読切小説
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Day of Gazer
 アタシは魔物だ。名前は無い。自分が何者かも分からない。
 ただ分かるのは、自分の見た目は人間の女に近いことだ。
 といっても完全に人間の女そのものではない。
 目は一つしかなく、体からは先に目玉の付いた触手が生えている。
 そんな自分の容姿を見てビビる奴等は数多くいた。
 口々にバケモノと叫び、石を投げる。
 中には、アタシを退治しに来たって言う奴もいた。
 だが、そういう奴等はアタシの魔眼でケチョンケチョンにしてやった。
 魔眼っていうのは、アタシが持っている力だ。
 目で見た生物に催眠を掛け、自分の思い通りにする。
 ただ、相手に理性が無い場合や催眠をはねのける精神力があった場合は効かないが。
 アタシはただそこに居て、何もしていないだけなのに悲鳴を上げられたり武器を向けられる生活が嫌で仕方なかった。
 好きでこんな姿で産まれた訳じゃねぇっつーの。
 だから、住処は人が近寄らないさびれた洞窟にある。
 普段はそこでゴロゴロしているが、腹が減った時は食い物を採りに外に出かける。
 そんな生活を送っていれば、当然退屈で仕方が無かい。
 毎日醜いだの死ねだのと罵しられる生活がまだマシだ。
 そんなある日、そんなアタシの生活を劇的に買える出来事が起きた。
 キノコを採りに洞窟の外へ出ていた時にのことだった。
 その日の分のモンを採って帰ろうとしていた時、殺気を感じ距離を取って振り向くと、そこには傷だらけのでかいクマが居た。
 様子からしてかなり飢えていて、精神的な余裕がなさそうなので催眠を掛けて眠らせるマネはできない。
 アタシはその場から全力疾走で逃げ出した。
 だがしかし、クマの野郎は予想以上に足が速かった。
 馬すら追い越してしまう魔物の脚力に付いてきてきてやがる。
 じりじりと距離を詰められて行き、アタシはあっという間に追いつかれ、背中にザックリとツメの一撃を貰った。
 アタシは地面に倒れた。立ち上がろうとするが、出血と痛みで動けない。
 クマの野郎は当然そんなチャンスを逃す訳もなく、口を大きく開けてアタシに襲い掛かってきた。
 もうダメかと思ったその時、鋭い音と共に長い矢がクマの腹に刺さった。
 クマは血を吐き、足を引きずり逃げようとするが数歩歩くと力尽きて絶命する。
 ガサガサと後ろの茂みから音がして、夫婦とみられるワーウルフと弓を構えた男の猟師が出てきた。
 ワーウルフはクマを担ぎ上げ、男はクマに刺さっていた矢を抜くと、その近くに倒れているアタシを見た。
 アタシを村へ連れて行くと言い、男の方は私を抱き抱えた。
 はっきり言って人に助けられるのは好きじゃないが、この時は状況が状況だったもんで仕方ない。
 村についたアタシは早速手当てを受けた。
 見ず知らずのヤツによくもまぁここまでするもんだな。
 この村の連中はまったく変わった奴等だった。
 こんなナリのアタシを見ても嫌な顔一つせず、ニコニコと笑顔でアタシに接してくる。
 傷は染みない?だとか、ご飯できたよ、だなんて。
 正直人に親切にされたり優しくされたりするのは何か裏があるようで嫌いだが、村の連中にはそんな感情は見られなかった。
 純粋にアタシの為を思って手当てしてくれたのだ。
 手当てが終わった後は、アタシは傷が完全に治るまである一人の人間の元へと居候することとなった。
 そいつの名は「サバーノ・シオヤキ」。
 しがない物書きだ。
 シオヤキのヤツはアタシをジロジロ見てくる。
 何だよ。そんなにアタシの体が気になるかよ?
 こんな気味の悪い体なんか見て何になるんだよ?
 アタシの体を一通り見終えたシオヤキは口を開いた。

 「美しい。」

 はぁ?なんだってぇ?バカも休み休み言え!
 全く意味が分からなかった。アタシを美しいだって?
 こんな病気どころじゃねぇ位真っ白な肌していて、目ん玉も一つしか無いし、体からはウニョウニョと気味の悪い質感の触手が生えている。
 こんな女のどこが美しいんだ。バカじゃねぇのか。いやバカだろコイツ。

