳がこのくらいの風で聞こえなくなるはずがない。
そもそも、本当に聞こえなかったならば彼女は一旦停止するはずだ。

「お、見えてきたぞ!ジパングだ・・何年振りだろう・・」
眼下に広がる俺の故郷を見つめ、本当に懐かしそうに言うラーシュ。
考えてみれば彼女は俺と別れてから数年の間、
飛べば行けるかもしれない場所をずっと指を咥えて待っていたのだ。
それは、とても辛いことだっただろう、と思う。
もちろん、その分これから愛し合えば良いだけの話だ。
「ああ・・どうだ、雰囲気とか、変わったか?」
「少し変わってはいるがやはり同じ感じだ。
皆ゆっくりと時間が進んでいて、日々を楽しんでいるのが分かる。」
そう言う彼女もその雰囲気に合わせたのか、
先程よりゆっくりと滑空、降下を始めた。

ゆったりと降下して町の上空を漂うように飛ぶ。
行き交う人々は物珍しさに集まってくるが、
俺達は気にせず、ただ一点を目指して飛んでいた。
我が父母、竜風朱連と葵のところだ。

無事、両親の居る家の前に辿り着く。
「ラーシュ、この辺りで一旦降りよう。
飛びながら入るには少し狭い。」
「ん・・分かった、飛び降りられるか?」
大丈夫だ、と答え石段の上に着地する。
続いて翼をたたみ、先程より少々細身になった彼女も降りてきた。
「よし、では行こうか椿。
むぅ・・緊張するな・・なんと挨拶すればいいんだ・・?」
外見に似合わず、意外なところで悩むラーシュ。
そんな彼女と大丈夫だって、等と話していると我が家が見えて来る。
・・刀を構えて俺を睨みつけてくる父さんも。
なるべく触れたくなかったが、運の悪い事にあちらから斬りかかってきた。

「チェストォォォーッ!!」「父さんっ!?くぅっ・・!!」
触れればただでは済まない量の魔力を滾らせ振り下ろされた刀を、すんでの所で避ける。
しかし、その程度では安心など出来ない。
こちらも抜刀し応戦しようとするが
すぐさま返された弐の太刀の鋭い切っ先が首筋に向けられた。
今度は反応すら出来ず、その場に固まってしまう。
しかし、刀はそこから退き元の鞘に戻された。
次いで声が掛けられる。
「・・ふむ。
一刀目をかわせる様になったか・・成長したな、椿。」
それは、意外にも称賛の言葉だった。
緊張の糸が切れて、茫然とする俺に今度は衝撃が襲いかかってくる。
我が母、竜風葵に押し倒されたのだ。
そのまま頬擦りまでしてくる。
「ん〜・・お帰り、椿・・久しぶり!
あなたったら、こんなに可愛い子を連れてきて・・!」
「か、母さん!?
ちょ、恥ずかしいよ、ラーシュも見てる!」
俺の制止も虚しく、今度は抱き締めてくる母さん。
我が母ながら・・何というか、強い。
しかし、俺自身も久しぶりに母さんに抱き締めてもらい、
頭を撫でられるその感触に脱力しかけていた。
それに加えて、押し付けられる肌の感触が、何とも言えぬ安心感を生みだす。
あんまり、そんな感触に浸っていたものだから、ラーシュが少し困ってしまっていた。

「・・あの・・えっと。
私は、ラーシュ・ラグナスと言う・・久しぶりで・・。」
小さい声でそう告げるラーシュに母さんは向かっていく。
その顔は先程より真面目だ。
「そう・・貴女が、椿の・・。
ねぇ、ラーシュさん?椿のどんなところが好きなの?」
唐突に訊かれた言葉に目を瞬かせるラーシュ。
しかし、すぐにフッと笑い、堂々と言った。
「決まっている!!全てだ!
あえて言うなら寝ている時の意外に無防備な顔とか。
遠くを見ている時の寂しそうな目とか、そこからこちらを見た時の優しい目も
それと、私に犯されている時の我慢しつつも快感に蕩けている表情も、
ああ、それと私を逆に犯した時のあの欲望塗れの顔も大好きだ!!」
「・・・・」
無言になり、顎に手を当て考え込んでしまう母さん。
流石に、ラーシュが言い過ぎたのか・・?
しかしそんな事は、無かったようで母さんも目を輝かせ、話を話し始めた。

「うん、合格ね・・私、貴女と仲良くなれそうでうれしい!
私もあそこに立ってる格好良くて渋い私の朱連の事、大好きだもの。
あの人もね、椿とは似てないように見えて結構似てるのよ。
例えば、弱点を見つけると暫くはそこに集中攻撃する事とか。
椿って、そんなところ無かった?」
言う母さんにラーシュも目を輝かす。
「何と・・そうなのか・・!いや何、私は尻尾が弱点で。
椿はそれが分かった瞬間もうそこしか見えないくらいに攻めたんだ!
いや〜・・朱連さんもそんなところがあるとは・・。」
話に花を咲かす母さんとラーシュを遠目に俺と父さんも話を始めた。

