連載小説
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帰郷
 ……ファンジェンとタオフーたちが雌雄を決した後、ティエンが仙石楼に帰り着いたのはそれから二日後の事であった。
 深い霧に包まれた仙石楼は、変わることなく悠々とした佇まいであったが、ぽっかりと空いた門はようやく戻った主に待ちくたびれたようにも見えた。門の脇には、去った時そのまま……と思われた調味料の入った入れ物がきれいさっぱり、無くなっていた。だが、行く先はすぐに分かった。

 「テケリー!」

 奇妙な鳴き声が聞こえてすぐに霧の中からうっすらと、うにょんと蠢く粘性が複数の触手を振り回しながら駆け……るといっていいのかはわからないが、寄ってくる。
 「ナオ殿!」
 主の声を聴いてより喜びに打ち震えているのか、ぶるぶると触手が飛び散るように振り回され、そのままびにょんと主に飛びつく。その様は知らぬものが見れば人食いの怪物に他ならなかったであろう。実際は主に飛びつく大型の忠犬のようなものであったが。

 「邪魔しないでくださる?」

 けれど悲しいかな、この忠実な粘性の主の胸に飛びつくという儚い願いは叶うことなく、黒いふわふわとした剛腕が宙で叩き落とすことで潰えてしまった。
 べにょりと名状しがたい音、そして悲鳴と共にティエンの眼前の床に染みが一つ出来上がる。
 「……ヘイラン……その……あまりナオ殿に対し無体は」
 「あら、ごめんなさいね……でも大丈夫よ ティエンさんに一撫でしてもらえばもとに戻るわ」
 事実、うにうにと飛び散った破片は既に集まり元の形に戻りつつあった。恐らく、ティエンが撫でようと手を伸ばせばあっという間に元の形に戻りしゃぶりつくように、触手を絡めてくるだろうことは容易に想像できた。だが、残念ながらすでに片腕にはヘイランが、もう片方にはフオインが未だにぴったりとその身を寄せて絡みついていた。
 ちなみに、フオインは服が焼けてしまったため、ファンジェンの門弟から奪った布をその身に巻いているだけである。ヘイランも服は着ていたが、野山をまっすぐ駈け下りてきたからであろう。所々破けており、服の体を成してはいなかったのである。当然、そんな彼女らが競うようにその身を寄せてきているのである。柔らかく、暖かい膨らみがこれでもかとティエンの肌に押し付けられてもいた。
 「貴様ら……いい加減にしたらどうだ……」
 そして、そんなヘイランとフオインに対し、タオフーは苛立ちを隠すことなく募らせていた。そうというのも、見ての通りがっちりと二体に両脇を固められてしまい、ティエンとは殆ど触れあえていなかったためである。何より、ファンジェンを完膚無きにまで下し、ティエンを取り戻したのは自分であるという自負がある分、よくこれまで我慢したと言えた。

 だが、もはや今はそんなことは良い……そうとでもいうように虎の……獣たちの目が光り、ティエンを“縛る”腕に力がこもると……むっとするような甘い薫りが漂い始める。
 そのままずいっと、タオフーがティエンの前に寄る。
 霧よりも濃く、こもった熱がティエンを包む。

 「……体が汚れてしまったな……」
 「ええ……うふふ」
 「汗、かいちまったよ」

 甘く、ねっとりと絡みつくような獣欲に包まれ、ティエンは唾をのむ。
 そう、ここに戻るまでの間、色々と体を密着させても“直接”触ってはこなかったことをティエンは疑問に思っていたが、その理由を今理解する。

 ここは獣の巣
 獣たちは待っていたに過ぎない……邪魔者がおらず、獲物をゆっくりと喰らい味わうのに最も適した場所に運ぶまで……

 「ティエン……お前も少し汚れているな……」
 そわりと、銀虎の爪が拳士の頬を、首を、胸板を撫でる。
 「そうだな、兄ちゃん 少し匂うぞ」
 すんと、子鼠が抱き着きながら、顔をうずめる。
 「それじゃあ、身を清めましょうか 一緒に……そう、一緒に……」
 しっとりと、耳を舌で舐めるように熊猫が囁く。

 毒が回ったかのように、思考が鈍り、体が甘く痺れる。
 不味いと思いつつも、ティエンは連れられるまま静かに獣たちに“咥えられる”。

 その後ろを、寄り集まった粘性がうにょうにょとついていく。

 白く湯気が漏れる仙石楼の中庭、そこに通じる戸をくぐる。
 どうしてか、ティエンには見慣れたはずの仙石楼の温泉、その入り口が……大口を開けた獣の口に見えるようであった……



 ……湯気満ちる中庭、霧の冷たさと湯の温もりが相混じる奇妙な空間。
 それは、欲望を剥き出しにしながらも大人しく伏せている獣のようでもあった。

 そんな部屋の中で、冷えた風に混じって衣擦れが響く。鍛え抜かれた、拳士の肉体が獣たちの手で露わにされていく。その様子を、小さな粘性が狂喜するように見つめるも、白髪の獣に睨まれその手を縮める。
 燃えるような、獣の瞳。それはまさしく待ち望んだ、獲物を見る目であった。
 黄金、赤金、紫金色の六つの輝きが拳士、ティエンの肉体を貫く。満足げに、吐息が混じる。ティエンは恥を感じども、隠すようなことはしなかった。それを獣たちが許さぬと、知っていたからだ。

 ティエンの前に、虎が立つ。
 頭一つ大柄な、偉丈夫なる獣仙女。その身は精錬された鋼の如く……黒交じりの白金を流すように、その身にまとう布を脱ぎ捨てる。

 慎ましやかな胸が、瑞々しく揺れ、こもった欲の薫りが肺を焼く。
 至宝の毛皮に包まれた……大にして引き締まった太腿、盛り上がった両腕、その全てが人よりも、人如きでは太刀打ちできない“力”を表していた。
 そんな“力”が、今惜しげもなくその信奉者の前に晒されている。
 そして、そんな信奉者を焦らす様に……女人の細腕の如き虎の尾が……しゅるりと信奉者たるティエンの“欲望”に巻き付く。

 寸前、ティエンは息を漏らす。

 柔く、それでいて力強く、熱くうねる尾がティエンの“先”に絡む。


 ティエンの横に、火鼠が立つ。
 小柄な妹のような、溌剌たる獣仙女。その身は輝く玉の如く……紅の纏いは熱く燻ぶり、身の縛りを焼き捨てる。

 大判の柔餅が、弾けるように震える。
 ほっこりとした温もりと、張り詰めんばかりの生命が全身から溢れ、岩の如き拳士の体に絡みつく。それは熱く柔く、吸い付き合わさるように肌が重ねられると、若い炎が燃え移るようにその欲望を刺激していく。
 少し灰混じりの薫りが、甘く周囲に漂いティエンの心にも火をつける。

