連載小説
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スペードの間:絶頂インディアンポーカー(後編)
(! キング!)
 スペードは、ギャリーの額に掲げられたその札に内心舌打ちをした。
(ま、一方的でもつまんないしね。許容範囲だ、許容範囲。僕の有利は、まだ健在)
「10分」
 代り映えのない、ギャリーの宣言。
(さっきから同じのばっかりだな。やる気がないってことも無さそうだし、何かの作戦のつもりか……)
 実際、こう変わり映えしないと時間宣言から自分の札を予想することができない。それが狙いならば、彼の企みは十分成功したと言ってよいだろう。……それがどの程度意味のある行為かは別にしてだが。
(案外、本気で僕のモノになりたがってたりして!?)
 男の見栄でフォールドはせずとも、されるがままで誘っている……なんてこともあるかもしれない。だとしたら、そう悪い気分ではない。
(ま、あの鉄仮面ぶりじゃ、真意を読み取るなんて無理だけどね。とにかくここは、僕が不利! 被弾は抑えさせてもらうよ!)「プレイ内容はキスにしようかな」
「それはディープキスってことか?」
 間髪入れずに突っ込んでくるギャリー。
(さすがに、こんな曖昧な指定じゃ確認してくるか)「当然、そうなるね。一般的に性感を伴わない行為をプレイとして認めると、何が何だか分からなくなるし」
「ならばコールだ」
「それじゃ……オープン!」
 公開される手札。
 ギャリーK。スペード2。
(全然ダメじゃん!)「いやー、こりゃ派手に負けたね。さっきの二連勝の分かな?」
「さあな」
 歩み寄ってきたギャリーが、ぐっと肩を引き寄せてくる。鼻と鼻がぶつかりそうな距離で、視線が交差する。意外と男らしい、積極的な態度にどきりと心臓が跳ねる。
「お、意外とやる気満々。もしかして、結構期待してた? ギャリーのむっつり〜」
「静かにしてろ」
 茶化して会話の主導権を握ろうとするも、ギャリーは一方的に会話を終わらせ、無理やりに近い形で唇を奪ってきた。
 粘膜の入り口をこじ開け、舌が口内に侵入してくる。
(ちょ、いきなり!? イメージと違って積極的……)
 てっきりギャンブル一辺倒なのかと思っていたのだが、彼の才能は男女の駆け引きにも有効らしい。スペードは、そのことをすぐに身をもって理解することになった。
(やば……意外と上手い……かも)
 ギャリーの唾液が口腔に流れ込んでくる。舌のぬるりとした感触は、敏感な粘膜と接触するだけで、そこに確かな快感を生み出す。
「ん……はっ……ちゅる……ぁっ」
 息継ぎの度、口から漏れるいやらしい声。自分が予想外に責め立てられていることに、少し驚く。
(負けないんだから)
 歯の表面をねぶってくる舌を押し返そうと、薄い三角の舌を突き出す。
 しかし、ギャリーはその動きを見切っていたかのようにスペードの舌を捕え、絡め捕るようにしてその動きを封じてくる。
「ん!」
 舌と舌が熱をもって交わる、官能的な粘膜接触。互いの舌の上を伝い、直接行われる唾液交換。口の中がとろとろになっていき、舌も粘膜も溶かされるような錯覚に襲われる。
 思考が曇り、その奥からピンク色のもやが湧いてくる。甘い甘い、快楽の霧だ。
(す、すごっ……)
 身体の力が抜け、痺れにも似た甘い陶酔がやってくる。
 スペードは必死になって抵抗しようとしたが、端から見れば貪り付くように口付けを交わしているようにしか見えない。細く白い手は彼の背中に回り、抱きしめる様にぎゅっと力が込められている。
(気持ちいい……。これ、後何分続くの……)