「ねぇ・・父さん?
もしかして、父さんも母さんの弱点を見つけた時・・。」
父さんは、その渋い顔を少しだけ赤くして、目を逸らし言った。
「・・うむ。
葵は、背中から腋にかけてを撫でてやると凄く喜んでな。
そこで調子に乗って耳に口付けてみた所・・それはもう、良い感じに・・。
あのように話している所を見ると、お前もやはり私の血を継いでいるな。 」
「はは・・まぁね・・。
しかし・・龍とワイバーンか・・ここに来る人卒倒したりしないかな?」
つい心配になって訊く。
すると父さんもそれは気になっていたようで、
短く剃られた顎鬚を擦りつつ低い声で言い始めた。
    
「・・龍といえば神格化されてもおかしくない魔物だ。
現にそれなりの言葉遣いをして、それも雨の日であったなら、
いかに葵と言えど私は頭を上げられないだろう。
ワイバーンも、ああやって喋っていると普通の魔物に見えるが
あれも大陸の方では相当の奴だと聞いている。
確かに、心配になるのも分からんでは無いが・・」
と、そこまで言って急に穏やかな顔になる。
どうしたのだろうと不思議に思い見つめていると、
いつの間にか話を終えたらしい二人がこちらに駆け寄ってきた。
そのまま母さんはその長い体ごと父さんに抱きつき、胸に顔を埋めながら話す。
「貴方〜わたしね、ラーシュととても仲良くなったわ。
椿も貴方にやっぱり似て強くて格好良くて優しいって!」
「ふ・・そうか、それは良かったな葵。」
それに対し、笑顔で言葉少なに話した後、その頭を撫でる。
その様子からは父さんがどれだけ葵という存在を愛しているかが見て取れた。

父さんは母さんに抱き付かれながら続きを話す。
その顔には心配するなと、書かれてあった。
「まぁ、こんなに可愛くて子供っぽいところがあるのだ、心配は要らないぞ、椿。
お前のラーシュにしても今にもお前に飛び掛りそうな顔をしているしな。」
それもそうかと納得し振り向くとそこには父さんの言うとおり、
尻尾をブラブラ左右に揺らしながらラーシュが立っていた。
その表情から察するに、やはり父さんの言うとおりなのだろう。
支えられるかは分からないが、俺も抱きつかれたかったので言ってみる。
「ラーシュ、遠慮はいらないぞ?
そりゃ持てるかどうかは分からんけど倒れたら倒れたで、
地面で抱き合えば良いだろう。」
そう言うとトコトコと見た目に似合わぬ可愛らしい歩き方で近づくラーシュ。
そして顔と顔が触れ合いそうな距離になった瞬間、俺の体に重みが乗る。
彼女の体つきの良さからしてかなり重いと思っていたが、
いざ抱きつかれてみると、それ程の重さでは無かった。

「お・・意外と軽いんだな、もっと重たいかと・・」
そう言うと、彼女は不機嫌そうな顔をこちらに向けた。
見ると母さんからも、責めるような視線が送られてきている。
「あのな、椿、それは私が太っていると言いたいのか?
確かに他の魔物からすれば少々大柄だろうが、そこまでではないはずだぞ。」
「ああ・・そういう意味じゃない。
あんなに蹴る力強いんだから、筋肉とか付いてんのかなと思っただけだ。
勿論軽くて大歓迎だぞ?こんな風に抱きかかえられるしさ。」
そう言って、彼女の腰の辺りを持ち体を持ち上げる。
ラーシュも翼と脚を俺の背中に回し込み、幸せそうな顔をした。
そうやって双方何も言わないまま微笑み合っていたのだが、
その雰囲気に父さんが終止符を打った。

「あ・・そのな、椿。そろそろ家に入らないか?
直に日も落ちるし、この時期は寒いから風邪を引くぞ。」
「・・うん、分かったよ。
先に家の中に入ってて、ラーシュを抱きながらだから少し遅れる。」
まぁ、実際はラーシュと触れ合ってる時間を長くしたいというのが
八割方の理由だ。
「ん、分かった。
それと葵・・あまりべたべたされると言うのは・・。」
「ええ〜?良いじゃない、あなたからそういう風にしてくれないんだもん。
何なら朱連から甘えてくれたって良いのに・・♥」
そう言ってさらに父さんに体を擦り付ける母さん。
父さんもああ言ってはいるけど、仕方ないな、という顔をしつつ
背中に手を回したりしていた。
なんだ、父さんだって母さんに甘えてるじゃないか。



・・色々有って夜・・。
「はぁッ!!」
俺とラーシュは星の見える夜空のもと、腕比べをしていた。
発端は父さんの一言。
「勝った方が今日攻めるという事で良いのではないか?」
このせいで・・
「でありゃぁーっ!!椿ッもらったーッ!!」
めくるめく蹴りと炎を避け続ける羽目になってしまった。
ちなみに母さんが結界を張っているお陰で炎は燃え広がらず・・
結果、最大出力でラーシュは炎を吐ける訳である。
「椿・・避けているだけではワイバーンには勝てんぞ?
どうやって勝負をつけるつもりだ。」
「まぁ、見てて・・どうにかする。」
後ずさった時に父さんと軽く会話をする。
言葉の通り秘策が俺にはあった。