 そんな少女が、悪戯な笑みを浮かべそっとティエンの下……腹に手を添える。ぽっと熱が手より放たれ、尾に巻き付けられた欲望がその熱を受けより天を突くようにそそり立っていく。


 ティエンの後ろに、熊猫が立つ。
 同じ背丈の、妖艶なる獣仙女。その身は豊穣たる実りの如く……黒白の茂みはその身を震わせ、破れた衣を落とす。

 ずしりと重い、その実り。豊かさの象徴は大なる二つとその腰回り、たっぷりと滴る蜜の如き肢体がゆっくり這うように、拳士の体を背後から包む。少しだけ低い背丈と言えど、その抱擁は全身を包まれているかのような温もりと安堵をティエンにもたらしていく。
 それと同時に、背に感じるぽっと熱い柔らかさ、それがむにむにと動くたびにティエンの奥にずんと響くような熱が重くのしかかる。

 妖しく微笑み、ゆっくりと仙女は拳士の体を揉み始める。
 幾度となく、その身を揉まれ覚えこまされた快楽。それに応じるようにティエンの体はたちまちのうちに高められ、耐えるための強張りが溶けていく。


 突き上げるような、重い情動。
 それが腰元まで来た瞬間、巻き付き蛇の如くうねっていた虎の尾がするりと解け、タオフーの精悍にして美しい顔が迫り、囁く。
 「さあ、ティエン……湯浴みの伴をしてもらおうか」
 「しっかりと、磨いてくださいね……うふふ」
 背後からも、甘い声が耳に染みる。
 「ぅんむ〜」
 その横で、甘えたいけど風呂は苦手な火鼠が不満と欲望を綯い交ぜにした表情で頬を膨らませていた。



 ……そのまま、獣たちに囲まれティエンは中庭……湯が滾々と溢れる温泉の前に立つ。恐らく、かつてはここにこの楼の名を示す立派な“大岩”があったのだろう。ティエンは顔を上げ、半ば建物に埋もれ、支えるように聳え立つ岩の半身と、砕け散り欠片となった岩を眺める。温泉はその岩の砕けた根元から湧き出していた。
 長い年月、川のように流れていたであろう温泉は庭の砂利を溜池のように抉りそこそこ広い湯の床を形作っていた。
 砂利敷きだったおかげか、それとも別の影響か、この中庭だけはティエンが手を入れるよりも前からそれなりに整っており、少しだけ伸びすぎた木々や草花を伐採するだけで良かった場所でもあった。
 そんな中庭の温泉の傍ら、平べったい大判の岩の上には手ぬぐいとティエン手製の木桶が幾つか並べられていたがタオフーたちがこれを使うことはあまりなく、もっぱらティエン自身が湯にはいる時か……このように湯あみの伴をする時ぐらいしか使うことはなかった。

 そのまま獣たちは連れ立つようにして湯の淵に連なる岩にそれぞれ腰かけ、足を湯に浸ける。ティエンは桶を二つと手ぬぐいを掴むと、一つの桶には湯を掬って溜め、もう一つの桶で救った湯をタオフーたちにかけていく。

 「ふぅ 熱いな」

 「ぅぅ……」

 「はふぅ……」

 しっとりとした、熱気が満ちるのを感じながら、ティエンは無心に……己が弾けかけた欲望を何とか抑え込み……桶から手ぬぐいを取り、タオフーの背を撫でるように磨き始める。
 「そうだ、まずは我からだ よくわかっているな」
 くるりと、ご機嫌に尻尾が震える。
 長く美しい黒と銀混じりの髪を肩越しに前に回し、その背を露わにする。
 巌のような、それでいて滑らかで光沢を放つ美虎の背。ほんのりと朱に染まるその背中は大きく、力強さを物語る。けれど、ティエンは知っている。力強くも肌は繊細であり、薫り立つ滑らかさはやはり乙女のそれであると、そんな肌を優しく、傷つけぬよう……いくつか、その身に刻まれた傷は一際優しく……撫で磨いていく。
 隆起をなぞるようにティエンが指を這わせるたびに、紅く火照った肌がぴくりと震える。鍛えられ、鋼の如き筋肉は弾性に富み、微かな動きに合わせ伸縮する様子を指先から感じながら、ティエンは感嘆の念を覚える。
 (やはり、貴女は……素晴らしい)
 武人として、そして女人として……相反するはずのものが見事に調和した、完成された美がそこにあった。
 先ほどまで溜め置かれ、行き場をなくした劣情が渦巻く中においてなお、その玉の如き肌、雄麗たる肉体を前にティエンは武人としてその心動かさぬわけにはいかなかった。
 (タオフー……願うならば、今一度貴女と……!)

 ―闘いたい―

 心行くまで、この武を……ぶつけたい、ぶつけ合いたい……ライフーとさえ見紛うた闘気、あのファンジェンをすら圧倒した技巧、そして何より天崙山において並ぶもの無き頂点の武……ライフーにすら劣らぬと確信さえしているその武を……

 欲望が、硬く、熱を放つ

 その熱を背より受け、タオフーはずくんとその体の芯を震わせる。熱くこみ上げる、宿敵にして、愛する男が放つ闘志を前にタオフーは今すぐここで押し倒し、貪り尽くしたい衝動に駆り立てられる。
 ティエンの指が、筋の筋を撫でる。力強く、肌から、指先から全てを感じ取ろうとするように。

 手ぬぐいを湯に浸け、ふわりと絞るとタオフーの手を取り軽く上げさせる。そのまま片手で支えながら腰元に手ぬぐいを当て、ゆっくりと擦るように腹、そして脇へと拭う。引き絞られながらも太く逞しい割れた腹筋の隆起に触れつつ、そっと慎ましやかな虎の果実の淵に触れる。ぴくりと身を震わせる虎を愛おしく感じながら、その瑞々しいまでの弾力と膨らみの横を過ぎ、すっと熱く湯気立つ脇を拭い、少し湿りながらも柔い毛皮に包まれた虎の剛腕を下ろす。
 そのまま立ち位置を変え、再度手ぬぐいを湯に通し同じようにタオフーの脇を清める。
 「失礼します」
 そっと声をかけ、そのしなやかで繊細な……虎の尾に触れる。
 「ん……っ」
 ふるりと、ティエンの手が尾に触れた時、声が漏れる。そのまま、手桶から直接湯を掬いながらゆっくりと、扱くように尾を撫で洗う。
 まずは、尾の付け根から……ティエンの手が、そっとタオフーの臀部……尾に触れる。
 「はっ……ぅっ……」
 タオフーの体に背骨を抜くような、甘い痺れが奔る。時として、武器のように使う虎の尾……だが元来、魔獣にとって尾とは最も繊細かつ敏感な部位の一つであり、うかつに触れようものならばそれこそ“虎の尾を踏む”の言の如く怒り狂ってもおかしくはないものである。だが、それはあくまで心許さぬ無礼者に対しての話である。
 心許し、愛したものが触れるとなれば……