 ゴ〜ン。

「おっと、10分経ったな」
 すっと、ギャリーが身を離す。
 快感の靄が晴れ、正気の心が返ってくる。
(あ、危なかった……! まさか、これほどのテクニシャンとは! 今後のベットはもっと慎重にしないと……)
「どうしたスペード。呆けた顔になってるぞ」
 見ればギャリーは既に席に着き、その顔に不敵な笑みを浮かべている。
「……冗談。僕は体力と精神力を買われて四枚札に抜擢されたんだ。この程度で勝った気にならないでよね」
 そういって、不敵な笑みを返すスペード。
(……楽しくなってきた!)
 不敵さの裏側に本物の笑みを隠しつつ、勝負の席に着いた。

♠♠♠♠♠♠

「それじゃ第四ゲーム……今度は僕が子、ギャリーが親か。ギャリー、準備ができたら掛け声を」
「ああ……。インディアンポーカー」
 カードを掲げる二人。
(ギャリーは5か)
 当然顔には出さないが、スペードは心に追い風が吹くのを感じた。
(よし、これなら勝てる。5より弱いカードは4、3、2。うち2と3は既に1枚づつ出てるから、残りは3×4−2=10枚。ここは強気に)「僕も君に倣おうかな。10分だ」
「ペッティング(股間)だ」
「こ!? いきなり!?」
 ギャリー、強気の即答。
 怯むスペード。が、彼女にはまだコールとフォールド、その選択権がある。
(いけない怯むな! 奴の強気は、今に始まったことじゃない!
 僕はさっきキスをした分が回復していない。けど、向こうだって耳と乳首のダメージが蓄積している。加えて、キスは結果として相互にダメージを負う結果となってしまった……なってるはず! その状況で、この強気ってことは……)
 思考を巡らせる。
(……ジョーカーがまだ出ていない。ならば、安全も考えて)「フォールドするよ」
「ほう、いいのか? 俺の愛撫、受けてもらうぞ?」
「構わないよ。フォールドは子の特権だしね」
 飄々とした態度を崩さぬよう努めつつ、降りることを宣言。
「では、オープン」
 ギャリー5。
 スペード8。
(……)
 心に萌える悔しさの芽を、理性の鋏で摘み取る。「降りなければよかった」は結果論であり、選択の時点では間違った判断でなかった。
 さらにひとつ、分かったこともある。
(ギャリーはブラフ・タイプのギャンブラー……!)
 恐らく、ギャリーは無意味に強気な宣言をしたわけではない。最初からスペードをフォールドさせるつもりで、ブラフ(はったり)をかましたのだ。きっと、これが彼本来のギャンブルスタイルなのだろう。
(なら、いつまでも彼を親にしておくのはマズいかもね)
 だが、今はそれよりも。
 スペードは席を立ち、跳ねるようにしてベッドに身を投げた。
 ギャリーがゆっくりと歩み寄ってくる。
「……はやくしよ」
「なんだ、乗り気だな」
「……違うよ。時間稼ぎしてるとか、思われたくないだけ」
 ギャリーがゆっくりと覆い被さってくる。
 その意外と大きな手が、スペードの膝に触れた。
「……フォールドしたんだから、5分だけだかんね」
「分かっている。ルールは守るさ」
 スペード、二度目の支払い。開始――。

♠♠♠♠♠♠

「おい、力を抜いて、足を開け。うまく出来ないだろう」
 そう言われて、スペードは無意識に力を込めていた下半身の緊張を解く。
 ギャリーは流れるような動作でスペードから下着を奪い取ると、その両足を観音開きのように広げ、その間に進み入た。
(く……恥ずかしい)
 スペードは羞恥に顔を歪ませ俯いていた。
 せめて何か会話があれば気も楽なのだが、あいにく頭の中は真っ白で、何も言葉も出てこない。先程のキスのテクニックを考えれば、この男の愛撫がどれほどの快感をもたらすのか、想像するだけで恐怖に身が震え……スペード自身は全く自覚していなかっただろうが、期待に鼓動が高鳴った。

