読切小説
[TOP]
ダメな僕/厳しい家政婦



「ご主人…私がお洗濯をしている間に設定は考えると申しておりましたよね?」

「は、はい…」

男は叱咤されていた。
もう少しショボく言うと怒られていた。しかも年下の女性に、原因は仕事の進捗が芳しくないことで。

「はぁ…困りました。これでは私は疎かご主人の食事もままならないのですが。」

「ごめんなさい…」

「謝ってて何が解決するんですか?」

男の仕事は物書きだった。一般的に知名は無く、純粋を極めたしがない物書き。
名前を織駒 恵秀(しきく けいほ)という。

「でも何も思いつかないんだよ。」

「前回はどのようなモノをお書きになったのですか?」

声から分かるが女性の方はイライラしていた。

「えーと、この上なくずる賢い汚職警官と逮捕された天才犯罪者がタッグをくんで警視庁のブラックリストに載った犯罪者を捕まえていくっていう感じの。」

「私は分かります、確実に風呂敷の広げ過ぎです。ご主人はさして文才がないのですからもっとシンプルなモノの方がよろしいかと。と、いうか海外ドラマじゃないですか、無闇に設定が悪くない分、おもしろくも何ともない文章に読者の方はガッカリされているでしょうね。」

的確に、そして絶妙に心へヒビの入る言葉の羅列。
恵秀はどうすれば良いのか分からずに一日中考えているのだが。

「じゃあさ、もし、萌琴が書くならどんな風にする?」

「それは私の領分から外れます。」

萌琴(もこと)と呼ばれる女性はすっぱりと、意見を言うことを気持の良い程すっぱりと断った。

「そんな大きな羽に尻尾が生えていれば俺と違う世界が見えているだろうに。」

「私の見えている世界をご説明したとしてご主人に何が書けるんですか?」

「くっ…」

萌琴は人間ではない、キキーモラという魔物娘に属する種族であった。
通常であれば献身、穏和、親身であるはずの種族だが萌琴は何かがずれていた。

「私は昼食の事をしてきますので。それまでに設定でも世界観でもとりあえずひねり出しておいて下さいね。」

スタスタと台所の方へ行ってしまった。一方恵秀の方は辛うじて思いついた事も頭からスタスタと流れ出る始末。

「困ったなぁ。」

とりあえず昼食後に考えるか。


////*////


「ご主人…許されませんよ。」

萌琴が書斎へと昼食を届けに来たところ恵秀は腹筋をしていた。

「い、いや、普段やら無いことからインスピレーションを頂こうかと。」

呆れかえっている目でみおろされていた。ちなみに、42回目の起き上がる手前でこの状態になったためかなりキツい。

「その様な事はどうでもいいんです。体勢は戻すなり好きにしてください。」

こてっと後ろに倒れすぐさま起きあがる。その際には萌琴の威圧感から正座だ。

「普段と違うこと、ですか?」

「うん…」

目を瞑って軽くため息をはかれた。恵秀も心が痛い…自分が悪いのだが。

「と、いうことは。ということはですよ。何か思いつかれましたよね?」

「…ある日腹筋してたら異世界に飛んで」

「それ、遺言にされますか?」

ギロリ、というわけではない。決して睨んではいないのだがどうにも恐怖を覚えるオーラを発している。
恵秀もただただ謝ることしかできない。

「ごめんなさい…」

「もう良いです、昼食後考えてください。」

お盆の上には炒飯と白湯スープが乗っていた。大蒜の香りが食欲を刺激して恵秀を昼食に集中させる。

萌琴は恵秀の横に待機し飲み物を注ぎつつ軽く部屋を掃除し、挙げ句口元についた食べ残しを取っている。

「萌琴は食べたの?」

御馳走様と今日も無事満腹になれたことを親と萌琴に感謝しつつ手を合わせる。

「決して有能とはいえない主人に使えているものでして。私は後で頂きます。」

「そう、ですか…」

流石に傷つくがもちろん、悪いのは自分だ。ふと視線を感じ使用人の方を見ると当の本人もこちらを見ていた…ようだ。
すぐにプイッとそっぽを向かれてしまった。

「…」

兼ねてから感じていたことを言うときが来たようだ。

「萌琴さ、もう俺に構わなくても良いんだよ?」

「構わなくても、の意味が分かりません。ご主人の事を何もしなくて良いというならあなた様は世の中の摂理というものに惨殺されてしまいますよ?」

「ぐっ…手厳しいな。」

事実であろう。正直一人で生きる力もそんなに無く、かつ時間、労力を非常に消耗する職業についているのだ。
一人では食べる暇もなく、精神を削りストレスフルな生活を送れば最終的に体を壊すのは目に見えていた。