 ……付け根を磨き終わり、そのままそっと根を上げると……その裏に指を……失礼と思いつつもティエンは指を差し入れ……ゆっくりと汚れを拭うように慰撫する。
 「! おっ! んふぅ……っ!」
 尾の裏……不浄の孔より少し上、付け根のすぐ裏を洗われるという行為にタオフーはたまらず体を震わせ声を上げる。短い毛が密集するように、それでいて少しばかり薄く過敏な……ついでに言えば“よごれ”のこもりやすい……ところを優しく擦られる感覚は獣にとって抗いがたく、背筋に走るような悦楽と恥辱が混ざり、ぴんっと尾が張り背も伸びる。
 そのまま裏側に指を回し、両手で握るようにずずずと緩やかに柔柔と揉みしだき、掻くようにその手を尾の先へと引き下ろしていく。
 「あっ あっ あっ うっ!」
 甘い、甘い嬌声が虎の喉奥から漏れる。背の奥から突き抜ける心地よい春の如き波を前にタオフーは淫らにその肢体を、肉体をよじる。
 うねりと共に、その尾が油蛇のようにティエンの手から逃れようと藻掻くも、しかと握りしめたままティエンは絶妙な力加減で掻き続け、ついに尾の先端……こりこりと硬く少しだけ“引っかかる”ところに差し掛かると……きゅぅっと軽く柔毛をねじるように、爪先で“端”を抓る。
 「! んっ!! んんん〜っ!!」

 ぎゅっと、全身の肉がうねるとともに爪が逆立ち湯底の岩を貫くようにひっかく。
 虎の全身から湯気のように薫りたち、少しばかりとろりとした汗が流れ出ていく。

 そのまま、うだるような息を吐きながら、虎の首が揺らぐ湯の川に落ちると同時にそっと全身に湯がかけられ……磨きが終わったことを静かに告げる。


 空にした桶を再び湯に沈め満たすと、ティエンは小さな火鼠……妹の後ろに屈みこむ。

 「! あっ……兄ちゃん」
 しっとりと薫る、潤んだ紅がそっとこちらを眺める。

 「あら……うふふ、わたくしは最後、なのかしら?」
 いざ、手ぬぐいを取り始めようとした矢先、ヘイランが茶々を入れるようにしっとりとティエンに視線を投げる。

 「うふふ、冗談よ……私は最後で構わないわ……その方が、ええ……うふふ」
 キッと睨み付けたフオインと、少しばかりうろたえたティエンをからかう様に、ちろりと舌を出してヘイランは自分の手桶から湯を掬い体にかける。

 「なんだよ! 邪魔すんなよっヘイラン!」
 横に座るヘイランを威嚇するようにフオインは手をふり上げ、足をばたつかせるようにして不満の意を上げる。
 「フオイン、はしたない」
 しかし、ティエンに窘められ、少しばかりフオインはしゅんとするも、その横でまたまたしたり顔で舌を出すフオインに対し目で噛まんとするかのように睨み付けるのであった。
 そんなフオインをなだめるように、ティエンは彼女の頭に手を置くと手桶をぽっぽと湯気を立てる紅髪の上に傾け湯をかけていく。ぢゅっと少しだけ水が弾けるような音を立てて、湯がフオインの体を濡らしていく。
 「ぶぅ!」
 突然の湯浴びに、これまたフオインが抗議するようにティエンの方を見る。その様子にティエンは愛おし気に微笑むと手ぬぐいを優しくその肩にあて、そっと擦り始める。
 フオインの髪は短く、ふとすれば少年のようでもあったが、それでもふんわりと少しだけ伸びた様子は快活な少女の髪型としては申し分なく、くりんと丸い鼠の耳と合わさりフオインの可愛らしさをしっかりと彩っていた。そんなフオインの肩はその姿相応に小さかった。それでも、触れればそのぴんと張り詰めた若々しい皮膚、その下には隠しようのない柔らかく強靭なばねの如き筋肉が脈打っている。
 それは、フオインの全身に言えることであった。タオフーのように、もはや隠しようのない、隠すことのできないほどの“力”はないが、それでも瑞々しく脂ののった肉体に無駄なものは一切……ややもすればヘイラン以上ではと思わずにはいられないほどの豊かに弾ける二つの実り、どっしりとした臀部と太もも……女性的な魅力を含めなかった。
 そんな暴力的なまでの女、雌としての魅力を余すところなく、その青く止めどころのない好意に乗せてぶつけてくるのだ、ティエンとて本能に火が付き理性を焼いてしまったことが一度や二度ではなかった。
 そんな少女が今はおとなしく……非常に珍しく、湯あみをしているという点も含め……ティエンの手に己が体を任せている。その状況が言いようのない興奮をティエンにもたらしているというのもまた事実であった。

 また、フオインの体はタオフーとヘイランと比べ毛に覆われている部分も少々違っていた。タオフー、ヘイラン両者とも獣足にして獣腕であり、その毛も二の腕を殆ど多い、足も太腿の大半は毛に覆われている。フオインは獣足獣腕に変わりは無いが、腕は前腕、肘までであり足もまた膝を境にしていた。

 つまるところ、背から見る分には鼠の丸い耳と細くふりふりとした尻尾以外、ほとんど人に見える……年端もいかぬ少女に見えるということであった。

 それはいくら魔獣、人外のものであると頭では理解していたとしても、ふと思えば若い未成熟な肉体を好きにしているという……修行者としてはあるまじき背徳的な暗い欲望を呼び起こすものであった。