 「近くで見ていると、そう思うんです。ほら、肌もハリがあってキレイですね。」

 キレイ…か。
 まぁアタシの皮をなめしてバッグとかサイフにすりゃ上等なモンができるだろうけど。
 
 「顔立ちも中々良いので、まるでどこかのお姫様に見えますよ。」

 おいおい、とんでもねぇよ。アタシはお姫様っていうかお姫様を攫って王子様に退治されるバケモノだって。
 アタシみたいな醜いバケモノは、王子様と幸せに暮らすよりも王子様に剣で切り捨てられる方がお似合いだっつーの。
 そんな冗談を言ったら、シオヤキのヤツはそんなことはありません!って怒り出しやがる。
 女の子にそんな乱暴なことをする奴なんて許せません!だの、僕は貴方が姫でもバケモノでもどちらでも愛せます!とか言いやがる。
 ほんとつくづくバカだな。
 バカは死ななきゃ治らないなんて言うが、こいつのバカさ加減は何度死んで生まれ変わっても消えることはないだろう。
 だけど、なんだかちょっとだけ嬉しい気がする。
 自分を認めてくれる人間がいるなんて。
 初めて自分の味方ができたようで良い気分だ。
 その後アタシはシオヤキの家に居候することとなった。
 面倒を見てくれた礼に、アタシは村の連中の仕事の手伝いやガキ共の面倒を見ることにした。
 散々良くしてもらっておきながら、何もしないなんて気分が悪いしな。
 今日も村の連中の手伝いを終えて、シオヤキの家に戻った。
 シオヤキの奴は何やら思い詰めていた顔をしていたので、どうしたのか尋ねた。

 「そういえば、貴方がうちに来てからしばらく経ちますね。だから名前くらい決めておいた方が良いと思うんですよ。ですが、中々いい案が浮かばないんですよね…昨日から寝ないで考えていましたが、全く思いつきませんね。」
 
 おいおい、明後日までに仕上げなきゃいけない原稿が何枚もあるって言ってたのは誰ですか?
 最近寝れていないから明日こそ寝るって言っていたのは誰ですか?
 そんなくだらんことで時間を無駄にすんなよ。

 「そ、そんなに冷たい目で見ないでくださいよ…見ないで……?そうだ!どこかの国では見つめるという意味の言葉をゲイザーと言うんでしたっけ!それだ!それにしましょう!」

 なんじゃそりゃ……
 まぁ良い。貴方だ、お姉ちゃんだとか、君、お前ってハッキリしない名前で呼ばれるよりは断然良いか。
 よし、今日からアタシはゲイザーだ。 
 かくして、アタシがゲイザーという名が付いてから数か月。
 傷は完璧に治っていたが、元の住居に戻る気はない。
 ただ食って寝て、洞窟でゴロゴロしているだけの生活などつまならないからだ。
 ある日、作物の収穫を終えて家に戻った時だった。
 シオヤキは原稿を書いている最中で、部屋中にカリカリとペンと紙が擦れる音がしている。
 この音は毎日聞いているが、今日のは少しばかり違った。
 文字を書く速さが速く、やる気に満ち溢れているようだ。
 
 「よしっ!できたっ!」

 疲れ切っている筈のシオヤキは大声を上げて作品の完成を喜ぶ。
 一体何ができたんだ?いつも活気の無いお前にしちゃ珍しいじゃねぇか。

 「今度の新作なんですが、僕とゲイザーさんの生活をエッセイにしてみたんです。」

 はぁ?またしてもアタシは困惑した。

 「ゲイザーさんと暮らしている内に、ゲイザーさんの素晴らしさに惚れてしまいましてね。それで、その魅力を皆に伝えた方が良いと思い、原稿を書いていたんですよ。」

 アタシなんか何の面白みもねぇだろ。醜い見た目の上に愛想の無い捻くれ者と、嫌われる要素が詰まった奴なんてよ。
 そんな奴なんか本のネタしても売れないと思うぞ?
 売れたとしても、どこぞの新聞みたいにとことん悪口を書きまくったヤツだろ。
 
 「そんなことありませんよ!きっと、ゲイザーさんの魅力を分かってくれる人は居ます!」

 また始まったか…アタシのこととなると、すぐにアタシの事を誇りに思ってるような言い方しだすんだから…
 アタシのことなんかどうでも良いから、ちょっとはそのプライドを自分に注いだらどうだ?
 アンタの態度を見てて思うんだが、謙虚を通り越してもはや卑屈だって。
 些細なことでも「どうせ僕なんか」だとか「大変失礼しました」っていちいちくどいんだよ。

 「申し訳ありません……」

 いやいや、謝ることないって…
 そうされると何だかアタシまで申し訳なってくるっての。
 とにかく、本の事だが好きにやりゃ良い。
 売れようが売れまいがアタシの勝手だ。