 すっ。

 下半身に、何かが触れる感触があった。びくんと肩が跳ねる。

 さわさわ。

 感触を確かめるように、大きな手が下半身をまさぐる。が、警戒していたほどの快感はない。スペードの心に、少しばかりの余裕が生まれた。

 チュク。

「ちょ、ちょっと待った!」
 突如襲ってきた湿った感触に、慌てて目を開ける。股間に顔を埋めたギャリーが、視線だけをこちらに向け、「どうした」と返してくる。
「舐めるの!? いきなり!?」
「5分しかないんでな、遠慮はしてられない。……ところで、あまり濡れてないんだが、もしかして濡れにくいのか?」
「ばか!」
 ワンピースの裾でギャリーの頭を押さえつける。顔が見えなくなり、少しばかり羞恥の心が和らぐ。
(デリカシーないとか、最低!)
 だが、余裕を保てたのはそこまでだった。見えないことが、より感覚を高めてしまうのだ。
 ぬめりを帯びた舌先が、割れ目を優しくなぞる。
 秘裂は主人の意に反し、それを受け入れ閉じた花弁を緩やかに開いてゆく。
 舌先が器用に動き、掬い上げる様にしてクリトリスの包皮を剥いた。
「アッ……」
 うっかり喉から漏れた声。慌てて口を閉じたが、もう遅い。「私はそこが感じます」というメッセージは、既に相手に伝わってしまった。
 集中攻撃が始まる。
「アッ、やっ、やだぁ」
 器用に動く舌先が、敏感な肉芽を嬲り舐め上げていく。
 自身にとって最大の性感帯を知られてしまったことも良くなかったが、それ以上に、スカートの裾でギャリーの頭を隠してしまったことが良くなかった。「見えていない」という安心感が精神的な防壁を緩め、快感はまず表情を犯し、その後喉と声を。そして自身のあげるいやらしい声を聴いた耳はその他の器官をと、連鎖的に身体のセーフティーが外れていく。
 最悪なのは、この事態をスペード本人がまったく自覚できていないことである。自分の表情は自分で見ることができないし、声も同様だ。
(ま、まずい! 予想以上にペースが速い!)
(スゴい、これ、最高! こんなの初めて!)
 拒絶と享受。
 矜持と本能。
 相反する二つの反応が心の中でせめぎ合い、どちらが勝つかと揺れ動く。
 快感に耐えようと突っ張った足がピンと上を向く。
 強すぎる快感から逃れようと、上体が左右にくねくねと躍る。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! 早く終わって!)
 桃色の靄の向こう、快感の底の気配を感じたその時。

 ゴ〜ン。

 5分、経過。
 すっとギャリーの体が離れる。
 唾液と愛液で濡れた女性器が空気に触れ、表面にひんやりとした感触が走る。
(あ、危な、かった……。次のゲームは、絶対、勝たないと……)
 早鐘を討つ心臓と同期するように、荒い息を吐くスペード。
 全身がしっとりと汗に濡れている。その一方で、体の芯はまだ熱を持っていて、甘い痺れの残滓を湛えていた。
「どうした。早く席に戻れ」
 既に次のゲームの準備ができているギャリーが催促してくる。
 スペードも起き上がろうと努力するが、寝起きのように平衡感覚がおぼつかなく、ベッドの上でもがくばかりだ。
「……ったく」
 と、溜息を吐くような声を聞いた気がした。
 気が付けばすぐ側にギャリーがいて、自分の腰に手を回すように腕を伸ばしてきている。
「ちょっ、何する気さ!」
 急激に感覚が戻り、慌てて身を翻す。
「いや、運んでやろうと思ったんだが」
「いいよ、そんなの!」
 スペードは差し伸べられた手をぐいと押しのけると、おぼつかない様子で卓へと向かう。

(……今、優しくされるのはマズい気がする!)