 そんな事情もあり、ティエンは努めて冷静に……すでにティエンのティエンは臨戦態勢であったが……フオインの体を撫でるように流していく。
 「んひひっ なんかくすぐったいな」
 だが、そんなティエンの心情、欲情など知ってか知らずか、フオインは無邪気にその体を預けるように身をくねらせる。むちむちすべすべとした熱く弾ける珠肌がティエンの肌に触れ、むっちりと合わさるように重なるだけで、その身の熱が移るかのようにティエンを焼く。そうでなくとも、くねらせる拍子に大きな実りが瑞々しく揺れるのもまたティエンにとっては毒であった。
 そのまま、タオフーにもしたように手を上げさせると脇腹に手ぬぐいを当てて擦る。健康的に引き締まっているのはもちろんのこと、やはりというか“大きい”ものがぷるんと無遠慮に揺れる。
 「……っ ……おや?」
 そんな折であった、フオインの体にあらぬ欲望を向けているティエンが恥じ入るように視線をずらすと不思議な事が目に入る。フオインの鮮やかな紅の毛皮がうっすらと、それでいて大分わかるほどにまで白くなっていたのである。毛皮だけでなく、髪の毛もまた白くなりつつあった。
 「あ! その……兄ちゃん、気にしないで! 俺……水に入ると、そうなっちゃう」
 そう告げるフオインはどこか恥ずかし気に目を伏せ、縮こまるように尻尾を丸める。別段、そうと分かっていればティエンにとっては気にするほどの事でもないのだが、フオインにとってはどうも決まりの悪いものであるようであった。
 「わかりました」
 本人がそう云うならば、ならば気にすることなく進めよう。もじもじとするフオインを殊更可愛らしく思いながら、ティエンは止めた手を再開する。
 くすぐったそうに身をよじるフオインの脇を洗い、ほっと湯気立つ薫りを味わいながら、タオフーと同じように尾の方へと手を滑らせる。ぷりっとした若々しい桃尻がほんのりと紅く色めき、湯の淵に並ぶ平岩に潰され形を変えている。引き締まった青い弾力はむしろ岩を押し返さんほどであり、それもまたティエンを誘うようにぷるんと揺れていた。そんなフオインの尾っぽは細く、鞭のようにしなやかなそれは産毛のような短毛で彩られ、すっかりと白くなっていた。その尾をティエンはタオフーと同じように優しく手で包むように、ゆっくりと引き抜くように掻き洗う。フオインの尾はタオフーほど敏感ではないのか、タオフーほどその身を震わせることはなかった。ただ、それでも独特の言いようのない感覚が奔るのか背筋と両足をピンと張り詰め、耐えるようにその身を強張らせる。

 「っ あうっ」
 きゅっと、尾の先からティエンの手が離れた時、フオインの口から甘い吐息と共に艶声が漏れる。そのまま、その身を小さく縮こまらせるようにもじもじとしはじめ、ティエンが手桶で湯を全身にかけ、終わりを告げた後も小さく頷くばかりであった。けれど、その頬はほんのりと、それとわかるほどに火照っているのであった。

 「ようやくね、うふふ」
 未だにぷるぷると小さく震えるフオインの横で、ヘイランが嫋やかに微笑む。
 浸かっていたのは足だけとはいえ、既にその体は湯によって火照っているのか、水滴が浮いた白靄のような柔肌はうっすらと紅く、見惚れるまでの妖艶さを放っていた。その体の実りは重く、フオインとは違う成熟した、熟れた柔らかさを誇示するようにゆさりとティエンを誘う。
 しとりと、薄紫の混じるその長い白髪を掻き揚げる様は妖しく、ふわりと甘い汗のような薫りがティエンにかかる。振り解かれた白髪が首に流され、その白い肩が露わになると、そっと微かに振り返り、ヘイランは微笑む。
 「……それじゃあ お願いするわね」
 ごくりと、ティエンの喉が鳴る。
 誘われ言われるがままに、ティエンは湯に浸けた手ぬぐいをその肩にあてる。湿り気を帯びた柔餅の如き肌は柔く、熱く、滑らかにその手を受け入れ、薄く形を変える。まさに餅肌と言えばそれまでであるが、ふわふわもちもちとした柔さは癖になる感触であり、ティエンはつい己の責務を忘れ、その肌に触れてしまいそうになるのをぐっとこらえる。

 そんな折であった、その白く輝く肌にうっすらと……太刀傷、殴打の痣が……浮かぶのを見つける。武人故、戦いともなれば傷を負おう……そうでなくとも、ヘイランの戦い方はいざという時は己の肉を切らせることが多い戦い方であり、こうした傷は付き物と言って良かった。だが、傷を誇るタオフー、健康的で火照った肌をしているフオインに対し、ひと際白く華奢な印象を与えるヘイランの柔肌に浮かぶ傷痕は……殊更痛々しくティエンの目に映る。
 「……あまり見ないでいただけるかしら……」
 その視線に気づいたのであろうか、振り向くことなく、静かにヘイランは告げる。その言葉を受け我に返ったティエンは、そっと、できうる限り優しくその傷痕を撫で洗う。それでヘイランの傷痕が癒えるわけではないが、少しでも跡が残らぬようにとの想いを籠めての故であった。
 暫く、背を洗い流しその手を上げ、脇を洗い始める。ヘイランの熊猫の手は大きく、ふわふわとしながらもその下に広がる柔肉、てっぷりとした脂の重さが心地よく感じられる。それと同時に、ゆさりと重力に沿って揺れ落ちる実りの塊がティエンの理性を同じように揺さぶる。臀部もまた胸と同じくずっしりとした重さを誇り、脂の乗り切った、むっちりとした様子が見て取れる。そんな大きな尻の根元、尾骶の位置に丸いもさっとした、少し控えめに尻尾がふるふると揺れている。タオフーたちと違い、尾の短いヘイランは服を着こむ際もそのまましまい込むように着込むため、その尾は思うほど普段見ることがないものであった。その尾の毛は白く、また控えめながらもその柔毛は殊更もっちりとしていそうであった。いうなれば、少し大きな白団子のようにティエンの目には映ったのである。そんな白団子が、大きな白餅の上にちょこんと乗っかっている様子は愛おしく、脇を流しながらもついつい目で追ってしまっていた。
 そしてヘイランもそんな視線を知ってか知らずか、ぴこぴこと尻尾を揺らすのであった。

 「ティエンさん、手が止まっていますよ」
 「! 申し訳ない」
 くすくすと、悪戯に笑うヘイラン。ついつい、普段見ることのない、可愛らしい尾の動きにティエンは目を奪われてしまっていた。
 「ティエンさんは、尻尾がお好きなのかしら」
 「それは……その」
 「うふふ それなら……今度から普段もお見せしますわ……ただ、ちょっとお尻がはみ出してしまうかもしれませんけれど」
 からかう様に、少し意地の悪い笑みを振り返り際に浮かべ、ヘイランは唇を舐める。そのままお尻を突き出し、脇を洗い終えたティエンに尾の洗いをねだる。
 「ほら、ティエンさん……大好きな尻尾、ですよ……」
 ぷりんと、突き出されぴこっと宙を突くように上向きに白団子のような尾が差し出される。言われるがまま、喉を一つ鳴らすとティエンは手を湯に浸け、そっとその尾を握る。

 「ん……」

 しっとりと、息が漏れる。
 小さいながらも、その毛質は極上のものであった。柔らかいことはもちろんのこと、滑らかに吸い付くような、微細な柔毛の中に指が埋まる感触はあまりに心地よく一瞬己をティエンが忘れてしまうほどであった。
 何より、その尾は小さいながらもしっかりとその存在を主張しており、ティエンに触れられるとぴくぴくと震わせ、そこが普段誰かに触れさせるような場所ではないことを告げてもいた。
 やわやわと指を動かし、極上の白毛を味わいながら揉むようにヘイランの尾を洗う。しょりしょりと尾の表面を撫でるたびに小さく途切れ途切れの吐息がヘイランの口から漏れ、その艶めかしさにティエンの欲望は掻き立たされ、ぐつぐつと煮えるような熱を感じさせられるのであった。