 「そうですか。ありがとうございます。それでは、会社へ原稿を出してきますね。」

 そう言ってシオヤキは家を出て王国行きの馬車に乗って行った。 
 シオヤキが原稿を出しに行く会社のある国は親魔物領と言って、魔物や魔物の存在を良しとしている人間でできている国だ。
 シオヤキ本人曰く、シオヤキの書いた話はそこそこ売れているらしい。
 それからアタシはシオヤキの居ない数日間を過ごすことになった。
 いつもなら鬱陶しいと思っていた奴だが、居なくなるとこうも寂しいものだ。
 その数日間はなんだか、アイツが居ないと自分はダメになってしまうと思っている感じがある。
 これが、恋というヤツか?いやいや、まさか。そんな訳ないだろ。
 アタシがくだらん自問自答をしつつ家を掃除していると、扉が開いた。

 「ただいま。ゲイザーさん。」
 「遅いじゃねぇか。そんなことなら帰ってこないほうが良かったぜ。」

 本当は早く帰ってきて欲しかったのだが、自分の性格上素直にそれを言えない。

 「すいません……あ、あの本なんですけどね!飛ぶように売れているんですよ!」

 嘘だろ?どうせ一冊も売れなかったんだからせめて気分だけでも取り繕ってんだろ?

 「本当に売れたんですよ!その証拠に!ほら!」

 シオヤキはそう言うと大きく膨れた革袋をアタシの前に置く。

 「この中は全部本の売り上げが入っているんですよ。」

 革袋の紐が解かれ、開け口からジャラっと金貨が零れ落ちる。
 床に落ちた金貨の輝きも中々のものだが、袋の中には床に落ちた物よりも多くの金貨がひしめき合っている為その輝きはとても眩しく、一瞬目が眩みそうになった。

 「…………。」

 これにはアタシも声を失った。
 アタシなんかを本のネタにした成果がこれか。
 物好きな奴等も居るもんだな。

 「さらに、ゲイザーさんにも会いたがっている人もいるんですよ。どうぞ。」

 シオヤキがそう言うと、扉が開き、良い身なりの男二人が現れた。

 「失礼します。初めまして。私は魔物調査機関責任者のモト・ナメローというものです。」
 「そして俺は副責任者のショードックだ!よろしく頼むぜ!いやー!本人を近くで見れるなんて感激モンだな!」

 ま、魔物調査機関責任者ぁ……?
 なんか大層な名前のお偉いさんが来るとはいったいどういう事なんだ?

 「この二人は僕の本を読まれて、ゲイザーさんに興味を持ったんです。」
 「本を読んでいても、こんな特徴の魔物は見ねぇなと思ってよ。ナメちゃんと捜査に乗り出した訳だ!」
 「そうして貴方とお会いしに来た訳なのですが、初めて見る姿で驚きましたよ。」

 大物に会ったみたいに感激されるのは、恥ずかしいんであまり好きじゃない。
 顔が赤くなりそうになるが、ここでカッコ悪いを見せる訳には行けないので堪える。

 「私共から提案があるのですがよろしいでしょうか。」
 「はぁ……。」
 「先程申しました通り、貴方は新たに発見された魔物です。今後の研究の為に貴方の生活についてもう少し調査させて頂けないでしょうか。」

 べ、別に構わねぇよ……基本的に自分はどうなっても構わねぇしよ……

 「ご協力感謝します。それでは、また有事の際はここに来ますのでよろしくお願いします。」

 それ以来、魔物調査機関の奴等が頻繁にアタシの家に来るようになった。
 調査内容は体の特徴を絵に描かれたり、質問に答えたり、髪を少し取られる等、大した事は特にされなかった。
 調査協力の礼として、旬の食材や生活用品を置いて行ってくれるのはありがたい。
 調査が続いてしばらく経った時、調査機関の副責任者がうちを訪ねてきた。

 「どうも、ショードックさん。どうなされましたか?」
 「いつも調査に協力して貰ってありがとうな!今日はな、ある程度ゲイザーちゃんのことが良く分かってきたんでよ、ゲイザーちゃんの種族名を決めようかと思うのよ。要するにヒトみたいなひとくくりの名前だな。」