「まぁ、でもそうなったら自己責任だよ。それよか、萌琴にはもっと別の、有能な主人に仕えて欲しいよ。朝から晩まで必死働いて、結局家計簿のやりくりまでしなくちゃいけないなんて不憫で。」

表現が正しいのかはともかく特大のブーメランだ。
その不憫な生活の中心は恵秀なのだから。

「つまり、ご主人は私をもういらないと、そう申し上げるのですね?」

「い、いやそう言うわけでは」

「ならば、あなたは物書きであるにも関わらずいくらでも意味の取りようがある言葉でご自身の言いたいことを濁し私に解釈で苦しめと。」

「…違うよ。」

まくし立てられているわけではない。しかし、流石に自分の言いたいことが伝わらなさすぎて恵秀も強めの口調になる。
 
「萌琴が幸せじゃないなら俺の所にいる必要なんてないって話。俺なんかには勿体ない、それこそ有能な仕様人なんだから。」

「ということはあなた様は、ご主人はご自身の今の現実を捨ててでも私に幸せになれと。そう、仰るんですか?」

「そうだ。」

短い返事を起点に沈黙が流れる。どちらが怒っているとかではない。
単純に平行線からの、交わることのない思考の行き違い。
口を開いたのは萌琴の方。

「ご主人は分かっておられません。自身のことも。私のことも。」

どうゆうことだ、等と無粋なことは聞かない。萌琴が話すと分かっているから。

「私の種族はキキーモラ。主人に、各々の主人の望むことが本能的に分かってしまうんです。この能力は主人の希望を叶えその先に行くために備わっています。」

椅子に座っている恵秀の目の前に立ち後頭部を撫でながら言葉を発する。

「私は困惑しましたが、ご主人が望んでいるのは世間一般で言う“尻を叩いてくれる”タイプの女性でした。だからこそ、私は何かにつけて目標を持ってもらい厳しく接してきたのです。それもこれも、全ては。」



ご主人と二人で幸せな生活を送るため
  


ぽかんとするのはもちろん、恵秀だ。
なぜなら、萌琴が家に来た理由すら分かっていなかった。
親からの相続もので家だけは多少広く、だからこそ金持ちだと思われ住まわせてくれと言ってきたのかと。

「そんな単純な事であるわけ無いじゃないですか。私は奉公を生業とする種族ですが、れっきとした魔物娘です。生きる目的は好意を寄せる男性と結ばれ結果幸せな生活を送ることです。」

「な、なんで俺なんだ?」

不思議で仕方ない。しがない、なんの魅力もない自分なんかの所に。

「理屈ではないのですよ。本能と申しますか。私の主人はご主人しかおりません。あなたの本を読み、この方しかおられないと。」

「そんな事言ったって…」

しかし印税もそこそこしかなく、毎日を執筆活動に当て、それでも締め切りを守れないような男を慕う理由はないだろう。

つまり…

「本当に俺の為に?」

「そうであると申しております。ご主人の理解力にはホトホト愛想がつきます。」

しかし、いやな顔はしていない。萌琴は恵秀に強く言うこともあるが、それは恵秀自身が望んだ接し方だったからだ。

「恐らく、というわけでもなく普通の家政婦のように接していては今仰って頂いたことをもう少し早くに言われたでしょう。」

つまり、ある種の甲斐性なしに心から優しく尽くしていても恵秀は自身のことを投げ、相手に幸せになれと言っただろうということだ。

「私には分かってしまったんです。ご主人となら幸せになれると。もちろん、どうしてもと仰るのであれば普通のデレデレとした甘い家政婦にもなりましょう。」

萌琴がゆっくりと歩き目の前に来た。何をするのだろうかと考えるが予想がつかない。

「しかし、ご主人は恐らくこちらの方が好みであると考えられます。なぜなら私の、キキーモラとしての種族の感が、本能がこの接し方を選んでいるのですから。」

そうして、萌琴にキスをされた。


/////*/////


「…えっ?」

今まで限りなく近づいていたキキーモラの顔が離れると、止まっていた思考もやっとエンジンをかけ始める。

「普段であれば私の種族は殿方に自らアプローチはしません。しかし、それも仕えるご主人が望んでいるのであればその限りを超えます。」

全ては主人、夫となる男の為に尽くすのがキキーモラ。
恵秀はよく言えば思いやりがあり、悪く言えば奥手だ。萌琴が一日中おなじ家で衣食を共にしているのを我慢してないわけがなかった。
ならば、萌琴から動く。それが此の種族の道理であった。