 「終わりました」
 ぼうっと、熱がこもった様子でティエンはヘイランに告げる。
 タオフーたちの背を洗うという責務を経たその体は湯に浸かったわけでもないのに熱く火照り、その熱に浮かされた欲望は既に十分いきり立ってしまっていた。だが、それでもティエンは鋼の意志をもって己を律し、欲望を抑え込み責務を果たす。

 無事に責務を果たし、ほっとすると同時に……この次に……期待もしてしまっていた。
 幾度となく交わった獣たちの肉体、その快楽は十分過ぎるほどティエンの芯に染み込み、それを味わうことを夢想し熱が渦巻く。

 ちゃぷりと、ヘイランが湯の中に歩み入る。
 既にタオフー、フオインの両名も同じように湯の中に立ち、ぎらついた獣の眼でティエンを見つめていた。

 「ティエン、こちらに来い」
 飢えた虎の、湿った命令が耳に染みる。痺れた思考のまま、ティエンは湯の中に入り虎の前に立つ。ざらついた、舌で舐めるような視線がティエンの体に這う。
 “いよいよか”無意識のうちに期待した欲望はいきり立ち、解放の時を待ち望むようであった。だが、にたりと嗤った虎の口から無情な令が飛ぶ。

 「我の体を洗え……手拭いなど使わずに、手で磨くのだ……丁寧に……」

 そう告げ、軽く虎は両手を広げる。
 もはや理性に靄がかかり始め、ティエンは言われるがまま許しを請うように虎の前で跪くと手に湯を掬うようにつけると、立ち上がり肩口に湯をかけ……その手で磨き始める。
 湯の熱と湿気で、しっとりと汗の滲んだ滑らかな肌を撫でる。匂い立つ薫りは雌の甘さが存分に含まれ、ますますティエンの理性を溶け崩すかのようであった。引き締まった体の弾力は柔くも固く、張り詰めた筋肉の感触が雄大な力を感じさせるとともに、女性的な魅力にあふれティエンの欲望を掻き立てていく。眼前に広がる慎ましやかな虎の果実はつんと薄桃の彩りが上向いており、瑞々しい果肉に誘われるようにその手が這う。
 熱い、捕食者の吐息がティエンの額を撫でる。ちらと見える牙、紅い舌、湿った唇……そして震える尾に脈打つようにうねる全身と下腹部の筋が、目の前の獣がその恐るべき精神力をもって目の前の獲物……己を……貪るのを耐えていることが伺えるのであった。
 最早、欲に駆られ揉みしだいているのか、それとも微かな理性をもってその乳房を磨いているのかわからなかったが、ティエンは手をその膨らみに添え撫でていた。張り詰めた肌は弾むように指を跳ね返し、先端は硬く熱く、触れ当たるたびに虎の体がぴくんと跳ねる。
 水滴と汗に濡れて光る肌は紅く火照り、雌獣の薫りが湯気に混じり湯場の中に充満していくかのようであった。そのまま乳房を揉む手を下へと這わせ、巌の如く鍛え抜かれた腹筋へと至る。硬く引き締まった腹部、そしてそれを支える腰元はなだらかな、それでいて優美な丸みを帯び、ティエンを誘うように微かに揺れていた。そして、さらにその下……すらりと伸びる鼠径部の窪みに沿って湿りが落ちるその先……ぴっちりと初々しい姫貝の如く閉じた、それでいてほんのりと色づき蜜を糸引かせる“虎の花”が、熱く、炉のように熱く濡れぼそっていた。
 タオフーの花は慎ましく、無垢なままであったが、それがまた偉丈夫の如き肉体を誇る虎の娘のものであるという“背徳”にも似た獣欲をティエンにもたらしていた。

 ティエンの心は、理性は、限界であった

 「ん……っ」
 その両手を回し、虎の胴にしがみつくようにしてティエンは跪き、虎の腹に口づけを交わす。許しを請うように、子が母にうずまるようにその腹に顔を押し付ける。

 控えめな、欲を見せることが苦手な男が見せた、情を乞う姿

 愛おしい男の、武と勇を備えた男の、情けない姿は……獣たちの欲望を、溜まりに溜まった……どろどろとした獣欲を開放させるには余りにも……十分過ぎた。


 「にっ兄ちゃん!!」
 先に動くは、火鼠であった

 湯の水気によるものだろうか、真っ白に染まった毛とは裏腹にその体は真っ赤に火照り、果てはぶくぶくと湯が煮沸さえもしていた。そのまま、持ち前の恐るべき素早さをもって湯に足を取られているとは思えぬ身軽さでティエンを背後より抱きしめんと飛び掛かる。
 「! 待て!」
 だが、それを許さぬとばかりにヘイランの剛腕がフオインを遮るように振るわれる。しかし、フオインは揺らぐ腕をするりと水に潜るように躱し、ティエンに迫る。
 その手が寸で届く、その刹那フオインの腕に“何か”が巻き付き宙に放り投げられる。それは今、ティエンをその手中に収めている銀虎……タオフーの尾であった。迂闊とばかりに火鼠は宙より銀虎を睨む。そのままタオフーはティエンを護るように両手で抱きかかえると、迫るヘイランより跳躍し距離を取る。とはいえ、常識よりはずっと広いとはいえ武道場に比べれば狭い湯船の中の事である、すぐにヘイランは距離を詰めんと、のんびりした普段の様子からは考えられないほどの速さで追い迫る。それとは別に、放り投げられたフオインは水面に着地するや否や素早く湯を蹴り同じくタオフーに迫る。
 矢の如く、一瞬のうちに距離を詰めるフオインとヘイラン。それに応ずるタオフーもまた、早かった。ヘイランの方に向き直ると、その腕に納めたティエンをヘイランの方に“投げる”。