「話している暇があるとはな!!」
ラーシュが再び突進してくる。
しかも、炎を撒き散らしながらの空中突進だ。
炎を両手の得物で散らしつつ避けるが、それにも限界がある。
「そろそろか・・?」
手に持った刀と剣には熱が宿っている。
これはラーシュの炎を無理矢理魔力で押し留めているためだ。
秘策とはこれをもう一段階魔力で展開し、最大出力で叩き斬る事である。
それにはラーシュが油断していて、こちらが動ける状態で無くてはならない。
「さぁ・・止めと行こうか!!」
あの訓練場の時と同じように炎を展開するラーシュ。
だが出力は大違いだ。
じわじわと炎が俺の体を弱らせていく。
その炎も一応吸ってはいるが・・そろそろ限界が近い。
あと少し・・ラーシュの隙が欲しい・・。
そう思っていると、ラーシュは飛び上がり斜めから蹴り降ろす姿勢を取った。
恐らくは包み焼きか、蹴りで仕留めるかの二つを選んでいるのだろう。
「来い・・!ラーシュ!」
その言葉に応えるかのように、高速で下って来る彼女。
その狙いは・・俺の胴体だ。
「行くぞ!私を斬り裂いて見せろぉッ!!」
彼女の体が、一番近い雲を斬り裂いた瞬間、俺も力を剣に込めた。
「うおおおおおおおああああぁあぁッ・・!!」
カッと目を見開き、凄まじい力の奔流を二つの刃に押し留める。
その間にも彼女の体は、一筋の焔となり迫ってきた。
・・そして、焔と刃は交錯する。
力と力はぶつかり合い、互いを弾き飛ばした。
「うあっ!!」「くぅっ!?」

そのまま、意識は沈んで行く。
立ち上がろうとしても体に力が入らず、それどころか・・抜けていく。
こんな言葉を聞いた。
「ふふ・・今回は、私の勝ちだな、椿・・起きたら、相手をしてもらうぞ・・。」
息も絶え絶えで、だがしかしラーシュは立っている。
その姿を見た瞬間、どうしようもない悔しさを感じた。
愛だとか、好きだとか、そんなものは関係の無い・・戦士としての純粋な悔しさ。
また負けるのか・・?
初めて戦った時も、訓練場でだって・・ラーシュは立てた筈だ。
一回も、ラーシュには本当の意味で勝ててない・・!!

「まだだ・・」
沈んだ意識を無理矢理に引っ張り上げ、体を支える。
「な・?!まだ、立てるのか・・椿。」
これは流石に予想外だったらしく、驚くラーシュ。
「まだ、終わらない・・」
自分に言い聞かせるように呟き、刀と剣の柄を合わせる。
「今度こそ・・勝つんだ・・。」
魔力で二つの柄を合わせ、無理矢理諸刃の刀剣へと変え・・
「好きだからこそ!勝ちたいんだ!!」
彼女のもとへと、一直線に駆けた。
「ふ・・ふふ、ハハハ・・良いぞ!私も燃えてきた!!
私もさ・・!私だって、好きだからこそ・・」
魔力を口元に集中させる彼女。
「頼ってもらえる、強い飛竜でありたいんだ!!」
来るかと覚悟を決めた俺に向けて、言葉と共に炎が吐きだされた。
その中に迷い無く突っ込むとそれは、身を焦がす程に熱く、激しい。
だが、魔力で出来ている為に死にはしない。
・・どこか、まるで彼女のように優しく暖かかった。
無心で駆け・・耐え、遂に彼女の顔が見える。
一層強くなった炎に顔をしかめながら、俺は刀剣を突きだす。
その切っ先は、寸分の狂いもなく彼女の喉元に食い込んだ。

炎が収まった後それを引き抜くと、ラーシュが人型に戻り倒れこんでくる。
「・・強くなったな、椿は・・負けたか・・はは・・」
俺の胸元に顔を擦り付け言う彼女の表情は、悔しそうで・・とても嬉しそうでもあった。
「今回は・・だろ?一回ぐらい、勝たせて、くれたっ・・て・・」
言葉の終わり際、ズシリと体が重くなる。
どうやらこれまで気合でどうにかしていたツケがきたらしい。
「うん・・正真正銘、椿の勝ちだよ・・。」
そう言って滑り落ちるように地面に寝そべり目を閉じる彼女。
同じように寝そべると彼女の寝息が聞こえた。
「ああ・・ほんとに、俺の勝ちなんだな・・。」
そう呟いた後、もう意識は無かった。


14/02/23 21:23更新 / GARU
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■作者メッセージ
エロはまた今度で。
いつまで続くんだろこれ・・

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