 それは勝負師としての勘なのか、それとも乙女の勘なのか。
 どちらにしろ、従う方が賢明だ。
 仮にも勝負師四枚札。
 その勘は、外れることの方が少ないのだから。

♠♠♠♠♠♠

 第五ゲーム。
 快感の残滓を振り払いつつ、スペードは自分の状況を整理する。
(さっきまで二連勝だったのに、うってかわって二連敗……。まずいな、流れが悪くなってきた)
 いや、むしろギャリーが流れに乗ってきたというべきか。
 先程のゲームから分かることは、彼がブラフを得意とするギャンブラーであること。親になり、相手を勝負から降ろすという選択肢が生まれ、本来の強さが表に出てきているのだろう。
(だがそれならば、やることはひとつ。……次のゲームでは、フォールドしない。多少危険な賭けになっても、強気で乗る)
 フォールドを続けていては、ずっとギャリーは親のままだ。もう一度彼を子に戻せば、勢いは失われる。それ以降のゲームは、ギャリーが子の時のみ勝負に出て、親を奪われたときは賭ける時間を最小にして防御に徹すればいい。
 ギャンブルという底なしの闇に、勝利への光道を描く。
(あとは、今の危機的な状況を乗り切れるか。つまり、ここの引きが勝負の分かれ目!)
「ギャリー、準備できたよ」
 手札を手に取り、合図を促す。
「では、インディアンポーカー」
 掲げられる両者のカード。
 勝敗を分けるその数字は……。
(!! ギャリーのカードはクラブの2! やった、僕の勝ちだ!)
 光明が差した、と思った。
 2は、ジョーカーを除き最弱のカード。追い詰められている現状、殆ど理想の引きといえる。
(落ち着け、僕。悟られるな。ギャリーは確実に親から降ろせる。不利を覆し、自分の強みを完全に活かすには……)
(……僕の強みはスタミナ。持久戦に持ち込む為にも、一度快感の蓄積をリセットする!)
(悟られるのは問題ない。むしろ、向こうが深読みで自爆したなら、それはそれで僥倖……。ならば、思いっきり強気に!)
「20分だ!」
 声高に宣言するスペード。
「随分強気だな。俺の手札はそんなに弱いのか?」
「さ、どうだろうね〜?」
 ギャリーは例の通りまったく動揺する様子もないが、関係ない。どれだけ平静を保とうと、彼の手札が2という弱手であることは不動の事実なのだから。
「まあ、今は手札の強弱は関係ない。セックスだ」



「……は?」
「セックスだ。プレイ内容だよ。まさか選べないってことはないだろう?」
「そりゃ……そうだけど……」
 スペードの背に、嫌な汗が走る。
「なら、セックスだ。先ほどのキスで、快感自体は勝敗に関係なく感じることは確認済みだ。勝負に出させてもらう。たった今、局部に一方的に責めを受けたお前と、5分とはいえ回復した俺……。どちらが有利かは火を見るよりも明らか。ならば、ここから先は削り合いだ」
 削り合い。
 その言葉に、眩暈すら覚える。
 光明が差したはずの未来が、一瞬にして暗黒に変わる予感。膣がこぽりと音を立て、先程蓄えた唾液と愛液の混合液を吐き出した。
(ギャリーは2、最弱の手。フォールドさえしなければ、僕の勝ちはほぼ確実)(セックス……? 20分も? この状態で!?)(む、無理! 無理だよ、まだお腹の奥じんじんしてるのに!)(なんで!? ギャリーは2、最弱の手! 僕の必勝、必勝なのに!)(必勝なのに勝てない! 最弱の手なのに! なんで、セックスなの!?)
 ぐるぐるとループする思考。崩れる計画。
 その果てに見出す、最後の勝機。喉の奥から絞り出した、その答えは……。
「コ、コール……!」
「ほう、降りないんだな」
 スペードの出した答えはコール。
 ここでフォールドしてしまうと、次のゲームでも親はギャリーのまま、プレイ決定権も動かない。彼の言う『削り合い』の状況に持ち込まれてしまう。
「耐えれば……耐えればいいんだろ20分! スペードの騎士として、勝負師四枚札として、僕は、耐えて見せる!」