 突然のことに、ヘイランは目を見開き両腕を広げて足を止めんと踏ん張る。それと同時に、フオインもまた驚き視線をヘイランへと投げられたティエンに向けたその時であった、眼前に迫るタオフーの大蹴り……虎を前に、あまりに大きな隙であった……がフオインの尻に撃ち放たれ、つんのめるようにしてヘイランへと蹴り放たれる。
 「ゔぅっ!」
 そしてそれは、視線と集中の全てを宙に舞うティエンを受け止めることに注いでいたヘイランに……ヘイランらしからぬ大きな隙を見せたまま……“当たる”。
 軽い火鼠の小娘程度、たとえ体当たりをくらったとしてもヘイランからすれば何てことのない衝撃であっただろう。だが、それが蹴り球の如く勢いをつけて突っ込んでくれば話は別である。胸元に撃ち当たる衝撃、それも横からの一撃にヘイランは虚を突かれそのままくぐもった叫びを上げてフオインと一緒に湯船の中に倒れこむ。飛び散る湯水、そのままヘイランが立っていた場所にタオフーは素早く立つと、再び愛する男をその胸の中に迎えるのであった。
 ぐっと強く抱きしめ、愛する男、獲物を捕らえた虎は満足気に舌なめずりをし、呆けた様子で目を開くティエンの額と頬を舐める。だが、油断は禁物とばかりに素早く器用に、立ったまま向かい合うようにティエンを抱えなおすと、その尻と腰に両腕を回し己が雌蕊にティエンの雄蕊を当てる。

 じっと、虎の金色たる視線が男の視線に絡みつく。
 そのまま、両腕に力を籠めより強く抱え込むようにして“芯”を重ねる。
 「はっ ふぅっ んんぅ」
 熱く固く、締った虎花にぬるりと入り込む。とろりと蜜が絡まり、ティエンの芯棒に肉芽とともに噛みつく至福。両足を銀虎の腰に絡め、幼子のように抱えられながら肌を重ねるという恥辱さえも興奮を高める刺激となる。何より、待ち望んだ熱を今ようやく帯びているという、髄をしゃぶられる感覚はたちまちのうちにティエンの脳を溶かし、本当に幼子へと退行してしまったかのように大母なるタオフーの体にしがみつき、甘えるように両足と両手を回しその逞しい胸に顔を埋める。
 「ああ〜……」
 「……もうっ」
 恨めし気な、紅い瞳と深紫の瞳が虎を睨む。
 だが、そんな恨み事など素知らぬとばかりに……それどころか見せつけるように、大きく腰を突き出し己が咥えこんだ“獲物”を誇る。
 「うっん ぐっ……ふふ、愛いぞ 愛いぞ」
 とんっと、熱が奥を突く。しっかりと抱え咥えこみ、少し動くだけで花弁の奥が持ち上がる快感に虎の腰が浮つく。だが、両の足はしっかりと湯船の中に立ち、震えすら見せずにしっかりと愛い子を支えていた。
 そのまま虎は尻を支えていた手を揺するように、緩やかに慈しみを籠めて……ゆっくりと咀嚼するように……教え導くように抽挿を始める。
 ぽってりとした、濃密な蜜壺の中で熱に浮かされながらティエンの腰がタオフーの手に合わせて動く。少し引き抜くたびにちゅっ、ちゅっと肉襞が絡み吸い付き、押し入ればより奥に引き込むような肉芽の“返し”が牙のように雁首を噛む。ぞりぞりと肉のやすりをかけられ、快楽に削り取られながら突き上げるたびに収縮する虎口によってティエンの雄蕊はたちまちのうちに種を作り上げ、雌蕊の奥……子の宮へと……捧げる準備を終える。心は煮沸つように燃え上がり、鼻腔の奥に焼き付く獣の薫りに本能が揺さぶられる。
 己の全てよりも大なる存在に、身も心も護られ愛されるという幸福。そしてその体に己を委ね種を吐き捨てることを許される雄としての至福、ただ全てを支配されるという安堵……それらが重なり、ティエンは忘我の境地に溺れるようにその腰を虎の胎中に押し付けていく。
 小さく震えながら、肥大していく雄蕊を雌蕊の中で感じながら、タオフーはティエンの絶頂を感じ取りより深く強く腰を重ね交わり飲み込んでいく。力強く呑まれるたびに、腰奥が引き締まり、尾が歓喜に打ち震えていく。
 「タオフーっ タオフー……!」
 縋るように、ティエンの体に力が入る。抱きしめる腕と足の拘束が強まり、決して離れまいとするように。本能のままこの大なる地に種を撒かんとしがみ付いたその時であった。

 芯から全てが抜け出るような、激しい明滅と共にティエンの心が弾ける

 それに応じるように、虎の花、花肉は引き絞られ強く、導くように顫動しながら雄蕊を磨り潰すように食い込んでいく。それに合わせ、タオフーは深く、深く息を吐き全身を震わせ、その尾をぴんと張り詰めさせる。

 しばらく、尾の先が輪を描くように震え、しなりと落ちる。

 タオフーの唇が、ティエンの髪に埋まる。
 そのまま荒い息を整えながら、虎の手がティエンの体を撫でさする。
 “まだ足りぬ”
 そう言わんばかりに、タオフーの腰は震えながらも未だしっかりと咥えこみ、その肉牙をティエンの物に食い込ませていた。

 「つかまえたぞ」

 そうは許さぬ、そう告げるようにヘイランの両腕がタオフーの腕を掴む。
 「! 貴様!」
 巧みさ、速さで敵いはしないだろう、だが力でヘイランに敵うのは……如何にタオフーと言えども無理なことであった。
 「ほら! いい加減放せ!」
 「まてっ! やめろ!」
 力任せに、タオフーの両腕が背後から掴まれ広げられる。揺れる肉体に、しがみつくようにしていたティエンだったが、ティエンもまた背後から小さな……しかしてしっかりとした肉付きの……フオインの両腕が回され、むにゅんと弾む感触を背中に感じながらタオフーと引き剥がされる。その際に、力み圧迫される感触のまま、ぴったりと食いついた虎口から無理やり引きずり出される感触を受け、ティエンの先から少しだけ零れ落ちる。
 「ふっへへ! 兄ちゃん、兄ちゃん!」
 「あっ うわっ フオイン!」
 小さな体のどこにそんな力があるのか、フオインはティエンを虎から奪い取り上機嫌で頬ずりをし、そのままヘイランとタオフーを置いて逃げるように湯船の端に行くと、いそいそとしつつも大事そうにティエンを丸岩におろす。そのまま飛び越えるように跨り、有無を言わさぬままに己が炉……燃え滾るように朱く潤んだ貝口……にティエンの芯棒をあてがい、一気に呑み込む。