 うーん……アタシは特に思いつかねぇな……
 適当で良いよ……。

 「適当ねぇ…そういうの一番困るんだよな…あ、そうだ。お前の名前をまんま使うってのはどうだ?」

 本当に適当だ…まぁ決まっておめでたくなるならそれで良いよ。
 
 「良いですね!」

 おいおい、シオヤキ。お前賛成しちまうのかよ。

 「よし決定!今日から俺達は魔物娘の歴史に新たな一ページを刻んだというわけだ!ガハハハハ!」

 ほんとにやかましい奴だな…副責任者…。
 晴れて、アタシの種族名はゲイザーとなった。
 その後、魔物調査機関は調査を進め、アタシのようなゲイザー達を見つけ出し、コンタクトを取ることに成功した。
 研究も進み、アタシらゲイザーの事が世の中に知られていくようになった。
 調査を進めるきっかけを作った功労者となったシオヤキは、国で表彰されて拍手喝采を浴びた。
 その時にアタシはあいにくの風邪で参加できなかったのが惜しい。

 「ゴホッ…ゴホッ…」

 新たに新調したベッドの上で一日のほとんどを天井を見上げる生活は、かつての洞窟暮らしの生活よりも退屈だった。
 まぁ、その退屈はすぐに消えるわけだが。

 「ただいま。ゲイザーさん。」

 アタシのベッドの隣に光る魔方陣が現れ、シオヤキが出てくる。
 魔法技術とかいうのが進歩して、好きな場所へ一瞬で行けるようになったらしい。

 「ゲイザーさん。お土産ですよ。」

 シオヤキが革袋の中から緑色の丸い果物を取り出してアタシの枕元に置く。

 「これは栄養があって、体調を崩したときに良いんですよ。生で齧っても大丈夫ですからね。」

 言われるがままに果物を齧る。シャクリと音がして甘酸っぱい果汁が体に流し込まれていく。

 「まだまだあるので、遠慮しないでくださいね。」

 ベッドの脇に果物の入った革袋が置かれる。

 「そうそう、お土産はあと二つあるんですよ。」
 「なんだよ?」

 シオヤキの奴、思わせぶりな匂いを漂わせていやがる。
 村の燻製魚より強烈だ。

 「まず一つ目は良い知らせで、僕と調査機関の人達と一緒に、ゲイザーさんの本を出すことが決まったんです!」

 あー、はいはい良かったですねー。病床のアタシを放っておいてお幸せにしろってんだ。

 「二つ目は……」

 シオヤキは上着のポケットから小さな箱を取り出し、開ける。
 一体何をプレゼントするつもりなんだ。

 「僕と…その…」

 目線がハッキリせずしどろもどろになるシオヤキ。
 奴がアタシの前に掲げている箱の中には、銀色の小さな指輪が入っていた。
 まさか……。
 風邪による頭痛の痛みも忘れ、あたしは驚いていた。
 シオヤキはようやく勇気を出したようで、アタシに目を合わせた。

 「僕と…結婚してください…!」

 アタシは胸を打たれた。
 今ようやく理解した。今までアタシがシオヤキの奴に褒められていた時、心のときめきを感じていたのは、やはりこいつが好きだったからだと。

 「良いぜ……。まったく仕方ねぇ野郎だな……。」
 
 今まで愛されなかった故に、愛を欲しがっていた。その願望が叶ったのだ。
 アタシはもう、一人じゃない。こいつが居るから。アタシなんかの為に人生を捧げてくれる大馬鹿野郎が居るから。














 世界で初めて、新たに発見された魔物娘であるゲイザーの夫婦が誕生した。
 二人の結婚は全世界で話題となり、一般庶民から魔王まで多くの祝福の声が上がった。
 シオヤキと魔物娘調査機関により、ゲイザーの書物や資料は世界中に発行された。
 これにより、わずかな間に、ゲイザーの存在は世界中で幅広く認知されるようになり世間から受け入れられるようになった。
 今まで疎まれ、忌み嫌われてきた彼女らは初めて受け入れられる喜びを知り、幸せに暮らすようになった……。

                        fin.
19/01/20 20:16更新 / 消毒マンドリル

■作者メッセージ
 


しおやきさんのゲイザー愛に感服と皮肉を込めて、このSSを記す。
                        〜消毒マンドリル〜


 なんとなくゲイザーのSSを見ていたら、しおやきさんのSSがまあ多いこと!
 一体どれぐらいあるんだろうかと、消毒マンドリルこと俺ちゃんがゲイザーのタグが付けられたSSから数えてみたところ、なんと(2019/1/20現時点で)114件中38件もあった!
 これは全体の約33%、3分の1にもなる!なんつうシェア率だ!
 そんなしおやきさんのゲイザー愛をSSのネタに出来ないだろうかと思い、このSSを執筆するに至ったワケだ!

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