♠♠♠♠♠♠

「は、早く挿れなよ。やるんでしょ!」
 スペードは下着を脱ぎ、ワンピースをたくし上げ、ベッドに横になったまま、威嚇するようにギャリーを睨みつけた。
「やれやれ、急に可愛げがなくなったな」
 ゆっくりと、股間に向けて伸びてくるギャリーの手。スペードはそれを、「こらっ!」と一括して足で弾く。
「プレイ内容はセックスなんだから、そ、挿入だけだよ! キスとか、ペッティングとか、余計なことは禁止!」
 おいおい……とでも言いたげな目で見てくるギャリーだったが、「ま、さっきので十分濡れてるみたいだしな」と言ってゆっくりと覆い被さってくる。
(!!)
 緊張が、一気に高まる。
 視界を覆うギャリーの胸板。こうやって重なると、意外と体格差があるのが分かる。
 自分は他のトランパートに比べて結構筋肉がある方だが、やはり男性のそれとは質が違うらしい。ギャリーは細身だが、腕とか胸元とか、筋張った筋肉がなんというか男らしい。
(って、僕はいったい何を考えてるんだ!?)
 事態はまさに万事休す。ときめいている場合ではない。ここで負ければ、勝負師としての矜持は元より、目の前の男は自分の手の中から零れ落ちてしまうのだ。
 その先にあるのが他の四枚札の横槍か、帰るべき現実世界への帰還かは知らないが、スペードの望まぬ結果であることは間違いない。

 秘裂に、なにか固いものが押し当てられる感触があった。
 身を強張らせるスペードだが、その感触はそのまま上に滑り、スリットをこするようにして上下する。
 恐る恐る視線を下ろせば、赤ん坊の握り拳ほどもありそうな亀頭が、その先端から透明な粘液を吐き出しながら、スペードの秘所を嬲り上げている。
(くっ……。獲物を前に舌なめずりってわけ? 脅かそうたって、そうはいかないからね!)
 ギャリーとしては、挿入がスムーズにいくよう亀頭に愛液を馴染ませているだけなのだが、スペードはそんなこと知る由もない。
「どうしたの? もしかして、挿れる場所が分からないとか?」
 挑発的な目でギャリーを睨み付け、虚勢を張る。
「大丈夫だ、すぐに挿れる」
 つぷり、と膣口に亀頭の先端が嵌る感触があった。次の瞬間、ドスンという、まるで下半身にハンマーで杭でも打ち付けられたかのような鈍い衝撃が走る。
「ぐっ……?」
 目の奥で火花が散る。
「結構きついな……。まあ、あまりほぐしてないから仕方ないか」
 そう言って、ギャリーはゆるりと男根を引き抜き、再度打ち付けてくる。
「ちょっ……、ちょっと待って……」
「安心しろ、すぐ慣れる。20分もあるんだからな」
 それだけ言うと、まるで蒸気機関のように力強く、その下半身が前後に動き始める。
「あっ、ちょっ、まっ、やっ!」
 繰り返される鈍い衝撃。打ち付けられるたび、肺から空気が押し出されるように抜けていく。
(く、苦しい!)
 だが、その苦しさの先に、まだ見ぬ感覚がある予感があった。
 打ち付ける男根はさながら破城槌のように、苦しさの壁を壊してその奥にある何かを露わにしていく。
(や、やだよ。なにこれ!?)
 徐々に膣内の感覚が明瞭になり、苦しさが消え去る。その奥に見えてきたのは、原始的な快楽。女の、魔物の悦び。
 亀頭が子宮口を突き上げる度、それが波紋のようにじんわりと、熱をもって体の中に広がっていった。
(こ、これなら、苦しい方が、マシだ! このままじゃ、イかされちゃう!)
 時計はギャリーの体の影になってしまっているため見ることができない。だが、体感的にまだ10分以上残っていることは間違いない。
 だのに、エラの張った逞しい男根が発情した膣肉をシェイクし、身体を揺さぶりながら子宮口を押し上げる度、その奥で花が咲くように快感が生まれてゆくのだ。
(か、感じちゃだめだ! 負けちゃう! あと少し、この支払いを耐えれば、勝機が見えるんだから!)
 頭で分かっていても、身体が言う事を聞いてくれない。
 先程までより、子宮口を押し上げる力が強くなった気がする。これは気のせいではない。子宮口が男根を受け入れようと、膣口に向けて下がってきているのだ。快感を貪り、雌としての機能を果たすために。
(あっ、あぁあっ、ダメ、気持ちいい! 気持ちいいよぉ!)
 スペードは、歯を食いしばり、全身を硬直させ、耐える。
(はやく、早く終わってぇ!)