 ずるりと、狭く潤んだ火壺の中に己が埋まる強烈な感触。痛みすら覚えるほどの熱さに加え、十分潤んでいたとはいえ狭い肉洞を掻き分けながら、ぷりぷりと硬く先を押し返す最奥に触れる感触は髄が浮くほどであった。その最奥を無遠慮に叩き突く刺激はあまりに強烈であり、ティエンはそのままびんと全身を強張らせ白濁の奔りをもってその若い胎を汚す。
 「おっ! おおぉ……っ!」
 待ち望んだ、奥の奥、大切な場所を満たされ侵される悦びにフオインはだらしなく口を開き愉悦を漏らす。ぎっちりと、その小さな貝口で咥えこんだまま、かくかくと腰を振る。その姿は普段の快活さとは違い、性に溺れる若い獣であり、雌の悦びを十全に味わう色魔そのものであった。
 「ああっ! おのれ鼠如きが!」
 「ええい! 貴様のせいだっ!」
 ぎゃいぎゃいと飢えた獣が湯船の中で組み合い暴れ、波となって湯がティエンとフオインにかかる。だが、そんなことも意に介さぬ様子でフオインは喜びの艶叫を上げながら腰を振り始める。強く、鈍痛を伴うほど強烈な締め付けのまま行われる交接はティエンの芯棒が吐き出されることは無く、そのまま“喰われた”ままティエンの腰を浮かし、そして岩へと叩きつける。
 そのたびに最奥へと呑み込まれたティエンの芯先がフオインの若い炉心を叩き打ち鳴らし、びくびくと無垢な貝口を引き絞らせていく。フオインの体は熱く、燃え上がるかのようであったが……いや、実際に燃えていたのであろう。ぶくぶくと丸岩の周りからは湯気が上がり、フオインの体は紅く、紅く染め上がっていく。その中で真っ白と、極限まで熱された鉄芯がそうなるように、白く輝く両手足と髪が湿気を焦がし湯気を纏う。それはさながら火姫の舞にも見える煽情的かつ妖艶な交わりであった。妙齢の体は若さと艶を誇り、豊かなる両胸は弾けるように揺れる。
 そのまま、フオインは両手をティエンの胸に押し付け、逃がすまいと、そして焼き印を押さんとばかりに激烈な熱がティエンを襲う。熱い、炎に巻かれているかのような強烈な熱にティエンは全身が燃えているかのような錯覚を覚える。眼前は湯気に遮られ、うっすらと、しかし確かに揺らぐはフオインの淫らな舞、そして確かに己の芯がフオインの炉に飲み込まれているという絶え間ない灼熱にも似た快感だけが世界に残る。
 あまりに強烈な感覚に、ティエンは半身がすでに焼き溶け、フオインと融解してしまっているかのように感じていた。ただひたすらに熱が籠り高められていくだけの、ティエンとフオインだけの世界。だが、何事にも終わりはある。
 熱く溶け切り、叩きつけられる感覚すら痺れてきた腰奥に宿る、ずんと重い溶鉱の如き疼き。
 「兄ちゃん!! ティエン!! 兄ちゃん!!」
 兄と、愛する男と、繰り返し叫び舞咲く火姫もまた“終焉”を感じ取ったのか、より強く激しく、そして少しでも長くと叫ぶように腰を打ち据え続ける。まるで心臓のように、震え響く子宮とそれを砕くように叩く欲望、ただひたすらに高まり続ける快感は全てを焼き尽くすように互いの全身へと燃え広がり、そしてただ一点へと集約されていく。そして、それは訪れる。

 強く、熱が爆ぜる

 最奥で、打ち壊された炉に溶鉱が注がれていく。全てを満たすように、開かれた炉はより熱く煮えたぎる濁液を受け震える。
 フオインの喉から、噴き出す蒸気の如く至喜の叫びが立ち上り、あたり一面を響かせるようであった。がっちりと喰われたまま、まともな抽挿もなく乱暴に叩きつけられ、吐き出させられる様はただ一方的に貪られる様にも似ていた。だが、熱に浮かされたティエンの心は快楽のあまり焼ききれ、ただ目の前でふるふると淫らに揺れ動くフオインの姿に見惚れながら、己が芯棒に送り込まれる、ぷりぷりと引き締まる膣肉や溶けた鉄の如き熱い蜜のうねり、ちうちうと先を吸われるかのような炉口と芯先の快感をただ受け入れることしかできていなかった。
 フオインは己が最奥に注がれる快感のまま全身を震わせ、のけぞるようにその身を起こす。ぐっと体が反るにつれて、咥えこまれた芯棒にひねり上げられるような締め付けが襲い、吐精したばかりの敏感な芯先を噛むように包む。それがまた強烈な快感と熱をもたらし、ティエンは目が散るような感覚のまま苦し気な息を吐く。

 “まだ、もっと……”フオインがその体をのけぞらせぼんやりとそう考えていた時、ゆっくりと反転した世界を“見上げた”瞬間の事であった。視界に“にこやかに微笑む”……それはとてもとても穏やかに……ヘイランがすぐ正面……背後に立っていることに気が付く。

 うふふ

 嫋やかな笑み、それがフオインが見た光景であり、同時に己が首にふわふわとした手がかけられる感触もまた同様であった。

 「ぴゅっ」
 きゅっと、フオインの体が強張り、それと同時に未だかつてない……潰されそうなほど……締め付けがティエンを襲った後、ふっとフオインの体から力が抜ける。そのまま力任せにフオインの体が引っこ抜かれ、ちゅぽん、と小気味よい音が響いた後湯の中に何か投げ捨てるような音が響く。
 熱と締め付けによってじんじんとひりつく一物に当たる風によって、ティエンはフオインから解放されたのだとぼんやりと感じ取るも、あたり一面に燻ぶる湯気によって周りがどうなっているのかがわからなかった。
 ただ、静かな風の音だけが響く。

 ぼんやりと、周囲を確認すべくティエンが身を起こそうとした時、ぬうっと黒毛の腕がティエンを掴み丸岩から引き剥がすと湯の中に放り込む。
 じゃぶりと頭から湯の中に潜り込まれ、全身が温もりに包まれる。それは酷く乱暴なようでいて、まったく乱暴ではなく、恐怖を感じることさえなかった。その証左に、ティエンを掴む腕は力強くも優しく、そして巧みにティエンが苦しみを感じる前に湯の中からすくい上げる。

 「きれいになったかしら」
 果たして、その声の主はティエンのよく知るヘイランそのものであった。黒紫の瞳を持つ、妖艶な白髪白肌の岩熊猫の娘。だが、決定的に普段と違う表情が、その目の奥に宿っていた。それは“飢え”、獲物を前に決して逃がすまいと獣が見せる嗜虐的な輝きである。そして、はしたないとばかりに見せることのない己の“牙”、獣の証左たるその鋭い刃を口から覗かせティエンに迫る。ただそれだけで眼前に迫るヘイランが如何に危険で、そして“求めて”いるかを示すかのようであった。
 その強烈な獣気を前に、ティエンは一瞬冷静さを取り戻し周囲を見る。そこには、先ほど絞められて投げられ湯に仰向けで浮かぶフオインに、組打ちで負けたのであろう伸びたタオフーが岩を背に湯に半分沈んでいた。
 ぞくりと、背筋に走る。
 荒い息が、熱い吐息が頬を舐める。