「それとも、嫌悪感でもございますか?」

少し、ほんの少しだけ残念そうな萌琴に気づき、ハッとし慌てて口を開く。

「そ、そんな事無いよ。ただ驚いただけで…んっ!」

何故かまた萌琴は唇を重ねてきた。口内にほんのり甘い香りが広がる。

「んっ、んっ…ぷはっ、ご主人は責められるのが好きなのではないですか?」

平然と聞いてくるが恵秀自身答えが分からない質問だ。

「そうですか、ならば実証するしかありません。」

萌琴がしゃがんだと思った瞬間にはベルトがはずれ恵秀が静止に入る前にズボンが脱がされた。

「ちょっ!」

だが、もう遅い。キスをされ半立ちになっていたそれを萌琴は掴む。

「ご主人、私がキスしたのに何故フルではないんですか?」

キュッと根本を掴まれると軽い刺激、快感が押し寄せる。

「萌琴、汚いから止めた方が」

「私では勃たないと。そう言うことですか?」

コスコスと上下に動かされると忽ち固くなる。

「待て待て!」

「ご主人、うるさいです。」

普段であれば絶対に言わない事だ。プレイの一貫であり萌琴自身は深い意味なく発した言葉。

恵秀はそうは捉えない。
本当に怒られたと勘違いし押し黙る。それでも心地よい感覚は続く。

「何故いきなり黙っているんですか。気持ちの良いことをされているところは声を出すのが基本です。そんなことも分からないんですか?」

「ごめ」

「謝罪など。声をお出しくださいと申しているだけです。」

握る力は強くなり擦られるスピードも心なしか早くなる。
普段仕事の忙しさから余暇を睡眠か読書に当て、自慰を行わない恵秀は非常に辛い。
辛いと言っても、終わりのある辛さ。

「萌琴、で、射精そう…」

チラリと恵秀を見るとクスリと笑いまたモノの根元を抑える形で押さえる。

「ご主人、今何か思いつきましたか?」

「な、何かって?」

「お仕事の方ですが。」

いや、そんな今はそう言うのではなくないですか?

「分かりました。であるならば、お仕事が先です。」

えぇ…。
さっとズボンをはかされベルトを締められる。

「私は買いだしへ向かいます。それまでに設定の一つくらいは出しましょう。」

頬にキスされる。萌琴はドアの前で少し立ち止まると部屋を出て行ってしまった。

「萌琴ぉ…」

恵秀は泣きそうであるがこれも自分のせいだと諦める。
ポツポツポツと数秒。

「一見ダメな主人が裏世界の法で裁けない悪をどんどん裁いていく。その中で、補助をするメイドと恋に落ちる。」

よし、書くか。


/////*/////


立ち寄った本屋で読んだ。どこの誰が書いた本かも分からない。何故手に取ったのかも。ハードカバーを開き最初の文に目を通す。

『僕は何もできない。掃除も食事も洗濯も。ものを描くことしかできない僕。だけど、君を好きになっていいですか?もしよかったら一緒に居てください。隣にいるだけで良いんです。それだけで僕は頑張れるんです。だから、側にいるだけで良い。よければ僕と一緒になってください。』

その本は最後、病魔により恋人と死に別れる話でした。
下手な文でしたが、人を好きになる感情、それによって起こる苦しさや辛さ。それと共に起こる愛おしさが分かる内容だった。

もし叶うのならどんな人か見てみたいです。
そして、こんな物語を描く人の側に仕えてみたいものです。


18/03/20 01:17更新 / J DER

■作者メッセージ
さっぱり意味が分かりませんね。
僕も分かってないです。

まぁ、良いんです。
発作のようなものですから。
それでは。

宜しければ、以前の物もお読み頂けると幸いです。

では最後に皆様の余暇のお供になれることを願いましてー。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33