 そんなスペードの願いは届くこともなく、時間は無慈悲に、ゆっくりと過ぎていく。ギャリーもまた、手を緩めることなく、スペードは拷問にも近い快感地獄の中で悶え続けるのだった。


♠♠♠♠♠♠


 壁時計の鐘の音と共に、20分経過が知らされる。
 支払いを終え、ピクピクと微かに痙攣するスペ―ドを傍らに、ギャリーは軽く伸びをした。
 そして彼女を一瞥し、この『スペードの間』の出口へと向かう。
「ま……まて!」
 背後から、呼び止める声。
 振り向けば、スペードが身体を痙攣させつつも、ゆっくりとベッドから起き上がろうとしていた。
「ひぃ、へぁ、ま、まだだ……まだ、イッてなひ……!」
 明らかに呂律の回っていない様子で、なお挫けずギャリーを睨み付けるスペード。だがその顔は林檎のように紅潮し、目の焦点も定まっていない。どう見ても限界を超えていた。
「持ちこたえていたのか。流石、肉体派を自称するだけあるな」
「ま、まだなんだから……続行、続行だ勝負……!」
 勢いよく山札からカードを引くスペード。
「ギャリー! おみゃえも……は、早く……!」
 ふらふらとした足取りで、半分崩れ落ちる様に席に着く。その拍子で、膣から泡立った愛液が吐き出され、足を伝い床に落ちた。
「きゅぅ!」
「やれやれ、死体蹴りみたいで趣味じゃないがな。勝負を挑まれた以上、買わないわけにはいかない」
 ギャリーも一枚、カードを引く。
「インディアンポーカー!」
 親であるスペードの掛け声を合図に両者一斉に札を額に出した。
(……4! 弱い!)
 既に3が二枚、2が一枚消費されている。デッキ中に4より弱いカードはジョーカー含めたったの6枚。確率にして6/40。
 十分に、勝機はある。
 そして、子であるギャリーの宣言。
「30分」
「さっ!?」
「ん? どうかしたか? 30分だ」
 子のベットの上限、最大ベットの30分。それを前にして、スペードの思考がショートする。
(30!? いままで10分ばっかりだったのに!? そんなに勝負に自信があるの!?)
(まさか僕の手札は……ジョーカー!? まずい、親はジョーカーから逃げられない!)
(ま、待て。でもそれなら、なんか適当なプレイでお茶を濁して……)
(で、でも、この男がそんな分かり易いことをする? ただのブラフ……?)
(いや、そもそもこんな長時間宣言、ギャリーには得がないんじゃないか? だって僕は客観的に見ても瀕死だろうし、間違いなく……)

 ゴ〜ン。

「えっ!?」
「時間だな」
「時間って……何の!?」
 突如鳴り響く壁掛け時計。壁掛け時計の鐘の音は、主にプレイ時間を知らせるために活用されるはずだが、今鳴る意味が分からない。
「おいおい、さっき自分で決めたルールだろうが」
 ギャリーの指し示す先には……。

♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠
※追記
【特殊ルール2:ベット】
互いのベット(@〜Bの手順)において、宣言に30秒以上の時間をかけることは遅延行為とし、それが認められた時点で宣言内容を対戦相手が決めてよいものとする。
♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠=♠


「あ、ああぁ〜〜!?」
 足元が崩れるような感覚。動揺のあまり、手にしたカードが零れ落ち、その札が白日の下に晒される。
 その札は……ジョーカー!
 倍付け!
 最弱の手!
「ウゥ、嘘だぁ〜!!」
 床に崩れ落ちるスペード。
 目の前の男の存在が、突然大きくなったように感じられた。
(ジョーカーは倍付け! てことは、時間にして60分、僕の体を好きにされちゃう! もう、触られただけでイキそうな程限界なのに、耐えられるわけない! ああ……イッてもイッても許してもらえないんだ。もう訳わかんないくらいメチャクチャにされて、60分間、連続絶頂セックス……)
「ペッティング(耳)だ」