 「はぁ はぁっ!! ……いただきます」

 かぷり、ヘイランの可愛らしい牙が……ティエンの首に刺さる。そのまま、押し倒されるように岩壁を背にティエンは逃げ道を封じられ……うっすらと柔らかな陰毛が茂るヘイランの秘裂に、艶やかに咲いた蜜花の奥へと……とろりと、ぬるんと……芯が一呑みにされる。
 「ああ……っ」
 思わず口から漏れる、快楽。
 喰いつかれ締め付けられる激烈な快感とは違う、温湯の蜜に浸され呑まれるかのような緩やかな快楽。ふわふわもちもちとしたヘイランの体に包まれ、しっとりと溶け合うような優しい交わり。その中にある、忘我へと向かわせまいとするかのような首に刺さる牙の痛み……しっかりと“ヘイラン”を味わい意識させる交わりを前にティエンはただただ声を漏らしていく。
 どこまでも埋没していってしまいそうな、肉の沼。暖かくて柔らかい、にゅるにゅると舐めるような肉襞に、しかし確かにティエンの一物を掴んで離すまいとするように根元と雁首を絞める蜜肉。それはまるで堕落に誘うような、恐ろしく苛烈なまでの心地よさ。

 溺れる

 ティエンの僅かばかりに残った理性がそう告げる。
 だが、もはや何ができようか、しっかりと抱きしめ喰われているこの状況で、足元に広がる湯よりも暖かく、そしてねっとりと包み込むこの体。溺れ得ぬものがいるとは信じられぬ、ティエンはそう思い知るように手をヘイランの背に回し抱きしめる。しっとりとした肌は極上の絹餅の如く、そしてフオインにも勝るとも劣らない豊かな大餅もまた押されるようにしてむにゅりと……互いの“先”を擦り合うように少しばかり硬い蕾がティエンの胸に当たる。太く、むっちりとした両足はしかとティエンの両足に絡まり、それでいながら器用に腰をうねらせゆるゆると絞めるようにティエンの欲望を絡め刺激していく。
 「だめよ だめ ぜったいはなさない」
 牙を抜き、滲む血を舐めながらヘイランは熱に浮かされたように繰り言を呟く。
 ざりざりとした熱い舌が、首筋を這う感触は背筋を浮かすような、奇妙な快感をティエンに与える。それと同じく、普段ヘイランが見せぬ、情に火照った表情は艶めかしくも鬼気迫るものがあり、それがまたティエンの中で鳴り響く警鐘と合わさり奇妙な興奮をもたらしていく。
 繰り言の間もなお腰はうねり、血の味を覚えより興奮したのか押し付け引き絞るように腰を振る。それに伴い先ほどまでの緩やかさは徐々に消え、まるで真綿で絞めていたかのように柔らかな蜜肉がゆっくりと収縮していた。それはまるで飴玉が舐め溶かされ、最後は一呑みにされるようにも似ていた。

 にゅくっと、柔くも弾力のある感触が、先に当たる

 「あっ はっ ……“降りて”きちゃった……うふふ ふぅっ」
 淫らに、鬼女が嗤う。
 それはまるで戯れていた獣がいよいよ“我慢できず”大口を開けたようにも似ていて、ティエンはぞくりとその身を震わせる。けれど、それを同時に望む自分もまたティエンの中に存在していた。
 鬼女は地母にも通じ、そして地母は“呑むもの”でもあるのだ。

 産み落とした子を喰らい、胎に帰す……そしてそれは原初から存在する回帰願望にも似ていた。全ての子は母に帰りたがるのだ。その原初に似た妖しいまでの欲求を、ヘイランは抱え込んでいたのであろう。

 鬼女の口が、開く

 鋭い牙が、隠された欲望が……すらりと並ぶ。
 それに合わさるように、胎の奥でちゅくと……蜜を滴らせ“口”が開く。

 「はふぅ」
 その口が、ティエンの口を覆った。熱い吐息が、唇を撫で柔らかなヘイランの唇がぽってりと吸い付く。
 それと同時に、ティエンの腰が浮く。ずるりと、呑み込まれるように……“頭”が……帰る場所へと至ったのだ。やわやわと、しかし明らかに異質な感触が雁首を襲う。締め付けは強く、撫でるように胴は溶かされ、ただただじゅんと先が熱くなっていく。
 「んっ! ふっ!」
 そして、ヘイランの全身が大きく震え……ただ無意識のうちに、ティエンもまたその全身を震わせ、母の“底”に回帰するかのように命を捧げていく。
 強く、ただひたすらに強く抱きしめられ、口を吸う。一見して、生き踊りのまま喰われる様に似たそれは、鬼子母神に捧げられた生贄のようでもあった。だが、その生贄はただ至福の時を、歓喜の内に過ごしていた。

 ……暫く、柔らかな肉に包まれるだけの穏やかな時を過ごす。
 ちうちうと、ヘイランは変わることなくティエンの首に噛みつき、まるで己の所有物だと示さんとするかのように歯形を残す。ティエンの一物は未だヘイランの蜜壺の中にすっぽりと納まり、にゅるにゅるやわやわと甘噛みされながら残った精を絞り吸われていた。
 このまま、湯船の中でヘイランに喰われ続けるのだろうか……そうティエンが思ったその時であった。

 湯煙の中から、揺らぐように銀虎が顔を出す。
 「ヘイラン そこまでだ」

 同じく、虎の脇から火鼠が伏し目がちに……しかして睨むように顔を覗かせる。
 「そ、そうだぞ 兄ちゃんを放せよ」

 その声を受け、岩熊猫が渋々と言った様子で口を放す。
 「はぁ……しかたないわね……」

 ちゅるりと、柔肉が少し締り……ねっとりと絡みついた蜜を塗してティエンは解放される。そのまま、力が抜けたようにティエンは岩壁に寄り掛かる。力なく、湯に浸かるティエンを六つの瞳が……

 力強く純粋に射抜く黄金の瞳

 悪戯に無邪気に求める紅の瞳

 妖艶に貪欲に絡みつく黒紫の瞳

 ……獣たちが、ティエンを見る。

 すぅっと、湯に浸かっているはずの、熱く煮えるはずの体の……髄が冷える

 「はぁ、はぁ……愛いぞ」
 「兄ちゃん、兄ちゃんが……ほしいよ」
 「やっぱり 我慢できない」

 牙を剥き、爪を出す

 三つの黒い影が湯煙に浮かぶ



 きさまが、きさまがわるいのだ
  もっと、もっと……っ
   ああ……っ いただきます



 強きものが全てを奪い、弱きものは全てを奪われる

 その言葉の意味を髄の髄まで痛感したとかしないとか





 仙石楼暗雲編 完


24/01/04 15:43更新 / 御茶梟
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■作者メッセージ
拳仙百記の第二部仙石楼暗雲編を読んでいただきありがとうございます

何かと長く読み辛い部分もあるかもしれませんが、二部も楽しんでいただけたのならば大変うれしく思います

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