「……え?」
 ギャリーの口から出た予想外の言葉に、ついつい疑問の声が出る。
「何度も言わせるな。ペッティング(耳)。それがプレイ内容だ」
「な、なんで……」
「スペード……お前、俺を徹底的に、完膚なきまで叩きのめそうと思っていただろう」
 図星だ。スペードの心に動揺が生まれる。
「隠す必要は無い。勝負師同士、顔を見ればわかる。まあ、特にお前は顔に出やすい質のようだが……。
 別に怒っている訳じゃない。むしろ、好敵手を得られたようで清々しい気分だ。だから俺も勝負師として、それに本気で答えることにした。お前を、完膚なきまでに叩きのめす……!」
 じりじりと距離を詰めてくるギャリー。スペードの中の勝負師の勘が、これはマズいと全力で警笛を鳴らす。
「ちょっ、ちょっと待って! 僕もうイキそうで、今耳なんか責められたら――!!」
「いや、待たない。俺は借金取りじゃないからな。無駄に寝かせて利子をせしめる様な趣味はないのさ……。払ってもらうぜ、倍付けプレイ」




「いぃ〜〜〜! や、らめぇ! も、もう、耳だけでイクの、いやぁ〜! おお願い、おまた、あと乳首ぃ〜! どっちでもいいから、い、い、弄って! どっちも弄ってぇ〜! オチンポ挿れてよォ〜!!」


♠♣♦♥♠♣♦♥♠♣♦♥♠♣♦♥♠♣♦♥♠♣♦♥♠♣♦♥♠♣♦♥♠♣♦♥♠♣♦♥


【鏡の間】

「お帰りなさいませ、ギャリー様。勝負師四枚札が一人、剛身鉄志のスペードをあれほど鮮やかに、しかも正面からねじ伏せるとは。貴方様の実力を少々見くびっていたようですね」
 無事スペードを下し、鏡の間に戻ってきたギャリーを出迎えたのは、仰々しく頭を下げるジョーカーであった。
「なんだ、やっぱりあんたも見ていたのか」
「はい。遠方よりこの目でしかと。ハートの女王様も大変お喜びでいらっしゃいました。鉄の意志と尽きぬ体力を持つスペードの騎士を、たった6ゲームで落とすとは、全く驚愕の一言に尽きます」
「別に、大したことじゃない」
 ギャリーは深々と頭を下げるジョーカーの横を素通りしつつ、独り言のように言葉を続けた。
「スペード……。あいつは持久力に自信があるようだったが、それを活かそうとし過ぎた。思考が防御寄りすぎる」
「防御寄り……というと?」
「例えば2ゲーム目。俺の手札が3という弱カードであると分かっていたのに、奴の宣言はペッティング(乳首)。勝負に出るべきところで出られていない。加えて、奴はスタミナに自信があるとはいえ、不感症という訳でもない。ならば、親になって連続攻撃からの短期決着……。これが最も効果的。奴の得意な泥沼合戦には、持ち込ませない」
 背後で、ジョーカーが愉快そうに笑った。
「なるほどなるほど……ギャリー様を選んだわたくしの目は、間違っていなかったようですね。……ところで、次はクローバーでございますか?」
「ああ」
 ギャリーは目前の、クローバーの意匠が施された扉を見上げた。この扉を選んだ理由も特にない。スペードと同じく、偶然目に入ったからだ。
 手をかざせば、扉の表面が微かに波打つ。
 そしてそのまま、波打つ扉に沈み込むように、ゆっくりと歩みを進めていった。
「それでは、二つ目の部屋もお気をつけて。クローバーは、スペードとは対極の勝負を好む者。聡く賢く、真実を視る。ゆめゆめ油断なさらぬように……」
 背後で、ジョーカーの嗤い声がした。
 ギャリーは振り返りもせずに、次の勝負……クローバーの間へと向かっていった。
17/02/07 01:54更新 / 万事休ス
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